説明

廃酸からのレニウム回収方法及びシステム

【課題】精製工程での不純物除去の負荷を良好に低減することができる廃酸からのレニウム回収方法及びシステムを提供する。
【解決手段】少なくともレニウム及びビスマスを含む廃酸からレニウムを回収する方法であって、廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、レニウム及びビスマスを前記樹脂に吸着させる吸着工程と、レニウム及びビスマスが吸着した前記樹脂に溶離液を通液してレニウム及びビスマスを樹脂から溶離させる溶離工程と、溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収する分離・回収工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃酸からのレニウム回収方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レニウムは、モリブデン原鉱の輝水鉛鉱や銅鉱石に僅かに随伴する希少金属であるが、触媒の添加元素、熱電対や超耐熱合金用添加元素、高真空電子管材料等に用いられる重要な金属である。
【0003】
レニウムを工業的に回収するための有望な原料の一つとして廃酸がある。廃酸は、銅等の非鉄金属の製錬工程から発生する亜硫酸ガスを硫酸の製造に利用する場合に水洗浄がなされるが、その際に生成する硫酸を定期的に一部抜き出したものである。原鉱中に含まれていたレニウムがその他の不純物と共に廃酸中に混入している。その他の不純物としてはAs、Fe、Cuなどが代表的である。
【0004】
レニウムの工業的回収法についてはあまり系統的な研究がなされていないが、一つの有力な方法として、Re27を含む原料を水溶液に溶解し、陰イオン交換樹脂を使用したイオン交換法によりレニウムを樹脂に吸着し、吸着したレニウムを溶離する方法が提案されている。
【0005】
このようなイオン交換法を用いたレニウムの回収法として、例えば特許文献1には、レニウムを含む銅製錬廃酸をレニウムの選択吸着性のある陰イオン交換樹脂を充填した固定床式イオン交換樹脂塔に通液し、レニウムを樹脂に吸着させた後、溶離液でレニウムを溶離させて回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−16340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レニウムの回収をイオン交換法で行う場合、レニウム成分を選択的に回収するイオン交換樹脂を使用している。しかしながら、処理液中の他の成分の一部も樹脂に吸着することがある。このような他の成分は、樹脂から目的成分を溶離させる際に用いた溶離液中に混入してしまう。溶離液に混入した他の成分は精製工程で除去することが必要となるが、その割合が多いと精製フローが長く、複雑なものとなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、精製工程での不純物除去の負荷を良好に低減することができる廃酸からのレニウム回収方法及びシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、初めに、前記廃酸から陰イオン交換樹脂でレニウム、ビスマスを樹脂に吸着させ、続いて樹脂に吸着したレニウム、ビスマスを溶離させ、当該レニウムとビスマスを含んだ溶離液からクロマトグラフィーによってレニウムとビスマスとに分離するという2段階の精製により、その後の精製工程で処理する溶離液中の不純物の濃度を良好に抑制することができることを見出した。これにより、精製工程での不純物除去の負荷を良好に低減することができる。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、少なくともレニウム及びビスマスを含む廃酸からレニウムを回収する方法であって、廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、レニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させる吸着工程と、レニウム及びビスマスが吸着した前記樹脂に溶離液を通液してレニウム及びビスマスを該樹脂から溶離させる溶離工程と、溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収する分離・回収工程とを含む方法である。
【0011】
本発明は別の一側面において、前記吸着工程から溶離工程を疑似移動床式イオン交換装置で行う。
【0012】
本発明は別の一側面において、少なくともレニウム及びビスマスを含む廃酸からレニウムを回収するシステムであって、廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、レニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させる吸着手段と、レニウム及びビスマスが吸着した前記樹脂に溶離液を通液してレニウム及びビスマスを該樹脂から溶離させる溶離手段と、溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収する分離・回収手段とを備えたシステムである。
【0013】
本発明に係るシステムの一実施態様においては、前記吸着手段及び溶離手段が疑似移動床式イオン交換装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精製工程での不純物除去の負荷を良好に低減することができる廃酸からのレニウム回収方法及びシステムを提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る廃酸からのレニウム回収システムを用いたレニウム回収方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る廃酸からのレニウム回収方法及びシステムの実施形態を、図1を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る廃酸からのレニウム回収システムを用いたレニウム回収方法のフロー図である。
非鉄金属製錬工場において排出される廃酸は、重要なレニウム回収源である。このような廃酸中には、一般に、レニウム分:0.01〜0.50g/L、ビスマス分:0.01〜0.05g/L、砒素分:1〜5g/L、鉄分:0.01〜0.05g/L、銅分:0.1〜0.5g/Lが含まれている。なお、廃酸中のレニウムはレニウム酸(HReO4)の形態で存在している。
【0018】
本発明の実施形態に係るレニウム回収システムは、廃酸から水銀を除去する脱水銀手段を有している。脱水銀工程では、例えば、キレート樹脂や強塩基性陰イオン交換樹脂のような水銀に対する吸着力の強い樹脂に廃酸を通すことにより行われる。水銀が除去された後の廃酸は、脱水銀廃酸として続いて処理される。
【0019】
レニウム回収システムは、上記脱水銀廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、廃酸中のレニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させる吸着手段(例えば、イオン交換樹脂塔)を備えている。この吸着手段を用いた吸着工程では、陰イオン交換樹脂は、レニウム及びビスマスを選択的に吸着するものを用いる。陰イオン交換樹脂を通ってレニウム及びビスマスが除去された処理液は、吸着後液として回収される。砒素、鉄、銅については樹脂に吸着せず吸着後液に全量移行する。
【0020】
レニウム回収システムは、レニウム及びビスマスが吸着した陰イオン交換樹脂に溶離液(1)を通液してレニウム及びビスマスを陰イオン交換樹脂から溶離させる溶離手段を備えている。この溶離工程では、溶離液(1)によって陰イオン交換樹脂に吸着しているレニウム及びビスマスを溶離する。溶離液(1)は、レニウム及びビスマスを選択的に溶離させるものであれば特に限定されない。溶離液(1)としては、例えば、塩酸を使用することができるが、金属塩化物を含む塩酸溶液を用いるとより好ましい。このとき用いる金属塩化物としては、ZnCl2が好ましく、これを用いると溶離効率がより良好となる。溶離後液には、このとき溶離したレニウム及びビスマスが含まれている。
【0021】
上記の吸着工程から溶離工程は、通常の固定式陰イオン交換装置を用いて行っても良いが、疑似移動床式陰イオン交換装置を用いるのが好ましい。疑似移動床式陰イオン交換装置は、例えば、米国Calgon Carbon社のISEP(登録商標)等、周知のものを用いることができる。
【0022】
レニウム回収システムは、溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを、移動床溶液〔溶離液(2)〕を用いて分離・回収する分離・回収手段を備えている。この分離・回収工程では、疑似移動床式クロマトグラフィーによって溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスが吸着されると共に分離・回収される。その際にレニウム及びビスマスのイオン交換樹脂に対する親和性の差を利用し、分離・回収する。疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収されたレニウムはレニウム区分回収液中に回収される。また、疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収されたビスマスはビスマス区分回収液中に回収される。
【0023】
上記分離・回収工程に用いられる疑似移動床式クロマトグラフィーは、例えば、米国Calgon Carbon社のCSEP(登録商標)等、周知のものを用いることができる。ここで、陰イオン交換樹脂に吸着されたレニウム、ビスマスを溶離した後、擬似移動床式ではない、固定床式のクロマトグラフィーで分離・回収する処理を行い、レニウムとビスマスとを分離することは可能であるが、このような場合には、レニウムとビスマスとの良好な分離精度を得るため長い(大きな)樹脂カラムを設置することが必要となる。しかし、このように対応すると、装置が大型化し、処理時間が増加するという問題が生じる。そこで、本発明では、クロマトグラフィーの処理を複数の樹脂カラムが用意された擬似移動床式クロマトグラフィーを用いることで、理論段数を増やし、高い分離精度・効率で処理することで、大型の処理装置を用いることなく、クロマトグラフィーの分離・回収を可能としている。
【0024】
続いて、レニウム区分回収液のレニウムを硫化工程で硫化レニウムとした後、レニウム精製工程を行い、レニウムを精製する。一方、ビスマス区分回収液はシステム系外へ除去される。
【0025】
本発明では、上述のように、脱水銀廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、廃酸中のレニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させ、続いて陰イオン交換樹脂に溶離液(1)を通液してレニウム及びビスマスを陰イオン交換樹脂から溶離させて得られた溶離液から、疑似移動床式クロマトグラフィーによってレニウム及びビスマスを分離して回収している。このように、初めに陰イオン交換樹脂でレニウムを樹脂に吸着させ、続いて樹脂に吸着したレニウムを溶離させた後、疑似移動床式クロマトグラフィーによってレニウムを分離するという2段階の精製により、その後の精製工程で処理する溶離液中の不純物の濃度を良好に抑制することができる。これにより、精製工程での不純物除去の負荷を良好に低減することができる。
これに対し、2段階精製ではなく従来の陰イオン交換樹脂のみの精製では、目的成分(レニウム)と不純物成分(ビスマス)とが同時に溶離液中で濃縮されるため、不純物のみの分離が困難となる。また、従来のクロマトグラフィーのみの精製では、精製前の処理液中の目的成分(レニウム)の濃度が低く、クロマトグラフィーによる処理でさらに濃度が低下するため、精製工程での処理液量が増加するという問題がある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0027】
(実施例1)
実施例1として、上述の本発明に係るレニウム回収システムに従い、レニウム、ビスマス、及び、その他の不純物金属を含む廃酸(処理液ともいう)からのレニウムの回収を、疑似移動床式陰イオン交換装置、及び、疑似移動床式クロマトグラフィーを用いて、以下の条件で行った。
〔疑似移動床式イオン交換装置〕
・装置型式:ISEP(登録商標) L−100C型
・カラム数:30カラム(1インチCPVCカラム)
・カラム樹脂総充填量:12.2L
・樹脂:強塩基性イオン交換樹脂 (三菱化学社製PA408)
・樹脂塔回転速度:4.9Hr/回転
・廃酸通液量:96.6L/Hr、溶離液(1)通液量:8.8L/Hr
〔疑似移動床式クロマトグラフィー〕
・装置型式:ISEP(登録商標) L−130C型
・カラム数:30カラム(3インチPPカラム)
・カラム樹脂総充填量:137L
・樹脂:強塩基性イオン交換樹脂(三菱化学社製PA408)
・樹脂塔回転速度:6.4Hr/回転
・溶離後液通液量:6.3L/Hr、溶離液(2)通液量:19.9L/Hr、
Re区分通液量:6.7L/Hr、Bi区分通液量:19.5L/Hr
【0028】
(比較例1)
比較例1として、レニウム、ビスマス、及び、その他の不純物金属を含む廃酸(処理液ともいう)からのレニウムの回収を、固定床式陰イオン交換装置のみで、以下の条件で行った。
〔固定床式陰イオン交換装置〕
・カラムサイズ:Φ90×1000mm
・カラム樹脂量:5000mL
・樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学社製PA408)
・樹脂吸着通液量Bv(Bed volume:液量/樹脂体積):30
・空間速度Sv(Space volume:通液速度/樹脂体積):4Hr-1
【0029】
表1に実施例1に係る疑似移動床式イオン交換試験結果を示す。表2に実施例1に係る疑似移動床式クロマトグラフィー試験結果を示す。表3に比較例1に係る固定床式陰イオン交換試験結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1より、廃酸中のRe及びBiはAs、Fe、Cuと分離されていることがわかった。さらに、廃酸(吸着前)のRe/Bi濃度比は、2.9(122/42)であった。また、樹脂に廃酸を吸着し、溶離した溶離液のRe/Bi濃度比は、2.8(1167/419)であった。以上のようにイオン交換試験ではRe/Bi濃度比は変わらないことが確認された。
【0034】
表2より、溶離液を擬似移動床式クロマトグラフィーに通液した後のRe区分回収液では、Re/Bi濃度比が9.2(655/71)であり、溶離液と比較し大きくなっているため、後工程での負荷が軽減できることが確認された。また、ビスマスが濃縮したBi区分回収液(Re/Bi濃度比:1.2(148/119))は、系外除去することで、不純物であるビスマスの分離除去が可能となった。
【0035】
表3より、固定床式イオン交換装置でも擬似移動床式イオン交換装置と同様に廃酸と溶離液のRe/Bi濃度比はほぼ同じであるため(廃酸:4.2、溶離液:4.2)、後工程での負荷を低減することはできないことが確認された。
尚、実施例1では、擬似移動床式陰イオン交換装置を使用して、1段目の陰イオン交換樹脂による廃酸中のRe及びBiを他の金属イオンと分離したが、固定式の陰イオン交換装置を使用し、2段目のクロマトグラフィーの処理に擬似移動床式クロマトグラフィー装置を使用して実施してもReとBiの分離効果が得られることを確認している。
また、固定床式装置に対して、擬似移動床式の装置を用いることで、全体システムをコンパクトにでき、さらに樹脂の進行方向と各溶液の流れ方向とが逆向きに進む向流接触により溶離液中の目的金属の高濃度化や洗浄水・溶離液の使用量低減に効果があるので、さらに有効な処理方法となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともレニウム及びビスマスを含む廃酸からレニウムを回収する方法であって、
廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、レニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させる吸着工程と、
レニウム及びビスマスが吸着した前記樹脂に溶離液を通液してレニウム及びビスマスを該樹脂から溶離させる溶離工程と、
溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収する分離・回収工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記吸着工程から溶離工程を疑似移動床式イオン交換装置で行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくともレニウム及びビスマスを含む廃酸からレニウムを回収するシステムであって、
廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、レニウム及びビスマスを該樹脂に吸着させる吸着手段と、
レニウム及びビスマスが吸着した前記樹脂に溶離液を通液してレニウム及びビスマスを該樹脂から溶離させる溶離手段と、
溶離後液中に含まれるレニウム及びビスマスを疑似移動床式クロマトグラフィーで分離・回収する分離・回収手段と、
を備えたシステム。
【請求項4】
前記吸着手段及び溶離手段が疑似移動床式イオン交換装置である請求項3に記載のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149285(P2012−149285A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7166(P2011−7166)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】