説明

弾性表面波フィルタ

【目的】 共振型弾性表面波フィルタの反射器間の共振による低域側不要モードを抑圧し、高性能なフィルタ特性を実現する。
【構成】 入出力IDT11,12との両側の反射器13a,13bとの間の距離14a,14bを互いに異なる値とする。これにより、入力IDT11から出力IDT12へ励振される表面波の位相にずれが生じ、反射器間の共振23のレベルを抑圧でき、共振21,22のみの2重モードフィルタ特性が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は弾性表面波フィルタに関し、特に圧電基板上に入出力IDT(インタディジタルトランスデューサ)とこれ等入出力IDTの両側に反射器とを配置した共振型弾性表面波フィルタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の弾性表面波フィルタは、図3にその表面構造を示す如く、圧電基板10上にλ/4(λは電極配列周期)シングル電極の入力IDT11と同じく出力IDT12とが互いに隣接配置して設けられており、その外側の両サイドに反射器13a,13bが夫々入出力IDT11,12に隣接配置された構造となっている。
【0003】入出力IDTの各電極本数Nと、IDTを構成する金属膜の音響インピーダンス不連続係数εとの積であるN・εが0.55以上であると、3つの異なる縦モードの共振が励振される。かかる車実は1993年電子情報通信学会論文誌(A),Vo1.J76−A,2,のpp.219〜226に開示されている。
【0004】すなわち、入力IDT11と出力IDT12との間の多重反射による共振21と、IDT自身の内部共振22と、反射器13a,13b間の多重反射による共振23との3つのモードの共振が生ずる。
【0005】そして、入出力IDT11と12との互いに最も近接する電極指の中心間の距離15(L1)と、入出力IDTと反射器13a,13bの各々の互いに最も近接する電極指の中心間の距離14(L2)とが、下式を満たすときに図4(A)に示す3重モード弾性表面波フィルタが実現される。
【0006】
(n/2−4/24)λ≦L1≦(n/2−2/24)λ………(1)
(n/2−2/24)λ≦L2≦(n/2+7/24)λ………(2)
上式において、nは自然数を示す。
【0007】また、上記L1(15)が、 (n/2−1/24)λ≦L1≦(n/2+7/24)λ………(3)
を満足するとき、図4(B)に示す2重モード弾性表面波フィルタが実現できる。これ等技術については、本願出願人により、特願平5−176847号明細書に提案開示されている。
【0008】尚、図4(A),(B)において、21〜23は図3に示す各共振モード21〜23に夫々対応しているものとする。
【0009】図4(B)に示す特性を有する2重モードフィルタは、入出力IDT間の距離15(L1)の条件によって反射器間の多重反射による共振23のレベルを低下させ、入出力IDT間の多重反射による共振21とIDT自身の内部共振22との2つのモードを利用するものであるが、共振23によるレベルが十分抑圧されずスプリアスとして存在することになる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】この様に、従来の弾性表面波フィルタにおいては、2重モードフィルタを構成する場合、反射器間の共振23が低域側にスプリアスとして存在するので、良好なフィルタ特性を得ることができないという欠点がある。
【0011】そこで、本発明はこの様な従来技術の欠点を解消すべくなされたものであって、その目的とするところは、良好なフィルタ特性を有し2重モード共振を利用した弾性表面波フィルタを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、圧電基板と、この圧電基板上に互いに隣接して設けられた入出力IDT(インタディシタルトランスデューサ)と、これ等入出力IDTの両側に夫々隣接して設けられた第1及び第2の反射器とを含む弾性表面波フィルタであって、前記入力IDTと前記第1の共振器との互いに最も近接する電極の中心間距離と、前記出力IDTと前記第2の共振器との互いに最も近接する電極の中心間距離とが互いに異なることを特徴とする弾性表面はフィルタが得られる。
【0013】
【実施例】以下に図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【0014】図1(A)は本発明の実施例の平面構造を示す図であり、図3と同等部分は同一符号にて示している。圧電基板10に、入力IDT11と出力IDT12とが互いに隣接配置されており、互いに最も近接する電極指の中心間の距離15をL1とする。
【0015】そして、入力IDT11の左側には反射器13aが、また出力IDT12の右側には反射器13bが夫々配置されており、よって、入出力IDT11,12の両側に反射器13a,13bが夫々入出力IDTに対して近接配置されていることになる。
【0016】入力IDT11と反射器13aとの互いに最も近接する電極指の中心間の距離14aをL2aとし、また出力IDT12と反射器13bとの互いに最も近接する電極指の中心間の距離14bをL2bとすると、これ等2つの中心間距離L2aとL2bとは異なる値に設定されているものとする。
【0017】本例においても、上記(3)式を満足する様にL1の値が予め設定されることにより、2重モードフィルタとして機能する様になっているが、上記2つの距離L2aとL2bとを互いに異なる様に設定することで、両距離の非対称性によって図1(B)の破線で示した特性のうち、反射器間の多重反射による共振23が弱められ、図1(B)の実線で示すスプリアスのない良好な2重モードフィルタ特性が得られる。
【0018】尚、図1(B)において、21は入出力IDT相互間の多重反射による共振を示し、22はIDT自身の内部共振を示している。
【0019】図2にこれ等フィルタのシュミレーション特性を示しており、(A)はL2a=L2b=0.7λとした従来構造の特性図である。(B)はL2a=0.5λ,L2b=0.7λ(またはL2a=0.7λ,L2b=0.5λ)とした場合の本発明による特性図である。
【0020】図2(B)の特性では、図2(A)の従来例の特性に比べて最も低域側に存在する反射器間の共振23のレベルが約5dB抑圧されてスプリアスの改善がなされていることが判る。また、他のIDT間の多重反射による共振21とIDT自身の内部共振22とについてはほとんど変化しない。
【0021】入出力IDTと反射器との間の距離14a(L2a)と14b(L2b)とが互いに異なっているので、反射器間の共振23(図3参照)は、入力IDT11から双方向に励振される表面波が反射器13aで反射され出力IDT12で受信されるまでの伝搬距離と、反射器13aで反射され出力IDT12で受信されるまでの伝搬距離とが異なり、位相ずれが生じることになる。
【0022】この位相ずれによって、2重モードフィルタを構成した場合、低域側にスプリアスとして存在する反射器間の共振23のレベルを図1(B)の如く抑圧可能となるのである。
【0023】更に、入出力IDT間の多重反射による共振21とIDT自身の内部共振22とは、N・ε≧0.55なる上述した関係によりIDT内部へのエネルギ閉じ込め状態により、そのエネルギは反射器まで到達することは困難であり、よってこのエネルギによる共振21,22への影響はほとんど無視できることになる。
【0024】
【発明の効果】以上述べた如く、本発明によれば、入出力IDTと隣接する反射器との間の距離を互いに異なる構成としたので、不要な反射器間の多重反射による共振レベルが抑圧可能となり、スプリアスレベルが低い高性能な2重モード共振フィルタが実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明の実施例の平面構成を示す図、(B)はそのフィルタ特性を示す図である。
【図2】(A)は従来例のフィルタのシミュレーション特性図、(B)は本発明のフィルタのシミュレーション特性図である。
【図3】従来の弾性表面波フィルタの平面構成を示す図である。
【図4】(A)は3重モードフィルタの特性図、(B)は2重モードフィルタの特性図である。
【符号の説明】
10 圧電基板
11 入力IDT
12 出力IDT
13a,13b 反射器
21 IDT間の共振
22 IDT自身の共振
23 反射器間の共振

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電基板と、この圧電基板上に互いに隣接して設けられた入出力IDT(インタディシタルトランスデューサ)と、これ等入出力IDTの両側に夫々隣接して設けられた第1及び第2の反射器とを含む弾性表面波フィルタであって、前記入力IDTと前記第1の共振器との互いに最も近接する電極の中心間距離と、前記出力IDTと前記第2の共振器との互いに最も近接する電極の中心間距離とが互いに異なることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】 前記第1及び第2の反射器相互間の多重反射による共振を、2つの前記中心距離を互いに変えることによって抑圧するようにしたことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】 前記入力IDTと出力IDTとの間の多重反射による共振と、前記IDT自身の内部共振との2つの共振モードを有することを請求項2記載の弾性表面波フィルタ。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平7−135444
【公開日】平成7年(1995)5月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−304694
【出願日】平成5年(1993)11月10日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)