説明

建築物用壁面材及びその製造方法

【課題】塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材を、タイル施工と同程度のコストで提供する。
【解決手段】建築物用壁面材7は、建築物の外壁等1に塗布された樹脂モルタル2上に、ベース層3と、ベース層3の表面に平面状に形成され、互いに異なる色を有する複数種類の模様層4a、4bと、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域に、その表面が模様層4a、4bの表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、模様層4a、4bの色と異なる色を有する埋め込み層5とを備えた構成となっている。ここで、ベース層3、模様層4a、4b及び埋め込み層5は、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物用壁面材及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、タイル施工と同程度のコストで製造可能な、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材、及び、当該建築物用壁面材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁面のタイル施工部分が経時的に劣化し、コンクリート躯体と下地モルタル(「貼付けモルタル」を含む)との間、あるいは、下地モルタルとタイルとの間に浮きが発生することがしばしばあった。そして、最悪の場合には、建築物の外壁面からタイルが剥離・脱落し、人身事故に繋がる恐れがあった。
【0003】
このため、従来、タイル施工に替わる建築物の壁面を仕上げる工法として、圧縮空気の力を利用してスプレーガン等から吹き付け材を噴射して塗装する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この吹き付け塗装方法は、適度に粉砕した天然石等の骨材を合成樹脂中に混入してなる混合材(吹き付け材)の異なる色のもの複数種類を、1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、当該複数種類の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口(噴出ノズル)から同時に吹き付けることにより、非混合多色状に塗布するようにしたものである。そして、この吹き付け塗装方法によれば、吹き付けた吹き付け材が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れのない建築物用壁面材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−9587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の吹き付け塗装方法では、建築物の壁面の下地調整に用いられる樹脂モルタルを隠すために、吹き付け層の厚みを厚くする必要があった。すなわち、上記従来の吹き付け塗装方法では、吹き付け材を多量に使用する必要があり、これが施工コストの高騰に繋がるという問題があった。
【0006】
その一方で、タイル施工と同程度のコストで建築物の壁面を施工することができる建築物の吹き付け塗装方法の出現が強く要望されていた。
【0007】
そこで、本発明者は、かかる点に鑑み、タイル施工と同程度のコストで、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材を得るために鋭意研究を重ね、本発明をするに至った。
【0008】
本発明は、従来技術における前記課題を解決するためになされたものであり、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材、及び、タイル施工と同程度のコストで当該建築物用壁面材を得ることができる建築物用壁面材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る建築物用壁面材の構成は、ベース層と、前記ベース層の表面に平面状に形成された模様層と、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、前記模様層の色と異なる色を有する埋め込み層とを備え、前記ベース層、模様層及び埋め込み層が、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなることを特徴とする。
【0010】
この建築物用壁面材の構成によれば、建築物の壁面の下地調整に用いられる樹脂モルタルを隠すベース層と、前記ベース層の表面に平面状に形成された模様層とを備えるようにしたことにより、少ない量のリシン系の材料を用いて、ベース層の上に大きい模様を有する「新しい感覚」の建築物用壁面材を実現することができる。また、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、前記模様層の色と異なる色を有する埋め込み層を備えるようにしたことにより、建築物用壁面材の内部に隙間が生じてしまうことはないので、建築物用壁面材の強度を高く維持することができる。そして、この場合、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料を用いており、これらは柔軟性と接着力を有しているため、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れはない。すなわち、この建築物用壁面材の構成によれば、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材を、タイル施工と同程度のコストで実現することができる。
【0011】
前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記模様層が、互いに異なる色を有する複数種類の模様層からなるのが好ましい。
【0012】
前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記骨材が、セラミックス骨材、天然石骨材及び焼き付け骨材からなる群から選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0013】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記合成樹脂がアクリル樹脂エマルジョンであるのが好ましい。
【0014】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記模様層の表面の面積が、前記模様層及び埋め込み層の全体の表面の面積の30〜60%であるのが好ましい。この好ましい例によれば、大きい模様を有する「新しい感覚」の建築物用壁面材を実現することができる。そして、模様層及び埋め込み層の全体の表面の面積に対する模様層の表面の面積の割合を、この範囲で変化させることにより、何百種類ものパターンを作ることができ、建築物の外壁等の表現が豊かになる。すなわち、環境に順応した建築物用壁面材を実現することができる。
【0015】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記模様層の色の明度が、前記埋め込み層の色の明度よりも高いのが好ましい。この好ましい例によれば、明度の高い模様層を視覚的に浮き出ているように見せることができる(ホログラム効果)。すなわち、建築物用壁面材7を浮き彫り(レリーフ)模様のように見せることができる。但し、実際に彫り込んだものではないため、塵埃が溜まって見栄えが悪くなる恐れはない。
【0016】
そして、前記模様層の表面の面積が、前記模様層及び埋め込み層の全体の表面の面積の30〜60%であり、かつ、前記模様層の色の明度が、前記埋め込み層の色の明度よりも高いという好ましい例によれば、上記ホログラム効果をより際立たせることができる。
【0017】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記ベース層の色が前記埋め込み層の色と同じであるのが好ましい。
【0018】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記建築物用壁面材の表面に透明性トップコートがさらに塗布されているのが好ましい。この好ましい例によれば、建築物用壁面材(建築物の外壁面)の耐久性及び耐候性を向上させることができると共に、汚染を防止することもできる。また、この場合には、前記トップコートの材料が、アクリル−シリコン系塗料又はフッ素系塗料であるのが好ましい。尚、このように、トップコートの材料として親水性の材質のものを使用すれば、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0019】
また、前記本発明の建築物用壁面材の構成においては、前記建築物用壁面材が、金属パネル、樹脂パネル、無機パネル及びプレキャストコンクリートからなる群から選ばれる少なくとも1つに形成されているか、又は建築物壁面に形成されているのが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る建築物用壁面材の製造方法は、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなるベース層の表面に、同じく骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料を玉状に吹き付ける工程と、玉状に吹き付けた前記リシン系の材料を押圧することにより、その表面を平面状に均して模様層を形成する工程と、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、骨材と合成樹脂とを含み前記模様層の色と異なる色を有するリシン系の材料を、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく埋め込んで埋め込み層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
この建築物用壁面材の製造方法によれば、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなり、建築物の壁面の下地調整に用いられる樹脂モルタルを隠すベース層の表面に、同じく骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料を玉状に吹き付ける工程と、玉状に吹き付けた前記リシン系の材料を押圧することにより、その表面を平面状に均して模様層を形成する工程とを含むようにしたことにより、少ない量のリシン系の材料を用いて、ベース層の上に大きい模様を有する「新しい感覚」の建築物用壁面材を実現することができる。また、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、骨材と合成樹脂とを含み前記模様層の色と異なる色を有するリシン系の材料を、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく埋め込んで埋め込み層を形成する工程を含むようにしたことにより、建築物用壁面材の内部に隙間が生じてしまうことはないので、建築物用壁面材の強度を高く維持することができる。そして、この場合、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料を用いており、これらは柔軟性と接着力を有しているため、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れはない。すなわち、この建築物用壁面材の製造方法によれば、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材を、タイル施工と同程度のコストで得ることができる。
【0022】
また、前記本発明の建築物用壁面材の製造方法においては、前記ベース層の表面に、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料の異なる色のもの複数種類を、それぞれ玉状に同時に吹き付け、それぞれ玉状に吹き付けた前記複数種類のリシン系の材料を押圧することにより、その表面を平面状に均して前記模様層を形成するのが好ましい。
【0023】
また、前記本発明の建築物用壁面材の製造方法においては、玉状に吹き付けた前記リシン系の材料を押圧した後、その表面を研磨するのが好ましい。この好ましい例によれば、後の工程である、ベース層の表面上の模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みを、金鏝やゴムベラ等で塗り付けることによって行う際に、作業がやり易くなる。
【0024】
また、前記本発明の建築物用壁面材の製造方法においては、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みが、当該リシン系の材料を塗り付けることによって行われるのが好ましい。
【0025】
模様層の周面には、押圧の結果としてオーバーハング部分が生じているため、ベース層の表面上の模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みを、当該リシン系の材料を吹き付けることによって行うと、オーバーハング部分によって当該リシン系の材料が遮られ、オーバーハング部分の周りに隙間が生じてしまう恐れがある。そして、その結果、建築物用壁面材が脆くなる恐れがある。これに対し、上記好ましい例によれば、オーバーハング部分にもリシン系の材料を行き渡らせることができるので、オーバーハング部分の周りに隙間が生じてしまうことを防止することができる。そして、その結果、建築物用壁面材の強度を高く維持することができる。
【0026】
また、ベース層の表面上の模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みを、当該リシン系の材料を吹き付けることによって行うと、材料を無駄にしてしまう恐れがある。そして、その結果、材料コストの高騰を招く恐れがある。これに対し、上記好ましい例によれば、必要最小限の量の材料だけが使用されることになるので、材料コストを低く抑えることができる。
【0027】
また、前記本発明の建築物用壁面材の製造方法においては、前記埋め込み層を形成した後に、全表面を研磨する工程をさらに含むのが好ましい。
【0028】
ベース層の表面上の模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みを、当該リシン系の材料を塗り付けることによって行う際に、当該リシン系の材料が模様層の上に少し乗って、模様層の表面が汚れた状態となるが、埋め込み層を形成した後に、全表面を研磨する工程をさらに含むという好ましい例によれば、模様層の色を露出させることができる。
【0029】
また、前記本発明の建築物用壁面材の製造方法においては、前記建築物用壁面材の表面に透明性トップコートを塗布する工程をさらに含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材、及び、タイル施工と同程度のコストで当該建築物用壁面材を得ることができる建築物用壁面材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材を示す正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材を示す垂直断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法の一部(下地調整〜押圧・均し)を示す工程垂直断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法の他の一部(模様層の形成〜表面研磨)を示す工程垂直断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法においてベース層となるリシン系の材料を吹き付けるために用いられる3頭式スプレーガンを示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法において模様層となるリシン系の材料を吹き付けるために用いられる3頭式スプレーガンを示す斜視図である。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の他の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0033】
〈建築物用壁面材の構成〉
まず、本発明に係る建築物用壁面材について、図1、図2を参照しながら説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材を示す正面図、図2は、当該建築物用壁面材を示す垂直断面図である。
【0035】
図1、図2に示すように、本実施の形態の建築物用壁面材7は、建築物の外壁等1に塗布された樹脂モルタル2上に、ベース層3と、ベース層3の表面に平面状に形成され、互いに異なる色を有する複数種類の模様層4a、4bと、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域に、その表面が模様層4a、4bの表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、模様層4a、4bの色と異なる色を有する埋め込み層5とを備えた構成となっている。ここで、ベース層3、模様層4a、4b及び埋め込み層5は、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなっている。
【0036】
リシン系の材料としては、次の成分に調合したものが用いられている。すなわち、
(1)セラミックス骨材 61.60重量部
(2)アクリル樹脂エマルジョン(固形分50%) 25.20重量部
(3)増粘剤(ヒドロキシメチルセルロース) 11.35重量部
(4)pH調整剤(アンモニア水) 0.17重量部
(5)消泡剤(アルコール系) 0.03重量部
(6)造膜助剤(アルコール系) 0.39重量部
(7)水 1.26重量部
作業性や貯蔵の便のために、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、造膜助剤等が混入されているが、本発明の必須の構成要素ではない。本発明で用いるリシン系の材料としては、骨材5〜90重量部と合成樹脂10〜95重量部とを含む、比重が約2の透明性が高いバインダーエマルジョンであるのが好ましい。尚、造膜助剤とは、エマルジョンの透明造膜の温度を下げるためのものである。
【0037】
合成樹脂としては、アクリル樹脂エマルジョンのほかに、その他のエマルジョン系や、エポキシ系、ウレタン系のものを使用することもできる。
【0038】
骨材としては、セラミックス骨材のほかに、天然石骨材や焼き付け骨材を使用することもできる。
【0039】
セラミックス骨材は、粘土に適当な色を有する無機顔料、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛等を混合し、1200〜1400℃で焼成してセラミックスとし、それを粉砕したものである。天然石骨材は、天然石を破砕して分級したものを、そのまま使用するものであり、白色では珪砂、大理石の顆粒、寒水石等が使用され、黒色では美濃黒等が使用される。焼き付け骨材は、天然石の顆粒(通常は珪砂が多く使用されている)に、無機顔料(通常は金属の酸化物が使用され、白色として酸化チタン、黄色としてチタンイエロー、青色としてコバルト、緑色としてクロム、黒色としてカーボン等が使用されている)を混合して、天然石の表面に800〜1000℃で焼き付けて作られる。実際に使用されている骨材の多くはこの焼き付け骨材である。尚、100〜300℃の温度で作る場合には、寒水石が使用される場合もある。
【0040】
骨材の粒度分布としては、リシン系の材料を建築物の外壁等に吹き付け等して得られる建築物用壁面材の強度や美観から、次のようなものが採用されている。すなわち、
メッシュ 分布
3〜 20 30重量%
20〜200 40重量%
200〜350 30重量%
ここで、メッシュとは、1インチ(25.4mm)当たりの篩目の数のことである。
【0041】
模様層4a、4bの表面の面積は、模様層4a、4b及び埋め込み層5の全体の表面の面積の30〜60%であるのが好ましい。この構成を採用すれば、大きい模様を有する新しい感覚の建築物用壁面材7を実現することができる。そして、模様層4a、4b及び埋め込み層5の全体の表面の面積に対する模様層4a、4bの表面の面積の割合を、この範囲で変化させることにより、何百種類ものパターンを作ることができ、建築物の外壁等の表現が豊かになる。すなわち、環境に順応した建築物用壁面材7を実現することができる。
【0042】
また、模様層4a、4bの色の明度は、埋め込み層5の色の明度よりも高いのが好ましい。本実施の形態においては、埋め込み層5の色を茶色(濃い色、明度が低い色)、模様層4aの色をオレンジ色(薄い色、明度が高い色)、模様層4bの色を白みを帯びたベージュ色(さらに薄い色、さらに明度が高い色)としている。この構成を採用すれば、明度の高い模様層4a、4bを視覚的に浮き出ているように見せることができる(ホログラム効果)。すなわち、建築物用壁面材7を浮き彫り(レリーフ)模様のように見せることができる。但し、実際に彫り込んだものではないため、塵埃が溜まって見栄えが悪くなる恐れはない。尚、模様層4a、4bの色の明度を、埋め込み層5の色の明度よりも低くすれば、模様層4a、4b部分を彫り込まれたように見せることができる。
【0043】
そして、模様層4a、4bの表面の面積が、模様層4a、4b及び埋め込み層5の全体の表面の面積の30〜60%であり、かつ、模様層4a、4bの色の明度が、埋め込み層5の色の明度よりも高いという構成を採用すれば、上記ホログラム効果をより際立たせることができる。
【0044】
また、ベース層3の色は、埋め込み層5の色と同じであるのが好ましい。
【0045】
〈建築物用壁面材の製造方法〉
次に、図3〜図7を参照しながら、上記のように調合されたリシン系の材料を建築物の外壁等に塗装又は塗布して建築物用壁面材を製造する方法について説明する。
【0046】
図3、図4は、本発明の一実施の形態における建築物用壁面材の製造方法を示す工程垂直断面図、図5は、当該建築物用壁面材の製造方法を示すフローチャート、図6、図7は、当該建築物用壁面材の製造方法においてリシン系の材料を吹き付けるために用いられる3頭式スプレーガンを示す斜視図である。
【0047】
ここで、ベース層3及び埋め込み層5となるリシン系の材料のセラミックス骨材としては、茶色(濃い色、明度が低い色)のものを用いた。また、模様層4aとなるリシン系の材料のセラミックス骨材としては、オレンジ色(薄い色、明度が高い色)のものを、模様層4bとなるリシン系の材料のセラミックス骨材としては、白みを帯びたベージュ色(さらに薄い色、さらに明度が高い色)のものをそれぞれ用いた。
【0048】
図6、図7に示すように、3頭式スプレーガン8には、3つのタンク9、10、11が設けられている。ここで、図6に示す3頭式スプレーガン8においては、3つのタンク9、10、11の全てにベース層3となる茶色の第1のリシン系の材料12が収容される。また、図7に示す3頭式スプレーガン8においては、左右のタンク9、11のみに白みを帯びたベージュ色の第2のリシン系の材料14、オレンジ色の第3のリシン系の材料13がそれぞれ別々に収容される。また、タンク9、10、11の下部はテーパー状に細くなっている。そして、タンク9、10、11の一番下の部分には、それぞれ別個に噴出ノズル15、16、17が設けられており、タンク9、10、11内のリシン系の材料を圧縮空気によって噴出ノズル15、16、17からそれぞれ噴出させることができるようにされている。ここで、図6に示す3頭式スプレーガン8の噴出ノズル15、16、17の口径は5〜8mmであり、吹き圧は5〜7kg/cm2に設定されている。また、図7に示す3頭式スプレーガン8の噴出ノズル15、17の口径は10〜13mmであり、吹き圧は2〜3kg/cm2に設定されている。この3頭式スプレーガン8には、取っ手18,19がノズルの横に付いており、この取っ手18,19には、圧縮空気を高圧状態(2.0気圧)から低圧状態(1.0気圧)に(及び低圧状態から高圧状態に)切り替えるための切り替えスイッチ(図示せず)が設けられている。噴出ノズル15、16、17は、ほぼ一点に集中するようにその角度が調整されている。実際にぴったり一点に集中させると、第2及び第3のリシン系の材料14、13が混合するか、又は積層して一色となるため、第2及び第3のリシン系の材料14、13を非混合多色状に塗布することが困難となる。しかし、実際には、焦点がぴったり一致していても、人が3頭式スプレーガン8を手に持って塗布するために、壁面との距離や角度がずれ、あまり問題とはならない。
【0049】
尚、ベース層3となる茶色の第1のリシン系の材料12を吹き付けるに際しては、必ずしも以上のような3頭式スプレーガン8を使用する必要はなく、例えば、手持ち式の単頭ガン等を使用することもできる。
【0050】
まず、図3Aに示すように、建築物の外壁等1の上に、金鏝を用いて樹脂モルタル2を塗布することにより、外壁等1を平坦化して下地調整を行った(図5のステップ1)。次いで、樹脂モルタル2の上に、ローラ(図示せず)を用いてシーラーを塗布した(図5のステップ2)。
【0051】
次に、図3Bに示すように、シーラーが塗布された樹脂モルタル2の上に、図6に示す3頭式スプレーガン8を用いて、茶色の第1のリシン系の材料12を吹き付けて、ベース層3を形成した(図5のステップ3)。ここで、第1のリシン系の材料12の、吹き付け量は1.5〜2.0kg/m2、厚みは約1mmである。
【0052】
次に、図3Cに示すように、樹脂モルタル2の上に吹き付けられた茶色の第1のリシン系の材料12が乾燥する前に、当該第1のリシン系の材料12(ベース層3)の上に、図7に示す3頭式スプレーガン8を用いて、白みを帯びたベージュ色の第2のリシン系の材料14とオレンジ色の第3のリシン系の材料13を、それぞれ玉状に同時に吹き付けた(玉吹き)(図5のステップ4)。この場合、玉状に吹き付けた第2及び第3のリシン系の材料14、13の球相当径は、大きいもので9〜15mmであった。第2及び第3のリシン系の材料14、13の吹き付け量は、1.0〜3.0kg/m2である。
【0053】
次に、図3Dに示すように、第1のリシン系の材料12(ベース層3)の上に吹き付けられた玉状の第2及び第3のリシン系の材料14、13が乾燥する前に、当該玉状の第2及び第3のリシン系の材料14、13を、ローラ(図示せず)を用いて、押圧しながら均した(図5のステップ5)。これにより、玉状の第2及び第3のリシン系の材料14、13がベース層3の面内方向(建築物の壁面に沿った方向)に引き伸ばされ、第2及び第3のリシン系の材料14、13は、それぞれ、厚みが約1.5mm、図3Dの右側から見た場合の円相当径が大きいもので20〜50mmになった。
【0054】
次に、図4Eに示すように、ベース層3の面内方向(建築物の壁面に沿った方向)に引き伸ばされた第2及び第3のリシン系の材料14、13が完全に乾燥した後、当該第2及び第3のリシン系の材料14、13の表面を、グラインダー(図示せず)を用いて、厚みが約1mmとなるまで平面状に研磨して、模様層4a、4bを形成した(図5のステップ6)。このように平面状に研磨することにより、後の工程である、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みを、金鏝ややゴムベラ等で塗り付けることによって行う際に、作業がやり易くなる。尚、この場合、模様層4a、4bの周面には、押圧の結果としてオーバーハング部分21が生じている。
【0055】
次に、図4E、図4Fに示すように、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域に、ベース層の材料と同じ茶色の第1のリシン系の材料12を、その表面が模様層4a、4bの表面とほぼ面一となるように隙間なく埋め込んで埋め込み層5を形成した(図5のステップ7)。
【0056】
上記したように、模様層4a、4bの周面にはオーバーハング部分21が生じているため、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域への第1のリシン系の材料12の埋め込みを、第1のリシン系の材料12を吹き付けることによって行うと、オーバーハング部分21によって第1のリシン系の材料12が遮られ、オーバーハング部分21の周りに隙間が生じてしまう恐れがある。そして、その結果、建築物用壁面材7が脆くなる恐れがある。そこで、本実施の形態においては、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域への第1のリシン系の材料12の埋め込みを、当該第1のリシン系の材料12を金鏝やゴムベラ等で塗り付けることによって行った。これにより、オーバーハング部分21にも第1のリシン系の材料12を行き渡らせることができるので、オーバーハング部分21の周りに隙間が生じてしまうことを防止することができる。そして、その結果、建築物用壁面材7の強度を高く維持することができる。
【0057】
また、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域への第1のリシン系の材料12の埋め込みを、第1のリシン系の材料12を吹き付けることによって行うと、材料を無駄にしてしまう恐れがある。そして、その結果、材料コストの高騰を招く恐れがある。これに対し、第1のリシン系の材料12を金鏝やゴムベラ等で塗り付けることによって行えば、必要最小限の量の材料だけが使用されることになるので、材料コストを低く抑えることができる。ここで、第1のリシン系の材料12の塗布量は1.5〜2.0kg/m2である。
【0058】
尚、この場合、模様層4a、4bの上に、埋め込み層5の材料となる第1のリシン系の材料12が少し乗って、模様層4a、4bの表面が汚れた状態となっている。
【0059】
ステップ3(ベース層の形成)、ステップ4(玉吹き)、ステップ7(埋め込み層の形成)で使用される第1〜第3のリシン系の材料12、14、13の量の合計は、4.0〜7.0kg/m2であり、従来の吹き付け塗装方法で使用される吹き付け材の量5.0〜16.0kg/m2に比べてかなり少なくなっている。従って、本実施の形態の建築物用壁面材の製造方法によれば、タイル施工と同程度のコストで建築物用壁面材を得ることができる。
【0060】
次に、図4F、図4Gに示すように、埋め込み層5の材料となる第1のリシン系の材料12が完全に乾燥した後、模様層4a、4b及び埋め込み層5の全表面を、グラインダー(図示せず)を用いて、模様層4a、4bの色が露出するまで平滑に研磨した(図5のステップ8)。これにより、建築物の外壁等1に塗布された樹脂モルタル2上に、ベース層3と、ベース層3の表面に平面状に形成され、互いに異なる色を有する複数種類の模様層4a、4bと、ベース層3の表面上の模様層4a、4bが形成されていない領域に、その表面が模様層4a、4bの表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、模様層4a、4bの色と異なる色を有する埋め込み層5とを備えた建築物用壁面材7が得られた。建築物用壁面材7の厚みは約2mmである。
【0061】
最後に、以上のようにして得られた建築物用壁面材7の表面に、ローラ又はエアーレススプレーを用いて、透明なアクリル−シリコン系塗料からなる超耐候性トップコートを2回に分けて塗布した(塗布量0.1kg/m2×2)(図5のステップ9)。アクリル−シリコン系塗料としては、神東塗料株式会社製のハイテントップ半艶クリヤーを用いた。このように、建築物用壁面材7の表面を超耐候性トップコート仕上げによって被覆したことにより、建築物の外壁面の耐久性及び耐候性を向上させることができると共に、汚染を防止することもできる。尚、トップコートとしてアクリル−シリコン系塗料を用いているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、透明な樹脂であればよい。例えば、トップコートとしてフッ素系塗料を用いることもできる。このように、トップコートとして親水性の材質のものを使用すれば、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0062】
また、本実施の形態で使用している第1〜第3のリシン系の材料12、14、13は柔軟性と接着力を有しているので、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れはない。
【0063】
〈トップコート〉
以下に、トップコートのより具体的な例を挙げ、その塗布方法についても説明する。
【0064】
建築物用壁面材7の表面に、まず、艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−シリコン(珪素)重合体を含む下塗りコーティング剤を塗布して、下塗りコーティング層を形成する。この下塗りコーティング剤を塗布すると、下塗りコーティング剤の一部は建築物用壁面材7に浸入するが、浸入しても下塗りコーティング剤の塗料組成及び塗膜組成の均一性は保たれ、耐久性の高いコーティング層となる。加えて、下塗りコーティング層は建築物用壁面材7とシロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高いコーティング層となる。
【0065】
下塗りコーティング剤が艶消し剤を含むと、下塗りコーティング剤の一部が建築物用壁面材7に浸入する際に、艶消し剤は下塗りコーティング層に残されてしまい、艶消し剤の濃度が高い部分が生じるために、長期間経過したときに剥離し易くなる。
【0066】
次に、下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含む上塗りコーティング剤を塗布して、上塗りコーティング層を形成する。この場合、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。その結果、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高い建築物の外壁面が得られる。すなわち、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性の高い非汚染仕上げ面が得られる。
【0067】
下塗りコーティング層の上に、上塗りコーティング層よりも相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含む中塗りコーティング剤を塗布して、中塗りコーティング層をさらに形成するのも好ましい。この場合、下塗りコーティング層と中塗りコーティング層、及び、中塗りコーティング層と上塗りコーティング層とが、シロキサン結合によって化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。その結果、長期間美装状態を保ち、かつ、メンテナンスが不要で耐久性の高い建築物の外壁面が得られる。すなわち、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性の高い非汚染仕上げ面が得られる。
【0068】
以下においては、下塗りコーティング層を「クリヤー」、中塗りコーティング層を「半艶」、上塗りコーティング層を「艶消し」という場合がある。クリヤーはコーティング剤に艶消し剤を含まず、半艶はコーティング剤100重量部に0を越え6重量部以下の艶消し剤を含み、艶消しはコーティング剤100重量部に6重量部を越え10重量部以下の艶消し剤を含むのが好ましい。
【0069】
コーティング剤に含まれるシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体は、好適には、下記(化1)で示されるモノマーを必須成分として重合して得られる、アルコキシシリル基含有のビニル重合体である。
【0070】
【化1】

【0071】
上記(化1)において、R1は水素原子、メチル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R3は炭素数1〜3のアルキル基、aは0〜2の整数、mは1〜10の整数を示す。
【0072】
一例として、下記のモノマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)CH2=CHCOO(CH23Si(OCH33
(2)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OCH33
(3)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OCH32
(4)CH2=CHCOO(CH23Si(OC253
(5)CH2=CHCOO(CH23Si(CH3)(OC252
(6)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OC253
(7)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OC252
前記モノマーは1種でもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0073】
また、前記モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、あるいは他のビニルモノマー及びアミド系モノマーを用いることができる。具体的な化合物としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系モノマーを挙げることができる。これらは1種でもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0074】
これらのモノマーをラジカル重合させると、ビニル基が壊裂して重合し、これが主鎖を形成し、好適なアルコキシシリル基含有のビニル重合体を得ることができる。この重合体の好ましい数平均分子量は3000〜100000である。
【0075】
好適なビニル重合体は側鎖にアルコキシシリル基を有するため、触媒によって常温(室温)でも反応が進む。すなわち、脱アルコール反応により、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−、Siは4価であるが2価を省略。以下も同様。)が形成される。あるいは、アルコキシシリル基が加水分解され、シラノール基(−SiOH基)となり、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−)が形成される。このシロキサン結合によって架橋構造となる。このことから、「シロキサン架橋型」という。また、このようにして形成された塗膜は親水性であるため、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができる。
【0076】
中塗り及び/又は上塗りコーティング剤に含まれる艶消し剤は、平均粒子径が1〜20μmの範囲の無機粉体であるのが好ましい。前記平均粒子径は、市販の粒度分布計によって測定することができる。例えば、堀場製作所製のレーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所製のレーザ回折粒度測定器(SALD2100)などを用いて測定することができる。艶消し剤は、例えば、シリカ、タルク、クレイ、アルミナなどの無機粉体から選択することができる。
【0077】
本発明方法においては、下塗りコーティング剤を塗布して硬化させ(下塗りコーティング層の形成)、その上に上塗りコーティング剤を塗装して硬化させる(上塗りコーティング層の形成)。好ましくは、下塗りコーティング層と上塗りコーティング層との間に中塗りコーティング剤を塗布して硬化させる(中塗りコーティング層の形成)。前記下塗り、中塗り、上塗りの各コーティング剤には、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体と共に、触媒、溶剤、その他の添加剤を加えることもできる。触媒としては、酸、塩基、有機金属を使用することができる。中でも有機錫が好ましく、有機錫としては、ジオクチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジオクチル錫オキサイド又はジブチル錫オキサイドとシリケ−トとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジステアレ−ト、ジブチル錫ジアセチルアセトナ−ト、ジブチル錫ビス(エチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(ブチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(オレイルマレ−ト)、スタナスオクトエ−ト、ステアリン酸錫、ジ−n−ブチル錫ラルレ−トオキサイド等が挙げられる。また、分子内にS原子を有する錫化合物としては、ジブチル錫ビスイソノニル−3―メルカプトプロピオネ−ト、ジオクチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、オクチルブチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト等が挙げられる。触媒は単独でもよく、また、2種類以上併用してもよい。有機錫を使用する場合、触媒の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体成分100重量部に対して0.01重量部以上1重量部以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上0.2重量部以下である。
【0078】
溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類等が挙げられる。これらの溶剤のうち特に好ましい溶剤は、安全性の観点から、キシレンである。溶剤の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体成分100重量部に対して50重量部以上200重量部以下、好ましくは70重量部以上150重量部以下、さらに好ましくは80重量部以上120重量部以下である。
【0079】
添加剤としては、シリコーンオイル等の消泡剤、ヒンダードフェノール等の紫外線吸収剤、光安定剤、アマイドワックス等のタレ防止剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0080】
本工法においては、さらに耐久性を上げるために、中塗りコーティング剤を2回塗りするのが好ましい。
【0081】
以下、具体例を用いて、トップコートについてさらに詳細に説明する。
【0082】
(各特性の測定試験方法)
(1)サンシャインウェザーメーターによる促進試験
試験機:スガ試験機社製、型番“WE−SUN−HC−DC”
光源:1灯式・セリウム入り有芯カーボンを上下各4本組み合わせ
光線波長:280〜400nm
放射照度:フィルター付き255±45W/m2、フィルターなし285±50W/m2
光フィルター:耐熱性光学ガラス板使用・8枚1組、255nm以下の短波長成分をカット、355nmまでの成分を10〜50%透過
放出電力:50V、60A(3000W)
雰囲気温度:63±3℃
シャワー:120分中18分間降雨先降り運転
スプレー水量:2100±100ml/min(pH6.0〜8.0、水温16±5℃)試料枚数:70×150mm、76枚
運転サイクル:60Hr
(2)光沢
試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0083】
A:落ち着いた光沢
B:やや艶が目立つ
(3)ひび割れ有無
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0084】
A:ひび割れなし
B:僅かにひび割れあり、補修必要
C:大きなひび割れあり、補修必要
(4)変色
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
【0085】
A:変色なし
B:変色あるが実用的に問題ない程度で目立たない、補修不要
C:やや目立つ変色、補修必要
D:明らかに変色しており、補修必要
(参考例1)
図1、図2に示す建築物用壁面材7の表面に、コーティング剤用のスプレーノズルを用いて、下塗りコーティング剤と上塗りコーティング剤を順番に塗布した。
(1)下塗りコーティング剤(クリヤー)
ハマトップFCクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 43重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 45重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFCクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 1重量部(有機錫は0.1重量部)
溶剤(キシレン) 6重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
(2)上塗りコーティング剤(艶消し)
ハマトップFC艶消しクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 40重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 41重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)7重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC艶消しクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、8000時間後(40年に相当)でもひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0086】
(参考例2)
参考例1において、下塗りコーティング剤を1回塗りして硬化させ、その上に中塗りコーティング剤を2回塗りした以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
(3)中塗りコーティング剤(半艶)
ハマトップFC半艶クリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 41重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 42重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)5重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC半艶クリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)2回塗り
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0087】
(参考例3)
参考例1において、下塗りコーティング剤を1回塗りして硬化させ、その上に中塗りコーティング剤を1回塗りした以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
【0088】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0089】
(参考例4)
参考例1において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は、参考例1と同様にスプレー塗装した。
【0090】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0091】
(参考例5)
参考例2において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は、参考例2と同様にスプレー塗装した。
【0092】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、落ち着いた光沢であった。
【0093】
(参考例6)
参考例2において、下塗り及び中塗りコーティング剤を塗布せず、上塗りコーティング剤を2回塗りした以外は、参考例2と同様にスプレー塗装した。
【0094】
得られた美装仕上げの建築物の外壁面に対して上記サンシャインウェザーメーターによる促進試験を行ったところ、2000時間(10年に相当)までは、ひび割れやクラック、及び変色は無く、耐久性のあることが確認できた。また、試料表面を目視により観察したところ、やや艶が目立つものであった。
【0095】
以上の結果を下記(表1)にまとめて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
上記(表1)から明らかな通り、参考例1〜3においては、下塗りコーティング剤として艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−シリコン重合体を含むものを塗布したため、耐久性が高くなっている。また、最外層に半艶ないしは艶消し層を形成したため、落ち着いた光沢を有していた。
【0098】
また、参考例4〜6においては、吹き付け層の上に直接半艶ないしは艶消し層を形成したため、耐久性は多少低く、光沢も強すぎるという傾向があった。
【0099】
尚、上記実施の形態においては、建築物用壁面材7を建築物壁面に直接形成する場合を例に挙げて説明したが、建築物用壁面材7は、金属パネル、樹脂パネル、無機パネル及びプレキャストコンクリートからなる群から選ばれる少なくとも1つに形成し、それを建築物壁面に貼り付けるようにしてもよい。
【0100】
また、上記実施の形態においては、図1等に示すように、目地部を有さない場合を例に挙げて説明したが、図8に示すように目地部20を有する場合も本発明に含まれる。目地部20は、目地棒を用いた公知の方法によって形成することができる。
【0101】
また、上記実施の形態においては、埋め込み層5の色を茶色(濃い色、明度が低い色)、模様層4aの色をオレンジ色(薄い色、明度が高い色)、模様層4bの色を白みを帯びたベージュ色(さらに薄い色、さらに明度が高い色)としているが、かかる色の組み合わせに限定されるものではない。但し、同一系統の色で統一することにより、違和感の無いものに仕上げることができる。そして、色の組み合わせを変えることにより、建築物用壁面材7の表面の模様として何百種類ものパターンを作ることができ、建築物の壁面の表現が豊かになる。すなわち、例えば、緑色系の濃淡で統一したり、青色系、紫色系、ピンク系、グレー系の濃淡で統一したりすることにより、環境に順応した建築物用壁面材7を得ることができる。
【0102】
また、上記実施の形態においては、互いに異なる色を有する2種類の模様層4a、4bを備える場合を例に挙げて説明したが、模様層は1種類であっても、3種類以上であってもよい。例えば、互いに異なる色を有する4種類以上の模様層を形成する場合には、4頭式等のスプレーガンを用いればよい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、塗装又は塗布した材料が建築物の壁面から剥離・脱落する恐れがなく、かつ、耐久性に優れた、タイルに代わる「新しい感覚」の建築物用壁面材、及び、タイル施工と同程度のコストで当該建築物用壁面材を得ることができる建築物用壁面材の製造方法を提供することができるので、建築物の外壁等の仕上げに対して有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 建築物の外壁等
2 樹脂モルタル
3 ベース層
4a、4b 模様層
5 埋め込み層
7 建築物用壁面材
8 3頭式スプレーガン
9、10、11 タンク
12 第1のリシン系の材料
13 第3のリシン系の材料
14 第2のリシン系の材料
15、16、17 噴出ノズル
18、19 取っ手
20 目地部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層と、前記ベース層の表面に平面状に形成された模様層と、前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく形成され、前記模様層の色と異なる色を有する埋め込み層とを備え、
前記ベース層、模様層及び埋め込み層が、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなる建築物用壁面材。
【請求項2】
前記模様層が、互いに異なる色を有する複数種類の模様層からなる、請求項1に記載の建築物用壁面材。
【請求項3】
前記骨材が、セラミックス骨材、天然石骨材及び焼き付け骨材からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の建築物用壁面材。
【請求項4】
前記合成樹脂がアクリル樹脂エマルジョンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項5】
前記模様層の表面の面積が、前記模様層及び埋め込み層の全体の表面の面積の30〜60%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項6】
前記模様層の色の明度が、前記埋め込み層の色の明度よりも高い、請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項7】
前記ベース層の色が前記埋め込み層の色と同じである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項8】
前記建築物用壁面材の表面に透明性トップコートがさらに塗布されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項9】
前記トップコートの材料が、アクリル−シリコン系塗料又はフッ素系塗料である、請求項8に記載の建築物用壁面材。
【請求項10】
前記建築物用壁面材が、金属パネル、樹脂パネル、無機パネル及びプレキャストコンクリートからなる群から選ばれる少なくとも1つに形成されているか、又は建築物壁面に形成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の建築物用壁面材。
【請求項11】
骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料からなるベース層の表面に、同じく骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料を玉状に吹き付ける工程と、
玉状に吹き付けた前記リシン系の材料を押圧することにより、その表面を平面状に均して模様層を形成する工程と、
前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域に、骨材と合成樹脂とを含み前記模様層の色と異なる色を有するリシン系の材料を、その表面が前記模様層の表面とほぼ面一となるように隙間なく埋め込んで埋め込み層を形成する工程とを含む建築物用壁面材の製造方法。
【請求項12】
前記ベース層の表面に、骨材と合成樹脂とを含むリシン系の材料の異なる色のもの複数種類を、それぞれ玉状に同時に吹き付け、それぞれ玉状に吹き付けた前記複数種類のリシン系の材料を押圧することにより、その表面を平面状に均して前記模様層を形成する、請求項11に記載の建築物用壁面材の製造方法。
【請求項13】
玉状に吹き付けた前記リシン系の材料を押圧した後、その表面を研磨する、請求項11又は12に記載の建築物用壁面材の製造方法。
【請求項14】
前記ベース層の表面上の前記模様層が形成されていない領域へのリシン系の材料の埋め込みが、当該リシン系の材料を塗り付けることによって行われる、請求項11〜13のいずれか1項に記載の建築物用壁面材の製造方法。
【請求項15】
前記埋め込み層を形成した後に、全表面を研磨する工程をさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の建築物用壁面材の製造方法。
【請求項16】
前記建築物用壁面材の表面に透明性トップコートを塗布する工程をさらに含む、請求項11〜15のいずれか1項に記載の建築物用壁面材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64269(P2013−64269A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203427(P2011−203427)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(310007553)株式会社ハマキャスト (7)