説明

工具寿命に優れたBN快削鋼

【課題】工具寿命を飛躍的に向上させることが可能なBN快削鋼を提供する。
【解決手段】B:0.0050〜0.0150mass%、N:0.0070〜0.0200mass%、Al:0.01〜0.1mass%が、下記(1)式を満足し、好ましくはC:0.01〜1.2mass%、Si:0.10超え1.5mass%、Mn:0.3〜2.0mass%、S:0.015超え0.2mass%を含有し、必要に応じてNi:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%、Pb、Ca、Se、Te、Bi、Sn、Cu、Zr、Mg、Nb、V、Tiの1種または2種以上を含有する。16≧(Al+3N)/B≧6・・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BN快削鋼に関し、特に工具寿命を飛躍的に向上させることが可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
快削鋼は、鋼中に介在物を含有し、被削性を向上させたもので、介在物として、硫化物(サルファイド)、鉛などの低融点金属、およびBNを用いたものが種々開発されてきた。
【0003】
これらの快削鋼のうち、鉛快削鋼は安価で性能に優れるため広範囲に使用されてきたが、地球環境保全の観点からPbの適用が制限されるようになり、新たにBN快削鋼への関心が高まっている。
【0004】
特許文献1は、広範囲の用途に対応可能な、被削性の優れた機械構造用鋼に関し、特定量のBNを鋼中に含有させることにより、ギヤ、シャフトなど種々の形状の部品加工に優れるものが記載されている。
【0005】
特許文献2は、BNを鋼中に含有させた場合に生じる機械的性質や、熱間延性を低下させることなく被削性を向上させたBN快削鋼に関し、エンジン部品や足回り部品などの自動車部品として好適なものが記載されている。
【0006】
特許文献3は、圧延や鋳造により加工方向に展伸するBNと一定の角度の方向の疲労強度や耐衝撃特性を改善するため、硫化物(サルファイド)を微細に分散させ、硫化物(サルファイド)を析出核とするBNの悪影響を軽減させることが記載されている。
【0007】
特許文献4は、調質処理を行うことなく切削加工などの仕上加工を施して製品とする非調質型の快削鋼に関し、優れた被削性を強度を低下させることなく得るため、BNを特定量含有したBN快削鋼が記載されている。
【0008】
特許文献5は、浸炭焼入れ後、従来研削加工で仕上げていた表層の浸炭焼入れ部を切削にて仕上げる場合に優れた被削性を示す浸炭焼入れ用快削鋼に関し、溶鋼中にBとNを別々に添加し、鋼中のN/B比を特定範囲として微細組織として強度を確保すると共に、Si量を低減することにより工具寿命に有害な粒界酸化層の生成を抑制し、浸炭焼入れ部の切削における工具摩耗を大幅に低減したBN快削鋼が記載されている。
【0009】
特許文献6は、歯車の切削等の機械加工後に実施される浸炭焼入れに代えて高周波焼入れによる表面硬化処理を可能とした快削鋼に関し、微細粒子となって材料組織中に均等に分散したBNの潤滑効果により被削性を高めたBN快削鋼が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−211350号公報
【特許文献2】特許第2733989号公報
【特許文献3】特開平6−145890号公報
【特許文献4】特開平1−219148号公報
【特許文献5】特許第2805845号公報
【特許文献6】特許第3239432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜6に記載のいずれのBN快削鋼においても快削性元素として用いるBNは微細であり、その効果、特に工具寿命を向上させる効果をより安定して得るため、一層の性能向上が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、被削性と、工具寿命に優れたBN快削鋼を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題達成のため鋭意研究を重ね、下記の新しい知見を得た。
すなわち、快削鋼の被削性向上のメカニズムは大きく分けて、(1)切欠き効果により切屑生成を容易にする。(2)材料に脆性を与え、せん断領域における切屑生成を容易にする。(3)工具と切屑あるいは被削材の接触面で潤滑性を持たせる。(4)工具と被削材間の拡散反応を防止する。であり、BN快削鋼の場合、鋼中のB量、N量、Al量を特定の量とし、且つ特定のバランスとした時に、切削中に安定なAlNの皮膜が工具面上に生成し、この皮膜が工具と被削材間の拡散反応を抑制し、工具寿命が飛躍的に向上することを見出した。
【0014】
本発明は得られた知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.C:0.01〜1.2mass%、Si:0.10超え0.25mass%以下、Mn:0.3〜2.0mass%、S:0.015超え0.2mass%以下、B:0.0061〜0.0150mass%、N:0.0122〜0.0200mass%、Al:0.01〜0.1mass%、更に、Ni:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、更に、下記(1)式を満足し、切削時にはAlN皮膜が工具面上に生成することを特徴とする工具寿命に優れたBN快削鋼。
16≧(Al+3N)/B≧6 ・・・・(1)
2.C:0.01〜1.2mass%、Si:0.10超え0.25mass%以下、Mn:0.3〜2.0mass%、S:0.015超え0.2mass%以下、B:0.0063〜0.0150mass%、N:0.0122〜0.0200mass%、Al:0.01〜0.1mass%、更に、Ni:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%の1種または2種以上を含有し、更に、Pb:0.01〜0.40mass%、Se:0.02〜0.30mass%、 Te:0.03〜0.15mass%、Bi:0.02〜0.20mass%、Cu:0.05〜0.5mass%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、更に、下記(1)式を満足し、切削時にはAlN皮膜が工具面上に生成する工具寿命に優れたBN快削鋼。
16≧(Al+3N)/B≧6 ・・・・(1)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工具寿命に優れた快削鋼が得られ、切削能率が向上し、産業上きわめて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明鋼はB、N、Al量およびこれらの元素の添加量を特定のパラメータ式で規定したBN快削鋼であり、以下に本発明の成分限定理由について説明する。
【0017】
B:0.0050〜0.0150mass%
Bは、被削性を向上させるBNを生成させるために必要な元素であり、本発明の根幹に関わる重要な元素である。その含有量が0.0050mass%未満では被削性、特に工具面上に安定なAlN皮膜を生成させるのに充分な量のBNを生成することが出来ない。一方、0.0150mass%
を超えると靭性が低下してしまう。従って、含有量は0.0050〜0.0150mass%にする。
【0018】
N:0.0070〜0.0200mass%
Nは、被削性を向上させるBNを生成させるために必要な元素であり、本発明の根幹に関わる重要な元素である。その含有量が0.0070mass%未満では被削性、特に工具面上に安定なAlN皮膜を生成させるのに充分な量のBNを生成することが出来ない。一方、0.0200mass%を超えると靭性、あるいは、疲労特性が低下してしまう。従って、含有量は0.0070〜0.0200mass%にする。
【0019】
Al:0.01〜0.1mass%
Alは脱酸に必要な元素で、また工具面上にAlN皮膜を生成させ、切削中の工具の拡散摩耗を抑制するために必要な元素であり、本発明の根幹に関わる重要な元素である。
【0020】
0.01mass%未満ではその効果が得られないため、0.01mass%以上、好ましくは0.02mass%超えとする。一方、0.1mass%を越えるとその効果が飽和し硬質のアルミナ系酸化物が増加し、疲労特性が低下するため、その量は0.01〜0.1mass%とする。
【0021】
16≧(Al+3N)/B≧6
本パラメータ式は上記Al、B、Nが添加されたBN快削鋼に、優れた工具寿命を付与するものである。 (Al+3N)/Bが6未満では、工具面上に安定なAlN皮膜を生成させることができない。一方、この値が16を超えると疲労特性が低下する。よって、16≧(Al+3N)/B≧6とする。
【0022】
本発明に係るBN快削鋼として望ましい成分組成は以下のようである。
【0023】
C:0.01〜1.2mass%
Cは、強度を確保するために必要な元素である。その含有量が0.01mass%未満では、必要な強度が確保できない。一方、1.2mass%を超えると靭性が低下する。従って、含有量は0.01〜1.2mass%にする。
【0024】
Si:0.10超え1.5mass%
Siは、脱酸に必要な元素であり、その含有量が0.10mass%以下では、充分な脱酸効果が得られない。一方、1.5mass%を超えるとフェライトが硬化して、被削性が低下してしまう。従って、含有量は0.10超え1.5mass%にする。
【0025】
Mn:0.3〜2.0mass%
Mnは、焼入性及び靭性に大きな影響を及ぼす元素であり、その含有量が0.3mass%未満では充分な焼入性が得られない。一方、2.0mass%を超えると靭性が低下してしまう。従って、含有量は0.3〜2.0mass%にする。
【0026】
S:0.015超え0.2mass%
Sは、被削性に有効な硫化物を形成する元素である。その含有量が0.015mass%以下では、硫化物量が少ないため、被削性に対する効果が小さい。一方、0.2mass%を超えると熱間加工性が低下し、圧延表面疵が生じやすくなる。従って、含有量は0.015超え0.2mass%にする。
【0027】
更に、特性を向上させる場合、選択元素としてNi、Cr、Mo、Pb、Ca、Se、Te、Bi、Sn、Cu、Zr、Mg、Nb、V、Tiの1種または2種以上を添加することが可能である。
【0028】
Ni:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%の1種または2種以上
Ni、Cr、Moは、焼入性を向上させ、必要な強度を確保するために添加される。しかしながら、その添加量が、Ni:0.01mass%、Cr:0.01mass%、Mo: 0.01mass%未満では充分な効果が得られない。
【0029】
一方、Ni:2.0%、Cr:2.0%、Mo:2.0%を超えて添加しても効果が飽和するため、経済的に不利になるとともに強度の上昇が過度となり、被削性を劣化させる。従って、含有量はNi:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%にする。
【0030】
Pb:0.01〜0.40mass%、Ca:0.0001〜0.0090mass%、Se:0.02〜0.30mass%、Te:0.03〜0.15mass%、Bi:0.02〜0.20mass%、Sn:0.003〜0.020mass%、Cu:0.05〜0.5mass%、Zr:0.005〜0.09mass%、Mg:0.0005〜0.0080mass%、Nb:0.005〜0.05mass%、V:0.001〜1.0mass%、Ti:0.001〜1.0mass%の1種または2種以上
Pb、Ca、Se、Te、Bi、Sn、Cu、Zr、Mg、Nb、V、Tiは、被削性が重視される場合に添加される。しかしながら、その添加量がPb:0.01mass%、Ca:0.0001mass%、Se:0.02mass%、Te:0.03mass%、Bi:0.02 mass%、Sn:0.003mass%、Cu:0.05mass%、Zr:0.005mass%、Mg:0.0005mass%、Nb:0.005mass%、V:0.001mass%、Ti:0.001mass%未満では充分な効果が得られない。
【0031】
一方、Pb:0.40mass%、Ca:0.0090mass%、Se:0.30mass%、Te:0.15mass%、Bi:0.20mass%、Sn:0.020mass%、Cu:0.5mass%、Zr:0.09mass%、Mg:0.0080mass%、Nb:0.05mass%、V:1.0mass%、Ti:1.0mass%を超えて添加してもこの効果が飽和してしまい、また、経済的にも不利であるため、Pb:0.01〜0.40mass%、Ca:0.0001〜0.0090mass%、Se:0.02〜0.30mass%、Te:0.03〜0.15mass%、Bi:0.02〜0.20mass%、Sn:0.003〜0.020mass%、Cu:0.05〜0.5mass%、Zr:0.005〜0.09mass%、Mg:0.0005〜0.0080mass%、Nb:0.005〜0.05mass%、V:0.001〜1.0mass%、Ti:0.001〜1.0mass%とする。
【0032】
本発明に係る快削鋼は、定法に従い溶鋼から製造した本発明範囲内の成分組成の鋳片を定法の熱間圧延により所望する寸法の丸鋼、角鋼、形鋼にすることが可能である。
【実施例1】
【0033】
本実施例ではSC鋼系における本発明の効果を示す。表1に示す、本発明の範囲内の化学成分組成を有する鋼(以下、本発明鋼という)No.1〜6、および本発明の範囲外の化学成分組成を有する鋼(以下、比較鋼という)No.7〜10を溶製し、鋳造断面400×310mm鋼塊に鋳造後、それぞれ直径90mmの棒鋼に熱間圧延した。
【0034】
得られた棒鋼について、被削性試験を、表2に示す条件で実施し、評価した。被削性試験は、最初に外周を1mm切削して、スケール、脱炭層を除去してから、開始し、丸棒の直径が44mmになった時点で、そのサンプルの使用を終了し、直径90mmの丸棒の半径方向で表面下1mmから23mmの範囲について被削性を評価した。
【0035】
表3に試験結果を示す。No.1〜6の本発明例はいずれもNo.7〜10の比較例に比較して、優れた被削性を有している。以下に各比較例について記述する。
【0036】
比較例No.7は、B量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0037】
比較例No.8は、N量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0038】
比較例No.9は、(Al+3N)/Bが本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0039】
比較例No.10は、S量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、被削性を向上させる硫化物量が少ないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【実施例2】
【0043】
本実施例では肌焼鋼系における本発明の効果を示す。表4に示す、本発明の範囲内の化学成分組成を有する鋼(以下、本発明鋼という)No.11〜16、および本発明の範囲外の化学成分組成を有する鋼(以下、比較鋼という)No.17〜20を溶製し、鋳造断面400×310mm鋼塊に鋳造後、それぞれ直径90mmの棒鋼に熱間圧延し、得られた棒鋼について被削性試験を実施した。被削性試験は表2に示す条件で実施した。
【0044】
表5に試験結果を示す。No.11〜16の本発明例はいずれもNo.17〜20の比較例に比較して、優れた被削性を有している。以下に各比較例について記述する。
【0045】
比較例No.17は、B量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0046】
比較例No.18は、N量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0047】
比較例No.19は、(Al+3N)/Bが本発明の請求範囲の下限値以下のため、工具面上に安定なAlN皮膜が生成されないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。比較例No.20は、S量が本発明の請求範囲の下限値以下のため、被削性を向上させる硫化物量が少ないことにより、被削性が本発明例に比較して劣っている。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01〜1.2mass%、Si:0.10超え0.25mass%以下、Mn:0.3〜2.0mass%、S:0.015超え0.2mass%以下、B:0.0061〜0.0150mass%、N:0.0122〜0.0200mass%、Al:0.01〜0.1mass%、更に、Ni:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、更に、下記(1)式を満足し、切削時にはAlN皮膜が工具面上に生成することを特徴とする工具寿命に優れたBN快削鋼。
16≧(Al+3N)/B≧6 ・・・・(1)
【請求項2】
C:0.01〜1.2mass%、Si:0.10超え0.25mass%以下、Mn:0.3〜2.0mass%、S:0.015超え0.2mass%以下、B:0.0063〜0.0150mass%、N:0.0122〜0.0200mass%、Al:0.01〜0.1mass%、更に、Ni:0.01〜2.0mass%、Cr:0.01〜2.0mass%、Mo:0.01〜2.0mass%の1種または2種以上を含有し、更に、Pb:0.01〜0.40mass%、Se:0.02〜0.30mass%、 Te:0.03〜0.15mass%、Bi:0.02〜0.20mass%、Cu:0.05〜0.5mass%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、更に、下記(1)式を満足し、切削時にはAlN皮膜が工具面上に生成する工具寿命に優れたBN快削鋼。
16≧(Al+3N)/B≧6 ・・・・(1)

【公開番号】特開2012−197513(P2012−197513A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68769(P2012−68769)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2005−295991(P2005−295991)の分割
【原出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(399009642)JFE条鋼株式会社 (45)