説明

工作機械の旋削機構

【課題】 通常のマシニングセンタの加工(エンドミル、フェースミル加工、ボーリング加工、タップ加工等)の他に、旋削加工が出来る工作機械の旋削機構を提供する。
【解決手段】 加工物を固定するための固定装置と、加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、を有することを特徴とする工作機械の旋削機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の旋削機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマシニングセンタの加工は、エンドミル、フェースミル加工、ボーリング加工、タップ加工等による加工が知られている。
【0003】
特許文献1には、主軸12に保持されたワークWの外周面と対向する位置に、第1刃物台16をX、Y方向に移動可能に配置し、主軸12の回転に従って第1及び第2刃物がワーク加工動作を行う構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−105820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、通常のマシニングセンタの加工(エンドミル、フェースミル加工、ボーリング加工、タップ加工等)の他に、内外径の旋削加工、すなわち外径削りや内径削り(ボーリング)が出来る工作機械の旋削機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決手段を例示すると、以下のとおりである。
【0007】
(1) 加工物を固定するための固定装置と、
加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、
旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、
加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、
を有することを特徴とする工作機械の旋削機構。
【0008】
(2) 旋削加工用ツールの刃物が、常に円弧の中心に向いている、先述の工作機械の旋削機構。
【0009】
(3) 旋削加工用ツールの刃物が、常に円弧の中心と反対方向に向いている、先述の工作機械の旋削機構。
【0010】
(4) 歯車駆動の場合、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設け、スピンドルを円弧補間しながら送りを与えて外径旋削、内径旋削、ネジ切りのうちの少なくとも1つを行う、先述の工作機械の旋削機構。
【0011】
特に、歯車駆動の場合、スピンドルモーターのエンコーダーとスピンドル1回転を演算処理して、バイトツールホルダーでスピンドルを円弧補間しながら送りを与えて外径・内径旋削、ネジ切り等が加工出来るようにするのが好ましい。
【0012】
具体的には、旋削加工用ツールの刃物が、常に円弧の中心に向いている外径旋削加工と、刃物が反対方向に向いている内径旋削加工とが出来る、工作機械の旋削機構であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の工作機械の旋削機構の一例を示す概略部分側面図。
【図2】ネジ切りを行う場合の一例を示す。
【図3】ネジ切りを行う場合を示す概念図。
【図4】テーパ部のネジ切りを行う場合の工作物の一例を示す。
【図5】本発明の工作機械の旋削機構の他の例を示す概略部分側面図。
【図6】本発明の工作機械の旋削機構の更に他の例を示す概略部分側面図。
【図7】スピンドルを円弧補間で制御する構成を示す概念図。
【図8】本発明の工作機械の旋削機構の更に他の例を示す概略部分側面図。
【図9】本発明の工作機械の旋削機構の更に他の例を示す概略部分側面図。
【図10】図9の加工穴の形成に用いられる溝切り刃を設けた旋削加工用ツールの一例を示す。
【図11】スピンドルの駆動がスピンドルモーターからギヤを経て行われる場合の一例を示す。
【実施例】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0015】
図1は、本発明の工作機械の旋削機構の一例を示す概略部分側面図である。
【0016】
本発明の工作機械の旋削機構10は、加工物Wを固定するための固定装置12を有する。図1において、加工物Wの軸心C1は、固定装置12に横方向(水平方向)に向いている。加工物Wには、テーパ部WaとネジWbが設けられている。
【0017】
本発明の工作機械の旋削機構10は、更に、旋削加工用ツール(切削用刃物ともいう)14を取付けるためのスピンドル16を有する。
【0018】
スピンドル16は、固定装置12と横方向に間隔を空けてスピンドル台18に配置されている。図1において、スピンドル16の軸心C2は、横方向(水平方向)に向いている。
【0019】
スピンドル台18には、駆動装置20が接続されている。駆動装置20は、所定のプログラムに基づいて動くコンピュータ22に接続されている。駆動装置20は、加工物Wに対してスピンドル16を円弧補間により駆動可能である。
【0020】
図中右側には、スピンドル16の円弧運動(円運動ともいう)24を概念的に示している。スピンドル16の円弧運動24により、旋削加工用ツール14は、X、Y方向の円弧補間(円弧加工)により旋削加工できる。
【0021】
加工物Wを加工するときは、例えば図中に示されたX方向とY方向において、加工物Wの軸心C1を円中心として、この円中心の周りでスピンドル16を円弧運動させる。旋削加工用ツール14の刃物の向きが常に中心に向くように、旋削加工用ツール14をスピンドル16の軸心C2を中心に回転させる。図中の矢印A及びBの方向にスピンドル16を適宜移動させる。スピンドル16を加工物Wの外周で円弧運動させて、加工物Wを旋削加工用ツール14の切刃で切削加工する。加工物WのネジWbは、旋削加工用ツール14をネジ切り用刃物に交換してネジ切りで切削加工することにより形成する。加工物Wのテーパ部Waは、切削工具(刃具)で切削加工することにより形成する。
【0022】
図2は、ネジ切りの場合において加工された加工物の例を示す。図2においては、固定された加工物W1のテーパW1bにネジ部W1aが形成される。旋削用ツールホルダー34の先端の外周にはネジ切りチップ34aが設けられている。
【0023】
旋削用ツールホルダー34が加工物W1の中心から半径Rxで円弧運動を行ないながらネジW1aを加工形成する。図3に示すようにチップ34aの向きは常に加工物Wの中心Ccに向きあいながらRx円弧運動をしてネジを切る。
【0024】
図4は、チップ(切刃)を設けた切削工具(刃具)の一例を示す。加工物W2のテーパ部のネジ切りは、チップ(切刃)44aを設けた切削工具(刃具)44(旋削加工用ツールの更に別の例)で行われる。切削工具(刃具)44が図中の矢印Y及びZの方向に適宜移動しながら円弧運動して、主軸ヘッドを円弧補間で1周させて円弧径をテーパ度に応じて拡大し、更にネジのピッチの送りを与えることにより、テーパ部にネジを切ることができる。
【0025】
図5は、本発明の工作機械の切削機構を立型にした場合の例を示す部分概略図である。立型の場合は、テーブルに加工物W3を置く。旋削加工用ツール54の先端に設けた切刃(チップ)54aにより、加工物W3の外周加工が行われる。図示しないが、横型の場合は、図5の構成を90°起こした形になる。
【0026】
図6は、ツール64の先端に設けた溝切り刃64aにより、加工物W4の溝が形成される。
【0027】
図7は、スピンドルを円弧補間で制御する構成を示す概念図である。ツール74に設けられた刃物74aは、常に加工物W5の中心に向く。図7に示された例においては、ツール74が加工物W5の軸心を中心として右回りに円弧運動しつつ、ツール74自体がツール74の軸心を中心として右回りに回転する。
【0028】
図8は、ボーリング加工を行う場合のツール付近の構成を示す概略図である。ツールホルダー84に設けられた切刃84aにより、加工物W6にボーリング加工が行われる。ツールホルダー84に設けられた切刃84aは、常に加工物W6の中心と反対方向(すなわち放射方向外側)に向いている。
【0029】
図9は、加工物にテーパ加工と溝形成を行う例である。穴のストレート部とテーパを加工するためのツールホルダー94に設けられた切刃94aにより、加工物W7にストレート部とテーパ部が形成されている。更に、図10にて示されるような溝形成用のツールホルダー104に設けられた溝切り刃104aにより、加工物W7に溝が形成されている。ツールホルダー94に設けられた切刃94aとツールホルダー104に設けられた溝切り刃104aは、常に加工物W7の中心と反対方向(すなわち放射方向外側)に向いている。
【0030】
図11は、スピンドルの駆動がスピンドルモーターからギヤを経て行われる、スピンドルを駆動する構造のものである。
【0031】
スピンドルとスピンドルの駆動部を直結する以外に、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動することができる。この構造の場合は、スピンドルモーターのエンコーダーとスピンドルに取付けられている旋削用刃具とが加工物の中心に常に向きあっている。加工物の円周を旋削用刃具が円弧運動しながら外径旋削又内径旋削を行うことができる。
【0032】
図11において、切削用刃具114を取り付けたスピンドル116は、スピンドル台を介してスピンドルギヤヘッド120に取り付けられている。スピンドルギヤヘッド120には、エンコーダー124を有するスピンドルモーター122が取り付けられている。スピンドルモーター122のエンコーダー124からの出力信号とスピンドル116の1回転の回転数とを演算処理するためのコンピュータ141が設けられている。図11においては、例えばバイトホルダーでスピンドル116を円弧補間しながらスピンドル116に送りを与えて、外径切削、内径切削、ネジ切り等が加工出来るようになっている。スピンドルモーター122の出力軸には第1ギヤ126が固定されている。第1ギヤ126は、対応する第2ギヤ128と噛み合うようになっている。第2ギヤ128は軸130に固定されている。第2ギヤ128の下方には、第3ギヤ132と第4ギヤ134が移動装置136により上下動可能に設けられている。第3ギヤ132は、対応する第5ギヤ138と噛み合うようになっている。第4ギヤ134は、対応する第6ギヤ140と噛み合うようになっている。第5ギヤ138と第6ギヤ140は、軸142に固定されている。軸142の一端にスピンドル116が取り付けられるようになっている。
【0033】
移動装置136により第3ギヤ132と第4ギヤ134が上下動して第5ギヤ138と第6ギヤ140を切り換えて回転させることで、内径、外径切削、ネジ切り等を高速且つ精密に行うことが出来るようになっている。
【0034】
本発明によれば、通常のマシニングセンタの加工(エンドミル、フェースミル加工、ボーリング加工、タップ加工等)の他に切削加工ができる。例えば通常のマシニングセンタの加工と旋削加工用ツールとを組み合わせて用いることで、加工物に対して極めて正確な加工を行うことができる。スピンドルが加工物の円周を円弧補間により旋削して、いわば遊星運動(ツールを取付けたスピンドルが自転すると同時に加工物の軸心を中心として公転する運動)のような旋削加工が出来るのである。
【0035】
旋削加工用ツールの刃物の向きが、常に円弧の中心に向いていると、1つの切刃(チップ)で簡単に旋削加工ができる。
【0036】
このように、通常のマシニングセンタの加工(エンドフェースミル加工、ボーリング加工、タップ加工等)の他に、内、外径旋削加工が出来る。マシニングセンタのスピンドルに旋削加工用ツールを取付けて、そのツールを回転し更にX、Yの円弧補間(円弧加工)により旋削加工が出来る。この時に加工物は固定し、スピンドルは旋削用工具(刃具)を取付けて回転を与えそのスピンドルが加工物の円周を円弧補間をプログラムさせて旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来る。
【0037】
本発明は図示された実施例に限定されない。各実施例で示されている構成は、適宜組み合わせて使用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 工作機械の切削機構
12 固定装置
14 旋削加工用ツール
16 スピンドル台
18 スピンドル
20 駆動装置
22 コンピュータ
24 円弧運動
W 加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物を固定するための固定装置と、
加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、
旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、
加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、
を有することを特徴とする工作機械の旋削機構。
【請求項2】
旋削加工用ツールの刃物が、常に円弧の中心に向いている、請求項1に記載の工作機械の旋削機構。
【請求項3】
旋削加工用ツールの刃物が、常に円弧の中心と反対方向に向いている、請求項1に記載の工作機械の旋削機構。
【請求項4】
歯車駆動の場合、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設け、スピンドルを円弧補間しながら送りを与えて外径旋削、内径旋削、ネジ切りのうちの少なくとも1つを行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作機械の旋削機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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