説明

張力検出装置および宇宙構造物

【課題】テザーのような紐状体に接触せずに張力を検出すること。
【解決手段】宇宙構造物(1)に連結されたテザー(T)に所定の幅を有する有幅レーザ(23)を照射する有幅レーザ照射部(22a)と、前記有幅レーザ照射部(22a)に対向して配置されたレーザ受光部(22b)とを有する有幅レーザセンサ(22)と、前記有幅レーザセンサ(22)による前記テザー(T)の位置の変動に基づいて、テザー(T)の定常振動の定常振動数(f)を検出する振動数検出手段(C1B)と、前記定常振動数(f)から前記テザー(T)の張力を演算する張力演算手段(C1C)と、を備えた張力検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テザーのような紐状、ワイヤ状の紐状体の張力を検出する張力検出装置および前記張力検出装置を備えた宇宙構造物に関し、特に、太陽電池パネルや宇宙ステーション等の宇宙構造物で好適に使用されるテザー等の紐状体の張力検出装置および宇宙構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間で使用される太陽電池パネルや宇宙ステーション、人工衛星等の宇宙構造物では、宇宙空間での展開や構造物どうしの連結、あるいは、構造物の位置制御、姿勢制御等のために、ケブラー(登録商標)等のアラミド繊維や、アルミを織り込んで作成された紐状、ワイヤー状のテザーと呼ばれる紐状体が使用されることがある。
宇宙開発の技術分野において前記テザーを使用する場合、宇宙空間においてテザーの張力を検出し、所定の張力になるように制御する必要になる。テザーの張力を検出する技術として、下記の従来技術(J01),(J02)が公知である。
【0003】
図7は従来の張力検出装置の説明図である。
(J01)特許文献1(特開2004−230930号公報)記載の技術
特許文献1には、テンションメータ(張力検出装置)を使用してテザーの張力を検出し、テザー送出部でテザーを巻き取るリールの回転速度を調節する技術が記載されている。
図7において、特許文献1記載のテンションメータを含む従来の張力検出装置01は、例えば、重り02によりテザー03に張力04が作用している場合に、テザー03が巻き付けられた3つのローラ06,07,08の変位をひずみゲージ09で検出し、変位に対応する張力を計算することで張力を検出している。
【0004】
(J02)特許文献2(特開2000−128097号公報)記載の技術
特許文献2には、テザー衛星の子衛星が射出された時に、ドラム(巻取り型の展開装置)に巻き取られたテザーを繰り出す技術において、テザーがU字状に巻き付けられたプーリ(41)が設けられた微動ステージ(34)に弾性変形可能な引張りバネ38を設けて微動可能とし、微動ステージ(34)の変位を変位計(39)で計測し、変位計(39)の出力値から張力を推定する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−230930号公報(段落番号「0032」、第6図)
【特許文献2】特開2000−128097号公報(段落番号「0022」〜「0034」、第1図、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術(J01),(J02)では、いずれもテザー(紐状体)の張力を検出する場合に、ローラやプーリをテザーに接触させることで張力を検出している。したがって、従来技術(J01)、(J02)では、テザーに何かが接触しているため、テザーの条件が微小であるが変化してしまう。ところが、宇宙空間で使用される太陽電池パネル等のテザーを使用する構造物では、重力が微小なため、張力が極めて小さく、従来技術(J01),(J02)に示す接触型の張力検出装置では測定値に悪影響があり、誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑み、テザーのような紐状体に接触せずに張力を検出することを第1の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の張力検出装置は、
宇宙構造物に連結されたテザーに所定の幅を有する有幅レーザを照射する有幅レーザ照射部と、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されたレーザ受光部とを有する有幅レーザセンサと、
前記有幅レーザセンサによる前記テザーの位置の変動に基づいて、テザーの定常振動の定常振動数を検出する振動数検出手段と、
前記定常振動数から前記テザーの張力を演算する張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記構成要件を備えた請求項1記載の張力検出装置では、有幅レーザセンサの有幅レーザ照射部は、宇宙構造物に連結されたテザーに所定の幅を有する有幅レーザを照射する。レーザ受光部は、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されている。振動数検出手段は、前記有幅レーザセンサによる前記テザーの位置の変動に基づいて、テザーの定常振動の定常振動数を検出する。張力演算手段は、前記定常振動数から前記テザーの張力を演算する。
したがって、テザーに接触しない有幅レーザセンサの検出結果に基づいて張力を検出することができるので、テザーのような紐状体に接触せずに張力を検出することができる。
【0010】
また、請求項2に記載の張力検出装置は、請求項1に記載の張力検出装置において、
前記テザーの延びる方向に沿って、前記有幅レーザセンサを挟む位置に配置され且つ前記テザーに接触する一対のテザー接触部材と、
前記一対のテザー接触部材間の距離をL、テザーの振動モードをn、前記テザーの線密度をρ、検出された定常振動数をf、テザーの張力をTnとした場合に、Tn=4×L×f×ρ/nに基づいてテザーの張力を演算する前記張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記構成要件を備えた請求項2に記載の張力検出装置では、前記テザーの延びる方向に沿って、前記有幅レーザセンサを挟む位置に配置された一対のテザー接触部材は、前記テザーに接触する。前記張力演算手段は、前記一対のテザー接触部材間の距離をL、テザーの振動モードをn、前記テザーの線密度をρ、検出された定常振動数をf、テザーの張力をTnとした場合に、Tn=4×L×f×ρ/nに基づいてテザーの張力を演算する。したがって、前記式に基づいて、有幅レーザセンサの検出結果から張力を演算することができる。
【0012】
さらに、前記技術的課題を解決するために請求項3の宇宙構造物は、
請求項1または2に記載の張力検出装置を備えたことを特徴とする。
前記構成要件を備えた請求項3の宇宙構造物は、請求項1または2に記載の張力検出装置を備えているので、テザーに接触しない有幅レーザセンサの検出結果に基づいて張力を検出することができるので、テザーのような紐状体に接触せずに張力を検出することができる。
【0013】
また、前記技術的課題を解決するために請求項4の張力検出装置は、
紐状体に所定の幅を有する有幅レーザを照射する有幅レーザ照射部と、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されたレーザ受光部とを有する有幅レーザセンサと、
前記有幅レーザセンサによる前記紐状体の位置の変動に基づいて、紐状体の定常振動の定常振動数を検出する振動数検出手段と、
前記定常振動数から前記紐状体の張力を演算する張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
前記構成要件を備えた請求項4の張力検出装置では、有幅レーザセンサの有幅レーザ照射部は、紐状体に所定の幅を有する有幅レーザを照射する。レーザ受光部は、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されている。振動数検出手段は、前記有幅レーザセンサによる前記紐状体の位置の変動に基づいて、紐状体の定常振動の定常振動数を検出する。張力演算手段は、前記定常振動数から前記紐状体の張力を演算する。
したがって、請求項4の張力検出装置は、紐状体に接触しない有幅レーザセンサの検出結果に基づいて張力を検出することができるので、紐状体に接触せずに張力を検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
前述の本発明は、テザーのような紐状体に接触せずに張力を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1の張力検出装置を有する宇宙構造物の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の宇宙構造物としての太陽電池パネル1は、平板状のパネル本体2を有する。前記パネル本体2の中央部には、鉛直方向に延びるメインポール3が支持されており、前記メインポール3のパネル本体2側には、太陽電池パネル1の位置や姿勢等を制御するための推進器4が配置されている。前記メインポール3の先端には、テザー一端側支持部材6が支持されている。前記パネル本体2の四隅には、それぞれ、テザー他端側支持部材としての張力調節装置7が支持されており、各張力調節装置7と前記テザー一端側支持部材6との間には、テザーT紐状体が張架されている。
【0018】
図2は本発明の実施例1の張力調節装置の要部拡大説明図である。
図2において、本発明の実施例1の張力調節装置7は、パネル本体2に固定支持された装置本体11を有する。前記装置本体11上面には、テザーの送出しや巻取り、張力の調節を行う駆動モータ(図示せず)を内部に収容するモータボックス(位置調節部材)12が支持されている。前記モータボックス12に隣接して支持された一対の回転軸支持部材13,14が配置されており、前記回転軸支持部材13,14の間には、前記モータボックス12の駆動モータにより駆動される回転軸16が回転可能に支持されている。
【0019】
図3は実施例1の張力調節装置の機能を説明する要部説明図である。
図2,図3において、前記回転軸16には、弾性変形可能なテコとしての柔軟レバレッジ(微小変動吸収部)17の一端部が支持されている。前記柔軟レバレッジ17の他端部には、リング状のリール部材(巻取り部材、テザー接触部材)19が支持されており、前記リール部材19には、テザーTが巻き取られる。前記柔軟レバレッジ17、リール部材19等により、張力作用部材(17、19)が構成されている。
図2、図3において、前記張力作用部材(17、19)のメインポール3側には、テザーTを挟み込んで移動を規制するストッパ(テザー位置規制装置)21が配置されている。前記ストッパ21には、固定挟持部21aと、固定挟持部21aに対向して配置され且つ固定挟持部21a側に移動可能な移動挟持部(テザー接触部材)21bとを有する。したがって、移動挟持部21bが移動してテザーTが移動挟持部21bと固定挟持部21aとの間で挟持されることによりテザーの移動が規制される。
【0020】
図4は実施例1の有幅レーザセンサの斜視説明図である。
図2、図3において、前記張力作用部材(17,19)と、ストッパ21との間には、有幅レーザセンサ22が配置されている。図2〜図4において、実施例1の有幅レーザセンサ22は、テザーTに所定の幅を有する有幅レーザ23を照射する有幅レーザ照射部22aと、前記有幅レーザ照射部22aに対向して配置されたレーザ受光部22bとを有する。図4に示すように、実施例1の有幅レーザセンサ22では、テザーTに照射されたレーザ23は遮蔽されるため、レーザ受光部22bでテザーTに対応する位置でレーザ23が検出されず、テザーTが無くレーザ23が通過する部分はレーザ受光部22bで検出される。したがって、テザーTの現在位置を有幅レーザセンサ22で検出でき、テザーTの変動を検出できる。
なお、前記有幅レーザセンサ22としては、例えば、測定領域(幅)が30mm、サンプリングが2400回/秒、分解能が0.01μmの株式会社キーエンス社製のレーザ変異センサLS−7000を使用できる。また、実施例1では、一対のテザー接触部材17,21b間の距離Lが予め計測されており、線密度ρのテザーが使用されている。また、有幅レーザセンサ22の位置は、テザーTが振動した場合の定常振動の主要モードの節からずれた位置、すなわち、主要モードの節を回避するように配置されている。
【0021】
(実施例1の制御部の説明)
図5は実施例1の張力調節装置の制御部が備えている各機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図である。
図5において、張力調節装置7で必要な処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、前記ROMに記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)、ならびにクロック発振器等を有するマイクロコンピュータにより構成されており、前記ROMに記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0022】
(コントローラCに接続された信号出力要素)
コントローラCには、有幅レーザセンサ22やその他等の信号出力要素から出力された信号が入力される。
前記有幅レーザセンサ22は、テザーTの現在位置を検出する。
【0023】
(コントローラCに接続された被制御要素)
前記コントローラCは、次の被制御要素へ制御信号を出力する。
モータ駆動回路D1は、駆動モータM1に信号を出力してモータボックス12の駆動モータM1を正回転方向または逆回転方向に回転駆動する。
ストッパ駆動回路D2は、ストッパ21に信号を出力してストッパ21を駆動する。
【0024】
(コントローラCの機能)
図5において、前記コントローラCは、前記各信号出力要素からの出力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を実現するプログラム(機能実現手段)を有している。前記コントローラCの各種機能を実現するプログラム(機能実現手段)を次に説明する。
張力検出手段C1は、変位履歴記憶手段C1Aと、振動数検出手段C1Bと、張力演算手段C1Cとを有し、有幅レーザセンサ22からの出力信号に基づいて張力を検出する。
変位履歴記憶手段C1Aは、前記有幅レーザセンサ22から出力された変位の履歴データを記憶する。なお実施例1の変位履歴情報記憶手段C1Aは、1秒間分(2400個)のサンプリングデータを記憶可能に構成されている。
【0025】
振動数検出手段C1Bは、スペクトル解析手段C1B1を有し、有幅レーザセンサ22からの出力信号に基づいて、テザーTの定常振動の定常振動数fを検出する。
スペクトル解析手段C1B1は、前記変位履歴記憶手段C1Aに記憶された変位履歴のデータに基づいてスペクトル解析を行う。実施例1のスペクトル解析手段C1B1は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によりスペクトル解析を行う。
張力演算手段C1Cは、前記一対のテザー接触部材19,21b間の距離をL[m](図3参照)、テザーTの振動モードをn、前記テザーTの線密度をρ[kg/m]、検出された定常振動数をf[Hz]、テザーの張力をTn[N]とした場合に、下記の式(1)に基づいてテザーTの張力Tnを演算する。
Tn=4×L×f×ρ/n …(1)
なお、式(1)は、弦の定常振動の式(2)から導出される。
f=v/λ=(n/2L)×(T/ρ)1/2 …(2)
ここで、vは弦の速度、λは波長である。
なお、実施例1では、テザーTの振動では、経験的に1次モードが支配的となるため、簡単化するために、前記振動モードnはn=1に設定されている。なお、n=1に限定されず、設計等に応じて、任意の次数の振動モードを採用したり、複数の振動モードでそれぞれ張力Tnを演算し、張力Tnを各振動モードの強度に応じて合成することも可能である。
【0026】
張力判別手段C2は、目標張力記憶手段C2Aと、張力限界値記憶手段C2Bとを有し、検出された張力Tnに基づいて、テザーTの張力が予め設定された張力目標値A1に保持されているか否かを判別する。
前記目標張力記憶手段C2Aは、テザーTに作用する微小張力の設定値である張力の目標値A1を記憶する。
前記張力限界値記憶手段C2Bは、柔軟レバレッジ17が破損する恐れのあるテザーTの張力の限界値である張力限界値A2(>A1)を記憶する。
張力調節手段C3は、モータ駆動量設定手段C3Aと、モータ駆動手段C3Bとを有し、テザーTの張力が張力目標値A1となるように張力を調節する。
【0027】
前記モータ駆動手段(位置調節部材駆動手段)C3Aは、前記モータ駆動回路D1を介して駆動モータM1を駆動して、柔軟レバレッジ17の回転位置を調節し、テザーTの張力を調節する。なお、実施例1では、前記モータ駆動手段C3Bは、張力Tnと張力目標値A1とに基づいて、駆動モータM1を、張力Tnが張力目標値A1に近づく回転方向に予め設定された最小調整量だけ回転駆動する。
ストッパ制御手段(テザー位置規制手段)C4は、張力Tnが張力限界値A2を超えた場合に、前記ストッパ駆動回路D2を介してストッパ21の駆動を制御して、テザーTをストッパ21で挟み込んでテザーTの位置を規制する。
したがって、前記有幅レーザセンサ22およびコントローラCの各制御手段により実施例1の張力検出装置が構成されている。
【0028】
(実施例1のフローチャートの説明)
なお、検出された張力Tnに基づいて、張力Tnが張力目標値A1となるように駆動モータM1の回転を制御したり、張力Tnが張力限界値A2以上となった場合にストッパ21を作動させる処理については、簡単のため、説明を省略する。
(張力検出処理のフローチャートの説明)
図6は実施例1の張力検出処理のフローチャートである。
図6のフローチャートの各ST(ステップ)の処理は、前記コントローラCのROM等に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理は太陽電池パネル1の他の各種処理と並行してマルチタスクで実行される。
図6に示すフローチャートは太陽電池パネル1の使用開始とともに開始される。
【0029】
図6のST1において、有幅レーザセンサ22がテザーTの変動を検出したか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST2に進み、ノー(N)の場合はST1を繰り返す。
ST2のいて、テザーTの変位を変位計測時間(実施例1では1秒、サンプリングデータ2400個分)分サンプリングする。そして、ST3に進む。
ST3において、サンプリングされた変位履歴のデータを高速フーリエ変換でスペクトル解析して、振動数fを検出する。そして、ST4に進む。
ST4において、検出した振動数f、振動モードn、長さL、線密度ρと、張力Tn=4×L×f×ρ/nを演算する。そして、ST1に戻る。
【0030】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の太陽電池パネル1では、パネル本体2の中央部がメインポール3により支持され、四隅がテザーTにより支持されており、一定の姿勢に保持される。
パネル本体2が太陽光等で熱膨張・熱収縮や推進器4の駆動等により、パネル本体2が湾曲や振動すると、テザーTの張力が強まったり、弱まったりする。このときのパネル本体2の変動に応じたテザーTの変位が有幅レーザセンサ22により検出され、有幅レーザセンサ22の出力から張力Tnが検出される。テザーTの張力が変動すると、張力調節装置7により、駆動モータM1が回転して柔軟レバレッジ17を介して、リール部材19が回転し、テザーTがリール部材19から送り出されたり、巻き取られる。この結果、テザーTの張力が自動的に調節され、テザーTに微小張力が作用した状態に保持される。なお、このとき、駆動モータM1の回転が直接テザーTの張力の増減に作用するのではなく、駆動モータM1とリール部材19との間に介在する柔軟レバレッジ17の弾性変形(しなり)により、駆動モータM1の回転による張力の増減の作用はテコの原理により縮小され、テザーTの張力が増減する。
【0031】
そして、パネル本体2の微小振動や駆動モータM1のオーバーシュート等により、テザーTに微小な張力の変動が発生した場合には、柔軟レバレッジ17の先端部がしなる(撓む、弾性変形する)ので、微小な張力の変動を吸収できる。したがって、微小な張力の変動が発生した場合でも、柔軟レバレッジ17の先端部のしなりにより、テザーTに張力目標値A1程度の張力を作用させることができる。そして、先端部のしなりだけで吸収できない張力の変動が発生すると、柔軟レバレッジ17の根本部分が弾性変形するため、歪みゲージ18で検出でき、駆動モータM1により張力を張力目標値A1に設定できる。
また、急激に張力が増大し、張力限界値A2以上になると、ストッパ21が作動して、急激に大きくなった張力により柔軟レバレッジ17が破損することを防止できる。
この結果、実施例1の張力調節装置7を備えた太陽電池パネル1では、テザーTの張力を高い精度で張力目標値A1に調節することができ、テザーTの破断や弛みを減少させることができる。また、柔軟レバレッジ17のしなりにより、テザーTの張力の微小調節(微小操作)を行うことができる。
【0032】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、柔軟レバレッジ17は設けることが望ましいが、省略することも可能である。
【0033】
(H02)前記実施例において、柔軟レバレッジを介したリール部材をモータで駆動することで、張力の調節をすると共に、テザーの巻取りや送出しも行ったが、これに限定されず、張力の調節と、巻取りを別個の構成とすることも可能である。
(H03)前記実施例において、張力の検出値Aを張力目標値A1に保持する制御を例示したが、これに限定されず、張力目標値A1に幅を持たせ、検出値Aが目標下限値A1a≦検出値A≦目標上限値A1bとなるように制御することも可能である。
(H04)前記実施例において、ストッパ21は省略することも可能である。
【0034】
(H05)前記実施例において、張力の調節を行う際に、駆動モータM1を最小回転量分繰り返し回転させることで調節したが、これに限定されず、歪みゲージの出力に基づいて、駆動モータM1の回転量を演算し、演算された回転量だけ、駆動モータM1を駆動する要に構成することも可能である。
(H06)前記実施例において、宇宙構造物としての太陽電池パネルを例示したが、これに限定されず、テザーを使用する任意の宇宙構造物に適用可能である。例えば、宇宙ステーションや人工衛星、軌道エレベータ等に採用することが考えられる。
(H07)前記実施例において、張力調節装置7や有幅レーザセンサ22をテザーTの他端側にのみ設ける構成を例示したが、これに限定されず、テザー一端側支持部材6に配置したり、両端に配置することも可能である。また、有幅レーザセンサを配置する位置は、端部に限定されず、テザーに沿って、センサを配置可能な任意の位置に変更可能である。
【0035】
(H08)前記実施例において、張力検出装置で張力を検出する対象として宇宙構造物用のテザーを例示したが、これに限定されず、所定の張力で張架され且つ振動する紐状体の張力を検出する場合に使用可能である。例えば、紡績機の糸の張力を検出したり、釣り具の釣り糸の張力を検出することも考えられる。
(H09)前記実施例において、紐状体としてのテザーの径や形状は、実施例で例示したものに限定されず、例えば、幅を有するテープ状(リボン状)のテザーにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の実施例1の張力検出装置を有する宇宙構造物の説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1の張力調節装置の要部拡大説明図である。
【図3】図3は実施例1の張力調節装置の機能を説明する要部説明図である。
【図4】図4は実施例1の有幅レーザセンサの斜視説明図である。
【図5】図5は実施例1の張力調節装置の制御部が備えている各機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図である。
【図6】図6は実施例1の張力検出処理のフローチャートである。
【図7】図7は従来の張力検出装置の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1…太陽電池パネル、2…パネル本体、3…メインポール、4…推進器、6…テザー一端側支持部材、7…張力調節装置、11…装置本体、12…モータボックス、13,14…回転軸支持部材、16…回転軸、17…柔軟レバレッジ、19…リール部材、21…ストッパ、22…有幅レーザセンサ、A1…張力目標値、A2…張力限界値、C…コントローラ、C1…張力検出手段、C1A…変位履歴記憶手段、C1B…振動数検出手段、C1B1…スペクトル解析手段、C1C…張力演算手段、C2…張力判別手段、C2A…目標張力記憶手段、C2B…張力限界値記憶手段、C3…張力調節手段、C3A…モータ駆動手段、D1…モータ駆動回路、D2…ストッパ駆動回路、M1…駆動モータ、T…テザー、Tn…張力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙構造物に連結されたテザーに所定の幅を有する有幅レーザを照射する有幅レーザ照射部と、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されたレーザ受光部とを有する有幅レーザセンサと、
前記有幅レーザセンサによる前記テザーの位置の変動に基づいて、テザーの定常振動の定常振動数を検出する振動数検出手段と、
前記定常振動数から前記テザーの張力を演算する張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする張力検出装置。
【請求項2】
前記テザーの延びる方向に沿って、前記有幅レーザセンサを挟む位置に配置され且つ前記テザーに接触する一対のテザー接触部材と、
前記一対のテザー接触部材間の距離をL、テザーの振動モードをn、前記テザーの線密度をρ、検出された定常振動数をf、テザーの張力をTnとした場合に、Tn=4×L×f×ρ/nに基づいてテザーの張力を演算する前記張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の張力検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の張力検出装置を備えたことを特徴とする宇宙構造物。
【請求項4】
紐状体に所定の幅を有する有幅レーザを照射する有幅レーザ照射部と、前記有幅レーザ照射部に対向して配置されたレーザ受光部とを有する有幅レーザセンサと、
前記有幅レーザセンサによる前記紐状体の位置の変動に基づいて、紐状体の定常振動の定常振動数を検出する振動数検出手段と、
前記定常振動数から前記紐状体の張力を演算する張力演算手段と、
を備えたことを特徴とする張力検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−155664(P2008−155664A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343358(P2006−343358)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)