説明

床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤

【課題】耐ブラックヒールマーク性や剥離性を低下させることなく光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上できる床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤を提供する。
【解決手段】環状分子12と、環状分子12の環の内部を串刺し状に貫通して環状分子12に包接される直鎖状分子11と、直鎖状分子11の両末端に配置されて直鎖状分子11からの環状分子12の脱離を防止する封鎖基13とを備えてなるポリロタキサン10の環状分子12に疎水性基14及び親水性基15を設けた変性ポリロタキサン10からなる床用艶出し剤材料と、水系架橋剤とを含有させた床用艶出し剤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤に関する。
【背景技術】
【0002】
艶出し剤のうち、床用艶出し剤は、日本フロアーポリッシュ工業会(JFPA)の規格‐00で分類が規定されている。この規格で規定されているフロアーポリッシュのうち、床用艶出し剤としては、水性のポリマタイプが主流を占めている。この水性ポリマタイプの床用艶出し剤は、例えば、下記特許文献1,2や下記非特許文献1等に記載されているように、アクリル系共重合樹脂エマルジョン成分、ワックスエマルジョン成分、アルカリ可溶性樹脂、可塑剤、その他からなるものであり、このタイプが現在主流となっている。しかしながら、下記特許文献1,2や下記非特許文献1等に記載されている上記床用艶出し剤は、耐スリップ性が得られにくいという欠点があった。
【0003】
このため、例えば、下記特許文献3等においては、上記耐スリップ性の向上を図ることを目的として、ポリウレタン樹脂の水性乳濁液を含有させた床用艶出し剤を提案している。しかしながら、下記特許文献3等に記載されている床用艶出し剤においても、性能的に不十分な点があることから、例えば、下記特許文献4等においては、その弱点とされる耐ブラックヒールマーク性、耐スカッフ性、耐摩耗性を改良し、さらに光沢、レベリング性等を向上させることを目的として、脂肪族又は脂環族のイソシアネートと脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリエーテルとから生成させたウレタン樹脂の水分散液又は乳濁液からなる床用艶出し剤を提案している。
【0004】
このような床用艶出し剤においては、上記以外にも、例えば、床用艶出し剤の主要な成分であり、かつ、その性質を左右するアクリル系共重合樹脂エマルジョン成分や、耐ブラックヒールマーク性の改良のためのワックスエマルジョン成分等の組成やその合成等のような研究開発が種々行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭44−24407号公報
【特許文献2】特公昭49−1458号公報
【特許文献3】特公昭53−22548号公報
【特許文献4】特公平6−6694号公報
【特許文献5】特公昭44−24409号公報
【特許文献6】特公昭49−1548号公報
【特許文献7】国際公開第2005/052026号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2005/080469号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cosmetic Chemical Specialities, 61 (9), 86, (1985)
【非特許文献2】Macromolecules 1993, 26, 5698-5703
【非特許文献3】Manufacturing Chemist and Aerosol News June, 31, (1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したような床用艶出し剤においては、各成分がそれぞれ単独で性能に影響を与える場合もあるが、各成分が単独ではなく相互に影響しあって性能を左右する場合が多く、例えば、形成された被膜の光沢維持性を向上させようとすると、当該被膜の耐汚れ性が低下してしまっていた。
【0008】
このようなことから、本発明は、形成された被膜の耐ブラックヒールマーク性や剥離性等の他の特性を低下させることなく光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上させることができる床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための、本発明に係る床用艶出し剤材料は、環状分子と、前記環状分子の環の内部を串刺し状に貫通して当該環状分子に包接される直鎖状分子と、前記直鎖状分子の両末端に配置されて当該直鎖状分子からの前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを備えてなるポリロタキサンの前記環状分子に疎水性基及び親水性基を設けた変性ポリロタキサンからなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記環状分子が、シクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に前記疎水性基及び前記親水性基が修飾したものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、少なくとも一部の前記親水性基に前記疎水性基が修飾していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、少なくとも一部の前記疎水性基に前記親水性基が修飾していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記疎水性基が、ラクトンモノマの開環重合由来によって得られた修飾基であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記親水性基が、アルキルアルコール基、ポリアルキルオキシド基、カルボン酸基、カルボン酸基の塩類、スルホン酸基、スルホン酸基の塩類、のうちの少なくとも一種を有する修飾基からなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記シクロデキストリンの前記水酸基が修飾され得る最大数を1としたときに、当該シクロデキストリンの当該水酸基の修飾度が0.02以上であること特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記親水性基が、前記シクロデキストリンの全水酸基に対する割合で0.01〜0.9となるように、当該シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられていること特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記シクロデキストリンの全水酸基量に対する前記ラクトンモノマの量で2〜9当量となるように、前記疎水性基が当該シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられていること特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、のうちの少なくとも一種であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記直鎖状分子が前記環状分子を包接し得る最大包接量を1としたときに、当該直鎖状分子に対する当該環状分子の包接量が0.001〜0.6となっていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る床用艶出し剤材料は、上述した床用艶出し剤材料において、前記直鎖状分子の分子量が1万以上であることを特徴とする。
【0021】
そして、前述した課題を解決するための、本発明に係る床用艶出し剤は、上述した床用艶出し剤材料と、水系架橋剤とを含有していることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る床用艶出し剤は、上述した床用艶出し剤において、前記床用艶出し剤用材料の被膜形成成分に対する含有割合が5〜70質量%であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る床用艶出し剤は、上述した床用艶出し剤において、前記水系架橋剤が、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、シランカップリング剤、多価金属化合物の金属架橋剤、のうちの少なくとも一種からなることを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係る床用艶出し被膜は、上述した床用艶出し剤を固化したものからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤によれば、変性ポリロタキサンのスライド移動作用(滑車効果)によって、形成された被膜が優れた伸縮性や粘弾性や応力分散性等を発現するようになるので、形成された被膜の耐ブラックヒールマーク性や剥離性等の他の特性を低下させることなく光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る床用艶出し剤材料を構成するポリロタキサンの構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤の実施形態を図面に基づいて以下に説明するが、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0028】
[床用艶出し剤材料]
図1に示すように、本実施形態に係る床用艶出し剤材料は、環状分子12と、環状分子12の環の内部を串刺し状に貫通して環状分子12に包接される直鎖状分子11と、直鎖状分子11の両末端に配置されて直鎖状分子11からの環状分子12の脱離を防止する封鎖基13とを備えてなるポリロタキサン10の環状分子12に疎水性基14及び親水性基15を設けた変性ポリロタキサン10からなる。
【0029】
〈直鎖状分子11〉
前記直鎖状分子11は、直鎖状に延びている分子であり、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/又はこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びその他オレフィン系単量体との共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル‐スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル‐メチルアクリレート共重合樹脂等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン酸類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0030】
しかしながら、上記直鎖状分子11として、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかであると好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかであるとより好ましく、さらに、ポリエチレングリコールであると最も好ましい。
【0031】
また、上記直鎖状分子11は、その分子量が1万以上(特に、2万以上、さらには3万以上)であると好ましい。
【0032】
〈環状分子12〉
前記環状分子12は、環状構造をなしている分子であり、特に限定されるものではない。しかしながら、上記環状分子12として、置換されていてもよいシクロデキストリンであると好ましく、特に、α‐シクロデキストリン、β‐シクロデキストリン、γ‐シクロデキストリン、及びこれらの誘導体のいずれかであるとより好ましい。
【0033】
〈封鎖基13〉
前記封鎖基13は、環状分子12を直鎖状分子11から脱離させないように当該直鎖状分子11の両末端に設けられるものであり、このような作用を生じ得るものであれば特に限定されるものではない。
【0034】
しかしながら、上記封鎖基13として、例えば、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類、置換されていてもよい多核芳香族類、ステロイド類のいずれかであると好ましく、特に、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類のいずれかであるとより好ましく、さらに、アダマンタン基類又はトリチル基類であると最も好ましい。
【0035】
また、上記置換ベンゼン類や置換されていてもよい多核芳香族類の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニル等を挙げることができる。ここで、上記置換基は、一つに限らず、複数存在させることも可能である。
【0036】
また、前記封鎖基13は、直鎖状分子11の一端に設けられるものと他端に設けられるものとが、同一である必要性はなく、相違させることも可能である。
【0037】
〈疎水性基14及び親水性基15〉
前記疎水性基14は、前記環状分子12に対して修飾基として直接的又は間接的に設けられ、床用艶出し剤のその他の組成物との相溶性を向上させ、被膜としての柔軟性を向上させるものである。
【0038】
このような上記疎水性基14は、特に限定されるものではないが、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等のようなラクトンモノマの開環重合由来によって得られる修飾基であると好ましく、特に、ε−カプロラクトンの開環重合由来によって得られる修飾基であるとより好ましい。
【0039】
前記親水性基15は、前記環状分子12に対して修飾基として直接的又は間接的に設けられ、水又は水系溶剤に対する前記ポリロタキサン10の溶解性や分散性を向上させて、床用艶出し剤用材料として床用艶出し剤中に安定した状態で存在させると共に、後述するように、前記ポリロタキサン10同士又は前記ポリロタキサン10と他の樹脂エマルジョン成分の親水性基(例えば、水酸基、−COOH基等)との間での架橋を可能にするものである。
【0040】
このような上記親水性基15は、特に限定されるものではないが、例えば、−CH2CH(OH)CH3、−CH2CH(OH)CH2OH、−CH2CH(NH2)CH3等の水酸基又はアミノ基を有する修飾基;−(OCH2CH2mOH、−(OCH(CH3)CH2mOH、−(NHCH2CH2mNH2等のアルキレンオキシド又はアルキレンイミン由来の基を有する修飾基;コハク酸無水物、グルタル酸無水物、ジグルコール酸無水物、フタル酸無水物、トリメリック酸無水物、及びそれらの誘導体の反応によって形成された−COOH及びこれらの塩を有する修飾基;アルキルアルコール及びその誘導体の酸化反応で形成された−COOH及びこれらの塩を有する修飾基;プロパンスルトン及びその誘導体の反応によって形成された−SO3H及びこれらの塩を有する修飾基等を挙げることができる。
【0041】
前記疎水性基14及び前記親水性基15を前記ポリロタキサン10に導入する方法、すなわち、前記環状分子12に修飾する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、環状分子12にα‐シクロデキストリンを適用して、その水酸基を利用することにより、当該デキストリンに対して前記修飾基14,15を直接的又は間接的に修飾することができる。
【0042】
また、前記疎水性基14と前記親水性基15とを前記ポリロタキサン10に導入する手順、すなわち、前記環状分子12に修飾する手順は、特に限定されるものではないが、例えば、環状分子12としてα‐シクロデキストリンを適用したとき、その水酸基に対して、親水性基15となる化合物を化学反応させて修飾した後に、疎水性基14となる化合物を引き続き化学反応させて修飾することや、疎水性基14となる化合物を化学反応させて修飾した後に、親水性基15となる化合物を引き続き化学反応させて修飾することや、親水性基15と疎水性基14とを複数回に分けて交互に導入することや、複数種の親水性基15と疎水性基14とを種類ごとに分けて交互に導入すること等が挙げられる。
【0043】
このとき、前記疎水性基14及び前記親水性基15は、上記シクロデキストリンの水酸基に対して直接的に修飾して設けられるだけでなく、例えば、上記シクロデキストリンの水酸基に直接的に修飾した少なくとも一部の前記親水性基15に対して前記疎水性基14を修飾して当該シクロデキストリンに間接的に導入することや、上記シクロデキストリンの水酸基に直接的に修飾した少なくとも一部の前記疎水性基14に対して前記親水性基15を修飾して当該シクロデキストリンに間接的に導入することや、さらに、間接的に導入された上記疎水性基14に対して親水性基15を修飾して当該シクロデキストリンにさらに導入することや、間接的に導入された上記親水性基15に対して疎水性基14を修飾して当該シクロデキストリンにさらに導入すること等が可能である。
【0044】
具体的には、例えば、α−シクロデキトリンの水酸基に対して、親水性基15となるヒドロキシアルキル基を導入した後に、疎水性基14となるラクトンモノマからなる重合体の修飾基をα−シクロデキトリンの水酸基及びヒドロキシアルキル基に導入し、さらに、−COOH基又はその塩を有する親水性基15を上記ラクトン重合体に修飾すること等が挙げられる。
【0045】
ここで、前記環状分子12の官能基、すなわち、例えば、シクロデキストリンの水酸基が修飾され得る最大数を1としたときに、当該シクロデキストリンの水酸基の修飾度は、0.02以上であると好ましく、特に、0.1以上であるとより好ましく、さらに、0.3以上であると最も好ましい。
【0046】
そして、前記親水性基15は、シクロデキストリンの全水酸基に対する割合で0.01〜0.9となるように、シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられていると好ましく、特に、0.05〜0.8であるとより好ましく、さらに、0.1〜0.6であると最も好ましい。
【0047】
また、疎水性基14がラクトンモノマの開環重合由来によって得られる修飾基であるとき、シクロデキストリンの全水酸基量に対する当該ラクトンモノマの量で2〜9当量となるように、当該疎水性基14は、当該シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられていると好ましく、特に、2.5〜8.5当量であるとより好ましく、さらに、3.5〜6当量であると最も好ましい。
【0048】
〈ポリロタキサン10〉
前記ポリロタキサン10は、前記直鎖状分子11に対して前記環状分子12を串刺し状に貫通し得る当該環状分子12の最大限の包接量、すなわち、前記直鎖状分子11が前記環状分子12を包接し得る最大包接量を1としたときに、当該直鎖状分子11に対する当該環状分子12の包接量が、0.001〜0.6であると好ましく、特に、0.01〜0.5であるとより好ましく、さらに、0.05〜0.4であると最も好ましい。
【0049】
ところで、上記最大包接量は、直鎖状分子11の長さと環状分子12の厚さとから求めることができる。例えば、上記非特許文献2等では、直鎖状分子11がポリエチレングリコールであり、環状分子12がα−シクロデキストリンであるときのポリロタキサン10の最大包接量を実験的に求めており、このような上記非特許文献2等に記載されている手段によって、ポリロタキサン10の上記最大包接量を求めることができる。
【0050】
なお、上記ポリロタキサン10としては、前記直鎖状分子11が、ポリエチレングリコールであり、前記環状分子12が、置換されていてもよいα‐シクロデキストリンであると、最も好ましい。
【0051】
[床用艶出し剤]
また、本実施形態に係る床用艶出し剤は、上述の床用艶出し剤材料、すなわち、上述した変性ポリロタキサン10と、水系架橋剤とを含有するものである。より具体的には、前記ポリロタキサン10と共に、既存の床用艶出し剤で使用される、アクリル系共重合樹脂エマルジョン成分(樹脂固形分)、ワックスエマルジョン成分(樹脂固形分)、アルカリ可溶性樹脂(レベリング剤:樹脂固形分)、可塑剤等と、その他の成分(例えば、被膜形成剤、濡れ性向上剤、ウレタン系樹脂エマルジョン成分(樹脂固形分)、消泡剤、防腐剤、エマルジョンモデファイヤ、香料、染料等)と併せて、上記ポリロタキサン10の前記親水性基15同士や上記ポリロタキサン10の前記親水性基15と上記樹脂エマルジョン成分の親水性基とを架橋する水系架橋剤とを適宜組み合わせて配合して、水又は水系溶剤と混合したものである。
【0052】
ここで、前記ポリロタキサン10は、水又は水性溶剤に予め溶解させた状態、又は、乳化剤を用いてエマルジョン化させた状態で配合すると好ましい。このような上記ポリロタキサン10の溶液又はエマルジョンは、床用艶出し剤を製造するときに調製する、又は、床用艶出し剤を製造するに先立って調製することが可能である。
【0053】
このような床用艶出し剤においては、前記ポリロタキサン10の被膜形成成分(樹脂固形分)に対する含有割合が5〜70質量%であると好ましく、特に、10〜60質量%であるとより好ましく、さらに、20〜50質量%であると最も好ましい。なぜなら、前記割合が5質量%未満であると、前記ポリロタキサン10による効果を十分に発現させることが難しくなり、形成された被膜の応力分散性を十分に高めることが難しくなり、耐傷付き性が十分に得られなくなってしまうおそれがある一方、前記割合が70質量%を超えると、形成された被膜の柔軟性が高くなり過ぎてしまい、歩行による傷付きに十分に耐えられなくなってしまうおそれがあるからである。
【0054】
〈アクリル系共重合樹脂エマルジョン成分〉
前記アクリル系共重合樹脂エマルジョン成分としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2‐エチル‐ヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2‐エチル‐ヘキシル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸、マレイン酸、及びこれらの型の共重合物の単独又は混合物等を挙げることができる(例えば、前記特許文献5等参照)。また、多価金属キレート剤を添加された金属架橋型のものを適用することも可能である(前記特許文献6及び前記非特許文献3等参照)。
【0055】
〈ワックスエマルジョン成分〉
前記ワックスエマルジョン成分としては、天然ワックス及び合成ワックスが挙げられる。具体的には、例えば、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、モンタン誘導ワックス、セレシンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、アマイドワックス、ポリエチレンワックスやそのカルボキシル変性ワックス、酸化ポリエチレンワックスやそのカルボキシル変性ワックス、ポリプロピレンワックスやそのカルボキシ変性ワックス、酸化ポリプロピレンワックスやそのカルボキシ変性ワックス、グリコール変性酸化ポリエチレンワックス、グリコール変性酸化ポリプロピレンワックス、エチレン−アクリル酸共重合体ワックス等を挙げることができ、特に、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスであると好ましい。
【0056】
〈アルカリ可溶性樹脂〉
前記アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、ロジン変性マレイン酸、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、シュラック等を挙げることができ、これらを単独又は二種以上組み合わせて適用することができる。
【0057】
〈可塑剤〉
前記可塑剤としては、例えば、トリブトキシエチルホスフェート(TBEP)、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ジブチルフタレート等のフタル酸エステルや、クエン酸エステル類や、アジピン酸エステル等を挙げることができる。
【0058】
〈被膜形成剤〉
前記被膜形成剤成分としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類や、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等を挙げることができる。
【0059】
〈濡れ性向上剤〉
前記濡れ性向上剤としては、例えば、弗素系界面活性剤等を挙げることができる。
【0060】
〈水系架橋剤〉
前記水系架橋剤は、前記ポリロタキサン10の前記親水性基15同士や前記ポリロタキサン10の前記親水性基15と前記アクリル系樹脂エマルジョン成分やウレタン系樹脂エマルジョン成分の親水性基との間を架橋するものである。
【0061】
このような上記水系架橋剤としては、例えば、アジリジン系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系等の既存の水系架橋剤、シランカップリング剤、多価金属化合物の金属架橋剤等を挙げることができ、特に、カルボジイミド系であるとより好ましく、これらを単独又は二種以上組み合わせて適用することができる。
【0062】
[床用艶出し被膜]
また、本実施形態に係る床用艶出し被膜は、上述した本実施形態に係る床用艶出し剤を従来の床用艶出し剤と同様にして床面に塗布した後、常温乾燥又は加熱乾燥して水分を蒸発させて固化することにより、従来床用艶出し剤と同等の作業効率で床面に形成することができる。
【0063】
上記床用艶出し被膜は、その厚さが特に限定されるものではないが、例えば、形成された厚さが10〜100μmとなるように、前記床用艶出し剤を床面に塗布するようにすると好ましい。
【0064】
このような上記床用艶出し被膜においては、床面(特に、木材などの木質系床材、ビニル系等の合成樹脂からなるプラスチック系床材、コンクリートや大理石等の無機質系床材等からなる床面)に形成されると、前記ポリロタキサン10のスライド移動作用(滑車効果)等により、優れた伸縮性や粘弾性や応力分散性を発現するようになるので、耐ブラックヒールマーク性や剥離性等の他の特性を低下させることなく光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上させることができる。このことについて、以下に詳しく説明する。
【0065】
床用艶出し被膜においては、光沢維持性を向上させる場合、通常、柔軟性を向上させるようにしている。このような柔軟性を有する被膜を形成し得る材料として、従来は、ガラス転移点(Tg)が低いアクリル系共重合樹脂や、融点がやや低いポリエチレンワックス等を使用しており、特に、ある程度の強靭性を有しているウレタン樹脂を併用することが多い。
【0066】
しかしながら、ウレタン樹脂及びアクリル系共重合樹脂からなる被膜は、ウレタン樹脂とアクリル系共重合樹脂とが架橋等のように化学的に互いに結合した状態となっているわけではなく、アクリル系共重合樹脂の内部にウレタン樹脂が分散して存在している状態(アクリル系共重合樹脂の海にウレタン樹脂の島が点在しているような状態)となっていることから、局所的に荷重が加わってしまうと、分子構造が破壊されてしまう部分(大体がアクリル系共重合樹脂部分)を生じて、光沢維持性を十分に発現できなくなってしまうことがあると共に、柔軟性が高いため、へこんだ窪みの内部に土砂等の汚れが入り込んで留まりやすく、耐汚れ性が低下しやすいという問題があった。
【0067】
そこで、本発明者らは、荷重が局所的に加わっても、分子構造を破壊されることがないと共に、当初の状態に復元しやすくする、すなわち、分子構造を破壊されないだけの強靭性や伸縮性等を発現できるようにすれば、光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上できると考えて、鋭意研究した結果、ポリロタキサンのスライド移動作用(滑車効果)等を利用することにより、上記課題を解決できることを見出したのである。
【0068】
ポリロタキサンは、先に説明したように、環状分子12と、環状分子12の環の内部を串刺し状に貫通して環状分子12に包接される直鎖状分子11と、直鎖状分子11の両末端に配置されて直鎖状分子11からの環状分子12の脱離を防止する封鎖基13とを備えてなるものであり、環状分子12が直鎖状分子11に対して周方向及び軸方向へ自由に移動できる構造となっている。
【0069】
このようなポリロタキサンに対して、樹脂成分との親和性を図るために疎水性基14を導入する一方、水又は水性溶剤との親和性を図ると共に樹脂成分等との架橋を可能とするために親水性基15を導入することにより変性ポリロタキサン10として、当該変性ポリロタキサン10を水系架橋剤と共に床用艶出し剤に含有させることにより形成された床用艶出し被膜においては、前記環状分子12が樹脂成分等との間で架橋されるようになることから、局所的に荷重が加わったときに、当該環状分子12の架橋点がスライド移動する、すなわち、当該被膜自体が大きく窪むようになるので、当該架橋点に加わる衝撃を大きく緩衝することができ、当該被膜の分子構造の破壊を大きく抑制することができると共に、荷重がなくなると、架橋構造等によって、当該環状分子12の架橋点が当初の位置に復元するようにスライド移動する、すなわち、当該被膜自体の上記窪みが復元するようになるので(自己治癒性)、土砂等の汚れが当該窪みの内部に留まりにくくなる。
【0070】
これにより、上記床用艶出し被膜は、優れた伸縮性や粘弾性や応力分散性等を発現して、耐ブラックヒールマーク性や剥離性等の他の特性を低下させることなく光沢維持性と耐汚れ性とを同時に向上させることができるのである。
【実施例】
【0071】
本発明に係る床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤の効果を確認するために、前述した実施形態に基づいて行った実施例を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
[床用艶出し剤材料の作製]
〈試験材料A:ε−カプロラクトン重合体由来の疎水性基及びヒドロキシプロピル基とコハク酸由来の−COOH基との親水性基を導入した変性ポリロタキサン〉
【0073】
(1)ポリロタキサンの作製
ポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量:35,000)を直鎖状分子とし、α−シクロデキストリン(α−CD)を環状分子とし、アダマンタンアミン由来の基を封鎖基としたポリロタキサンを、前記特許文献7に記載されている方法に基づいて作製した。このようにして得られたポリロタキサンは、400MHzの1H−NMR(日本電子株式会社製「JNM−AL400(型番)」)で分析した結果、α−CDの包接量が0.25であり、GPCで測定した結果、平均重量分子量Mwが140,000であった。なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
【0074】
・GPC装置:東ソー株式会社製「HCL−8220GPC(商品名)」
・使用カラム:東ソー株式会社製「TSKガードカラムスーパ AW−H(商品名)」と 「TSKゲルスーパ AWM−H(商品名)」とを連結したもの
・溶離液:ジメチルスルホキシド/0.01M LiBr
・カラムオーブン:50℃
・流速:0.5ミリリットル/分
・試料濃度:約0.2wt/vol%
・注入量:20マイクロリットル
・スタンダード分子量:PEOの条件下
【0075】
(2)ヒドロキシプロピル基導入
次に、前記特許文献8に記載されている方法に基づいて、上記(1)で得られたポリロタキサンをヒドロキシプロピル化して、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンを作製した。このようにして得られたヒドロキシプロピル化ポリロタキサンは、400MHzの1H−NMR(日本電子株式会社製「JNM−AL400(商品名)」)で分析した結果、α−CDの水酸基に対するヒドロキシプロピル基の修飾度が0.48であり、GPCで測定した結果、平均重量分子量Mwが150,000であった。なお、GPCの測定条件は、上述と同一である。
【0076】
(3)ε−カプロラクトン重合体由来の疎水性基導入
上記(2)で得られた乾燥済みのヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(1.0g)を三口フラスコに入れ、窒素をゆっくり流しながら、ε−カプロラクトン(4.5g:ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンの全水酸基量に対して3.9当量)を導入し、メカニカル撹拌機によって均一に撹拌した後(80℃×30分間)、昇温して(100℃)、2−エチルヘキサン酸スズ(0.16g)をトルエン溶液(50wt%)にして添加して、反応させたら(4時間)、反応溶媒(トルエン)を除去することにより、ε−カプロラクトンを開環重合させたグラフト鎖からなる疎水性基を導入したポリロタキサンを作製した。この疎水化ポリロタキサンは、全水酸基量(修飾基で修飾されずに残ったα−CDの水酸基と修飾基にある水酸基との合計量)が1.8mmol/gであった。
【0077】
(4)コハク酸由来の親水性基導入
上記(3)で得られた疎水化ポリロタキサン(5.5g)をフラスコに入れ、脱水アセトン(30ミリリットル)を加えて溶解させた後、コハク酸無水物(0.80g:疎水化ポリロタキサンの全水酸基量に対して80mol%)及びトリエチルアミン(1.1ミリリットル)を添加して攪拌する(40℃×24時間)。室温まで放冷して、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(6.3g)を加えて撹拌した後、反応溶媒(アセトン)をエバポレータで除去することにより、コハク酸無水物により−COOH基からなる親水性基を導入したポリロタキサンを得た。
【0078】
このようにして得られた変性ポリロタキサン(試験材料A)、すなわち、親水性基であるヒドロキシプロピル基と、疎水性基であるポリカプロラクトンのグラフト鎖と、親水性基であるコハク酸無水物由来の−COOH基とを導入されたポリロタキサンは、−COOH基量が1.25mmol/g(上記疎水化ポリロタキサンの全水酸基量に対する−COOH基の修飾度が0.8)であり、GPCで測定した結果、平均重量分子量Mwが586,800であり、分子量分布Mw/Mnが1.7であった。
【0079】
〈試験材料B:ε−カプロラクトン重合体由来の疎水性基及びヒドロキシプロピル基とトリメリット酸由来の−COOH基との親水性基を導入した変性ポリロタキサン〉
【0080】
(1)ポリロタキサンの作製
前記試験材料Aと同様にしてポリロタキサンを作製した。
【0081】
(2)ヒドロキシプロピル基導入
前記試験材料Aと同様にしてヒドロキシプロピル基を導入した。
【0082】
(3)ε−カプロラクトン重合体由来の疎水性基導入
前記試験材料Aと同様にしてε−カプロラクトン重合体由来の疎水性基を導入した。
【0083】
(4)トリメリット酸由来の親水性基導入
上記(3)で得られた疎水化ポリロタキサン(5.5g)をフラスコに入れ、脱水アセトン(30ミリリットル)を加えて溶解させた後、トリメリット酸無水物(0.8g:疎水化ポリロタキサンの全水酸基量に対して40mol%)及びトリエチルアミン(0.6ミリリットル)を添加して攪拌する(40℃×24時間)。室温まで放冷して、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(6.3g)を加えて撹拌した後、反応溶媒(アセトン)をエバポレータで除去することにより、トリメリット酸無水物により−COOH基からなる親水性基を導入したポリロタキサンを得た。
【0084】
このようにして得られた変性ポリロタキサン(試験材料B)、すなわち、親水性基であるヒドロキシプロピル基と、疎水性基であるポリカプロラクトンのグラフト鎖と、親水性基であるトリメリット酸無水物由来の−COOH基とを導入されたポリロタキサンは、−COOH基量が1.25mmol/g(上記疎水化ポリロタキサンの全水酸基量に対する−COOH基の修飾度が0.4)であり、GPCで測定した結果、平均重量分子量Mwが751,000であり、分子量分布Mw/Mnが1.3であった。なお、GPCの測定条件は、上述と同一である。
【0085】
〈比較材料A:ヒドロキシプロピル基とコハク酸由来の−COOH基との親水性基のみを導入した変性ポリロタキサン〉
【0086】
(1)ポリロタキサンの作製
前記試験材料A,Bと同様にしてポリロタキサンを作製した。
【0087】
(2)ヒドロキシプロピル基導入
前記試験材料A,Bと同様にしてヒドロキシプロピル基を導入した。
【0088】
(3)コハク酸由来の親水性基導入
上記(2)で得られた乾燥済みのヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(5.0g)をDMF(15ミリリットル)に溶解し、DMF(5ml)に溶解したコハク酸無水物(0.78g:ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンの全水酸基量に対して16mol%)及びピリジン(1.8ミリリットル)を撹拌しながら加えて反応させた後(6時間)、多量のイソプロピルアルコール中に滴下し、析出した生成物を分取して、イソプロピルアルコールで洗浄した後、乾燥することにより、コハク酸無水物により−COOH基からなる親水性基を導入したポリロタキサンを得た。
【0089】
このようにして得られた変性ポリロタキサン(比較材料A)、すなわち、親水性基であるヒドロキシプロピル基及びコハク酸無水物由来の−COOH基を導入されたポリロタキサンは、−COOH基量が1.34mmol/g(上記ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンの全水酸基量に対する−COOH基の修飾度が0.16)であり、GPCで測定した結果、平均重量分子量Mwが120,000であり、分子量分布Mw/Mnが1.2であった。なお、GPCの測定条件は、上述と同一である。
【0090】
[床用艶出し剤の作製]
上記試験材料A,Bを利用した床用艶出し剤を下記の表1に示す配合割合でそれぞれ調製して作製すると共に(試験剤1〜4)、上記比較材料Aを利用した床用艶出し剤を下記の表2に示す配合割合でそれぞれ調製して作製した(比較剤1,2)。また、比較のため、ポリロタキサンを含有しない床用艶出し剤も下記の表3に示す配合割合で併せてそれぞれ調製して作製した(比較剤3〜6)。
【0091】
なお、以下の表1〜3において、アクリル系共重合樹脂エマルジョンは、米国ロームアンドハース社製「プライマル E−2409(商品名)」を使用し、スチレン−アクリル系共重合樹脂エマルジョンは、米国ロームアンドハース社製「デュラプラス−2(商品名)」を使用し、水系架橋剤(カルボジイミド系)は、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト V−02−L2(商品名)」を使用し、ポリエチレンワックスエマルジョンは、東邦化学工業株式会社製「ハイテック E−6020(商品名)」を使用し、アルカリ可溶性樹脂は、米国サートマー社製「SMA−17352P(商品名)」を使用し、弗素系界面活性剤は、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン S−111(商品名)」を使用した。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
[試験内容]
前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6を床材に塗布して乾燥固化させることにより形成される床用艶出し被膜に対して、下記項目の各試験を下記に示す方法でそれぞれ行った。
【0096】
(1)光沢試験
日本工業規格「JIS−K3920」で規定されているポリマタイプに準じて光沢値を測定した(3回塗布)。
【0097】
(2)光沢維持性試験
〈サンプルの作製〉
黒色ホモジニアスビニル床タイル(15cm×10cm:東リ株式会社製「MSプレーン5608(商品名)」)に前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6をそれぞれ塗布して(1m2当たり10ミリリットル)、恒温槽でそれぞれ乾燥させる(20℃×45分間)。次に、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6を上述と同様にして再度塗布して重ね塗りすることにより二層目を形成して上述と同様にして乾燥させたら、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6をさらに重ね塗りすることにより三層目を形成して、恒温槽に静置して最終的な乾燥を行って(20℃×48時間)、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6からなる被膜を形成したサンプルをそれぞれ作製する。
【0098】
〈試験方法〉
そして、前記光沢試験と同様にして前記サンプルの光沢値をそれぞれ測定した後(初期値)、当該サンプルを歩行者通路にそれぞれ敷設して、所定期間(2か月)経過後、前記光沢試験と同様にして当該サンプルの光沢値を再び測定して(経過値)、初期値と経過値との差(経変値)に基づいて、光沢維持性を求めた。
【0099】
(3)耐汚れ性試験
〈サンプルの作製〉
白色ホモジニアスビニル床タイル(15cm×10cm:東リ株式会社製「MSプレーン5601(商品名)」)に前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6をそれぞれ塗布して(1m2当たり10ミリリットル)、恒温槽でそれぞれ乾燥させる(20℃×45分間)。次に、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6を上述と同様にして再度塗布して重ね塗りすることにより二層目を形成して上述と同様にして乾燥させたら、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6をさらに重ね塗りすることにより三層目を形成して、恒温槽に静置して最終的な乾燥を行って(20℃×48時間)、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6からなる被膜を形成したサンプルをそれぞれ作製する。
【0100】
〈試験方法〉
そして、色彩色差計で前記サンプルのL*値をそれぞれ測定した後(初期値)、当該サンプルを歩行者通路にそれぞれ敷設して、所定期間(2か月)経過後、色彩色差計で当該サンプルのL*値を再び測定して(経過値)、初期値と経過値との差(経変値)に基づいて、耐汚れ性を求めた。
【0101】
(4)耐ブラックヒールマーク性試験
日本工業規格「JIS−K3920」の規定に準じて確認試験を行った。
【0102】
(5)剥離性試験
〈サンプルの作製〉
黒色コンポジションビニル床タイル(15cm×10cm:株式会社タジマ製「Pタイル P−60(商品名)」)に前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6をそれぞれ塗布して(1m2当たり10ミリリットル)乾燥させる(室温×45分間)ことを四回繰り返した後、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6を上述と同様にして塗布することにより五層目を形成して乾燥させる(室温×1時間)ことにより、前記試験剤1〜4及び前記比較剤1〜6からなる被膜を形成したサンプルをそれぞれ作製する。
【0103】
〈試験方法〉
そして、前記サンプルを恒温槽へそれぞれ移して一晩静置し(50℃)、翌日、恒温槽から取り出して室温まで放冷する。次に、水道水を張った水槽へ浸漬し(1時間)、送風機でよく乾燥させた後、恒温槽へ再び移して一晩静置し(50℃)、翌日、恒温槽から取り出して室温まで放冷する。以下、この手順(水浸漬→風乾→恒温静置→放冷)をさらに二回繰り返した後、前記サンプルを切り分けてサンプル片(2cm×4.5cm)を作製する。
【0104】
次に、上記サンプル片を剥離剤に浸漬して、所定時間(5分間)経過したら、当該サンプル片を剥離剤から引き上げ、流水にあてながら柔らかめのスポンジで擦った後(20回)、乾燥させて被膜の状態を目視確認した。なお、剥離剤として、株式会社リンレイ製アルカリ性剥離剤「クリアーZ(商品名)」の希釈液(5倍)と、株式会社リンレイ製中性剥離剤「ECO−500(商品名)」の希釈液(5倍)とのタイプの異なる二種類を用意して、各剥離剤による相違も確認した。
【0105】
[試験結果]
上述したようにして行った各試験の結果を下記の表4に示す。なお、各試験の評価基準は、以下の通りである。
【0106】
(1)光沢試験
×:光沢値が60未満である。
△:光沢値が61〜70である。
○:光沢値が71〜80である。
◎:光沢値が81以上である。
【0107】
(2)光沢維持性試験
×:経変値が46以上である。
△:経変値が36〜45である。
○:経変値が26〜35である。
◎:経変値が0〜25である。
【0108】
(3)耐汚れ性試験
×:経変値が3.6以上である。
△:経変値が2.6〜3.5である。
○:経変値が1.6〜2.5である。
◎:経変値が0〜1.5である。
【0109】
(4)耐ブラックヒールマーク性試験
×:ヒールマークが多く付着する。
△:ヒールマークがやや付着する。
○:ヒールマークがわずかに付着する。
◎:ヒールマークがほとんど付着しない
【0110】
(5)剥離性試験
×:アルカリ性剥離剤及び中性剥離剤の両者共に剥離できなかった。
△:アルカリ性剥離剤は大部分を剥離できたが、中性剥離剤は剥離できなかった。
○:アルカリ性剥離剤は完全に剥離でき、中性剥離剤は大部分を剥離できた。
◎:アルカリ性剥離剤及び中性剥離剤の両者共に完全に剥離できた。
【0111】
【表4】

【0112】
上記表4からわかるように、上記比較剤1,2(比較体1(親水性基のみを修飾させたポリロタキサン)を使用した床用艶出し剤)においては、形成された被膜の造膜性が乏しく、光沢性が非常に低くなってしまい、十分な性能を発揮できる床用艶出し被膜を得られなかった。これに対し、試験剤1〜4(本発明に係る床用艶出し剤材料を使用した床用艶出し剤)においては、耐ブラックヒールマーク性や剥離性の性能を落とすことなく、特に、光沢維持性や耐汚れ性において優れた性能を発現できる床用艶出し被膜を形成できることが確認された。よって、本発明に係る床用艶出し剤によれば、歩行量の多い床面等に適用しても、高い美観性を維持できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る床用艶出し剤材料及びこれを利用する床用艶出し剤は、形成された被膜の光沢維持性や耐汚れ性等の被膜の性能を同時に向上させることができることから、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
10 変性ポリロタキサン(床用艶出し剤材料)
11 直鎖状分子
12 環状分子
13 封鎖基
14 疎水性基
15 親水性基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子と、
前記環状分子の環の内部を串刺し状に貫通して当該環状分子に包接される直鎖状分子と、
前記直鎖状分子の両末端に配置されて当該直鎖状分子からの前記環状分子の脱離を防止する封鎖基と
を備えてなるポリロタキサンの前記環状分子に疎水性基及び親水性基を設けた変性ポリロタキサンからなる
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項2】
請求項1に記載の床用艶出し剤材料において、
前記環状分子が、シクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部に前記疎水性基及び前記親水性基が修飾したものである
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項3】
請求項2に記載の床用艶出し剤材料において、
少なくとも一部の前記親水性基に前記疎水性基が修飾している
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の床用艶出し剤材料において、
少なくとも一部の前記疎水性基に前記親水性基が修飾している
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記親水性基が、アルキルアルコール基、ポリアルキルオキシド基、カルボン酸基、カルボン酸基の塩類、スルホン酸基、スルホン酸基の塩類、のうちの少なくとも一種を有する修飾基からなる
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記疎水性基が、ラクトンモノマの開環重合由来によって得られた修飾基である
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記シクロデキストリンの前記水酸基が修飾され得る最大数を1としたときに、当該シクロデキストリンの当該水酸基の修飾度が0.02以上である
こと特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項8】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記親水性基が、前記シクロデキストリンの全水酸基に対する割合で0.01〜0.9となるように、当該シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられている
こと特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項9】
請求項6に記載の床用艶出し剤材料において、
前記シクロデキストリンの全水酸基量に対する前記ラクトンモノマの量で2〜9当量となるように、前記疎水性基が当該シクロデキストリンに対して直接的又は間接的に設けられている
こと特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項10】
請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、のうちの少なくとも一種である
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記直鎖状分子が前記環状分子を包接し得る最大包接量を1としたときに、当該直鎖状分子に対する当該環状分子の包接量が0.001〜0.6となっている
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料において、
前記直鎖状分子の分子量が1万以上である
ことを特徴とする床用艶出し剤材料。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の床用艶出し剤材料と、
水系架橋剤と
を含有していることを特徴とする床用艶出し剤。
【請求項14】
請求項13に記載の床用艶出し剤において、
前記床用艶出し剤用材料の被膜形成成分に対する含有割合が5〜70質量%である
ことを特徴とする床用艶出し剤。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の床用艶出し剤において、
前記水系架橋剤が、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、シランカップリング剤、多価金属化合物の金属架橋剤、のうちの少なくとも一種からなる
ことを特徴とする床用艶出し剤。
【請求項16】
請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の床用艶出し剤を固化したものからなる
ことを特徴とする床用艶出し被膜。

【図1】
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【公開番号】特開2011−127012(P2011−127012A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287394(P2009−287394)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(390039712)株式会社リンレイ (18)
【出願人】(505136963)アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 (19)