説明

建築物の工区分割工法

【課題】 構造上の品質を維持しながら建設工事全体の工期短縮を図ることが可能な建築物の工区分割工法。
【解決手段】 異なる高さの床付面118a〜118jを形成する鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、施工区域を工区E1〜E10に分割して施工する工区分割工法であって、施工区域を、床付面の高さ、建築物における役割、一度に打設可能なコンクリート打設量に基づき(ステップ200)水平方向および鉛直方向に複数の工区に分割し(ステップ203)、床付面の高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その上に重なる工区の数、その上に建設される設備、建機の作業範囲に基づき(ステップ204)施工順位を決定し(ステップ206)、先に施工される工区が後に施工される工区よりも高い場合(ステップ210のYES)、工区間の境界よりも高い工区側に、低い工区へ鉄筋を突出させ、鉛直打継ぎ面を設定する(ステップ212)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造は耐震性および耐火性に優れるため、土木・建築の分野で広く利用されている。鉄筋コンクリート構造の工作物(建築物)の建設工事は、大きく別けて、地盤へ杭を打ち込み(杭工事)、地盤を掘削し(土工事)、基礎コンクリートを打設して(基礎工事)その上に建屋等を建設し(躯体工事)、その建屋等に各設備を設置する(設備工事)という流れで進行する。
【0003】
鉄筋コンクリート構造の建築物の基礎工事では、床や柱等への鉄筋を配置する鉄筋工事と、鉄筋の周囲に型枠を組み立てる型枠工事、および型枠にコンクリートを打設するコンクリート工事が行われる。ただし、コンクリート工事における一度に打設可能なコンクリートの打設量には限りがあるため、通常のこれら各工事は、施工区域を最も低い床付面(掘削後の基礎地盤面)から上方へ向かって一度のコンクリートの打設量に基づいて複数の工区に分割し、下方の工区から上方の工区へと順に工区単位で行われる。
【0004】
ところで、近年では建築物の建設工事に対し、コスト削減や建築物の早期供用開始の観点から工期短縮が要請されている。そこで、例えば特許文献1には、ビルやプラントの建設工事等に対して、各作業の作業時間、作業区域(工区)、および制約条件に基づいて効率のよい工程計画を計画する工程計画方法が開示されている。特許文献1に記載の工程計画方法では、まず施工区域を複数の工区に分割した上で、各作業の上下の工区での同時作業禁止や、隣接する工区での同時作業禁止などの制約条件に基づいて、各工区に対して行う作業の全体の工期を計画するとしている。そして、計画された工期が目標工期を満たさなかった場合、工区をさらに細かく分割し、同時作業(並行作業)を行い得る工区を増やして作業の工期を再度計画している。このような構成であれば、建設工事の全体における工期短縮にも資すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−90130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで特許文献1の工程計画方法は、明示はされていないものの、ビルやプラントの各階層に対して作業を行う場合を想定していると思われる。確かに屋内工事であれば、様々な種類の工事が個別に進行可能であるから、特許文献1のような工程管理も可能と考えられる。しかし基礎工事まわりになると、杭工事、土工事、基礎工事の流れはその順序を変えることができず、各工程が後工程に対していわゆるクリティカルパスとなっている。しかし基礎工事の工期短縮を図らなければ、後工程をいかに効率よく行おうとも建設工事全体の工期短縮を図ることは困難である。
【0007】
さらに、一般的なオフィスビルやマンションなどのビルディングに比べて、発電所の基礎構造は場所ごとに床付面や天端の高さが異なる複雑な構造である場合が多い。床付面や天端に高低差があるような場合には、施工区域を床付面の高さごとに工区を分割し、低い床付面から順に基礎コンクリートを打つ必要がある。すなわち、従来からも基礎工事において施工区域を工区に分割はしているものの、その順序を変えることはできないため、工期短縮を図ることはできなかった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、構造上の品質を維持しながら基礎工事の工期短縮を図ることにより、建設工事全体の工期短縮を図ることが可能な建築物の工区分割工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる建築物の工区分割工法の代表的な構成は、異なる高さの床付面を複数形成して建設される鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法であって、施工区域を、床付面の高さ、その建築物における役割、および一度に打設可能なコンクリートの打設量に基づいて水平方向および鉛直方向に複数の工区に分割し、複数の工区のそれぞれに対し、床付面の高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その工区の上に重なる工区の数、その工区の上に建設される設備、および建機の作業範囲に基づいて工区の施工順位を決定し、隣接する工区間の境界において、先に施工される工区が後に施工される工区よりも高い場合には、工区間の境界よりも高い工区側に、低い工区に向かって鉄筋を突出させた状態で、コンクリートの鉛直打継ぎ面を設定することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、その上に多くの後工程が予定されている工区から優先して施工し、建設工事全体の工期短縮を図ることが可能である。特に、機械設備の架台等が構築される工区を優先して施工することで、基礎工事から躯体工事および設備工事への引渡しを早期に行うことが可能である。さらには、工区の施工順位には建機の作業範囲が考慮されているため、複数の工区で安全に並行作業を行うことができる。
【0011】
また、上記の鉛直打継ぎ面であれば強度を確実に確保可能である。したがって、高い工区から低い工区へという変則的な打継ぎであっても構造上の品質を維持できる。
【0012】
したがって上記構成によれば、構造上の品質を維持しながら基礎工事の工期短縮を図ることができ、建設工事全体の工期短縮を図ることが可能な建築物の工区分割工法を提供することが可能である。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかる建築物の工区分割工法の他の代表的な構成は、異なる高さの床付面を複数形成して建設される鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法であって、施工区域を、床付面の高さ、その建築物における役割、および一度に打設可能なコンクリートの打設量に基づいて水平方向および鉛直方向に複数の工区に分割し、複数の工区のそれぞれに対し、床付面の高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その工区の上に重なる工区の数、その工区の上に建設される設備、および建機の作業範囲に基づいて工区の施工順位を決定し、隣接する工区間の境界において、先に施工される工区が後に施工される工区よりも低い場合であって、工区間の高さの差が鉄筋の継手の長さに十分でない場合には、低い工区の端を上方に延長し、高い工区に向かって鉄筋を突出させた状態で、高い工区と同じ高さにコンクリートの鉛直打継ぎ面を設定することを特徴とする。
【0014】
上記構成であっても、その上に多くの後工程が予定されている工区から優先して施工し、建設工事全体の工期短縮を図ることが可能である。また、強度を確保したコンクリートの打継ぎが可能となっている。したがって、上記構成によっても、構造上の品質を維持しながら建設工事全体の工期短縮を図ることが可能な建築物の工区分割工法を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造上の品質を維持しながら建設工事全体の工期短縮を図ることが可能な建築物の工区分割工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかる建築物の工区分割工法を説明する図である。
【図2】本実施形態にかかる建築物の工区分割工法を説明するフローチャートである。
【図3】図1の施工区域の斜視図である。
【図4】図1の断面図である。
【図5】図1の断面図である。
【図6】工区間の境界よりも高い工区側に設定された鉛直打継ぎ面を説明する図である。
【図7】隣接する高い工区と同じ高さに設定されたコンクリートの鉛直打継ぎ面を説明する図である。
【図8】水平打継ぎ面を説明する図である。
【図9】本実施形態にかかる工区分割工法と従来の施工手順とを比較する図である。
【図10】本実施形態にかかる工区分割工法と従来の施工手順とを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は本実施形態にかかる建築物の工区分割工法を説明する図である。図1に示す施工区域100は、建築物の建設工事が行われる施工区域である。当該工区分割方法は、複数の異なる高さの床付面118a〜118j(図3等参照)を形成して建設される鉄筋コンクリート構造の建築物を対象としている。
【0019】
図1に示す一点鎖線は、工区の境界を示している。この工区は、鉄筋コンクリート構造の建築物において、鉄筋工事と型枠工事、およびコンクリート工事を進める際の施工単位である。当該工区分割工法では、各工区に施工順位を割り振っていて、図中の各工区(工区E1〜工区E10(図4、図5参照))に付する数字がこの施工順位(小さい数字ほど上位)を表している。当該工区分割工法では、各工区の上で行われる後工程を考慮して施工順位を決定していて、この施工順位に則って施工を進めることで建設工事全体の工期短縮を図ることが可能となっている。
【0020】
図2は本実施形態にかかる建築物の工区分割工法を説明するフローチャートである。以下、図2のフローチャートに則し、本実施形態にかかる建築物の工区分割工法の詳細を説明する。
【0021】
図2に示すように本実施形態にかかる工区分割工法では、施工区域100全体について、床付面118a〜118j(図3等参照)の高さ、その建築物における役割、および一度に打設可能なコンクリートの打設量を取得または設定する(ステップ200)。床付面の高さおよび建築物における役割は、設計情報から取得する。コンクリートの打設量は、業者の許容量や作業場所の確保、コンクリートの厚みなどから設定する。次に、これらの情報に基づいて水平方向および鉛直方向に複数の工区E1〜E10に分割する(ステップ202)。この段階では、まだ工区の施工順序は決定していない。
【0022】
ステップ200およびステップ202について、図3〜図5を参照しながら説明する。図3は、図1の施工区域100の斜視図である。また、図4は図1のA−A断面図であり、図5は図1のB−B断面図である。本実施形態ではその建築物の一例として発電所に建設されるタービン建屋101を想定している。そして、タービン建屋101の基礎構造の範囲を施工区域100としていて、工区E1〜E10は基礎コンクリートの打設における施工単位としている。
【0023】
理解を容易にするために、タービン建屋101について簡単に説明する。図3に示すタービン建屋101とは、タービン102や発電機104、およびその周辺機器(不図示)を格納するための建築物である。このタービン建屋101の内部には、タービン102および発電機104を載置するタービン架台106が設けられている。タービン架台もまた鉄筋コンクリート構造である。タービン建屋101は異なる高さの床付面118a〜118j(図4、図5参照)上に建設され、その基礎構造は場所ごとに異なる厚みを有している。
【0024】
図4を参照してステップ200およびステップ202を説明すると、まず、高さの異なる床付面118a〜118jごとに、工区を水平方向に大まかに仮分割する。そして、その工区のタービン建屋101における役割と、一度に打設可能なコンクリートの打設量とに基づいて、工区をさらに水平方向に細分割したり、上下方向に重ねるように分割したりする。こうして、工区を分割する境界の位置を水平方向および鉛直方向に対して確定させる。この工区間の境界は、コンクリートの打継ぎの基準線でもある。
【0025】
次に図2に示すように、各工区の床付面118a〜118jの高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その工区の上に重なる工区の数、その工区の上に建設される設備、および建機の作業範囲を取得または設定する(ステップ204)。建機の作業範囲は、建機の使用や安全基準等から個別に情報を取得する。他の情報は設計情報から取得する。次に、複数の工区E1〜10のそれぞれに対して工区の施工順位を決定する(ステップ206)。
【0026】
施工順位を決定する基準はおおむね3つに大別することができる。第1基準は、後工程の多い工区を優先する。第2基準は、並行作業可能な工区は待たずに施工する。第3基準は、取りかかれるものから着手する。上下方向に重なる工区は従前通り低い方から施工する必要がある。しかし本発明では、後述するように打継ぎ箇所において低い方から順に施工する必要(制限)をなくしたことにより、水平方向に重ならない(打継ぎ箇所を除く)工区を任意の順序で(独立して)施工可能である点に特徴を有している。
【0027】
例えば図4において、従来であれば最も低い床付面118aまで掘削し、工区E3から順に基礎コンクリートを打設していた。しかし工区E1を比較すると、その上にタービン架台106が建設されるために後工程が多いこと(第1基準)、および床付面118eが浅いために先に掘り終わること(第3基準)から、工区E3よりも施工順位を上に設定している(E1>E3)。すなわち、当該工区分割工法における各工区の施工順位は、後工程であるタービン架台106の建設に迅速に着手するための順位づけである。
【0028】
図4において工区E2も、工区E1と同様に、その上に工区E8および柱部114が施工されるために後工程が多いこと(第1基準)、および床付面118dが浅いために先に掘り終わること(第3基準)から、工区E3よりも施工順位を上に設定している。
【0029】
また、図3および図4に示すように、工区E1と工区E2とは施工区域100の中でも、互いに離れた位置となっている。そのため、工区E1と工区E2とに建機を使用したとしても、互いの作業を阻害するおそれが少ない。したがって、工区E1と工区E2とは安全に並行作業を行うことができ(第2基準)、工区E1の施工完了を待たずに工区E2の施工に着手することができる。
【0030】
なお、工区E3、E4、E8は、部分的に上下方向に重なっているために、順序を変えることができず、低い方から高い方に向かって施工順位を決定する。図5に示すように、工区E9は工区E7に重なり、工区E10は工区E8に重なるため、これらの順序は低い順(重ね順)である。また、工区E3、E4、E8は並行作業をすることもできず、下の工区のコンクリートが硬化してから上の工区の配筋や型枠設置を行う必要がある。工区E9とE10は離れているため、並行作業が可能である。
【0031】
次に打継ぎ箇所について説明する。再び図2を参照する。ステップ206にて施工順位を決定した後、複数の工区E1〜E10のうち、まだステップ208以降の処理が行われていない工区のなかで、現在の施工順位が最上位の工区を選出する(ステップ208)。そしてステップ208において選出した工区(すなわち先に施工される工区)が、隣接する他の工区(すなわち後に施工される工区)よりも高いか否か判定する(ステップ210)。例えば、図4に示す最上位の工区である工区E1をステップ208において選出した場合、ステップ210では、工区E1は隣接する工区E8よりも高いと判断する(ステップ210のYES)。
【0032】
ステップ210において高いと判定した場合には、工区間(図4の工区E1と工区E8との間)の境界よりも高い工区側にコンクリートの鉛直打継ぎ面S1(図6参照)を設定する(ステップ212)。
【0033】
ステップ212について図6を参照しながら説明する。図6は、工区間の境界よりも高い工区側に設定された鉛直打継ぎ面S1を説明する図である。図6に示すように、先に施工される工区E1は、隣接する後に施工される工区E8よりも高い。このとき、通常の工区の分割基準では、工区E1と工区E8との境界は、床付面118eと床付面118bの高さの境界である線分L1の位置となる。しかし、線分L1の位置に型枠を形成することは極めて困難である。また、仮に型枠を形成できたとしても、線分L1上に工区E1の鉛直打継ぎ面を形成すると、工区E1の鉄筋120a〜120dと、工区E8の鉄筋122a〜122dのそれぞれの間に重ね継手を行う際、例えば鉄筋120dと鉄筋122dとには、継手の長さM1(鉄筋の直径の40倍が基準である)が確保できなくなるおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態では、通常の工区間の境界よりも高い工区側(工区E1側)に、低い工区(工区E8)に向かって鉄筋120a〜120dを突出させた状態で鉛直打継ぎ面S1を設定する。なお型枠には、ラス金網を用いることにより、鉄筋を突出させた状態で打継ぎ面を形成することができる。このような鉛直打継ぎ面S1であれば、型枠を容易に形成できると共に、継手の長さM1を十分に確保して、強度を確実に確保することが可能である。したがって、高い工区E1から低い工区E8へという変則的な打継ぎであっても構造上の品質を維持することができる。
【0035】
ステップ210において、前段のステップ208において選出した工区が隣接する工区よりも低いと判定した場合(ステップ210のNO)、その工区と隣接する工区とにおける工区間の高さの差は、鉄筋の継手の長さに十分か否か判定する(ステップ216)。
【0036】
ステップ216において高さが鉄筋の継手の長さに不十分な場合(ステップ216のNO)、その工区の端を上方に延長し(ステップ218)、隣接する高い工区と同じ高さにコンクリートの鉛直打継ぎ面S2(図7(b)参照)を設定する(ステップ220)。
【0037】
ステップ218およびステップ220について図7を参照して説明する。図7は、隣接する高い工区と同じ高さに設定されたコンクリートの鉛直打継ぎ面S2を説明する図である。図7(a)は、図1のC−C断面図であり、図7(b)は図7(a)の部分拡大図である。
【0038】
図7(a)に示すように、先に施工される工区E6は、隣接する後に施工される工区E9よりも低い工区である。このとき、工区E6と工区E9との境界を水平面上の線分L2上に設定し、そこへ打継ぎ面を設定することも可能である。しかし線分L2上に打継ぎ面を形成した場合、工区E6の鉄筋124a〜124dと、工区E9の鉄筋126a〜126dのそれぞれの間に重ね継手を行う際、例えば鉄筋124dと鉄筋126dとには、工区E6と工区E9との間の高さの差が不十分であるために継手の長さM2が確保できなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、低い工区E6の端を上方に延長し、高い工区E9に向かって鉄筋124a〜124dを突出させた状態で、高い工区E9と同じ高さにコンクリートの鉛直打継ぎ面S2を設定している。このような鉛直打継ぎ面S2によっても、継手の長さM2を確保して、強度を確実に確保することが可能である。したがって、構造上の品質を維持することができる。
【0039】
ステップ216において高さが鉄筋の継手の長さに十分であった場合(ステップ216のYES)、工区間の境界にはコンクリートの水平打継ぎ面S3(図8参照)を設定する(ステップ222)。図8は、水平打継ぎ面S3を説明する図である。図8に示すように、先に施工される低い工区E4と、隣接して後に施工される高い工区E8の高さの差は、鉄筋128a〜128dと鉄筋122a〜122dとのそれぞれの間で重ね継手を行うには十分である。したがって、工区E4と工区E8との間には従来の水平な打継ぎ面として、水平打継ぎ面S3を設定している。
【0040】
そして、ステップ212、ステップ220またはステップ222からステップ214へと進み、その工区の施工順位が全工区中で最下位か否か判断する。そして、最下位でない場合(ステップ214のNO)はステップ208に戻り、次の順位の工区についてステップ208以降の処理を繰り返す。最下位の場合(ステップ214のYES)は当該工区分割工法による工区分割が完了する。
【0041】
上記説明した如く、本実施形態にかかる建築部の工区分割工法によれば、その上に多くの後工程が予定されている工区から優先して施工し、建設工事全体の工期短縮を図ることが可能である。特に、建設が予定されるタービン架台106の下になる工区を優先して施工することで、タービン架台106を迅速に建設し、実際にタービンを設置する設備工事へと早期に引渡すことが可能である。
【0042】
(従来の施工手順との比較)
図9および図10は、本実施形態にかかる工区分割工法と従来の施工手順とを比較する図である。図9はタービン建屋101に対し、基礎構造110を施工してその上にタービン架台106を建設するまでの、本実施形態の工区分割工法および従来の施工手順の双方の施工の流れを時系列的に示している。また、図10は図9に示す流れを概略的に表現して示している。
【0043】
図9(a)は本実施形態にかかる工区分割工法の流れ、図9(b)は従来の施工手順の流れである。まず図9(b)を参照すると、従来の施工手順では、掘削工事が全て完了した後に基礎工事を開始し、最も下方の工区(図4における工区E3)から上方の工区へと順に基礎コンクリートを打設し、施工する。そのため、タービン架台工事はほとんど全ての工区が施工されてから、着手される。
【0044】
一方、図9(a)に示す当該工区分割工法では、上記実施形態で説明したように、最初に施工される工区は、最も高い位置、すなわち最も浅い位置の工区E1である。したがって、掘削工事の全てが完了せずとも、工区E1から基礎工事の施工に着手することが可能である。そして、工区E1を施工した後には、まだ多くの工区が施工されてないにも関わらず、タービン架台106の工事に着手することが可能である。
【0045】
図10を参照して、本実施形態にかかる工区分割工法と従来の施工手順との双方の施工の流れをさらに説明する。図10(a)は本実施形態にかかる工区分割工法の流れ、図9(b)は従来の施工手順の流れである。
【0046】
図10(b)の従来の施工手順では、杭工事と掘削工事、基礎工事、躯体工事は並行して行われない。そのため、基礎構造110の完成を待って、タービン架台106が施工されている。一方、図10(a)に示すように、本実施形態にかかる工区分割工法では、杭工事と掘削工事、基礎工事、躯体工事を並行して行うことが可能である。そのため、基礎構造110とタービン架台106とが並行して施工され、従来の施工手順よりも早期にタービン架台106が完成している。したがって、タービン架台106は、実際にタービン102(図1参照)を設置する設備工事へと迅速に引き渡すことが可能である。このように、当該工区分割工法では建設工事全体の工期短縮を図ることが可能となっている。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法として利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
E1〜E10 …工区
L1 …線分
M1、M2 …長さ
H1 …高さ
S1、S2 …鉛直打継ぎ面
S3 …水平打継ぎ面
100 …施工区域
101 …タービン建屋
102 …タービン
104 …発電機
106 …タービン架台
110 …基礎構造
114 …柱部
116 …梁架台部
118a〜118j …床付面
120a〜120d、122a〜122d、124a〜1204、126a〜126d …鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる高さの床付面を複数形成して建設される鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法であって、
前記施工区域を、床付面の高さ、その建築物における役割、および一度に打設可能なコンクリートの打設量に基づいて水平方向および鉛直方向に複数の工区に分割し、
前記複数の工区のそれぞれに対し、床付面の高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その工区の上に重なる工区の数、その工区の上に建設される設備、および建機の作業範囲に基づいて工区の施工順位を決定し、
隣接する工区間の境界において、先に施工される工区が後に施工される工区よりも高い場合には、該工区間の境界よりも高い工区側に、低い工区に向かって鉄筋を突出させた状態で、コンクリートの鉛直打継ぎ面を設定することを特徴とする建築物の工区分割工法。
【請求項2】
異なる高さの床付面を複数形成して建設される鉄筋コンクリート構造の建築物に対し、その施工区域を複数の工区に分割して施工する工区分割工法であって、
前記施工区域を、床付面の高さ、その建築物における役割、および一度に打設可能なコンクリートの打設量に基づいて水平方向および鉛直方向に複数の工区に分割し、
前記複数の工区のそれぞれに対し、床付面の高さ、工区同士の鉛直方向の重ね順、その工区の上に重なる工区の数、その工区の上に建設される設備、および建機の作業範囲に基づいて工区の施工順位を決定し、
隣接する工区間の境界において、先に施工される工区が後に施工される工区よりも低い場合であって、工区間の高さの差が鉄筋の継手の長さに十分でない場合には、低い工区の端を上方に延長し、前記高い工区に向かって鉄筋を突出させた状態で、前記高い工区と同じ高さにコンクリートの鉛直打継ぎ面を設定することを特徴とする建築物の工区分割工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36583(P2012−36583A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175168(P2010−175168)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)