説明

建築物の屋根などの傾斜面の緑化構造および緑化方法

【課題】建物の屋根や、人工地盤などの傾斜面を緑化する場合、植栽部と傾斜面との間に雨水などが流れ込むことにより植栽部に滑り面が生じることを防止し、また、地震などの振動によっても基盤部が滑り落ちることを防止でき、設置のための施工性もよい緑化構造および緑化方法を得る。
【解決手段】建築物の屋根などの傾斜面1に形成する緑化構造において、傾斜面1に一方を固定し傾斜にそって下垂させたチェーンなどの支持材6と、この支持材6で傾斜面1に保持される排水マット4および透水シート5からなる基盤部2と、前記透水シート5に敷設される植栽部12とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根などの傾斜面を緑化する緑化構造および緑化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の緑化を図るために、建物の屋根などの傾斜面に緑化基盤を設置しているが、雨水や地震に対しても土壌を安定して設置しておけるよう、対策を講じる必要がある。
【0003】
その方法の第1として、屋根の表面に建物躯体のコンクリートと一体となった土壌流出防止のための突起物を設ける方法、第2の方法として、ステンレス製のパンチング枠を屋根の上に設置し、この枠内に土壌を充填する方法、第3の方法として、ハニカムフレームなどの法枠材を屋根の上に設置し、この中に耐根シート、排水マット、透水シート、土壌を充填する方法などがある。
【0004】
さらに、係止部材を有する遮水シートを屋根の上に設置し、この遮水シートの上に厚層部材を吹付けて前記係止部材に絡ませ定着性のよい植生基盤を形成する方法もある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−243781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記第1の方法は、屋根面に突起物を直接設置するものであり、そのための施工手間を要し、屋根面に形成する防水層はこの突起物を包み込むように施工しなければならないため、コストアップとなるだけでなく、突起物の存在により屋根面の排水がスムーズに行われにくくなるおそれがある。
【0006】
第2の方法は、土壌は、屋根面に形成されたアスファルト防水層の上に直接置いてあるだけとなるから、雨水が土壌の底面とアスファルト防水層の間に流れ込むことで摩擦力が低下し、滑り面が生じて土壌を屋根面に安定状態で設置することが困難である。
【0007】
第3の方法は、耐根シート、排水マット、透水シート、土壌を屋根面に直接老いてるだけで固定されていないから、地震時などに土壌基盤が滑り落ちるおそれがあり、十分な安定性が確保できない。
【0008】
特開平11−243781号公報に記載の発明は、遮水シートに係止部材を設けるためには、別途用意した係止部材を遮水シートの上に接着または植設する必要があり、手間を要し、また、遮水シートの設置も接着剤などにより屋根板に固定するものであるから、施工性がよくないだけでなく、接着力の低下により安定性を欠くおそれもある。
【0009】
本発明は前記従来例の不都合を解消するものとして、建物の屋根や、人工地盤などの傾斜面を緑化する場合、土壌と傾斜面との間に雨水などが流れ込むことにより土壌に滑り面が生じることを防止し、また、地震などの振動によっても緑化基盤が滑り落ちることを防止でき、設置のための施工性もよい緑化構造および緑化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、建築物の屋根などの傾斜面に形成する緑化構造において、傾斜面に一方を固定し傾斜にそって下垂させたチェーンなどの支持材と、この支持材で傾斜面に保持される排水層および透水層からなる基盤部と、前記透水層に敷設される植栽部とで構成することを要旨とするものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記支持材、基盤部または傾斜面に植栽部の滑り防止部材を設けることを要旨とするものである。
【0012】
請求項3記載の発明は、建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、前記傾斜面の最上部にチェーンなどの支持材の一方を固定し、前記傾斜面の上に排水層および透水層からなる基盤部を設置し、傾斜にそって下垂させた前記支持材の他方を前記基盤部に固定し、前記透水層の上に植栽部を敷設することを要旨とするものである。
【0013】
請求項4記載の発明は、建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、排水層および透水層からなる基盤部を前記傾斜面の上に設置し、一方が基盤部に固定されるチェーンなどの支持材の他方を傾斜面に固定して前記基盤部を保持し、前記透水層の上に植栽部を敷設することを要旨とするものである。
【0014】
請求項5記載の発明は,建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、排水層および透水層からなる基盤部を前記傾斜面の上に設置し、前記透水層の上に植栽部を敷設し、一方が基盤部に固定されるチェーンなどの支持材の他方を傾斜面に固定して前記基盤部を保持することを特徴とする緑化方法。
【0015】
請求項1、請求項3、請求項4、請求項5記載の本発明によれば、基盤部を屋根などの傾斜面に一方を固定したチェーンなどの支持材で吊下げて固定するから、地震などの振動で緑化基盤材料が滑り落ちることがない。
【0016】
また、傾斜面と植栽部との間に排水層を形成したから、植栽部と屋根面との間に流入した雨水や散水を処理でき、雨水などによって摩擦力が低下し滑り面が生じることを防止でき、基盤部を安定状態で傾斜面に設置できる。
【0017】
さらに排水層は前記のようにチェーンなどの支持材で傾斜面に吊下げられるから、傾斜面に形成したアスファルト舗装や遮水シートなどの防水層を損傷するおそれもない。
【0018】
請求項2記載の本発明によれば、支持材、基盤部または傾斜面に植栽部の滑り防止部材を設けることにより、粒状であって支持材に直接固定できない植栽部の土壌などに対しても、滑り落ちることを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように本発明の緑化構造および緑化方法は、建物の屋根や、人工地盤などの傾斜面を緑化する場合、植栽部と傾斜面との間に排水層を設けたから、植栽部と傾斜面との間に雨水などが流れ込むことにより植栽部に滑り面が生じることを防止し、また、基盤部を支持材で吊下げて傾斜面に固定することで、地震などの振動によっても基盤部が滑り落ちることを防止できて、安定した状態に基盤部を設置でき、さらに、基盤部を支持材で吊下げるだけでよいから設置のための施工性もよいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の緑化構造および緑化方法の実施形態を示す一部切欠いた斜視図で、建築物の屋根などの傾斜面1を緑化する場合を例にとって説明する。この屋根などの傾斜面1には図示は省略するが上面に防水層が形成されている。
【0021】
図中2は、傾斜面1の上に設置される基盤部を示し、排水層としての排水マット4と、透水層としての透水シート5とで構成されている。基盤部2は防根層としての防根シート3を介して傾斜面1の上に設置されている。傾斜面1に高い防水性が要求されない場合は防根シート3を省略してもよい。この基盤部2は、傾斜面1の最上部にアンカー11で一端を固定したチェーンなどの支持材6により吊下げられて所定位置に保持される。なお、図示の例では、支持材6は透水シート5の上に、基盤部2の下端にまで達するような長さで下垂させているが、これに限定されるものではない。例えば、排水マット4の表面や裏面、あるいは端縁部に支持材6を下垂し、この支持材6に基盤部2を固定してもよい。また支持材6は、基盤部2が傾斜面1の所定位置に安定して保持されるのであるならば、基盤部2(緑化を施す部分)の下端にまで達するような長さでなくてもよい。
【0022】
図2はアンカー11を示し、支持材6の一方は固定冶具(アンカー金物)11aに連結され、この固定冶具11aはアンカー11によって傾斜面1に固定されている。なお、傾斜面1に立ち上がり部がある場合は、ここに支持材6の一方を直接固定してもよい。
【0023】
そして、基盤部2の上に土壌7および植物8から構成される植栽部12が設けられる。透水シート(透水層)5に敷設される植栽部12の一例としては、軽量人工培養土(商品名ケイソイル等)を土壌7として敷設し苗などの植物8を植え付けたものや、芝マットのような緑化製品を植物8として載置したもの、または土壌7や植物(種子)8、肥料、保水材等を配合した材料を吹き付けたものである。
【0024】
図中9は、支持材6に止め具10によって取り付けられ、植栽部12の滑り止めのための部材であり、図示の例では植栽部12の滑り防止部材9をネット状としている。ネットの目の大きさは、土壌7や枯死した植物8は流出しないが余剰水は通過できるような大きさに設定する。
【0025】
次に、建築物の屋根などの傾斜面1を緑化する方法を説明する。緑化方法の第1実施形態は、傾斜面1において緑化基盤を構築する部分の最上部に、ワイヤーやチェーンなどの支持材6の一端をアンカー11で固定し、支持材6の他端を傾斜にそって傾斜面1に下垂可能としておく。
【0026】
この支持材6は複数本を所定間隔で下垂し、長さは傾斜面1において緑化を施す部分の下端にまで達するものに設定する。
【0027】
傾斜面1の上面に防根シート3を敷設する。これは建築物の躯体保護のためである。
【0028】
次に雨水や散水の排水処理のために、防根シート3の上に排水マット4を敷設する。
【0029】
さらに、排水マット4の中に土壌が入り込んで目詰まりすることを防止するために、排水マット4の上に透水シート5を敷設する。
【0030】
このようにして防根シート3を介して、排水マット4および透水シート5からなる基盤部2が敷設されたならば、この上、すなわち透水シート5の上に、基盤部2の下端にまで達するような長さに予め設定してある支持材6を下垂し、この支持材6に基盤部2を固定する。
【0031】
これにより、傾斜面1の高位置(頂上側)から支持材6により基盤部2が吊下げられた状態で固定されることになる。
【0032】
ついで透水シート5の上に土壌7および植物8から構成される植栽部12を敷設する。この場合、土壌7は粒状であるため、支持材6に固定できないが、支持材6に止め具10によってネット状の滑り防止部材9を取り付けることで、土壌7の滑り落ちを防止する。ネットの目の大きさは、土壌7や枯死した植物8は流出しないが余剰水は通過できるような大きさに設定しておく。
【0033】
なお、傾斜面1の傾斜角度が小さい場合や、土壌7を緑化用糊などの資材で固めている場合は、必ずしも滑り防止部材9を使用する必要はない。
【0034】
最後に必要に応じて植栽部12に灌水する。
【0035】
以上のようにして傾斜面1に構築された緑化構造は、傾斜面1の上に全面に排水層となる排水マット4が敷設されているから、土壌7の底面と傾斜面1の間に流れ込んだ雨水などを排水処理でき、傾斜面1での滑りの要因となる余剰水を適切に処理でき、滑り面の発生を防止できる。
【0036】
また、基盤部2は、支持材6で傾斜面1の高位置(頂上側)から吊下げたから、傾斜面1に直接固定せずにすみ、傾斜面1の防水層を損傷することもないし、地震発生時に振動によって傾斜面1から基盤部2が滑り落ちるおそれもない。
【0037】
さらに、基盤部2は柔軟性を有する資材で構成されているから、傾斜面1が勾配一定の平面ではなく、途中で勾配が変化する場合や、曲面の場合などにも柔軟に対応できる。
【0038】
前記した緑化方法は、第1実施形態では傾斜面1に対して、最初の工程で支持材6の一方を下垂させ、次いで基盤部2を設置し、これを下垂させた支持材6の他方で固定し、最後に植栽部12を敷設したが、施工順序はこれに限定されるものではなく、第2実施形態として、最初に基盤部2を傾斜面1の上に設置し、次に支持材6を傾斜面1に固定してこの支持材6で基盤部2を保持し、最後に植栽部12を敷設するようにしてもよい。
【0039】
また、第3実施形態として、第2実施形態のように最初に基盤部2を傾斜面1の上に設置した後、さらにこの上に植栽部12を敷設し、その後で支持材6で基盤部2を保持するようにすることも可能である。なお、第2および第3実施形態において、基盤部2には予め工場などで支持材6の他方を固定しておき、この支持材6付基盤部2を施工現場に搬入して傾斜面1の上に設置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の緑化構造および緑化方法の実施形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【図2】アンカーの説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 傾斜面 2 基盤部
3 防根シート 4 排水マット
5 透水シート 6 支持材
7 土壌 8 植物
9 滑り防止部材 10 止め具
11 アンカー 11a 固定冶具
12 植栽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の屋根などの傾斜面に形成する緑化構造において、傾斜面に一方を固定し傾斜にそって下垂させたチェーンなどの支持材と、この支持材で傾斜面に保持される排水層および透水層からなる基盤部と、前記透水層に敷設される植栽部とで構成することを特徴とする緑化構造。
【請求項2】
前記支持材、基盤部または傾斜面に植栽部の滑り防止部材を設ける請求項1記載の緑化構造。
【請求項3】
建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、前記傾斜面にチェーンなどの支持材の一方を固定し、前記傾斜面の上に排水層および透水層からなる基盤部を設置し、傾斜にそって下垂させた前記支持材の他方を前記基盤部に固定し、前記透水層の上に植栽部を敷設することを特徴とする緑化方法。
【請求項4】
建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、排水層および透水層からなる基盤部を前記傾斜面の上に設置し、一方が基盤部に固定されるチェーンなどの支持材の他方を傾斜面に固定して前記基盤部を保持し、前記透水層の上に植栽部を敷設することを特徴とする緑化方法。
【請求項5】
建築物の屋根などの傾斜面に施工する緑化方法において、排水層および透水層からなる基盤部を前記傾斜面の上に設置し、前記透水層の上に植栽部を敷設し、一方が基盤部に固定されるチェーンなどの支持材の他方を傾斜面に固定して前記基盤部を保持することを特徴とする緑化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−118888(P2008−118888A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304870(P2006−304870)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】