説明

常温性イオン性液体を含有する医薬組成物

【課題】
医薬品の創製には、その製剤工程において、なんらかの形で化合物を溶解させることが必須であり、また薬剤のバイオアベイラビリティーの増大にも溶解性が重要である。しかし、医薬品原料となる化合物は、難溶性であるものが多く、溶解剤が種々検討されているが不十分である。
【解決手段】
今回の我々が検討した結果、陽イオンと陰イオンの塩であって低温において溶液状態を呈する化合物であるイオン性液体の難溶性の医薬品原料の化合物に対するすぐれた溶解性を見出した。イオン性液体は、医薬品の溶解剤としてあらたなものであり、かつ広く利用可能なものである。
その結果、難溶性の医薬品原料の化合物の溶解性を向上させ、生体吸収性、バイオアベイラビリティーの制限要因を大きく上昇させることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品原体の新たな溶解剤としての常温性イオン性液体の利用方法を提供するものであり、更には常温性イオン性液体を溶解剤として利用する新規な医薬品粗生物の提供に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、人体内に入って薬理作用を発揮するものであり、その送付方法としては、注射、経口投与、及び座剤、経皮、経肺など局所投与などが知られているが、いずれの投与法においても、安定した製剤が医薬品として必須な条件となる。
医薬品原体の製剤化において、薬剤を溶解することがその製剤化の過程で重要な要素であることは、本領域の研究者にとって共通したものである。さらに、注射剤はもちろんのこと、経口剤、局所剤においても、化合物の溶解性が、生体吸収性、バイオアベイラビリティーの制限要因を大きく上昇させることもよく知られた事実である。
【0003】
しかし、医薬品原体には難溶性の化合物が多く、そのため、溶解状態を改善し、薬剤のバイオアベイラビリティーを増大させるために、様々な技術が改善されてきた。一般的には微粒子化して薬剤と用剤の接触面積をあげる方法がある。また、種々の溶解剤を添加して化合物の溶解性を向上させるものがある。溶解剤としては、界面活性剤、サイクロデキストリンなどが知られているが、まだまだ課題が多く、十分なものとは言い難いのが現状である。
【0004】
一方、最近常温性イオン性液体が新たな溶媒として注目を浴びている。すなわち陽イオンと陰イオンがイオン結合をしている化合物で、常温において溶液状態を呈するものを常温イオン性液体と定義される。その際のイオンの組み合わせとしては、有機骨格を有する陽イオンと無機陰イオン、無機陽イオンと有機骨格を有する陰イオン、ともに有機骨格を有する陽、陰イオンの組み合わせが考えられる。これら1群の常温性イオン性液体は、種々の特性が報告されている。そのひとつとして、他成分を溶融する特性が知られている。しかし、この常温性イオン性液体の他の化合物を溶解する技術を医薬品化合物に応用した事例は、いまだ報告されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、医薬品用化合物の製剤過程、及びその薬剤の生体内バイオアベイラビリティーにおいて、薬物の新たな溶解技術を提供し、更にはバイオアベイラビリティーをあげることによって薬剤の持つ有用性を増大させる医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、イオン性液体のもつ化合物を溶解する性質に着目し鋭意研究し、非常に幅広い常温性イオン性液体が、難溶性が課題である多くの医薬品原体を、非常に幅広く溶解することを見出した。この常温性イオン性液体の持つ高い溶解性は、当初の予想を大きく上回るものであり、医薬品領域における溶解剤に大きな転機をもたらす可能性を提供している。即ち、本発明は、難溶性のために製剤化の困難性を抱える医薬品原体、あるいは難溶性のために、臨床使用時に課題を抱える医薬品に対して、画期的な溶解方法を提示するものであり、更には、有用性の高い新たな医薬組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、難溶性医薬品原体に対し、溶解改善を通じ製剤技術の改良方法を提供することができる。更にその新たな製剤により、医薬品原体の持つ有用性を高めた新規な医薬品の創製手段を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係るイオン性液体は、陽イオンと陰イオンの塩であって低温で液状となる物質であれば何でもよいが、特に常温において溶液状態を呈する常温性イオン性液体であることが好ましい。また、イオン性液体を特に限定はしないが、具体例として1−butyl−3−methyl−1H−imidazolium bromideに代表されるイミダゾリウム系イオン性液体、ピリジニウム系イオン性液体および脂肪族系イオン性液体等を利用することが可能である。
【0009】
また、本発明にかかわる医薬品としては特に限定されないが、製剤工程、臨床応用の中で、その化合物の持つ難溶性のために課題を抱えている化合物全般が、対象として可能であり、特に、ペプチドなどの生体高分子由来医薬品や天然物由来医薬品を対象とすることが可能である。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例及び実験例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、本実施例および比較例における配合量の値は、全て質量%である。
【0011】
(試験例1)
Paclitaxel(Taxol)のイミダゾリウム系イオン性液体に対する溶解性試験を検討した。Taxolは植物由来の難溶性の注射制癌剤であり、卵巣がんなどに優れた効果を示す。しかし、その難溶性のために患者に投与する際には、界面活性剤であるポリオキシエチレンヒマシ油(クロモホールEL)を溶解剤として添加しており、その溶媒による全身性のショックが頻繁に発症し、それを避けるために、3時間かけて点滴靜注、ショック発症予防剤の事前投与などが実施されており、きわめてコンプライアンスが悪い。そこで代表的なイオン性液体であるイミダゾリウム系イオン性液体に対するTaxolの溶解度を検討した。
表1に用いたイミダゾリウム系イオン性液体リストアップした、イオン性液体0.1から〜0.5gを別々に秤量し、正確に秤量したTaxol原薬約10〜20gを加え、手で振りながら70℃の水浴中で5分間加温する。不溶の場合は、イオン性液体を追加して更に加温した。溶解確認後、室温で3昼夜放置し、結晶の出ないことを確認した。表2その成績を記載した。
表2に溶解度を記載した。なお当該液体中でのTaxolを抽出し、HPLCで分析した結果、分解物はほとんど認められなかった。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0014】
医薬品の創製には製剤化が必須であり、用いる溶媒により思わぬ副作用を発症する。イオン性液体は新たな溶解剤として有用であり、既存或いは新規な医薬品の溶解剤として利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品原体に対しイオン性液体を溶解剤として用いる製剤技術、及び常温性イオン性液体を含有する医薬組成物
【請求項2】
請求項1におけるイオン性液体がイミダゾリウム系である医薬品組成物