説明

床材用水系接着剤用共重合体ラテックス

【課題】
剥離強度に優れ、かつ特に低温下での初期の収まり性に優れる床材用水系接着剤用共重合体ラテックスを提供すること。
【解決手段】
共役ジエン系単量体50〜89.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体10〜49.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.5〜8重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%を乳化重合して得られ、ゲル含有量が30重量%以下で数平均粒子径が30nm〜130nmの床材用水系接着剤用共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂製素材から構成されるシート、タイル等の床材用の水系接着剤用共重合体ラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル樹脂製の基材は、その施工が容易であり、床材用として広く用いられている。この床材用の接着剤としては、従来は、溶剤型のものが一般的に用いられていた。しかし、有機溶剤の揮発により、施工時の作業環境の悪化や火災の危険性、更に大気汚染の問題があり、近年では、アクリル系重合体エマルション、クロロプレンラテックス、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス等の水性のポリマーを主成分とする水系接着剤が多く使用されている。
しかしながら、従来の技術では、特に低温下での初期の収まり性が不十分であった。
【特許文献1】特許第2824529号公報
【特許文献2】特許第3675975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、剥離強度に優れ、かつ特に低温下での初期の収まり性に優れる床材用水系接着剤用共重合体ラテックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、床材用の水系接着剤用共重合体ラテックスとして、特にブタジエン系共重合体ラテックスについて鋭意研究した結果、特定の組成割合において、さらにゲル含有量と粒子径を制御することによって、剥離強度に優れ、かつ低温下での初期の収まり性に優れた床材用水系接着剤用共重合体ラテックスが得られることを見出した。
すなわち、本発明は、共役ジエン系単量体50〜89.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体10〜49.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.5〜8重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%を乳化重合して得られ、ゲル含有量が30重量%以下で数平均粒子径が30nm〜130nmの床材用水系接着剤用共重合体ラテックスを提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の床材用水系接着剤用共重合体ラテックスを使用することにより、剥離強度に優れ、かつ特に低温下での初期の収まり性に優れる床材用水系接着剤を得ることができるものであり、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂製素材から構成されるシート、タイル等の床材用の水系接着剤に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明における脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
脂肪族共役ジエン系単量体が50重量%未満では低温下での初期の収まり性が低下し、また89.5重量%を超えると剥離強度が低下する。さらに好ましくは60〜85重量%である。
【0008】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメチルメタクリレートが好ましい。 不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体が10重量%未満では剥離強度が低下し、また49.5重量%を超えると、低温下で初期の収まり性が低下する。
【0009】
エチレン系不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸単量体を挙げることができる。特にメタクリル酸を含むことが好ましい。
エチレン性不飽和カルボン系酸単量体が0.5重量%未満では共重合体ラテックスの安定性が低下し、また8重量%を超えると共重合体ラテックスの粘度が高くなり、共重合体ラテックス自身の取り扱い上の問題を生じるため好ましくない。好ましくは1〜5重量%である。
【0010】
これらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロシキアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体などが挙げられる。
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にスチレンが好ましい。

シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
ヒドロシキアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリルアミドが好ましい。
さらに、上記の単量体の他に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル類、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)クリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等の塩基性単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を使用することができる。
【0011】
上記単量体を乳化重合するに際し、必要に応じ、環内に不飽和結合を1つ有する環状の不飽和炭化水素を使用することが出来る。
このような化合物としては、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等が挙げられるが、特にシクロへキセンの使用が好ましい。
また、該不飽和炭化水素の使用割合については特に制限はないが、上記単量体合計100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部であり、さらに好ましくは1〜15重量部である。
【0012】
本発明における各種成分の添加方法については特に制限するものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れでも採用することができる。また、その乳化重合方法においても特に制限はなく、一段重合、二段重合又は多段階重合等何れでも採用することができる。更に、乳化重合において、常用の連鎖移動剤、乳化剤、重合開始剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0013】
本発明においては必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。このような連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物、α−メチルスチレンダイマー、ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これら連鎖移動剤の使用量について何ら制限はなく、共重合体ラテックスに求められる性能に応じて適宜調整することができるが、好ましくは単量体混合物100重量部に対して0.05〜3重量部である。
【0014】
乳化剤としては高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、ジスチレン化フェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が1種又は2種以上で用いられる。
【0015】
開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。また、上記の過酸化物と還元剤の組み合わせであるレドックス系開始剤も用いられる。還元剤としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、L−アスコルビン酸、D−アスコルビン酸等が挙げられる。
【0016】
本発明において使用される共重合体ラテックスのゲル含有量は30重量%以下である。共重合体ラテックスのゲル含有量が30重量%を超えると低温下での初期の収まり性が劣る。ゲル含有量は、重合温度、分子量調整剤の量、重合開始剤の種類、反応停止時の転化率等でコントロール出来る。
【0017】
また、本発明で使用される共重合体ラテックスの数平均粒子径は30nm〜130nmである。共重合体ラテックスの数平均粒子径が30nm未満では共重合体ラテックスの粘度が高くなり好ましくない。また130nmを超えると、低温下での初期の収まり性が低下する。好ましくは、50〜110nmである。なお、共重合体ラテックスの平均粒子径は、重合温度、乳化剤量、各種成分の添加方法等でコントロール出来る。
【0018】
本発明の共重合体テックスは、粘着付与剤、充填剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤等が配合されて、床材用水系接着剤として使用される。
粘着付与剤としては、軟化点が60〜150℃のロジンまたは変性ロジン、C5系の石油樹脂、C9系石油樹脂、フェノール変性C9系石油樹脂、C5・C9共重合樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、クロマン樹脂等が例示され、それぞれ単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、充填剤としては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化チタン等が例示され、それぞれ単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。その他、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤等についても従来公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の優れた効果を明示するために、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中に示す部および%は、特に断りの無い限り、重量を基準としたものである。
【0020】
共重合体ラテックスの数平均粒子径測定
数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。
測定に際しては、大塚電子(株)製 FPAR−1000を使用した。
【0021】
共重合体ラテックスのゲル含有量測定
共重合体ラテックスをガラス板上に塗布後、室温雰囲気下にて24時間乾燥させ、共重合体ラテックスのフィルムを作成する。そのフィルムを約1g秤量し、これを400ccのトルエンに入れ48時間浸漬させる。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたトルエン不溶部を乾燥後秤量し、この重量のはじめのフィルム重量に占める割合をゲル含有量として重量%で算出した。
【0022】
共重合体ラテックスの製造
10リットルのオ−トクレ−ブに、水200部、クメンハイドロパーオキサイド0.2部、硫酸第一鉄0.004部、D−アスコルビン酸0.12部、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム0.03部、表1に示す組成の単量体、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、t−ドデシルメルカプタンを仕込み、15℃で、重合転化率が97%になるまで重合を行い、水酸化カリウムでpH=8に調整した後に、水蒸気蒸留を行い、固形分濃度45%まで濃縮して共重合体ラテックス1を得た。また表1、2に示す内容に変更する以外は同様の操作を行い、共重合体ラテックス2〜11を得た。
【0023】
次に、下記の固形分重量割合の共重合体ラテックス、充填剤、粘着付与剤、増粘剤等と水を均一に混合して、固形分濃度70%の床材用接着剤を調整した。
共重合体ラテックス 100
消泡剤(a) 0.1
重質炭酸カルシウム 200
芳香族系石油樹脂(軟化点60℃) 70
非イオン性界面活性剤(b) 3
ポリアクリル酸ソーダ(分子量50万) 3
(a)ノプコ製 DF−122
(b)花王製 エマルゲン109P
【0024】
この様にして得られた接着剤について、次の方法で低温下での初期収まり性と剥離強度を評価した。
低温下での初期の収まり性
温度5℃、相対湿度50%の雰囲気下で、床材用接着剤を、くし目ごてを用いてフレキシブル板に塗布し、オープンタイム20分をとって、ビニル床タイル(JIS A 5705 HTタイプ 大きさ=300mm×300mm)を貼り付け、5kgのハンドローラーで圧着し、直後にビニル床タイルを上から手で押さえ水平方向に力を加え、ビニル床タイルがずれるかどうか確認した。
○;ずれ無し
△;ややずれあり
×;ずれあり
○は、低温下での初期の収まり性が良好であり、×は不良であることを意味する。
【0025】
剥離強度
温度20℃、相対湿度60%の雰囲気下で、床材接着剤をくし目ごてを用いてフレキシル板に塗布し、オープンタイム20分をとり、ビニル床シート(大きさ=幅25mm×200mm)を貼り付け、7日間養生後に、剥離速度200mm/minで90°剥離強度を測定した。数値が大きい方が、剥離強度が大きく、良好であることを意味している。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の床材用水系接着剤用共重合体ラテックスを使用することにより、剥離強度に優れ、かつ特に低温下での初期の収まり性に優れる床材用水系接着剤を得ることができるものであり、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂製素材から構成されるシート、タイル等の床材用の水系接着剤に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系単量体50〜89.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体10〜49.5重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.5〜8重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%を乳化重合して得られ、ゲル含有量が30重量%以下で数平均粒子径が30nm〜130nmの床材用水系接着剤用共重合体ラテックス。
【請求項2】
数平均粒子径が50nm〜110nmである請求項1記載の床材用水系接着剤用共重合体ラテックス。