説明

巻取機のトラバース速度制御方法

【目的】 巻形状、および解舒性が良いパッケージを得ることができるようにすることである。
【構成】 巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を常時検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、あるいはワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに近接した時、トラバース速度を変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、振動幅を[RA]、リボン回避変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめてトラバース速度が大きく変化するようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は巻取機のトラバース速度制御方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、糸条を巻取る過程においてワインド比がある値(代表値として整数)になると、巻かれる糸条が同じ場所を通って重なりリボンが発生する。このリボンは接触ローラの振動を誘発して糸落ちを発生したり、パッケージから糸条を解舒する時に重なりあった糸条が塊となって抜出すという問題がある。
【0003】そこで、例えば、特公平3−72545号公報に記載されているようなリボンを回避するためにトラバース速度を振動的に変化させると共に、リボン領域においてトラバース速度を大きく変化させる方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述のリボン回避方法においては、トラバース速度を大きく変化させる時期が、トラバース速度を積分してトラバース速度の平均値を求め、この平均値と予め設定されたリボン回避領域を比較することによって決定されているため、綾角中心値が図10に示すように巻取途中において変化する場合は上述の方法で求められたトラバース速度の平均値と刻々変化する振動的に変化させるトラバース速度の中心値が一致しなくなる。
【0005】すなわち、時刻[t]における真の綾角中心と積分時間[△t]の間に求められた平均綾角中心との間に[△θ]のずれを生じることになる。
【0006】そのため、リボン回避の時期に誤差を生じてリボン回避が不十分になり、糸条を解舒する時に重なりあった糸条が塊となって抜出すという問題を生じる。
【0007】そこで、該問題点を回避するために綾角の変化量をさらに大きくすることを試みたが糸落ちを発生することがあり、完全に問題点を回避することができない。
【0008】そのため、特公平3−72545号公報に記載されている方法では綾角中心値が一定の場合にしか適用することができず、パッケージの巻形状を完全によくすることができない。
【0009】本発明は上述の問題点を解決し、巻形状、および解舒性が良いパッケージを得ることができる巻取機のトラバース制御方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために本発明の巻取機のトラバース速度制御方法は請求項1のように巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに近接した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、巻取中に発生するリボンを[N/J](ワインド比Wはスピンドル回転数をNS 、トラバース速度をJT とした時、W=NS /JT =N/Jとなり、N、Jは互いに素な簡単な整数である)とする時、トラバース速度を大きく変化させて回避するリボンを前記式において[J]の上限値として設定し、[J=1]から[Jの上限値]までのリボンとするか、[J]と[N]の少なくとも一方を含む関数として設定し、この設定範囲のリボンのみをトラバース速度を大きく変化させて回避せしめるようにしてある。
【0011】また、請求項2のように巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに接近した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめてトラバース速度が大きく変化せしめるようにしてある。
【0012】上述の請求項2に加えて請求項3のようにトラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加させた後、[TR−3RT/2−RA/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ減少せしめるようにすることもできる。
【0013】上述の請求項2、3に代えて請求項4のように巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに接近した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度[TR]をリボン回避変化幅[RT]だけ減少させ、さらに、その後[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめるようにすることもできる。
【0014】上述の請求項2、請求項3、請求項4を請求項5のようにトラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加、あるいは減少させる際に、予め設定された傾きをもってトラバース速度を変化せしめるようにし、前記トラバース速度の増減の傾きを、増加の場合と、減少の場合で別個に設定可能にせしめると共にトラバース速度の増加に要する時間に対してトラバース速度の減少に要する時間を少なくとも同一か、長くなるように設定せしめるようにし、請求項6のようにリボン回避変化幅[RT]を、巻径、[J]、[N]の少なくとも1つを含む関数にせしめるのが好ましい。
【0015】
【実施例】図1は本発明のトラバース制御方法を実施する巻取機の構成の1実施例を示す概略図であって、巻取機は、駆動用の電動機3を有し、機枠1に回転自在に装着されたチューブ挿着用のスピンドル2と、駆動用の電動機(図示せず)を有し、該スピンドル2の上方に位置するよう機枠1に形成されたガイド(図示せず)に沿って垂直方向に昇降するトラバース装置4と、該トラバース装置4に回転自在に装着された接触ローラ5と、電動機3の後部に設置されたスピンドル回転速度検出用の第1検知器6と、トラバース駆動用の電動機(図示せず)の後部に設置されたトラバース速度検出用の第2検知器7と、各電動機の回転速度を制御する制御装置8とにより構成されている。
【0016】上述の第1検知器6と第2検知器7は光式、磁石式、近接式等のパルスピックアップを使用する。
【0017】上述の制御装置8は入力機能、記憶機能、比較演算機能、動作指令機能等を有するマイクロコンピュータを使用する。
【0018】上述の巻取機によって糸条の巻取を行なった場合、パッケージにリボンが発生するワインド比[W]は下記式により求めることができる。
【0019】ここで、トラバースの往復回数をJT (c.p.m)、チューブの回転数をNS (r.p.m)とすると、 W=NS /JT =N/J ‥‥(1)
として表すことができ、該式中の[N]と[J]は互いに素な整数である。
【0020】また、糸条巻取中におけるワインド比[W]は下記のように表すことができる。
【0021】
W=(N+ε)/J ‥‥(2)
該式中の[ε]は式(1)におけるリボンの発生するワインド比[W]と式(2)におけるワインド比[W]のずれ量を示す値であり、該値は[0≦ε<1]であって[ε=0]の時に式(2)におけるワインド比[W]はリボンとなる。
【0022】ここで、第1の実施例における綾角と巻取時間の関係は図2の綾角−時間線図に示す通りであり、該図中の(イ)で示す領域のワインド比[W]は W=[N+ε(イ)]/J ‥‥(3)
として求めることができ、該図1中の(ロ)で示す領域のワインド比[W]は、 W=[(N−1)+ε(ロ)]/J ‥‥(4)
として表現することができる。
【0023】該式(3)、式(4)から巻取中に発生するリボンを算出するためには、式(2)において[N]の値を算出し、この値が変化(1つ減少)する点を求めることで可能であることがわかる。
【0024】一方、巻取中に[N]の値を算出する方法は下記の通りである。
【0025】ここで、トラバース長さを[St]、巻径を[D]とすると、ワインド比[W]は下記より求めることができる。
【0026】
W=2×St/(π×D×tanθ) ‥‥(5)
該式(5)から、綾角[θ]は下記式により求めることができる。
【0027】
θ=tan-1[2×St/(π×D×W)] ‥‥(6)
ここで、綾角[θ]が非常に小さい場合(一般的な巻取条件においては綾角がθ<10°であり、非常に小さいものとして取り扱うことができる)は、該綾角[θ]の単位としてrad を用いることで下記式により求めることができる。
【0028】
θ=2×St/(π×D×W) ‥‥(7)
一方、式(7)において巻径[D]とワインド比[W]は巻取中に刻々変化する値であるが、スピンドル回転数[Ns(r.p.m)]とトラバース速度[Jt(c.p.m)]の検出値と巻取速度[V(m/min )]とから下記式により求めることができる。
【0029】
D=V/(π×Ns) ‥‥(8)
W=Ns/Jt ‥‥(9)
また、式(2)と式(7)から(N+ε)/J=2×St/(π×D×θ)
∴ N+ε=2×St×J/(π×D×θ)
となり、0≦ε≦1とすると[N]は N=INT[2×St×J/(π×D×θ)] ‥‥(10)
として求めることができる。該式(10)におけるINT[ ]の関数は少数点以下について切捨を行なう関数である。
【0030】一方、実際の巻取においては既に発生したリボンを検知してこれを回避する方法では遅すぎるため、リボンの発生を予見する必要が生じる。
【0031】そこで、リボンの発生を下記のようにして予見する。
【0032】すなわち、仮想綾角ずらし量を[△θ]として式(7)によって求めた綾角を[θ0 ]とすると、ずらし綾角[θ1 ]は下記式により求めることができる。
【0033】
θ1 =θ0 +△θ ‥‥(11)
該式(11)によって得られたずらし綾角[θ1 ]を式(10)の綾角[θ]と置換すると、[N1 ]を求める式は下記のようになる。
【0034】
N1 =INT〔2×St×J/[π×D×(θ0 +△θ)]〕‥‥(12)
上述のことは図2の綾角−時間線図からも明らかなように、時刻[t0 ]において実際の巻取点(ニ)は、[N/J]のリボンに達していないが仮想綾角ずらし量[△θ]を加えた条件の(ハ)点は[N/J]のリボン上に位置している。
【0035】従って、実際の綾角[θ0 ]に対して式(11)によって[△θ]だけ大きな綾角[θ1 ]を想定し、この綾角から式(10)によって求めた[N]の値が変化(1つ減少)する点を求めることで実際の巻取に対して仮想綾角ずらし量が[△θ]だけずれた点にリボンが接近していることを予見することができ、この結果に基づいて綾角を大きく変化させリボン回避を行なえばよいことになる。
【0036】以上のように[N]の値の変化を算出することでリボンを予見することが可能であるが、簡易的には式(11)における綾角[θ0 ]に対応する[N]の値と綾角[θ1 ]に対応する[N]の値を比較することによりリボンの予見が可能である。
【0037】すなわち、図2の綾角−時間線図において時刻[t0 ]以前には綾角[θ0 ]と綾角[θ1 ]が共に(イ)の領域内にあり、式(10)によって求められた[N]は同一の値になる。
【0038】一方、時刻[t0 ]以降は綾角[θ1 ]は(ロ)の領域となる場合があり、この時、式(10)によって求められた[N]は綾角[θ0 ]に対応する[N]より1つ小さい値になる。
【0039】上述の仮想綾角ずらし量[△θ]は、リボン回避時の綾角変化量[RT]と振動的に変化させる時の振幅[RA]との関係から下記式(13)の範囲の値になる。
【0040】
△θ<RT−RA ‥‥(13)
特に、巻取途中の綾角範囲をできる限りリボンから遠ざけるためには、図2の綾角−時間線図における[△θ]と[△θ′]をほぼ等しい値にするのが好ましい。
【0041】この時、仮想綾角ずらし量[△θ]と綾角変化量[RT]と振動的に変化させる時の振幅[RA]の関係は下記の通りである。
【0042】
△θ=(RT−RA)/2 ‥‥(14)
該式(14)の[△θ]と式12の[△θ]を置換すると、[N1 ]を求める式は下記の通りになる。
【0043】
N1 =INT〔2×St×J/[π×D×(θ0 +RT/2−RA/2)]〕
‥‥(15)
綾角[θ0 ]に対応する[N]の値を[N0 ]とおくと、 N0 =INT[2×St×J/(π×D×θ0 )] ‥‥(15′)
となり、N0 とN1 を比較することでリボンの接近を予見することができる。
【0044】上述の各事項を予め設定された回避すべき全てのリボンに対して繰返すことで巻取中の有害なリボンの発生を予見し、これを回避することができる。
【0045】但し、上述の方法では図2の綾角−時間線図において時刻[t1 ]から[t2]の間で巻取が開始された場合は、綾角[θ0 ]に対応する[N]の値と綾角[θ1 ]に対応する[N]が同一になり、図11に示すように綾角がリボンに近い位置にあるにも拘らずリボン回避がなされないという問題が発生する。
【0046】そこで、巻始めにおいて巻取中の綾角がリボンに対して[△θ]以上離れた状態にするためには、図3において[△θ]で示す範囲にリボンがある場合は綾角を大きく変化させてリボンを回避する必要がある。
【0047】実際には、綾角[θ0 ]に対して図3に示す[△θa]だけ小さい綾角[θ2]を想定し、綾角[θ0 ]に対応する[N]の値と綾角[θ2 ]に対応する[N]の値を比較することでリボン回避の要否を判定することができる。
【0048】上述の巻始め時の綾角[θ2 ]を求める式は下記の通りである。
【0049】
θ2 =θ0 −(RT+RA)/2 ‥‥(16)
該式(16)の[θ2 ]と式(12)の[θ0 ]を置換すると、巻始め時における[N2 ]を求める式は下記の通りになる。
【0050】
N2 =INT〔2×St×J/[π×D×(θ0 −RT/2−RA/2)]〕
‥‥(17)
該式(17)によって得られた[N2 ]の値と綾角[θ0 ]に対応する[N]の値と比較し、該値が異なる場合は図3に示すようにリボン回避を実施する。
【0051】上述の[N2 ]と[N]の比較は巻始めから綾角振動1周期の間のみで十分であるが、最初のリボン回避が行なわれるまで続けて行なってもよく、巻取領域全体にわたって行なってもよい。
【0052】該リボン回避動作を行なった後は、以下に記述するリボン回避終了処理を行ない通常の振動的に変動させる条件に復帰するまでの間は式(16)によるリボン回避判定処理を行なわないようにする。
【0053】このことは、条件設定ミスによって次々リボン回避動作が実施され、綾角が次々に増加、あるいは減少するのを防止するためである。
【0054】上述のリボン回避状態から通常の綾角条件への復帰処理は下記のようにして行なうことができる。
【0055】上述の図2の綾角−時間線図におけるリボン回避綾角[θ0 ′]を式(10)の綾角[θ]と置換すると、[N0 ′]を求める式は下記のようになる。
【0056】
N0 ′=INT[2×St×J/(π×D×θ0 ′)] ‥‥(18)
上述のリボンを最も効率良く回避するためには図2の綾角−時間線図に示すように[△θ]、[△θ′]、[△θ″]が略等しい値にするのが好ましく、ここで、△θ=△θ′=△θ″とすると、図2における(d)を求める式は、 d=(3RT/2)+(RA/2) ‥‥(19)
となり、実際の綾角[θ0 ′]に対して(d)だけ低い綾角[θ1 ′]について式(10)によって[N1 ′]を求め、この値が変化(1つ減少)する点を求めることでリボン回避綾角から通常綾角へ戻すタイミングを求めることができる。
【0057】該[N1 ′]を求める式は下記の通りである。
【0058】
N1 ′=INT〔2×St×J/[π×D×(θ0 ′−3RT/2−RA/2)]〕 ‥‥(20)
上述のリボン回避条件と同様の簡易法としては、実際の綾角[θ0 ′]に対応する[N0 ′]と該綾角[θ0 ′]に対して(d)だけ低い綾角[θ1 ′]に対応する[N1 ′]を夫々求め、この値を比較することでリボン回避綾角から通常綾角へ戻すタイミングを求めることができる。
【0059】上述の図2における綾角−時間線図上の通常の綾角を振動的に変化させる状態からリボン回避のための綾角を振動的に変化させる状態への移行時間、あるいは、その逆への移行時間については、綾角を増加する方向への移行時間を[T1 ]、綾角を減少する方向への移行時間を[T2 ]とすると、T1 ≦T2 になるように設定するのが好ましい。
【0060】上述の綾角を増加する方向への移行時間[T1 ]は、リボンの通過が必ず綾角を増加する方向への移行時間内に発生するため、比較的短く設定して速やかにリボンを通過させる必要があり、綾角を減少する方向への移行時間[T2 ]は、リボンの通過に関係しないため、比較的長く設定して綾角が急激に減少して巻幅が広がって糸落ちが生じないようにする必要がある。
【0061】上述の巻取機のトラバース速度制御動作の手順を図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0062】上述の巻取機における制御装置8に上述の各式(1)〜式(20)と巻取速度[V(m/min )]、トラバース幅寸法[St(m)]、綾角を大きく変化させて回避するリボン(実施例では回避リボンの[J]の最大値[Jmax ]、リボン回避時の綾角変化量[RT]、振動的に変化される時の振幅[RA]等を入力し、次いで、スピンドル2にチューブを挿着して糸条の巻取を開始すると、ステップ50で、第1検知器6によってスピンドル2の回転速度[Ns]が、第2検知器7によってトラバース速度[Jt]が検出されて制御装置8に送られ、ステップ51で、制御装置8内において式(9)によってワインド比[W]が算出され、ステップ52で、式[8]によって巻径[D]が算出される。
【0063】そして、ステップ53で、該算出値と予め入力されているトラバース幅寸法[St]を基に式(6)によって綾角[θ0 ]が算出される。
【0064】次いで、ステップ54で、リボン回避中か否かの判定が行なわれ、リボン回避中でない場合はステップ56で、綾角[θ0 ]について式(10)における綾角[θ]と置換した下記式によって[N0 ]が算出される。
【0065】
N0 =INT[2×St×J/(π×D×θ0 )] ‥‥(21)
また、式(15)によって[N1 ]が、式(17)によって[N2 ]が夫々算出されるとステップ57で、該算出値[N0 ]と[N1 ]が等しいかどうか判定され、該値が等しくない場合はステップ60で、リボン回避が実行される。
【0066】該ステップ57で、算出値[N0 ]と[N1 ]が等しいと判定された場合はステップ58で、巻始めかどうか判定され、巻始めの場合はステップ59で、[N0 ]と[N2 ]が等しいかどうか判定され、該値が等しくない場合はステップ60でリボン回避が実行される。
【0067】以上ステップ56から59までの動作が[J]が1から[Jmax ]まで繰り返され、実施例のフローチャートで説明すれば[J]の値が1つ加算された後ステップ55に戻り、[J]が[Jmax ]より大きいかどうか判定されて[J]の方が大きい場合にはステップ50に戻って巻径、綾角等を再度検出し、上述の動作が繰返し行なわれる。
【0068】上述の[J]が[Jmax ]より小さい場合はステップ59までの動作が繰返される。
【0069】上述のステップ58で巻始めでないと判断された場合はステップ59の判断を行なわず[J]の値が1つ加算された後ステップ55まで戻ってステップ58間での動作が繰返される。
【0070】上述のステップ60でリボン回避が実行されると最初のステップ50に戻る。
【0071】ここで、リボンの強度すなわち解舒性に対する悪影響の度合いは[J]の数が小さければ小さいほど大きくなる傾向がある。
【0072】そのため、上述のように回避リボンの最大値[Jmax ]を設定し、J=1からJ=Jmax のリボンのみに着目してリボンの回避を行なうことで強度の強いリボンのみを選択的に検知し、これを回避することが可能となる。
【0073】尚、リボン回避を行なう[J]の最大値[Jmax ]は1、2または3とすることが望ましい。
【0074】該最大値[Jmax ]を4以上にするとリボン回避の変化幅[RT]を小さくする必要があり、充分にリボンが回避されないという問題を生じる。
【0075】上述のステップ54でリボン回避中であると判定された場合はステップ61で、式(18)によって[N0 ′]が、式(20)によって[N1 ′]が夫々算出されるとステップ62で、該算出値[N0 ′]と[N1 ′]が等しいかどうか判定され、該値が等しくない場合はステップ50に戻り、該値が等しい場合はステップ63でリボン回避を終了してステップ50に戻る。
【0076】上述の第1の実施例ではリボン回避中の綾角を通常の綾角より高く設定したが、図5に示す第2の実施例のようにリボン回避中の綾角を通常の綾角より低く設定することもでき、この場合は図4のフローチャート中におけるステップ61において使用する式(20)に代えて N1 =INT〔2×St×J/[π×D(θ+RT/2−RA/2)]〕
‥‥(22)
を使用する。
【0077】さらに、スデップ62の判定を[N0 ′=N1 ′か]に変更する。
【0078】上述の第2の実施例におけるトラバース速度制御動作は図4のフローチャートと同一のステップに従って行なわれる。
【0079】一方、綾角[θ]を大きく変化させることによってリボンを回避する場合、綾角の変化幅[RT]はリボンを回避できる範囲で可能な限り小さくすることが好ましい。
【0080】すなわち、綾角の変化幅[RT]が大きいとトラバース速度の変化に伴う巻幅の変化が無視できなくなり、パッケージの端面に年輪状の同心円が発生してパッケージの巻形状が悪くなる。
【0081】該現象が極端な場合は糸落ちの発生につながり、解除時に糸条が弛んで糸送出し張力が変化して後工程との間で問題となる。
【0082】上述のパッケージの巻形状の悪化あるいは解除性の低下の問題は特に巻径が比較的小さい範囲で顕著に現れるため、巻径が小さい状態においては綾角の変化幅[RT]を小さくするのが好ましい。
【0083】ここで、リボンの性質から図6、図7に示すようにリボン回避開始点においてリボンからの距離[△θ1 ]と[△θ2 ]が等しくなるようにした場合、リボン回避終了点においてはリボン回避に必要な時間[△t]があるため、リボンからの距離が[△θ2 ′]となる。
【0084】また、巻径の大きい場合は図7に示すように[△θ2 ]と[△θ2 ′]および[△θ2 ′]と[△θ1 ]がほぼ等しいのに対し、巻径が小さい場合は図7に示すように[△θ2 ]<[△θ2 ′]、[△θ1 ]<[△θ2 ′]となり、リボン回避の観点からは[△θ1 ]と[△θ2 ′]がほぼ等しい状態であれば充分であることから巻径が小さい場合には[△θ2 ]を小さくすることが可能であり、従ってリボン回避変化幅[RT]を小さくすることができる。
【0085】上述の第1の実施例においては説明を簡略化するため該事項は考慮されていない。
【0086】さらに巻径が小さい範囲においては図8、図9に示すように綾角(トラバース速度)中心を徐々に増加させた場合の[△θ2 ′A]と綾角(トラバース速度)中心を一定にした場合の[△θ2 ′B]の関係が[△θ2 ′A]>[△θ2 ′B]となるため、綾角(トラバース速度)を徐々に増加させることでさらにリボン回避変化幅[RT]を小さくすることができる。
【0087】すなわち、巻取中にトラバース速度を振動的に変化させると共に、リボン領域においてリボン領域を挟んでトラバース速度を大きく変化させてリボンを回避する場合に、巻径あるいは巻取時間に対してトラバース速度を関数的に変化させるに際し、特開平3−216460号公報に記載されているトラバース速度を巻径の小さい範囲では徐々に増加させ、巻径が大きくなるにつれて増加割合を減少させてトラバース速度を一定あるいは減少する方向に転じさせる方法を組合わせると、巻始めのリボン回避変化巻幅[RT]を小さくすることができ、巻形状が良好で、しかも解除性に優れたパッケージを得ることができる。
【0088】一方、上述のワインド比[W]の式(1)における[N]と[J]の組合わせは無数に存在するが、リボンの強度の度合には差があり、[J]の値が小さければ小さい程、[J]が同一であれば[N]の値が小さければ小さい程強度が強いリボンとなる。
【0089】ここでは[J]が3以上のリボンについてはトラバースを振動的に変化させることで回避し、[J]が1と2のリボンをトラバース速度を急変させることによって回避する場合を例にとれば[J=1]のリボンに対して[J=2]のリボンの強度は弱い。このため、[J=2]のリボンに対しては[J=1]のリボンに比べてより近いところで巻取を行なっても問題がない。
【0090】従って、[J=2]のリボンに対するリボン回避変化幅[RT]は[J=1]のリボン回避幅よりも小さくすることも可能である。
【0091】以上のように[J]の値によってリボンの回避変化幅[RT]を変更することによって必要最小限のリボン回避変化幅を設定することが可能となり、巻形状が良好で、しかも解除性が優れたパッケージを得ることができる。
【0092】また、[N]の値に対しても上述と同様であることから[1/(J+N)]、[1/(J×N)]等と[J]と[N]の関数としてリボン回避変化幅を定義づけることもできる。
【0093】さらに、一般的には実施例のように[J]の値が小さいリボンのみをトラバース速度を大きく変化させて回避し、それ以外のリボンはトラバース速度を振動的に変化刺せることによってリボン回避が可能であるが、リボンの強度は上述のように[N]の値にも関係するからトラバースを振動的に変化させることで回避するリボンとトラバース速度を大きく変化させることで回避するリボンとの区分は実施例のように[J]の値の大小のみで判断するのではなく[J]と[N]の関数の値の大小により区分することで、有害なリボンのみをより選択的に検知して回避することができる。
【0094】一方、巻取中のパッケージは図12に示すように両端部に耳立ちが発生し、該耳立ち部が接触ローラと接触しているため、パッケージ端部が真円でなくなると巻取機に振動が発生する。
【0095】該パッケージにリボンが発生した場合にはパッケージ端部が真円でなくなり、円周方向数箇所に糸が集中した部分ができる。
【0096】特にリボンを[N/J]として表現することができ、[N]が偶数で[J]が1の場合には、図13に示すように糸の折返し位置が同一位相になるためパッケージ両端部の一個所の位相に糸が集中することになり、巻取機の振動が非常に大きくなって糸質上の問題、糸落ち等による解除性の問題、振動による巻取機の破損等の問題が発生する。
【0097】そのため、リボン回避においても上述の[N]が偶数で[J=1]のリボンについては他のリボン以上に確実に回避する必要がある。
【0098】そこで、回避するリボンの[N]が偶数で[J=1]の場合はリボン回避変化幅[RT]を大きくし、図14、図15に示すような糸の折返し位置が異なるリボンの場合はリボン回避変化幅[RT]を小さくすることで常に必要最小限度のリボン回避を行なうことができる。
【0099】上述の実施例における式13〜17、19、20、22中の[RT]、[RA]、[TR]の単位は夫々が同一であれば綾角(deg、rad)、トラバース速度(c.p.m)、ワインド比等いずれでもよい。
【0100】そのため、巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出される値は、綾角、ワインド比、トラバース速度、パルス数等になる。
【0101】上述のリボン回避操作を行なった場合の第1の実施例における巻取領域全体の綾角と巻径の関係を図16に示す。該実施例においては綾角変化幅[RT]をトラバース速度[TR]の2.4%、振動的に変化させる幅[RA]をトラバース速度[TR]の1%とし、[J]が1と2のリボンのみをトラバース速度を大きく変化させることによって回避している。
【0102】
【発明の効果】本発明は請求項1のように巻取中に発生するリボンを[N/J](ワインド比Wはスピンドル回転数をNS 、トラバース速度をJT とした時、W=NS /JT=N/Jとなり、N、Jは互いに素な簡単な整数である)とする時、トラバース速度を大きく変化させて回避するリボンを前記式において[J]の上限値として設定し、[J=1]から[Jの上限値]までのリボンとするか、[J]と[N]の少なくとも一方を含む関数の大小として設定し、この設定範囲のリボンのみをトラバース速度を大きく変化させて回避せしめるようにしてあるため、解舒性に悪影響を及ぼすリボンのみを選択的にトラバース速度を大きく変化させることによって回避することができ、トラバース速度の大きな変化の回数を必要最小限にすることができる。そのため、巻形状が良く、解舒性に優れたパッケージを得ることができる。
【0103】また、請求項2のように常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめてトラバース速度が大きく変化せしめるようにすると、トラバース速度の大きな変化の幅を必要最小限にすることができ、巻形状が良く、解舒性に優れたパッケージを得ることができる。
【0104】さらに、請求項3のようにトラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加させた後、[TR−3RT/2−RA/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ減少せしめるようにすると、リボン回避によるトラバース速度変化の時間を必要最小限にすることができ、リボン回避条件の違いによる巻形状の差が小さくなり、巻取条件の探索が容易にできる。
【0105】請求項4のように常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度[TR]をリボン回避変化幅[RT]だけ減少させ、さらに、その後[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめるようにしても請求項2、3と同様の効果を得ることができる。
【0106】請求項5のように請求項2、請求項3、請求項4においてトラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加、あるいは減少させる際に、予め設定された傾きをもってトラバース速度を変化せしめるようにし、前記トラバース速度の増減の傾きを、増加の場合と、減少の場合で別個に設定可能にせしめると共にトラバース速度の増加に要する時間に対してトラバース速度の減少に要する時間を少なくとも同一か、長くなるように設定せしめるか、請求項6のようにリボン回避変化幅[RT]を、巻径、[J]、[N]の少なくとも1つを含む関数にせしめると確実に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトラバース速度制御方法を実施する巻取機の構成の1実施例を示す概略図である。
【図2】本発明のトラバース速度制御の第1の実施例における綾角と時間の関係を示す綾角−時間線図である。
【図3】図2における巻始め部の綾角と時間の関係を示す綾角−時間線図である。
【図4】第1の実施例におけるトラバース速度制御動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明のトラバース速度制御の第2の実施例における綾角と時間の関係を示す綾角−時間線図である。
【図6】巻始めにおける綾角と時間の関係の1実施例を示す綾角−時間線図である。
【図7】巻終りにおける綾角と時間の関係の1実施例を示す綾角−時間線図である。
【図8】綾角中心を徐々に増加された場合の綾角と時間の関係の1実施例を示す綾角−時間線図である。
【図9】綾角中心が一定の場合の綾角と時間の関係の関係の1実施例を示す綾角−時間線図である。
【図10】従来のトラバース速度制御における綾角と時間の関係を示す綾角−時間線図である。
【図11】従来のトラバース速度制御における巻始め部の綾角と時間の関係の1実施例を示す綾角−時間線図である。
【図12】糸条を巻取った時のパッケージと接触ローラの接触状態を示す概略図である。
【図13】糸の折返し位置が同一位相の状態を示すパッケージ円周面展開概略図である。
【図14、15】糸の折返し位置が異なる状態を示すパッケージ円周面展開概略図である。
【図16】第1の実施例における巻取領域全体の綾角と巻径の関係を示す綾角−巻径線図である。
【符号の説明】
1 機枠
2 スピンドル
3 電動機
4 トラバース装置
5 接触ローラ
6 第1検知器
7 第2検知器
8 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに近接した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、巻取中に発生するリボンを[N/J](ワインド比Wはスピンドル回転数をNS 、トラバース速度をJT とした時、W=NS /JT =N/Jとなり、N、Jは互いに素な簡単な整数である)とする時、トラバース速度を大きく変化させて回避するリボンを前記式において[J]の上限値として設定し、[J=1]から[Jの上限値]までのリボンとするか、[J]と[N]の少なくとも一方を含む関数の大小として設定し、この設定範囲のリボンのみをトラバース速度を大きく変化させて回避せしめるようにしたことを特徴とする巻取機のトラバース速度制御方法。
【請求項2】 巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに接近した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめてトラバース速度が大きく変化するようにしたことを特徴とする巻取機のトラバース速度制御方法。
【請求項3】 トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加させた後、[TR−3RT/2−RA/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ減少せしめるようにしたことを特徴とする請求項2の巻取機のトラバース速度制御方法。
【請求項4】 巻取中のトラバース速度とスピンドルの回転速度を検出し、略同一時刻に検出されたトラバース速度とスピンドルの回転速度から算出された綾角、ワインド比等の値が予め設定された回避すべきリボンに接近した時、トラバース速度を大きく変化させてリボンを回避せしめる制御方法において、常時トラバース速度を振動的に変化させる振動幅を[RA]、リボン回避のためのトラバース速度を大きく変化させる変化幅を[RT]、検出トラバース速度を[TR]とした時、[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度[TR]をリボン回避変化幅[RT]だけ減少させ、さらに、その後[TR+(RT−RA)/2]が回避すべきリボンと略一致した際に、トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加せしめるようにしたことを特徴とする巻取機のトラバース速度制御方法。
【請求項5】 トラバース速度をリボン回避変化幅[RT]だけ増加、あるいは減少させる際に、予め設定された傾きをもってトラバース速度を変化せしめるようにし、前記トラバース速度の増減の傾きを、増加の場合と、減少の場合で別個に設定可能にせしめると共にトラバース速度の増加に要する時間に対してトラバース速度の減少に要する時間を少なくとも同一か、長くなるように設定せしめたことを特徴とする請求項2、請求項3、請求項4の巻取機のトラバース制御方法。
【請求項6】 リボン回避変化幅[RT]を、巻径、[J]、[N]の少なくとも1つを含む関数にせしめることを特徴とする請求項2、請求項3、請求項4の巻取機のトラバース制御方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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