説明

平面磁気素子

【要 約】
【課 題】 磁気素子としての信頼性の確保と磁気特性の向上を両立させて、優れた信頼性と磁気特性を有し、インダクタで使用するのに好適な平面磁気素子を提供する。
【解決手段】 上部磁性層の下面の面積を中間磁性層の上面の面積より小さくし、かつ接着層を形成する接着剤を用いて上部磁性層の側面を被覆する側面被覆層を形成し、接着層と側面被覆層とを一体的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器で使用されるインダクタの小型化,薄型化に効果を発揮する平面磁気素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やパソコン等の持ち運び可能な電子機器の普及に伴い、電子機器の小型化,軽量化、すなわち使用される部品の小型化,薄型化の要求が高まっている。電子機器を構成する各種回路のうち、大きい容積を占めるのが電源回路である。したがって電子機器の小型化,軽量化を図るためには、電源回路に組み込まれるIC,インダクタ,コンデンサ等の部品を小型化,薄型化する必要がある。
【0003】
特にインダクタは電源回路の中で最も大きい部品であるから、インダクタの小型化,薄型化を達成すれば、電子機器の小型化,軽量化に大きく寄与する。薄板状の磁性体(以下、磁性層という)を重ね合わせて接合した平板状の磁気素子は、一般に平面磁気素子と呼ばれており、インダクタの小型化,薄型化を達成するために有効な磁気素子である。
図3は、従来の平面磁気素子の例を模式的に示す断面図である。通常、平面磁気素子には、同一寸法の3層の磁性層(すなわち上部磁性層6と下部磁性層2の間に中間磁性層3)が配設される。中間磁性層3内にはコイル1が埋め込まれ、下部磁性層2の下面には外部電極5が取り付けられる。上部磁性層6と中間磁性層3は接着剤で接合され、その接着剤で形成される接着層7が上部磁性層6の下面と中間磁性層3の上面を全て覆う状態で、上部磁性層6と中間磁性層3の間に存在する。
【0004】
このような平面磁気素子の小型化,薄型化を達成するために、信頼性と磁気特性を改善する技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1には、インダクタンスが大きく、かつコイルの直流抵抗が小さい平面磁気素子が開示されている。この平面磁気素子は、上部磁性フェライト焼結基板と下部磁性フェライト焼結基板との間に平面コイルを配設することによって、3層の磁性層(すなわち上部磁性フェライト焼結基板,下部磁性フェライト焼結基板,平面コイル)で構成し、さらに上部磁性フェライト焼結基板と平面コイルを接着剤で接合する。
【0005】
ところが特許文献1に開示された技術では、上部磁性フェライト焼結基板と平面コイルを接着する接着用樹脂層が薄い場合には、十分な接着強度が得られず、上部磁性フェライト焼結基板が剥離し易くなり、磁気素子としての信頼性が低下する。一方、接着用樹脂層が厚い場合には、接着強度は向上するものの、インダクタンスが低下するので十分な磁気特性が得られない。
【特許文献1】特開2003-332163 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、磁気素子としての信頼性の確保と磁気特性の向上を両立させて、優れた信頼性と磁気特性を有し、インダクタで使用するのに好適な平面磁気素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上部磁性層,中間磁性層および下部磁性層を有し、上部磁性層と中間磁性層との間に接着層を有する平面磁気素子であって、上部磁性層の下面の面積を中間磁性層の上面の面積より小さくし、かつ接着層を形成する接着剤を用いて上部磁性層の側面を被覆する側面被覆層を形成し、接着層と側面被覆層とを一体的に形成してなる平面磁気素子である。
【0008】
また本発明は、上部磁性層,中間磁性層および下部磁性層を有し、上部磁性層と中間磁性層との間に接着層を有する平面磁気素子であって、上部磁性層と中間磁性層の側面に段差を設け、かつ接着層を形成する接着剤を用いて上部磁性層の側面を被覆する側面被覆層を形成し、接着層と側面被覆層とを一体的に形成してなる平面磁気素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上部磁性層と中間磁性層を接合する接着剤で形成される接着層を薄くするとともに接着強度を高めることによって、インダクタンスを向上し、かつ上部磁性層と中間磁性層の剥離を防止することができる。その結果、優れた信頼性と磁気特性を有し、インダクタで使用するのに好適な平面磁気素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の平面磁気素子の例を模式的に示す断面図である。本発明の平面磁気素子は、3層の磁性層(すなわち上部磁性層6と下部磁性層2の間に中間磁性層3)が配設される。中間磁性層3内にはコイル1が埋め込まれ、下部磁性層2の下面には外部電極5が取り付けられる。上部磁性層6の下面の面積は、中間磁性層3の上面の面積より小さい。したがって上部磁性層6の側面と中間磁性層3の側面には段差が生じる。
【0011】
その上部磁性層6と中間磁性層3の段差の幅9(すなわち上部磁性層6の外縁と中間磁性層3の外縁との距離)が20μm未満では、後述する側面被覆層4の厚さが薄くなり、上部磁性層6と中間磁性層3の接着強度が低下する。側面被覆層4が中間磁性層3の外縁から張り出すように形成すれば、側面被覆層4を厚くすることは可能である。しかし、その場合は、平面磁気素子の外寸が増加するので、小型化を達成する上で不利になる。一方、段差の幅が80μmを超えると、上部磁性層6が縮小されるので、インダクタンスが低下する。したがって、上部磁性層6と中間磁性層3の段差の幅9は20〜80μmの範囲内を満足するのが好ましい。
【0012】
本発明の平面磁気素子を構成する上部磁性層6と中間磁性層3は接着剤で接合され、その接着剤で形成される接着層7が上部磁性層6の下面と中間磁性層3の上面を全て覆う状態で、上部磁性層6と中間磁性層3の間に存在する。また上部磁性層6の側面は、接着層7と同じ接着剤で被覆される。つまり上部磁性層6の側面を被覆する側面被覆層4は、接着層7と同一の材質で形成される。さらに接着層7と側面被覆層4は、互いに接触している。したがって、接着層7と側面被覆層4は連結しかつ同一成分で一体的に形成される。
【0013】
なお、上部磁性層6や下部磁性層2は、印刷法やシート法で形成したフェライト磁性膜,焼結法で形成したフェライト焼結基板等の、従来から知られている手順で製造したものを使用する。
図1に示すような構成の平面磁気素子のインダクタンスは、上部磁性層6の下面と中間磁性層3の上面との間隔に依存し、その間隔が広がるにつれてインダクタンスが低下する。上部磁性層6の下面と中間磁性層3の上面との間隔は、接着層7の厚さに等しい。したがって、接着層7を薄くすることによって、平面磁気素子のインダクタンスは向上する。
【0014】
ところが接着層7を薄くすれば、接着強度が低下する。インダクタの製造工程で信頼性試験(たとえば1000hr耐熱試験等)を行なうと接着強度が一層減少し、上部磁性層6が中間磁性層3から剥離する。その結果、部分的に剥離するだけで、インダクタンスが変動し、インダクタとしての信頼性を損ねる。上部磁性層6が脱落すれば、インダクタとしての機能を果たさなくなる。
【0015】
そこで図1に示すように、接着層7と一体的に側面被覆層4を形成して、上部磁性層6の剥離を防止する。本発明では、上部磁性層6の下面を中間磁性層3の上面より小さくするので、容易かつ確実に側面被覆層4を形成でき、しかもその側面被覆層4を接着層7に一体化させることができる。
つまり本発明の平面磁気素子では、接着層7を薄くすることによって、平面磁気素子のインダクタンスを向上させるとともに、接着層7と一体的に側面被覆層4を形成することによって、上部磁性層6と中間磁性層3の接着強度を高める。このようにして優れた信頼性と磁気特性を有し、インダクタで使用するのに好適な平面磁気素子を得ることができる。
【0016】
図2は、本発明の平面磁気素子の他の例を模式的に示す断面図である。図2の平面磁気素子では、接着層7と側面被覆層4に加えて、上面被覆層8が形成される。上面被覆層8は、上部磁性層6の上面を被覆するものであり、接着層7や側面被覆層4と同じ接着剤で一体的に形成される。図2の平面磁気素子は、図1の平面磁気素子に比べて、上部磁性層6を全体的に接着層7で覆うことができ、接着強度がさらに増加し、信頼性の高いインダクタとなるが、上面被覆層8の厚さの分、厚くなる。
【0017】
図2に示すような上面被覆層8は、平面磁気素子の用途や仕様等、必要に応じて形成すれば良い。
【実施例】
【0018】
図1に示す本発明の平面磁気素子を作製した。その手順を以下に説明する。
まず Fe23 /ZnO/CuO/NiO=49/23/12/16(mol %)の組成を有する焼結フェライト基板にショットブラストを施して、コイル端子位置に接続部形成用の貫通孔を設けて下部磁性層2とした。
次に、電気メッキの際のシード膜として厚さ 0.5μmのCu膜をスパッタ法で形成した。そのCu膜上にフォトレジストを塗布した後、フォトリソグラフィーによってスパイラルコイル(厚さ90μm,7ターン)のレジストフレームを形成した。電気メッキによりレジストフレーム内にCuを析出させた後、レジストフレーム剥離,湿式エッチングでコイル間のメッキ下地を取り除いて平面コイルとした。その後、 Fe23 /ZnO/CuO/NiO=49/23/12/16(mol %)の組成を有する磁性粉を樹脂に混合した樹脂フェライトペーストをコイル上およびコイル間にスクリーン印刷し、 150℃で熱硬化させて、中間磁性層3とした。
【0019】
次に、下部磁性層2の下面に、外部電極5としてAgを主成分とする低温硬化型導電性ペーストを所定の形状にスクリーン印刷し、 150℃で熱硬化させて、厚さ30μmの外部電極5を形成した。
このようにして下部磁性層2上に中間磁性層3を形成した後、ダイシングによって平面磁気素子の寸法(3.20×2.50mm)に切り出した。
【0020】
次いで、中間磁性層3の上面に、ディスペンサを用いて接着剤を塗布し、厚さ5μmの接着層7を形成した。
さらに、上部磁性層6として Fe23 /ZnO/CuO/NiO=49/23/12/16(mol %)の組成を有する焼結フェライト基板を、接着層7上に載置した。上部磁性層6の寸法は、3.18×2.48mm,3.16×2.46mm,3.10×2.40mm,3.04×2.34mm,3.00×2.30mmの5種類とした。したがって、上部磁性層6の側面と中間磁性層3の側面には段差が生じる。
【0021】
この段差の部位(すなわち上部磁性層6より突き出た中間磁性層3の上面外縁から上部磁性層6の側面)に、接着層7と同じ接着剤を塗布して、側面被覆層4を形成した。なお、接着剤を塗布する際にはディスペンサを用いた。また、接着層7と側面被覆層4とは互いに接触させて、一体的に形成した。
次に、外部電極5にNiおよびSnをメッキして平面磁気素子を完成させた。これを発明例とする。
【0022】
一方、比較のため図3に示すように、上部磁性層6の寸法を3.20×2.50mm(すなわち下部磁性層2および中間磁性層3と同一寸法)とし、上部磁性層6の側面と中間磁性層3の側面に段差を設けずに平面磁気素子を作製した。接着層7の厚さは、5μm,10μm,15μmの3種類とした。これを従来例とする。従来例の平面磁気素子では、上部磁性層6の側面と中間磁性層3の側面に段差が存在しておらず、側面被覆層4を形成しなかった。その他の作製手順は、発明例と同じであるから説明を省略する。
【0023】
これらの発明例と従来例の平面磁気素子(各々20個ずつ)のインダクタンスを測定した。その平均値を表1に示す。
次に、発明例と従来例の平面磁気素子(各々20個ずつ)に耐熱試験( 125℃,1000hr)を施した後、インダクタンスを測定した。このようにして測定したインダクタンス値(すなわち耐熱試験を施す前の測定値と耐熱試験を行なった後の測定値)を用いて、インダクタンスの変動率を算出した。その平均値を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、発明例の平面磁気素子( No.1〜5)は、接着層7を薄くして厚さ5μmにしても、耐熱試験によるインダクタンスの変動率の平均値は、−3〜−1%の範囲内に抑えられた。
ところが No.6(従来例)の平面磁気素子は、接着層7の厚さは発明例と同じく5μmであり、インダクタンスの平均値は発明例と同程度の 1.6μHであるが、側面被覆層4を形成していないので上部磁性層6が剥離し平面磁気素子としての信頼性が得られなかった。
【0026】
また No.8(従来例)の平面磁気素子は、接着層7を厚さ15μmにしたので、側面被覆層4を形成しなくても、上部磁性層6の剥離を防止でき、かつ耐熱試験によるインダクタンスの変動率の平均値は発明例と同程度の−3%である。しかし、インダクタンスの平均値は 1.3μHで、発明例より低下した。
したがって発明例の平面磁気素子は、優れた信頼性と磁気特性を有していることが確かめられた。
【0027】
次に、発明例の平面磁気素子( No.1〜5)の特性を各々比べてみると、 No.1の平面磁気素子は、上部磁性層6と中間磁性層3の段差の幅が小さい(すなわち10μm)ので、耐熱試験によるインダクタンスの変動率の平均値が発明例の中で最も大きい。また No.5の平面磁気素子は、上部磁性層6と中間磁性層3の段差の幅が大きい(すなわち 100μm)ので、インダクタンスの平均値は 1.5μHで、発明例の中で最も小さい。したがって、上部磁性層6と中間磁性層3の段差の幅は20〜80μmの範囲内とするのが好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の平面磁気素子の例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の平面磁気素子の他の例を模式的に示す断面図である。
【図3】従来の平面磁気素子の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 コイル
2 下部磁性層
3 中間磁性層
4 側面被覆層
5 外部電極
6 上部磁性層
7 接着層
8 上面被覆層
9 段差の幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部磁性層、中間磁性層および下部磁性層を有し、前記上部磁性層と前記中間磁性層との間に接着層を有する平面磁気素子であって、前記上部磁性層の下面の面積を前記中間磁性層の上面の面積より小さくし、かつ前記接着層を形成する接着剤を用いて前記上部磁性層の側面を被覆する側面被覆層を形成し、前記接着層と前記側面被覆層とを一体的に形成してなることを特徴とする平面磁気素子。
【請求項2】
上部磁性層、中間磁性層および下部磁性層を有し、前記上部磁性層と前記中間磁性層との間に接着層を有する平面磁気素子であって、前記上部磁性層と前記中間磁性層の側面に段差を設け、かつ前記接着層を形成する接着剤を用いて前記上部磁性層の側面を被覆する側面被覆層を形成し、前記接着層と前記側面被覆層とを一体的に形成してなることを特徴とする平面磁気素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−128335(P2006−128335A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313375(P2004−313375)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)