説明

巻線形誘導発電機の運転制御装置

【目的】本発明は、発電機の容量を低減でき、かつ発電時の電圧歪が少なく、しかも送電線系統時等の異常時においても励磁手段の保護を確実に行ない安定に動作して品質のよい電力を送電系統に供給することを主要な特徴としている。
【構成】本発明は、一次巻線と二次巻線を備えた巻線形誘導発電機の運転制御装置を、直流母線から電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換し二次巻線に供給するインバータと、交流電力を直流電力に変換して直流母線に直流電力を供給するコンバータと、直流母線に設置された直流コンデンサと、直流母線に設置されたチョッパと、送電系統の事故発生検出時に、直流母線電圧の上昇を抑制するようにコンバータ、および必要に応じてインバータを制御する制御手段と、直流母線電圧の異常上昇検出時に、直流電圧の上昇を抑制するようにチョッパを制御するチョッパ制御手段とから構成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、巻線形誘導発電機の二次巻線を励磁する励磁手段をインバータ、コンバータ、チョッパ、直流コンデンサから構成した、巻線形誘導発電機の運転制御装置に係り、特に送電系統の事故時における励磁手段の保護を確実に行ない得るようにした巻線形誘導発電機の運転制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、水力発電においては、落差変化や負荷変化に対して水車効率が最大になる回転速度で運転する、いわゆる可変速発電方式の必要性が高まってきている。以下、この可変速発電の一つの例について説明する。
【0003】図7は、従来のサイクロコンバータを用いた可変速発電システム(西独Bundesministerium fuer Forschung und Technologieの研究論文集BMFT−FB−T84−154(1)の第96項、図3.2.11に開示された方式による)の構成例を示すブロック図である。この図7の方式は、巻線形誘導発電機の二次電流を、サイクロコンバータ等の周波数変換器により制御して、一次側の周波数を回転速度の変化に関わらず一定に制御する、いわゆる二次励磁方式の可変速発電システムであり、この方式は、変換器容量を小さくできる特徴があるため、特に大容量の発電プラントに適用している。
【0004】図7において、巻線形誘導発電機(IM)700の一次巻線は送電線701に接続され、二次巻線にはサイクロコンバータからなる周波数変換器702が接続されて、二次電流制御が行なわれるようになっている。すなわち、周波数変換器702には、二次電流の三相指令値ir1s 、ir2s 、ir3s が与えられ、二次電流の検出値irdと比較され、検出値が指令値に常に一致するように制御が行なわれる。また、一次電流は、一次電圧Us1と同相の電流成分Isqと90度遅れた電流成分Isdに分解して検出され、一次電圧Usの大きさ|Us|との積によって、一次側の有効電力Psdおよび一次側の無効電力Qsdが検出される。
【0005】一方、有効電力の指令値Pssおよび無効電力の指令値Qssが与えられ、各々検出値PsdおよびQsdと比較され、その偏差が零となるように、有効電力調節器PRおよび無効電力調節器QR、並びに周波数変換器702を介して、二次電流が制御される。
【0006】ところで、サイクロコンバータによる二次励磁で発電を行なう方式には、次のような性質がある。すなわち、サイクロコンバータは、交流入力電源側に大きな無効電力を発生し、この無効電力が発電機IMの一次側から供給されなければならないため、発電機の容量が大きくなる。また、サイクロコンバータを用いたシステムは、交流入力電源側の高調波電流が大きく、この高調波電流による電圧歪が生じ品質のよい発電を行なうことができない。さらに、発電プラントは送電系統に並入されて運転されるが、雷害で送電線に短絡事故等が発生して送電線に逆相成分がのり、サイクロコンバータが運転不能になって停止すると、この逆相分に起因する高電圧が二次側に誘起され、この高電圧がサイクロコンバータを構成するサイリスタ素子に印加されるため、サイリスタの電圧破壊を引き起こすことがある。
【0007】図7に示したサイクロコンバータによる可変速発電システムは、以上のような性質があるため、送電系統に並入して運転する場合には、これらの制約を慎重に考慮して運用しなければならない。このため、電圧歪が少なく、巻線形誘導発電機の容量を低減でき、しかも送電系統事故時においても安定的に作用する巻線形誘導発電機の二次励磁用の励磁手段の出現が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来のサイクロコンバータにより巻線形誘導発電機の二次側を励磁して発電を行なうシステムにおいては、発電機の容量が大きくなり、電圧歪が比較的大きく、また送電線系統事故時における対策が考慮されておらず、送電系統に並入して運用する場合に安定的に品質のよい電力を供給することができないという問題があった。
【0009】本発明の目的は、発電機の容量を低減でき、かつ発電時の電圧歪が少なく、しかも送電線系統事故時等の異常時においても励磁手段の保護を確実に行ない安定に動作して品質のよい電力を送電系統に供給することが可能な極めて信頼性の高い巻線形誘導発電機の運転制御装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために本発明では、一次巻線および二次巻線を備えた巻線形誘導発電機の一次巻線を変圧器を介して送電系統に接続し、その二次巻線を励磁手段により励磁して発電を行ない、送電系統に電力を供給する巻線形誘導発電機の運転を制御する装置において、巻線誘導発電機の二次巻線に接続され、直流母線から電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換し二次巻線に供給するインバータと、交流電力を直流電力に変換して直流母線に直流電力を供給するコンバータと、直流母線に設置された直流コンデンサと、直流母線に設置されたチョッパと、送電系統における事故発生を検出すると、直流母線電圧の上昇を抑制するようにコンバータ、および必要に応じてインバータを制御する制御手段と、直流母線の電圧の異常上昇を検出すると、当該直流電圧の上昇を抑制するようにチョッパを制御するチョッパ制御手段とを備えて構成している。
【0011】
【作用】本発明による巻線形誘導発電機の運転制御装置において、定常状態の発電を行なう場合には、コンバータは直流母線の電圧を一定に維持するように制御されるため、コンバータでは巻線誘導発電機の二次側に誘起される有効電力だけが交流線側に流れるようになる。これにより、巻線形誘導発電機の一次巻線は、従来のサイクロコンバータによる方式で必要であった無効電力の供給が、コンバータを用いた方式では不要となり、その結果、巻線形誘導発電機の容量をサイクロコンバータ方式に比べて小さくすることができる。また、コンバータは、通常PWM制御方式で運転するため、交流線に流れる電流にはほとんど高調波成分が含まれなく、その結果、発電電圧の電圧歪を格段に低減することができる。
【0012】一方、送電系統等に事故が発生した場合には、コンバータへの通常のゲート信号により、直流母線の電圧が上昇するのを、防止するよう制御する。また、送電系統事故時における発電機の一次電圧が所定値より小さい場合場合には、コンバータの通常のゲート信号を停止するためにコンバータによる直流電圧維持機能が失われて直流電圧が上昇しようとするが、この場合は、第2段階として、チョッパをオンオフさせて直流電圧の上昇を抑制するように制御する。さらに、チョッパによる直流電圧上昇抑制にも関わらずさらに直流電圧が上昇しようとした場合には、第3段階として、インバータを構成するスイッチ素子を同時にオンするように制御することにより、巻線形誘導発電機の二次巻線がインバータを構成する素子を介して短絡される形となり、二次巻線の電流は直流コンデンサに流れ込まなくなり、直流電圧の上昇を防止することができる。
【0013】以上により、送電系統事故等において、巻線形誘導発電機の二次励磁用の励磁手段に、直流母線電圧の上昇による高電圧が印加されようとした時にも、コンバータによる直流電圧制御、チョッパ制御、そしてインバータの短絡モード制御等が複合作用して、直流電圧の異常な上昇を確実に防止できることから、送電系統事故等の異常時における励磁手段の保護を確実に行なえることになり、定常状態、送電線事故の過渡現象時とも安定に動作して信頼性の高い品質のよい電力を送電系統に供給することができる。換言すれば、可変速発電システムを系統に並入して運転する場合の信頼性を高めることができる。
【0014】
【実施例】以下、本発明の一実施例について詳細に説明する。
【0015】図1は、本発明による巻線形誘導発電機の運転制御装置の全体構成例を示す図である。図1において、1,2,3,4はインダクタンス,抵抗,浮遊容量が分布する送電線、5は送電線1,2,3,4のさらに先につながる電力系統、6,7,8,9は送電線事故時に事故区間の送電線を切り離して送電線1,2,3,4を保護するしゃ断器である。また、発電プラント10は、主変圧器11を介して巻線形誘導発電機12の一次巻線を送電系統13に接続して構成している。
【0016】一方、運転制御装置は、基本的には、巻線形誘導発電機12の二次巻線に接続され、直流母線13P,13Nから電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換し、巻線形誘導発電機12の二次巻線に励磁電流を供給するインバータ14と、インバータ14の直流母線13P,13Nに設置された抵抗151とスイッチ素子152で構成されるチョッパ回路15と、上記直流母線13P,13Nに設置された直流コンデンサ16と、巻線形誘導発電機12の一次巻線側から変圧器17を介して電力供給を受け、交流電力を直流電力に変換して直流母線13P,13Nに直流電力を供給するコンバータ18とからなっている。
【0017】さらに、本実施例では、以下の各要素を付加してなっている。すなわち、19U,19V,19Wは巻線形誘導発電機12の二次電流を検出する二次電流検出器、20は直流母線13P,13Nの電圧を検出し直流電圧検出信号Edfを出力する直流電圧検出器、21U,21V,21Wはコンバータ18の電流を検出するコンバータ電流検出器である。
【0018】また、22は巻線形誘導発電機12の一次電圧を絶縁して制御回路に導くための電圧検出用変圧器、30は巻線形誘導発電機12の一次電圧位相Θ1 を検出する電圧位相検出器、31は巻線形誘導発電機12の回転子の位相Θr を検出する回転子位相検出回路、32は一次電圧位相Θ1 と回転子位相Θr とから、巻線形誘導発電機12の二次電圧位相Θ2 を演算する演算器である。
【0019】一方、40は巻線形誘導発電機12の一次巻線電圧を電圧検出用変圧器22を介して導入し、送電線等の事故時における一次巻線電圧の変化を監視して事故時に第1の事故信号40Sを出力する第1の事故検出器であり、その詳細を図2に示す。すなわち、図2において、41は演算器であり、巻線形誘導発電機12の三相交流の一次電圧を導入し、合成ベクトルの振幅値として表わされる一次電圧信号E1s´を出力する。42はフィルタであり、一次電圧信号E1s´が交流成分を含む場合に、この交流成分を必要レベルまで除去して第1の一次電圧信号E1sとして出力する。43は設定器であり、第1設定レベルV1sを設定する。44は比較器であり、第1の一次電圧信号E1sと第1設定レベルV1sとを比較し、信号E1sが信号V1sより小さくなった時に第1の事故信号40Sを出力する。この第1の事故信号40Sは後述するコンバータ制御ロジックに作用し、事故時におけるコンバータ18の運転の可否を決定するのに用いられる。
【0020】また、50は巻線形誘導発電機12の一次巻線電圧を電圧検出用変圧器22を介して導入し、送電線等の事故時における一次巻線電圧の変化を監視して事故時に第2の事故信号50Sを出力する第2の事故検出器であり、その詳細を図3に示す。すなわち、図3において、51は演算器であり、巻線形誘導発電機12の三相交流の一次電圧を導入し、合成ベクトルの振幅値として表わされる第2の一次電圧信号E2sを出力する。52は設定器であり、第2設定レベルV2sを設定する。53は比較器であり、第2の一次電圧信号E2sと第2設定レベルV2sとを比較し、信号E2sが信号V2sより小さくなった時に第2の事故信号50Sを出力する。この第2の事故信号50Sは後述するインバータ制御ロジックに作用し、事故時におけるインバータ14の運転の可否を決定するのに用いられる。
【0021】ここで、送電系統に雷害等による事故が発生した時に第1の事故検出器40がどのように動作するか、図2を用いて説明する。すなわち、図1の送電線3のA等において雷害が発生した場合、事故のほとんどは三相送電線の総てが地絡(三相地絡:3LG)するか、あるいは三相送電線の内の一相が地絡(一相地絡:1LG)するか、等の事故である。図2(a)は送電線に三相地絡事故が発生した場合の各個所の信号波形である。時点t1 で送電線に三相地絡が発生すると三相間が総て短絡されるため一次電圧信号E1s´は急激に減少し事故後の電圧は小さい値で検出される。図2(b)は送電線に一相地絡事故が発生した場合の各個所の信号波形である。一相地絡では地絡をまぬがれた相の電圧が残るが、電圧が強い不平衡になるため一次電圧信号E1s´は図示のように送電線周波数の2倍で振動する形で検出され、事故後の電圧はある程度大きい値で検出される。図2の第1の事故検出器40では、三相地絡事故等の重事故で図に示すように第1の一次電圧信号E1sが極端に低下した場合には第1の事故信号40Sを発生するが、一方一相地絡事故等の軽事故で図に示すように第1の一次電圧信号E1sがある程度大きく検出される状態では第1の事故信号40Sを発生しないように第1の設定レベルV1sが設定される。
【0022】また、送電系統に雷害等による事故が発生した時に第2の事故検出器50がどのように動作するか、図3を用いて説明する。図3(a)は送電線に三相地絡事故が発生した場合の各個所の信号波形である。時点t1 で送電線に三相地絡が発生すると三相間が全て短絡されるため第2の一次電圧信号E2sは急激に減少し事故後の電圧は小さい値で検出される。図3(b)は送電線に一相地絡事故が発生した場合の各個所の信号波形である。一相地絡では地絡をまぬがれた相の電圧が残るが、電圧が強い不平衡になるため第2の一次電圧信号E2sは図示のように送電線周波数の2倍で振動する形で検出され、事故後の電圧はある程度大きい値で検出される。図3の第2の事故検出器50では、三相地絡事故等の重事故で図2(a)に示すように第2の一次電圧信号E2sが極端に低下した場合、一相地絡事故等の軽事故で図2(b)に示すように第2の一次電圧信号E2sがある程度大きく検出される場合の両方とも、第2の事故信号50Sを発生するように第2の設定レベルV2sが設定される。
【0023】一方、100はインバータ14が巻線形誘導発電機12の二次巻線に所定の二次電流を供給するようにインバータ14を制御するインバータ制御回路であり、巻線形誘導発電機12の二次巻線に供給すべき二次電流指令値I2 が与えられる。このインバータ制御回路100において、102は演算器であり、巻線形誘導発電機12の交流量の二次電流を直流量の二次電流信号I2fに変換する。103は演算器であり、電流指令値I2 と二次電流信号I2fとの誤差△I2 を検出する。104は増幅器であり、誤差△I2 を増幅して電圧指令V2 を出力する。110はインバータゲート回路であり、電圧指令V2 と巻線形誘導発電機12の二次電圧位相Θ2 を受けて動作し、インバータ14の出力電圧の周波数が二次電圧位相Θ2 で規定され、大きさが電圧指令V2 で指示された電圧を発生するようにインバータ14のスイッチ素子141U〜141Zの制御信号110U〜110Zを発生する。
【0024】120は第2の事故検出信号50Sを受けた時にインバータ14への通常のゲート制御信号を抑制し、短絡モード信号204Sを受けた時にインバータ14を構成するスイッチ素子141U,141V,141W(あるいはスイッチ素子141X,141Y,141Z)に、同時にオン指令を供給するように制御するインバータ制御ロジックであり、その詳細を図4に示す。図4R>4において、121U〜121Zはアンド回路であり、一方の入力には前述のインバータゲート回路110から発生される制御信号110U〜110Zが入力され、他方の入力には前述の第2の事故検出信号50Sが導入されており、第2の事故信号50Sが発生した時には制御信号110U〜110Wがアンド回路を通過しないように作用する。122U〜122Wはオア回路であり、アンド回路121U,121V,121Wの出力と短絡モード信号204Sを入力とし、短絡モード信号204Sが発生した時にゲート信号100U,100V,100Wに強制的にオン信号が出力されるように作用する。
【0025】ここで、送電線事故時においては、時系列的には最初に、第2の事故信号50Sが発生され、その後短絡モード信号204Sが発生されるようになっており、従って事故時には、まず第2の事故信号50Sにより制御信号110U〜110Zの通過が禁止されインバータは停止する。その後、短絡モード信号204Sが発生された場合には、ゲート信号100U,100V,100Wには強制的にオン信号が出力され、ゲート信号100X,100Y,100Zにはオフ信号が出力されるようになっているので、短絡モード信号204S発生時にはインバータ14を構成するスイッチ素子の141U,141V,141Wが同時にオンになり、これにより巻線形誘導発電機12の二次巻線は素子141U,141V,141Wと素子142U,142V,142Wを介して短絡される形となる。
【0026】なお、図4の例では、オア回路122U,122V,122Wをアンド回路121U,121V,121Wの後ろに設けているが、これをアンド回路121X,121Y,121Zの後ろに設けることもできる。この場合には、短絡モード信号204Sの発生と同時に、ゲート信号100X,100Y,100Zには強制的にオン信号が出力され、ゲート信号100U,100V,100Wにはオフ信号が出力される。
【0027】一方、200は直流母線13P,13Nの電圧に応じてチョッパ15をオンオフさせ、直流母線電圧の上昇を抑制するようにチョッパ15を制御するチョッパ制御回路であり、直流電圧検出器20で検出した直流電圧検出値Edfが入力される。このチョッパ制御回路200において、204は比較器であり、第1設定レベルVd1、第2設定レベルVd2、第3設定レベルVd3と、直流電圧検出値Edfとを図5に示す如く比較し、チョッパゲート信号205S、短絡モード信号204Sを発生する。図5は、時点t1 において送電線に事故が発生し、インバータが停止したために巻線形誘導発電機の二次電流が直流コンデンサを充電して電圧が上昇し、チョッパが動作した時の比較器204の動作を説明したものであり、Vd1,Vd2,Vd3はそれぞれ第1、第2、第3の設定レベル、Edfは直流電圧検出値、205Sはチョッパゲート信号、204Sは短絡モード信号の動きをそれぞれ表わしている。
【0028】すなわち、時点t1 で送電線に事故が発生して直流電圧Edfが上昇を開始すると、時点t2 にて直流電圧Edfが第2の設定レベルVd2に達するのを検知してチョッパ信号205Sを発生し、チョッパ15をオンする。チョッパ15がオンすると、直流コンデンサ16の電荷がチョッパ15を通して放電し直流電圧Edfは減少する。直流電圧Edfが減少し、時点t3 で直流電圧Edfが第1の設定レベルVd1に達するのを検知してチョッパ信号205Sを消滅させ、チョッパ15をオフする。チョッパ15がオフすると、再び直流電圧が上昇する。以上、巻線形誘導発電機12の二次巻線から直流コンデンサ16に流れ込む電流が比較的小さい場合は、直流電圧Edfは、チョッパ信号205Sによるチョッパ15のオンオフの過程を通して、第1,第2の各設定レベルVd1,Vd2の間に維持される。
【0029】また、送電線の重事故の場合等で、直流コンデンサ16に流れ込む電流が大きく、チョッパ15をオンしてもさらに直流電圧Edfが上昇した場合について説明する。すなわち、図5において、時点t4 でチョッパ15がオンした後も、さらに直流電圧dfが上昇した場合には、時点tにおいて直流電圧Edfが第3の設定レベルVd3に一致するのを検知して短絡モード信号204Sを発生する。短絡モード信号204Sが発生されると、当該信号が図4のインバータ制御ロジック120の中に導入され、インバータ14のスイッチ素子141U,141V,141Wが強制的にオンされる。これにより、巻線形誘導発電機12の二次巻線電流は直流コンデンサ16に流れ込まなくなり、従って図5の時点t5 以降、直流電圧は減少する。さらに、時点t6 において、直流電圧Edfが第1の設定レベルVd1に一致するのを検知して、短絡モード信号204Sを消滅させ、インバータ14のスイッチ素子141U,141V,141Wのオンゲートを停止すると再び、巻線形誘導発電機12の二次巻線電流が直流コンデンサ16に流れ込むようになり、直流電圧が上昇する。以上、送電線の重事故等で巻線形誘導発電機12の二次巻線から直流コンデンサ16に流れ込む電流が大きく、チョッパ15による直流電圧上昇抑制にもかかわらず電圧が上昇する場合には、インバータ14を構成する素子を選択して強制的にオンにすることにより、直流コンデンサ16への流入電流をしゃ断できるため、直流電圧が第3の設定レベルVd3を越えて上昇するのを防止できる。
【0030】一方、300はコンバータ18が直流母線13P,13Nの直流電圧を所定値に保つようにコンバータ18を制御するコンバータ制御回路であり、直流母線13P,13Nの維持されるべき直流電圧の指令値Ed が与えられる。このコンバータ制御回路300において、302は演算器であり、直流電圧指令値Ed と直流電圧検出値Edfとの誤差△Ed を検出する。303は増幅器であり、誤差△Ed を増幅してコンバータ電流指令Iを出力する。305は演算器であり、コンバータ18の交流量のコンバータ電流を、直流量のコンバータ電流検出信号Icfに変換する。304は演算器であり、コンバータ電流指令Iとコンバータ電流検出信号Icfとの誤差△Icを検出する。306は増幅器であり、誤差△Icを増幅してコンバータ電圧指令Vを出力する。310はコンバータゲート回路であり、コンバータ電圧指令Vと巻線形誘導発電機12の一次電圧位相Θ1 を受けて動作し、コンバータ18の出力電圧の周波数が一次電圧位相Θ1 で規定され、大きさが電圧指令Vで指示された電圧を発生するようにコンバータ18のスイッチ素子181U〜181Zの制御信号310U〜310Zを発生する。
【0031】320は第1の事故検出信号40Sを受けた時にコンバータ18への通常のゲート制御信号を抑制するコンバータ制御ロジックであり、その詳細を図6に示す。図6において、321U〜321Zはアンド回路であり、一方の入力には前述のインバータゲート回路310から発生される制御信号310U〜310Zが入力され、他方の入力には前述の第1の事故検出信号40Sが導入されており、第1の事故信号40Sが発生した時には制御信号310U〜310Zの通過を禁止してコンバータ18を停止するようになっている。
【0032】次に、以上のように構成した本実施例の巻線形誘導発電機の運転制御装置の全体的な作用について説明する。
【0033】まず、巻線形誘導発電機12が送電系統13に並入され、電力系統に発電電力を送出している定常状態での作用は次のようになる。
【0034】図1において、巻線形誘導発電機12の二次巻線が、電流指令値I2 に基づいて制御されるインバータ14により二次励磁され、インバータ14の直流母線13P,13Nには直流コンデンサ16が接続され、さらに巻線形誘導発電機12の一次巻線から交流電力を受けて直流電力に変換するコンバータ18が接続され、コンバータ18が直流母線電圧を直流電圧指令値Ed に一致するように制御しているので、巻線形誘導発電機12の一次巻線には周波数が送電線周波数に等しい電圧が発生され、電力が主変圧器11を介して送電系統13に供給される。
【0035】ところで、前述した従来のサイクロコンバータを二次励磁源に用いた可変速発電システムでは、サイクロコンバータが入力電源側に大きな無効電力を発生し、この無効電力が巻線形誘導発電機12の一次巻線から供給されねばならないため、巻線形誘導発電機12の容量が大きくなること、およびサイクロコンバータの入力電流には多くの高調波が含まれるため、これが原因して発電電圧を歪ませる原因になっている。これに対して、本実施例では、コンバータ18は直流母線13P,13Nの電圧を一定に維持するように制御されているので、コンバータ18では巻線誘導発電機15の二次側に誘起される有効電力だけが交流線21U〜21W側に流れるようになり、従って、巻線形誘導発電機12の一次巻線は従来のサイクロコンバータによる方式で必要であった無効電力の供給が、コンバータ18を用いた方式では不要となり、その結果、巻線形誘導発電機12の容量をサイクロコンバータ方式に比べて小さくできる。また、コンバータ18は通常、PWM制御方式で運転するため、交流線21〜21Wに流れる電流にはほとんど高調波成分が含まれず、その結果、発電電圧の電圧歪を格段に低減できる。
【0036】次に、送電系統11等に事故が発生した場合の作用は次のようになる。
【0037】すなわち、インバータ14とコンバータ18を結ぶ直流母線13P,13Nにはチョッパ15が設置され、チョッパ制御回路200の中には、直流母線13P,13Nの電圧に応じてチョッパ15のオンオフを制御し直流電圧の上昇を抑制するためのチョッパ15のゲート信号205Sと、チョッパ15による直流電圧上昇抑制手段にもかかわらず、さらに直流電圧が上昇した場合には、これを検知して短絡モード信号204Sを発生する比較器204が設置され、さらに送電系統11等における事故発生を検出する第1、第2の事故検出器40、50が設置されて第1の事故信号40Sと第2の事故信号50Sが得られ、これらの信号がそれぞれコンバータ制御ロジック320とインバータ制御ロジック120に作用するようになっている。
【0038】ところで、前述した従来のサイクロコンバータによる二次励磁を行なう可変速発電システムでは、送電系統に雷害等による事故が発生した時に次のような不具合が起こる。すなわち、雷害で送電線に短絡事故等が発生して送電線に逆相成分がのり、サイクロコンバータが運転不能になって停止すると、この逆相分に起因する高電圧が二次巻線に誘起され、この高電圧がサイクロコンバータを構成するサイリスタ素子に印加されるため、サイリスタの電圧破壊を引き起こす場合がある。従って、図7に示したシステムでは、雷害等がひんぱんに発生する電力系統に並入して運転する場合には、この点を十分注意して運用しなければならない。これに対して、本実施例では、送電線等に事故が発生した時に次のように作用する。まず、第2の事故検出器50が送電線事故を検出した時は、第2の事故信号50Sによりインバータ14への通常のゲート信号を停止する。この状態では、巻線形誘導発電機12の二次巻線電流は、インバータ14を構成するダイオード142U〜142Zを通して流れて直流コンデンサ16を充電し、直流コンデンサ電圧が上昇しようとする。このような状態では、もしコンバータ18が停止されると、直流コンデンサ電圧を一定値に維持する機能が失われ、直流電圧はインバータ14、コンバータ18を構成するスイッチ素子を破壊する値にまで上昇する。そこで、このような事態を避けるために、本実施例では次のように作用して直流電圧の上昇が防止される。
【0039】すなわち、送電線事故時には、前述の第2の事故検出器50と同時に、第1の事故検出器40が送電線事故を検出しており、第1の事故検出器40では発電機の一次電圧が所定値よりも小さくなった場合には第1の事故信号40Sを発生するが、発電機の一次電圧が所定値より大きい場合には第1の事故信号40Sを発生しないように構成され、この第1の事故信号40Sが発生した場合にコンバータ18への通常のゲート信号を停止するようになっている。従って、送電線事故時において、発電機の一次電圧が所定値より大きい場合で第1の事故信号40Sが発生しない場合には、第1段階として、直流母線の電圧が上昇しようとするのを通常のコンバータによる電圧制御により電圧上昇を防止するように制御される。
【0040】次に、送電線事故時における発電機の一次電圧が所定値より小さい場合で、第1の事故信号40Sが発生した場合には、コンバータ18の通常のゲート信号を停止するためにコンバータ18による直流電圧維持機能が失われて直流電圧が上昇しようとするが、この場合は、第2段階として、チョッパ制御回路200の比較器204が直流電圧の上昇を検知し、チョッパ15をオンオフさせて直流電圧の上昇を抑制するように制御される。
【0041】次に、チョッパ15による直流電圧上昇の抑制にも関わらず、さらに直流電圧が上昇しようとした場合には、第3段階として、この直流電圧の上昇をチョッパ制御回路200の中の比較器204で検知して短絡モード信号204Sを発生し、この信号によりインバータ14を構成するスイッチ素子141U,141V,141W(またはスイッチ素子141X,141Y,141Z)を、同時にオンするように制御される。このような状態では、巻線形誘導発電機12の二次巻線がインバータ14を構成する素子141U,141V,141W,142U,142V,142W(あるいは素子141X,141Y,141Z,142X,142Y,142Z)を介して短絡される形となり、従って、二次巻線の電流は直流コンデンサ16に流れ込まなくなり、直流電圧の上昇を防止できる。
【0042】このことから、本実施例による巻線形誘導発電機の運転制御装置では、送電系統事故等において巻線形誘導発電機12の二次励磁用の励磁手段に直流母線電圧の上昇による高電圧が印加されようとした時にも、コンバータ18による直流電圧制御、チョッパ制御、そしてインバータ14の短絡モード制御等が複合作用して、直流電圧の異常な上昇を確実に防止できることから、送電系統事故等の異常時における励磁手段の保護が確実に行なわれ、可変速発電システムを系統に並入して運転する場合の信頼性を高めることができる。すなわち、送電系統事故時等における励磁手段の保護が確実に行なえることから、定常状態、送電線事故の過渡現象時とも安定に動作して、信頼性の高い品質のよい電力を送電系統13に供給できる。
【0043】上述したように、本実施例では、巻線形誘導発電機12の二次巻線に接続され直流母線13Pから電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換して巻線形誘導発電機12の二次巻線に励磁電流を供給するインバータ14と、インバータ14の直流母線に設置されたチョッパ回路15と、直流母線に設置された直流コンデンサ16と、巻線形誘導発電機12の一次巻線側から変圧器11を介して電力供給を受け交流電力を直流電力に変換して直流母線13Pに直流電力を供給するコンバータ18と、インバータ14が巻線形誘導発電機12の二次巻線に所定の二次電流を供給するようにインバータ14を制御するインバータ制御回路100と、コンバータ18が直流母線13Pの直流電圧を所定値に保つようにコンバータを制御するコンバータ制御回路300と、直流母線13Pの電圧に応じてチョッパ15をオンオフさせて直流母線電圧の上昇を抑制するようにチョッパを制御するチョッパ制御回路200とチョッパ制御回路200内においてチョッパによる直流電圧上昇抑制手段にもかかわらずさらに直流電圧が上昇したことを検知してインバータに短絡モード信号204Sを発生する比較器204と、巻線形誘導発電機12の一次巻線電圧を電圧検出変圧器22を介して導入し送電線等の事故時における一次巻線電圧の変化を監視して事故時に第1の事故信号40Sを出力する第1の事故検出器40と、巻線形誘導発電機12の一次巻線電圧を電圧検出変圧器22を介して導入し送電線等の事故時における一次巻線電圧の変化を監視して事故時に第2の事故信号50Sを出力する第2の事故検出器50と、インバータ制御回路100内において第2の事故検出信号50Sを受けた時にインバータへの通常のゲート制御信号を抑制し、短絡モード信号204Sを受けた時にインバータ14を構成するスイッチ素子141U、141V、141W(あるいはスイッチ素子141X,141Y,141Z)に同時にオン指令を供給するよう制御するインバータ制御ロジック120と、コンバータ制御回路300内において第1の事故検出信号40Sを受けた時にコンバータ18への通常のゲート制御信号を抑制するコンバータ制御ロジック320とから構成するようにしたものである。
【0044】従って、巻線誘導発電機12の容量を低減でき、かつ発電時の電圧歪が少なく、しかも送電線系統事故時等の異常時においても励磁手段の保護を確実に行ない、定常状態時、過渡現象時とも安定に動作して品質のよい電力を送電系統13に供給することが可能となる。
【0045】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、巻線誘導発電機の二次巻線を励磁する励磁手段を、直流母線から電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換し二次巻線に供給するインバータと、巻線誘導発電機の一次巻線側から変圧器を介して電力供給を受け交流電力を直流電力に変換して直流母線に直流電力を供給するコンバータと、直流母線に設置された直流コンデンサと、抵抗とスイッチング素子からなり、直流母線に設置されたチョッパとから構成するようにしたので、発電機の容量を低減でき、かつ発電時の電圧歪が少なく、しかも送電線系統事故時等の異常時においても励磁手段の保護を確実に行ない安定に動作して品質のよい電力を送電系統に供給することが可能な極めて信頼性の高い巻線形誘導発電機の運転制御装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による巻線形誘導発電機の運転制御装置の一実施例を示す構成図。
【図2】同実施例における第1の事故検出器の機能を説明するための図。
【図3】同実施例における第2の事故検出器の機能を説明するための図。
【図4】同実施例におけるインバータ制御ロジックの機能を説明するための図。
【図5】同実施例におけるチョッパ制御回路の機能を説明するための図。
【図6】同実施例におけるコンバータ制御ロジックの機能を説明するための図。
【図7】従来のサイクロコンバータを用いた可変速発電システムの構成例を示すブロック図。
【符号の説明】
1,2,3,4…送電線、5…電力系統、6,7,8,9…しゃ断器、10…発電プラント、11…主変圧器、12…巻線形誘導発電機、13…送電系統、13P,13N…直流母線、14…インバータ、15…チョッパ回路、151…抵抗、152…スイッチ素子、16…直流コンデンサ、17…変圧器、18…コンバータ、19U,19V,19W…二次電流検出器、20…直流電圧検出器、21U,21V,21W…コンバータ電流検出器、22…電圧検出用変圧器、30…電圧位相検出器、31…回転子位相検出回路、32…演算器、40…第1の事故検出器、50…第2の事故検出器、100…インバータ制御回路、120…インバータ制御ロジック、200…チョッパ制御回路、204…比較器、300…コンバータ制御回路、320…コンバータ制御ロジック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一次巻線および二次巻線を備えた巻線形誘導発電機の一次巻線を変圧器を介して送電系統に接続し、その二次巻線を励磁手段により励磁して発電を行ない、前記送電系統に電力を供給する巻線形誘導発電機の運転を制御する装置において、前記巻線形誘導発電機の二次巻線に接続され、直流母線から電力供給を受けて直流電力を交流電力に変換し前記二次巻線に供給するインバータと、交流電力を直流電力に変換して前記直流母線に直流電力を供給するコンバータと、前記直流母線に設置された直流コンデンサと、前記直流母線に設置されたチョッパと、前記送電系統における事故発生を検出すると、前記直流母線電圧の上昇を抑制するように前記コンバータ、および必要に応じてインバータを制御する制御手段と、前記直流母線の電圧の異常上昇を検出すると、当該直流電圧の上昇を抑制するように前記チョッパを制御するチョッパ制御手段とを備えて構成したことを特徴とする巻線形誘導発電機の運転制御装置。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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