説明

帯電防止型フィルタエレメント及びその製造方法

【目的】 優れた帯電防止能を有する帯電防止型フィルタエレメントと機械的強度低下を起こさず、再現性のある帯電防止処理を生産性良くできる帯電防止型フィルタエレメントの製造方法を提供する。さらに捕集した粉体を容易に回収できる剥離性強化帯電防止型フィルタエレメントとその製造方法を提供すること。
【構成】 表面に導電性物質の薄層を有する多孔性フィルタエレメント。該フィルタエレメントは、導電性物質微粒子を結着物質溶液中に懸濁させ懸濁液とし、フィルタエレメントの表面に塗布・乾燥して製造する。該帯電防止型フィルタエレメントの導電性物質薄層の上に剥離性強化薄層を有して成る剥離性強化型フィルタエレメント。該フィルタエレメントは帯電防止型フィルタエレメントの導電性物質薄層の上にフッ素樹脂粉末を塗設し、剥離性強化薄層を設けて製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、粉体、特に帯電した粉体を捕集する集塵機または回収する回収装置に適用する帯電防止型フィルタエレメントに関する。
【0002】
【従来の技術】帯電し易い粉体、特に帯電した粉体を捕集する集塵機または回収する回収装置に適用するフィルタエレメントは、フィルタエレメント自身が粉末と同種の電荷を有していては捕集または回収することはできないので、フィルタエレメントには帯電防止処理がなされている。例えば、バグフィルタ(繊維濾布)を使用したフィルタエレメントでは、バグフィルタ中に金属製繊維を織り込んだ繊維濾布とするか、または濾布に一定間隔で導電性糸で縫目を入れた繊維濾布とすることにより帯電防止型フィルタエレメントとする方法が採られている。樹脂粒子を焼結してなる連続気泡多孔性フィルタエレメントでは、従来以下に示すような帯電防止方法が採られている。
1.金属やカーボン等の導電性物質の繊維や粉体を、フィルタエレメントの原料樹脂と混合し、粉砕する等して造粒し、該樹脂粒子を焼結成形して帯電防止型(連続気泡多孔性)フィルタエレメントとする方法。
2.予め原料樹脂中に導電性物質を混練して電気抵抗を下げた樹脂を製造し、電気抵抗を下げた樹脂を粉砕処理して粒状体とし、焼結して帯電防止型(連続気泡多孔性)フィルタエレメントとする方法。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記帯電防止方法が採られた場合、以下に示すような問題点が生じる。
■ 予め原料樹脂中に導電性物質を混練した樹脂粒子を原料として、連続気泡多孔性フィルタエレメントを焼結・成形すると、混練した異種物質が樹脂間の接触を弱め、焼結・成形したフィルタエレメントの機械的強度が低下する。
■ 金属やカーボン等の導電性物質を樹脂粒子と混合し、焼結成形したフィルタエレメントの機械的強度も異種物質の混合のため低下する。フィルタエレメントは、捕集した粉体を除去する等の操作をするので、多孔性構造のフィルタエレメントの機械的強度低下は、多孔性構造の破壊による構成樹脂の脱落などを起こしフィルタエレメントとしての機能を損なうという問題点が生じる。また、フィルタエレメントの機械的強度低下には許容範囲があるにしても、■ 異種物質の混練や混合には、付加的な作業や装置を必要とするため生産性を低下させる。
■ 非帯電防止型フィルタエレメントの製造と帯電防止型フィルタエレメントの製造では原料の状態が異なるため、焼結等の製造条件や作業条件を変える必要があり生産性が低下する。さらにまた、混練あるいは混合する導電性物質の量による電気抵抗率の変化及び焼結・成形したフィルタエレメントの機械的強度の変化の間の関係は非線形的関係にあるため、僅かな導電性物質の量の変化により、以下のような問題が生じる。
■ 帯電防止能が十分発揮されない。
■ 急激な機械的強度低下が起こる。
等であり、製品は合格しないので製品歩留りは低下する。
【0004】また、フィルタエレメントには、優れた集塵能力、帯電性の塵を集塵する能力と同時に、さらに捕集した粉体を再び払い落として回収する優れた回収機能を持つことが求められる。フィルタエレメントが優れた集塵能力同時に優れた回収機能を持つためには多孔性のフィルタエレメントにその表面から粉体が剥離し易い性質を持つことが必要である。
【0005】本発明の目的は、従来技術の前記問題点を解決し、均一で、優れた帯電防止能を有する帯電防止型フィルタエレメントと機械的強度低下を起こさず、再現性のある安定した帯電防止処理が生産性良く実現できる帯電防止型フィルタエレメント及びその製造方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、優れた集塵能力、帯電性の塵を集塵する能力を持ち、かつ捕集した粉体を容易に回収できる帯電防止型フィルタエレメントとその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題は、本発明の帯電防止型フィルタエレメント及びその製造方法により達成される。すなわち、本発明の帯電防止型フィルタエレメントは、1)表面から多孔性フィルタエレメント本体中に浸透・結着した導電性物質の薄層を有し、表面の電気抵抗率が109 Ω/sq以下で、かつ非帯電防止型と同等の圧力損失値を有することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメントであり、好ましくは、2)多孔性フィルタエレメントの表面に多孔性薄層のフッ素樹脂層を有し、続いて該フッ素樹脂層の下に結着した導電性物質の薄層を有し、表面の電気抵抗率が109 Ω/sq以下で、かつ非帯電防止型と同等の圧力損失値を有することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメントである。また、本発明の帯電防止型フィルタエレメントの製造方法は、3)樹脂粒子を焼結してなる連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に、前記多孔性フィルタエレメントの平均孔径の1/100〜1/1000の粒径の導電性物質よりなる微粒子を結着物質溶液中に懸濁した懸濁液として塗布・乾燥し、前記多孔性フィルタエレメントの表面付近に浸透した多孔性の導電性薄層を設けて表面の電気抵抗率を109 Ω/sq以下にし、かつ該帯電防止処理後の前記多孔性フィルタエレメントの圧力損失を処理前の値に維持することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメントの製造方法であり、好ましくは、4)表面付近に前記多孔性の導電性薄層を有する前記多孔性フィルタエレメントの上にフッ素樹脂粉末を塗設したことを特徴とする前記3)記載の帯電防止型フィルタエレメントの製造方法である。
なお前記1)〜4)において、多孔性フィルタエレメントの「表面」など、「表面」というのは多孔性フィルタエレメントの両面の表面のことである。
【0007】樹脂粒子1を焼結してなる非帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの断面図を図3に示した。フィルタエレメントの表面粗さは、表面に深さ10〜250μmの凹凸を有する状態である。また、該フィルタエレメントの有する平均孔径は10〜50μmである。非帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面の電気的表面抵抗率は1016Ω/sqであり、機械的強度は第1表に示す通り耐熱70℃型では0.4〜0.5kgf/mm2 、160℃型では1.0〜1.2kgf/mm2 である。本発明に使用する樹脂粒子の材質は、用途目的により要求される耐熱性等によって異なり、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂あるいはポリスルフォン樹脂等であり適宜選択して使用する。
【0008】
【表1】


【0009】本発明において帯電防止処理に使用する導電性物質を例示すれば、カーボンブラック粉体及び銀、銅、アルミニウム等の各種金属粉体の他粉体状に粉砕されたカーボン短繊維等が挙げられる。少量で帯電防止能を付与するといわれるケッチェンブラック等に相当するカーボンブラックは好適な1例である。これら粉体の粒径は多孔性フィルタエレメントの平均孔径の1/200〜1/1000の粒径が好ましい。これら粉体は液体中に懸濁した懸濁液として非帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に塗布する。懸濁液の分散媒体は水が好ましいが、塗布に際してフィルタエレメントの表面に対する濡れ適性及び内部への浸透適性から、少量の水溶性の有機溶剤または極少量の界面活性剤を水に混合しておくことが望ましい。また、これら粉体と共に分散して、粉体の水中における分散性を安定化すると共に、多孔性フィルタエレメント表面に塗布・乾燥した時フィルタエレメント表面に良く結着することをたすける結着物質を懸濁液中に共存させておくことが望ましい。
【0010】懸濁液中に共存させておく結着物質は、分散媒に溶解ないし安定に分散するものが良い。好ましくは物結着物質の共存によって前記カーボンブラック粉体等の導電性物質の粉体の分散が安定化するものが望ましい。例えばポリエチレン樹脂を母体とする多孔性フィルタエレメントの表面に塗布し、結着させる懸濁液の場合には、例えばエチレン−アクリル酸共重合体あるいはエチレン−アクリル酸ブロック共重合体を結着物質として使用し、エチレン−アクリル酸共重合体の水溶液中に前記カーボンブラック粉体を分散した懸濁液とする。または、エチレン−アクリル酸ブロック共重合体と前記カーボンブラック粉体を予め混練し、粉砕して導電性微細粉体とし、水中に分散して懸濁液とする方法も良い。ここに例示した共存結着物質は1例であり、本発明はこの例示によって制限されることはなく、種々の結着物質およびそれらを用いた懸濁液を調製することができる。
【0011】懸濁液中の分散体の粒径は結着物質を共存させても大きく変化することはなく、多孔性フィルタエレメントの表面に塗布乾燥し結着させた後も多孔性フィルタエレメントの圧力損失を処理前の値に維持できる。前記懸濁液中のカーボンブラック等導電性粉体と結着物質との混合比は導電性粉体が20〜80容積%である。好ましくは50〜75容積%である。結着物質が共存させても多孔性フィルタエレメントの表面の電気抵抗率は109 Ω/sq以下に維持できる。本発明において、前記多孔性フィルタエレメントの表面に前記懸濁液を塗布する方法は、スプレーコーティング、刷毛塗り法、流延法や浸漬法等種々の方法を使用でき、特に限定されない。
【0012】前記導電性物質あるいは結着剤共存の微粉末を前記多孔性フィルタエレメントの表面に懸濁液として塗布し、乾燥・結着させた状態を図1に示した。図1には多孔性フィルタエレメントの片側表面の付近を示している。実際には多孔性フィルタエレメントの両面の表面に塗布する。結着している導電性粉体あるいは導電性粉体と結着物質との混合粉体の平均粒径は多孔性フィルタエレメントの平均孔径の1/100以下の粒径であり、結着している導電性薄層2の厚さは数μmであり、フィルタエレメント表面は多孔性を保っている。
【0013】前記帯電防止処理を施したフィルタエレメントは、優れた集塵能力や粉体回収能力を持ち、かつ捕集した粉体を払落とすことができる剥離性を備えているが、さらに一段と剥離性能を強化することが望まれる。この目的のために、フッ素樹脂微粉末を水または有機溶剤中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に塗布する。塗布したフッ素樹脂微粉末をフィルタエレメントの表面に強固に結着することは、例えば塗布・乾燥したフッ素樹脂微粉末層を加熱溶融して行うことができる。また、水または有機溶剤中にフッ素樹脂微粉末と共に前記結着物質微粉末を分散して結着を強化することができる。塗布するフッ素樹脂層は、連続気泡を形成している多孔性フィルタエレメントの孔の表面を薄く、かつ予め帯電防止されている表面の導電性が失われない程度に、部分的に覆うように設ける。帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面にフッ素樹脂微粉末を水または有機溶剤中に分散させた懸濁液として塗布・乾燥し、剥離性強化層3を設けた状態を図2に示した。剥離性能を強化するためにフィルタエレメントの表面に塗布するフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の溶融性フッ素樹脂、フルオロオレフィン・炭化水素系ビニルエーテル共重合体のような溶剤可溶性常温硬化型フッ素樹脂等を挙げることができる。
【0014】
【作用】本発明は、前記導電性物質の微粉体あるいは結着剤共存の微粉体を懸濁液として前記多孔性フィルタエレメントの表面に塗布し、乾燥・結着させることにより導電性薄層を該フィルタエレメントの表面に設け、該フィルタエレメントの表面の電気抵抗率を109 Ω/sq以下に維持することにより、帯電性の塵埃や粉体を集塵することを可能としたものである。さらに本発明は、前記帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に前記フッ素樹脂の微粉体あるいは結着剤共存の微粉体を懸濁液として塗布し、乾燥・結着させることにより、表面の導電性が失われない程度に剥離性強化能のあるフッ素樹脂層を設けて、捕集した粉体を払落とすことができる剥離性を強化したものである。本発明は、帯電防止性能及び剥離性能の強化を、導電性物質や剥離性強化物質を水または有機溶剤中に分散させた懸濁液として多孔性フィルタエレメントの表面に塗布し、乾燥・結着させることにより、導電性薄層及び剥離性薄層を設ける方法によって実現することにより、再現性良く、かつ多孔性フィルタエレメントの機械的強度及び圧力損失を非処理多孔性フィルタエレメントのそれら性能より劣化させることなしに実現した技術である。
【0015】
【実施例】前記、本発明の帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントおよびそれを製造する方法の1例を以下に実施例を示して説明する。しかし本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0016】実施例1蒸留水中に懸濁した、平均粒子径30nmのカーボンブラック微粉体に、固形分配合割合が第2表に示した配合割合で、酢酸ビニル系接着剤のラテックスを配合したカーボンブラック懸濁水を、平均粒子径150μmからなるポリエチレン樹脂を用いて、平均孔径が50μm、表面の凹凸の高さが平均50μmの樹脂焼結連続気泡多孔性フィルタエレメント(厚さ3.0mm)の両表面にスプレーコーティングし、24時間室温で乾燥して帯電防止型フィルタエレメントを製造した。カーボンブラック付着層(導電性物質薄層)の厚さは1.5mmであった。得られた帯電防止型フィルタエレメントの電気的表面抵抗率及びろ過の圧力損失を帯電防止処理前の非帯電防止型フィルタエレメントのそれらの値と共に第3表に示した。
【0017】
【表2】


【0018】
【表3】


【0019】第3表より明らかなごとく、帯電防止型フィルタエレメントの表面抵抗率は1016Ω/sqから108 Ω/sqに低下し、帯電防止能を有する。圧力損失は24mmAqで帯電防止処理前後で変化はなかった。
【0020】
【発明の効果】1.機械的強度を標準的な非帯電防止型フィルタエレメントの値を保持したまま、帯電防止能を付与することができる。
2.製造にあたり、原料の混合あるいは混練のための作業や設備が最小で良い。
3.原料や調合作業の繰り返しによる品質や量上のバラツキにより受ける帯電防止能の変化が著しく小さい。
4.導電性物質薄層をフィルタエレメントの表面に設ける方法で帯電防止能を付与するため、常に一定して安定な表面抵抗率が得られる。
5.帯電防止処理することによるろ過の圧力損失は起こらない。
6.導電性物質薄層の上に、懸濁液を塗布してフッ素樹脂薄層を設け、機械的強度及び帯電防止能に影響を与えることなく、捕集した粉体を払落とすことができる剥離性を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に導電性物質薄層を設けた状態を示す断面図である。
【図2】帯電防止型連続気泡多孔性フィルタエレメントの導電性物質薄層の上に剥離性強化薄層を設けた状態を示す断面図である。
【図3】連続気泡多孔性フィルタエレメントの断面図である。
【符号の説明】
1 樹脂粒子
2 導電性物質薄層(カーボンブラック薄層)
3 剥離性強化薄層(フッ素樹脂薄層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面から多孔性フィルタエレメント本体中に浸透・結着した導電性物質の薄層を有し、表面の電気抵抗率が109 Ω/sq以下で、かつ非帯電防止型フィルタエレメントと同等の圧力損失値を有することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメント。
【請求項2】 多孔性フィルタエレメントの表面に多孔性薄層のフッ素樹脂層を有し、続いて該フッ素樹脂層の下に結着した導電性物質の薄層を有し、表面の電気抵抗率が109 Ω/sq以下で、かつ非帯電防止型と同等の圧力損失値を有することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメント。
【請求項3】 樹脂粒子を焼結してなる連続気泡多孔性フィルタエレメントの表面に、前記多孔性フィルタエレメントの平均孔径の1/100〜1/1000の粒径の導電性物質よりなる微粒子を結着物質溶液中に懸濁した懸濁液として塗布・乾燥し、前記多孔性フィルタエレメントの表面付近に浸透した多孔性の導電性薄層を設けて表面の電気抵抗率を109 Ω/sq以下にし、かつ該帯電防止処理後の前記多孔性フィルタエレメントの圧力損失を処理前の値に維持することを特徴とする帯電防止型フィルタエレメントの製造方法。
【請求項4】 表面付近に前記多孔性の導電性薄層を有する多孔性フィルタエレメントの上にフッ素樹脂粉末を塗設したことを特徴とする請求項3記載の帯電防止型フィルタエレメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平7−213831
【公開日】平成7年(1995)8月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−25928
【出願日】平成6年(1994)1月31日
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)