説明

布袋装着めっき電極、該電極を用いるクロムめっき方法、及び、該方法で製造したクロムめっき鋼板

【課題】めっき層中の不可避的不純物の量を抑制し、さらに、クロム付着量を制御することにより、表面に疵がなく、塗料やフィルムとの密着性に優れ、かつ、高速で溶接可能な溶接性を備えるめっき被膜を、鋼板表面に形成することができるめっき方法を提供する。
【解決手段】電極面3に布袋8を装着した布袋装着めっき電極1を用い、浴温35〜60℃、浴中の硫酸根(SO42-)90ppm以下のフッ酸系クロムめっき浴中で、電流密度1.0〜9.0A/dm2で鋼板表面にめっき被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムめっき鋼板の製造に用いる電極、該電極を用いるクロムめっき方法、及び、該方法で製造したクロムめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板をワイヤーシーム抵抗溶接で溶接した溶接缶は、食品や飲料を、安全に、長期間、貯蔵できるので、食品・飲料市場で、長年に渡り広く使用されている。しかし、近年、“食”の安全に対する消費者の意識が高まり、溶接缶に対し、一層の品質向上が求められている。
【0003】
アルミ缶、PETボトル、紙容器、ガラス容器等が流通している食品・飲料市場において、溶接缶をより普及させるためには、溶接缶自体の品質を高めることに加え、生産効率を上げて、製缶コストを低減することが必要である。
【0004】
そこで、近年、製缶工程において大幅な生産効率の向上を図るため、鋼板表面に、塗装・印刷を施す替りに、有機フィルムを積層したラミネート鋼板が用いられるようになってきた(特許文献1、参照)。
【0005】
溶接缶用鋼板には、通常、塗料やフィルムとの密着性、及び、高速で溶接可能な溶接性、さらには、内容物に対する耐食性等が要求されるが、現在、鋼板上に、クロムめっき被膜とクロム水和酸化物被膜を備えるクロメート処理鋼板(TFS:ティンフリー鋼板)が普及している(特許文献2及び3、参照)。
【0006】
しかし、最表層のクロム水和酸化物層は絶縁体であり、また、金属クロム層は電気抵抗が高いので、両層は、溶接性を阻害する要因となる。また、クロメート被膜表面の疵や、クロメート被膜中の不純物は、塗料やフィルムとの密着性を阻害する要因となる。
【0007】
それ故、クロメート処理鋼板において、塗料やフィルムとの密着性、及び、高速で溶接可能な溶接性を確保するためには、被膜品質及びクロム付着量を適確に制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−096083号公報
【特許文献2】特開2005−029809号公報
【特許文献3】特開2004−332048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、クロメート処理鋼板やクロムめっき鋼板において、被膜表面に疵を発生させず、塗料やフィルムとの密着性、及び、高速で溶接可能な溶接性を確保するためには、めっき浴からめっき被膜に不可避的に混入するスラッジ(不純物)の量を極力抑制する(被膜品質の確保)とともに、クロム付着量を適確に制御する(溶接性の確保)ことが必要である。
【0010】
そこで、本発明は、めっき層中の不可避的不純物の量を極力抑制し、さらに、クロム付着量を制御することにより、表面に疵がなく、塗料やフィルムとの密着性に優れ、かつ、高速で溶接可能な溶接性を備えるめっき被膜を、鋼板表面に形成することを課題とし、該課題を解決するめっき手法、及び、上記課題を解決したクロムめっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するめっき手法について鋭意検討した。その結果、めっき電極の表面に布袋を装着すると、布袋が電極面から発生するスラッジを捕集して、スラッジの混入に起因する表面疵の発生が極力抑制されることを見いだした。
【0012】
さらに、めっき浴への硫酸根(SO42-)の混入量、めっき浴温度、及び、電流密度の3条件を、適正に設定すれば、めっき被膜に混入するスラッジの量をさらに低減することができ、表面に疵がなく、かつ、塗料やフィルムとの密着性、及び、高速で溶接可能な溶接性を備えるめっき被膜を、鋼板表面に形成できることを見いだした。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0014】
(1)電気めっき用の電極であって、電極面に布袋が装着されていることを特徴とする布袋装着めっき電極。
【0015】
(2)前記布袋が、電極の長手方向に、複数の布袋に分割されていることを特徴とする前記(1)に記載の布袋装着めっき電極。
【0016】
(3)前記複数の布袋が2〜6個の布袋であることを特徴とする前記(2)に記載の布袋装着めっき電極。
【0017】
(4)前記布袋が、電極に形成した孔に通した紐で、電極面に装着されていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の布袋装着めっき電極。
【0018】
(5)浴温35〜60℃、浴中の硫酸根(SO42-)90ppm以下のフッ酸系クロムめっき浴で、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の布袋装着めっき電極を用い、電流密度1.0〜9.0A/dm2で鋼板表面にめっき被膜を形成することを特徴とするクロムめっき方法。
【0019】
(6)前記めっき被膜の形成を、電極の積算電気量3.0×108C/dm2以下で行うことを特徴とする前記(5)に記載のクロムめっき方法。
【0020】
(7)前記めっき被膜が、表面に疵がなく、かつ、フィルム密着性と溶接性に優れた被膜であることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載のクロムめっき方法。
【0021】
(8)前記めっき被膜がクロメート被膜であることを特徴とする前記(7)に記載のクロムめっき方法。
【0022】
(9)前記クロメート被膜のクロム付着量が3〜7mg/m2であることを特徴とする前記(8)に記載のクロムめっき方法。
【0023】
(10)前記(5)〜(9)のいずれかに記載のクロムめっき方法で製造したことを特徴とするクロムめっき鋼板。
【0024】
(11)前記クロムめっき鋼板が、表面に疵がなく、かつ、フィルム密着性と溶接性に優れた溶接缶用Ni下地クロメート処理鋼板であることを特徴とする前記(10)に記載のクロムめっき鋼板。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被膜表面に疵がなく、塗料やフィルムとの密着性に優れ、かつ、高速で溶接可能な溶接性を備えるクロムめっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】布袋を装着する前のめっき電極の一態様を示す図である。
【図2】布袋を装着しためっき電極の一態様を示す図である。(a)は、めっき電極の正面態様を示し、(b)は、めっき電極の側面態様を示す。
【図3】布袋を装着しためっき電極の他の態様を示す図である。(a)は、めっき電極の正面態様を示し、(b)は、めっき電極の側面態様を示す。
【図4】電極に装着する布袋の数と、めっき被膜に塗装したときの外観(色むら)との関係を示す図である。
【図5】めっき浴温度(℃)とクロム付着量(mg/m2)の関係を示す図である。
【図6】ライン速度180mpm(一定)で、めっき浴温度が35〜60℃(管理温度域に相当)の場合における、めっき電流(kA)とクロム付着量(mg/m2)の関係示す図である。
【図7】めっき電流が5.0kA(現行)の場合における、クロム付着量に対する硫酸根SO42-の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
最初に、本発明の布袋装着めっき電極(以下「本発明電極」ということがある。)について、図面に基づいて説明する。
【0028】
本発明電極は、電極面に布袋が装着されていることを特徴とするものであるが、図1に、布袋を装着する前のめっき電極の一態様を示す。上部両端に取付け腕5を有する基板2の上に、電極3が張り付けられて、めっき電極1が構成されている。めっき電極1には、紐を通して布袋8を電極表面に装着する貫通孔4が形成されている。布袋8は、織布又は不織布で作製するが、サラシ(耐薬品性に優れた繊維)のものが好ましい。
【0029】
図2に、めっき槽に取り付けた本発明電極の一態様を示す。図2(a)に、本発明電極の正面態様を示し、図2(b)に、本発明電極の側面態様を示す。
【0030】
図2(a)に示すように、めっき槽の取付け台(図示なし)に、取付け腕5が載置されて固定されるめっき電極1に、布袋8に縫い付けた紐(図示なし)を貫通孔4に通すことにより、複数の切欠面6を有する布袋8が電極3に装着されている。即ち、図2(b)に示すように、めっき電極1の全体が、複数の切欠面6を有する布袋8で包まれる態様となる。
【0031】
電極3がPb系の電極であると、通常、めっきの進行とともに、電極3の表面に生成したPb酸化物が剥離して、スラッジ9(Pbのクロム酸化物)となってめっき液に混入し、めっき被膜の表面疵の原因となるが、本発明電極では、生成したスラッジ9のめっき液への混入が布袋8で阻止されて、電極面に沿って沈降し、布袋8の底部7に集積する。
【0032】
その結果、めっき液を長期にわたり清浄に維持することができ、めっき被膜における表面疵の発生を大幅に抑制することができる。
【0033】
布袋の底部に集積したスラッジは、定期的に回収されるが、スラッジは電気的な絶縁物であるので、大量に溜まると、電極の長手方向の電流密度が不均一になる。また、スラッジが、電極の幅方向で不均一に集積すると、電流密度が、電極の幅方向で不均一になり、めっき厚が、僅かであるが、幅方向で変化する。
【0034】
表面疵のないめっき被膜を形成することができても、めっき厚が微妙に変化すると、めっき被膜に塗装したとき、色むらが発生する。
【0035】
そこで、本発明者らは、電極の長手方向に、複数の布袋を装着して、スラッジの集積を、電極の長手方向及び幅方向において均一化した。図3に、電極面に複数の布袋を装着した本発明電極の態様を示す。図3(a)に、めっき電極の正面態様を示し、図3(b)に、めっき電極の側面態様を示す。
【0036】
めっき電極の正面態様は、図2(a)に示す正面態様と同じであるが、側面態様は、図3(b)に示すように、電極3に、底部7を備える複数の布袋8a、8b、8c、及び、8dを有する布袋8が装着されている。このように、電極面の長手方向に、複数の布袋を備えておくと、スラッジの堆積を、電極の長手方向及び幅方向で均一化することができるので、めっき厚の微妙な変化を防止して、色むらの発生を抑制することができる。
【0037】
スラッジの体積の均一化を図る点で、電極面に備える布袋の数は多いほうがよいが、多過ぎると、電極と布袋の間の空間が狭くなり、スラッジが電極面を覆うまでの時間が短くなって、布袋の取替頻度が増すことになる。
【0038】
図4に、電極に装着する布袋の数と、めっき被膜に塗装したときの外観との関係を示す。色むらが全くない場合を◎とし、色むらが極僅かある場合を○とし(いずれも合格)、色むらが僅かにある場合を△とし、色むらがある場合を×とした(いずれも不合格)。図4から、布袋の数が3以上になると、塗装後の外観が顕著に向上することが解る。布袋の数は、布袋の取替頻度の点から、6以下が好ましい。5以下がさらに好ましい。
【0039】
次に、本発明電極を用いるクロムめっき方法(以下「本発明めっき方法」ということがある。)について説明する。以下、溶接缶Ni下地クロメート処理鋼板にクロメート被膜を形成するめっきを例にとり説明する。
【0040】
浴温35〜60℃、浴中の硫酸根(SO42-)90ppm以下のフッ酸系クロムめっき浴で、本発明電極を用い、電流密度1.0〜9.0A/dm2でめっきを行うと、表面疵がないうえ、フィルムとの密着性が優れ、高速で溶接可能な溶接性を有するめっき被膜を、鋼板表面に形成することができる。
【0041】
溶接缶Ni下地クロメート処理鋼板のクロメート被膜において、クロム水和酸化物は絶縁体であり、また、金属クロムは電気抵抗が高いので、良好な溶接性を確保するためには、クロメート被膜のクロム量を、非常に狭い範囲、例えば、3〜7mg/m2の範囲で制御する必要がある。
【0042】
クロム水和酸化物は、めっき浴に溶解する特性を有しているので、クロム量を3〜7mg/m2の範囲に制御するのは容易でない。しかし、本発明者らは、フッ酸系クロムめっき浴の温度を35〜60℃に維持し、電流密度1.0〜9.0A/dm2でめっきを行うと、クロム付着量を、3〜7mg/m2の範囲内に容易に制御できることを見いだした。
【0043】
図5に、めっき浴温度(℃)とクロム付着量(mg/m2)の関係を示す。この関係は、ライン速度180mpm(一定)、めっき電流5.0kAで、めっき浴の温度を変えてめっきしたときのクロム付着量(mg/m2)を測定したものである。
図中、◇は、被膜に存在する全クロム(トータルクロム)の量を示す。
【0044】
通常、めっき浴の管理温度域は、35〜60℃であるが、これより低い温度域では、T−Cr量は、14mg/m2であり、3〜7mg/m2の上限7mgを超えている。
【0045】
一方、高い温度域(35〜60℃)では、T−Cr量は、4〜7mg/m2であり、3〜7mg/m2を確保できている。
【0046】
図6に、ライン速度180mpm(一定)で、めっき浴の温度を変えてクロムめっきを行ったときの、めっき電流(kA)とクロム付着量(mg/m2)の関係を示す。図6から、めっき電流を、5.0kAから9.0kAにあげると、クロムが異常に析出することが解る。
【0047】
しかし、本発明者らは、フッ酸系クロムめっき浴の温度を35〜60℃に維持し、電流密度1.0〜9.0A/dm2で、クロム付着量が安定な条件でめっきを行っていても、所要量のめっきを行った後、クロム付着量が急激に変動し始め、該変動が継続することを発見した。
【0048】
本発明者らは、クロム付着量のバラツキの原因について鋭意調査した。その結果、次のことが判明した。
【0049】
(i)クロム付着量のバラツキは、めっき鋼板の重量が所要の重量に達したときに始まる。
(ii)クロム付着量のバラツキが大きくなったときのめっき浴中の硫酸根SO42-の濃度は50ppmを超えている。
【0050】
上記(i)及び(ii)が、本発明めっき方法の基礎をなす知見である。
【0051】
上記知見(ii)について、さらに説明する。めっき浴中の硫酸根SO42-濃度は、経時的に増加すると考えられるので、本発明者らは、めっき浴の硫酸根SO42-濃度の経時的推移を調査した。その結果、ある時点で、硫酸根SO42-は90ppmを超え、この時点以降、クロム付着量が急激に変動して推移することが判明した。
【0052】
なお、めっき浴中のCrO4、Cr3+、及び、T−F(トータルフッ素)の各量は、SO42-濃度が90ppmを超えても、管理基準の範囲内にあることを、本発明者らは確認した。そこで、本発明者らは、クロム付着量に対する硫酸根SO42-の濃度の影響について検証した。
【0053】
同一被めっき材(板厚0.19mm×幅1024mm)に、浴温度35〜60℃、ライン速度180mpm、全電流5.0〜9.0kAで、電解クロムめっきを施し、SO42-濃度が低い時期と、SO42-濃度が高い時期において、クロム付着量を蛍光X線試験で測定し、その変動を調査した。
【0054】
図7に、めっき電流が5.0kA(現行)の場合における、クロム付着量に対する硫酸根SO42-の影響を示す。図7から、ライン速度180mpm(低速)、めっき電流5.0kAの条件において、硫酸根SO42-濃度が90ppmを超える領域にて、クロム付着量のバラツキが大きくなっていることが解る。
【0055】
以上の結果によれば、めっき浴の硫酸根SO42-濃度が、例えば、94ppmの高濃度域に達すると、水和クロム酸化物が生成し易くなるが、一方で、水和クロム酸化物は、めっき浴に溶け易いので、めっき進行中、クロム付着量は安定せず、バラツキが大きくなると考えられる。
【0056】
即ち、めっき浴の硫酸根SO42-濃度を、常に、90ppm以下に、確実には、50ppm以下に抑制しておけば、クロム付着量の変動を極力抑制して、クロム付着量が、常に、所要の範囲内で略一定、好ましくは、3〜7mg/m2の範囲で略一定のクロメート被膜を、鋼板表面に形成することができる。
【0057】
めっき浴中の硫酸根SO42-が、クロメート被膜中に、不可避的不純物として混入することは避けられないが、硫酸根SO42-濃度が、常に、90ppm以下に抑制されていることは明らかである。
【0058】
即ち、硫酸根SO42-が、常に、90ppm以下に抑制されているめっき浴で形成したクロメート被膜においては、(x)被膜中に不可避的に存在する硫酸根SO42-の濃度も、常に、90ppm以下に抑制されているので、被膜品質が向上し、塗料やフィルムとの密着性が向上し、さらに、(y)(x)に加え、クロム付着量が3〜7mg/m2であるので、高速での溶接を含む溶接性が顕著に向上する。
【0059】
これらの点が、本発明めっき方法の特徴である。
【0060】
クロメート被膜中の硫酸根SO42-が90ppmを超えると、クロム付着量の変動が大きくなり、被膜品質が低下し、塗料やフィルムとの密着性及び溶接性が低下する。それ故、硫酸根SO42-は90ppm以下とする。硫酸根は、少ないほど好ましいので、62ppm以下が好ましく、より好ましくは、50ppm以下である。
【0061】
クロム付着量が3mg/m2未満あると、クロム付着量が少なすぎて、塗料やフィルムとの密着性を、所要の水準に維持することができない。それ故、クロム付着量は、3mg/m2以上とする。
【0062】
一方、クロム付着量が7mg/m2を超えると、溶接性、特に、高速での溶接性が低下する。それ故、クロム付着量は7mg/m2以下とする。
【0063】
前記特徴を備えるクロメート被膜は、めっき浴温度35〜60℃、電流密度1.0〜9.0A/dm2、めっき浴中の硫酸根SO42-90ppm以下のフッ酸系クロムめっき浴で形成することができる。
【0064】
めっき浴温度が35℃未満であると、クロム付着量が7mg/m2を超えるので、めっき浴温度は35℃以上が好ましい。めっき浴温度が45℃を超えると、金属クロム量が増加し、被膜の溶接性を阻害するので、めっき浴温度は45℃以下が好ましい。
【0065】
電流密度が1.0A/dm2未満であると、充分なクロム付着量のクロメート被膜を形成することができないので、電流密度は、1.0A/dm2以上とする。電流密度が9.0A/dm2を超えると、金属クロムが異常に析出するので、電流密度は、9.0A/dm2以下とする。
【0066】
さらに、本発明めっき方法においては、めっき被膜の形成を、電極の積算電気量3.0×108C/dm2以下で行うことが好ましい。電極の積算電気量が、3.0×108C/dm2を超えると、めっき被膜の厚みが、僅かではあるが不均一になり、塗装をしたとき、色むらが発生することがある。それ故、電極の積算電気量は、3.0×108C/dm2以下が好ましい。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0068】
(実施例)
本発明電極を用い、硫酸根SO42-90ppm以下のめっき浴(発明例)、及び、硫酸根SO42-94ppmのめっき浴(比較例)で、電流密度5.0A/dm2で、クロメート被膜を形成し、クロム付着量に係る標準偏差(3σ)を調査した。その結果を図7に示す。図7から、本発明電極を用い、硫酸根SO42-90ppm以下のめっき浴で形成したクロメート被膜においては、クロム付着量が安定していることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0069】
前述したように、本発明によれば、表面疵がなく、かつ、塗料やフィルムとの密着性、及び、高速での溶接を含む溶接性に優れたクロムめっき鋼板を提供することができる。よって、本発明は、めっき鋼板製造産業において利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0070】
1 めっき電極
2 基板
3 電極
4 貫通孔
5 取付け腕
6 切欠面
7 底部
8 布袋
8a、8b、8c、8d 布袋
8’ 紐
9 スラッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっき用の電極であって、電極面に布袋が装着されていることを特徴とする布袋装着めっき電極。
【請求項2】
前記布袋が、電極の長手方向に、複数の布袋に分割されていることを特徴とする請求項1に記載の布袋装着めっき電極。
【請求項3】
前記複数の布袋が2〜6個の布袋であることを特徴とする請求項2に記載の布袋装着めっき電極。
【請求項4】
前記布袋が、電極に形成した孔に通した紐で、電極面に装着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の布袋装着めっき電極。
【請求項5】
浴温35〜60℃、浴中の硫酸根(SO42-)90ppm以下のフッ酸系クロムめっき浴で、請求項1〜4のいずれか1項に記載の布袋装着めっき電極を用い、電流密度1.0〜9.0A/dm2で鋼板表面にめっき被膜を形成することを特徴とするクロムめっき方法。
【請求項6】
前記めっき被膜の形成を、電極の積算電気量3.0×108C/dm2以下で行うことを特徴とする請求項5に記載のクロムめっき方法。
【請求項7】
前記めっき被膜が、表面に疵がなく、かつ、フィルム密着性と溶接性に優れた被膜であることを特徴とする請求項5又は6に記載のクロムめっき方法。
【請求項8】
前記めっき被膜がクロメート被膜であることを特徴とする請求項7に記載のクロムめっき方法。
【請求項9】
前記クロメート被膜のクロム付着量が3〜7mg/m2であることを特徴とする請求項8に記載のクロムめっき方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載のクロムめっき方法で製造したことを特徴とするクロムめっき鋼板。
【請求項11】
前記クロムめっき鋼板が、表面に疵がなく、かつ、フィルム密着性と溶接性に優れた溶接缶用Ni下地クロメート処理鋼板であることを特徴とする請求項10に記載のクロムめっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−149306(P2012−149306A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9055(P2011−9055)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)