説明

建築物の外壁構造

【課題】既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与すると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消する。
【解決手段】建築物の外壁構造は、コンクリート躯体1に下地モルタル2を介して貼り付けられた複数のタイル3からなるタイル壁面4と、タイル壁面4を覆うようにして形成され、透明な補強材6が埋設された透明な樹脂塗膜5とを備える。樹脂塗膜5及びタイル3の目地部17を貫いて下地モルタル2に至る脱気筒21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁構造に関する。特に、本発明は、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題を同時に解消することができる建築物の外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁面のタイル施工部分が経時的に劣化し、コンクリート躯体と下地モルタル(「貼付けモルタル」を含む)との間、あるいは、下地モルタルとタイルとの間に浮きが発生することがしばしばあった。そして、最悪の場合には、建築物の外壁面からタイルが剥離・脱落し、人身事故に繋がる恐れがあった。一方、タイルは、その色調や色合いの美しさから、建築物の外壁面の表面仕上げ材として根強い人気がある。
【0003】
従来、このようなコンクリート躯体からの下地モルタルの浮きや貼付けモルタルからのタイルの浮きを補修するために、次のような工法が採られていた。すなわち、タイル施工面に樹脂注入用のパイプ状のピン(パイプアンカーピン)を打ち込み、当該ピンを介してエポキシ樹脂を注入することにより、コンクリート躯体と下地モルタルとの間隙、あるいは、下地モルタルとタイルとの間隙にエポキシ樹脂を充填する工法(注入工法)が採られていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、上記従来の工法では、注入されるエポキシ樹脂とコンクリート躯体、下地モルタル及びタイルとの材質の相違により、経時的にエポキシ樹脂の剥離現象が起こり、タイル等の浮きが再発するという問題があった。そして、上記のように補修をした後も、このように経年劣化が進むので、タイルが剥離・脱落する恐れは残ってしまう。
【0005】
ところで、最近、上記のようなタイルの剥離・脱落による人身事故を防止する観点から法令の改正が行われ、建築物の所有者は以下のような義務を負うこととなった。
【0006】
[義務の内容]
3年ごとに手の届く範囲を打診、その他を目視によって調査し、異常があれば、全面打診等によって調査し、それを特定行政庁に報告する。そして、状況により大規模な補修を行う。加えて、竣工・外壁改修等から10年を経過した最初の調査の際に、全面打診等によって調査し、それを特定行政庁に報告する。そして、状況により大規模な補修を行う。
【0007】
従って、上記従来の工法では、3年ごとの打診調査、補修、報告が義務づけられることとなり、長期的に見た場合に建築物のライフサイクルコストが大幅に増大してしまう。
【0008】
そこで、最近、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することのできる建築物の外壁構造として、タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜を備えたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−256792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記のような、タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜を備えたものにあっては、タイルの目地部の白化が問題となっていた。そして、この目地部の白化は、当初、建築物の屋上、ベランダ等のコンクリート下地面の防水処理の欠陥に起因するものと考えられていた。
【0011】
しかし、本発明者の調査の結果、建築物の屋上、ベランダ等のコンクリート下地面の防水処理には欠陥はなく、タイルの目地部の白化は何か他の現象に起因していると考えられるに至った。
【0012】
本発明者は、さらに調査・検討を重ね、タイルの目地部の白化が、結露現象による溜まり水(結露水)に起因している事をつきとめた。より具体的には、本発明者は、屋外と屋内との温度差(約15℃以上)によって、タイル壁面と下地モルタルとの境界付近に結露水が溜まり、この結露水が目地部に滲み込んで白化を引き起こす事をつきとめた。また、建築物は屋外と屋内で息をさせる(通気を良好なものにする)必要があるが、上記のような、タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜を備えた建築物は、この条件を満たさないものとなっていた。
【0013】
そこで、本発明者は、以上のようなタイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消すべく鋭意研究を重ね、本発明をするに至った。
【0014】
本発明は、従来技術における前記課題を解決するためになされたものであり、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消することができる建築物の外壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明に係る建築物の外壁構造の構成は、躯体に下地モルタルを介して貼り付けられた複数のタイルからなるタイル壁面と、前記タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜とを備えた建築物の外壁構造であって、前記樹脂塗膜及び前記タイルの目地部を貫いて前記下地モルタルに至る脱気筒が設けられたことを特徴とする。
【0016】
この建築物の外壁構造の構成によれば、タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜により、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することが可能となる。また、樹脂塗膜及びタイルの目地部を貫いて下地モルタルに至る脱気筒により、タイル壁面と下地モルタルとの境界付近に溜まった結露水を屋外に排出することができるので、結露水が目地部に滲み込んで目地部の白化を引き起こすことを防止することができる。また、この脱気筒を設けることにより、建築物の屋外と屋内の通気を良好なものにすることもできる。すなわち、本発明によれば、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消することができる建築物の外壁構造を提供することができる。
【0017】
前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記脱気筒が非腐食性の材料からなるのが好ましい。この好ましい例によれば、脱気筒が雨水等にさらされて錆びたりすることを防止することができる。また、この場合には、前記非腐食性の材料がステンレス鋼又はプラスチックであるのが好ましい。
【0018】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記脱気筒が略L字状に形成され、前記脱気筒の屋外側の端部が下方を向いているのが好ましい。この好ましい例によれば、脱気筒内に雨水等が入り込み、当該雨水等がタイルの目地部の白化を引き起こすことを防止することができる。
【0019】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記脱気筒が、前記樹脂塗膜、前記目地部及び前記下地モルタル内において屋内側から屋外側への下り勾配をもって設けられているのが好ましい。この好ましい例によれば、結露水の自重も手伝って結露水が脱気筒から排出され易くなる。
【0020】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記樹脂塗膜の屋外側の端面から前記下地モルタルの屋内側の端面にわたって、前記脱気筒を挿入するための孔が形成され、前記脱気筒が前記目地部と前記下地モルタルとの境界付近まで挿入されているのが好ましい。この好ましい例によれば、タイル壁面と下地モルタルとの境界付近に溜まった結露水を下地モルタルに形成された孔を介して脱気筒内に導入し、そのまま屋外に排出させることができる。また、この場合には、前記脱気筒が、少なくとも前記目地部の前記孔内で接着材により固着されているのが好ましい。この好ましい例によれば、脱気筒の抜け落ちを防止することができる。
【0021】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記樹脂塗膜の材料が、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリカーボネート系樹脂エマルション、ポリアミド系樹脂エマルション、ポリイミド系樹脂エマルション、ポリエーテルスルホン系樹脂エマルション、ポリスルホン系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、ポリノルボルネン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルション及びアセテート系樹脂エマルションから選ばれる少なくとも1つを主成分として含むのが好ましい。そして、中でも、比較的低温で硬化し、かつ、良好な耐候性、耐水性、耐酸性、高い平滑性、及び、高い硬度などの塗膜特性が容易に得られる点で、ポリエステル−ウレタン樹脂エマルションなどのポリエステル系樹脂エマルション、あるいは、アクリル−シリコン樹脂エマルション又はアクリル−ウレタン樹脂エマルションなどのアクリル系樹脂エマルションが好ましい。
【0022】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記補強材が、ネット状に形成されているのが好ましく、織布あるいは不織布を用いることができる。
【0023】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記補強材の材料が、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)及びポリエチレンから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0024】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記樹脂塗膜の材料に、第2の補強材として透明なフィラーが分散されているのが好ましい。この好ましい例によれば、樹脂塗膜の引っ張り強度をさらに向上させることができるので、タイルの剥離・脱落防止効果をより確実に達成することができる。また、この場合には、前記フィラーの材料が、ナイロン及び/又はガラスであるのが好ましい。
【0025】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記タイル壁面を覆うようにして形成された透明な防水プライマー層をさらに備え、前記樹脂塗膜が前記防水プライマー層の表面を覆うようにして形成されているのが好ましい。この好ましい例によれば、躯体からタイルの目地部を通って染み出してくる水分を遮断して、樹脂塗膜が白化するのを防止することができるので、タイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したままの状態にすることができる。また、この場合には、前記防水プライマー層の材料がアクリル系塗料であるのが好ましい。この場合にはさらに、前記アクリル系塗料が、アクリル−シリコン系塗料又はアクリル−ウレタン系塗料であるのが好ましい。
【0026】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、頭部が前記樹脂塗膜に固定されていると共に、前記タイル壁面を貫いて前記躯体に打ち込まれたアンカーピンをさらに備えているのが好ましい。この好ましい例によれば、補強材が埋設された樹脂塗膜(引っ張り強度の高い樹脂塗膜)と当該樹脂塗膜を躯体に強固に固定するアンカーピンとにより、建築物の外壁面にタイルのさらなる剥離・脱落防止効果を付与することが可能となる。そして、このような外壁構造とすることにより、タイル壁面としての3年ごとの打診調査、補修、報告が不要となり、長期的に見た場合に建築物のライフサイクルコストを大幅に低減することが可能となる。また、この場合には、前記アンカーピンの頭部が前記タイルと同色であるのが好ましい。この好ましい例によれば、アンカーピンを目立たなくして、タイル壁面の持つ色調や色合いの外観を損なうことがないようにすることができる。
【0027】
また、前記本発明の建築物の外壁構造の構成においては、前記樹脂塗膜の表面に透明性トップコートがさらに塗布されているのが好ましい。この好ましい例によれば、建築物の外壁面の耐久性及び耐候性を向上させることができると共に、汚染を防止することもできる。また、この場合には、前記トップコートの材料が、アクリル−シリコン系塗料又はフッ素系塗料であるのが好ましい。尚、このように、トップコートの材料として親水性の材質のものを使用すれば、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態における建築物の外壁構造を示す垂直断面図である。
【図2】図2は、一実施の形態における、下地モルタル等の浮きが発生している場合の補修方法を示す垂直断面図である。
【図3】図3は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法の一部を示す工程垂直断面図である。
【図4】図4は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法の他の一部を示す工程垂直断面図である。
【図5】図5は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法に用いるアンカーピンの打込み位置(アンカーピン用の孔の位置)及び脱気筒の差込み位置(脱気筒用の孔の位置)を示す概略正面図である。
【図7】図7は、一実施の形態における樹脂塗膜(樹脂+フィラー+ネット)の引っ張り強度を、フィラーのみを含む場合(樹脂+フィラー)、及び、フィラーもネットも含まない場合(樹脂のみ)と比較して示したグラフである。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態における建築物の外壁構造の他の例を示す垂直断面図である。
【図9】図9は、本発明の一実施の形態における建築物の外壁構造のさらに他の例を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
〈建築物の外壁構造〉
まず、本発明に係る建築物の外壁構造について、図1を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態における建築物の外壁構造を示す垂直断面図である。尚、図1において、左側が屋内側、右側が屋外側である。
【0033】
図1に示すように、コンクリート躯体1には、下地モルタル(「貼付けモルタル」を含む)2を介して複数のタイル3が縦横に貼り付けられており、これにより、タイル壁面4が形成されている。タイル壁面4には、当該タイル壁面4を覆うようにして透明な防水プライマー層(図示せず)が形成されている。この防水プライマー層は、コンクリート躯体1からタイル3の目地部17を通って染み出してくる水分を遮断するためのものである。また、防水プライマー層の表面には、当該防水プライマー層の表面を覆うようにして透明な樹脂塗膜5が形成されている。尚、樹脂塗膜5には透明な補強材6が埋設されており、これにより、引っ張り強度の高い樹脂塗膜5が実現されている。ここで、樹脂塗膜5は3層に分けて塗布されており、図1中、5aは第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料を示しており、5bは第3層目の樹脂塗膜材料を示している。
【0034】
コンクリート躯体1には、タイル壁面4を貫いて、ワッシャ8が取り付けられた状態のアンカーピン7が打ち込まれている。ここで、アンカーピン7の頭部及びワッシャ8は、樹脂塗膜5に固定されている。また、アンカーピン7としては、引抜き強度が高くなるように、下端部分(コンクリート躯体1に打ち込まれる部分)に雄ネジが切られた、ステンレス鋼(SUS304)製の、所謂『ハイタップアンカーピン』(日本パワーファスニング株式会社製)が用いられている。尚、図1においては、タイル3を貫いてアンカーピン7が打ち込まれているが、タイル3の目地部17を貫いてアンカーピン7を打ち込むようにしてもよい。
【0035】
以上の建築物の外壁構造の構成によれば、補強材6が埋設された樹脂塗膜5(引っ張り強度の高い樹脂塗膜)と当該樹脂塗膜5をコンクリート躯体1に強固に固定するアンカーピン7とにより、建築物の外壁面にタイル3の剥離・脱落防止効果を付与することが可能となる。また、防水プライマー層、補強材6及び樹脂塗膜5は全て透明であり、さらに、タイル壁面4と樹脂塗膜5との間に防水プライマー層を介在させることにより、コンクリート躯体1からタイル3の目地部17を通って染み出してくる水分を遮断して、樹脂塗膜5が白化するのを防止するようにしたので、タイル壁面4の持つ色調や色合いの外観を残したままの状態にすることができる。すなわち、以上の建築物の外壁構造の構成によれば、タイル壁面4の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイル3の剥離・脱落防止効果を付与することのできる建築物の外壁構造を提供することができる。そして、このような外壁構造とすることにより、タイル壁面としての3年ごとの打診調査、補修、報告が不要となり、長期的に見た場合に建築物のライフサイクルコストを大幅に低減することが可能となる。この場合、アンカーピン7の頭部及びワッシャ8をタイル3の色と同一の色に塗装しておけば、アンカーピン7の頭部及びワッシャ8を目立たなくして、タイル壁面4の持つ色調や色合いの外観を損なうことがないようにすることができる。
【0036】
また、本実施の形態の建築物の外壁構造においては、樹脂塗膜5及びタイル3の目地部17を貫いて下地モルタル2に至る脱気筒21が設けられている。
【0037】
そして、この脱気筒21により、タイル壁面4と下地モルタル2との境界付近に溜まった結露水を屋外に排出することができるので、結露水が目地部17に滲み込んで目地部17の白化を引き起こすことを防止することができる。また、この脱気筒21を設けることにより、建築物の屋外と屋内の通気を良好なものにすることもできる。
【0038】
すなわち、脱気筒21を含めた建築物の外壁構造の構成によれば、既設のタイル壁面4の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイル3の剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイル3の目地部17の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消することができる建築物の外壁構造を提供することができる。
【0039】
より具体的には、脱気筒21は、非腐食性の材料からなっている。脱気筒21の材料として非腐食性の材料を用いれば、脱気筒21が雨水等にさらされて錆びたりすることを防止することができる。ここでは、脱気筒21としてステンレス鋼(SUS304)製のものが用いられている。
【0040】
また、脱気筒21は略L字状に形成され、脱気筒21の屋外側の端部は下方を向いている。脱気筒21をこのような構成にすれば、脱気筒21内に雨水等が入り込み、当該雨水等がタイル3の目地部17の白化を引き起こすことを防止することができる。
【0041】
また、脱気筒21は、樹脂塗膜5、目地部17及び下地モルタル2内において屋内側から屋外側への下り勾配をもって設けられている。これにより、結露水の自重も手伝って結露水が脱気筒21から排出され易くなる。
【0042】
また、樹脂塗膜5の屋外側の端面から下地モルタル2の屋内側の端面にわたって、脱気筒21を挿入するための孔(脱気筒用の孔)18が形成され、脱気筒21が目地部17と下地モルタル2との境界付近まで挿入されている。これにより、タイル壁面4と下地モルタル2との境界付近に溜まった結露水を下地モルタル2に形成された孔18を介して脱気筒21内に導入し、そのまま屋外に排出させることができる。
【0043】
脱気筒21は、少なくとも目地部17の孔18内で接着材により固着されている。これにより、脱気筒21の抜け落ちを防止することができる。
【0044】
さらに、樹脂塗膜5の表面には透明性トップコート(図示せず)が塗布されている。このように樹脂塗膜5の表面にトップコートを塗布すれば、建築物の外壁面の耐久性及び耐候性を向上させることができると共に、汚染を防止することもできる。
【0045】
防水プライマー層の材料としては、アクリル系塗料等を用いることができる。中でも、アクリル−シリコン系塗料又はアクリル−ウレタン系塗料が、防水プライマー層の材料として好ましい。アクリル−シリコン系塗料としては、例えば、神東塗料株式会社製の『マイルドハイテンクリヤー』等を用いることができ、アクリル−ウレタン系塗料としては、例えば、セラスター塗料株式会社製の二液反応硬化形アクリルウレタン系塗材である『フォック・LC185クリア』等を用いることができる。尚、防水プライマー層の材料としては透光率の高いもの(透明であるもの)が好ましいが、透明にこだわらなければ、アクリル−ウレタン系塗料としてセラスター塗料株式会社製の二液反応硬化形アクリルウレタン系塗材である『フォック・LC185各色』等を使用することもできる。
【0046】
樹脂塗膜5の材料としては、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリカーボネート系樹脂エマルション、ポリアミド系樹脂エマルション、ポリイミド系樹脂エマルション、ポリエーテルスルホン系樹脂エマルション、ポリスルホン系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、ポリノルボルネン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルション及びアセテート系樹脂エマルション等を主成分として含むものを用いることができる。中でも、ポリエステル−ウレタン樹脂エマルションなどのポリエステル系樹脂エマルション、あるいは、アクリル−シリコン樹脂エマルション又はアクリル−ウレタン樹脂エマルションなどのアクリル系樹脂エマルションは、比較的低温で硬化し、かつ、良好な耐候性、耐水性、耐酸性、高い平滑性、及び、高い硬度などの塗膜特性が容易に得られる点で、樹脂塗膜5の材料として好ましい。特に、シリコン含有量7〜30%のアクリル−シリコン樹脂エマルション(アクリル組成=メタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸2エチルヘキシル(2EHA))が好ましく、旭化成ケミカルズ株式会社製の『水性無機用ラテックスH7600シリーズ』又は『ポリトロンE−2050』等を用いることができる。この場合のエマルションの透明造膜の温度を下げるための造膜助剤としては、協和発酵ケミカル株式会社製のブチルセロソルブ約10phr、チッソ株式会社製のテキサノール20phr等が使用される。以上のような組成の樹脂塗膜5の材料は、タイル面に対する接着性も良好である(タイル面に対する付着強さは、約0.82〜1.75N/mm2)。また、水系のエマルションであるため、臭気も殆ど無く、環境に優しい材料である。
【0047】
補強材6は、ネット状に形成されており、その材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、テフロン(登録商標)及びポリエチレン等を用いることができる。補強材6としては、特に、ポリビニルアルコール(PVA)の割布を用いてネット状に形成したもの(ケン化率98%)(以下単に『PVA割布ネット』という)(透光率約85%)、ポリエチレン製、ナイロン製又はポリプロピレン(PP)製のネット(目開き1〜15mm)が好ましい。PVA割布ネットは、格子目を構成した低伸度の構造体であり、樹脂塗膜5に対して縦方向、横方向の安定性と強度補強効果とを与える。PVA割布ネットとしては、例えば、ダイオ化成株式会社製のPVA系変性透明割布ネット・DT550を用いることができる。尚、補強材6としては透光率の高いもの(透明であるもの)が好ましいが、透明にこだわらなければ、補強材6の材料としてビニロン、カーボン等を使用することもできる。補強材6として、ネット状に形成したものを用いることにより、当該補強材6を樹脂塗膜5の材料中に十分絡めて、補強材6と樹脂塗膜5とを一体化することができる。
【0048】
トップコートの材料としては、神東塗料株式会社製のハイテントップ半艶クリヤー等のアクリル−シリコン系塗料やフッ素系塗料等を用いることができる。このように、トップコートの材料として親水性の材質のものを使用すれば、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0049】
また、樹脂塗膜5の材料に、第2の補強材として透明なフィラー(図示せず)を分散すれば、樹脂塗膜5の引っ張り強度をさらに向上させることができる。そして、これによれば、タイルの剥離・脱落防止効果をより確実に達成することが可能となる。
【0050】
透明なフィラーの材料としては、ナイロン6、ナイロン66等からなるナイロン繊維及び/又はガラス繊維等を用いることができる。繊維の太さは1〜3デニール、長さは3〜6mmであるのが好ましい。尚、フィラーとしては透光率の高いもの(透明であるもの)が好ましいが、透明にこだわらなければ、フィラーの材料としてビニロン繊維等を使用することもできる。
【0051】
防水プライマー層、補強材6が埋設された樹脂塗膜5、及び、トップコートの透光率は、それぞれ80%以上であるのが好ましく、さらには95%以上であるのが好ましい。ここで、透光率は、JIS Z 8722に準拠した方法で測定される。
【0052】
フィラーが分散され、かつ、補強材6が埋設された樹脂塗膜5の透光率は、80%以上であるのが好ましく、さらには95%以上であるのが好ましい。
【0053】
下地モルタル2とそれに貼り付けられたタイル3との合計厚みは約60mm、防水プライマー層の厚みは30〜100μm、樹脂塗膜5の塗布量は0.7〜1.9kg/m2、トップコートの塗布量は0.2〜0.3kg/m2である。
【0054】
アンカーピン7としてのハイタップアンカーピンは、下地モルタル2とそれに貼り付けられたタイル3との合計厚みが約60mmの場合、その大きさが直径6.0mm×長さ95mmであり、埋め込み深さ(コンクリート躯体1に打ち込まれる部分の長さ)は35mmである。
【0055】
〈建築物の外壁の施工方法〉
次に、上記した建築物の外壁構造の施工方法について、図2〜図6を参照しながら説明する。ここでは、既設タイル壁面の補修方法を例に挙げて説明する。
【0056】
図2は、一実施の形態における、下地モルタル等の浮きが発生している場合の補修方法を示す垂直断面図、図3は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法の一部を示す工程垂直断面図、図4は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法の他の一部を示す工程垂直断面図、図5は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法を示すフローチャート、図6は、一実施の形態における建築物の外壁構造の施工方法に用いるアンカーピンの打込み位置(アンカーピン用の孔の位置)及び脱気筒の差込み位置(脱気筒用の孔の位置)を示す概略正面図である。
【0057】
まず、事前調査として、タイル3の欠落、浮き部等の調査、付着力の測定などを行う(図5のステップ1)。
【0058】
次に、事前調査によってタイル3の欠落が発見された場合には、タイル欠落部の補修を行い、下地モルタル2等の浮きが発生していることが発見された場合には、エポキシ樹脂の注入を行う(図5のステップ2)。例えば、下地モルタル2の浮きが発生している場合には、図2に示すように、タイル壁面4を貫いて、電気ドリルでコンクリート躯体1にパイプアンカーピン用の孔を穿孔し、ワッシャ13が取り付けられた状態の樹脂注入用のパイプアンカーピン9(ステンレス鋼(SUS304)製)(吉野精機株式会社製)を前記孔に挿入する。そして、パイプアンカーピン9にエポキシ樹脂10を注入することにより、パイプアンカーピン9に設けられた吐出口11を介して、コンクリート躯体1と下地モルタル2との間隙14にエポキシ樹脂10を充填する。尚、パイプアンカーピン9の頭部及びワッシャ13は、タイル3の色と同一の色に塗装しておく。パイプアンカーピン9は、ロックピン15を打ち込んでコンクリート躯体1に固定する開脚型のピンである。パイプアンカーピン9は、その大きさが直径6.0mm×長さ40〜90mmであり、埋め込み深さ(コンクリート躯体1に打ち込まれる部分の長さ)は30mm以上である。尚、図2中、16はキャップを示している。
【0059】
次に、アンカーピンとしてハイタップアンカーピンを使用する場合について説明する。図3(a)に示すように、タイル3、下地モルタル2を貫いて、電気ドリルでコンクリート躯体1に直径5.5mmのアンカーピン用の孔12を穿孔し(図5のステップ3)、孔12に残っている削粉を清掃する。また、タイル3の目地部17を貫いて、電気ドリルで下地モルタル2に直径7.0mmの脱気筒用の孔18を穿孔し(図5のステップ3)、孔18に残っている削粉を清掃する。図6に示すように、アンカーピン用の孔12は1m2当たり4個穿孔され、隣接する孔12の間隔は縦、横共に500mmである。また、脱気筒用の孔18は4m2当たり1個穿孔され、隣接する孔18の間隔は縦、横共に2mである。
【0060】
次に、図3(b)に示すように、アンカーピン用の孔12と脱気筒用の孔18を、それぞれ発泡スチロール製の栓19、20で密閉した後、タイル壁面4を低圧洗浄して、タイル壁面4の汚れを除去する(図5のステップ4)。
【0061】
次に、タイル壁面4に、ローラを用いて、透明性プライマーとしての神東塗料株式会社製の『マイルドハイテンクリヤー』を塗布することにより、透明な防水プライマー層(厚み約50μm)(図示せず)(透光率約90%以上)を形成する(図5のステップ5)。ここで、透明性プライマーの塗布量は、約0.2kg/m2である。
【0062】
次に、図3(c)に示すように、防水プライマー層が乾燥した後に、当該防水プライマー層の表面に、コテやローラを用いて、透明な樹脂塗膜5(図1参照)を形成するための第1層目の樹脂塗膜材料(塗布量約0.5kg/m2)を塗布する(図5のステップ6)。第1層目の樹脂塗膜材料としては、第2の補強材として繊維の太さ1.7デニール、長さ約3mmのナイロン繊維が1〜5質量%の割合で均一に分散された旭化成ケミカルズ株式会社製の『ポリトロンE−2050』を用いる。次いで、第1層目の樹脂塗膜材料の上に、コテやローラを用いて、透明な樹脂塗膜5(図1参照)を形成するための第2層目の樹脂塗膜材料(塗布量約0.5kg/m2)を塗布する(図5のステップ7)。第2層目の樹脂塗膜材料は、第1層目の樹脂塗膜材料と同じものである。尚、図3(c)においては、第1層目の樹脂塗膜材料と第2層目の樹脂塗膜材料を、1つの参照符号5aによって示している。
【0063】
次に、図3(d)に示すように、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aを塗布した後、直ちに、当該第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aの上に、ダイオ化成株式会社製のPVA系変性透明割布ネット・DT550からなる複数枚の補強材6(各補強材6の大きさ1.05m×1.05m)を、50mmずつ重ねた状態で縦横に貼り付け(図6参照)、金ゴテでしごいて、当該補強材6を第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aに埋め込む(図5のステップ8)。
【0064】
次に、図3(d)、図4(e)に示すように、アンカーピン用の孔12から発泡スチロール製の栓19を抜き取り、当該アンカーピン用の孔12に、ワッシャ8が取り付けられた状態のアンカーピン7(ハイタップアンカーピン)をインパクトドリルで打ち込み(捩じ込み)(図5のステップ9)、ワッシャ8で補強材6を押え付ける。すなわち、補強材6、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5a及びタイル壁面4を貫いてコンクリート躯体1にアンカーピン7を打ち込む。アンカーピン7の頭部及びワッシャ8は、タイル3の色と同一の色に塗装しておく。
【0065】
次に、コンクリート躯体1に打ち込んだアンカーピン7の頭部、ワッシャ8及びその周辺に透明な樹脂塗膜5(図1参照)の材料(第2の補強材として繊維の太さ1.7デニール、長さ約3mmのナイロン繊維が1〜5質量%の割合で均一に分散された旭化成ケミカルズ株式会社製の『ポリトロンE−2050』)を用いて下塗りする(図5のステップ10)。このように下塗りするのは、アンカーピン7の頭部、ワッシャ8及びその周辺にも透明な樹脂塗膜5の材料を十分に行き渡らせるためである。
【0066】
次に、図4(f)に示すように、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aの上に、コテやローラを用いて、透明な樹脂塗膜5を形成するための第3層目の樹脂塗膜材料5b(塗布量約0.5kg/m2)を塗布する(図5のステップ11)。第3層目の樹脂塗膜材料5bは、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aと同じものである。以上により、第2の補強材(フィラー)として繊維の太さ1.7デニール、長さ約3mmのナイロン繊維が1〜5質量%の割合で均一に分散され、かつ、PVA系変性透明割布ネット・DT550が埋設された、旭化成ケミカルズ株式会社製の『ポリトロンE−2050』からなる塗布量約1.3kg/m2の樹脂塗膜5が得られる。このようにして得られた樹脂塗膜5の透光率は約80%である。そして、アンカーピン7の頭部及びワッシャ8は、樹脂塗膜5中に固定された状態となる。
【0067】
以上の施工方法によれば、上述した建築物の外壁構造を容易に実現することができる。すなわち、タイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することのできる建築物の外壁の施工方法を提供することが可能となる。
【0068】
次に、図4(f)、(g)に示すように、脱気筒用の孔18から発泡スチロール製の栓20を抜き取り、当該脱気筒用の孔18に脱気筒21を差し込んで取り付ける(図5のステップ12)。ここで、目地部17の孔18内には接着材(図示せず)が塗布されており、これにより、脱気筒21が目地部17の孔18内で固着される。
【0069】
最後に、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料5aと第3層目の樹脂塗膜材料5bが乾燥した後、樹脂塗膜5の表面に、ローラ又はエアーレススプレーを用いて、透明なアクリル−シリコン系塗料からなる超耐候性トップコートを2回に分けて塗布する(塗布量0.1kg/m2×2)(図5のステップ13)。アクリル−シリコン系塗料としては、神東塗料株式会社製のハイテントップ半艶クリヤーを用いた。このように、樹脂塗膜5の表面を超耐候性トップコート仕上げによって被覆したことにより、建築物の外壁面の耐久性及び耐候性を向上させることができると共に、汚染を防止することもできる。尚、トップコートとしてアクリル−シリコン系塗料を用いているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、透明な樹脂であればよい。例えば、トップコートとしてフッ素系塗料を用いることもできる。このように、トップコートとして親水性の材質のものを使用すれば、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0070】
図7に、上記のようにして得られた樹脂塗膜5(樹脂+フィラー+ネット)の引っ張り強度を、フィラーのみを含む場合(樹脂+フィラー)、及び、フィラーもネットも含まない場合(樹脂のみ)と比較して示す。引っ張り強度は、インストロン社製の"インストロン万能材料試験機"を用いて測定した。図7に示すように、樹脂+フィラー+ネットからなる樹脂塗膜は、樹脂のみからなる樹脂塗膜の場合に比較して(樹脂+フィラーからなる樹脂塗膜の場合と比較しても)引っ張り強度がかなり向上していることが分かる。
【0071】
また、本工法における、タイルの剥離・脱落を防止するために設けられた樹脂塗膜5(樹脂+フィラー+ネット)及びハイタップアンカーピンが、建築物の外壁全体を支持する強度について計算すると、以下のようになる。
【0072】
まず、下地モルタル2とそれに貼り付けられたタイル3との合計厚みが60mm(ここでは、比重2.2とする)、樹脂塗膜5(樹脂+フィラー+ネット)の塗布量が約1.3kg/m2(比重1.0)の場合、壁面全体の自重は133kg/m2=1.30kN/m2となる。
【0073】
一方、ハイタップアンカーピン(直径6.0mm、埋め込み深さ35mm、コンクリート躯体1のコンクリート圧縮強度24.0N/mm2)の引抜き強度は8.7kN/本であり、安全性を考慮して「各種合成構造設計指針、メカニカルアンカーボルトの設計」の低減係数0.6を乗じると、ハイタップアンカーピンの耐力は5.22kN/本となる。そして、1m2当たり4本のハイタップアンカーピンが使用されるので、ハイタップアンカーピンの1m2当たりの引抜き強度は5.22kN/本×(4本/m2)=20.88kN/m2となる。
【0074】
従って、本工法によれば、タイルの剥離・脱落を確実に防止することができる。また、(樹脂+フィラー+ネット)の引っ張り強度は最大450N/45mm幅であり(図6参照)、1m幅当たり10000N(1020kgf/1m幅)の強度があり、タイルの脱落の予防保全効果がある。
【0075】
尚、本実施の形態においては、既設タイル壁面を補修する場合を例に挙げて説明したが、本発明は、タイル壁面を備えた建築物を新しく造る場合にも有用である。
【0076】
〈トップコート〉
以下に、トップコートのより具体的な例を挙げ、その塗布方法についても説明する。
【0077】
樹脂塗膜5の表面に、まず、艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−シリコン(珪素)重合体を含む下塗りコーティング剤を塗布して、下塗りコーティング層を形成する。この下塗りコーティング剤を塗布すると、下塗りコーティング剤の一部は樹脂塗膜5に浸入するが、浸入しても下塗りコーティング剤の塗料組成及び塗膜組成の均一性は保たれ、耐久性の高いコーティング層となる。加えて、下塗りコーティング層は樹脂塗膜5とシロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高いコーティング層となる。
【0078】
下塗りコーティング剤が艶消し剤を含むと、下塗りコーティング剤の一部が樹脂塗膜5に浸入する際に、艶消し剤は下塗りコーティング層に残されてしまい、艶消し剤の濃度が高い部分が生じるために、長期間経過したときに剥離し易くなる。
【0079】
次に、下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含む上塗りコーティング剤を塗布して、上塗りコーティング層を形成する。この場合、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。その結果、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高い建築物の外壁面が得られる。すなわち、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性の高い非汚染仕上げ面が得られる。
【0080】
下塗りコーティング層の上に、上塗りコーティング層よりも相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含む中塗りコーティング剤を塗布して、中塗りコーティング層をさらに形成するのも好ましい。この場合、下塗りコーティング層と中塗りコーティング層、及び、中塗りコーティング層と上塗りコーティング層とが、シロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。その結果、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高い建築物の外壁面が得られる。すなわち、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性の高い非汚染仕上げ面が得られる。
【0081】
以下においては、下塗りコーティング層を「クリヤー」、中塗りコーティング層を「半艶」、上塗りコーティング層を「艶消し」という場合がある。クリヤーはコーティング剤に艶消し剤を含まず、半艶はコーティング剤100重量部に0を越え6重量部以下の艶消し剤を含み、艶消しはコーティング剤100重量部に6重量部を越え10重量部以下の艶消し剤を含むのが好ましい。
【0082】
コーティング剤に含まれるシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体は、好適には、下記(化1)で示されるモノマーを必須成分として重合して得られる、アルコキシシリル基含有のビニル重合体である。
【0083】
【化1】

上記(化1)において、R1は水素原子、メチル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R3は炭素数1〜3のアルキル基、aは0〜2の整数、mは1〜10の整数を示す。
【0084】
一例として、下記のモノマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)CH2=CHCOO(CH23Si(OCH33
(2)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OCH33
(3)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OCH32
(4)CH2=CHCOO(CH23Si(OC253
(5)CH2=CHCOO(CH23Si(CH3)(OC252
(6)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OC253
(7)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OC252
前記モノマーは1種でもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0085】
また、前記モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、あるいは他のビニルモノマー及びアミド系モノマーを用いることができる。具体的な化合物としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系モノマーを挙げることができる。これらは1種でもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0086】
これらのモノマーをラジカル重合させると、ビニル基が壊裂して重合し、これが主鎖を形成し、好適なアルコキシシリル基含有のビニル重合体を得ることができる。この重合体の好ましい数平均分子量は3000〜100000である。
【0087】
好適なビニル重合体は側鎖にアルコキシシリル基を有するため、触媒によって常温(室温)でも反応が進む。すなわち、脱アルコール反応により、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−、Siは4価であるが2価を省略。以下も同様。)が形成される。あるいは、アルコキシシリル基が加水分解され、シラノール基(−SiOH基)となり、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−)が形成される。このシロキサン結合によって架橋構造となる。このことから、「シロキサン架橋型」という。また、このようにして形成された塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0088】
中塗り及び/又は上塗りコーティング剤に含まれる艶消し剤は、平均粒子径が1〜20μmの範囲の無機粉体であるのが好ましい。前記平均粒子径は、市販の粒度分布計によって測定することができる。例えば、堀場製作所製のレーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所製のレーザ回折粒度測定器(SALD2100)などを用いて測定することができる。艶消し剤は、例えば、シリカ、タルク、クレイ、アルミナなどの無機粉体から選択することができる。
【0089】
本発明方法においては、下塗りコーティング剤を塗布して硬化させ(下塗りコーティング層の形成)、その上に上塗りコーティング剤を塗装して硬化させる(上塗りコーティング層の形成)。好ましくは、下塗りコーティング層と上塗りコーティング層との間に中塗りコーティング剤を塗布して硬化させる(中塗りコーティング層の形成)。前記下塗り、中塗り、上塗りの各コーティング剤には、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体と共に、触媒、溶剤、その他の添加剤を加えることもできる。触媒としては、酸、塩基、有機金属を使用することができる。中でも有機錫が好ましく、有機錫としては、ジオクチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジオクチル錫オキサイド又はジブチル錫オキサイドとシリケ−トとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジステアレ−ト、ジブチル錫ジアセチルアセトナ−ト、ジブチル錫ビス(エチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(ブチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(オレイルマレ−ト)、スタナスオクトエ−ト、ステアリン酸錫、ジ−n−ブチル錫ラルレ−トオキサイド等が挙げられる。また、分子内にS原子を有する錫化合物としては、ジブチル錫ビスイソノニル−3―メルカプトプロピオネ−ト、ジオクチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、オクチルブチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト等が挙げられる。触媒は単独でもよく、また、2種類以上併用してもよい。有機錫を使用する場合、触媒の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体成分100重量部に対して0.01重量部以上1重量部以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上0.2重量部以下である。
【0090】
溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類等が挙げられる。これらの溶剤のうち特に好ましい溶剤は、安全性の観点から、キシレンである。溶剤の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体成分100重量部に対して50重量部以上200重量部以下、好ましくは70重量部以上150重量部以下、さらに好ましくは80重量部以上120重量部以下である。
【0091】
添加剤としては、シリコーンオイル等の消泡剤、ヒンダードフェノール等の紫外線吸収剤、光安定剤、アマイドワックス等のタレ防止剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0092】
本工法においては、さらに耐久性を上げるために、中塗りコーティング剤を2回塗りするのが好ましい。
【0093】
以下、具体例を用いて、トップコートについてさらに詳細に説明する。
【0094】
(各特性の測定試験方法)
(1)サンシャインウェザーメーターによる促進試験
試験機:スガ試験機社製、型番“WE−SUN−HC−DC”
光源:1灯式・セリウム入り有芯カーボンを上下各4本組み合わせ
光線波長:280〜400nm
放射照度:フィルター付き255±45W/m2、フィルターなし285±50W/m2
光フィルター:耐熱性光学ガラス板使用・8枚1組、255nm以下の短波長成分をカット、355nmまでの成分を10〜50%透過
放出電力:50V、60A(3000W)
雰囲気温度:63±3℃
シャワー:120分中18分間降雨先降り運転
スプレー水量:2100±100ml/min(pH6.0〜8.0、水温16±5℃)試料枚数:70×150mm、76枚
運転サイクル:60Hr
(2)光沢
試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0095】
A:落ち着いた光沢
B:やや艶が目立つ
(3)ひび割れ有無
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0096】
A:ひび割れなし
B:僅かにひび割れあり、補修必要
C:大きなひび割れあり、補修必要
(4)変色
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0097】
A:変色なし
B:変色あるが実用的に問題ない程度で目立たない、補修不要
C:やや目立つ変色、補修必要
D:明らかに変色しており、補修必要
(参考例1)
図1に示す建築物の外壁構造の樹脂塗膜5の表面に、コーティング剤用のスプレーノズルを用いて、下塗りコーティング剤と上塗りコーティング剤を順番に塗布した。
(1)下塗りコーティング剤(クリヤー)
ハマトップFCクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 43重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 45重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFCクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 1重量部(有機錫は0.1重量部)
溶剤(キシレン) 6重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
(2)上塗りコーティング剤(艶消し)
ハマトップFC艶消しクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 40重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 41重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)7重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC艶消しクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、8000時間後(40年に相当)でもひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0098】
(参考例2)
参考例1において、下塗りコーティング剤を1回塗りして硬化させ、その上に中塗りコーティング剤を2回塗りした以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
(3)中塗りコーティング剤(半艶)
ハマトップFC半艶クリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 41重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 42重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)5重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC半艶クリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)2回塗り
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0099】
(参考例3)
参考例1において、下塗りコーティング剤を1回塗りして硬化させ、その上に中塗りコーティング剤を1回塗りした以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
【0100】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0101】
(参考例4)
参考例1において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
【0102】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0103】
(参考例5)
参考例2において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は、参考例2と同様にスプレー塗装した。
【0104】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0105】
(参考例6)
参考例2において、下塗り及び中塗りコーティング剤を塗布せず、上塗りコーティング剤を2回塗りした以外は、参考例2と同様にスプレー塗装した。
【0106】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、2000時間(10年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、やや艶が目立つものであった。
【0107】
以上の結果を下記(表1)にまとめて示す。
【0108】
【表1】

上記(表1)から明らかな通り、参考例1〜3においては、下塗りコーティング剤として艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含むものを塗布したため、耐久性が高くなっている。また、最外層に半艶ないしは艶消し層を形成したため、落ち着いた光沢を有していた。
【0109】
また、参考例4〜6においては、吹き付け層の上に直接半艶ないしは艶消し層を形成したため、耐久性は多少低く、光沢も強すぎるという傾向があった。
【0110】
尚、上記実施の形態においては、脱気筒21が、樹脂塗膜5、目地部17及び下地モルタル2内において屋内側から屋外側への下り勾配をもって設けられている場合を例に挙げて説明したが、必ずしもかかる構成に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、脱気筒21は、樹脂塗膜5、目地部17及び下地モルタル2内において水平状態で設けられていてもよい。
【0111】
また、上記実施の形態においては、脱気筒21としてステンレス鋼製のものを用いているが、必ずしもステンレス鋼製のものに限定されるものではない。但し、脱気筒21は非腐食性の材料からなるのが好ましく、非腐食性の材料としては他にプラスチック等が考えられる。
【0112】
また、上記実施の形態においては、アンカーピン7として所謂『ハイタップアンカーピン』を用いる場合を例に挙げて説明したが、アンカーピン7は必ずしもハイタップアンカーピンに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、アンカーピン7として下端部分(コンクリート躯体1に打ち込まれる部分)が湾曲した所謂『コブラアンカーピン』を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、既設のタイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することができると共に、タイルの目地部の白化の問題と通気性の問題とを同時に解消することができる建築物の外壁構造を提供することができるので、建築物の外壁面の仕上げに対して有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 コンクリート躯体
2 下地モルタル(貼付けモルタルを含む)
3 タイル
4 タイル壁面
5 樹脂塗膜
5a 第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料
5b 第3層目の樹脂塗膜材料
6 補強材
7 アンカーピン
8、13 ワッシャ
9 パイプアンカーピン
10 エポキシ樹脂
11 吐出口
12 アンカーピン用の孔
17 目地部
18 脱気筒用の孔
21 脱気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体に下地モルタルを介して貼り付けられた複数のタイルからなるタイル壁面と、
前記タイル壁面を覆うようにして形成され、透明な補強材が埋設された透明な樹脂塗膜とを備えた建築物の外壁構造であって、
前記樹脂塗膜及び前記タイルの目地部を貫いて前記下地モルタルに至る脱気筒が設けられたことを特徴とする建築物の外壁構造。
【請求項2】
前記脱気筒が非腐食性の材料からなる、請求項1に記載の建築物の外壁構造。
【請求項3】
前記非腐食性の材料がステンレス鋼又はプラスチックである、請求項2に記載の建築物の外壁構造。
【請求項4】
前記脱気筒が略L字状に形成され、前記脱気筒の屋外側の端部が下方を向いている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項5】
前記脱気筒が、前記樹脂塗膜、前記目地部及び前記下地モルタル内において屋内側から屋外側への下り勾配をもって設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項6】
前記樹脂塗膜の屋外側の端面から前記下地モルタルの屋内側の端面にわたって、前記脱気筒を挿入するための孔が形成され、前記脱気筒が前記目地部と前記下地モルタルとの境界付近まで挿入されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項7】
前記脱気筒が、少なくとも前記目地部の前記孔内で接着材により固着されている、請求項6に記載の建築物の外壁構造。
【請求項8】
前記樹脂塗膜の材料が、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリカーボネート系樹脂エマルション、ポリアミド系樹脂エマルション、ポリイミド系樹脂エマルション、ポリエーテルスルホン系樹脂エマルション、ポリスルホン系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、ポリノルボルネン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルション及びアセテート系樹脂エマルションから選ばれる少なくとも1つを主成分として含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項9】
前記アクリル系樹脂エマルションが、アクリル−シリコン樹脂エマルション又はアクリル−ウレタン樹脂エマルションである、請求項8に記載の建築物の外壁構造。
【請求項10】
前記補強材が、ネット状に形成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項11】
前記補強材の材料が、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)及びポリエチレンから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項12】
前記樹脂塗膜の材料に、第2の補強材として透明なフィラーが分散されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項13】
前記フィラーの材料が、ナイロン及び/又はガラスである、請求項12に記載の建築物の外壁構造。
【請求項14】
前記タイル壁面を覆うようにして形成された透明な防水プライマー層をさらに備え、前記樹脂塗膜が前記防水プライマー層の表面を覆うようにして形成されている、請求項1〜13のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項15】
前記防水プライマー層の材料が、アクリル−シリコン系塗料又はアクリル−ウレタン系塗料である、請求項14に記載の建築物の外壁構造。
【請求項16】
頭部が前記樹脂塗膜に固定されていると共に、前記タイル壁面を貫いて前記躯体に打ち込まれたアンカーピンをさらに備えた、請求項1〜15のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項17】
前記樹脂塗膜の表面に透明性トップコートがさらに塗布されている、請求項1〜16のいずれか1項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項18】
前記トップコートの材料が、アクリル−シリコン系塗料又はフッ素系塗料である、請求項17に記載の建築物の外壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−40507(P2013−40507A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178311(P2011−178311)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(310007553)株式会社ハマキャスト (7)