説明

岩石からの溶出元素採取装置

【課題】実環境(温度、圧力、地下水組成)に即して、これらの条件を変化させながら、岩石から溶出する元素を実環境の状況に則して採取できる岩石からの溶出元素採取装置を提供する。
【解決手段】岩石20が収納される反応セル10にヒータ50を備え、ヒータ50により岩石20を実環境に応じた温度に設定し、実環境に応じた温度に設定された岩石20にCO2溶解溶液を透水させ、CO2溶解溶液と岩石20とを実環境の状況に則して反応させ、ピストンシリンダ32からの不純物が混入しないようにシリンジ70で透水したCO2溶解溶液を採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性溶液を岩石に透水させて生じる反応を検証する岩石からの溶出元素採取装置に関し、特に、二酸化炭素溶解溶液を透水させて岩石との反応により二酸化炭素溶解溶液中に溶出する元素を特定することで二酸化炭素の地中貯留における実環境への環境影響の評価に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を緩和するために様々な取り組みがなされている。例えば省エネ化や、二酸化炭素(以下;CO)の排出を抑制することなどが行われている。このような取り組みの一つとして、工場や発電所等から排出されるCOを地中に貯留して(CO地中貯留)COの排出量を削減する技術がCO削減の即効性のある方法として注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、実際にCO地中貯留を実施するに先立ち、地下に貯留される大量のCOが地下環境において及ぼす影響を事前に評価・検討する必要がある。地下に貯留されるCOは、地下の帯水層で酸性のCO溶解溶液となり、CO溶解溶液に地下の岩石を構成する元素が溶出することから、長期間、地下にCO溶解溶液が貯留されると、地下資源や地上の人間の生活圏(飲料水などの組成)に影響を及ぼす虞があるため、COが地下水組成に及ぼす影響を調査・予想・評価することが不可欠となっている。
【0004】
実際には本格的なCO地中貯留を行う前に、試験的にCOの地中貯留を行い、一定期間後、地下のCO溶解溶液を採取し、採取したCO2溶解溶液の組成を分析することで、地中貯留におけるCOの環境影響を評価することができる。しかし、事前に地下数百メートルの地下からCO溶解溶液を採取するには、岩盤の掘削を行うこと、溶液を新鮮な状態で採取することなど困難な場合が多い。
【0005】
更に、地下の温度・圧力・地下水組成はCO地中貯留を行う深度によって様々であり、同種の岩石にCO溶解溶液を反応させるだけでは、地下深部から浅部までの深度を網羅したCO地中貯留が環境に及ぼす影響を評価することはできない。このため、これまではCO地中貯留の際に、温度、圧力、地下水組成の条件が異なる種々の実環境に応じて、地下から採取した岩石との化学反応により地下水の組成がどのように変化するかを正確に把握できないのが現状であった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−237167号公報(請求項7等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたもので、実環境(温度、圧力、地下水組成)に即して、これらの条件を変化させながら、岩石から溶出する元素を実環境の状況に則して採取できる岩石からの溶出元素採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、岩石が収納される収納容器と、前記収納容器に収納された岩石に酸性溶液を圧送する透水手段と、前記収納容器に収納された岩石の温度を実環境に応じた温度に設定する温度制御手段と、酸性溶液と岩石の反応により溶出する元素を分析するために前記岩石に圧送された酸性溶液を大気に接触させることなく前記収納容器から採取する採取手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項1に係る本発明では、岩石を構成する元素の酸性溶液への溶出が収納容器内で実環境に則して再現され、反応後の酸性溶液に溶存する元素を分析するために大気に接触しない状態で酸性溶液が採取される。また、収納容器に収納された岩石は、温度制御手段により、実環境に応じた温度に維持される。これにより、収納容器に収納された岩石は、実環境の温度と同等の複雑な条件の下で常に酸性溶液が透水されて溶解を起こすため、実環境に則して岩石から溶出する元素を反応の経過時間に応じて採取できる装置となっている。また、収納容器に収納された岩石の温度は、実験途中においてもプログラムで変更可能であるので、より一層実環境に則して実験することが可能となっている。
【0010】
そして、請求項2に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、請求項1に記載した岩石からの溶出元素採取装置において、前記岩石に圧送した酸性溶液を前記収納容器から排出させる排出手段と、前記収納容器と前記排出手段との間で酸性溶液を大気に接触させることなく採取する採取手段と、前記岩石に圧送した酸性溶液を前記排出手段又は前記採取手段の何れか一方に選択的に流入させる選択手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明では、天然と同じ実環境が収納容器内で再現され、岩石を構成する元素の溶出が行われる。このため酸性溶液に溶出する元素を分析するために反応後の溶液が採取される。元素が溶出する酸性溶液は、選択手段の一例であるバルブにより、収納容器に収められている岩石試料の間隙水圧を保つための排出手段の一例である排出圧制御装置、又は水質分析に資するための採取手段の一例である採取装置の何れか一方のみに流出するように選択可能になっている。このバルブにより反応溶液の採取時に、排出圧制御装置内にすでに排出された不要な溶液が採水装置に流入しないようになっている。このため岩石からの溶出元素採取装置を用いて岩石試料から溶出する元素のみを調査することができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、請求項1又は請求項2に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、前記収納容器に収納された岩石を実環境に応じた圧力で流体を押圧する圧力調節手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明では、収納容器に収納された岩石は、圧力調節手段により、実環境に応じた圧力が掛けられる。これにより、収納容器に収納された岩石は、実環境の圧力と同等の温度、圧力、溶液条件の基で酸性溶液が透水されて反応を起こすため、岩石を構成する元素の酸性溶液への溶出が収納容器内でより高精度に実環境に則して再現され、この酸性溶液を採取することができる。
【0014】
また、請求項4に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、請求項3に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、前記収納容器には岩石を収容する遮断部材が備えられ、前記収納容器と前記遮断部材との間に流体が封入され、前記圧力調整手段は、前記流体を加圧させることで遮断部材を介して岩石を押圧する加圧手段であることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る本発明では、流体により収納容器内の岩石に圧力が掛けられるので、実環境の圧力をより精密に再現することができる。
【0016】
また、請求項5に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、前記透水手段は、前記収納容器に圧送する酸性溶液の組成を実環境の地下水濃度に応じて設定することを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る本発明では、実環境に応じた温度、圧力に設定された酸性溶液が実際に地下深部に存在する地下水組成と同じ地下水を保持する岩石に透水され、あるいは透水させる酸性溶液に他の組成の地下水が流入した場合を想定しており、岩石からの元素の溶出がより一層実環境に則して再現され、さらに、この元素が溶存する酸性溶液を採取できる。
【0018】
また、請求項6に係る本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、前記岩石は二酸化炭素を地中に貯留すると想定された場所で採掘されたものであり、前記酸性溶液は、二酸化炭素溶解溶液であることを特徴とする。
【0019】
請求項6に係る本発明では、酸性溶液の一例である二酸化炭素を地中貯留する場合における二酸化炭素溶液との反応により、岩石を構成する元素の岩石からの溶出が再現され、この元素が溶存する二酸化炭素溶液を採取できる。このとき岩石としては、二酸化炭素が地下に貯留される予定の周辺にある場、深度、あるいはCO貯留を行うそのものの地層から採掘されたものを用いる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、岩石を構成する元素が実環境の状況に則して酸性溶液に溶出され、この酸性溶液を採取できる岩石からの溶出元素採取装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〈実施形態1〉
以下本発明の実施形態例を図面に基づいて説明する。図1には本発明の一実施形態例に係る岩石からの溶出元素採取装置の全体構成、図2には反応セルの断面、図3には二酸化炭素が地下に貯留された状態の概略断面を示してある。なお、図示の実施形態例は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0022】
図1、図2に基づいて岩石からの溶出元素採取装置の全体構成を説明する。
【0023】
図1に示すように、筐体1の内部には複数本の支柱2が鉛直に設けられ、支柱2には台座3及び天板4が水平に固定されている。台座3の上には収納容器としての反応セル10が載置され、反応セル10は台座3と天板4とに亘って固定されている。
【0024】
図1、図2に示すように、反応セル10は内部に岩石20が収納されるように形成された円筒形状の容器であり、岩石20は切削されて円柱状に形成されている。岩石20の周囲は流体を遮断する遮断部材25に覆われ、遮断部材25に覆われた岩石20は反応セル10の中央部に収納されている。
【0025】
反応セル10の下部には配管31を介してCO溶解溶液タンク30が接続され、CO溶解溶液タンク30にはCO溶解溶液が充填されている。一方、反応セル10の上部には配管33を介して排出手段(排出圧制御装置)としてのピストンシリンダ32が接続されている。配管33には、T字路継手73を介して配管71が接続され、配管71には、採取手段としてのシリンジ70が接続されている。また、選択手段として、T字路継手73とピストンシリンダ32との間の配管33には排水バルブ34が設けられ、T字路継手73とシリンジ70との間の配管71には採取バルブ72が設けられている。
【0026】
CO溶解溶液タンク30には所定圧のヘリウム(He)ガスが供給され、CO溶解溶液タンク30に充填されたCO溶解溶液が配管31を通って反応セル10の内部に圧送される。CO溶解溶液の圧送により、岩石20の下側から上側に向かってCO2溶解溶液が透水するようになっている。そして、排水バルブ34が開放され、且つ採取バルブ72が閉止されている状態では、岩石20の上側から、透水したCO2溶解溶液がピストンシリンダ32に排出される。また、排水バルブ34が閉止され、且つ採取バルブ72が開放されている状態では、岩石20の上側から、透水したCO2溶解溶液がシリンジ70で採取されることとなる。このバルブ機能によりピストンシリンダ32に排出され溜められたCO溶解溶液がシリンジ70に混入することを防止している。なお、ピストンシリンダ32は、反応セル10からのCO溶解溶液を一定圧力で排出できるようにピストンを介して窒素ガス圧で制御される。一方、シリンジ70は反応セル10からのCO溶解溶液を大気圧にまで減圧して採取するように構成されている。ただし、シリンジ70に採取されたCO溶解溶液は大気に接触することは無く、大気とは遮断されている。
【0027】
反応セル10の筒部には配管41を介して圧力調整手段としての圧縮シリンダ40が接続されている。反応セル10の内面と遮断部材25との間には流体としてのイオン交換水26が封入され、イオン交換水26は圧縮シリンダ40により所定圧力で反応セル10の内面と遮断部材25との間に封入される。これにより、遮断部材25により囲まれた岩石20はイオン交換水26の圧力によって所定圧力が掛けられた状態にされている。
【0028】
ここで、圧縮シリンダ40により設定される圧力としては、例えば、岩石20を採掘した場所における採掘前の岩石20に掛かる推定された圧力を用いることができる。
【0029】
筒状の反応セル10の上面及び下面にはボルト28がナット29により取付けられ、ボルト28の頂部(上側のボルト28の下端、下側のボルト28の上端)にはナット部材27がそれぞれ固定されている。ナット部材27の対向面にはフィルタ21がそれぞれ配され、フィルタ21の間に円柱状の岩石20の端面が挟持される。ナット29の調整により、ボルト28を介してナット部材27同士の間隔が調整され、フィルタ21の間に岩石20が挟持されて固定される。
【0030】
上側及び下側のボルト28には貫通流路61が形成されている。下側のボルト28の貫通流路61には配管31が接続され、上側のボルト28の貫通流路61には配管33が接続されている。なお、フィルタ21、ナット部材27、ボルト28及びナット29は耐熱・耐食の合金、例えばニッケルを主成分とするハステロイC(登録商標)で形成されている。
【0031】
遮断部材25は、テフロン(登録商標)製のシールテープ22、バイトンゴム(登録商標)(フッ素ゴム)製のスリーブ23及び熱収縮チューブ24から構成される。即ち、岩石20及びフィルタ21の周囲にシールテープ22が巻き付けられ、岩石20の端面にフィルタ21が固定された状態になる。シールテープ22の周囲には筒状のスリーブ23が嵌合され、筒状のスリーブ23の外周側に熱収縮チューブ24が被せられている。スリーブ23の上端開口及び下端開口はフィルタ21を覆った状態でナット部材27に弾性接着剤で接着され、岩石20の上面及び下面が外部と遮断される。
【0032】
遮断部材25が岩石20を取り囲み、遮断部材25の熱収縮チューブ24と反応セル10の内面との間にイオン交換水26が充填される。岩石20は熱収縮チューブ24、スリーブ23及びシールテープ22を介して所定の圧力が掛けられる。そして、遮断部材25により岩石20が完全に覆われるので、岩石20に透水されるCO溶解溶液と封入媒体であるイオン交換水26とは混合しない。
【0033】
筐体1には内部に収容された岩石20の温度を実環境に応じた温度に設定する温度制御手段が備えられている。即ち、筐体1の外周には複数のヒータ50が上下方向に間隔を空けて取付けられている。ヒータ50は、温度制御装置51からの制御信号に基づいて任意の温度に設定され、反応セル10の岩石20の温度を所定温度に設定する。温度制御装置51が設定する岩石20の所定温度は、実環境に応じた温度が用いられる。実環境に応じた温度としては、例えば、岩石20を採取した場所における採取前の岩石20の実測温度を用いる。
【0034】
上記構成の岩石からの溶出元素採取装置では、CO溶解溶液との反応により岩石20から溶出された元素を分析するために、反応セル10に収納された岩石20の中を透水したCO溶解溶液を採取する。CO溶解溶液の採取の際、排水バルブ34を閉鎖し、採取バルブ72を開放することで、岩石20を透水したCO溶解溶液(反応溶液)がシリンジ70に採取される。排水バルブ34を閉鎖するため、ピストンシリンダ32からCO溶解溶液(すでに排水された反応溶液)がシリンジ70に逆流することなく,岩石20を通過したCO溶解溶液(反応溶液)を通過直後に採取することができる。例えば、ピストンシリンダ32がステンレス鋼(以下;SUS)で形成されている場合、高圧で制御されているピストンシリンダ32からのCO溶解溶液が逆流すると、SUSから鉄イオン等が大気圧に制御されているシリンジ70にCO溶解溶液(排水された反応溶液)が混入するが、上記採取装置では、このような逆流は無く、SUSから不純物の混入は一切ない。したがって、反応セル10内の岩石20から溶出した元素のみが溶存するCO溶解溶液(反応溶液)を採取することができる。
【0035】
また、反応セル10の温度はヒータ50に取付けられた温度制御装置51より所望の温度にプログラム制御され、反応セル10に収納された岩石20の温度は実環境の温度変化に応じた温度に変更、維持できる。例えば、岩石20の温度はCO地中貯留が実施される深度の温度、温度変化に応じて維持、変化させられる。これにより、CO地中貯留を想定した場所における温度環境で、岩石20の元素からCO溶解溶液に溶出する化学反応の状況を反応セル10の中で再現し、このCO溶解溶液(反応溶液)を採取する。
【0036】
更に、圧縮シリンダ40で圧送されたイオン交換水26により、遮断部材25を介して岩石に所望の圧力が掛けられ、実環境に応じた圧力環境に岩石20が維持される。これにより、CO地中貯留を想定した深度における温度環境・圧力環境で、岩石20の元素からCO溶解溶液に溶出する反応を再現し、将来にわたる地下水組成の変化を予想することができるようになる。
【0037】
図3に基づいてCO地中貯留の状況を説明する。
【0038】
図に示すように、地表から不透水層102を貫通して帯水層100に達する縦穴101(ボーリング孔)が掘削され、地上には、二酸化炭素を縦穴101に圧送する圧送装置103が設置されている。帯水層100は地下水が存在する地層であり、圧送装置103によりCOが帯水層100に圧送されて貯留され、不透水層102により地上への流出が阻止されている。
【0039】
例えば、工場や発電所から排出されるCOが圧送装置103により縦穴101から帯水層100に圧送されると、COが地下水に溶けて酸性溶液であるCO溶解溶液が生成され、帯水層100に向けて掘削された縦穴101近傍の岩石104を構成する元素がCO溶解溶液に溶出する。具体的には、ナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)などの岩石を構成する典型元素と、カドミニウム(Cd)、ホウ素(B)、 鉛(Pb)、砒素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)などの遷移金属で希ガスを除く元素が岩石104からCO溶解溶液(反応溶液)に溶出する。
【0040】
COを地中に貯留する場所によっては、岩石104の温度は様々であり、また、帯水層100の深度によっては、岩石104に掛かる圧力も様々である。上述した岩石からの溶出元素採取装置は、このように実環境によって異なる温度・圧力を再現して岩石20(図1、図2参照)にCO溶解溶液を透水するので、岩石104を構成する元素からCO溶解溶液に溶出する化学反応が、反応セル10の岩石20で実環境に則して精度よく再現される。
【0041】
本実施形態に係る岩石からの溶出元素採取装置を用いることにより、岩石20に一定期間CO溶解溶液を透水した後、反応セル10から採取したCO溶解溶液(反応溶液)は、様々な分析方法でCO溶解溶液(反応溶液)に溶出している元素を測定できる。例えば、所定の温度・圧力条件でCO溶解溶液を透水した後のCO溶解溶液中(反応溶液)に溶存するイオンを一定期間に亘り分析することで、元素の溶出し易さとその程度を判断することができる。
【0042】
このような検討は実際にCOを貯留した地層100までボーリング掘削することにより採取される地下水の組成を分析することで前述した元素の溶出を確認することもできる。ただし、このようなボーリング掘削は一旦地中貯留したCOを放出させる原因ともなるため、意にそぐわない。本発明の岩石からの溶出元素採取装置を用いることで、CO地中貯留を行う前にどのような元素がCOの影響で溶出する可能性があるかを知ることができ、岩盤中に元素を留める方法の検討や特に注意してモニタリングする元素の特定が可能となり、大幅な経費削減に繋がる。
【0043】
上述した実施形態例では、COを地下に貯留する実環境を想定して、岩石20にCOを透水したが、CO地中貯留の環境を想定することのみに限定されず、地下水汚染などの原因を探る方法の一つとして実際の溶液を実際に問題とされる岩石に通水させて汚染の根源を探ることにも役立つ。
【0044】
上記構成の岩石からの溶出元素採取装置は酸性溶液としてCO溶解溶液を想定した例を挙げて説明したが、COを溶解させる溶液は実際の地層に含まれる地下水と同じ水質の地下水とすることができる。すなわち本岩石からの溶出元素採取装置は海底下など塩水溶液に満たされた地層にCOを貯留する実環境に応じた環境を再現することも可能である。さらに、酸性溶液として酸性雨を想定し、酸性雨により岩石から元素が溶出する化学的風化環境など実天然現象を対象とすることも可能である。この場合においても、実環境に合わせて、反応セル10に収納された岩石20の温度や岩石20に掛かる圧力を設定するため、地表で激しく変わる温度やCO濃度の影響を考慮して、岩石から溶出する元素を採取することができ、これにより天然現象を実環境に則して精度よく再現することができることとなる。
【0045】
これは温度制御装置51が温度を常に一定に保たせることなく、任意にプログラム制御で増減させる機構を有しており、CO溶解溶液が岩石20に透水している期間に応じて変動させることが可能となっていることによる。例えば、温度を下げて国内の冬季の温度を再現し、温度を上げて国内の夏季の温度を再現することで、昼に太陽光により熱せられ、夜に温度低下する繰り返しの温度変化を模擬することで地表における通年の地下環境を再現することができる。多様な地域において、より一層現実の地下環境に則した岩石20からの元素の溶出を再現し、この元素が溶解するCO溶解溶液を採取できることが特徴となっている。
【0046】
更に、CO溶解溶液タンク30は、貯留しているCO溶解溶液の温度が、地下環境に存在するCO溶解溶液の温度に事前に設定されるように単独で加熱してもよい。この場合においても、現実の地下環境に則した岩石20からの元素の溶出が再現され、この元素が溶存したCO2溶解溶液を採取することができる。
【0047】
なお、選択手段としては、排水バルブ34と採取バルブ72とをそれぞれ配管33と配管71とに設けたが、これに限定されない。例えば他の選択手段として、ピストンシリンダ32又はシリンジ70の何れか一方に反応セル10からのCO2溶解溶液が流入するようにT字路継手73を三方弁に変更してもよい。
【0048】
〈他の実施形態〉
実施形態1では、CO2溶解溶液を岩石に透水させるべく反応セル10を筐体1に配設したが、本発明ではこのような形態に限定されない。図4は、他の実施形態に係る岩石の溶出元素採取装置の全体構成図である。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0049】
図4に示すように、反応セル10の下方に、反応セル10Aが配設されている。反応セル10Aの構成は反応セル10と同一である。反応セル10Aには、蒸留水タンク30Aが接続されており、蒸留水タンク30Aに貯留された蒸留水が、反応セル10Aの下部から上部へ透水するようになっている。
【0050】
かかる構成の溶出元素採取装置では、反応セル10,10Aは共に温度制御装置51により同一の温度に制御されるようになっており、また、圧縮シリンダ40により同一の圧力が掛かるようになっている。したがって、反応セル10に収納された岩石20は、CO2溶解溶液に透水され、反応セル10Aに収納された岩石20Aは蒸留水に透水される。すなわち、COを含む溶液による変化と、COを含まない溶液とを比較することができ、CO2溶解溶液が岩石に与える影響を評価することができる。
【0051】
このように、本発明の岩石からの溶出元素採取装置は、複数の反応セルを具備し、そのうち一方の反応セルには岩石を収納して二酸化炭素を含む溶液を流し、他方の反応セルには岩石を収納して二酸化炭素を含まない溶液を別途流すことで、岩石への二酸化炭素の影響をより詳しく調査することもできる。例えば、CO溶解溶液により溶解しやすい岩石、溶出し易い元素であるか否かをより詳細に判断することができる。この結果、例えば、図3に示した岩石104の近傍のように、岩石20が存在する場所がCO地中貯留に適切か不適切かを評価する判断材料を得ることができる。
【0052】
また、図4に示したように、複数の反応セルを筐体1に取り付け、ひとつの反応セルを透水したCO2溶解溶液を、他の反応セルに再度透水させるように連結してもよい。また、各反応セルに異なる温度を設定してもよい。例えば一つの反応セルを相対的に低温に、他の反応セルを相対的に高温に設定することができる。これにより、地中の多様な温度環境をより柔軟に模擬することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、酸性溶液を岩石に透水させた際の岩石からの元素の溶出を検証する岩石からの溶出元素採取装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態例に係る岩石からの溶出元素採取装置の全体構成図である。
【図2】反応セルの断面図である。
【図3】二酸化炭素が地下に貯留された状態の概略断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態例に係る岩石からの溶出元素採取装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1 筐体
2 支柱
3 台座
4 天板
10,10A 反応セル
20,20A 岩石
21 フィルタ
22 シールテープ
23 スリーブ
24 熱収縮チューブ
25 遮断部材
26 イオン交換水
27 ナット部材
28 ボルト
29 ナット
30 二酸化炭素(CO)溶液タンク
31、33、41、71 配管
32 ピストンシリンダ
34 排水バルブ
40 圧縮シリンダ
50 ヒータ
51 温度制御装置
61 貫通流路
70 シリンジ
72 採取バルブ
73 T字路継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩石が収納される収納容器と、
前記収納容器に収納された岩石に酸性溶液を圧送する透水手段と、
前記収納容器に収納された岩石の温度を実環境に応じた温度に設定する温度制御手段と、
酸性溶液と岩石の反応により溶出する元素を分析するために前記岩石に圧送された酸性溶液を大気に接触させることなく前記収納容器から採取する採取手段とを備えることを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。
【請求項2】
請求項1に記載した岩石からの溶出元素採取装置において、
前記岩石に圧送した酸性溶液を前記収納容器から排出させる排出手段と、
前記収納容器と前記排出手段との間で酸性溶液を大気に接触させることなく採取する採取手段と、
前記岩石に圧送した酸性溶液を前記排出手段又は前記採取手段の何れか一方に選択的に流入させる選択手段とを備えることを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、
前記収納容器に収納された岩石を実環境に応じた圧力で流体を押圧する圧力調節手段を備えたことを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。
【請求項4】
請求項3に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、
前記収納容器には岩石を収容する遮断部材が備えられ、
前記収納容器と前記遮断部材との間に流体が封入され、
前記圧力調整手段は、前記流体を加圧させることで遮断部材を介して岩石を押圧する加圧手段であることを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、
前記透水手段は、前記収納容器に圧送する酸性溶液の組成を実環境の地下水組成に応じて設定することを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の岩石からの溶出元素採取装置において、
前記岩石は二酸化炭素を地中に貯留すると想定された場所で採掘されたものであり、
前記酸性溶液は、二酸化炭素溶解溶液であることを特徴とする岩石からの溶出元素採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−58441(P2009−58441A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227052(P2007−227052)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】