説明

強化熱可塑性樹脂組成物

【課題】吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる強化熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、特定のゴム質重合体(a)40〜75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60〜95質量%とシアン化ビニル(c)5〜40質量%とを含む単量体混合物25〜60質量部がグラフト重合したグラフト共重合体(A)と、マレイミド系単量体(d)5〜50質量%と、該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体50〜95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)と、相対粘度が1.8〜3.0であるポリアミド樹脂(C)と、無機充填材(D)とを、特定量含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂を含む強化熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は優れた機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性などの特徴を有することから、自動車、電気・電子・機械部品等の工業用品、スポーツ・レジャー用品等多くの用途に使用されている。しかし、ポリアミド樹脂は、塗装性や耐衝撃性が劣るという欠点があり、また、その化学構造に起因して吸水し易く、寸法変化が大きいという問題があった。そのため、これらの欠点を改良するため、過去に多くの研究がなされてきた。
【0003】
例えば、不飽和カルボン酸とスチレンやアクリロニトリルとを共重合してなるカルボン酸基含有共重合体を相溶化剤として用い、ポリアミド樹脂にABS樹脂を配合したゴム変性ナイロン組成物が提案されている(特許文献1参照)。
また、ポリアミド樹脂はガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加することで、成形品の耐熱性、寸法安定性、剛性が飛躍的に向上することが知られており、例えばポリアミド樹脂とABS樹脂を含む組成物にガラス繊維や炭素繊維などを配合した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。この熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、寸法安定性、剛性、耐熱性に優れる、性能バランスの良好な成形品材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−84549号公報
【特許文献2】特開2002−212383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のゴム変性ナイロン組成物では、成形品の耐熱性や剛性が不十分であるという問題があり、例えば、加熱機器、調理家電、熱分析機器など、高温にて荷重がかかるような用途には不向きであった。さらに、意匠性が求められるような用途にも使用し難いという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品は、低荷重時の耐熱性には優れるものの、高荷重時の耐熱性は不十分であった。
高荷重時の耐熱性を向上させるにはポリアミド樹脂の配合量を増やせばよいが、ポリアミド樹脂の配合量を増やすと吸湿時の剛性が低下しやすくなり、ガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加した効果が十分に発揮されない。
また、ガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加した材料は、成形品表面にこれらの無機充填材が浮き出しやすく、特に成形品を塗装した際に毛羽立つなどの外観不良が生じやすく、意匠性を損なう傾向にあった。
【0007】
ところで、ポリアミド樹脂とABS樹脂は非相溶であり、十分な物性や意匠性に優れた成形品を得るためには、特許文献1に記載のように、不飽和カルボン酸とスチレンやアクリロニトリルとを共重合してなるカルボン酸基含有共重合体などの相溶化剤を添加したり、ABS樹脂のグラフト鎖に反応性官能基を導入したりする必要がある。しかし、相溶化剤を添加したり、ABS樹脂のグラフト鎖に反応性官能基を導入したりすると、高荷重時の耐熱性や耐衝撃性が不十分となる場合があった。
従って、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる材料が求められていた。
【0008】
本発明は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる強化熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 酸変性低分子量α−オレフィン共重合体およびエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体からなるゴム質重合体(a)40〜75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60〜95質量%とシアン化ビニル(c)5〜40質量%とを含む単量体混合物25〜60質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)20〜40質量部と、マレイミド系単量体(d)5〜50質量%と、該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体50〜95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)5〜20質量部と、相対粘度が1.8〜3.0であるポリアミド樹脂(C)40〜65質量部と、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計100質量部に対し、無機充填材(D)1〜50質量部とを含有することを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記無機充填材(D)が、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の無機充填材であることを特徴とする[1]に記載の強化熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<強化熱可塑性樹脂組成物>
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と、マレイミド系共重合体(B)と、ポリアミド樹脂(C)と、無機充填材(D)とを含有する。
【0012】
(グラフト共重合体(A))
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)とを含む単量体混合物がグラフト重合したものである。
【0013】
ゴム質重合体(a)は、酸変性低分子量α−オレフィン共重合体およびエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体からなる。
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体としては、ポリエチレンなどのポリオレフィンに、不飽和カルボン酸をグラフト重合させた酸変性低分子量α−オレフィン共重合体などが挙げられる。
ここで、α−オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、およびこれらの共重合体などが挙げられ、不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノアミドなどが挙げられる。
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体としては、酸変性ポリエチレンが好ましい。
【0014】
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体100質量%中におけるα−オレフィン単位の含有量は、80〜99.8質量%、不飽和カルボン酸単位の含有量は0.2〜20質量%であることが好ましい。α−オレフィン単位の含有量が80質量%以上、不飽和カルボン酸単位の含有量が20質量%以下であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の剛性や耐熱性がより向上する傾向にある。一方、α−オレフィン単位の含有量が99.8質量%以下、不飽和カルボン酸単位の含有量が0.2質量%以上であれば、グラフト共重合体(A)を得る際の重合安定性が向上する。
【0015】
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の粘度平均分子量は、1000〜9000であることが好ましく、1500〜4000であることがより好ましい。酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の粘度平均分子量が上記範囲内であれば、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体との分散性および相溶性が優れる。
ここで、粘度平均分子量は、JIS K 7367−3に準じ、溶媒はデカヒドロナフタレン、温度は135℃の条件で測定した値である。
【0016】
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の含有量は、ゴム質重合体(a)100質量%中、1〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の含有量が1質量%以上であれば、グラフト共重合体(A)とポリアミド樹脂(C)とが相溶しやすくなるため、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより向上する。さらに、別途、相溶化剤を添加する必要がないため、高荷重時の耐熱性もより向上する。一方、酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の含有量が40質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性がより向上する。ただし、酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の含有量が40質量%を超えて配合しても、グラフト共重合体(A)とポリアミド樹脂(C)の相溶性については向上しないばかりか、逆に、成形品の耐衝撃性の低下や外観不良を生じる場合がある。
【0017】
一方、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体としては、非共役ジエン成分として、1,4−ヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を含むものが好ましい。
また、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体は架橋していることが好ましい。エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体が架橋していれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および耐薬品性がより向上する。
【0018】
芳香族ビニル(b)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
これら芳香族ビニル(b)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
単量体混合物100質量%中の芳香族ビニル(b)の含有量は、60〜95質量%であり、65〜80質量%であることが好ましい。単量体混合物中の芳香族ビニル(b)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0020】
シアン化ビニル(c)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
これらシアン化ビニル(c)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
単量体混合物100質量%中のシアン化ビニル(c)の含有量は、5〜40質量%であり、20〜35質量%であることが好ましい。単量体混合物中のシアン化ビニル(c)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0022】
単量体混合物には、上記の芳香族ビニル(b)およびシアン化ビニル(c)の他に、これらと共重合可能な他の単量体(e)を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
他の単量体(e)としては、アクリル酸、メタアクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のα,β−不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物類などが挙げられる。
これら他の単量体(e)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0023】
グラフト共重合体(A)は、上述したゴム質重合体(a)の存在下に単量体混合物をグラフト重合させることで得られる。
グラフト重合時のゴム質重合体(a)の割合は40〜75質量部であり、単量体混合物の割合は25〜60質量部である(ただし、ゴム質重合体(a)と単量体混合物の合計を100質量部とする。)。ゴム質重合体(a)の割合が40質量部以上、単量体混合物の割合が60質量部以下であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。一方、ゴム質重合体(a)の割合が75質量部以下、単量体混合物の割合が25質量部以上であれば、グラフト共重合体(A)とマレイミド系重合体(B)との相溶性が良好となり、成形品の耐衝撃性が向上する。
グラフト重合時のゴム質重合体(a)の割合は50〜70質量部であることが好ましく、単量体混合物の割合は30〜50質量部であることが好ましい。
【0024】
グラフト共重合体(A)は、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造され、容易に重合できる点では、乳化重合が好ましい。
以下に、グラフト共重合体(A)を乳化重合により製造する方法の一例を示す。
【0025】
(i)まず、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体および酸変性低分子量α−オレフィン共重合体の所定量を溶剤に溶解し、これに乳化剤を添加して乳化させて、ゴム質重合体含有液を調製する。
溶剤としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環族炭化水素溶剤を用いることができる。
乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、不均化ロジン酸カリウム等のアニオン系界面活性剤を用いることができる。乳化剤の添加量は、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体100質量部に対して、1〜10質量部とするのが好ましい。
なお、乳化剤は、例えばオレイン酸をエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体と酸変性低分子量α−オレフィン共重合体溶液に混合しておき、その後、水酸化カリウム水溶液を添加して、この混合溶液中でオレイン酸カリウムを生成させることにより添加することもできる。
【0026】
(ii)ゴム質重合体含有液に水を添加した後、これを十分に撹拌し、溶剤を留去することにより、平均粒子径0.2〜1.0μmのラテックスを得る。
【0027】
(iii)次いで、このラテックス中のエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体100質量部に対して、ジビニルベンゼン等の多官能性化合物を5.0質量部以下、ジ−t−ブチル−オキシトリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物を0.1〜5.0質量部添加し、60〜140℃で、0.5〜5.0時間程度反応させる。これによりエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体架橋物(以下、単に「共重合体架橋物」という。)のラテックスを調製する。
【0028】
この共重合体架橋物は、強化熱可塑性樹脂組成物の物性バランスがより良好になることから、ゲル含有量が30〜90質量%、平均粒子径が0.2〜1.0μmであることが好ましい。共重合体架橋物のゲル含有量が30質量%以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより向上する上に、表面外観が良好になる。しかし、共重合体架橋物のゲル含有量が90質量%を超えると、成形品の耐衝撃性が低下する傾向にある。
また、共重合体架橋物の平均粒子径が0.2μm以上であれば、成形品の耐衝撃性がより向上し、1μm以下であれば、成形品の表面外観が良好になる。
【0029】
ここで、共重合体架橋物のラテックスのゲル含量は以下の方法により測定される。
まず、共重合体架橋物のラテックスを希硫酸にて水洗、乾燥した後、これを1g採取し、200mLのトルエン中に115℃で5時間浸漬する。次いで、200メッシュのステンレス金網にて濾過後、得られた残渣を乾燥する。乾燥後、残渣を秤量し、次式によってゲル含有量を求める。
ゲル含有量(%)=(乾燥後の残渣質量/トルエン浸漬前の試料の質量)×100
【0030】
(iv)次いで、共重合体架橋物のラテックスに、所定量の芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)を含む単量体混合物を添加し、適宜加熱してグラフト重合させる。
【0031】
(v)グラフト重合終了後には、必要に応じて酸化防止剤を添加した後、得られたグラフト共重合体ラテックスに凝固剤を添加して、樹脂固形分を凝固させる。
凝固剤としては、例えば、硫酸、酢酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の水溶液が挙げられる。凝固剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
(vi)得られた樹脂固形分を分離し、これを水洗、脱水、乾燥することによりグラフト共重合体(A)を得る。
【0033】
グラフト共重合体(A)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、20〜40質量部であり、23〜35質量部であることが好ましい。グラフト共重合体(A)の含有量が20質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。一方、グラフト共重合体(A)の含有量が40質量部以下であれば、成形品の耐熱性および機械的物性が向上する。
【0034】
(マレイミド系共重合体(B))
マレイミド系共重合体(B)は、マレイミド系単量体(d)と、該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体(f)とが共重合したものである。
【0035】
マレイミド系単量体(d)としては、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドなどが挙げられる。これらの中でも、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドが好ましく、N−シクロヘキシルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドがより好ましい。
これらマレイミド系単量体(d)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
マレイミド系単量体(d)の含有量は、マレイミド系単量体(d)と他の単量体(f)の合計を100質量%としたときに、5〜50質量%であり、20〜50質量%であることが好ましい。マレイミド系単量体(d)の含有量が5質量%以上であれば、マレイミド系共重合体(B)の耐熱性が高くなるため、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。一方、マレイミド系単量体(d)の含有量が50質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0037】
マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体(f)としては、グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した芳香族ビニル(b)、シアン化ビニル(c)、芳香族ビニル(b)およびシアン化ビニル(c)と共重合可能な他の単量体(e)などが挙げられる。
これら他の単量体(f)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
他の単量体(f)の含有量は、マレイミド系単量体(d)と他の単量体(f)の合計を100質量%としたときに、50〜95質量%であり、50〜80質量%であることが好ましい。他の単量体(f)の含有量が50質量%以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。一方、他の単量体(f)の含有量が95質量%以下であれば、マレイミド系共重合体(B)の耐熱性が高くなるため、成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。
【0039】
マレイミド系共重合体(B)を製造する方法としては、塊状重合が好ましい。
ここでいう塊状重合では、少量の有機溶媒が存在する重合を含む。有機溶媒としては、それ自体が重合せず、単量体の重合を妨げるものではなく、かつ、マレイミド系共重合体(B)を溶解できるものが好ましい。そのような有機溶媒の具体例としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0040】
マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は、90000〜200000であることが好ましい。マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が90000以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより向上する傾向にある。一方、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が200000以下であれば、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となるとともに、フィラーの毛羽立ちが生じにくく、意匠性に優れた成形品が得られやすくなる傾向にある。
なお、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定された、ポリスチレン換算の質量平均分子量である。
【0041】
マレイミド系共重合体(B)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、5〜20質量部である。マレイミド系共重合体(B)の含有量が5質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性、塗装密着性、吸湿時の剛性が向上する。一方、マレイミド系共重合体(B)の含有量が20質量部以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。
【0042】
(ポリアミド樹脂(C))
ポリアミド樹脂(C)としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸とから得られるポリアミドが挙げられる。
ここで、ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−または1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族ジアミンが挙げられる。
一方、ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0043】
また、ポリアミド樹脂(C)として、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムなどのラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから得られるポリアミドおよびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド、さらにはポリアミドをハードセグメントとし、かつポリエーテルをソフトセグメントとするポリアミドエラストマーなどを用いてもよい。
【0044】
これらの中でも、ポリアミド樹脂(C)としては、工業的に安価かつ大量に製造されており、入手しやすい点で、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリドデカアミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、およびこれらの共重合体、例えばナイロン6とナイロン66の共重合体(この場合の共重合体を「ナイロン6/66」と表記する。以下、同様。)、ナイロン6/610、ナイロン6/12、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610/12、およびこれらの混合物などが好ましい。また、ジアミンとしてビス(p−アミノシクロヘキシル)メタンと、ジカルボン酸としてテレフタル酸やイソフタル酸とから得られるポリアミドもポリアミド樹脂(C)として好ましい。
【0045】
ポリアミド樹脂(C)は、JIS K6810に準拠して測定した相対粘度が1.8〜3.0であり、1.8〜2.7であることが好ましく、1.8〜2.5であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(C)の相対粘度が1.8以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。一方、ポリアミド樹脂(C)の相対粘度が3.0以下であれば、ポリアミド樹脂(C)と無機充填材(D)との相互作用が良好に保持され、成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。また、成形品を塗装する際に、無機充填材(D)が毛羽立ち、意匠性が低下するのを抑制できる。
【0046】
ポリアミド樹脂(C)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、40〜65質量部であり、50〜65質量部であることが好ましい。ポリアミド樹脂(C)の含有量が40質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性および耐衝撃性が向上する。加えて、成形品を塗装する際の毛羽立ちを抑制できる。一方、ポリアミド樹脂(C)の含有量が65質量部以下であれば、成形品の吸湿時の剛性および塗装密着性が向上する。
【0047】
(無機充填材(D))
無機充填材(D)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、該無機繊維を金属コーティングしたもの、ウォラストナイト、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の無機物、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属や合金、およびそれらの酸化物の繊維、粉末などが挙げられる。これらの中でも、少ない配合で高い剛性が得られることからウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状の無機充填材が好ましく、成形品の剛性と耐衝撃性のバランスから炭素繊維が特に好ましい。
これら無機充填材(D)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
無機充填材(D)は、その表面をカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤)などの表面処理剤で処理されていてもよい。
また、無機充填材(D)としてガラス繊維や炭素繊維を用いる場合、これらは、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0049】
無機充填材(D)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計100質量部に対し、1〜50質量部であり、5〜30質量部であることが好ましい。無機充填材(D)の含有量が1質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐熱性および剛性が向上する。一方、無機充填材(D)の含有量が50質量部以下であれば、成形品を塗装する際の毛羽立ちが目立ちにくくなり、意匠性を良好に維持できる。また強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0050】
(その他の成分)
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、その物性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば、滑剤、顔料、染料、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤を含有してもよい。
【0051】
(製造方法)
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、グラフト共重合体(A)、マレイミド系共重合体(B)、ポリアミド樹脂(C)、および無機充填材(D)と、必要に応じて他の成分とを溶融混練することにより得られるが、この方法に限定されない。
溶融混練に用いる溶融混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられ、中でも、汎用性の点から、一軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0052】
以上説明したように、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、上述したグラフト共重合体(A)と、マレイミド系共重合体(B)と、ポリアミド樹脂(C)と、無機充填材(D)とを特定量含有するので、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる。
【0053】
また、強化熱可塑性樹脂組成物に含まれるグラフト共重合体(A)は、酸変性低分子量α−オレフィン共重合体およびエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体からなるゴム質重合体(a)の存在下に、単量体混合物がグラフト重合してなるものであるため、ポリアミド樹脂(C)との相溶性に優れる。従って、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は相溶化剤を含有しなくてもグラフト共重合体(A)とポリアミド樹脂(C)は良好に相溶するが、必要であれば相溶化剤を含有してもよい。ただし、相溶化剤の含有量が少ないほど本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性や耐衝撃性が向上する。従って、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は相溶化剤を含有しないのが好ましい。
【0054】
<成形品>
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などの成形加工法により、強化熱可塑性樹脂組成物を成形加工してなる。成形加工法としては、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
本発明により得られる成形品は、剛性(特に吸湿時の剛性)、耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、良好な塗装外観も有するため、電気部品、電子部品、機械部品および車両部品として好適に使用できる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的に実施例を示す。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の例では、下記の成分を用いた。
【0056】
[グラフト共重合体(A1)の製造]
エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム質重合体(三井化学株式会社製、「TP3180」、エチレン/プロピレン/非共役ジエン比率(質量%)=70/28/2)100質量部をn−ヘキサン566質量部に溶解した後、酸変性ポリエチレン(三井化学株式会社製、「ハイワックス2203A」、粘度平均分子量:2700 酸価:30)12質量部を添加し、さらにオレイン酸4.5質量部を加え、完全に溶解させて重合体溶液を調製した。これとは別に、蒸留水700質量部に水酸化カリウム0.9質量部を溶解した水酸化カリウム水溶液を調製し、これを60℃に加熱した。この水酸化カリウム水溶液に上記重合体溶液を徐々に添加して乳化させた後、ホモミキサーにより撹拌し、ラテックスを得た。次いで、このラテックスに、エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム質重合体100質量部に対してジビニルベンゼン1.5質量部、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0質量部を添加し、120℃で1時間反応させて、ゴム質重合体(a)のラテックス(ゲル含有量:70%、平均粒子径:0.48μm)を得た。
得られたゴム質重合体(a)のラテックス70質量部(固形分換算)と、蒸留水155質量部(エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム質重合体ラテックス中の水も含む)と、ピロリン酸ナトリウム0.15質量部と、硫酸第一鉄七水塩0.006質量部と、フラクトース0.35質量部とを仕込み、内温を80℃に保った。これに、スチレン21質量部およびアクリロニトリル9質量部からなる単量体混合物と、クメンハイドロパーオキサイド0.6質量部とを、各々別の供給口から140分かけて同時に滴下して重合を行った。この間、内温は80℃で一定に制御した。滴下終了後、さらに100分間80℃のまま保持した後に冷却してグラフト重合を完結させ、反応生成物のラテックスを得た。
得られた反応性生物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(A1)を得た。
【0057】
[グラフト共重合体(A2)の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水170質量部と、ポリブタジエンのラテックス(ゲル含有量:95%、平均粒子径:0.3μm)65質量部(固形分換算)と、スチレン70質量%およびアクリロニトリル30質量%からなる単量体混合物35質量部と、不均化ロジン酸カリウム1質量部と、水酸化ナトリウム0.01質量部と、ピロリン酸ナトリウム0.45質量部と、硫酸第1鉄0.01質量部と、デキストローズ0.57質量部と、t−ドデシルメルカプタン0.07質量部と、クメンハイドロパーオキサイド1.0質量部とを仕込み、60℃から反応を開始し、途中で75℃まで昇温し、2時間半後乳化グラフト重合を完結させ、反応生成物のラテックスを得た。
得られた反応性生物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(A2)を得た。
【0058】
[マレイミド系共重合体(B)の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器を窒素置換した後、該重合反応器に、アクリロニトリル15質量部、スチレン54質量部、およびN−フェニルマレイミド31質量部からなる混合液と、メチルエチルケトン30質量部、および重合開始剤として1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)0.103質量部からなる混合液とを別々の配管から重合反応器に連続的に滴下供給した。重合温度100℃および滞留時間90分の条件の下で共重合反応を行った。
次いで、この反応により得られた重合反応液を、重合反応器の底部に備えたギヤポンプにより連続的に抜き取り、その重合反応液を150℃に保持した熱交換機にて約20分滞在させた。その後、バレル温度230℃に制御した2ベントタイプの30mm二軸押出機に導入し、その二軸押出機における大気圧の第1のベント部と、0.0027MPaの第2のベント部とで揮発成分を脱揮した。そして、脱揮したペレタイザーにてペレット化して、マレイミド系共重合体(B)のペレットを得た。
得られたマレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量を、GPC測定装置(東ソー株式会社製)にて、溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。その結果、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は165000であった。
【0059】
[ポリアミド樹脂(C)]
ポリアミド樹脂(C)として、以下のポリアミド樹脂(C1)〜(C3)を用いた。
・ポリアミド樹脂(C1):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1011FB」、相対粘度=2.10)。
・ポリアミド樹脂(C2):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1013B」、相対粘度=2.56)。
・ポリアミド樹脂(C3):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1022B」、相対粘度=3.57)。
なお、ポリアミド樹脂(C1)〜(C3)の相対粘度は、JIS K6810に準拠して測定した値である。
【0060】
[無機充填材(D)]
無機充填材(D)として、炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、「TR06NE」)を用いた。
【0061】
[スチレン系共重合体の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水120質量部と、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003質量部と、スチレン68.0質量%およびアクリロニトリル32.0質量%からなる単量体混合物100質量部と、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部と、過酸化ベンゾイル0.15質量部と、リン酸カルシウム0.5質量部とを添加し、110℃で10時間懸濁重合した後、冷却して重合を完結させた。水洗した後、乾燥してスチレン系共重合体を得た。
得られたスチレン系共重合体の質量平均分子量について、マレイミド系共重合体(B)と同様にして測定したところ、158000であった。
【0062】
[酸変性スチレン系共重合体の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水200質量部と、過硫酸カリウム0.3質量部と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部とを仕込み、65℃にした。これにスチレン71質量部、アクリロニトリル24質量部、メタクリル酸5質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.4質量部からなる単量体混合物を5時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、70℃に昇温し、さらに60分間保持した後に冷却してグラフト重合を完結させ、反応生成物のラテックスを得た。
得られた反応性生物のラテックスを酢酸カルシウムで凝固、水洗した後、乾燥して酸変性スチレン系共重合体を得た。
【0063】
[実施例1〜8、比較例1〜7]
グラフト共重合体(A1、A2)、マレイミド系共重合体(B)、ポリアミド樹脂(C1、C2、C3)、無機充填材(D)、スチレン系共重合体、酸変性スチレン系共重合体を表1、2の組成(質量部)で混合し、30mm二軸押出し機(株式会社神戸製鋼所製「KTX−30」)を用いて270℃で溶融混練し、ペレット状の強化熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた強化熱可塑性樹脂組成物を射出成形して各種成形品(試験片)を作成し、引張特性、剛性、耐熱性、耐衝撃性、吸湿後の剛性、塗装密着性、意匠性を、以下の方法により評価した。評価結果を表1、2に示す。
【0064】
[引張特性]
ISO527試験法に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、引張強度(MPa)および引張伸び(%)を測定した。
【0065】
[剛性]
ISO試験法178に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0066】
[耐熱性]
ISO試験法75に準拠し、1.83MPa、4mm、フラットワイズ法の条件で、荷重たわみ温度(℃)を測定し、これを高荷重時の耐熱性とした。
【0067】
[耐衝撃性]
ISO試験法179に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、Vノッチ付きシャルピー衝撃強さ(kJ/m)を測定した。
【0068】
[吸湿時の剛性]
ISO試験法291に準拠し、試験片を23℃、50%RHで平衡状態になるまで状態調整した後、ISO試験法178に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で測定した曲げ弾性率(MPa)を、吸湿時の剛性とした。
【0069】
[塗装密着性]
100mm×100mmの試験片(厚さ2mm)に、エアブラシを用いてアクリル塗料を約30μmの膜厚になるように塗布し、60℃、30分の条件下で乾燥させ、試験片上に塗膜を形成した。
ついで塗膜表面に、カッターで試験片に達する切れ目を入れて、1mm間隔で100個の碁盤目を形成し、セロハンテープを密着させた後、180度方向に引き剥がす剥離試験を行った。剥離試験後に塗膜表面に残存した碁盤目の数を数え、以下の評価基準にて塗装密着性の評価を行った。
◎:碁盤目の数が100個。
○:碁盤目の数が95個以上、100個未満。
△:碁盤目の数が85個以上、95個未満。
×:碁盤目の数が85個未満。
【0070】
[意匠性]
塗装密着性と同様にして、試験片にアクリル塗料を塗布し、塗膜を形成した。このときの試験片の外観を目視にて観察し、無機充填材(D)の浮き出しによる毛羽立ちの数を数え、以下の評価基準にて意匠性の評価を行った。
◎:毛羽立ちの数が0個。
○:毛羽立ちの数が1個以上、5個未満。
△:毛羽立ちの数が5個以上、10個未満。
×:毛羽立ちの数が10個以上。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1から明らかなように、各実施例の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品(試験片)は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れていた。
【0074】
これに対し、表2に示すように、ポリアミド樹脂(C2)の含有量が35質量部と少ない比較例1の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性、耐衝撃性、意匠性に劣っていた。
ポリアミド樹脂(C2)の含有量が70質量部と多い比較例2の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、吸湿時の剛性が低く、塗装密着性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)の含有量が30質量部と多い比較例3の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
相対粘度が3.57であるポリアミド樹脂(C3)を用いた比較例4の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性、意匠性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)の代わりに、スチレン系共重合体を用いた比較例5の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、吸湿時の剛性が低く、高荷重時の耐熱性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)を含有しない比較例6の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、吸湿時の剛性が低く、塗装密着性に劣っていた。
グラフト共重合体(A1)の代わりに、酸変性低分子量α−オレフィン共重合体を含まないジエン系のゴム質重合体を用いて製造したグラフト共重合体(A2)を用いた比較例7の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性低分子量α−オレフィン共重合体およびエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体からなるゴム質重合体(a)40〜75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60〜95質量%とシアン化ビニル(c)5〜40質量%とを含む単量体混合物25〜60質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)20〜40質量部と、
マレイミド系単量体(d)5〜50質量%と、該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体50〜95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)5〜20質量部と、
相対粘度が1.8〜3.0であるポリアミド樹脂(C)40〜65質量部と、
グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)の合計100質量部に対し、無機充填材(D)1〜50質量部とを含有することを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(D)が、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の無機充填材であることを特徴とする請求項1に記載の強化熱可塑性樹脂組成物。


【公開番号】特開2012−201812(P2012−201812A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68226(P2011−68226)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】