説明

山留め工法

【課題】既存地下躯体の解体と解体跡地に地下躯体を新築するにあたり、既存地下躯体を有効に利用した地下構造物の建て替え工法を提供する。
【解決手段】既存地下躯体11を解体するさいに、既存地下躯体11の所要位置に補強用壁13a、13b、13cを形成し、地下構造物建て替え時に作用する土圧を保持可能な既存地下躯体11を残して前記既存地下躯体11の内部躯体15を地下1階から最下階まで、適宜山留め支持しながら解体する。次に、前記既存地下躯体11の既存耐圧板の上から新築杭を打設して基礎工事を行いその上に最下階の新築躯体を形成し、その上階の新築躯体を順次構築する地下構造物の建て替え工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存地下躯体を解体してから新築地下躯体を構築するに渡って、当該既存地下躯体を山留めとして利用する場合の山留め工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存地下躯体の解体工法としては、図10に示す次の工法が知られている。この解体工法は、先ず既存地下躯体1の地下1階の内部を解体し、この地下1階の壁面2に腹起し3と切梁4とを架設する。以降はこれらの作業を下部の階に沿って順次繰り返し行い、基礎部分まで解体する。
【0003】
次に、既存地下躯体1の内部を解体した後に新築地下躯体を構築する方法について説明する。図11に示すように、既存耐圧板5の上から杭6を打設し、基礎工事を行い、最下部の地下躯体7を構築し、この地下躯体7の強度発現を待ってその外周部位8を埋戻し、その上部の切梁4を解体する。以降は、次段の地下躯体の構築から切梁解体までの作業を上部の階に沿って順次繰り返し行い、新築地下躯体を構築する。なお、各図中の符号9は構台を示す。
【0004】
なお、特開2001−271365号公報には、既存地下躯体の外周に止水性能を備える薄壁を、その既存地下躯体よりも深い位置まで構築し、既存地下躯体の外壁を山留めとして利用する地下構造物の施工法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−271365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来例の既存地下躯体の解体工法においては、上部に切梁4が架設された状態で解体作業を行うので、作業性が悪いだけでなく危険性を伴う。また、1階毎に内部を解体して切梁4を架設するので、切梁4の架設期間が長くなって結果的に損料が高くなるという問題点を有している。
【0007】
そして、既存地下躯体1を解体した後に新築地下躯体を構築する場合は、地下躯体7の強度発現を待ち、外周部位8を埋戻してから切梁4を解体するので、作業性が悪く工期が長くなるという問題点を有している。
【0008】
このことから、従来例における既存地下躯体の解体及び新築地下躯体の構築においては、作業性を向上させて工期を短くすることと、作業に伴う危険を解消して安全性の向上を図ることと、切梁4の架設期間を短縮して損料を低くすることとに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、既存地下躯体を解体して新築地下躯体を構築するに渡って、前記既存地下躯体を山留めとする山留め工法であって、前記既存地下躯体の所要位置の外周フレームに補強用壁を形成し、該補強用壁と土圧を支えられるだけの躯体とを残して前記既存地下躯体の内部躯体を地下1階から最下階まで解体し、前記既存地下躯体に1段目の切梁を架設しながら、該切梁の下部の前記既存地下躯体に残した前記補強用壁と躯体とを解体し、次いで、次段目の切梁を架設しながら、該架設する切梁の下部の前記既存地下躯体に残した前記補強用壁と躯体とを解体する工程を順次繰り返し行い、前記既存地下躯体の既存耐圧板の上から新築杭を打設し、基礎工事を行い、最下段の新築躯体を形成し、該新築躯体の外周部に仮設スラブを形成してから、該仮設スラブの上部の切梁を解体し、次いで、前記新築躯体の上部に次段の新築躯体を形成し、該新築躯体の外周部に仮設スラブを形成し、該仮設スラブの上部の切梁を解体する工程を順次繰り返し行うことである。
【0010】
前記外周フレームに前記補強用壁を形成する位置は、前記既存地下躯体の内側壁面に沿った位置、及び形成した補強用壁に隣接する位置である構成としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の山留め工法によれば、補強用壁を設けるので、既存地下躯体の土圧に対する必要な強度を持たせることができる。従って、切梁を架設しないで内部躯体を最下階まで先行解体できることとなり、従来例と比較して作業性が良好で安全性が高い。
また、内部躯体を先行解体した後に切梁を架設するので、架設期間が短縮できて結果的に損料を低減できる。
そして、新築躯体の外周部に形成した仮設スラブが山留め用の支保工の役目を果たすので、外周部への埋戻しを待たずに切梁を解体でき、次段の新築躯体工事に着手できることとなり、工期が短縮できるという種々の優れた効果を奏する。
【0012】
また、外周フレームに補強用壁を形成する位置は、既存地下躯体の内側壁面に沿った位置、及び形成した補強用壁に隣接する位置であることによって、既存地下躯体の土圧に対する必要な強度を確実に備えることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】既存地下躯体11の内部躯体15を最下階まで解体した状態を示す縦断面図である。
【図2】既存地下躯体11の補強用壁13aを解体した状態を示す縦断面図である。
【図3】既存地下躯体11の補強用壁13b、13cを解体した状態を示す縦断面図である。
【図4】既存耐圧板17の外周縁部18を所定幅残してその内側部位19を解体した状態を示す縦断面図である。
【図5】既存耐圧板17の上部に新築躯体21を構築した状態を示す縦断面図である。
【図6】新築躯体21の上部に下部新築躯体23を構築した状態を示す縦断面図である。
【図7】下部新築躯体23の上部に上部新築躯体24を構築した状態を示す縦断面図である。
【図8】上部新築躯体24の上部に下部新築躯体25を構築した状態を示す縦断面図である。
【図9】下部新築躯体25の上部に上部新築躯体26を構築した状態を示す縦断面図である。
【図10】従来例に係る既存地下躯体1を解体する方法の説明図である。
【図11】従来例に係る新築地下躯体を構築する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明は、既存地下躯体を解体してから新築地下躯体を構築するに渡って、その既存地下躯体を山留めとして利用する場合の山留め工法であって、図1から図9は、既存地下躯体の縦断面図である。なお、理解を容易にするため、従来例に対応する部分には従来例と同一の符号を付けて説明する。
【0015】
本発明に係る実施例1の山留め工法は、図1に示すように、まず既存地下躯体11の所要位置の外周フレーム12に、図示しない配筋を行い、型枠を設置し、コンクリートを打設して補強用壁13a、13b、13cを形成する。
【0016】
補強用壁13a、13b、13cを形成する位置は、既存地下躯体11の内側壁面14に沿った位置、及び補強用壁13bに隣接する位置である。即ち、既存地下躯体11の土圧に対する必要な強度を持たせることができる位置に補強用壁13a、13b、13cを形成するのである。ただし、既存地下躯体11の地下1階部分は、切梁16aを架設するので、補強用壁は形成しない。なお、図1に示すように断面視が階段状に形成する必要は必ずしもない。
【0017】
そして、図1に示すように、補強用壁13a、13b、13c及び外周フレーム12を残して、既存地下躯体11の内部躯体15を地下1階から最下階(地下3階)まで解体する。
【0018】
次に、図2に示すように、構台9を設置し、既存地下躯体11の地下1階に切梁16aを架設して既存地下躯体11の土圧を支持させてから、既存地下躯体11に残した補強用壁13aと躯体とを解体する。
【0019】
次いで、図3に示すように、既存地下躯体11の地下2階に切梁16bを架設して既存地下躯体11の土圧を支持させてから、既存地下躯体11に残した補強用壁13b、13cと躯体とを解体する。
【0020】
更に、図4に示すように、既存耐圧板17の外周縁部18を所定幅残してその内側部位19を解体して薄肉形状に形成する。
【0021】
以上説明したように、図1から図4に示す工程にしたがって既存地下躯体11の内部躯体を解体する。
【0022】
次に、図5に示すように、既存耐圧板17の上部から新築杭20を打設し、基礎工事を行い、最下階(地下3階)の新築躯体21を構築する。この新築躯体21の外周部に仮設スラブ22aを打設して既存地下躯体11の土圧を支持させる。
【0023】
そして、図6に示すように、新築躯体21の上部に地下2階の下部新築躯体23を構築する。この下部新築躯体23の外周部に仮設スラブ22bを打設して既存地下躯体11の土圧を支持させる。
【0024】
次いで、図7に示すように、地下2階の切梁16bを解体し、下部新築躯体23の上部に地下2階の上部新築躯体24を構築する。この上部新築躯体24の外周部に仮設スラブ22cを打設して既存地下躯体11の土圧を支持させる。
【0025】
そして、図8に示すように、上部新築躯体24の上部に地下1階の下部新築躯体25を構築する。この下部新築躯体25の外周部に仮設スラブ22dを打設して既存地下躯体11の土圧を支持させる。
【0026】
更に、図9に示すように、地下1階の切梁16a、及び構台9を解体し、下部新築躯体25の上部に地下1階の上部新築躯体26を構築することで、新築地下躯体27が構築される。
【0027】
以上のように本発明に係る山留め工法は、外周フレーム12に補強用壁13a、13b、13cを設けて既存地下躯体11の土圧を支持させるので、切梁を架設しないで内部躯体15を最下階まで先行解体できることとなり、作業性が良好で安全性が高い。
また、内部躯体15を先行解体した後に切梁16a、16bを架設するので、架設期間が短縮できる。
そして、新築躯体21、23、24、25の外周部に形成した仮設スラブ22a、22b、22c、22dが山留め用の支保工の役目を果たすので、外周部への埋戻しを待たずに切梁16a、16bを解体できて、次段の新築躯体工事に着手できる。
【符号の説明】
【0028】
1 既存地下躯体
2 壁面
3 腹起し
4 切梁
5 既存耐圧板
6 杭
7 地下躯体
8 外周部位
9 構台
11 既存地下躯体
12 外周フレーム
13a、13b、13c 補強用壁
14 内側壁面
15 内部躯体
16a、16b 切梁
17 既存耐圧板
18 外周縁部
19 内側部位
20 新築杭
21 最下階の新築躯体
22a、22b、22c、22d 仮設スラブ
23 下部新築躯体
24 上部新築躯体
25 下部新築躯体
26 上部新築躯体
27 新築地下躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存地下躯体を解体して新築地下躯体を構築するに渡って、前記既存地下躯体を山留めとする山留め工法であって、
前記既存地下躯体の所要位置の外周フレームに補強用壁を形成し、該補強用壁と土圧を支えられるだけの躯体とを残して前記既存地下躯体の内部躯体を地下1階から最下階まで解体し、
前記既存地下躯体に1段目の切梁を架設しながら、該切梁の下部の前記既存地下躯体に残した前記補強用壁と躯体とを解体し、
次いで、次段目の切梁を架設しながら、該架設する切梁の下部の前記既存地下躯体に残した前記補強用壁と躯体とを解体する工程を順次繰り返し行い、
前記既存地下躯体の既存耐圧板の上から新築杭を打設し、基礎工事を行い、最下段の新築躯体を形成し、
該新築躯体の外周部に仮設スラブを形成してから、該仮設スラブの上部の切梁を解体し、
次いで、前記新築躯体の上部に次段の新築躯体を形成し、該新築躯体の外周部に仮設スラブを形成し、該仮設スラブの上部の切梁を解体する工程を順次繰り返し行うこと
を特徴とする山留め工法。
【請求項2】
前記外周フレームに前記補強用壁を形成する位置は、前記既存地下躯体の内側壁面に沿った位置、及び形成した補強用壁に隣接する位置であること
を特徴とする請求項1に記載の山留め工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−163074(P2011−163074A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29919(P2010−29919)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】