説明

希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾル

【課題】一価の無機酸根が少なく、且つゾルとしての安定性に優れた希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルを得る。
【解決手段】メジアン径が10〜300nmであり、ヒドロキシカルボン酸を希土類元素M(但し、Mは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた希土類元素を示す)に対し、ヒドロキシカルボン酸/M(モル比)として0.05〜0.5の範囲で含有する希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルである。
この様な本発明のゾルは、一価の無機酸根を実質的に含有せず、或いは含有しても極めて少量であることから、焼結時に発生する不要なガスの生成もなく、炉体あるいは環境に対する悪影響のないゾルである。また、ゾルとして頗る安定なゾルが得られるため、希土類元素を用いる製品の性能向上に極めて有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一価の無機酸根が少なく、且つゾルとしての安定性に優れた希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)は特異な物理・化学的性質を有することから、IT関連や地球環境保全、エネルギー分野などの次世代を担う新規な材料として研究が盛んに行われている。工業的な応用製品としては、希土類元素化合物を用いた蛍光体が有名であり、このほかにも誘電体材料の特性調整剤として、あるいはセラミクスの焼結助剤として、また希土類元素の酸化物の屈折率が例えばY=1.87、La=1.95、CeO=2.20と高いことから、高屈折率材料としての応用例が知られている。
これらの用途に用いられる希土類元素の水酸化物や酸化物は、近年の電子セラミクス関連製品の微小化、高性能化の要求から微粒子化されたものが求められており、特に数百ナノメーター以下の、いわゆるナノ粒子が必要とされている。
【0003】
このような要求のもと、これまで希土類水酸化物ゾルの製造に関しては種々報告されている。例えば、希土類元素の塩水溶液と過剰量のアンモニアとの反応により、水酸化物ゲルを形成させた後、生成したアンモニウム塩を除去することにより希土類水酸化物のゾルを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、希土類元素の塩水溶液の中和、生成ゲルの洗浄、熱処理という単純な工程でゾルが得られるという利点を有し、経済的にも大量生産に適した方法である。しかしながら、この製造法によって得られるゾルは、原料に塩化物や硝酸塩等の無機酸塩を使用しているため、通常の中和工程だけでは原料に由来する塩素や硝酸イオン等の一価の無機酸根がゾル中に残留する。特に、元素番号の大きい重希土類元素(Ho、Er、Tm、Yb、Lu)は塩基性が強く、一価の無機酸根を強く吸着する性質が強いため、例えば重希土類元素の塩化物を出発原料とする場合には、塩素イオンの相当量の残存を避けることができない。
【0004】
従って、特許文献1に示すような従来法によって得られるゾルは、通常希土類元素の酸化物に対するモル比で0.1以上、重希土類では0.5以上の一価の無機酸根を含んでいるのが一般的である。例えば、希土類元素酸化物Mの平均的分子量を362とし、10質量%の酸化物を含む塩酸型のゾルを想定した場合には、ゾル中に含まれる塩酸量は約1000ppmとなる。これは希土類の元素の種類によって多少異なるが、これ以上の無機酸根の存在はいずれも望ましくなく、無機酸根量は出来るだけ少なくすることが望まれている。
【0005】
前述の通り、希土類元素の多くは、セラミックス材料や触媒用途にも利用されており、これら材料の焼結時に発生する塩素イオン由来の酸性ガスは炉体または環境に悪影響を及ぼす可能性があるだけでなく、製品の性能そのものを悪化させる原因ともなっている。そこで、特許文献1ではこれらの問題を解決するため、過剰量のアルカリ剤であるアンモニアを投与して脱酸根を行っているが、過剰量の添加であるために生産効率は著しく悪いものであり、その結果、製造されたゾルは高価なものとなる。また酸根の除去効率向上のため中和・洗浄時の温度を高くすると、生成するゾルの粒子が大きくなり、所望する粒子径の小さなゾルを得ることができない欠点があった。
【0006】
ところで、希土類元素の酸化物または水酸化物は塩基性化合物であるため、ゾルを構成する粒子を分散安定化させるためには陰イオン性物質を表面に吸着させる必要がある。それゆえに、特許文献1に於いては塩素イオンが分散安定化剤として作用しているため、これを単純に除去すると粒子が小さいゾルは得られるものの安定性に乏しいものとなり、沈殿、固化するという問題がある。
【0007】
一方、塩素イオン等の一価の無機酸根を含有せず、酢酸で分散安定化した稀土類元素の酸化物ゾルが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この酢酸は無機の酸根の様な腐食性はなく、比較的利用しやすいものの、熱処理時にその臭気が問題になる場合があり、その結果用途は著しく限定されていた。また、上記従来技術によって得られる希土類元素のゾルはいずれも酸性領域のみで安定なもので、中性からアルカリ領域では不安定であり、塩基性物質を加えるとゲル化するという欠点を有していた。
【0008】
希土類元素の酸化物の一種である酸化セリウムについて、本出願人は有機酸で解膠したセリウムゾルに関する技術を開示したが、この技術については、本発明で云う希土類元素の全てに適用できるものではなく、また酸根に関しては何ら詳細な説明を行なっていない(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)。
前述のような背景技術から、希土類元素の酸化物または水酸化物のゾルを工業的に利用するためには、腐食性や臭気の問題が無く、且つ、酸性からアルカリ性の広い範囲で長期にわたって安定なものが強く要望されている。
【0009】
【特許文献1】米国特許第3024199号公報
【特許文献2】特公平7-61864号公報
【特許文献3】特許第2654880号公報
【特許文献4】特開平8-3541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述のように各種機能性材料に使用できる希土類元素酸化物を提供する希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルに関する。本発明は、有害なガスを発生する塩素イオン、硝酸イオン等の一価の無機酸根を実質的に含まないか或いは極めて少なく、しかも酢酸のような刺激臭を有しない、長期にわたって安定性の高い希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一価の無機酸根で安定化されていたため、その用途が限定されていた希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルの改良に係り、特定範囲のメジアン径を有する希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルに、ヒドロキシカルボン酸を用いて分散安定化させることにより、一価の無機酸根を実質的に含有せず、極めて安定で広範な用途に適合しうる希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルが得られることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、メジアン径が10〜300nmであり、ヒドロキシカルボン酸を希土類元素M(但し、Mは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた希土類元素を示す)に対し、ヒドロキシカルボン酸/M(モル比)として0.05〜0.5の範囲で含有する希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明で得られる希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾル中には、一価の無機酸根を実質的に含有せず、或いは含有しても極めて少量であることから、セラミックス材料等の焼結時に発生する不要なガスの生成もなく、炉体あるいは環境に対する悪影響のないゾルである。
また、ゾルとして頗る安定なゾルが得られるため、希土類元素を用いる製品の性能向上に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明のゾルについて詳細に説明する。
本発明のゾルは、ゾルを構成する粒子のメジアン径が10〜300nmであることが第一の特徴であり、更にヒドロキシカルボン酸を希土類元素M(但し、Mは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた希土類元素を示す)に対し、ヒドロキシカルボン酸/M(モル比)として0.05〜0.5の範囲で含有していることが特徴である。
【0015】
このメジアン径が10nm以下の粒子径の小さなゾルは、機能性物質を構成する希土類元素の酸化物原料としては好ましいものではあるが、きわめて増粘し易く、長期安定性に問題がある。そこで、このような微細な粒子を安定化させるには分散安定化剤の量が非常に多く必要となり、効果に対する経済性が損なわれるという欠点がある。
一方、メジアン径が300nm以上の大きな粒子のゾルでは、粒子が安定分散せず重力によって沈殿を生じるため好ましくない。
従って、更に好ましくはメジアン径は15〜150nmの範囲であることが推奨される。尚、本発明で云うメジアン径とは、動的光散乱法によって測定したゾル分散状態下でのゾル粒子の平均直径をいう。
【0016】
ゾルの分散安定化剤としては、ヒドロキシカルボン酸またはその塩類が最も適しており、これによって希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物のゾルを長期にわたり安定に分散させることができる。
ヒドロキシカルボン酸の含有量については、ゾルが安定である範囲内で少ない方が好ましいが、実質的にはヒドロキシカルボン酸/M(モル比)で0.05〜0.5の範囲が望ましい。より好ましくはヒドロキシカルボン酸/M(モル比)で0.1〜0.45の範囲である。上記範囲を逸脱した場合は、ゾルが不安定になり、増粘、ゲル化するという問題を生じる。
【0017】
本発明のゾルに含有されるヒドロキシカルボン酸は、水酸基とカルボキシル基を分子内に有する化合物であれば特段限定されず、希土類元素の酸化物粒子または水酸化物粒子を分散安定化することができる。本発明の希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルのように、非常に微細な粒子を液中で安定化させるためには、キレート性能に富んだものが好ましく、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸など、カルボキシル基を2以上有するものの使用が好ましく、最も好ましくはカルボキシル基を3つ有するクエン酸が推奨される。
カルボキシル基の数が多いものほど希土類元素の酸化物または水酸化物の微粒子を安定化させる効果が高く、しかも一価の無機酸根の含有量を低減させることができる。上記ヒドロキシカルボン酸は最終的に酸の状態でもアミンやアンモニアと反応した塩の形でゾル中に含有されていてもよい。
【0018】
本発明のメジアン径が10〜300nmを有するゾルの製造法については、特許文献1に記載しているような従来法に示されるように、希土類元素の塩化物をアルカリで中和することによって得た沈降性のゲルを、洗浄、熱処理してゾル化して製造することができ、無機酸根を含むものの、元素の種類に応じて経済的で再現性よくゾルを得ることができる。また、特許文献2に示すような方法により、酢酸を含むゾルを得ることによっても上記範囲の粒子を有するゾルが得られる。
本発明のゾルは、これらのゾルの分散剤をヒドロキシカルボン酸で置換することにより最も簡単に製造することができる。
【0019】
以下に、従来法による無機酸根を含むゾルの製法についてより詳細に説明し、更に一価の無機酸根の除去とヒドロキシカルボン酸による安定化法について詳述する。
本発明によるゾル構成元素は、希土類元素として、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた希土類元素であり、本発明のゾル製造に用いる希土類元素の水酸化物ゲルは公知方法によって得られるゲルを使用することができる。
例えば、水溶性の希土類元素の塩とアルカリ剤を反応させた後、副生する塩を洗浄除去して得られるゲルを使用することができる。
水溶性の希土類元素の塩としては、希土類元素の塩化物、硝酸塩等が例示でき、これらは市販の材料から入手することができるが、希土類元素の酸化物を塩酸、硝酸等の無機酸に溶解させて得ることもできる。
また使用するアルカリ剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等をはじめ、有機アミン類や水酸化カリウム、水酸化リチウム等も使用することができる。上述のごとくして得られる希土類元素のゲルは、含有する酸根により自然にゾル化する場合も有るが、必要に応じて熱処理等により解膠してゾルとすることができる。
このとき含有する一価の酸根は、希土類元素のうち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、TbおよびDyに関しては、一価の酸根/M(モル比)=0.04〜0.6の範囲で含有するものが、所望するメジアン径で安定であり、希土類元素のうち、Ho、Er、Tm、YbおよびLuに関しては、一価の酸根を一価の酸根/M(モル比)=0.3〜1.5の範囲で含有するものが安定である。
一価の酸根が、上記所定範囲内にないときは、別途無機酸をゲルに所定量となるように添加すればよい。
いずれの場合も、一価の酸根が下限を下廻ると解膠が充分でなくなり、透明で安定なゾルを得ることができない。一方、上限を超えると酸に対する溶解度が大きくなり、収率が低下する。
【0020】
解膠時の希土類元素の水酸化物ゾルの濃度に関しては、特段限定されないが、Mとして大略1〜10質量%の範囲が好ましい。
熱処理条件に関しては、通常の100℃までの加熱処理だけでなく、100℃以上の水熱処理を用いることもできる。本発明のゾルの種類、用途に応じてこの加熱条件を設定し、メジアン径10〜300nmで安定な希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルを製造することができる。
【0021】
次いで得られたゾルに、所定量のヒドロキシカルボン酸を添加し、アルカリ剤によりpHを9〜12に調整した後、限外濾過する工程に供する。
本発明で使用するヒドロキシカルボン酸の添加量は、希土類元素の酸化物1モルに対し0.3〜0.7モルの範囲が好ましい。この範囲以下では、残存している酸根を後述する操作によって充分除去することができず、本発明の一価の無機酸根含有量の極めて少ないゾルが得られないため好ましくない。
一方、添加量がこの範囲以上になるとアルカリ剤の添加時にゾルが溶解し、限外濾過による洗浄中に濾過漏れを生じる可能性があり、その場合には収率が極端に低下し好ましくない。その態様に関しては、固体、水溶液いずれの状態で投入してもよいが、最終的にゾル中に全てのヒドロキシカルボン酸が溶解していることが必要である。
【0022】
例えば、撹拌下にある解膠したゾルに1〜10質量%のヒドロキシカルボン酸水溶液をゆっくり添加すれば、安定に添加することができる。ヒドロキシカルボン酸の添加によってゾルは一時的に濁るか、または増粘する場合があるが、後段の工程でのアルカリ剤の添加によって溶液は再びゾルの外観を呈するようになる。添加時の増粘が著しい場合は原料ゾルの濃度を低下させれば良い。一価の無機酸根は、ヒドロキシカルボン酸の存在下でのアルカリ剤の添加によって、ヒドロキシカルボン酸と置換して遊離し、続いて行われる限外濾過による洗浄により系外に取り除かれる。
【0023】
本発明で使用するアルカリ剤の種類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、アミン類などを用いることができるが、経済性、作業性の点から水酸化ナトリウムおよびアンモニア水が好ましい。アルカリ剤添加時の濃度に関しては特段制限はないが、アルカリ剤の添加量に関しては、ゾルのpHが9〜12となる様に添加すれば良い。このpH範囲を逸脱すると一価の無機酸根を充分除去することができない。
ところでオキシカルボン酸、アルカリ剤の添加時の温度に関しては、10〜90℃の範囲内であれば特段制限はなく、温度によって性能が大きく異なることはないが、本発明で重要な点は、ヒドロキシカルボン酸の添加の後にアルカリ剤を添加することであり、この添加順序を逆にすると安定なゾルを得ることはできない。
ヒドロキシカルボン酸およびアルカリ剤を添加した後のゾルは、限外濾過による洗浄を行い濾液の電気伝導度が5S/m以下となるまで洗浄することが好ましい。
この洗浄が不十分な場合は、一価の酸根やヒドロキシカルボン酸の残存量が多くなり、ゾルの安定性が低下するため好ましくない。
また、洗浄後に限外濾過または加熱により濃縮することもでき、M濃度として5〜50質量%のゾルを得ることができる。
【0024】
この様にして得られる希土類元素の水酸化物ゾルは、ゾル中に残存していた一価の無機酸根が除去され、希土類元素のうち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dyに関しては、希土類元素の酸化物1モルに対する一価の酸根は0.05以下となる。
また、希土類元素のうち、Ho、Er、Tm、Yb、Luに関しては、希土類酸化物1モルに対する一価の酸根は0.1以下となる。希土類元素の水酸化物ゾルは、実質的にヒドロキシカルボン酸で分散安定化されたゾルとなる。希土類元素の水酸化物ゾル中のオキシカルボン酸量に関しては、希土類元素の酸化物のモル数に対して0.05〜0.5の範囲内となる。本発明の希土類元素の水酸化物ゾルのpHに関しては、その製造条件によって異なるが、概ね6〜10の範囲内にあり、必要に応じてヒドロキシカルボン酸塩あるいはアンモニア、アミン類を添加することで所望のpHに調整することができ、その状態で長期にわたり安定となる。
【0025】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
また、実施例中の限外濾過装置は、限外濾過膜として「ラボモジュール」型式SLP−1053(旭化成(株)製)を用いた。更に、保存安定性の試験は、試料を50cc容サンプル瓶に入れて封入し、35℃の恒温槽で行なった。
本発明の希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾルの物性は、以下の方法で測定した。
【0026】
(1)メジアン径の測定
メジアン径は、動的光散乱色粒度分布測定装置LB-500(堀場製作所(株)製)を用いて測定した。
【0027】
(2)ヘイズ率の測定
ヘイズ率は、色差計COH-300A(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。測定条件としては、試料を光路長1cmのガラスセルに入れて測定した。
【0028】
(3)電気伝導度の測定
電気伝導度は、電気伝導度計CM-14P(TOA ELECTRON Ltd.製)を用いて測定した。
【実施例1】
【0029】
1%アンモニア水溶液1878gに酸化ツリウム(3N、日本イットリウム(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、ツリウムゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いてゲル中の塩化アンモニウムを除去し、塩素根がCl/Tm(モル比)として0.7を含有するTm濃度2%のツリウムゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、110℃で3時間水熱処理を行ない、Tm濃度2%のツリウムゾルを得た。次いでこのゾルにTm1モルに対して0.5モルの10%クエン酸溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてpH9.5に調整した後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Tmとして10%のツリウムゾルを得た。
得られた10%のツリウムゾルは、メジアン径124nm、Cl/Tm(モル比)=0.06、クエン酸/Tm(モル比)=0.4、ヘイズ率24.9%、電気伝導度2.1S/m、pH6.9であった。また1ヶ月間でのゾルの保存安定性は増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。更に、この溶液に28%アンモニア水を添加しゾルのpHを10に調整し、3ヶ月後の保存安定性の試験を行なった結果、安定状態を維持していた。
【0030】
比較例として特公平7−61,864号公報に従い、2N酢酸溶液1Lと酸化ツリウム(3N、日本イットリウム(株)製)290gを混合し、機械的に撹拌して分散させた。さらに、70℃で3時間30分間加熱を行い、得られた溶液を遠心分離機により350rpmで20分間遠心分離を行った。次いで、上澄みを5C濾紙で濾過し、希釈調整してTmとして10%のツリウムゾルを得た。得られた酢酸で安定化されたツリウムゾルは、電気伝導度33.5S/m、pH7.2であった。また、1ヶ月間での保存安定性は、増粘後、沈殿を生成した。更に、この溶液に28%アンモニア水を添加し、ゾルのpHを10に調整したところ、直ちにゲル化した。
【実施例2】
【0031】
1%水酸化ナトリウム水溶液5585gに酸化ランタン(3N、稀産金属(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、ランタンゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いてランタンゲル溶液中の塩化ナトリウムを除去し、塩素根がCl/La(モル比)として0.08含有するLa濃度5%のランタンゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、90℃で5時間水熱処理を行ない、La濃度5%のランタンゾルを得た。次に、このゾルにLa1モルに対して0.5モルの10%クエン酸溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてゾルpH9.5に調整した後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Laとして10%のランタンゾルを得た。
得られた10%のランタンゾルは、メジアン径39.4nm、Cl/La(モル比)=0.01、クエン酸/La(モル比)=0.2、ヘイズ率12.3%、電気伝導度1.2S/m、pH8.0であった。また、1ヶ月間でのゾルの保存安定性は、増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【実施例3】
【0032】
1%水酸化ナトリウム水溶液5409gに酸化ネオジウム(3N、稀産金属(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、ネオジウムゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いてゲル中の塩化アンモニウムを除去し、塩素根がCl/Nd(モル比)として0.07を含有するNd濃度5%のネオジウムゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、100℃で3時間水熱処理を行ない、Nd濃度5%のネオジウムゾルを得た。次にこのゾルにNd1モルに対して0.5モルの10%リンゴ酸溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてゾルpH10に調整した後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Ndとして10%のネオジウムゾルを得た。
得られた10%のネオジウムゾルは、メジアン径16.7nm、Cl/Nd(モル比)=0.02、リンゴ酸/Nd(モル比)=0.1、ヘイズ率21.1%、電気伝導度1.8S/m、pH8.4であった。また、1ヶ月間でのゾルの保存安定性は、増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【実施例4】
【0033】
1%アンモニア水溶液1823gに酸化イッテルビウム(3N、信越化学(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、イッテルビウムゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いてゲル中の塩化アンモニウムを除去し、塩素根がCl/Yb(モル比)として0.6含むYb濃度5%のイッテルビウムゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、110℃で3時間水熱処理を行ない、Yb濃度5%のイッテルビウムゾルを得た。次にこのゾルにYb1モルに対して0.5モルの10%クエン酸溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてゾルpH9.5にした後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Ybとして10%のイッテルビウムゾルを得た。
得られた10%のイッテルビウムゾルは、メジアン径139nm、Cl/Yb(モル比)=0.03、クエン酸/Yb(モル比)=0.4、ヘイズ率35.2%、電気伝導度1.5S/m、pH7.0であった。
また、1ヶ月間でのゾルの保存安定性は、増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【実施例5】
【0034】
1%アンモニア水溶液2082gに酸化ルテチウム(3N、信越化学(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、ルテチウムゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いてゲル中の塩化アンモニウムを除去し、塩素根がCl/Lu(モル比)として1.1含有するLu濃度2%のルテチウムゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、110℃で3時間水熱処理を行ない、Lu濃度2%のルテチウムゾルを得た。次にこのゾルにLu1モルに対して0.5モルの10%リンゴ酸溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてゾルpH10に調整した後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Luとして10%のルテチウムゾルを得た。
得られた10%のルテチウムゾルは、メジアン径111nm、Cl/Lu(モル比)=0.07、リンゴ酸/Lu(モル比)=0.4、ヘイズ率54.0%、電気伝導度1.6S/m、pH6.5であった。
また、1ヶ月間でのゾルの保存安定性は、増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【実施例6】
【0035】
1%アンモニア水溶液1878gに酸化エルビウム(3N、信越化学(株)製)50gを塩酸に溶解させた0.5%溶液10000gを撹拌下で添加し、エルビウムゲルを生成させた。これを限外濾過装置を用いて塩化アンモニウムを除去し、塩素根がCl/Er(モル比)として0.6含有するEr濃度2%のエルビウムゲル溶液を得た。
次いで、これをオートクレーブに入れ、90℃で8時間水熱処理を行ない、Er濃度2%のエルビウムゾルを得た。次にこのゾルにEr1モルに対して0.5モルの10%酒石酸水溶液を添加し、更に3%アンモニア水を用いてゾルpH10にした後、限外濾過装置を用いて濾液の電気伝導度が5S/m以下になるまで濾過・濃縮を行い、Erとして10%のエルビウムゾルを得た。
得られた10%のエルビウムゾルは、メジアン径135nm、Cl/Er(モル比)=0.07、酒石酸/Er(モル比)=0.4、ヘイズ率26.6%、電気伝導度3.5S/m、pH7.9であった。
また1ヶ月間でのゾルの保存安定性は、増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【実施例7】
【0036】
実施例2と同様にして、希土類元素種 Y、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Dy及びHoについて各々Y(4N、阿南化成(株)製)、Ce(CO(3N、新日本金属工業(株)製)、Pr11(3N、日本イットリウム(株)製)、Sm(3N、信越化学工業(株)製)、Eu(3N、信越化学工業(株)製)、Gd(3N、日本イットリウム(株)製)、Dy(3N、日本イットリウム(株)製)及びHo(3N、日本イットリウム(株)製)を用いてゾルを製造した。
これらのゾルについて各種物性を測定した。その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
メジアン径が10〜300nmであり、ヒドロキシカルボン酸を希土類元素M(但し、Mは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれた希土類元素を示す)に対し、ヒドロキシカルボン酸/M(モル比)として0.05〜0.5の範囲で含有する希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾル。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸及び酒石酸から選ばれた一種またはそれ以上である請求項1記載の希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾル。
【請求項3】
ゾル中の一価の無機酸根が一価の無機酸根/M(モル比)として0.1以下である請求項1または2記載の希土類元素の酸化物ゾルまたは水酸化物ゾル。