説明

廃石膏ボードの処理方法

【課題】
紙が比較的大量に含まれていると、セメント組成物に使用した場合、モルタルやコンクリートの流動性、強度発現に悪影響をあたえ好ましくない。繊維化したセルロースを取り除き、セメント物性や美観にも配慮すべきであり、石膏ボード廃材から紙を精度良く分離し、セルロース残存率を小さくして、石膏成分の回収収率を高める方法を提供することにある。
【解決手段】
廃石膏ボードからセメント原料として石膏を回収する方法であって、前記石膏ボードを粗砕して、30mm以上の紙を取り除いた後、乾式篩を2段以上に設け、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmであることを特徴とする石膏の回収方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃石膏ボードの処理方法に関し、特に廃石膏ボード解体後の紙を含む石膏末から紙を分離する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボード廃材は、石膏ボード生産時や新築内装工事での石膏ボード端材、改装・解体工事で廃棄される石膏ボード等から、回収石膏は、上記石膏ボード廃材から乾式破砕により紙を除去して得られたものをセメントの仕上げ用石膏とすることが行われている。
【0003】
石膏ボード廃材を石膏成分としてセメントに使用する場合、紙が含有されているとAE剤、流動化剤、高性能減水剤など化学混和剤を使用するコンクリートにおいては該化学混和剤が紙に吸着するため、かかる剤の添加による効果を十分発揮することができず、添加量が増大する不具合のあることが判明している。
【0004】
従って、石膏ボードの原紙を主とする紙の除去を行なうことにより、使用するAE剤の量を低減す
ることが可能となることが開示されている。こうして、安定した流動性を有するコンクリートを与えるセメントを得ることができる。
【0005】
かかる紙の除去は、回収石膏中の紙の残存量が、5重量%以下、特に、2重量%以下となるように行うことが好ましいとされている。
【0006】
また、上記石膏ボード廃材からの紙の除去は、界面活性剤を積極的に残存せしめるため、乾式破砕により行われる。上記乾式破砕により石膏ボード廃材から紙を分離する方法は、具体的には、特開10−286553号に示されるように、石膏ボード廃材を破砕して、所定のメッシュサイズの篩を組み合わせて比較的大きな紙を除去し、細かな紙は所定風量で送風して吹き飛ばすことにより紙を除去する方法、特開2000−254531号に示されるように、石膏ボード廃材を突条の付いたロール式破壊機に通し、脆い石膏基板だけを破砕して、紙から石膏を剥離させることにより紙を除去する方法、などが挙げられる。しかし、いずれも前記紙が繊維化したセルロース部分を除去するという観点にたてば、不十分であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−192403号
【特許文献2】特開10−286553号
【特許文献3】特開2000−254531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紙が比較的大量に含まれていると、セメント組成物に使用した場合、モルタルやコンクリートの流動性、強度発現に悪影響をあたえ好ましくない。繊維化したセルロースを取り除き、セメント物性や美観にも配慮すべきである。
【0009】
従って、本発明の目的は、石膏ボード廃材から紙を精度良く分離し、セルロース残存率を小さくして、石膏成分の回収収率を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
廃石膏ボードからセメント原料として石膏を回収する方法であって、
前記石膏ボードを粗砕して、30mm以上の紙を取り除いた後、
乾式篩を2段以上に設け、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmであることを特徴とする石膏の回収方法、を提供する。
【0011】
前記石膏ボードを粗砕して、紙を取り除く際の篩目開きが、4mmから5mmであり、
前記乾式篩が2乃至4段であり、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.71mmから1.5mmである石膏の回収方法、を提供する。
【0012】
廃石膏ボードを、置き場等から持ち出し、又はその置き場で、まず、重機による圧潰をおこない、粗砕機に供給できるサイズとする。粗砕機は、ジョークラッシャー等のクラッシャー、ハンマーミル、パルベライザー等の通常の粗砕機を用いることができる。このとき、一次破砕機の破砕品を篩って、石膏ボード原紙の粗大部分を先ず取り除いてしまうことが、望ましい。一次破砕物を目開き30mm程度でふるった通過分と、そのふるい上残分を2軸ロールクラッシャーに通じ、目開き10mmでふるった通過分と合して、次工程の乾式篩に供給することができる。この操作で、石膏ボードの粗大な原紙の大半は分離除去される。
【0013】
この一次破砕品、またはその篩上の2軸ローラ破砕品を合わした粉砕品(以下、破砕品)を、さらに乾式篩で処理して、紙分の減じた二水石膏粉を回収することができる。
【0014】
水平回転式スクリーナーの投入口より廃石膏ボード破砕物を供給すると、上下2段のスクリーンで粗粒分と細粒分とが分離される。スクリーンは水平方向に振動するため、スクリーン上の石膏粒子および紙片はらせん軌跡を描きながら右側の排出口に向かって移動する。1段目のスクリーン残分は最右の排出口、2段目のスクリーン残分は中央の排出口、最終の通過分は最左の排出口より排出される。
【0015】
破砕品を、多段篩機で処理する。多段篩機は、その段数を特に限定するものではないが、2段から4段とするのが望ましい。5段以上とすると、分級の精度が向上するが、紙分離の効果が格別向上することもない。1段では、分級精度、紙の残留物割合の点で不十分である。
【0016】
篩の形式は、振動篩、垂直回転式篩、水平回転式篩等任意のもので良いが、ある程度の処理時間、篩上での滞留時間をコントールできるものが良い。例えば、水平回転式篩では、スクリーン上部より、供給した試料の分離状況を目視観察しながら、投入開始より一定量の処理時間を計測することで、供給速度を算出できる。
【0017】
乾式篩を2段以上に設け、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmであることが望ましい。破砕品を用い、1段目と2段目のスクリーンの網の目開きを変化させた2段篩及び4段篩を行った。4段篩では、1段目から4段目の篩目開きを変化させて、最終の収率および通過分のセルロース残留率を測定した。収率は、供給量に対する篩処理の最終篩通過分量である。セルロース残留率は、紙残留率と同義である。具体的には、石膏ボードの破砕品を乳鉢で平均粒径20μm程度に粉砕し、その2gを濃塩酸(12N)と水を1:1で混ぜたもの20mlと、水40mlを混合して、石膏を溶解させ、ブフナー漏斗でろ過し、ろ紙上の残分を乾燥、恒量としたのち、その重量を測定し、全体重量に対する重量%で示した。
【0018】
そして、2段篩、4段篩のとき、ともに、最終段の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmのとき、セルロース残留率が減少する効果があることが判明した。また、セルロース残留率が減少すると、最終の収率が向上する効果も認められた。
【0019】
図1に、2段篩において、1段目と2段目の網の目開きを変えておこなった2段目の篩目開き(mm)に対するセルロール残留率(%)の結果の例を示す。
【0020】
2段目の篩目開きが、0.5mmを越えると急激にセルロース残留率が減少し、1.8mmを越えると急激にセルロース残留率が増大する傾向が認められた。
【0021】
又、このとき、最終の篩の目開きが、0.71mmから1.5mmとすると、セルロース残留率を0.2%以下とすることができる。
【0022】
多段階篩で、篩目を上から順次小さくしたとき、セルロール含有率が、大略、最終段篩の目開きのみに依存するのは、予想外の結果であるが、この目開きで、セルロース部分の除去が可能となった。
【0023】
更に、最終段の篩の水平面からの傾斜角を0度から5度とし、上段の篩の水平面からの傾斜角を最終段の篩の傾斜角と同一方向で、5度から30度とすると、石膏の前記回収率がさらに、向上することが判明した。
【発明の効果】
【0024】
回収する二水石膏中のセルロース残留率を低くし、しかも、ニ水石膏の回収率も低下させない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】2段篩において、1段目と2段目の網の目開きを変えておこなった2段目の篩目開き(mm)に対するセルロール残留率(%)を示す図である。
【図2】多段篩の水平回転式スクリーナーの内部構造模式図である。
【図3】最終段の網の目開きと収率との関係を示す図である。
【図4】試料の供給速度とセルロース残留率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の形態について、詳細に説明する。
使用した水平回転式スクリーナーの内部構造の概略を、図2に示す。左上部の供給口より廃石膏ボード破砕物を供給すると、上下3段のスクリーンで粗粒分と細粒分とが分離される。スクリーンは水平方向に振動するため、スクリーン上の石膏粒子および紙片はらせん軌跡を描きながら右側の排出口Aに向かって移動する。1段目のスクリーン残分は最右の排出口A、3段目のスクリーン残分は排出口C、最終のスクリーン通過分は最左の残分排出口Dより排出される。
【0027】
破砕品は、スイングインパクトクラッシャーの破砕物を目開き30mmでふるった通過分と、そのふるい上残分を2軸ロールクラッシャーに通して、目開き10mmでふるった通過分とを併せた。ここまでの操作で、石膏ボードの粗大な原紙の大半は分離除去された。
【0028】
破砕品を、乾式で篩って、紙分の減じた二水石膏粉を回収することができた。
【0029】
破砕品を、1バッチ20Lのトスロン缶に採取した。破砕品の重量は約10kgとした。図1の左上部の供給口より供給した。スクリーン上部より、供給した試料の分離状況を目視観察しながら、投入開始よりトスロン缶が空になるまでの時間をストップウォッチで計測することで、毎バッチの供給速度を算出した。
【0030】
まず、破砕品を用い、1段目と2段目のスクリーンの網の目開きを変化させた2段ふるい試験により、処理速度、最終の収率および処理品(篩通過分)のセルロース残留率を測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、破砕品を用い、1段目乃至4段目の篩の目開きを変え4段の多段篩処理を行なった。
【0033】
【表2】

【0034】
続いて、上記の4段多段試験の結果、最も通過分のセルロース残留率が低くなった水準(網の目開き1段目=5.0mm、2段目=1.9mm、3段目=1.58mm、4段目=0.72mm)で、破砕品のばらつきを把握する目的のふるい試験を行なった。
【0035】
破砕品を使用した2段ふるい試験では、1段目の網の目開きを2.9mmあるいは1.58mm、2段目の網の目開きを1.58mmとしたもので、通過分中のセルロース残留率が最も低く0.11%という結果であった。4段ふるい試験では、相対的に網の目開きを大きくしたもののほうが、収率が高くまた通過分中のセルロース残留率も低いという結果であった。
【0036】
ばらつき把握試験では、最終の収率が34〜44%の範囲でばらつき平均で41%であった。セルロース残留率は0.112〜0.442%の範囲でばらつき10回の平均で0.255%であった。
【0037】
網の目開きを小さくすることでセルロースの分離効率は向上しておらず、セルロースを含まない粗粒の石膏粒子の収率を高めるほうが、結果として回収した二水石膏中のセルロース残留率を低くできることが判る。図3に、最終段の網の目開き(横軸:μm)と収率(%)との関係を示した。最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmでは、目開きが大きくなると、石膏の収率が高くなる傾向が認められる。この傾向は2段、4段試験の結果でも共通に現れている。この結果と、図2のセルロース残存率を併せると、乾式篩を2段以上に設け、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmとすることで、収率良く、セルロース残存率の小さな石膏が得られた。
【0038】
セルロース残存率に影響する他の要因としては、網上への試料の供給速度が上げられる。図4は試料の供給速度(横軸:(kg/hr))とセルロース残留率(%)との関係を示すが、供給速度が大きくなるにつれて通過分中のセルロース残留率が低下する傾向がある。網上での試料密度が増加すると、セルロースが網目を通過しにくくなり、返ってセルロース残留率が低下する。供給速度を増加する方法として、篩の傾斜を増す方法を採用した。
【0039】
即ち、最終段の篩の水平面からの傾斜角を0度から5度とし、上段の篩の水平面からの傾斜角を最終段の篩の傾斜角と同一方向で、5度から30度とすると、石膏の前記回収率がさらに、向上することが判明した。具体的には、最終段の傾斜角度を5度とし、その上段の篩の傾斜角を20度とすると、供給速度が10%増加し、セルロース残留率も10%程度減少した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明を実施すれば、石膏ボード廃材から紙を精度良く分離し、セルロース成分を除去し、石膏成分の回収収率を高める方法を提供し、精製石膏をセメント製造に再利用が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
10 供給口
11 最終段篩(3段目篩)
12 上段篩(2段目篩)
13 更に上段の篩(1段目篩)
A 1段目篩上分
B 2段目篩上分
C 3段目篩上分
D 3段目篩通過分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃石膏ボードからセメント原料として石膏を回収する方法であって、
前記石膏ボードを粗砕して、30mm以上の紙を取り除いた後、
乾式篩を2段以上に設け、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.5mmから1.8mmであることを特徴とする石膏の回収方法。
【請求項2】
前記石膏ボードを粗砕して、紙を取り除く際の篩目開きが、4mmから5mmであり、
前記乾式篩が2乃至4段であり、篩目を上から順次小さくし、最終の篩の目開きが、0.71mmから1.5mmである石膏の回収方法。
【請求項3】
更に、最終段の篩の水平面からの傾斜角を0度から5度とし、上段の篩の水平面からの傾斜角を最終段の篩の傾斜角と同一方向で、5度から30度とする請求項1又は請求項2記載の石膏の回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−228954(P2010−228954A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77018(P2009−77018)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】