説明

岸壁用橋形クレーン、及びその輸送方法

【課題】マストを倒す機構により全高を下げることができ、且つバックステーを有する岸壁クレーンにおいて、倒したマストを戻す際に、バックステーを短時間で、容易に、且つ安全に再連結できる構造を有する岸壁クレーン、及びこの岸壁クレーンの輸送方法を提供する。また、岸壁クレーンの運搬コストを抑制する。
【解決手段】海上輸送用コンテナを荷役する岸壁用橋形クレーン1において、機械室8の上部にレール構造物10を設置し、レール構造物10は、走行レール11と、走行レール11に沿って移動自在に設置した台車14を有しており、バックステー2が、機械室近傍の切り離し部を境として、上部バックステー2aと下部バックステー2bからなり、上部バックステー2aの下方に台車14を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上輸送用コンテナを荷役する岸壁用橋形クレーン(岸壁クレーン)において、マストを倒すことによりその全高を下げることのできる構造を有した岸壁クレーン、及びこの岸壁クレーンの輸送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾におけるコンテナターミナルでは、岸壁用橋形クレーン(以下、岸壁クレーンという)や門型クレーンによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。図6に岸壁クレーンの一例を示す。
【0003】
岸壁クレーン1Xは、1対の海側脚7aと陸側脚7b、海側脚7a同士を結ぶ海側脚タイビーム7c、陸側脚7b同士を結ぶ陸側タイビーム7dからなる脚部7と、この脚タイビーム7c、7dの下部に懸架しており、且つ水平方向に延伸したガーダ5(陸側)と、ガーダ5にヒンジピンで構成するブームアップ機構24で結合したブーム6(海側)と、海側脚タイビーム7cの上方に立設したマスト3(Aフレームともいう)と、マスト3を支持するマスト支持斜材22を有している。なお、ガーダ5及びブーム6は、1本で構成しているもの、または、2本で構成しているものもある。
【0004】
また、ガーダ5やブーム6を張力により支えるフォアステー30及びバックステー2Xを有している。このフォアステー30及びバックステー2Xは、複数本の長尺の鋼材を、リンク等を介して直列的に接続して構成している。
【0005】
この岸壁クレーン1Xは、例えば、コンテナ船32に搭載したコンテナ35を、トロリ31により荷上げし、トレーラ33に搭載する荷役作業を行う。この岸壁クレーン1Xは、走行装置38により岸壁34に沿って移動しながら荷役作業を行うことができる。
【0006】
また、ブーム6は、コンテナ船32の船橋との干渉を防止するためのブームアップ機構24を有している。これは、コンテナ船32の接岸時に、ブーム6を跳ね上げて(破線で示す)、ブーム6と船橋の干渉を防止する機構である。
【0007】
加えて、ガーダ5の上部には、機械室8を設置しており、機械室8の内部には、トロリ31の制御や荷役を行うためのワイヤドラム等、クレーン1Xに必要な大型機器を設置している。なお、37は水面を示している。
【0008】
ここで、岸壁クレーンは、図6に示したコンテナクレーンの他に、アンローダ、ローダ、及び汎用クレーン等もある。
【0009】
ところで、この岸壁クレーン1Xは、工場等で組立を行い、試験を行った後に、運搬船で運ばれ、港湾等の岸壁に設置される(例えば、特許文献1参照)。この港湾等の入口に橋梁が架かっている場合も多くあり、岸壁クレーン1Xを搭載した運搬船は、その橋梁の下をくぐって、湾内のコンテナターミナルに岸壁クレーン1Xを運搬している。
【0010】
しかし、近年、海上輸送用コンテナの輸送効率の向上を目的として、コンテナ船32の大型化が進んでおり、これに伴い岸壁クレーン1Xの大型化も進んでいる。特に大型のクレーンでは、マスト3の最高部の高さが、地上70〜80mに達しているものもある。そのため、大型の岸壁クレーン1Xを搭載した運搬船が、橋梁の下をくぐることが困難となる事態が発生している。
【0011】
この様に、通過する際に高さ制限のある場所では、水面が下がる干潮時に通過するなど、岸壁クレーンの運搬が困難となり、場合によっては、運搬が不可能となる場所もある。また、スエズ運河の様に、輸送経路上にある橋梁等により、高さ制限が設定されている場所もある。以上のことから、特に大型の岸壁クレーンを、目的地である港湾等に運搬することが非常に困難になっていた。
【0012】
一方で、この問題を解決するための方法がいくつか提案されている。これらの方法のいくつかを以下に説明する。第1の方法は、組立前の岸壁クレーン1Xを、部品単位で運搬し、設置場所である岸壁等で組立てる方法である。この方法により、高さ制限等の問題を解消することができる。しかし、岸壁クレーンを組立てるためのスペースが必要であり、このスペースの占有により、コンテナターミナルにおける荷役を阻害し、荷役効率が低下するという別の問題が発生してしまう。また、現地で行う組立工事が長期化し、これに伴いコストが上昇するという問題も発生してしまう。
【0013】
第2の方法は、岸壁クレーン2Xの上部構造物であるマスト3を倒して(以下、マスト倒しという)、クレーンの全高を下げて運搬する方法である。図7を参照して、このマスト倒しの方法を具体的に説明する。
【0014】
図7に、運搬船36に搭載した岸壁クレーン1Xを示す。このマスト倒しは、まず、クレーンにワイヤウインチ20を設置し、ワイヤ21をマスト3に固定する。ここで、ワイヤウインチ20は、陸側脚タイビーム7d又は、機械室8の近傍に設置する。
【0015】
次に、バックステー2X及びフォアステー30と取外す。なお、中型以下の岸壁クレーンは、バックステー2Xを有していない場合もある。そして、マスト3に設置しているマスト倒し機構4の固定を解除して、マスト3を倒す準備を行う。マスト倒し機構4は、例えば、ピン結合構造やヒンジ等で構成することができる。
【0016】
次に、ワイヤウインチ20からワイヤ21を送りだしながら、マスト3を倒していく。そして、マスト3を任意の高さまで下げた後に、ワイヤウインチ20を停止する。ここで、マスト3は、ワイヤ21により支えられた状態となる。
【0017】
なお、マスト支持斜材22は、ガーダ5側の固定を解除し、マスト3の傾斜と共に、傾斜できるように構成している。また、ブーム6は、フォアステー30を取外した後に、ブームアップ機構24又は、荷役用のワイヤ(図示しない)を利用して下げていく。このブーム6は、荷役用ワイヤで支えた状態でもよいし、運搬船36に適当な構造物等があれば、そこへ乗せて、支えるようにしてもよい。
【0018】
以上の手順でマスト倒しを行い、橋梁等の下を通過した後、上記の逆の手順で、マスト3を起こす作業を行う。このような方法により、大型の岸壁クレーン1Xであっても、高さ制限のある場所の下をくぐらせて、運搬することができる。
【0019】
また、この第2の方法(マスト倒し)により、第1の方法にあったコンテナターミナルのスペース占有や、組立工事の長期化によるコストアップの問題点を解決することができる。そのため、現在は、この第2の方法が多く採用されている。
【0020】
しかしながら、上記の第2の方法は、バックステー2Xを再連結する作業が非常に困難であるという問題を有している。つまり、図7に示す様に、特に大型岸壁クレーンのバックステー2Xを取外すと、ガーダ5に、ガーダ5の自重及び機械室8の重量がかかり、たわみが生じる。そして、ガーダ端部(図7左端)とマスト3の距離が、バックステー2X
の長さよりも長くなり、バックステー2Xを再連結することができなくなる。なお、このたわみにより、ガーダ5の端部(図7左端)は10〜20cm程度下がる。
【0021】
そのため、バックステー2Xを再連結する際には、ガーダ端部(図7左端)を、クレーン船(起重機船)等に搭載した大型クレーンや、大型トラッククレーン等で吊上げて支える作業が必要となる。この作業により、前述の第1の方法ほどではないにせよ、作業時間及びコストが増加してしまう。
【0022】
また、バックステー2Xを取外す際に、上部バックステーと下部バックステーに2分割した場合には、再連結するとき、この上部バックステーと下部バックステーの端部は、3次元で位置合わせをする必要があり、この連結作業が非常に困難となる。
【0023】
更に、このバックステー2Xの連結作業は、地上50〜80mほどの高所で、且つ足場
の不安定なガーダ5の上部で行う必要があるため、危険な作業となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平10−36076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、マストを倒す機構により全高を下げることができ、且つバックステーを有する岸壁クレーンにおいて、倒したマストを戻す際に、バックステーを短時間で、容易に、且つ安全に再連結できる構造を有する岸壁クレーン、及びこの岸壁クレーンの輸送方法を提供することにある。また、岸壁クレーンの運搬コストを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁用橋形クレーンは、海上輸送用コンテナを荷役する岸壁用橋形クレーンにおいて、1対の海側脚の上端を結ぶ海側脚タイビーム及び1対の陸側脚の上端を結ぶ陸側脚タイビームを有する脚部と、前記海側脚タイビーム及び前記陸側脚タイビームで懸吊し、且つ水平方向に延伸したガーダと、前記ガーダ上に設置した機械室と、前記海側脚タイビームの上端に立設したマストと、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すためのマスト倒し機構と、前記マストと前記ガーダを連結したバックステーを有する岸壁用橋形クレーンであって、前記機械室の上部にレール構造物を設置し、前記レール構造物は、走行レールと、前記走行レールに沿って移動自在に設置した台車を有しており、前記バックステーが、前記機械室近傍の切り離し部を境として、上部バックステーと下部バックステーからなり、上部バックステーの下方に前記台車を接続したことを特徴とする。
【0027】
この構成により、倒したマストを戻す際には、上部バックステーに固定した台車を、レール構造物の走行レールに沿って、下部バックステー側に移動させればよいため、1方向の力のみで、上部バックステーと下部バックステーを再度、連結することが可能となる。つまり、従来必要であった3次元での位置合わせが不要となる。そのため、上部バックステーと下部バックステーの連結を、短時間で、容易に行うことができる。
【0028】
また、ガーダ端部を支持する作業等を行う大型重機(トラッククレーンやクレーン船等)が不要となり、コストを抑制することができる。また、上部バックステーと下部バックステーの再連結を、機械室の上部のスペースで行うことができるため、再連結の作業の安全性が向上し、作業時間を短縮することができる。
【0029】
上記の岸壁用橋形クレーンにおいて、前記下部バックステーの上方を、前記レール構造物、又は前記機械室に固定したことを特徴とする。
【0030】
この構成により、下部バックステーの上方は、固定したレール構造物、又は機械室と一体で変形する(たわむ)。そして、上部バックステーの下方が、レール構造物に沿って移動するため、レール構造物の後端では、上部バックステーと下部バックステーの相対位置を一定に保つことが可能となる。このガイド効果により、上部バックステーと下部バックステーの再連結が容易となる。
【0031】
上記の岸壁用橋形クレーンにおいて、前記上部バックステーが、少なくとも1つのリンク機構を介して連結して、構成していることを特徴とする。
【0032】
この構成により、マストを倒す作業を行う際に、上部バックステーの下方に設置した台車を、上部バックステーの自重により水平方向に移動させることができる。そのため、台車を移動する作業と、マストを倒す作業を別々に行うことが可能となり、このマストを倒す作業の安全性を向上することができる。同様に、マストを立てる作業においても、安全性を向上することができる。
【0033】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁用橋形クレーンの輸送方法は、上記の岸壁用橋形クレーンの輸送方法において、運搬船に搭載した前記岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所を通過する際に、前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させながら、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すことを特徴とする。
【0034】
この構成により、岸壁クレーンのマストを立てる作業の際に、バックステーを短時間で、容易に、且つ安全に再連結することができる。そのため、岸壁クレーンの輸送コストを抑制することができる。
【0035】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁用橋形クレーンの輸送方法は、上記の岸壁用橋形クレーンの輸送方法において、運搬船に搭載した前記岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所を通過する際に、少なくとも1つのリンク機構を介して連結している前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させた後に、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すことを特徴とする。
【0036】
この構成により、マストを倒す作業、及びマストを立てる作業の際に、上部バックステーに設置した台車が、マストとは異なるタイミングで動作するため、同時に動作する部材を減らすことができる。これにより、作業の安全性を向上することができる。そのため、岸壁クレーンの輸送コストを抑制することができる。
【0037】
上記の岸壁用橋形クレーンの輸送方法において、前記運搬船に搭載した前記岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所の通過を完了した際、前記マストを起こし、前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させた後に、前記上部バックステーと前記下部バックステーを連結することを特徴とする。
【0038】
この構成により、上部バックステーと下部バックステーの連結を短時間で、容易に、且つ安全に行うことができる。また、マストを立てる作業に、大型重機が不要となるため、岸壁クレーンの運搬コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る岸壁用橋形クレーン、及びその輸送方法によれば、運搬船に搭載した岸壁クレーンが、高さ制限のある橋梁等の下を通過する際には、マストを倒し、クレーンの全高を低くして通過することができ、通過後にマストを戻した際には、マストとガーダの端部同士を連結するバックステーの再連結を、短時間で、容易に、且つ安全に行うことができる。また、岸壁クレーンの運搬コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンを示した側面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンをAの方向から見た背面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの機械室周辺の拡大図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの台車及び走行レールの正面図である。
【図5】本発明に係る異なる実施の形態の岸壁クレーンを示した側面図である。
【図6】従来の岸壁クレーンの荷役の様子を示した側面図である。
【図7】従来の岸壁クレーンを運搬船に搭載した際の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの構造、及びこの岸壁クレーンの輸送方法について、図面を参照しながら説明する。
【0042】
図1に、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーン1の側面図を示す。この岸壁クレーン1は、機械室8の上部にレール構造物10を設置している。このレール構造物10は、走行レール11と、走行レール11に沿って移動自在に設置した台車14を有している。
【0043】
また、バックステー2は、機械室8近傍の切り離し部を境として、上部バックステー2aと下部バックステー2bで構成している。この上部バックステー2aの下方又は下端に台車14を接続している。また、下部バックステー2bの上方又は上端を走行レール11の端部に固定している。この固定は、溶接やボルト止め等で行うことができる。また、下部バックステー2bを走行レール11の代わりに、機械室8に固定してもよい。
【0044】
更に、上部バックステー2aと接続した台車14が、この走行レール11に沿って走行できるように構成している。なお、走行レール11において、下部バックステー2bを固定している端部の反対側には、上部バックステー2aを固定するための固定部12を設置している。また、走行レール11は、機械室8の上部からマスト3の方向に伸びるように設置すればよい。望ましくは、ガーダ5に対して平行となるように設置する。
【0045】
図2に、岸壁クレーン1を、図1のAの方向から見た際の背面図を示す。図2Sは、ガーダ5及びブーム6を1本で構成している岸壁クレーン1を示している。ガーダ5は、海側脚タイビーム7c及び陸側脚タイビーム7dで懸吊している。ブーム6は、ガーダ5にヒンジピンで構成するブームアップ機構24を介して結合している。このガーダ5の上には、機械室8を設置している。同様に、図2Tは、ガーダ5及びブーム6を2本で構成している岸壁クレーン1を示している。
【0046】
次に、図1及び2を参照しながら、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーン1において、マスト3を倒す方法の手順を説明する。まず、準備作業として、図1に示す様に、機械室8の近傍にレール構造物10とワイヤウインチ20を設置する。このワイヤウインチ20のワイヤ21を、マスト3の端部近傍に接続する。
【0047】
次に、マスト支持斜材22の下端を、ガーダ5から外して、台車等の走行装置と接続する。また、この走行装置が、マスト3の方向に走行するためのレール等をガーダ5上に配
設してもよい。
【0048】
次に、上部バックステー2aと下部バックステー2bを連結しているピンを抜いて、連結を解除する。このとき、バックステー2には張力が作用している。そのため、ターンバックル(固縛装置)等で、上部バックステー2aと下部バックステー2bを引き寄せ、ピンに作用している張力を解放する必要がある。
【0049】
そして、ワイヤウインチ20を作動させ、ワイヤ21を送り出す。このワイヤ21の送り出しに伴い、マスト3は、ブーム6側(図1右方)に倒れていく。このマスト3の傾動にあわせて、マスト支持斜材22及び上部バックステー2aに設置した台車等の走行装置は、上部バックステー2a等の重量を支えながらブーム6側に移動していく。
【0050】
次に、バックステー2aに設置した台車14が、走行レール11の端部の固定部12に到達した時点で、ワイヤウインチ20の動作を停止し、上部バックステー2aを固定部12にボルト等で固定する。
【0051】
以上で、マスト倒しの作業が完了する。なお、マストを立てる場合は、上記の逆の手順で作業を行う。
【0052】
図3に、岸壁クレーン1の機械室8周辺の拡大図を示す。レール構造物10は、機械室8の上部にかかるように設置しており、走行レール11、固定部12及び台車14を有している。また、走行レール11の端部には、台車14を止めるためのストッパー13を有している。更に、機械室8の上部には手すり23を設置しており、作業員が、この機械室8の上部でバックステー2a、2bの連結、及び連結解除作業を安全に行えるように構成している。また、図4に、台車14及び走行レール11の正面図を示している。なお、17は、台車14の走行輪を示している。
【0053】
次に、図3及び4を参照しながら、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーン1において、マスト3を立てる方法の手順を説明する。まず、固定部12から、固定している上部バックステー2aの端部を外す。
【0054】
次に、ワイヤウインチ20を作動させ、ワイヤ21を巻き取る。このワイヤ21の巻き取りにあわせて、上部バックステー2aに設置した台車14は、下部バックステー2bの方向(白抜き矢印で示す方向)に移動していく。
【0055】
この上部バックステー2aの端部と、下部バックステー2bの端部が接近したところで、ターンバックルやハンドウインチ等の固縛装置16を上部バックステー2a及び下部バックステー2bに設置する。その後、固縛装置16を締めていき、上部バックステー2aと下部バックステー2bをピン結合構造又はリンク等で連結する。
【0056】
最後に、下部バックステー2bを、走行レール11又は機械室8から外し、バックステー2に張力がかかる状態にする。また、フォアステー30は、マスト3の端部と、ブームアップした状態のブーム6の端部に連結する。その後、ブーム6を下げると、フォアステー3に張力がかかる状態となる。以上で、マスト3を立てる作業が完了する。
【0057】
なお、走行レール11、固定部12、台車14からなるレール構造物10、及びウインチ20、手すり23、固縛装置16は、マスト倒しの作業及びマストを立てる作業にのみ必要となる部材であるため、マストを立てた後で、今後使用する必要がない場合には取り除いてもよい。
【0058】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、上部バックステー2aと下部バックステー2bの再連結を、短時間で、容易に、且つ安全に行うことが可能となる。つまり、台車14の移動は、走行レール11に沿うため、例えば、走行レール11に固定した下部バックステー2bと、台車14に接続した上部バックステー2aの位置合わせは、1次元での位置合わせとなる。そして、直線上(走行レール11上)で2つのバックステーの端部の位置を合わせればよいため、バックステーの再連結が極めて容易となる。
【0059】
第2に、上部バックステー2aと下部バックステー2bの連結を行う作業員は、機械室8の屋上(9m×15m程度)で作業をすることができるので、安全性を確保しやすい。
【0060】
第3に、下部バックステー2bを、機械室8又はレール構造物10に固定するため、下部バックステーの上方は、固定したレール構造物、又は機械室と一体で変形する(たわむ)。そして、上部バックステーの下方が、レール構造物に沿って移動するため、レール構造物の後端では、上部バックステーと下部バックステーの相対位置を一定に保つことが可能となる。このガイド効果により、上部バックステーと下部バックステーの再連結が容易となる。
【0061】
なお、図4において、台車14が、溝状の走行レール11内を走行するように構成したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。上部バックステー2aに固定した台車14の移動軌跡を、直線上に拘束する構成であればよい。例えば、台車14が、走行レールからぶら下がった状態で、移動するように構成しても良い。
【0062】
また、台車14に直接ワイヤ等を接続して、牽引し、台車14の移動を直接的に制御する構成としてもよい。この構成により、短時間で確実な台車14の移動を実現することができる。また、台車14に駆動装置を搭載して、自走式としてもよい。
【0063】
図5に、本発明に係る異なる実施の形態の岸壁クレーン1Aを示す。この岸壁クレーン1Aは、少なくとも1つのリンク機構を備えた上部バックステー2aを有している。
【0064】
このリンク機構により、上部バックステー2aは、下部バックステー2bとの連結を解除すると、自重で下がり始める(白抜き矢印の方向)。この上部バックステー2aの降下に伴い、上部バックステー2aの下端に設置した台車14は、水平方向に移動を開始し、固定部12まで移動する。この上部バックステー2aを、固定部12に固定した後に、ワイヤウインチ20を作動させて、マスト3を倒す作業を行う。なお、マスト3を立てる作業は、この逆の手順であり、まず、マスト3を立てた後に、台車14を下部バックステー2bまで、別途準備したワイヤや駆動装置等を利用して移動させる。
【0065】
この構成により、例えば、マスト3を倒す作業において、まず、上部バックステー2aの移動作業を完了させる。そして、作業員がワイヤウインチ20を操作する際には、マスト3の傾動と、マスト支持斜材22のみが移動するため、安全の確保がしやすくなる。また、この作業において、注意すべき場所が少なくなるほど、作業に必要となる作業員の数を減らすことができる。なお、マスト3は、10〜25m程度の長さである
【符号の説明】
【0066】
1、1A 岸壁用橋形クレーン(岸壁クレーン)
2 バックステー
2a 上部バックステー
2b 下部バックステー
3 マスト
4 マスト倒し機構
5 ガーダ
8 機械室
10 レール構造物
11 走行レール
14 台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上輸送用コンテナを荷役する岸壁用橋形クレーンにおいて、1対の海側脚の上端を結ぶ海側脚タイビーム及び1対の陸側脚の上端を結ぶ陸側脚タイビームを有する脚部と、前記海側脚タイビーム及び前記陸側脚タイビームで懸吊し、且つ水平方向に延伸したガーダと、前記ガーダ上に設置した機械室と、前記海側脚タイビームの上端に立設したマストと、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すためのマスト倒し機構と、前記マストと前記ガーダを連結したバックステーを有する岸壁用橋形クレーンであって、
前記機械室の上部にレール構造物を設置し、前記レール構造物は、走行レールと、前記走行レールに沿って移動自在に設置した台車を有しており、
前記バックステーが、前記機械室近傍の切り離し部を境として、上部バックステーと下部バックステーからなり、上部バックステーの下方に前記台車を接続したことを特徴とする岸壁用橋形クレーン。
【請求項2】
前記下部バックステーの上方を、前記レール構造物、又は前記機械室に固定したことを特徴とする請求項1に記載の岸壁用橋形クレーン。
【請求項3】
前記上部バックステーが、少なくとも1つのリンク機構を介して連結して、構成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の岸壁用橋形クレーン。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の岸壁用橋形クレーンの輸送方法において、運搬船に搭載した前記岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所を通過する際に、
前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させながら、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すことを特徴とする輸送方法。
【請求項5】
請求項3に記載の岸壁用橋形クレーンの輸送方法において、運搬船に搭載した前期岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所を通過する際に、
少なくとも1つのリンク機構を介して連結している前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させた後に、前記マストを前記ガーダと反対方向に倒すことを特徴とする輸送方法。
【請求項6】
前記運搬船に搭載した前記岸壁用橋形クレーンが高さ制限のある場所の通過を完了した際、前記マストを起こし、前記上部バックステーに設置した台車を、前記走行レールに沿って走行させた後に、前記上部バックステーと前記下部バックステーを連結することを特徴とする請求項4又は5に記載の輸送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−68441(P2011−68441A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219646(P2009−219646)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)