説明

嵌合具

【課題】雄条と雌条からなる嵌合部を備えた嵌合具において、嵌合時および加工時の滑り性を向上すること。
【解決手段】雄条と雌条とを有する互いに嵌合可能な一対の嵌合具において、密度940〜965kg/mの高密度ポリエチレン35〜75質量%と、密度910〜930kg/m、スウェル比が1.7〜1.9の高圧法低密度ポリエチレン25〜65質量%からなる樹脂組成物より形成されていることを特徴とする嵌合具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂製の嵌合具に関し、特に、開封後に再密封が必要な食品、薬品、雑貨等の分野の包装用袋体に利用可能な嵌合具に関する。
【背景技術】
【0002】
包装用袋体の開封部にテープ状基部と雄条および雌条の嵌合部からなる一対の嵌合具を溶着して設けることにより、開閉自在とした袋体が食品、医薬品、雑貨等の多くの分野で使用されている。
【0003】
従来、上記嵌合具においては、開閉操作が容易となるよう、雄条と雌条とが擦れ合う際の摩擦を低減するために、脂肪酸アミド類の滑剤を樹脂に添加して製造されていた。当該滑剤は樹脂との相容性が劣るため、嵌合具の表面にブリードアウトし、嵌合具の雄条および雌条の表面の滑りを良くして、開閉操作をスムーズにしている。
【0004】
しかし、食品、医薬品等の分野で使用される場合、これらの滑剤がブリードアウトして食品や医薬品に対して異物として混入する虞があるため、極力この滑剤を少なくして製造されていたが、嵌合性に問題がある上、包装用袋体への取り付け加工の際に嵌合具同士または加工治具への貼り付き等によって生産効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するため、たとえば雄条および雌条を特定のランダムポリプロピレンを主成分とする組成物を用いて押出成形し、ランダムポリプロピレン中の低分子量成分を抑えることで滑剤の使用量を低減することが提案されている(特許文献1)。また、テープ状基部の嵌合具側の表面層を高融点の樹脂からなる樹脂組成とした嵌合具が提案されている。
【0006】
しかし、特定のランダムポリプロピレンを主成分とする組成物を用いたり、テープ状基部を高融点の樹脂からなる樹脂組成としたりすることによって、滑剤の使用量を低減したとしても、滑剤の袋体の内容物への混入を防止することはできないし、滑剤フリーで嵌合具の雄条と雌条とが擦れ合う際の摩擦を低減することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2004/024582号公報
【特許文献2】特開2005−82164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、雄条と雌条からなる嵌合部を備えた嵌合具において、嵌合時および加工時の滑り性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1発明に係る嵌合具は、雄条と雌条とを有する互いに嵌合可能な一対の嵌合具において、密度940〜965kg/mの高密度ポリエチレン35〜75質量%と、密度910〜930kg/m、スウェル比が1.7〜1.9の高圧法低密度ポリエチレン25〜65質量%からなる樹脂組成物より形成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2発明に係る嵌合具は、袋本体への前記融着部となる第1層と、この第1層に積層された第2層からなる2層構造のテープ状基部を有し、前記第2層が前記嵌合部と同じ樹脂組成物で構成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の第3発明に係る嵌合具は、袋本体への前記融着部となる第1層は、前記第2層より袋本体への低温融着性に優れた樹脂で構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、テープ状基部と雄条および雌条の嵌合部を備えた嵌合具において、嵌合時の滑りを向上させるため、高密度ポリエチレンと特殊な低密度ポリエチレンを選定し、滑剤フリーの樹脂組成物を用いることにより、良好な滑り性を備えた嵌合具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態である嵌合具の断面図である。
【図2】図2は本発明の第2の実施形態である嵌合具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の嵌合具について図面を参照して詳細に説明する。図1に本発明の第1の実施形態である嵌合具の断面の構造の一例を示す。
本発明の嵌合具11は、一対のテープ状基部14の一方の内側に雄条12が設けられ、他方の内側に雌条13が設けられ、該雄条12と該雌条13とが嵌合する嵌合具である。
前記嵌合具11は、雄条12および雌条13と一対のテープ状基部14を含む嵌合具11全体を、密度940〜965kg/mの高密度ポリエチレン35〜75質量%と、密度910〜930kg/m、スウェル比が1.7〜1.9の高圧法低密度ポリエチレン25〜65質量%からなる樹脂組成物で形成されている。
【0015】
前記高圧法低密度ポリエチレンは、スウェル比(SR比)が1.7〜1.9である必要がある。スウェル比が1.7未満であると、嵌合部の微細な凹凸が少なくなり滑性が小さくなり嵌合具としての機能を損なう。このスウェル比が、1.9を超えると表面の粗面化は良好なものの、樹脂が膨らむ力に負けてしまい膜切れ等が発生しやすくなり、成形性が損なわれるので好ましくない。
【0016】
また、高圧法低密度ポリエチレンは、密度が910〜930kg/mであれば、硬すぎず、割れの発生がない。
【0017】
嵌合具の前記高密度ポリエチレンの配合量が35質量%未満であると、滑り性が不足し、雄条および雌条の嵌合部を嵌合する際に大きな抵抗を必要とするばかりか、場合によっては嵌合が不可能な事もあり、無理に嵌合させたりすると嵌合部の変形等を生ずる。また、70質量%を超えると、相対的に低密度ポリエチレンの配合量が少なくなるので嵌合具の剛性が大きくなり、嵌合部の割れが発生する可能性がある。また、袋本体と熱融着する際の融着温度が高くなり、嵌合具を熱融着する袋本体のラミネートフィルム(例えばナイロン/LLDPE)等へのしわの発生が生じるため好ましくない。
【0018】
次に、図2に本発明の第2の実施形態である嵌合具の断面の構造の一例を示す。本発明の嵌合具21は、一対のテープ状基部24の一方の内側に雄条22が設けられ、他方の内側に雌条23が設けられ、該雄条22と該雌条23とが嵌合する嵌合具である。そしてさらに該嵌合具の該テープ状基部24には、該雄条または雌条の設けられていない側の表面に融着層25を設けてなる。
【0019】
該嵌合具21の互いに嵌合する前記雄条および雌条ならびにテープ状基部からなる嵌合具本体には、第1の実施形態で記載した樹脂組成物を用いるとよい。
【0020】
一方、前記融着層を構成する樹脂は、嵌合具本体と該嵌合具を融着する袋体との接着性のよいものを選択する。雄条および雌条を構成する高密度ポリエチレン樹脂よりも融点が低い樹脂がよく、特に嵌合具付き袋体を高温にさらす必要のない場合、融点が100℃以下の低温融着性に優れた樹脂であるとよい。融点が100℃以下であれば、低温シール性が良好で、嵌合具本体や袋の変形が抑えられるので好ましい。また、嵌合具付き袋体がレトルト処理などの高温にさらされるものである場合、融点が115℃以上あれば好ましい。融点が115℃以上であれば耐熱性が良好であり、レトルト処理によっても変形しない。融着層を構成する樹脂としては、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体、アイオノマーなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いても2種以上配合されても良い。特に密度850kg/m〜920kg/m、メルトフローレート0.5g/10分〜15g/10分のエチレン・αオレフィン共重合体を用いるのがよく、メタロセン系触媒によって製造されたものがさらに好ましい。また、上記エチレン・αオレフィン共重合体を用いる場合、前記融着層は、該エチレン・αオレフィン共重合体を100質量%〜20質量%含有する樹脂組成物からなることが好ましい。
【0021】
図2に示した嵌合具21においては、融着層25がテープ状基部24の雄条22または雌条23の設けられていない側の表面全面に設けられているが、必ずしも全面である必要はなく、袋体に熱圧着する部分のみに設けてもよい。たとえば嵌合具21のテープ状基部24の幅方向両端に近い表面部分において、融着層25を嵌合具21の長手方向に沿って設ければ、嵌合具21を袋体に熱圧着する際、互いに嵌合する雄条22および雌条23付近を加熱する必要がないため、雄条22および雌条23を変形させないですむ。
【0022】
本発明の嵌合具は、嵌合具本体の動摩擦係数が、0.60以下、好ましくは0.58以下であることが好ましい。嵌合具本体の動摩擦係数が0.60以下であれば、嵌合の際に十分な滑り性を発揮することが可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
下記の実施例、および比較例において、嵌合具の形成に用いた樹脂を以下に示す。
【0024】
〔高密度ポリエチレン〕
HDPE−1:「ハイゼックス2100J」(プライムポリマー製)、密度953kg/m、メルトフローレート(MFR)5.8g/10min、融点131℃
HDPE−2:「クレオレックスK4750」(旭化成ケミカルズ製、メタロセン系高密度ポリエチレン)、密度947kg/m、MFR5.0、融点129℃
〔高圧法低密度ポリエチレン〕
LDPE−1:「スミカセンL705」(住友化学製)、密度919kg/m、MFR7.0g/10min、スウェル比1.72、融点107℃
LDPE−2:「スミカセンL405」(住友化学製)、密度924kg/m、MFR3.7g/10min、スウェル比1.85、融点112℃
LDPE−3:「スミカセンF411−0」(住友化学製)、密度924kg/m、MFR5.0g/10min、スウェル比1.44、融点110℃
〔直鎖状低密度ポリエチレン〕
LLDPE:「ウルトゼックス20100J」(プライムポリマー製)、密度:917kg/m、MFR8.5g/10min、融点120℃
【0025】
下記の実施例、および比較例において、評価した試験方法を以下に示す。
〔動摩擦係数〕
動摩擦係数は、実施例、比較例の嵌合具本体の樹脂組成物を口径40mm、L/D25の押出し機を用いて、リップクリアランス1.0mmのフラットダイを使用し、溶融押出成形後、冷却水槽に導き、冷却固化させ約150μmのシート状成形物を得た後、JIS K7125に準じて、シート対シートの動摩擦係数を測定した。
なお、本シートの成形に当たっては、異型ダイをフラットダイとした以外は、溶融温度、成形速度、冷却温度、ダイス材質等、嵌合具の成形と同様の条件で成形した。
【0026】
〔成形時の嵌合安定性〕
雄条および雌条の嵌合部の滑り性を嵌合の開閉の官能評価、また、成形時の嵌合安定性にて評価した。
◎:大きな抵抗が無く嵌合可能である。安定して生産可能である。
○:若干の抵抗はあるものの嵌合可能。調整を必要とするが成形可能。
×:抵抗大きく嵌合が不可。嵌合部の変形等を生ずる。
【0027】
〔柔軟性〕
実施例および比較例で製造された嵌合具を袋体に溶着加工し、LLDPE「ウルトゼックス20100J」を用い、実施例6と同様に製造した嵌合具(LLDPE嵌合具)を袋体に溶着加工したものと比較し、柔軟性を評価した。
◎:適度な柔軟性を有しLLDPE嵌合具と大きな差異は感じない。
○:若干の剛性は感じるが、実用上問題は無い。
×:LLDPE製嵌合具と比較し剛性が大きく包装用袋体として不向きである。
【0028】
〔実施例1〕
嵌合具本体として、高密度ポリエチレン「ハイゼックス2100J」70質量%と、スウェル比が1.72の高圧法低密度ポリエチレン「スミカセンL705」30質量%からなる樹脂組成物を用意し、融着層として、直鎖状低密度ポリエチレン「ウルトゼックス3550R」を用意した。
前記樹脂組成物を口径40mm、L/D25の押出し機を用いて、嵌合具を、また、直鎖状低密度ポリエチレンを口径30mm、L/D25の押出し機を用いて融着層を形成するように、複合異形ダイに導き、共押出し形成後、冷却水槽に導いて冷却固化させてから巻取機にて巻き取り、嵌合具を得た。表1に評価を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実施例2〜5〕
表1に示す樹脂組成物を用意して用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合異形ダイに導き、共押出成形後、冷却水槽に導いて冷却固化させてから巻取機にて巻き取り、嵌合具を得た。表1に評価を示す。
【0031】
〔比較例1〜7〕
表1に示す樹脂組成物を用意して用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合異形ダイに導き、共押出成形後、冷却水槽に導いて冷却固化させてから巻取機にて巻き取り、嵌合具を得た。表2に評価を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
〔実施例6〕
嵌合具の樹脂として、高密度ポリエチレン「クレオレックス3550R」50質量%と、スウェル比が1.85の高圧法低密度ポリエチレン「スミカセンL405」50質量%からなる樹脂組成物を用意し、口径40mm、L/D25の押出し機を用いて、テープ状基部と雄条および雌条の嵌合部からなる一対のオレフィン系樹脂製嵌合具を押出成形後、冷却水槽に導いて冷却固化させてから巻取機にて巻き取り、嵌合具を得た。表1に評価を示す。
【0034】
上記した実施例は、動摩擦係数、成形時の嵌合安定性および柔軟性の全てが良好であるが、高密度ポリエチレンが過剰な比較例1は、柔軟性に欠点があり、高密度ポリエチレンが少ない比較例2、高密度ポリエチレンを全く配合しない比較例3および4は、動摩擦係数、嵌合安定性に欠点がある。また、スウェル比が小さい低密度ポリエチレンを用いた比較例5も、動摩擦係数、嵌合安定性に欠点がある。高密度ポリエチレンの単独使用の比較例6は、柔軟性に問題があり、高圧法低密度ポリエチレンの単独使用の比較例7は、動摩擦係数、嵌合安定性に欠点がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の嵌合具は、滑剤フリーであること、また、滑剤を含有しないにも係わらず、柔軟性を保ちながら、嵌合時の滑り性が良いため、医療用や食品用途に極めて有用である。
【符号の説明】
【0036】
11,21 嵌合具
12,22 雄条
13,23 雌条
14,24 テープ状基部
25 融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状基部に雄条を有する第1の嵌合具とテープ状基部に該雄条と嵌合可能な雌条を有する第2の嵌合具からなる一対の嵌合具において、
密度940〜965kg/mの高密度ポリエチレン35〜75質量%と、密度910〜930kg/m、スウェル比が1.7〜1.9の高圧法低密度ポリエチレン25〜65質量%からなる樹脂組成物より形成されていることを特徴とする嵌合具。
【請求項2】
前記テープ状基部の雄条または雌条の設けられていない側の表面に、融着層を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の嵌合具。
【請求項3】
前記融着層が、前記第2層より袋本体への低温融着性に優れた樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の嵌合具。


【図1】
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【図2】
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