説明

弾性舗装におけるエンボス層の改修材及び改修方法

【課題】基盤上に少なくとも弾性層、エンボス層及びトップコート層を積層してなる弾性舗装の表面が損傷を受け、露出し、変褪色したエンボス層を簡単かつ安価に改修する方法、及びこの方法に有効な改修材を提供することである。
【解決手段】有機溶剤中に1〜20重量%の有機イソシアネート化合物、好ましくはクルードMDI、及び油溶性染料を含有してなる弾性舗装エンボス層の改修材、及び該改修材を弾性舗装層の表面に露出し変褪色したエンボス層に塗布することを特徴とする弾性舗装表面の改修方法である。改修材は、油溶性染料により、エンボス層の変褪色以前の原色相に調色されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性舗装表面の損傷により露出して変褪色したエンボス層の改修に用いる改修材及びこれを用いる弾性舗装表面の改修方法に関する。より詳細には、基盤上に少なくとも弾性層、エンボス層及びトップコート層を積層してなる陸上競技場等の弾性舗装表面において、最外層のトップコート層表面が何らかの原因により剥離し、露出して変褪色したエンボス層を改修させるための改修材、及びこれを露出部分に塗布し舗装表面を改修させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一般的な陸上競技場等の弾性舗装は、基盤上に少なくとも弾性層、エンボス層及びトップコート層を積層して構成される。
このような構成からなる弾性舗装の表面は、実用に供されると摩耗、老朽、劣化し、このような状況で供用中に何らかの要因により、表面のトップコート層が損傷を受け、エンボス層が露出する。露出したまま放置されるとエンボス層は、天日・雨水に曝され、程度の差こそあれ変褪色して、舗装表面の外観を損なうことになり、好ましくない。
係る状況を改修するために、損傷部分を含む大掛りな改修施工を行うと、その費用も大きく嵩んでしまうことになる。
このような弾性舗装表面を、簡単な施工で安価に改修しようとする提案はなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、基盤上に少なくとも弾性層、エンボス層及びトップコート層を積層してなる弾性舗装の表面が損傷を受け、露出し、変褪色したエンボス層を簡単かつ安価に改修する方法、及びこの方法に有効な改修材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
1)有機溶剤中に1〜20重量%の有機イソシアネート化合物、及び油溶性染料を含有してなる弾性舗装のエンボス層の改修材、
2)有機イソシアネート化合物が、クルードMDIである1項記載の改修材、及び
3)弾性舗装の表面に露出して変褪色したエンボス層に1項記載の改修材を塗布することを特徴とする弾性舗装表面の改修方法、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の改修材及び改修方法は、摩耗、老朽、劣化した弾性舗装の最外層であるトップコート層が、なんらかの原因で損傷を受け、その結果、その下の層であるエンボス層が露出し、変褪色して弾性舗装表面の外観が大きく損なわれたような時に、エンボス層及び弾性舗装表面を大規模な改修工事によらず、簡単、かつ安価に改修できるので、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の改修材及び改修方法の対象である弾性舗装は、主として陸上競技場や運動場及びその周辺に敷設される弾性舗装であり、基盤上に少なくとも弾性層、上塗層、エンボス層及びトップコート層を積層してなるポリウレタン系弾性舗装である。具体的には、地盤上にコンクリートやアスコン等の層、各種トッピング材や骨材等を含むポリウレタン弾性層、上塗層、エンボス層及びトップコート層を順次積層してなるものである。
本発明に係るエンボス層は、弾性舗装表面をエンボス仕上げするために敷設される層である。この層は、通常、カラーウレタンと称される、着色剤として、例えば、黒色の場合には、カーボンブラック系、白色の場合、チタン系、緑色の場合、酸化クローム系、褐色系では酸化鉄系などの無機顔料を用いて、その他、調色の為、有機顔料が用いられることもある着色されたポリウレタン材料を用いて敷設されている。
このエンボス層は、ローラーエンボスやスティップル等で塗装・仕上げされている。
【0007】
更に、エンボス層の上には、弾性舗装表面の耐久性等を向上させるため、トップコート層が形成されている。このトップコート層は、トップコート材をエンボス層の上に直接、又は必要に応じて設けられるプライマー層の上に塗工することにより敷設される。このトップコート材は、例えば、アクリルウレタン、アクリルエマルジョンなどであり、施工の目的に応じて適宜選択されている。通常、トップコート層の厚みは、0.05〜0.3mmである。
このトップコート層を設けることにより、弾性舗装の耐久性と耐候性は一段と向上する。トップコート材には使用目的に応じて、上記の着色剤で着色された材料が使用されている。
【0008】
上記のようにトップコート層には、耐久性及び耐候性に優れた材料が用いられているが、弾性舗装は使用年月の経過とともに摩耗、老朽化により劣化し、そのような状況下で使用されている場合、例えば、陸上競技場の走行レーンなどで、競技者のスパイクシューズでスパイクされ、表面に生じた傷が次第に拡大しトップコート層が剥離し、エンボス層が露出することなどがある。露出したエンボス層は、天日・雨水に曝され、その部分が変褪色を起し、弾性舗装表面の外観を損なってしまう。
エンボス層は、通常、無機顔料又は無機顔料と有機顔料の混合着色剤を含むウレタン材料が使用されているが、舗装表面に露出すると、ポリウレタンの変褪色により変色を起し、舗装表面の他の部分と色調の異なるものになってしまう。
【0009】
本発明のエンボス層の改修材は、イソシアネート化合物、油溶性染料及び溶剤を含んで構成される材料である。イソシアネート化合物としては、ポリウレタン材料として好適な、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート及びこれらのプレポリマーが使用される。例えば、4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−又は2,4’−MDI)、2,4’−又は2,6’−トリレンジイソシアネート(2,4’−又は2,6’−TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、その他ポリウレタン原料として使用されるイソシアネート化合物、及びこれらのイソシアネート化合物の変性体やプレポリマーが挙げられる。好ましく用いられるイソシアネート化合物は4,4’−又は2,4’−MDIであり、MDIとしては、4,4’−体及び/又は2,4’−体を主成分とする純品も使用できるが、純品のほかに3核体以上の多核体を含有するクルードMDIが好ましく用いられる。イソシアネート化合物として、特に好ましくはクルードMDIである。
【0010】
油溶性染料とは、水溶性がなく鉱油、油脂などに可溶の染料であり、例えば、「染料便覧」丸善、1970年7月20日発行に記載されている一般に有機溶剤に可溶の染料であり、C.I.ソルベントカラーとして各種色相の染料が市販されている。油溶性染料の外、調色のため溶剤に可溶の有機顔料が含まれていてもよい。
有機溶剤は、油溶性染料、有機顔料等の着色剤、ならびに有機イソシアネート化合物、特にクルードMDIを溶解し、常温で容易に揮発し、イソシアネート化合物の−NCO基と反応性の活性水素を有しない溶剤であれば、特に限定されず使用することができる。例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどが使用できる。溶剤は2種以上の混合物であってもよい。
クルードMDIなどの有機イソシアネート化合物の有機溶剤中の含有量は、1〜20重量%である。上記の範囲未満であると、改修材の塗膜とトップコート材との接着性が低下する。一方、上記の範囲を超えると塗膜物性が低下し、改修材を塗布した塗膜がエンボス層及びトップコート層との追随性が劣り好ましくない。
また、油溶性染料などの着色剤の有機溶剤中での含有量は、本発明の舗装表面改修材が弾性舗装の表面に露出し変褪色したエンボス層を変褪色する以前の色相に改修するものであるから、改修材を塗布して得られる部分の色相が元のエンボス層と近似の色相となるに適切な油溶性染料を選択し、その含有量が決められる。改修材の色相は2種以上の油溶性染料及び/又は有機性顔料等により調色されてもよい。
上記の各材料を使用する改修材は、有機イソシアネート化合物及び油溶性染料が有機溶剤に溶解するので、これらを混合し、攪拌して容易に得られる。
【0011】
更に、上記改修材をエンボス層に塗布した後、使用するトップコート材は、特に限定されるものではなく、通常、弾性舗装に使用されるアクリルウレタン系トップコート材が使用できる。トップコート材としては、有機顔料で着色されたものが、弾性舗装表面の色に合わせて適宜選択して使用される。
【0012】
本発明の弾性舗装の改修方法は次のようである。
例えば、陸上競技場等の弾性舗装表面がスパイクされて、トップコート層から露出し、変褪色したエンボス層を次のように改修する。
露出して変褪色したエンボス層及びその周辺の改修の必要なトップコート層を含む弾性舗装表面を清掃する。場合によっては、搭乗型のスイパーなどで清掃する。その後、エンボス層の元の色相に調色して準備した上記改修材を、変褪色したエンボス層及びその周辺上にローラー刷毛等で塗布する。上記組成の改修材は、清掃した変褪色したエンボス層及びその周辺に5〜300g/mの付着量で塗布すれば、エンボス層の色及び塗布後の塗膜の性状が所望の状態となるように弾性舗装表面が改修がされる。
塗布後、改修材の溶剤が揮散して乾燥し、油溶性染料を含む有機イソシアネート化合物(クルードMDIなど)が硬化し塗装面が形成される。
この塗装面が一部硬化又は完全に硬化した後、その面上にトップコート材を塗布する。トップコート剤は、元の舗装表面と同色のトップコート材が選択して使用されるので、舗装表面を改修することができる。
【0013】
以上の本発明の改修材及び方法により、老朽化して損傷して変褪色したエンボス層を改修するが、改修材に含有されている油溶性染料は、改修材が硬化して形成された塗装面に含まれると共に徐々に(次第に)変褪色したエンボス層に含浸した状態に改修され、改修した部分は、優れた色調となる。
改修材の塗装面上には、更にトップコート層が塗布されるので、改修後の弾性舗装面は耐候性、耐久性とも良好であるが、例え、改修後、トップコート層が何らかの損傷を受けて、改修したエンボス層が露出しても、改修前の変褪色面は露出しない。
【実施例】
【0014】
実施例1
弾性舗装がスパイクされエンボス表面が露出し、淡黄緑色に変褪色していた。スパイクされ変褪色したエンボス層とその周辺部の損傷したトップコート層を取り除き、清掃した。
元のエンボス層は濃青色のカラーウレタンの色調であった。50重量部の溶剤(トルエン)にクルードMDI(コスモネートM−200;三井化学ポリウレタン(株))2重量部にOil Blue 5502(カラーインデックスNo.61554;アントラキノン系油溶性染料)0.5重量部を加えて、元のカラーウレタンの色と略同色の混合物を調製して改修材とした。
この改修材を、前記の清掃済みの露出したエンボス層に塗布した。混合物の付着量は約100g/mとした。塗布後、乾燥及び一部硬化した後、その上にトップコート剤(トップEX:アクリルウレタン系トップコート材;大成イーアンドエル社(株))を塗布量0.27g/mで塗布した。
使用したトップコート材の改修材塗装面への接着は良好であった。
又、改修材に含まれる油溶性染料のエンボス層への移行の程度を調べる為、改修材とは色の異なるカラーウレタンを用いてエンボス層のサンプルを調製し、このエンボス層の上に改修材を塗布し、塗布後、種々の経過時間後にサンプルを切断し、その切断面で油溶性染料のエンボス層への浸透の度合いを確認した。2週間後、1mm浸透しているのが確認できた。2週間後に改修材を塗装した膜を削り取ったが、油溶性染料はエンボス層に含浸し、エンボス層の変褪色は改修された状態であった。
別途、変褪色したエンボス層に、顔料を含有するカラーウレタンを塗装して顔料の移行試験を行ったが、顔料はエンボス層に全く移行しておらず、塗装面を削り取ると変褪色のままであった。
これらの試験で明らかなように本発明の改修材により、変褪色したエンボス層の内部まで油溶性染料が浸透し、損傷を受けた弾性舗装表面を深みのある色調に改修できた。
【0015】
実施例2
実施例1におけるクルードMDIをTDI系プレポリマー(タケネートM402;三井化学ポリウレタン(株))に変えて、同様の試験を行った。
染料のエンボス層への含浸は、同様に良好であり、エンボス層及び弾性舗装表面の改修ができた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
弾性舗装表面は、その使用により多くの場合、その最外層であるトップコート層が老朽化し、摩耗、劣化などの損傷が大きくなり、例えば、陸上競技場などではトップコート層が剥離されてエンボス層が露出し、その部分が変褪色して舗装表面の外観が悪くなる。
このような部分を本発明の改修材を塗布することにより、大規模な施工によらず簡易に損傷された舗装表面を改修することができる。
本発明の改修材における着色剤は、クルードMDI等のイソシアネート化合物の硬化物中に保持されるとともに、その場からエンボス層に移行して含浸され、改修した部分は深みのある色調に改修することができる。したがって、変褪色したエンボス層に重ねて元のカラーウレタン材料を塗布する施工に比べ、改修効果が優れ、かつ経済的に改修することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中に1〜20重量%の有機イソシアネート化合物、及び油溶性染料を含有してなる弾性舗装のエンボス層の改修材。
【請求項2】
有機イソシアネート化合物が、クルードMDIである請求項1記載の改修材。
【請求項3】
弾性舗装層の表面に露出し変褪色したエンボス層に請求項1記載の改修材を5〜300g/mの付着量で塗布することを特徴とする弾性舗装表面の改修方法。

【公開番号】特開2007−285045(P2007−285045A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115296(P2006−115296)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(391006913)奥アンツーカ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】