説明

履物

【課題】脱ぎ履きが容易であり、自然な歩行が可能な履物を提供する。
【解決手段】履物10は底壁と側壁で囲まれた空間16に上方から靴22を挿入することで履くことができる弾性構造の履物である。側壁の上部には空間16に張り出す一対の係合部26が備えられている。履物10を履くときには靴22を空間16に押し込めば、履物10が弾性変形することにより一対の係合部26の間の空間が広がり、靴22を空間16に挿入することができ、脱ぐときには履物10を押さえた状態で靴22を抜き取るだけである。靴22が挿入されると履物10が元の形状に復元し、一対の係合部26が靴22の甲24の両側に係合するため、履物10は歩行中に靴22から脱げ落ちることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は履物に関し、特に靴を履いたまま履くことができる履物に関する。
【背景技術】
【0002】
外出時、靴を履いた後に忘れ物や用事などを思い出して、再び家に上がらなければならないような状況に遭遇することは意外に多いものである。このようなとき脱ぎ履きに手間がかかる靴であれば、一度脱いで再び履くことの煩雑さと時間の浪費を考えれば、靴を履いたまま家に上がってしまうことも多いようである。
しかし、靴を履いたまま家に上がれば特に硬いヒールなどで床や畳に傷を付けてしまいかねない。そのため、一点に圧力が集中しないようにできるだけ体重移動を抑えようと不自然な姿勢になりがちである。これでは移動に時間がかかるばかりでなく、階段や段差のあるところでは非常に危険でさえある。
このような状況を想定し、靴を履いたままで履くことができる履物はこれまでにもいくつか提案されており、中には手を使わずに脱ぎ履きができるように工夫されたスリッパも存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−289398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にスリッパは爪先から滑り込ませるようにして履くため、靴と一緒に動いてしまわないように気を遣いながら履かなければならず、急を要するときなどには必ずしも利便性が高いものではない。またスリッパは歩行中に爪先の方にずれやすいため、歩行中にヒールの部分がはみ出したり、最悪の場合には脱げ落ちたりすることもある。これを防止しようとすればスリッパを履いていることを意識ながら慎重に歩かなければならず、結果として不自然で緩慢な歩行とならざるを得ない。しかしこれでは忘れ物などを取りに急いでいるようなときには全く用をなさない。
本発明は、脱ぎ履きが容易であり、自然な歩行が可能な履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、底面と側面で囲まれた空間に上方から靴を挿入することで履くことができる弾性構造の履物であって、前記側面に、前記空間に挿入された靴の甲のみと係合する一対の係合部を備え、前記一対の係合部間の距離が、その上方における前記側面間の距離より小さく、かつその下方における前記底面の幅より小さいことを特徴とする、履物である。
靴の甲とは、爪先と足首の間であって靴底以外の部分をいう。また側面とは、履物の内側の空間に面した部分であって靴底が接する底面以外の部分をいう。一対の係合部は、履物を履くときには空間に挿入しようとする靴底に当たる部分であり、ここに加えられた力によって履物は弾性変形し、一対の係合部の間に靴が挿入できる空間が形成される。靴が挿入されると履物は元の形状に復元し、一対の係合部が靴の甲に両側から係合し、履物が脱げ落ちないように靴に係止させる。
履物は全体として弾性を有する構造であり、これを実現するためには弾性素材で形成してもよく、もしくは素材自体は弾性を有していなくても弾性構造とすることもできる。履物を履くときには容易に変形し、履いた後はすぐに元の形状に復元する程度の剛性があることが望ましい。例えば全体を発泡樹脂で一体成型すれば軽量であり、コスト的にも有利である。
【0006】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記一対の係合部の上方における前記側面間の距離が、前記一対の係合部から離れるに従って漸増していることを特徴とする、履物である。
一対の係合部の上方であって、側面間の距離が一対の係合部から離れるに従って漸増している部分は、履物を履くときに靴の挿入位置を案内するガイドの機能を有するとともに、靴の甲の靴底から鉛直方向に付加される力を水平方向に分力し、履物を幅方向に撓ませて一対の係合部の間の空間を押し広げる機能を有し、履物を履きやすくする。
【0007】
本発明の第3の態様は、前記第1または第2の態様において、前記一対の係合部の下方における前記側面間の距離が、前記一対の係合部から離れるに従って漸増していることを特徴とする、履物である。
一対の係合部の下方であって、側面間の距離が一対の係合部から離れるに従って漸増している部分は、空間に挿入された靴の甲を両側から覆い、履物を脱げ落ちにくくするとともに、履物のずれを抑制し、歩行を容易にする機能を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の履物は、脱ぎ履きが容易であり、また安全で安定した歩行が実現できるので、従前のこの種の履物に比べ、脱ぎ履き要する時間と歩行に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態の履物の斜視図
【図2】本発明の実施の形態の履物を履いたときの状態を示す斜視図
【図3】本発明の実施の形態の履物の平面図
【図4】図3の4−4線における端面図
【図5】図3の4−4線における端面図
【図6】図3の6−6線における端面図
【図7】図3の7−7線における端面図
【図8】本発明の実施の形態の履物を履いたときの後ろ足の状態を示す斜視図
【図9】本発明の実施の形態の履物を履いたときの前足の状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の履物の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
図1の履物10は靴を履いた状態で履くことができる履物である。履物10は底壁12と側壁14を備えている。底壁12は一般的な靴の靴底の形に倣った形状である。底壁12と側壁14によって囲まれた空間16は上方が開放されており、この空間16に上方から靴を挿入することで履物10を履くことができる。履物10を脱ぐときには、履物10を押さえ、靴を持ち上げるように空間16から抜くだけである。
【0011】
側壁14の空間16に面する部分(側面20)は、底壁12の空間16に面する部分(底面18)と連続し、底面18の外周曲線に倣った滑らかな曲面で構成されているが、一部に空間16側に張り出した部分を備えている。この張り出した部分は、図2に示すように、履物10に挿入した靴22の甲24の部分に両側から係合し、履物10が脱落しないように靴22に固定する機能を有する左右一対の係合部26である。
【0012】
次に図3乃至図6を参照して履物10の各部の構造とその機能について説明する。
図4は一対の係合部26を含む部分の横断端面を示している。この部分は靴22の甲24と接する部分である。なお図4乃至図7では機能説明の便宜上、靴22を破線で示している。側壁14は上へ行くに従って(底面18から離れるに従って)幅が漸増する。側面20は、底面18から一対の係合部26までは上へ行くに従って内側(空間16側)に傾斜し、対向する側面20の距離が漸減する。一対の係合部26の部分ではその距離は靴22の甲24の幅より小さい。一対の係合部26より上の部分では上へ行くに従って外側に傾斜し、対向する側面20の距離が漸増する。この距離が最も大きいのは側面20の最上部であり、靴22の甲24の幅より大きい。このような側面20の形状は、次に説明する靴22の挿入を容易にする機能と、履物10の脱落を防止する機能を生み出している。
【0013】
履物10を履くときには空間16に上方から靴22を挿入する。このとき靴22の甲24の裏側が一対の係合部26より上の側面20に当たる。靴22からこの部分に鉛直方向に加えられる力は側面20の傾斜によって水平方向に分力される。この分力された水平方向の力によって側壁14は外側に撓み、一対の係合部26の間の空間16の幅が甲24の幅に合わせて広がり、靴22を容易に挿入できるようになる。靴22の挿入後は、側壁14は元の形状に復元し、一対の係合部26の間の幅も狭まって甲24の左右両側に係合し、履物10が脱げ落ちるのを防止する。
【0014】
図5は図4に示した側面20の変形例を示している。図4では底面18から一対の係合部26の近傍までは両側面20間の距離は上に行くに従って緩やかに漸減し、一対の係合部26の近傍では大きく減少するが、図5に示す変形例ではその変化は一定である。すなわち変形例では底面18と一対の係合部26の間の側面20はハ字型を描いている。何れにせよ、一対の係合部26間の距離が、その上方における両側面20間の距離より小さく、かつその下方における底面18の幅より小さいものであれば、前述した靴22の挿入を容易にする機能と、履物10の脱落を防止する機能を生み出すことができる。
【0015】
図6は履物10の踵の部分の横断端面を2通りの形態で示している。一つは図6aに示すように底壁12が底面18の中央が低い凹形状であり、底面18の両端はそのまま側面20に滑らかに連続し、全体としてU字型となっている。踵部分は歩行中に靴22のヒール28が当たったり離れたりする部分であるが、歩き方の癖などによってはヒール28が離れたときに履物10がずれてしまい、次にヒール28が当たる場所が変わることがある。このようなヒール28と履物10の位置ずれを放置しておくと歩きにくいだけではなく、特に女性用の細いヒール28などではバランスを崩すなどして大変に危険である。履物10はこの踵部分を横断端面U字型にすることで、最も高さの低い中央にヒール28を誘導するという位置補正機能を持たせ、歩行時の安定性、安全性を確保している。
【0016】
図6bは同等の位置補正機能を有する変形例を示している。ここでは空間16側に突出する一対の片部材30が対向する側面20にそれぞれ設けられている。一対の片部材30の間にはヒール28が通る程度の隙間が設けられている。一対の片部材30は弾性を有しており、ヒール28に当たって変形すると元の形状に復元しようとする。ヒール28が中央からずれたときには復元力によってヒール28を押す。このヒール28を押す力の反作用により履物10の踵部分が変位し、結果としてヒール28と履物10の位置が補正される。
【0017】
図7は履物10の縦断端面を示している。底壁12は前端と後端が緩やかな曲線を描いて上方に跳ね上がり、水平な床面32とに間にそれぞれ傾斜角αと傾斜角βをなす形状となっている。特に前端では底壁12と側壁14の間には明確な境目がなく、緩やかな曲線を描いて連続している。底壁12のこのような形状により得られる効果を次に説明する。
【0018】
図8と図9は歩行時の靴と履物の位置関係を示している。図8は後ろ足に関するものである。図8aに示すように底壁12の前端に傾斜角αの曲面が設けられていれば、歩行中の体重の移動とともに履物10は曲面部分の接地点34を支点に前傾し、踵部分が上昇する。そのためヒール28と底壁12の間の距離S1は歩行を困難にするほど大きなものにはならない。また底壁12の後端に傾斜角βの曲面が設けられていることで、設けられていない場合に比べて距離S1はさらに小さくなっている。
【0019】
これに対し、図8bに示すように前端に曲面が設けられていなければ、履物40は前傾姿勢にはならないので、ヒール28と底壁42との間の距離S2は非常に大きなものとなり、歩き難さやヒール28と履物40の位置ずれの原因となる。
【0020】
図9は歩行時に前に出した足が着地したときの状態を示している。このとき最初に着地するのは履物10の踵部分である。図9bに示すように底壁12の後端に曲面が設けられていなければ、履物50の着地点54と、ヒール28と底壁52の接点56の不一致から履物50には先端を下げようとするモーメントが働き、靴22から脱げ落ちる可能性がある。これに対し、図9aに示すように底壁12の後端に傾斜角βの曲面が設けられていれば、着地点58と、ヒール28と底壁12の接点60が一致するので履物10にモーメントは働かない。
【0021】
図8および図9に示すように、一対の係合部26は足の位置に関わらず常に靴22の甲24の両側に係合しているので、履物10を履いていることを特に意識した歩き方をしなくても履物10が歩行中に靴22から脱げ落ちる心配はない。また位置ずれも起こりにくいので安全で安定した歩行が実現できる。また履物10を靴22に固定する一対の係合部26は間が空いているので脱ぎ履きに手を使う必要はなく、履くときには靴22を履物10の上から押し込むだけであり、脱ぐときには片方の足でもう片方の足の履物10を押さえた状態で靴22を引き上げるだけである。従って、忘れ物などを家に取りに上がるような場合、特にレディースブーツのような脱ぎ履きに手間のかかる靴であれば、履物10を使用して家に上がった方が手間も時間もかからない。
【0022】
これまでの説明により、履物10は簡単に脱ぎ履きすることができ、また歩行中に脱げ落ちにくく、安全性が高いものであることが理解されるであろう。履物10は、特に一対の係合部26を含む側面20の形状による靴22の挿入を容易にする機能と脱落を防止する機能、踵部分の形状による位置補正機能、底壁12の前端および後端の曲面形状による歩行安定機能に特徴があるが、このうち最も重要なのが一対の係合部26を含む側面20の形状である。これ以外の機能については選択的に採用することができる。
【0023】
履物10は発泡樹脂で一体的に成型されたものであるが、底壁12、側壁14、一対の係合部26をそれぞれのパーツ毎に成型し、最終的に履物10に組み立てることも可能である。この場合、各パーツに求められる機能に応じて剛性率や摩擦係数などの物理量を最適化することが可能になり、より履きやすく歩きやすい履物10とすることができる。さらには、色や素材を部分的に変更することも可能になり、履物10の装飾性を高めることもできる。
【符号の説明】
【0024】
10 履物
12 底壁
14 側壁
16 空間
18 底面
20 側面
22 靴
24 甲
26 一対の係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面と側面で囲まれた空間に上方から靴を挿入することで履くことができる弾性構造の履物であって、
前記側面に、前記空間に挿入された靴の甲のみと係合する一対の係合部を備え、
前記一対の係合部間の距離が、その上方における前記側面間の距離より小さく、かつその下方における前記底面の幅より小さいことを特徴とする、履物。
【請求項2】
前記一対の係合部の上方における前記側面間の距離が、前記一対の係合部から離れるに従って漸増していることを特徴とする、請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記一対の係合部の下方における前記側面間の距離が、前記一対の係合部から離れるに従って漸増していることを特徴とする、請求項1または2に記載の履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−5815(P2012−5815A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214619(P2010−214619)
【出願日】平成22年9月26日(2010.9.26)
【分割の表示】特願2010−142741(P2010−142741)の分割
【原出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(510174794)
【Fターム(参考)】