説明

帽子用スエットバンド

【課題】着吸汗性に優れ、着用したまま首を動かしても着用位置がずれにくく、形態安定効果を兼ね備えた帽子用スエットバンドを提供する。
【解決手段】極細繊維からなる立毛人工皮革であることを特徴とする帽子用スエットバンド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸汗性に優れ、形態安定性とフィット感の良好な帽子用スエットバンドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の帽子用スエットバンドは不織布や織物からなるものが一般的であるが、これらは吸汗性及び滑り止め効果が充分でないために、着用したまま首を動かすと着用位置がずれやすく、フィット感に欠けるという問題があった。
【0003】
これに対し、内層に高分子吸収体を含有させる或いは吸水性ポリマーシートを用いることで吸汗性を向上させた帽子用スエットバンド(特許文献1、2及び3)が開示されている。これらによれば吸汗性が向上し、汗による滑りからくる着用位置のずれを抑制する効果が得られる。しかし、高分子吸収体或いは吸水性ポリマーシートの把持、及びスエットバンドのもう一つの機能である帽子本体の形態を安定させる効果を得るために高分子吸収体或いは吸水性ポリマーシートに補強材を張り合わせることから、頭部との接触面が平滑となり、充分な滑り止め効果が得られない。さらに、補強材により吸汗性が妨げられるうえ構造が複雑で作成に手間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−314026号公報
【特許文献2】特開平4−308211号公報
【特許文献2】実開平01−014129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる帽子用スエットバンドの問題点に鑑み、吸汗性に優れ、着用したまま首を動かしても着用位置がずれにくく、形態安定効果を兼ね備えた帽子用スエットバンドを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するため、次のような手段を採用する。すなわち、極細繊維からなる立毛人工皮革であることを特徴とする帽子用スエットバンドである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吸汗性に優れ、着用したまま首を動かしても着用位置がずれにくく、形態安定効果を兼ね備えた帽子用スエットバンドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
帽子用スエットバンドとは吸汗、滑り止め及び帽子の形態安定を目的に、帽子の内側すなわち頭部と接触する面に配置するスエットバンドのことであり、本発明の帽子用スエットバンドの帽子への取り付け方法は縫製、接着剤による貼り付け、ファスナー、面ファスナー、ボタンなどいずれの方法でもよい。ここでいう帽子とは、一般的にいう帽子だけでなく、カツラ、ヘルメット、など頭部に装着するものならいずれでも良い。また帽子の形状に特に制限はなく、プリムダウン、キャップ、アルペン、シルクハット、ベレー帽、パナマ帽、オフサー、ハイバック、ウェスタン、マリンキャップ、チロルなどいずれでもよく、サンバイザーのようなスエットバンドにひさしを付けただけの簡易なものであっても構わない。
【0008】
本発明の特徴は、スエットバンドそのものが極細繊維からなる立毛人工皮革であることである。本発明における立毛人工皮革は極細繊維を含むものであって、表面が該極細繊維の立毛で覆われたもののことをいい、極細繊維を含む不織布の形態であることが好ましい。極細繊維以外の構成物に関しては特に制限はなく、例えばバインダー成分や織物を含有していても構わない。特に帽子の形態安定性及び吸汗性の観点から、織物が極細繊維と絡み合うことにより、極細繊維を含む不織布と織物とが一体構造になっていることが望ましい。
【0009】
ここでいう極細繊維とは製品の良好な肌触りを得るため、繊度が10デシテックス以下であるものをさす。好ましくは1デシテックス以下、より好ましくは0.2デシテックス以下、更に好ましくは0.1デシテックス以下である。繊度が小さければ吸汗性が向上するため、より好ましい。また、極細繊維の材質に制限はないが天然繊維、合成ポリマーからなる繊維のいずれでも良い。合成ポリマーであれば、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよび/またはそれらの共重合体などのポリエステル類などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。さらに、極細繊維の断面形状についても特に制限はなく、円形、楕円形、多角形、星形、溝を入れた形などいずれの形状でも採用することができる。
【0010】
ここでいう不織布とは構成繊維に前記極細繊維を含み、その表面が前記極細繊維を含む構成繊維からなる立毛で覆われていればどのような形態でも良く、例えばスパンボンドやニードルパンチ或いはウォータージェットパンチなどにより繊維を絡合させて得られるものが好ましく用いられる。また、表面の立毛形態に特に制限はないが、吸汗性、滑り止めの観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長さと方向柔軟性を備えていることが好ましい。さらに立毛長さは均一である必要はなく、エンボス加工或いは研削による立毛処理を行う場合は研削斑を発生させるなどの方法により、部分的に立毛長さを変化させたものや、立毛のない部分を発現させたものを用いることもできる。
【0011】
前述のとおり、本発明に用いる立毛人工皮革は、極細繊維と織物の絡み合わせにより不織布と織物とが一体構造になっていることが好ましい。
【0012】
本発明でいう織物はスエットバンドに形態安定性を付与しつつ吸汗性を阻害しないものであればいずれの形状でも良いが、極細繊維との絡み合わせ易さや形態安定性に必要な強度の観点から、構成糸が1〜100デシテックスの撚糸からなり織密度が経緯ともに50〜200本/2.54cmである織物が好ましく用いられる。
【0013】
極細繊維と織物を絡み合わせて一体構造とするにあたっては、公知の方法を用いることができる。すなわち、極細繊維を含む不織布と織物を積層して、ニードルパンチやウォータージェットパンチを行うことにより、極細繊維と織物を絡み合わせればよい。
【0014】
本発明において、織物を構成する繊維の材質としては合成ポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよび/またはそれらの共重合体などのポリエステル類などを挙げることができる。また、繊維断面形状に特に制限はなく、円形、楕円形、多角形、星形、溝を入れた形などいずれの形状でも採用することができる。
【0015】
本発明における立毛人工皮革の製造方法として好ましく用いられるのは、次の方法である。まず、合成ポリマーから極細繊維発生型繊維(例えば、海島型複合繊維)を溶融紡糸し、この極細繊維発生型繊維を倦縮・カットして原綿を作製し、次いでニードルパンチやウォータージェットパンチなどの交絡処理を施して不織布を作製すると同時に織物を極細繊維発生型繊維との絡み合わせにより張り合わせる。その後、極細繊維を発生させ(例えば、海島型複合繊維ならアルカリ処理あるいは溶剤処理等によって海成分を除去する)、次いで立毛処理(例えば、サンドペーパーによる研削や、ニードルによる起毛処理)によって表面に立毛を形成する方法で得られた不織布である。織物との一体構造にする場合、一体構造化は極細繊維を発生させる前であっても、極細繊維を発生させた後であってもかまわない。また、必要によりバインダー成分を付与したりしてもよく、バインダー成分の付与も極細繊維を発生させる前であっても、極細繊維を発生させた後であってもかまわない。
【0016】
ここでいうバインダー成分に特に制限はないが、適度な弾性を有する樹脂が好ましく用いられ、例えばポリウレタン、ニトリルゴム等の重合体を用いることができ、なかでもポリウレタンが好ましく使用される。バインダー成分の存在は、頭部と接触した際に弾力感が得られること及び極細繊維を強力に把持することから好ましいものである。
【0017】
なお、本発明において、立毛面は頭部と接触する面に設けるものであり、スエットバンドの内側である。これによって、着用位置のずれ防止及び良好な肌触りが得られるとともに、極細繊維立毛の毛細管現象により吸汗効果が得られるものである。スエットバンドとしては、頭部を一周する形態で頭部と接触する面の全てに立毛人工皮革を有するものの他、全周ではなく一部、例えば額の部分に立毛人工皮革を有する形態や、全周であっても縞模様或いは水玉模様のような立毛のある部分とない部分が混在した形態でも可能である。
【0018】
また、本発明において、立毛面と反対側の面には帽子への取り付けのため、接着層等をもうけてもよい。
【実施例】
【0019】
次に、実施例および比較例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート繊維、海成分としてポリスチレンからなる成分比(重量比)80/20、島数16、複合3.5デシテックス、繊維長51mm、捲縮数14山/2.54cmの海島型複合繊維の原綿を用いて、カードマシンにより該原綿を開繊しウェブ化した後、クロスラッパーで該ウェブを重ね合わせることにより積層ウェブを作成した。次いでランダムにニードルが植え付けられたニードルボードを有するニードルパンチマシン10台を用いて、該積層ウェブに上下1台ずつ交互に1台300本/cm2 、合計3000本/cm2 のニードルパンチを順次行って、幅120cm、ウェブ繊維目付400 g/m2 の不織布シートを作成した。このとき、2、3台目のニードルパンチマシンでは基布としてポリエチレンテレフタレート強撚糸からなる織密度が経緯ともに100本/2.54cm、目付75g/cm2の織物をニードルボードと反対方向から挿入し、積層ウェブに張り合わせ一体構造化した。
【0021】
該不織布シートを97℃の5%ポリビニルアルコール水溶液に含浸後、乾燥することで形体安定材としてポリビニルアルコールをシートに付与した後、抽出工程でトリクロロエチレンの液流中にさらし、海成分であるポリスチレンを抽出した。これを含浸工程でポリウレタン−ジメチルホルムアミド溶液に含浸した後、水中でポリウレタンを凝固させ、さらに水流中にさらしてジメチルホルムアミドとポリビニルアルコールを抽出後、乾燥機で乾燥させてポリエチレンテレフタレート繊維とポリウレタン及び織物からなる幅120cm厚み2mmの不織布を作成した。極細繊維の繊度は0.2デシテックスであった。
【0022】
該不織布シートをバンドナイフによって厚み方向に半裁し、サンドペーパーを用いて半裁面すなわち表面に織物が張り合わされていない面を研削、起毛させることにより立毛を形成し、厚み0.6mm、幅120cmのポリエステル繊維とポリウレタン及び織物からなる立毛人工皮革シートを作成した。
【0023】
得られた立毛人工皮革シートを幅40mm、長さ60cmにカットして帯状に加工し、本体がポリエステル100%の市販のキャップ(六方型野球帽)の本体の内側に、立毛面が頭部と接触するように作成した帯状立毛人工皮革を縫い代5mmで縫いつけて、スエットバンドが立毛人工皮革からなる周長が60cmのキャップを得た。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同様にして得た立毛人工皮革シートを幅35mm長さ61cmにカットして帯状に加工し、次いで帯状の両端を縫い代1cm縫い合わせることで円形にし、本体がポリエステル100%の市販のキャップ(六方型野球帽)からひさし部分を取り外し、作成した帯状立毛人工皮革をひさし部分に縫い合わせることで、バンド部分すなわちスエットバンドが立毛人工皮革からなる周長が60cmのサンバイザーを得た。
【0025】
[実施例3]
不織布シート作成段階において織物を挿入していないこと以外は実施例2と同様にして、スエットバンドが立毛人工皮革からなる周長が60cmのサンバイザーを得た。
【0026】
[比較例1]
スエットバンドが織物と不織布の2重構造となっており、頭部と接触する面に織物が配置された、特に加工を施していない周長が60cmの本体がポリエステル100%の市販のキャップ(六方型野球帽)。
【0027】
[比較例2]
本体がポリエステル100%の市販のキャップ(六方型野球帽)に元から取り付けられていた、織物と不織布の2重構造となっており、頭部と接触する面に織物が配置されたスエットバンドを、バンド部分すなわちスエットバンドとして使用したこと以外は実施例2と同様の周長が60cmのサンバイザー。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1、2、3及び比較例1、2で得られた帽子のそれぞれについて、健康で頭のサイズが60cmの男性5人による着用試験を行った。試験ではひさしの中心が額の中心にくるようにかぶる通常の着用方法で、気温25℃湿度60%の室内で2分間踏み台昇降運動を行った後のフィット感、スエットバンド部の肌触りについてそれぞれ、
3:良い、
2:普通、
1:悪い、
の3段階で評価した。
【0030】
さらに、実施例2及び3及び比較例2について形態安定性を評価するため、着用前後のバンド部周長を最小目盛り1mmの汎用巻き尺を用いて測定し、着用前後の周長差すなわち伸びについて5人の平均値を算出した。
着用試験における各評価の各人の平均点を算出し下一桁を四捨五入したところ、実施例1、2及び3についてはフィット感、肌触りともに良いという結果であったのに対して、比較例1及び2はフィット感が普通、肌触りが悪いという結果になった。
【0031】
また、形態安定性テストでは実施例2と比較例2では5人全員で伸び1mm以下であり肉眼で確認することができなかったのに対して、実施例3は平均3mmの伸びが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で作製した本発明のキャップを上方から見た概略図である。
【図2】実施例2及び3で作製した本発明のサンバイザーを上方から見た概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1:ひさし
2:スエットバンド
3:帽子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維を含む立毛人工皮革からなることを特徴とする帽子用スエットバンド。
【請求項2】
前記立毛人工皮革は極細繊維を含む不織布からなり、該極細繊維と織物の絡み合わせにより該不織布と該織物とが一体構造になっていることを特徴とする請求項1に記載の帽子用スエットバンド。
【請求項3】
前記極細繊維の繊度が10デシテックス以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の帽子用スエットバンド。
【請求項4】
前記立毛人工皮革がバインダーを有し、該バインダー成分がポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の帽子用スエットバンド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−203588(P2009−203588A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49476(P2008−49476)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】