説明

平版印刷インキ

【課題】石油系溶剤を一切使用しないで、印刷機上のゴム材質への適性を損なわず、乾燥性と機上安定性に優れた性能が得られ、かつ、ワニス樹脂においても環境に対応した樹脂を用いることで、かつてない程の環境対応型のインキを提供すること。
【解決手段】ロジンエステル樹脂を主成分とするワニス用樹脂(a)と溶剤とを含有し、該溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物(b)と下記一般式(2)で表される化合物(c)とを(c):(b)=0〜30質量%未満:100〜70質量%の割合で含有し、かつ石油系溶剤を含有しないインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷インキ(以下、単に「インキ」という場合がある。)に関し、詳しくは、従来の石油留分から得られる石油系溶剤を一切使用せず、特定の植物油由来の溶剤を使用し、かつ、石油系原料の使用を極力抑えたワニス用樹脂を用いることで、従来の石油系溶剤を使用したインキよりも蒸発乾燥性と機上安定性のバランスが優れた、印刷機上のゴム材質への適性を損なうことのない環境対応型のインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷に使用されるインキ、とくに、オフセット輪転印刷に使用されるインキは、適度な加熱条件で蒸発可能な石油系溶剤を用いていた。上記の溶剤は、ワニス用樹脂の溶剤として、また、乾燥性や印刷機上での機上安定性を調整する必要から、その沸点の異なる溶剤を選定したり、あるいはそれらを適宜に混合組み合わせて使用する処方を取らなければならない。
【0003】
上記の処方は、しばしば、インキの乾燥性と機上安定性に相反する結果を生じる。上記の機上安定性を向上させるために高沸点の石油系溶剤を用いるとインキの蒸発乾燥性が低下し、インキ塗膜の乾燥硬化不良が発生する。このことは、石油系溶剤の持つ広い沸点範囲が起因しており、実機の乾燥機の加熱条件では蒸発しきれない高沸点部の溶剤がインキ中に残留してしまうことによる。
【0004】
また、上記の石油系溶剤は、石油資源の枯渇保護や環境負荷の低減などの環境対応の観点からその使用は好ましくないために、石油系溶剤を植物油由来の溶剤に置き換えた環境対応のインキが検討されている。
【0005】
上記の環境対応のインキとして、ある種の印刷インキ(特許文献1)が開示されている。特許文献1に開示のインキ組成物は、ロジン変性フェノール樹脂と溶剤として植物油脂肪酸エステルとを主成分として構成されているが、提示された脂肪酸エステルは、従来の石油系溶剤に比べて沸点が非常に高い。このために、これら溶剤を用いたインキは、ヒートセット乾燥性能を必要とするオフセット輪転印刷に用いることはできない。また、ワニス用樹脂としてロジン変性フェノール樹脂を主成分としているために、該樹脂中にアルキルフェノールなどの石油系原料を多く含んでおり、環境対応としては不充分なものである。
【0006】
上述のことから、乾燥性および機上安定性が優れ、かつインキ中に石油系原料の少ないインキが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−69354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、石油系溶剤を一切使用しないで、印刷機上のゴム材質への適性を損なわず、乾燥性と機上安定性に優れた性能が得られ、かつ、ワニス樹脂においても環境に対応した樹脂を用いることで、かつてない程の環境対応型のインキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ロジンエステル樹脂を主成分とするワニス用樹脂(a)と溶剤とを含有し、該溶剤が特定の化合物(b)と特定の化合物(c)とを特定の割合に含有し、かつ石油系溶剤を含有しないインキが、乾燥性と機上安定性が優れ、かつ印刷機のインキローラーやブランケットなどのゴム材質に対する適性が良好な環境対応型の平版印刷インキを得るのに有効であることを見出した。
【0010】
すなわち、従来使用される石油系溶剤を、沸点範囲が狭く且つワニス用樹脂成分などに対する溶解性が高い植物油由来の特定の化合物(b)に置き換えることにより、インキの乾燥性を大きく損なわずに印刷機上でのインキのタック上昇が少なく印刷機上安定性が優れ、さらには石油系原料の含有量が少ないワニス用樹脂(a)を用いることで、環境負荷の少ないインキが得られる。また、化合物(c)、または、化合物(c)に化合物(d)を配合することで、乾燥性や機上安定性を操作することができる。上記化合物(c)は、化合物(d)に比べて印刷機のインキローラーやブランケットのゴム材質に対する適性が良好である。
【0011】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、ロジンエステル樹脂を主成分とするワニス用樹脂(a)と溶剤とを含有し、該溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物(b)と下記一般式(2)で表される化合物(c)とを(c):(b)=0〜30質量%未満:100〜70質量%の割合で含有し、かつ石油系溶剤を含有しないことを特徴とするインキを提供する。
R1−O−R2 (1)
(上記式中のR1は、炭素数が4〜22のアルキル基またはアルケニル基を、またR2は、炭素数が1〜22のアルキル基を表す。)
R3COOR4 (2)
(上記式中のR3は、炭素数が3〜11のアルキル基またはアルケニル基を、また、R4は、炭素数が5〜14のアルキル基を表す。)
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態では、前記化合物(c)が、下記一般式(3)で表される化合物(d)を含有する。
R5COOR6 (3)
(上記式中のR5は、炭素数が10〜18のアルキル基またはアルケニル基を、また、R6は、炭素数が1〜4のアルキル基を表す。)
前記化合物(c)と前記化合物(d)との配合割合が、(d):(c)=1〜10質量%:99〜90質量%であり、前記ロジンエステル樹脂の曇点が、50℃〜200℃であり、かつ重量平均分子量が20,000〜500,000であり、さらに着色剤を含有しており、および上記のインキはオフセット輪転印刷インキであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明のインキは、石油系溶剤を一切使用しなくても、乾燥性と機上安定性のバランス、および印刷機上のゴム材質に対する適性が優れた環境対応型のインキ、とくに、高速オフセット輪転印刷インキを得るのに有効である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明のインキは、ロジンエステル樹脂を主成分とするワニス用樹脂(a)と溶剤とを含有し、該溶剤が特定の化合物(b)と特定の化合物(c)とを(c):(b)=0〜30質量%未満:100〜70質量%の割合、好ましくは(c):(b)=0〜29質量%:100〜71質量%で含有し、かつ石油系溶剤を含有しないものである。上記化合物(b)と化合物(c)との割合が上記範囲内であると、得られるインキの乾燥性と機上安定性のバランス、および印刷機上のインキローラーやブランケットなどのゴム材質に対する適性が極めて優れた効果を発揮する。
【0015】
また、前記のワニス用樹脂(a)を構成するロジンエステル樹脂としては、例えば、ロジン類またはロジン類と他のジエン化合物との混合物に、不飽和多塩基酸および/不飽和モノカルボン酸を付加反応させ、該付加反応生成物をポリオールでエステル化したロジンエステル樹脂などが挙げられる。上記のロジンエステル樹脂の合成に使用されるロジン類、ジエン化合物、不飽和多塩基酸および/不飽和モノカルボン酸、ポリオールは、従来公知のもので問題ない。
【0016】
上記のロジンエステル樹脂の合成に使用されるロジン類としては、例えば、ウッドロジン、ガムロジン、トール油ロジンなどの天然ロジン、ロジンを触媒下で加熱重合して得られる二量化ロジンまたは重合ロジン、水素添加ロジンなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
上記のロジン類と混合して使用するジエン化合物としては、例えば、1,3−ペンタジエン石油樹脂、1,4−ペンタジエン石油樹脂などのジオレフィン化合物、またはシクロペンタジエン系石油樹脂、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0018】
また、不飽和多塩基酸および/不飽和モノカルボン酸としては、ジエン化合物とディールス−アルダー反応(ジエン合成)に適合する、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、α−エチルクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0019】
また、ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの低分子ポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどのポリオール、その他ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどのポリオール化合物が挙げられる。
【0020】
前記のロジンエステル樹脂は、好ましくは曇点が50℃〜200℃、より好ましくは50℃〜150℃であり、かつ重量平均分子量が20,000〜500,000、より好ましくは50,000〜200,000である。上記の曇点および重量平均分子量が上記範囲内であると、得られるインキの流動性および粘弾性がより優れたものとなる。なお、本発明における重量平均分子量は、GPCで測定した標準ポリスチレン換算した値である。
【0021】
また、本発明における曇点は、測定試料(x)と、石油系溶剤である新日本石油(株)製、AF6号ソルベント(y)とをx/y=1/9(質量比)の割合で配合し、樹脂が解けるまで加熱溶解させてから降温操作により測定される曇点の値である。
【0022】
前記のワニス用樹脂(a)は、前記のロジンエステル樹脂を単独でも、あるいは、本発明の目的を妨げない範囲において、その他ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂、石油樹脂などを配合することもできる。その配合量は、ワニス用樹脂(a)総量中に50質量%未満である。
【0023】
上記のロジン変性フェノール樹脂としては、例えば、レゾール樹脂と、ロジンおよび/またはロジンと不飽和カルボン酸との縮合生成物と、多価アルコールとの反応生成物である。上記のレゾール樹脂は、p−ターシャリーブチルフェノール、p−セカンダリーブチルフェノール、p−オクチルフェノール、ノニルフェノール、ブチルフェノール、アミルフェノールなどのアルキルフェノール類、その他ビスフェノールA、クレゾールなど、好ましくはアルキル基の炭素数が4〜12のアルキルフェノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合生成物である。
【0024】
また、上記のレゾール樹脂と反応させるロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、重合ロジン、不均斉化ロジンなどの各種ロジン類が挙げられる。また、上記のロジンと縮合生成物を形成する不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸など、およびそれらの無水物、その他、ダイマー酸、トリマー酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0025】
また、前記の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジグリセリンなどの2価以上のアルコール類が挙げられる。
【0026】
前記の化合物(b)は、下記一般式(1)で表されるエーテルである。
R1−O−R2 (1)
(上記式中のR1は、炭素数が4〜22のアルキル基またはアルケニル基を、またR2は、炭素数が1〜22のアルキル基を表す。)
上記の化合物(b)は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。上記の化合物(b)は、得られるインキの乾燥性と機上安定性のバランスを向上させるのに効果がある。上記の化合物(b)の内で、好ましくはR1、およびR2の炭素数が4〜14のものが、とくに好ましくはR1、およびR2の炭素数が8のものが挙げられる。
【0027】
上記の化合物(b)としては、公知の方法で合成された対称型または非対称型エーテルなど、例えば、n−ブチルtert−ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテル、ジドデシルエーテル、ノニルヘキシルエーテル、ノニルヘプチルエーテル、ノニルオクチルエーテルなど、好ましくはジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテルなど、好ましくはジオクチルエーテルが挙げられる。
【0028】
上記の化合物(b)は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができるが、好ましくはその配合量は、得られるインキ総量中に20質量%〜60質量%である。上記範囲内が、得られるインキの乾燥性と機上安定性に効果がある。
【0029】
上記の化合物(c)は、下記一般式(2)で表される脂肪酸エステルである。
R3COOR4 (2)
(上記式中のR3は、炭素数が3〜11のアルキル基またはアルケニル基を、また、R4は、炭素数が5〜14のアルキル基を表す。)
上記の化合物(c)は、得られるインキの乾燥性と機上安定性のバランスを調整させる効果がある。
【0030】
上記の化合物(c)の脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、ヤシ油、パーム油、パーム核油、クヘア油、あおもじ油、いぬがし油、かごのき油、グアバ油、グレープフルーツ種子油、しろだも種子油、しろもじ種子油、ナツメヤシ種子油、にっけい種子油、などの植物由来の脂肪酸であり、一般に、複数の脂肪酸から構成されているので、それらを公知の方法で分離精製して使用する。上記の脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。
【0031】
また、上記の脂肪酸と反応させて前記化合物(c)を生成するアルコールとしては、例えば、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、3−メチル−ブチルアルコール、2−エチル−1−ブチルアルコール、2,4−ジメチル−3−ペンチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシルアルコール、4−デシルアルコール、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシルアルコール、2−ブチル−1−オクチルアルコールなどが挙げられる。
【0032】
前記化合物(c)は、前記の脂肪酸とアルコールとの反応による直接エステル化反応による方法、その他エステル交換反応による方法、塩化アシルとアルコールとの反応、エポキシドと脂肪酸との反応など公知の方法で合成できる。
【0033】
前記化合物(c)としては、例えば、カプロン酸のヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、2−エチルヘキシルエステル、3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、4−デシルエステル、2−イソプロピル−5−メチルヘキシルエステル;カプリル酸のヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、2,4−ジメチル3−ペンチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、3,5,5−トリメチルヘキシルエステル;カプリン酸のヘキシルエステル、2−エチルブチルエステル、アミルエステルなどの脂肪酸エステルが挙げられる。
【0034】
前記の化合物(c)は、得られるインキの乾燥性と機上安定性のバランスを微調整する目的で下記一般式(3)で表される化合物(d)を含有することができる。上記化合物(d)単独では、印刷機のインキローラーやブランケットのゴム材質に対する膨潤が発現するので好ましくない。
R5COOR6 (3)
(上記式中のR5は、炭素数が10〜18のアルキル基またはアルケニル基を、また、R6は、炭素数が1〜4のアルキル基を表す。)
【0035】
前記化合物(c)と上記化合物(d)とを併用する場合、化合物(c)と化合物(d)との配合割合は(d):(c)=1〜10質量%:99〜90質量%である。上記化合物(d)の配合割合が上記上限を超えると、得られるインキの印刷機上のインキローラーやブランケットのゴム材質に対する膨潤が発現する危険性がある。一方、その配合割合が上記下限未満であると、得られるインキの乾燥性と機上安定性のバランス調整効果が得られない。
【0036】
前記の化合物(d)は、前記一般式(3)で表される植物油から誘導された脂肪酸エステルの単体あるいは混合物であるものが好ましく使用される。上記の化合物(d)としては、例えば、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸などのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、tert−ブチルエステルなどが挙げられる。
【0037】
本発明のインキに使用するインキワニスは、前記のワニス用樹脂(a)と、前記化合物(b)と化合物(c)とを前記割合で含有する溶剤と、または、化合物(c)に化合物(d)を前記の配合割合になるように配合し、ゲル化剤と植物油とを適宜に配合して調製する。上記のワニスの調製方法としては、例えば、上記のワニス用樹脂(a)と化合物(b)、化合物(c)と、また、必要に応じて化合物(d)を化合物(c)に配合し、植物油とを窒素気流雰囲気下で200℃にて30分間均一に加熱撹拌し、その後150℃に冷却して、ゲル化剤を配合して、さらに200℃にて60分間均一に加熱撹拌して調製する。
【0038】
上記の植物油としては、公知の不乾性油、半乾性油、乾性油などを使用することができる。上記の不乾性油としては、例えば、ヒマシ油、落花生油、オリーブ油など、また、半乾性油としては、例えば、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油など、また、乾性油としては、例えば、アマニ油、エノ油、キリ油など、好ましくは大豆油が挙げられる。
【0039】
また、上記のゲル化剤としては、公知のもの1種を単独で、あるいは2種以上を含有して使用することができ、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムエチルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセテート)、ステアリン酸アルミニウム、オクチル酸アルミニウム、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキサイトなど、好ましくはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシドなどが挙げられる。上記のゲル化剤は、川研ファインケミカル(株)からALCHの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0040】
本発明のインキは、前記ワニスに着色剤を配合しないオーバープリントワニスタイプのものでもよいが、前記ワニスに着色剤を含有するタイプのものでもよい。上記のインキ製造は、例えば、前記のワニスと着色剤とをミキサーでプレミキシングし、次に、3本ロールミルで均一に混練し、所望のインキタックになるまで前記のワニスの溶剤および該ワニスを追加配合して調製する。また、必要に応じて、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどのワックスコンパンドなどの添加剤を本発明の目的を妨げない範囲において添加してもよい。
【0041】
本発明に使用する上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、亜鉛華、弁柄、群青、酸化鉄、アルミニウム粉などの無機顔料、不溶性アゾ顔料、金属塩でレーキ化したアゾ顔料、縮合アゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キレート系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、インジゴ系顔料、ピランスロン系顔料、アンスアンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、アンスラキノン系顔料などの有機顔料、カーボンブラック、その他染料が挙げられる。
【0042】
本発明のインキは、枚葉の平版印刷インキとしても使用することができるが、蒸発乾燥型のオフセット輪転印刷インキとして有効に使用される。
【実施例】
【0043】
次に、本実施例で使用するインキワニスR1〜R6および比較例で使用するインキワニスS1〜S3の調製例と、これらのインキワニスを使用したインキの実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(インキワニスR1〜R6)
表1に示すように、ワニス用樹脂(a)と、化合物(b)と、化合物(c)と、化合物(d)と、植物油(e)とを配合し、窒素気流下で200℃にて30分間均一に加熱撹拌し、その後150℃に冷却して、ゲル化剤(f)を配合して、さらに200℃にて60分間均一に加熱撹拌してインキワニスR1〜R6を調製した。
【0045】
上記のワニス用樹脂(a)と、化合物(b)と、化合物(c)と、化合物(d)と、植物油(e)、およびゲル化剤(f)は下記の通りである。
・ワニス用樹脂(a)
ロジンエステル樹脂およびロジン変性フェノール樹脂は下記の製造例のものを使用した。
[ロジンエステル樹脂(a1)]
撹拌器および温度計を備えた反応装置に、ロジン800部と、1,3−ペンタジエン石油樹脂200部を添加し、200℃まで加熱して、アクリル酸50部と無水マレイン酸500部を添加してジエン合成させた。該反応生成物に、ペンタエリスリトール130部と、触媒として酸化マグネシウム0.5部を添加し、280℃でエステル化反応を行い重量平均分子量100,000、曇点120℃のロジンエステル樹脂(a1)を製造した。
[ロジン変性フェノール樹脂(a2)]
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、トルエン47部、p−オクチルフェノール320部、および92%パラホルムアルデヒド101部を仕込み、60℃まで加熱し溶解した後、水酸化ナトリウム8部を投入する。次に、90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去して平均核体数3のレゾール樹脂を得た。次に、撹拌機、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン600部を溶解し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でグリセリン56部と触媒として酸化マグネシウム0.6部を投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量100,000、曇点100℃のロジン変性フェノール樹脂(a2)を製造した。
【0046】
[化合物(b)]
ジオクチルエーテル
[化合物(c)]
c1:カプリル酸2−エチルヘキシルエステル
c2:カプロン酸4−デシルエステル
c3:カプリン酸n−ヘキシルエステル
[化合物(d)]
ラウリン酸イソプロピルエステル
【0047】
[植物油(e)]:大豆油
[ゲル化剤(f)]:エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(川研ファインケミカル(株)からALCH)
【0048】
(インキワニスS1〜S3)
表1に示すように、実施例で使用した各々の成分、または石油系溶剤(P1、またはP2)を配合し、窒素気流下で200℃にて30分間均一に加熱撹拌し、その後150℃に冷却して、ゲル化剤(f)を配合して、さらに200℃にて60分間均一に加熱撹拌してインキワニスS1〜S3を調製した。なお、石油系溶剤(P1、P2)は下記のものである。
・石油系溶剤P1:AFソルベント7号
・石油系溶剤P2:AFソルベント5号(高沸点)
【0049】

【0050】
[実施例1〜6]
前記のインキワニスR1〜R6の各々を使用し、表2のように各インキワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、インキタックがインコメーター測定値で10〜11になるように、上記のインキワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混練して本発明のインキT1〜T6を調製した。上記のインキタック値は、得られたインキ1.31mlを東洋精機(株)製、インコメーターのロールに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード1,200rpmで回転させ、1分後の測定値である。
【0051】
[比較例1〜3]
前記のインキワニスS1〜S3の各々を使用し、表2のように各該ワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、インキタックがインコメーター測定値で10〜11になるように、上記のワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混練して比較例のインキU1〜U3を調製した。なお、上記比較例のインキU1は、従来から用いられている標準的な組成のインキである。
【0052】

【0053】
上記で得られた各々のインキについて、乾燥性、機上安定性、ゴム材質への適性、および環境対応性に関し、以下の測定方法により評価した。評価結果を表3および表4に示す。
(乾燥性)
前記の各々のインキ0.125mlを試料とし、石川島産業(株)製のRIテスター2分割ロールを用いてトップコート紙に展色し印刷試料片を作成した。次に、温度条件が調整可能なオーブンを使用して、上記の印刷試料片を加熱して、紙面温度を操作しながらインキ塗膜を乾燥固化させる。乾燥後、印刷試料片を1分間放冷し、放冷した印刷試料片のインキ塗膜面を学振型耐摩擦性試験機にセットされた白紙で擦り、印刷試料片のインキ塗膜が擦れ落ちしない時の紙面乾燥温度を測定した。上記の乾燥性は、紙面乾燥温度が低いほど、インキの乾燥性が良好であり、一方、紙面乾燥温度が高いほど、インキの乾燥性が悪いことを示す。
【0054】
(機上安定性)
前記の各々のインキ0.5mlを東洋精機(株)製のインコメーターに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード2,000rpmに設定してロールを回転させ、タック値の経時的な変動を測定する。計測開始からロール上のインキが粘着性を失いタック値が低下し始めるまでの経時時間(安定時間)を読み取り、インキの安定性を評価する。その時間が長いほど、安定性が良好であると判断する。
【0055】
(ゴム材質への適性)
前記の各々のインキをゴムブランケット片(ディインターナショナル製、ディブラン3000−4)の表面にヘラで適量塗布し、常温にて24時間放置後、インキを拭き取りブランケット表面の膨潤状況よりゴム材質への適性を評価し、膨れや軟化現象の発生の大きいものほどゴム材質への適性が悪く、一方、これらの現象が小さいほどゴム材質への適性が良好と判断する。
○:ブランケット表面に膨れや軟化現象が認められず、ゴム材質への適性が良好である。
△:ブランケット表面に膨れや軟化現象が実用上問題のない範囲でわずかに認められ、ゴム材質への適性が実用上問題のない範囲である。
×:ブランケット表面に膨れや軟化現象が認められ、ゴム材質への適性が劣る。
【0056】
(環境対応性)
得られた各々のインキの環境対応性の配慮度合を10点法にて評価した。上記の評価点が大きいほど、使用溶剤およびワニス用樹脂における石油系原料の使用が少なく、環境配慮度合が良好であり、一方、その評価点が小さいほど、上記成分における石油系原料の使用が多く、環境配慮度合が劣ることを示す。
【0057】

【0058】

【0059】
上記の評価結果より、本発明のインキは、石油系溶剤を一切使用しなくても、従来の石油系溶剤を使用したインキよりも乾燥性と機上安定性が優れ、かつゴム材質への膨潤も少ないという特徴を有しながらも、環境対応性が大幅に向上されていることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のインキは、石油系溶剤を一切含有しておらず、従来の石油系溶剤を使用したワニスおよびインキよりも乾燥性と機上安定性が優れ、かつ印刷機上のゴム材質への適性が良好であり、環境対応性が大幅に向上されていることから環境対応型の平版印刷インキ、とくにオフセット輪転印刷インキとして有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンエステル樹脂を主成分とするワニス用樹脂(a)と溶剤とを含有し、該溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物(b)と下記一般式(2)で表される化合物(c)とを(c):(b)=0〜30質量%未満:100〜70質量%の割合で含有し、かつ石油系溶剤を含有しないことを特徴とする平版印刷インキ。
R1−O−R2 (1)
(上記式中のR1は、炭素数が4〜22のアルキル基またはアルケニル基を、またR2は、炭素数が1〜22のアルキル基を表す。)
R3COOR4 (2)
(上記式中のR3は、炭素数が3〜11のアルキル基またはアルケニル基を、また、R4は、炭素数が5〜14のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記化合物(c)が、下記一般式(3)で表される化合物(d)を含有する請求項1に記載のインキ。
R5COOR6 (3)
(上記式中のR5は、炭素数が10〜18のアルキル基またはアルケニル基を、また、R6は、炭素数が1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記化合物(c)と前記化合物(d)との配合割合が、(d):(c)=1〜10質量%:99〜90質量%である請求項2に記載のインキ。
【請求項4】
前記ロジンエステル樹脂の曇点が50℃〜200℃であり、かつ重量平均分子量が20,000〜500,000である請求項1に記載のインキ。
【請求項5】
さらに着色剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のインキ。
【請求項6】
オフセット輪転印刷インキである請求項1〜5のいずれか1項に記載のインキ。