説明

廃水の浄化装置及びそれを用いた浄化方法

【目的】 生物処理した後の廃水を長期間メンテナンスフリーの状態で膜分離処理する。
【構成】 ポンプPを駆動して吸引管9を介してケース6内の廃水を吸引すると、ケース6内は負圧になり、ステンレススクリーン7を介してケース6内に廃水が流入する。そしてこの流入に伴って、ステンレススクリーン7の表面に廃水中の粒子成分及び微生物等よりなる汚泥充填層が形成され、この汚泥充填層が分離膜として機能する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は菌体などのコロイド分散粒子、酵素等の高分子或いは有機物等の粒子成分を含む廃水を微生物によって処理した後、この廃水を透過液と保持液(濃縮液)に分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】便所、洗面所、風呂及び厨房などの家庭からの廃水や工場廃水等を好気性菌及び嫌気性菌によって生物処理した後、この廃水を沈殿槽に導き、沈殿槽で好気性菌及び嫌気性菌等の微生物を含有する活性汚泥を沈殿せしめ、清浄な上澄み液を消毒槽を介して外部に排出するようにした浄化槽が知られている。
【0003】上述したように沈殿槽を設けて、廃水の固液分離を行うようにすると、沈殿槽の容積が大きくなり、且つ処理時間も長くかかるので、沈殿槽を設ける代りに膜分離装置を生物反応槽内に浸漬したり(特開平5−285480号公報)或いは沈殿槽内に膜分離装置を浸漬した浄化槽が提案されている。
【0004】そして、膜分離装置を用いて廃水を透過液と活性汚泥等を含む保持液(濃縮液)に分離(固液分離)する場合、分離膜の表面に経時的にゲル状の汚泥充填層(ケーク層)が付着する。この汚泥充填層の厚みが厚くなると、膜の透過流束が低下するため、従来は洗浄等の手段によって透過流束が落ちると汚泥充填層を剥離し、初期の透過流束を回復するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述したように従来にあっては、膜表面に付着した汚泥充填層を定期的に、或いは必要に応じて完全に除去するようにしている。しかしながら汚泥充填層を完全に除去して分離膜表面を露出した状態で運転を再開すると、分離膜表面に開口している細孔に廃水中の凝集体が侵入し、却って目詰りを起こし、透過流束が低下し再度洗浄を行わなければならない。従来はこれの繰り返しであったので、メンテナンスが面倒であった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は汚泥充填層がある程度薄ければ透過流束の低下も問題とならず、且つ分離膜の目詰りも生じにくくなるので、従来定期的に除去していた汚泥充填層はその厚みによっては分離に好ましいという知見を得た。さらに、一定厚さ以上の汚泥充填層は、廃水中の可溶性の有機物の除去能も有するといった知見を得、これらに基づいて本発明をなしたものである。即ち、本発明は廃水中の粒子成分及び微生物等よりなる汚泥充填層を、金属網やセラミックス多孔質体等の膜保持用部材上に形成し、この汚泥充填層が分離機能を発揮するようにした。
【0007】ここで、膜保持用部材の開口の平均径を4nm以上500μm以下とし、具体的には膜保持用部材としてスクリーン部材を用いる場合には、その開口の平均径を1μm以上500μm以下とし、多孔質部材を用いる場合には、その開口の平均径を4nm以上20μm以下とするのが好ましい。
【0008】また、膜分離装置の運転条件としては、汚泥充填層の平均厚みが4μm以上8mm以下で、前記分離膜の膜間差圧が0.1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下となるようにする。ここで、汚泥充填層の平均厚みを4μm以上8mm以下とするのは、4μm未満であると、部分的に汚泥充填層が殆ど形成されていない箇所が発生し、この部分において目詰りが発生しやすくなるとともに廃水中の有機物の十分な除去能が得られず、また8mmを越えると汚泥充填層の過度の透過抵抗により透過流束が大きく低下することによる。斯かる観点から汚泥充填層の平均厚みを8μm以上3mm以下とするのが更に好ましい。
【0009】また、上記汚泥充填層を形成した状態で膜分離装置を運転する際の膜間差圧を0.1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下とするのは、0.1kgf/cm2未満であると、必要な透過流束(処理速度)が得られず、10kgf/cm2を越えると透過流束は増大するがコスト的に不利が生じることによる。斯かる観点から膜間差圧は0.1kgf/cm2以上5kgf/cm2以下とするのが更に好ましい。
【0010】また、汚泥充填層表面に供給する廃水の粘度は2500cp以下に調整することが好ましい。これは2500cpを越えると、洗浄等によって汚泥充填層の厚みを所定厚み以下に維持しにくくなることによる。斯かる観点から廃水の粘度は350cp以下とするのが更に好ましい。
【0011】更に、汚泥充填層の厚みを制御する手段としては、膜面に気液2相流、固液2相流或いは気液固3相流の廃水を流すか、洗浄を行うようにする。
【0012】
【作用】菌体等が凝集した廃水中の有機物粒子は、膜保持用部材表面に形成された汚泥充填層に捕捉されるか反発され、膜保持用部材の細孔に侵入することは阻止される。
【0013】
【実施例】以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明方法を実施する浄化槽の一例を示す縦断面図、図2は膜保持用部材(ステンレス網)上に汚泥充填層が形成された状態を示す拡大図である。
【0014】浄化槽本体1内は隔壁2によって流量調整室S1及び生物処理室S2に画成され、流量調整室S1の上部には廃水の導入パイプ3が取り付けられ、生物処理室S2の底部には散気管4を設け、この散気管4から生物処理室S2内にエアを間欠的に供給するようにしている。また、生物処理室S2内には廃水の粘度を調整するために濾床を設けるようにしてもよい。
【0015】また生物処理室S2内には、膜分離装置5を設けている。この膜分離装置5はケース6の開放された上面を膜保持用部材であるステンレススクリーン7で覆い、このステンレススクリーン7の上面と若干の隙間を形成するようにモータMによって回転せしめられるスクレーパ8を配置し、更にケース6内にはポンプPにつながる吸引管9を臨ませている。
【0016】ポンプPを駆動して吸引管9を介してケース6内の廃水を吸引すると、ケース6内は負圧になり、ステンレススクリーン7を介してケース6内に廃水が流入する。そしてこの流入に伴って、図2に示すようにステンレススクリーン7の表面に廃水中の粒子成分及び微生物等よりなる汚泥充填層10が形成される。この汚泥充填層10は分離膜の機能を発揮するものであり、その厚さはスクレーパ8の回転数及びスクレーパ8とステンレススクリーン7との間隔によってコントロールできる。尚、ステンレススクリーン7の代りに焼結ステンレスフィルタ、巻線式ステンレスフィルタ等を使用することもできる。
【0017】以下の(表1)は汚泥充填層の厚みを1mmとし、ステンレススクリーンの開口(目)の平均径を0.2μm〜1mmの間で変化させた場合の透過性能との関係を示すものである。ここで、膜分離による廃水中可溶性有機物の除去能は、膜透過液可溶性成分の全有機炭素(TOC)濃度で評価した。可溶性成分のTOC濃度は全透過液を細孔径0.1μmのメンブレンフィルターで除粒子して測定し、また本測定では、汚泥濃度5kg/m3、全透過液のTOC 2200mg/l、可溶性成分のTOC 15mg/lの間欠曝気汚泥を廃水として用いた。尚、後述する(表2)、(表3)においても同様である。
【0018】
【表1】


【0019】この(表1)から、ステンレススクリーンの場合は、開口の平均径が500μmを越えると汚泥充填層を形成しにくくなり、500μm以下において廃液中の粒子成分と可溶性成分とを分離でき、開口の平均径が1μm未満となると、透過流束が極端に小さくなる。このことから、汚泥充填層の厚みを1mmとした場合には、ステンレススクリーンの開口の平均径は10μm〜200μmの範囲が最適である。
【0020】図3は本発明方法を実施する浄化槽の他の例を示す縦断面図、図4は膜保持用部材(多孔質体)上に汚泥充填層が形成された状態を示す拡大図であり、前記実施例と同一の部材については同一の符号を付し説明を省略する。
【0021】この実施例にあっては、生物処理室S2内に膜分離装置15を浸漬している。この膜分離装置15は平板状多孔質体17とこの多孔質体17に接続される吸引管19を備え、ポンプPによって0.1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下の膜間差圧を与えることによって、生物処理室S2内の廃水中から活性汚泥等を含まない透過液を分離して消毒室等に送り込み、活性汚泥等を含む保持液(濃縮液)を生物処理室S2内に留める。
【0022】ここで、図4に示すように前記多孔質体17には多数の細孔17aが形成されており、この細孔17aの平均径は廃水中に浮遊している凝集体(菌体等が凝集したもの)SSの径(20〜30μm)よりも小さく設定する。
【0023】また、前記多孔質体17の表面には、ゲル状の汚泥充填層10が厚み4μm以上8mm以下の範囲で形成されている。したがって、廃水中に浮遊している凝集体SSは汚泥充填層10に補足されるか、反発し、いずれにしても細孔17aに侵入して目詰りを起こすことがない。
【0024】ところで、汚泥充填層10を最初に形成する前に、多孔質体17の細孔17aに凝集体SSが侵入すると、最初から透過流束が低下することになるので、最初に汚泥充填層10を形成する場合には、膜分離装置を浸漬した生物反応槽S2内を攪拌することなく膜分離装置を運転するのが好ましい。
【0025】以上において、生物処理室S2内に導入された廃水を好気・嫌気の生物処理を行う。好気・嫌気の切換えは散気管4へのエアの供給をオン・オフすることで行う。ここで、好気性処理では吹込まれた酸素を利用して活性汚泥に含まれる硝化菌により原液中に含まれるアンモニア態窒素(NH4+)が硝酸態窒素(NO3-)や亜硝酸態窒素(NO2-)に酸化分解され、また未分解有機物は活性汚泥中に取り込まれる。また嫌気性処理では活性汚泥に含まれる酸生成菌によって合併排水中の有機物を酢酸(CH3COOH)やプロピオン酸(CH3CH2COOH)等の有機酸に低分子化し、更にこれら有機酸をメタン菌などによってメタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)のガスに変換し、更に、タンパク質や尿素などの窒素分の分解物であるアンモニア態窒素(NH4+)を生成する。
【0026】以下の(表2)は汚泥充填層の厚みを20μmとし、多孔質体の開口(細孔17a)の平均径を1nm〜20μmの間で変化させた場合の透過性能との関係を示すものである。
【0027】
【表2】


【0028】この(表2)から、多孔質体の場合は、細孔17aの平均径が20μmを越えると粒子成分が目詰りを起こし、4nm未満では透過抵抗が大きく透過流束が極端に小さくなる。したがって、細孔の平均径は4nm以上20μm以下が最適である。
【0029】また、以下の(表3)は、前記ステンレススクリーンの開口(目)の平均径を20μmとし、前記多孔質体の開口(細孔)の平均径を10μmとし、汚泥充填層の厚みを2μm〜20mmの範囲で変化させた場合の透過性能との関係を示すものである。
【0030】
【表3】


【0031】上記の(表3)より汚泥充填層10の厚さは4μm以上8mm以下の範囲に制御するのが重要であるといえる。そのためには間欠的に散気管4から噴出するエアによって汚泥充填層10表面に気液2相流を形成し、この気液2相流の掻き取り効果によって汚泥充填層10の厚さを制御する。この際の気液2相流を形成するための気体の供給量は、分離膜の単位投影面積当り且つ単位時間当り0.5(m321)以上300(m321)以下とすることが好ましい。ここで、気体を連続的に供給する場合には0.5(m321)以上200(m321)以下とし、間欠的に供給する場合には5(m321)以上300(m321)以下とすることが望ましい。
【0032】図5は本発明方法を実施する浄化槽の別例を示す縦断面図であり、この浄化槽にあっては膜分離装置25を構成する多孔質体27を中空糸状膜とし、この多孔質体27の下方に循環ポンプ20を配置するとともに平均粒子径1μm以上50mm以下の粒子を添加することにより、多孔質体27表面に固液2相流を形成して汚泥充填層の厚さを制御するようにしている。尚、固液2相流及び前記した気液2相流の他に固液2相流で添加した粒子と同じ固体を用いて気液固3相流を形成してもよい。
【0033】図6〜図8は本発明方法を実施する浄化槽のうち生物反応槽の外部に膜分離装置を配置した例を示す図であり、図6に示す浄化槽にあっては膜分離装置35を管状分離膜37で構成し、図7に示す浄化槽にあっては膜分離装置45を回転平膜47で構成し、図8に示す浄化槽にあっては膜分離装置55を平板状分離膜57内に攪拌羽根58を配置することで構成している。
【0034】図6〜図8に示した浄化槽にあっては汚泥充填層の厚さは廃水の流速で制御してもよいが、正確性に欠けるため、図9に示すような濾過と洗浄を交互に繰り返す洗浄パターンを実施して汚泥充填層の厚さを制御することも可能である。また、洗浄運転方法としては、浄化槽内に透過液を貯溜する透過液貯溜槽(図示せず)を設け、透過液貯溜槽より透過液を膜透過液側から供給するか、あるいは透過液の代りに気体を供給することにより洗浄を行う逆圧洗浄や、膜表面に高流速の流れを形成させるフラッシュ洗浄が用いられる。
【0035】
【発明の効果】以上に説明した如く本発明によれば、生物反応槽や沈殿槽に浸漬した或いはこれらの外に設けた膜分離装置の分離膜を廃水中の粒子成分及び微生物等よりなる汚泥充填層とすることにより、可溶性の有機物を除去することが可能となる。さらに、膜保持用部材の表面に形成される汚泥充填層の平均厚みが4μm以上8mm以下で、前記分離膜の膜間差圧が0.1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下となる条件で膜分離装置の運転を行うようにしたので、必要な透過流束をコストアップを招くことなく確保し、しかも菌体等が凝集した廃水中の有機物粒子は、膜保持用部材に形成された汚泥充填層に捕捉されるか反発され、膜保持用部材の細孔に侵入することがないので、目詰りを起こすことがなく、長期的にメンテナンスフリーで浄化を行うことができる。
【0036】特に、上記の条件の他に、廃水の粘度、分離膜の平均細孔径を所定範囲にし、または分離膜面に流す廃水を気液2相流、固液2相流或いは気液固3相流とするか洗浄によって汚泥充填層の厚みを制御するようにすれば、メンテナンスフリーで粒子成分だけでなく可溶性有機成分の除去能が発揮される期間を更に長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実施する浄化槽の一例を示す縦断面図
【図2】膜保持用部材(ステンレス網)上に汚泥充填層が形成された状態を示す拡大図
【図3】本発明方法を実施する浄化槽の他の例を示す縦断面図
【図4】膜保持用部材(多孔質体)上に汚泥充填層が形成された状態を示す拡大図
【図5】本発明方法を実施する浄化槽の他の例を示す縦断面図
【図6】本発明方法を実施する浄化槽のうち生物反応槽の外部に膜分離装置を配置した例を示す図
【図7】本発明方法を実施する浄化槽のうち生物反応槽の外部に膜分離装置を配置した例を示す図
【図8】本発明方法を実施する浄化槽のうち生物反応槽の外部に膜分離装置を配置した例を示す図
【図9】汚泥充填層の厚みを制御する洗浄パターンを示す図
【符号の説明】
1…浄化槽本体、2…隔壁、4…散気管、5,15,25,35,45,55…膜分離装置、7…スクリーン、10…汚泥充填層、17…多孔質体、S2…生物反応室、SS…凝集体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 微生物によって廃水を生物的に処理する生物反応室と、濾過を行う膜分離装置からなる廃水の浄化装置において、前記膜分離装置は廃水中の粒子成分及び微生物等よりなる汚泥充填層を分離膜として膜保持用部材上に形成していることを特徴とする廃水の浄化装置。
【請求項2】 請求項1に記載の廃水の浄化装置において、前記膜保持用部材の開口の平均径を4nm以上500μm以下としたことを特徴とする廃水の浄化装置。
【請求項3】 請求項1に記載の廃水の浄化装置において、前記膜保持用部材はスクリーン部材とし、その開口の平均径を1μm以上500μm以下としたことを特徴とする廃水の浄化装置。
【請求項4】 請求項1に記載の廃水の浄化装置において、前記膜保持用部材は多孔質部材とし、その開口の平均径を4nm以上20μm以下としたことを特徴とする廃水の浄化装置。
【請求項5】 請求項1に記載の浄化装置を用いた廃水の浄化方法において、前記汚泥充填層の平均厚みが4μm以上8mm以下で、前記汚泥充填層の膜間差圧が0.1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下となる条件で膜分離運転を行うようにしたことを特徴とする廃水の浄化方法。
【請求項6】 請求項1に記載の浄化装置を用いた廃水の浄化方法において、前記汚泥充填層に供給する廃水の粘度を2500cp以下に調整するようにしたことを特徴とする廃水の浄化方法。
【請求項7】 請求項6に記載の廃水の浄化方法において、前記廃水の粘度は生物処理室に濾床を設けることで調整するようにしたことを特徴とする廃水の浄化方法。
【請求項8】 請求項1に記載の浄化装置を用いた廃水の浄化方法において、前記汚泥充填層の厚みを気液2相流、固液2相流或いは気液固3相流の廃水を汚泥充填層表面に沿って流すことで制御するようにしたことを特徴とする廃水の浄化方法。
【請求項9】 請求項1に記載の浄化装置を用いた廃水の浄化方法において、前記汚泥充填層の厚みを洗浄によって制御するようにしたことを特徴とする廃水の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平8−10787
【公開日】平成8年(1996)1月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−152380
【出願日】平成6年(1994)7月4日
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)