説明

廃液固化材

【課題】絵具や墨汁の廃液およびラテックス等の水系樹脂や接着剤やインキなどの廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、作業するためのハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材の提供をする。
【解決手段】廃液に、全重量の70%〜95%の化学繊維からなる極細短繊維と全重量の5%〜30%の粒径20μm〜150μmからなるアクリル酸ナトリウム系吸水ポリマーとを混合攪拌し、放置後、得られた固形物を廃棄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵具や墨汁の廃液および工場などで出るラテックス等の樹脂や接着剤やインキなどの廃液を処理するための材料の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
学校で使われる絵具や墨汁の廃液は、下水処理施設へ流して処理しているが、環境の観点よりそれを防止していこうと言う動きがある。しかし現状ではパレットや道具の一部を拭き取り処理するぐらいで、刷毛等の洗った後の汚水については、そのまま流していることが多い。ラテックスや接着剤やインキ等は、水系や溶剤系ともに大規模な工場では廃液処理施設によって処理するのが通例であるが、中小の工場では、廃液を貯めて業者に回収処理してもらうことが一般的である。これらの廃液は、工場内の運搬や工場外に輸送することで取り扱いにくく、液漏れのトラブルもあり、またその処理の費用も高価である。
【0003】
廃液を処理する技術として、吸水ポリマーに廃液を吸収させる方法は一般的に知られている。
【0004】
また、特許文献1には、水系塗料を固化させることが開示されている。さらに特許文献2には、水系および溶剤系の液体を固化させるための、吸水樹脂とフィラーを含む混合物が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−120254
【特許文献2】特開2003−20474
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絵具や墨汁の廃液およびラテックス等の水系樹脂や接着剤やインキなどの廃液を下水や河川や海に流すことは環境の観点より良くない。また業者が回収する費用は高価であり、貯蔵までの工場内の運搬や工場外に輸送することで取り扱いが面倒であり、液漏れのトラブルもある。そこで、排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしいことが課題となる。また廃液を処理するコストより安くすることも産業で利用する上では重要である。
【0007】
ところで、水系の廃液を吸収させるために吸収ポリマー粒子を用いると、重量が大きい問題と、さらに粒子同士の親和性が働き、廃液を吸収させたポリマーは攪拌しがたい。また溶剤系の廃液に対する吸収能力が低いことから、この分野での実用化は難しかった。
【0008】
また、特許文献1に記載の水系の廃液処理剤では、固化に半日から一日かかり、実使用ではかなり不便であった。その上、材料がセメントのように、固化するため、廃棄の際、容器等から取り出しがたい問題があった。さらに固化物が鋭角になることで、それらを包む袋などが破れたりすることがあり、取り扱い面での問題があった。
【0009】
さらにまた、特許文献2に記載の水系および溶剤系の廃液処理剤では、アスペクト比が小さく、嵩が低いため、廃液と混合した際に凝集し分散不良状態になる。その結果、予め一斗缶やドラム缶などの容器に廃液固化材を入れ、その上から適宜、廃液を入れて攪拌し、さらに廃液を入れ攪拌することを繰り返し続けるような、工場等の実作業では、攪拌しがたくなる問題と吸水能力の激減の問題があった。また、溶剤系の廃水では、吸収能力が低いことも問題であった。
【0010】
これらの問題をまとめると、廃液固化材として望まれる性質は、以下のようになる。1つは、水系および溶剤系の廃液を排出することなく、河川や海などを汚さずに環境にやさしいこと。2つは、処理に対する時間が短いこと。具体的には、数分から数十分程度にすること。3つは、容器に貯めながらでも攪拌でき、容器が満たされるまで、処理が継続できること。すなわち作業するためのハンドリング性が良いこと。4つは、廃棄の際に、固くなりすぎて、固着し容器から取れなくなったり、固化物が鋭角になることで、それらを包む袋などが破れたりすることがないこと。例えばゲル状であること。
【0011】
そこで、本発明は、廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、数分から数十分程度で固化し、ハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これら課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0013】
まず、請求項1に記載の発明は、廃液と混合攪拌することによって、該廃液を固化する廃液固化材であって、全重量の70%〜95%の化学繊維からなる極細短繊維と全重量の5%〜30%の粒径20μm〜150μmからなるアクリル酸ナトリウム系吸水ポリマーとが混合してなることを特徴とする。
【0014】
次に、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、極細短繊維は、起毛性繊維シートの製造時に削り粉として発生したものであることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明は、水系の廃液に、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄してなることを特徴とする。
【0016】
加えて、請求項4に記載の発明は、溶剤系の廃液に、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の記載の発明によれば、水系および溶剤系の廃液を処理する場合、全重量の70%〜95%の化学繊維からなる極細短繊維と全重量の5%〜30%の粒径20μm〜150μmからなるアクリル酸ナトリウム系吸水ポリマーとが混合してなることから、極細短繊維の毛細管現象を利用し、すばやく廃液を繊維間に取り込むことができる。さらに廃液は、この極細繊維間の交絡部およびこの吸水ポリマーで保持や吸収することができる。加えて、本発明の配合率の効果により、これら毛細管現象と吸水ポリマー粒子同士の親和性がバランス良く保つことができ、水系および溶剤系の廃液共に、ハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる。
【0018】
また化学繊維からなることから、天然繊維と比べて、酸などに対する耐薬品性が高く、親水性が低いことから、廃液に溶解されることが少ない。また、固化後にカビや菌の増殖がしにくい効果がある。さらに、溶剤系の接着剤やインキに含まれる酢酸エチル、エタノール、ラッカーシンナー、メチルエチルケトン等の溶剤や水系のラテックスなどに含まれる界面活性剤やPH調整剤等の成分を含むものからなる廃液についての固化が実現できる。
【0019】
加えて、極細短繊維であるので、粉体に比べてアスペクト比が大きく、嵩が高いことから、容器に廃液固化材を入れ、その上から適宜、廃液を入れて攪拌し、さらに廃液を入れ攪拌することを繰り返し続けるような作業でも、容易に攪拌ができ、発明品の吸収能力が保持でき、長期間保存しながら、廃液を固化処理できる。
【0020】
発明品と廃液を攪拌することで、水系および溶剤系でも廃液を数分から数十分にゲル状固化物にできる。従って、これをゲル状固形物として廃棄処分すれば、廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、ハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材の提供が達成できる。
【0021】
なお、極細繊維とは、明確な定義ではないが、一般的に絹より細い50μm以下のものを示すことで知られている。溶融紡糸法等で製造できる最も細い繊維は、1〜5μm程度とされている。また、起毛などでできる分割繊維などでは、0.5μm程度までできると考えられる。さらに短繊維とは、もっとも長いもので100mm程度として知られており、もっとも短いもので1μm程度として知られている。
【0022】
本発明の極細短繊維を構成する化学繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、ポリウレタン等が使用でき、長さが、1μm〜2mm程度であり、太さは、0.5μm〜50μm程度のものである。
【0023】
次に、請求項2の記載の発明によれば、起毛性繊維シートの製造時の削り粉の極細短繊維の長さは、10μm〜200μmであり、太さは、1μm〜10μmであることから、アスペクト比のバランスが非常に優れ、発明品の嵩と吸収される廃液の嵩が、ほぼ同じか発明品の嵩の方が小さくでき、発明品と液体を混合する際、容器から発明品が溢れることを防止しながら、処理能力を高く保つことができる。よって、攪拌後、数分から数十分程度でゲル状固化することをより確実にできる。加えて、産業廃棄分として処分される材料を有効に活用できるので、さらに環境に配慮した廃液固化材の提供が達成でき、また安価になることから、現在の廃液を運搬回収するコストより安く提供することが可能になる。
【0024】
請求項3の記載の発明によれば、絵具やラテックスやインキなどの水系の廃液を、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄することができる。水系の廃液は、本発明品より重量比5倍〜30倍程度の処理が可能であり、時間も数分にゲル状固化物にできる。従って、これをゲル状固形物として廃棄処分すれば、廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、数分から数十分に固化し、ハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材の提供が達成できる。
【0025】
請求項4の記載の発明によれば、接着剤や塗料やインキなどの溶剤系の廃液を、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄することができる。溶剤系の廃液は、本発明品より重量比5倍〜15倍程度の処理が可能であり、時間も数分から数十分にゲル状固化物にできる。従って、これをゲル状固形物として廃棄処分すれば、廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、数分から数十分に固化し、ハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材の提供が達成できる。
【実施例1】
【0026】
本発明の水系廃液に対する処理能力を確認する目的での実験データ例を記述する。
全重量の60〜97%の化学繊維からなる極細短繊維と全重量の3〜40%の粒径の異なる吸水ポリマーでの配合を行い、固化能力を確認するために、以下のように試験を行った。
極細繊維として、東レ株式会社のポリエステル約50%とナイロン約30%とポリウレタン約20%からなる起毛性繊維シートの製造時の削り粉繊維長さ0.1mm程度、太さ1〜5μm程度を利用し、吸収ポリマーとして、ポリアクリル酸ナトリウム系の粒径の異なるもので、三洋化成工業株式会社の粒径20〜50μm程度の商品名サンフレッシュST−500MPSA(以下ポリマーAとする。)、粒径50〜150μm程度の商品名サンフレッシュYH−2(以下ポリマーBとする。)、粒径150〜710μm程度の商品名サンフレッシュST―573(以下ポリマーCとする。)を用いた。なお、この試験では廃液として、水道水を利用した。
本発明の廃液固化材をそれぞれ容器に、表のとおり50gずつ入れ、その廃液固化材に対して重量比8倍・16倍の水を加えて1分間攪拌した。10分後数回攪拌し、観察を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
まず表1の評価方法であるが、適正とは、初期1分間の攪拌しやすく、攪拌10分後には球状に丸めることが可能であるゲル状固化物になるものである。次に、固化不良とは、初期1分間の攪拌しやすく、攪拌10分後には、球状に丸めても保持できない、もしくは、液状になるものである。また、分散不良とは、初期1分間の攪拌に問題があり、大部分もしくは一部が、ゲル状固化物になるものであるが、固化物と液体が十分に混じることができていない状態になるものである。さらに、分散固化不良とは、初期1分間の攪拌に問題があり、攪拌10分後には、球状に丸めても保持できない、もしくは、液状になるものである。
【0029】
前記の表1の結果より考察する。結果より、ポリマーAでは、配合量5%〜30%が適正といえる。また、ポリマーBでは、配合量5%〜40%が適正といえる。さらに、ポリマーCを使うと容器の下部にポリマーCが多く見られ、分散不良や分散固化不良が認められた。まとめると吸水ポリマーは、全重量の5%〜30%配合し、粒径20μm〜150μmの選定が最も適正であった
【実施例2】
【0030】
本発明の溶剤廃液に対する処理能力を確認する目的での実験データ例を記述する。極細繊維として、東レ株式会社のポリエステル約50%とナイロン約30%とポリウレタン約20%からなる起毛性繊維シートの製造時の削り粉繊維長さ0.1mm程度、太さ1〜5μm程度を90%配合し、さらに吸水ポリマーとして、アクリル酸ナトリウム系の粒径50〜150μm程度の三洋化成工業株式会社の商品名サンフレッシュYH−2(ポリマーB)を10%配合し混合したものを試験材料とした。
その本発明の試験材料および特許文献2における高吸水性樹脂とアルミナケイ酸塩からなる残塗料処理剤Bを、それぞれ容器に、表のとおり50gずつ入れ、その廃液固化材に対して重量比8倍の表2の各溶剤を加えて1分間攪拌した。10分後数回攪拌し、観察を行った。なお、この試験では、溶剤系の廃液や残塗料の固化する為には、インク等に配合されることがある溶剤の液成分を固化させることが重要であると考え、表2には、代表なる溶剤を選定した。
【0031】
【表2】

【0032】
まず表2の評価方法であるが、適正とは、初期1分間の攪拌しやすく、攪拌10分後には球状に丸めることが可能であるゲル状固化物になるものである。次に、固化不良とは、初期1分間の攪拌しやすく、攪拌10分後には、球状に丸めても保持できない、もしくは、液状になるものである。
【0033】
前記の結果より、発明品は、溶剤系の廃液に対しても、優れた処理能力を有していることがわかった。
【実施例3】
【0034】
本発明の廃液に対する処理能力およびハンドリング性を確認する目的での実験データ例を記述する。極細繊維として、東レ株式会社のポリエステル約50%とナイロン約30%とポリウレタン約20%からなる起毛性繊維シートの製造時の削り粉繊維長さ0.1mm程度、太さ1〜5μm程度を90%配合し、さらに、吸水ポリマーとして、アクリル酸ナトリウム系の粒度50〜150μm程度の三洋化成工業株式会社の商品名サンフレッシュYH−2(ポリマーB)を10%配合し混合したものを試験材料とした。
その本発明の試験材料と特許文献1における残塗料処理剤A(商品名マイティ固化剤)と特許文献2における高吸水性樹脂とアルミナケイ酸塩からなる残塗料処理剤Bを、それぞれ容器に、各1kgずつ試験材料を入れた。それぞれ10kgの廃液を加えて1分攪拌し、さらに1時間後6kgの廃液を加えて1分間攪拌し、10分後数回攪拌し、観察を行った。なお、この試験では廃液や残塗料として、水道水とアクリル系ラテックスを利用した。
【0035】
【表3】

【0036】
まず表3の評価方法であるが、適正とは、初期1分間の攪拌しやすく、追加1分間も攪拌しやすく、攪拌10分後には球状に丸めることが可能であるゲル状固化物になるものである。次に、固化不良とは、初期1分間の攪拌しやすく、追加の1分間も攪拌しやすく、攪拌10分後には、球状に丸めても保持できない、もしくは、液状になるものである。また、分散不良とは、初期1分間の攪拌に問題があり、大部分もしくは一部が、ゲル状固化物になるものであるが、固化物と液体が十分に混じることができていない状態になるものである。
【0037】
前記の表3の結果より考察する。結果より、特許文献1における残塗料処理剤Aでは固化不良になった。これは固化速度が遅いことが原因である。ただし、2日後にはセメントのような固化が認められた。しかしながら、セメントのように固化がすることは、廃棄の際、容器等から取り出しがたい問題や固化物が鋭角になることで、それらを包む袋などが破れたりする問題になり、大きな欠点になる。特許文献2における残塗料処理剤Bは、分散不良が認められ、処理できていない白い粉体が多く残り、攪拌しがたいことがわかった。また、この残塗料処理剤Bを容器に入れ、水やラテックスを入れて攪拌し、さらに水やラテックスを入れ攪拌することを、繰り返し続けることの作業性は悪いことが認められ、作業するためのハンドリング性は悪いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、水系や溶剤系の廃液を排出することなく、河川や海などを汚さず環境にやさしい、しかも、数分から数十分程度で固化し、作業するためのハンドリング性が良く、取り扱いの容易なゲル状固化物にできる廃液固化材が提供され、絵具や墨汁の廃液およびラテックス等の水系樹脂や接着剤やインキなどの廃液を処理するために広く好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液と混合攪拌することによって、該廃液を固化する廃液固化材であって、全重量の70%〜95%の化学繊維からなる極細短繊維と全重量の5%〜30%の粒径20μm〜150μmからなるアクリル酸ナトリウム系吸水ポリマーとが混合してなることを特徴とする廃液固化材。
【請求項2】
極細短繊維は、起毛性繊維シートの製造時に削り粉として発生したものであることを特徴とする請求項1に記載の廃液固化材。
【請求項3】
水系の廃液に、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄してなることを特徴とする廃液処理方法。
【請求項4】
溶剤系の廃液に、請求項1または2のいずれかに記載の廃液固化材と混合攪拌することによって、放置後、得られた固化物を廃棄してなることを特徴とする廃液処理方法。

【公開番号】特開2012−24683(P2012−24683A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164852(P2010−164852)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(591100448)パネフリ工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】