説明

建物

【課題】高い位置に視点をおいている視覚効果に加えて、そこから見える複数の景色が織りなす独特の視覚効果をも楽しめるようにする。
【解決手段】多数階を備えた建物本体1の屋上に、庭園2と、展望部3とを設けてある建物であって、展望部3は、庭園2と同一階層に形成された第1展望部3Aと、庭園2の上方に離間する空中に形成された第2展望部3Bとで構成してあり、第1展望部3Aは、庭園2を観賞できる視線L1aと、建物本体1の外方の景色を観賞できる視線L1bとを確保可能に形成してあり、第2展望部3Bは、庭園2を観賞できる視線L2aと、建物本体1の外方の景色を観賞できる視線L2bと、建物本体1の外方の景色を庭園2の借景として観賞できる視線L2cとを確保可能に形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数階を備えた建物本体の屋上に、庭園と、展望部とを設けてある建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の建物としては、建物本体の最上階をトラス構造とガラス外壁とを組み合わせた吹抜構造とし、その内側に、展望部となる廊下を設けたもの(以後、単に第1従来例という)があった。この第1従来例は、前記廊下において、建物本体の外方の景色を観賞できる視線と、建物本体内の吹抜空間の下方を観賞できる視線とを確保できるように構成されている。また、庭園は、前記廊下を設けてある平面位置とは隔たった建物本体の屋上部分に設けられており、庭園と展望部とにおける景色の観賞は、それぞれ個別に行われるもので、無関係なものであった。
また、別の例としては、並設された2棟の高層建物の最上階にわたる状態に展望部となるフロア構造体を架設したもの(以後、単に第2従来例という)があった(例えば、特許文献1参照)。この第2従来例は、前記フロア構造体において、建物本体の外方の景色を観賞できる視線と、フロア構造体の直下(2棟の高層建物の一階部分につながる庭園)の景色を見下ろせる視線とを確保できるように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−161570号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した第1従来例の建物によれば、前記展望部となる廊下においては、建物本体の外方の景色の観賞と、吹抜空間の下方を見おろす景色の観賞とを、個別に楽しむことができる。しかし、それらの景色からは、いずれも、高い位置に視点をおいていることを実感できる視覚効果が得られるだけで、それを超える実感は特に得られない。
上述した第2従来例の建物によれば、前記展望部となるフロア構造体においては、建物本体の外方の景色の観賞と、フロア構造体の直下を見おろした景色(2棟の高層建物の一階部分につながる庭園)の観賞とを、個別に楽しむことができる。しかし、これも前記第1従来例の場合と同様に、高い位置に視点をおいていることを実感できる視覚効果が得られるだけで、それを超える実感は特に得られない。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、高い位置に視点をおいている視覚効果に加えて、そこから見える複数の景色が織りなす独特の視覚効果をも楽しむことができる建物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、多数階を備えた建物本体の屋上に、庭園と、展望部とを設けてある建物であって、
前記展望部は、前記庭園と同一階層に形成された第1展望部と、
前記庭園の上方に離間する空中に形成された第2展望部とで構成してあり、
前記第1展望部は、前記庭園を観賞できる視線と、
建物本体の外方の景色を観賞できる視線とを確保可能に形成してあり、
前記第2展望部は、前記庭園を観賞できる視線と、
建物本体の外方の景色を観賞できる視線と、
前記建物本体の外方の景色を前記庭園の借景として観賞できる視線とを確保可能に形成してあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、第1展望部からは、従来と同様に、建物本体の外方の景色を観賞できる一方、間近にある庭園に対しては、同じ広がりの中で観賞することができる。
第2展望部からは、前記第1展望部の場合と同様の景色を観賞できることに加えて、第2展望部そのものが庭園の上方に離間する空中に形成されていることによって、眼下に位置する庭園を見る視線と、建物本体の外方の景色を見る視線とが重なり、庭園の景色が、建物本体の外方の景色を背景として高い位置に浮いているかの如く観賞することができる。
また、その様な、現実離れした景色を観賞することによって、自らが居る場所そのものの浮游感をも感じることができ、あたかも、異次元空間に身を置いているかの視覚効果を楽しむことができる。
即ち、第2展望部を設けることによって、日本庭園等で庭園外の山や樹木などの風景を、庭を形成する背景として取り入れる所謂「借景」の考え方を、屋上庭園の観賞においても、より効果的に取り入れることができるようになった。
その結果、従来のように、ただ高い位置での眺望を観賞できるだけの視覚効果や、庭園の美しさのみを観賞できる視覚効果にとどまらず、それらの何れもが融合した独特の視覚効果をも楽しむことができるようになる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記第2展望部は、平面視において前記庭園を挟んで見通せる位置に配置してあるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、庭園を挟んだ夫々の第2展望部個所において、前記第1の特徴構成による作用効果を叶えることができることに加えて、一方の第2展望部個所からの視界に、他方の第2展望部個所や、そこで景色を観賞している他の人の姿が入り、第2展望部の浮游感をより実感することができる。
その結果、自らの居る場所そのものの浮游感を、よりリアルに感じることができる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記第2展望部は、平面視において前記庭園を囲繞する状態に形成してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、庭園を、全周にわたってどの位置からも観賞することができ、より変化に富んだ視覚効果を楽しむことができる。
更には、例えば、屋上面からの高さ寸法が第2展望部より高い高木を庭園に植栽するような場合、庭園を囲繞する第2展望部によって高木の側方を全周にわたって拘束することができる。その結果、高木が転倒したり、転倒によって屋上から転落するといったことを防止し易い。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記庭園から前記第2展望部にわたる高さ範囲に、視線を確保可能な状態に防風スクリーンを設けてあるところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、屋上における防風スクリーンを通した各視線を確保できながら、前記防風スクリーンによって庭園への風当たりを緩和することが可能となる。
従って、庭園に植栽する植物への風害を防止できると共に、庭園を観賞する環境を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜3は、本発明の建物の一実施形態である高層ビルBの屋上を示すものである。
高層ビルBは、多数階層を備えた建物本体1の屋上に、庭園2と、展望部3とを設けて構成してある。
【0016】
屋上には、前記庭園2や展望部3の他にも、エレベータやパイプスペースや階段室等を備えた塔屋部4、ステージと傾斜階段を備えたイベント部5が設けられている(図1、図2参照)。
【0017】
屋上での平面配置は、図2に示すように、一端側に塔屋部4、中央部分に前記イベント部5、残りのスペースが庭園2として構成されている。
また、前記展望部3は、前記庭園2と同一階層に形成された第1展望部3Aと、前記庭園2の上方に離間する空中に形成された第2展望部3Bとを備えて構成してある。
【0018】
前記第1展望部3Aは、庭園2を同じ目線で観賞できるように構成されており、具体的には、屋上の庭園2部全てが第1展望部3Aに該当する。
従って、この第1展望部3Aからは、図3に示すように、前記庭園2を観賞できる視線L1aと、建物本体1の外方の景色を観賞できる視線L1bとを確保できる。
前記第2展望部3Bは、庭園2を見下ろす状態で観賞できるように構成されており、具体的には、屋上の上方に離間して回廊状に形成してあり、建物平面のほぼ外周部に沿って、前記庭園2を囲繞する状態に形成してある。第2展望部3Bは、屋上に立設した複数の細い柱6で支持されている。
従って、この第2展望部3Bからは、前記庭園2を観賞できる視線L2aと、建物本体1の外方の景色を観賞できる視線L2bと、前記建物本体1の外方の景色を前記庭園2の借景として観賞できる視線L2cと、平面視において前記庭園2を挟んで見通せる位置に配置された第2展望部3Bの別の個所を見る視線L2dとを確保できる。
【0019】
前記庭園2は、例えば、芝生や木々が植栽されている。また、木々に関しては、その高さは大小各種用意されている。特に、高木に関しては、前記第2展望部3Bの床高さより高い木々も植えられている(図1、図2参照)。
また、屋上の外周部には、透明ガラスで形成された防風スクリーン7が全周にわたって設置されている。防風スクリーン7は、屋上の上面から、塔屋部4の上端までの高さ範囲にわたって設けられている。そして、第2展望部3Bの内周側にも、透明ガラスの内周壁8が設置されている。
防風スクリーン7を設けてあることで、高層ビルの上空で、風が強く吹く時であっても、庭園2やイベント部5への風当たりを和らげることができる。
また、内周壁8を設けてあることで、前記第2展望部3Bそのものを外気と遮断することができ、空調の効いた空間を形成することができる。
【0020】
本実施形態の建物によれば、通常の屋上からの視線L1b,L2b、及び、庭園を観賞する視線L1a,L2aを確保して景色を楽しめることに加えて、第2展望部3Bそのものが庭園2の上方に離間する空中に形成されていることによって、眼下に位置する庭園2を見る視線L2aと、建物本体1の外方の景色を見る視線L2bとが重なり、前述の視線L2cによって借景を実感することができる。その結果、庭園2の景色が、建物本体1の外方の景色を背景として高い位置に浮いているかの如く観賞することができる。
また、その様な、現実離れした景色を観賞することによって、自らが居る場所そのものの浮游感をも感じることができ、あたかも、異次元空間に身を置いているかの視覚効果を楽しむことができる。
即ち、所謂「借景」の考え方を、屋上庭園の観賞においても、より効果的に取り入れることができ、ただ高い位置での眺望を観賞できるだけの視覚効果や、庭園の美しさのみを観賞できる視覚効果にとどまらず、それらの何れもが融合した独特の視覚効果をも楽しむことができるようになる。
更には、平面視において庭園2を挟んで見通せる位置に配置された第2展望部3Bの別の個所を見る視線L2dを確保できることによって、一方の第2展望部個所からの視界に、他方の第2展望部個所や、そこで景色を観賞している他の人の姿が入り、第2展望部3Bの浮游感をより実感することができ、自らの居る場所そのものの浮游感を、よりリアルに感じることができる。
また、回廊状の第2展望部3Bを設けてあることで、庭園2を、全周にわたってどの位置からも観賞することができ、より変化に富んだ視覚効果を楽しむことができる。
更には、庭園に高木を植栽するような場合、庭園を囲繞する第2展望部によって高木の側方を全周にわたって拘束することができる。その結果、高木が転倒したり、屋上から転落するといったことを防止し易い。
また、前記防風スクリーン7によって、庭園2への風当たりを緩和することが可能となる。
従って、庭園2に植栽する植物への風害を防止できると共に、庭園2を観賞する環境を向上させることができる。
【実施例1】
【0021】
防風スクリーンを設けることによる防風効果を風洞実験によって求めた(図4(a)参照)。
測点は、図4(b)に示す11ポイントを設定し、それぞれにおける風荷重を求めた。
この結果から、本来であれば大きな風荷重が作用するところを、10〜65N/m3に抑制できていることがわかる。
注1)瞬間最大風速は、風洞実験により得られた風速比の16風向中の最大値を用い、また、瞬間最大風速と10分間平均風速の比(ガストファクター)を2.0と仮定し算出
注2)風荷重は、次式により算出
W=0.6V2×Cf×φ
W;風荷重(N/m3
V;瞬間最大風速(m/s)
Cf;風力係数(Cf=1.2と仮定)
φ;充実率(葉の投影面積/植栽の外郭面積、φ=0.7と仮定)
【0022】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0023】
〈1〉 前記建物Bは、その階層の数が限定されるものではなく、先の実施形態で説明した高層ビル以外にも、中層ビルや超高層ビルであってもよく、発明による作用効果を叶えることができる階層であればよい。それらを含めて建物という。
また、平面形状に関しても、同様に、先の実施形態のものに限らない。
〈2〉 前記庭園2は、先の実施形態で説明したように、屋上の一部に植栽を植えて構成してあるものに限るものではなく、例えば、屋上の全域に草木を植えてあるものや、草木に替えて石材を配置したものや、砂や石粒を使用した石庭等であってもよい。また、庭園の形状や配置も自由に設定することができる。
〈3〉 前記展望部3は、先の実施形態で説明した構成に限るものではなく、適宜変更が可能である。
前記第1展望部3Aについては、先の実施形態で説明したように庭園2の全域に設定してあるものに限らず、例えば、庭園2の一部、又は、庭園2以外の屋上部に設けてあってもよい。
前記第2展望部3Bについては、先の実施形態で説明したように、単独階層による構成に限るものではなく、例えば、複数階層を備えた構成を採用するものであってもよい。
また、平面形状に関しては、先の実施形態で説明したように、前記庭園2を囲繞する状態に形成してあるものに限らず、例えば、図5に示すように、平面形状が一文字形状に構成されたものであってもよい。この場合、屋上での第2展望部3Bの配置は、外周部に限らず、自由な位置に設定することができる。
また、第2展望部3Bは、一文字形状以外にも、例えば、図6に示すように、第2展望部の形状や配置を、平面視において前記庭園2を挟んで見通せるように構成してあってもよい。
〈4〉 前記防風スクリーン7は、先の実施形態で説明したように、屋上の全周にわたって設けてあるものに限らず、一部の辺に沿わせて設けてあったり、又は、屋上の周部より内側(平面中央側)に入った位置に設けてあってもよい。
また、設置高さに関しては、屋上の上面から、塔屋部4の上端までの高さ範囲にわたって設けられているものに限らず、例えば、前記庭園2から前記第2展望部3Bの下端部にわたる高さ範囲に、視線を確保可能な状態に設けてあってもよい。
因みに、防風スクリーン7における視線を確保自在な構成としては、先の実施形態で説明したように、平板透明ガラスのように、そのもの自体が透過性を備えている材料で構成することに限らない。例えば、透過性を備えてない素材を採用しても、それら素材を、隙間をあけて連設して防風スクリーン7を構成したり、透過性を備えてない素材に、多数の透過穴を設けて防風スクリーン7を構成して、前記隙間や透過穴を通した視線を確保できるようにすることも可能である。また、透過性素材と非透過性素材との組合せや、前記隙間と透過穴との組合せを取り入れて防風スクリーンを構成することができるのは勿論のことである。
また、確保する視線とは、防風スクリーン7の位置と、視点との関係によってさまざまである。その視線は、例えば、第1展望部3Aや第2展望部3Bにおける「庭園を観賞する視線」L1a,L2aであったり、「建物本体の外方の景色を観賞できる視線」L1b,L2bであったり、第2展望部における「建物本体の外方の景色を庭園の借景として観賞できる視線」L2cであってもよい。更には、建物の外方(隣接ビルや下方地上)から、当該建物本体の屋上を見る視線等も含むものであり、要するに、防風スクリーン7を通した視線を意味する。
【0024】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】建物の屋上を示す斜視図
【図2】建物の屋上を示す側面視断面図
【図3】図2中のIII−III破断線による断面図
【図4】風洞実験結果を示す説明図
【図5】別実施形態の第2展望部の配置図
【図6】別実施形態の第2展望部の配置図
【符号の説明】
【0026】
1 建物本体
2 庭園
3 展望部
3A 第1展望部
3B 第2展望部
7 防風スクリーン
L1a 庭園を観賞できる視線
L1b 建物本体の外方の景色を観賞できる視線
L2a 庭園を観賞できる視線
L2b 建物本体の外方の景色を観賞できる視線
L2c 建物本体の外方の景色を庭園の借景として観賞できる視線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数階を備えた建物本体の屋上に、庭園と、展望部とを設けてある建物であって、
前記展望部は、前記庭園と同一階層に形成された第1展望部と、
前記庭園の上方に離間する空中に形成された第2展望部とで構成してあり、
前記第1展望部は、前記庭園を観賞できる視線と、
建物本体の外方の景色を観賞できる視線とを確保可能に形成してあり、
前記第2展望部は、前記庭園を観賞できる視線と、
建物本体の外方の景色を観賞できる視線と、
前記建物本体の外方の景色を前記庭園の借景として観賞できる視線とを確保可能に形成してある建物。
【請求項2】
前記第2展望部は、平面視において前記庭園を挟んで見通せる位置に配置してある請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記第2展望部は、平面視において前記庭園を囲繞する状態に形成してある請求項1又は2に記載の建物。
【請求項4】
前記庭園から前記第2展望部にわたる高さ範囲に、視線を確保可能な状態に防風スクリーンを設けてある請求項1〜3の何れか一項に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−150823(P2010−150823A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330778(P2008−330778)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)