説明

岩盤接着工法

【課題】岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙が、幅2cm以上となった場合においても、該間隙を容易に目止め用モルタルで塞ぐことができ、充填用モルタルを該間隙に充填するときに充填用モルタルが漏れ難い岩盤接着工法を提供すること。
【解決手段】岩盤等2の間隙5の所定の位置に網状物1を挿入した後に、目止め用モルタルで該間隙5の目止めを行い、その後に網状物1より奥側の間隙7に充填用モルタルを充填する。即ち、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙5に、網状物1を、間隙の幅8の0.5〜3倍の深さまで挿入する工程の後に、網状物1より外側の該間隙6を目止め用モルタルで塞ぐ工程を行い、更にその後に、網状物1より奥側の間隙7に充填用モルタルを充填する工程を行うことを特徴とする岩盤接着工法。網状物1を、巻いた状態又は曲げた状態で、上記間隙5に挿入すると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙をモルタルで接着することにより固定する岩盤接着工法に関し、特に、急傾斜地にあり岩盤崩壊又は落石の虞のある岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせが岩盤崩壊又は落石することを、これらの岩盤等の間隙にモルタルを充填し接着固定することで、防止する岩盤接着工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、急傾斜地にある岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせ(以下「岩盤等」ということがある)が、岩盤崩壊又は落石することにより引き起こされる災害を防止するために、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙に、充填用モルタルを充填し、この充填用モルタルの接着力により岩盤等を固定する工法が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
岩盤崩壊又は落石の虞のある岩盤等の間隙に、充填用モルタルを充填するには、この間隙を目止め用モルタルで塞いだ上で行わないと、充填用モルタルが漏れ出し、岩盤等の接着面積が減り固定が不充分になる。岩盤等の間隙が、幅1cm程度までの場合は、目止め用モルタルを指で押し込む又は吹き付けるだけで、該間隙を目止め用モルタルで容易に塞ぐことができる。しかし、岩盤等の間隙が幅2cm以上となった場合は、目止め用モルタルを指で押し込むだけでは、先に押し込み詰めたモルタルが変形し又は壊れ易く、該間隙を目止め用モルタルで容易に塞ぐことができない。また、目止め用モルタルを吹き付けることにより、効率良く岩盤等の間隙を塞ぐには、該間隙の幅が5cm程度以上になると吹付けノズルや圧送ホース等を太くする必要がある。しかし、急傾斜地でこのような太い吹付けノズルや圧送ホース等を取りまわし、時には高低差で数m以上もある間隙を目止め用モルタルで塞ぐことは容易ではない。
【0004】
また、単に岩盤等の間隙に目止め用モルタルを指で押し込み又は吹き付けることにより該間隙を塞ぐだけでは、充填用モルタルを該間隙に充填するときに、充填用モルタルの圧力により、目止め用モルタルが変形し又は壊れ、充填用モルタルが漏れ出ることがあった。
【特許文献1】特許第2694379号公報
【特許文献2】特開2002−155536号公報
【特許文献3】特開2001−248165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題の解決、即ち、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙が、幅2cm以上となった場合においても、該間隙を容易に目止め用モルタルで塞ぐことができ、充填用モルタルを該間隙に充填するときに充填用モルタルが漏れ難い岩盤接着工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、岩盤等の間隙の所定の位置に網状物を挿入した後に、目止め用モルタルで該間隙を塞ぎ、その後に網状物より奥側の間隙に充填用モルタルを充填することにより、前記課題を克服することができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)及び(2)で表す岩盤接着工法である。
(1)岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙に、網状物を、間隙の幅の0.5〜3倍の深さまで挿入する工程の後に、網状物より外側の該間隙を目止め用モルタルで塞ぐ工程を行い、更にその後に、網状物より奥側の間隙に充填用モルタルを充填する工程を行うことを特徴とする岩盤接着工法。(2)上記網状物を挿入する工程において、網状物を、巻いた状態又は曲げた状態で、上記間隙に挿入することを特徴とする上記(1)の岩盤接着工法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙が、幅2cm以上となった場合においても、該間隙を容易に目止め用モルタルで塞ぐことができ、充填用モルタルを該間隙に充填するときに充填用モルタルが漏れ難い岩盤接着工法が得られる。また、本発明によれば、充填するときに充填用モルタルが漏れ難く岩盤等の接着面積を充分確保できるので、岩盤等の固定がより確実なものとなる。道路や民家等の上方にある岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせをより確実に固定することができるので、ライフラインの確保や人命の確保に役に立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の岩盤接着工法は、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙に、網状物を、間隙の幅の0.5〜3倍の深さまで挿入する工程の後に、網状物より外側の該間隙を目止め用モルタルで塞ぐ工程を行い、更にその後に、網状物より奥側の間隙に充填用モルタルを充填する工程を行うことを特徴とする。網状物を挿入する深さが間隙の幅の0.5倍未満即ち半分未満では、充填用モルタルを充填するときに漏れが起こり易くなる。網状物を挿入する深さが間隙の幅の3倍を超えると、網状物の挿入に時間が掛かり易く且つ目止め用モルタルで塞ぐ作業も時間を要す上、人の手が届かないことにより施工ができない場合がある。網状物を挿入する深さが間隙の幅の0.5〜2倍であることが、岩盤等の接着面積を充分確保でき且つ目止め用モルタルで間隙を塞ぐ作業も時間が掛からないので好ましい。なお、本発明において、間隙の幅とは、一つの網状物を挿入する部分の岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙の平均値とする。また、上記間隙には、岩盤等に内在する亀裂等の間隙も含まれる。
【0009】
本発明において、上記各工程の順序は、岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙に、網状物を、間隙の幅の0.5〜3倍の深さまで挿入する工程の後に、網状物より外側の該間隙を目止め用モルタルで塞ぎ目止めを行う工程を行い、更にその後に、網状物より奥側の間隙に充填用モルタルを充填する工程を行うが、本発明の効果を損なわない限り、各工程の前後に、例えば間隙の洗浄工程や養生工程などの、上記以外の工程を行っても良い。
【0010】
本発明において使用する網状物は、網、有孔板、スポンジ又は綿状のもので、好ましくは金属製網である。例えばメタルラス、ワイヤラス、エキスバンドメタル等が例示できる。この網状物を挿入する工程において、網状物を、巻いた状態又は曲げた状態で、上記間隙に挿入することが好ましい。網状物を巻いた状態又は曲げた状態で上記間隙に挿入すると、間隙に挿入した網状物が広がることで間隙内の凹凸に引掛かり、目止め用モルタルで網状物より外側の該間隙を塞ぎ易いので好ましい。
【0011】
本発明において使用する目止め用モルタルは、岩盤等の間隙を塞ぐための、少なくとも水硬性セメント、水及び骨材を混合した混練物のことを云い、必要により更にモルタルやコンクリートで使用可能な混和材料を添加しても良い。本発明で使用する目止め用モルタルに用いる材料は、水硬性セメントを結合材として含有するモルタルに用いられているものを使用できる。水硬性セメントとしては、例えば、普通,早強,中庸熱,低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント等の混合セメント、アルミナセメント、或いは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等の廃棄物を原料として利用したエコセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、混和材料としては、例えば、高性能減水剤,高性能AE減水剤,AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、シリカフューム等のポゾラン、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石粉、樹脂エマルション、再乳化型粉末樹脂、膨張材、起泡剤、発泡剤、防錆剤、顔料、繊維、粉塵低減剤、撥水剤、保水剤、防水材、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、収縮低減剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明による効果を阻害しない範囲で使用することができる。目止め用モルタルが、樹脂エマルション又は再乳化型粉末樹脂を含有すると壊れ難く、上記網状物と一体となり又岩盤等と強固に接着するので好ましい。本発明において使用する目止め用モルタルの接着力も、岩盤等の固定に充分貢献する。
【0012】
本発明において使用する目止め用モルタルのJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定されるフロー値に準じて測定した落下運動前のフロー値が100〜135mm且つ15回の落下運動後のフロー値が115〜170mmであると、岩盤等の間隙が幅2cm以上となった場合にも、目止め用モルタルを指で押し込むだけ該間隙を目止め用モルタルで容易に塞ぐことができるので好ましい。落下運動前のフロー値が135mmを超える場合又は15回の落下運動後のフロー値が170mmを超える場合は、目止め用モルタルが自重で硬化までに形状を維持できないため型枠等が必要となり、15回の落下運動後のフロー値が115mm未満では、指で押し込むだけ先に押し込み詰めた目止め用モルタルと一体化し難い。なお、JIS R 5201に規定されるフロー値は、100mm未満にはならない。
【0013】
本発明において使用する充填用モルタルは、少なくとも水硬性セメント、水及び骨材を混合し、且つJSCE−F541「充てんモルタルの流動性試験方法」に規定されるJ14漏斗で目詰まりを起こさずに流下できる混練物のことを云う。必要により更にモルタルやコンクリートで使用可能な混和材料を添加しても良い。JSCE−F541に規定される流下時間が3.5〜30秒である充填用モルタルが、短時間で充填作業が完了するので好ましい。流下時間が3.5秒未満では、大量に充填しても固定する予定の岩盤等の間隙に充填用モルタルが留まらないことがある。また、流下時間が30秒を超えると、固定する予定の岩盤等の間隙に充填用モルタルが留まるまでに時間が掛かりすぎる。
【0014】
本発明で使用する充填用モルタルに用いる材料は、水硬性セメントを結合材として含有するモルタルに用いられているものを使用できる。水硬性セメントとしては、例えば、普通,早強,中庸熱,低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント等の混合セメント、アルミナセメント、或いは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等の廃棄物を原料として利用したエコセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、混和材料としては、例えば、高性能減水剤,高性能AE減水剤,AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、シリカフューム等のポゾラン、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石粉、樹脂エマルション、再乳化型粉末樹脂、膨張材、起泡剤、発泡剤、防錆剤、顔料、繊維、粉塵低減剤、撥水剤、保水剤、防水材、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、収縮低減剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明による効果を阻害しない範囲で使用することができる。充填用モルタルが、樹脂エマルション又は再乳化型粉末樹脂を含有すると、充填用モルタルの接着力が高まり岩盤等をより強固に固定できるので好ましい。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
幅10cm、高さ約2mの垂直方向に開口している岩盤2の亀裂(間隙)5内を、高圧水による洗浄を行った後、手で巻いた市販のメタルラス1を、岩盤の表面3からの深さ4が5cmとなるまで、即ち間隙の幅8の0.5倍の深さまで岩盤2の亀裂(間隙)5に挿入した。その後、メタルラスより外側の亀裂(間隙)6の開口部に、目止め用モルタルを指でメタルラス1に押し付けながら下側から亀裂を塞いだ。亀裂内の目止め用モルタルに注入ノズルを差し込んだ後に、高さ約1m毎にメタルラスより奥側の亀裂(間隙)7に充填用モルタルを充填した。その結果、亀裂内の目止め用モルタルからの漏れも無く、間隙に充填用モルタルを充填することが出来た。用いた目止め用モルタル及び充填用モルタルは、どちらもポルトランドセメント,骨材及び繊維を含有するセメント組成物(商品名「ロックマスターパウダー」、太平洋マテリアル社製)、スチレンブタジエンゴムの樹脂エマルション(商品名「ロックマスター混和液」、太平洋マテリアル社製)及び水の配合割合が異なるだけであり、その配合割合を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
また、用いた目止め用モルタルの、JIS A 5201「セメントの物理試験方法」に規定されるフロー値に準じて測定した落下運動前のフロー値は115mmで、15回の落下運動後のフロー値は140mmであった。また、用いた充填用モルタルのJSCE−F541規定されるJ14漏斗を用いた流下時間は、8.0秒であった。図1に手で巻いた市販のメタルラスの模式的な斜視図を示す。また、図2に垂直方向に開口している岩盤の亀裂(間隙)5に、手で巻いたメタルラスを挿入したところの模式的な上面図を示す。
【0018】
[実施例2]
岩盤の表面からのメタルラスの挿入深さのみ20cmと実施例1と異なり、その他は実施例1と同様に試験を行った。その結果、亀裂内の目止め用モルタルからの漏れも無く、岩盤の亀裂(間隙)に充填用モルタルを充填することが出来た。
【0019】
[実施例3]
岩盤の表面からのメタルラスの挿入深さのみ30cmと実施例1と異なり、その他は実施例1と同様に試験を行った。その結果、亀裂内の目止め用モルタルからの漏れも無く、岩盤の亀裂(間隙)に充填用モルタルを充填することが出来た。但し、目止め用モルタルによる亀裂を塞ぐ作業に、実施例1及び実施例2の1.5倍以上の時間が掛かった。
【0020】
[比較例1]
岩盤の表面からのメタルラスの挿入深さのみ2cmと実施例1と異なり、その他は実施例1と同様に試験を行った。その結果、亀裂内の目止め用モルタルからの漏れがあり、一時充填作業を中断しこの漏れを止めた後に充填用モルタルの充填を再開したため、岩盤の亀裂(間隙)の充填において、実施例1〜実施例3に比べ材料及び時間が大幅に掛かった。
【0021】
[比較例2]
岩盤の表面からのメタルラスの挿入深さのみ40cmと実施例1と異なり、その他は実施例1と同様に試験を行った。その結果、メタルラスの位置が手の届かない位置であったため、JIS R 5201に記載の手練り用のさじを用い塞いだ。このため、目止め用モルタルによる亀裂を塞ぐ作業に、実施例3の2倍以上の時間を要し、作業性が極度に悪かった。
【0022】
[比較例3]
メタルラスを用いずに岩盤の表面からの深さ5cmまで目止め用モルタルを積み上げることで亀裂を塞いだ以外は実施例1同様に試験を行った。その結果、亀裂内の目止め用モルタルからの漏れがあり、一時充填作業を中断しこの漏れを止めた後に充填用モルタルの充填を再開したため、岩盤の亀裂(間隙)の充填において、実施例1〜実施例3に比べ材料及び時間が大幅に掛かった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の岩盤接着工法は、落石や岩盤崩壊を防止するための工事に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】手で巻いた市販のメタルラスの模式的な斜視図である。
【図2】岩盤の亀裂(間隙)に手で巻いたメタルラスを挿入したところの模式的な上面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 手で巻いた市販のメタルラス
2 岩盤
3 岩盤の表面
4 岩盤の表面からの深さ(メタルラスの挿入深さ)
5 岩盤の亀裂(間隙)
6 メタルラスより外側の亀裂(間隙)
7 メタルラスより奥側の亀裂(間隙)
8 間隙の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤、転石、転石群、浮石、浮石群又はこれらの組み合わせの間隙に、網状物を、間隙の幅の0.5〜3倍の深さまで挿入する工程の後に、網状物より外側の該間隙を目止め用モルタルで塞ぐ工程を行い、更にその後に、網状物より奥側の間隙に充填用モルタルを充填する工程を行うことを特徴とする岩盤接着工法。
【請求項2】
上記網状物を挿入する工程において、網状物を、巻いた状態又は曲げた状態で、上記間隙に挿入することを特徴とする請求項1記載の岩盤接着工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177544(P2007−177544A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378293(P2005−378293)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】