説明

形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩の製造方法

【課題】保存安定性に優れた原料から形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を製造できる方法が求められていた。
【解決手段】形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩の製造方法であり、
工程A)フェキソフェナジン遊離塩基、塩酸及びアルコール溶媒を混合する工程;
工程B)工程Aで得られた溶液を濃縮する工程;
工程C)工程Bで得られた濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程;及び
工程D)工程Cで得られた固液混合物を固液分離する工程
を備えることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩(2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸一塩酸塩)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(1)
【0003】
【化1】

【0004】
で示される2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸一塩酸塩(以下、「フェキソフェナジン一塩酸塩」ということがある。)は、アレルギー性疾患治療薬の有効成分として知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、多形結晶として、形態I、形態II、形態IV等のフェキソフェナジン一塩酸塩が存在することが記載されている。
【0005】
下記形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を得る方法として、特許文献1(実施例3、4)には、下記形態IIのフェキソフェナンジン一塩酸塩をケトン溶媒中で加熱還流することにより、結晶変換する方法が記載されている。特許文献1(実施例8)には、下記形態IVのフェキソフェナンジン一塩酸塩をケトン溶媒中で加熱還流することにより、結晶変換する方法も記載されている。
<形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩>
粉末X線回折測定において、D−面間隔が11.8オングストローム、7.3オングストローム、6.3オングストローム、5.9オングストローム、5.0オングストローム、4.8オングストローム、4.4オングストローム、3.9オングストローム、3.8オングストローム及び3.7オングストロームに回折ピークを有するフェキソフェナジン一塩酸塩の結晶。
<形態IIのフェキソフェナジン一塩酸塩>
粉末X線回折測定において、D−面間隔が7.8オングストローム、6.4オングストローム、5.2オングストローム、4.9オングストローム、4.7オングストローム、4.4オングストローム、4.2オングストローム、4.1オングストローム、3.7オングストローム、3.6オングストローム及び3.5オングストロームに回折ピークを有するフェキソフェナジン一塩酸塩の結晶。
<形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩>
粉末X線回折測定において、D−面間隔が10.4オングストローム、7.0オングストローム、6.4オングストローム、5.3オングストローム、5.2オングストローム、4.3オングストローム、4.1オングストローム、4.0オングストローム、3.8オングストローム及び3.5オングストロームに回折ピークを有するフェキソフェナジン一塩酸塩の結晶。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255935号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1記載の方法では、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩という保存安定性が乏しい原料を用いるという問題があった。かかる状況下、保存安定性に優れた原料から形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を製造できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0009】
即ち本発明は以下の通りである。
〔1〕 粉末X線回折測定において、D−面間隔が11.8オングストローム、7.3オングストローム、6.3オングストローム、5.9オングストローム、5.0オングストローム、4.8オングストローム、4.4オングストローム、3.9オングストローム、3.8オングストローム及び3.7オングストロームに回折ピークを有する2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸一塩酸塩の結晶(以下、「形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩」ということがある。)の製造方法であり、
工程A)2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸(以下、「フェキソフェナジン遊離塩基」ということがある。)、塩酸及びアルコール溶媒を混合する工程;
工程B)工程Aで得られた溶液を濃縮する工程;
工程C)工程Bで得られた濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程;
及び
工程D)工程Cで得られた固液混合物を固液分離する工程
を備えることを特徴とする方法。
〔2〕 工程Aにおけるアルコール溶媒が2−プロパノールである前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 工程Cが、工程Bで得られた濃縮溶液に種晶を添加して前記濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程である前記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 種晶の添加温度が、55℃〜80℃の範囲から選択される前記〔3〕記載の製造方法。
〔5〕 工程Bで得られた濃縮溶液に含まれる水が、2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸1モルに対して2モル未満である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存安定性に優れた原料から形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の製造方法は、
工程A)フェキソフェナジン遊離塩基、塩酸及びアルコール溶媒を混合する工程;
工程B)工程Aで得られた溶液を濃縮する工程;
工程C)工程Bで得られた濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程;
及び
工程D)工程Cで得られた固液混合物を固液分離する工程
を備えることを特徴とする。本発明の製造方法により、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩と比較して保存安定性に優れるフェキソフェナジン遊離塩基から、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を製造することができる。
【0013】
<フェキソフェナジン遊離塩基>
工程Aで用いるフェキソフェナジン遊離塩基は、例えば、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステルを加水分解及び還元することにより製造できる。
【0014】
加水分解及び還元において、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステルとしては、そのメチルエステルが好適に使用できる。
加水分解及び還元は、加水分解を行った後、得られた加水分解生成物を単離し、次いで還元を行う;加水分解を行った後、得られた加水分解生成物を単離せず、還元を行う;還元を行った後、得られた還元生成物を単離し、次いで加水分解を行う;還元を行った後、得られた還元生成物を単離せず、加水分解を行う;のいずれでもよいが、加水分解を行った後、得られた加水分解生成物を単離せず、還元を行うことが好ましい。
【0015】
加水分解で使用する試薬としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が使用でき、水酸化ナトリウムが好適に使用できる。
当該試薬の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1モルに対して、例えば1〜10モルであり、好ましくは1.2〜2モルである。
【0016】
加水分解で使用する反応溶媒としては、例えば、水と、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール)等の有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、水とメタノール又はエタノールとの混合溶媒が特に好適である。
溶媒の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、水は、例えば0.1〜1g、好ましくは0.1〜0.5g、アルコール溶媒は、例えば0.1〜5g、好ましくは1〜3gである。
【0017】
加水分解は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステルを反応溶媒に懸濁した溶液に、加水分解で使用する試薬を添加することにより行うことが好ましい。この添加は、例えば0℃〜60℃の範囲、好ましくは5℃〜35℃の範囲から選択される温度で行う。
加水分解の反応温度は、溶媒、試薬の種類にもよるが、例えば50℃〜100℃の範囲、好ましくは60℃〜80℃の範囲から選択される。
加水分解の反応時間は、溶媒、試薬の種類及び反応温度にもよるが、例えば30分〜10時間であり、好ましくは1〜5時間である。
加水分解反応の進行度合いは、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により確認することができる。
【0018】
還元で使用する試薬(以下、「還元剤」ということがある。)としては、水素化ホウ素ナトリウムが好適に使用できる。
還元剤の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1モルに対して、例えば0.25〜3モル、好ましくは0.3〜0.8モルである。
【0019】
還元で使用する反応溶媒としては、例えば、水と、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール)等の有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、水とメタノール又はエタノールとの混合溶媒が特に好適である。還元で使用する反応溶媒として、加水分解で使用する反応溶媒と同じものを使用することにより、生産性を向上させることができる。
溶媒の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、水は、例えば0.1〜1g、好ましくは0.1〜0.5g、アルコール溶媒は、例えば0.1〜5g、好ましくは1〜3gである。
【0020】
還元は、上述の加水分解で得られた反応混合物に、還元剤を添加することにより行うことが好ましい。この添加は、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは25℃〜35℃の範囲から選択される温度で行う。
還元の反応温度は、溶媒、試薬の種類にもよるが、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは20℃〜40℃の範囲から選択される。
還元の反応時間は、溶媒、還元剤の種類及び反応温度にもよるが、例えば30分〜10時間であり、好ましくは1〜5時間である。
還元反応の進行度合いは、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により確認することができる。
【0021】
反応終了後、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒を添加することにより、残存する還元剤を分解する。ケトン溶媒の添加は、滴下により行うことが好ましい。
ケトン溶媒の使用量は、還元剤1モルに対して、例えば0.5〜10モル、好ましくは1〜4モルである。
ケトン溶媒の添加は、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは20℃〜40℃の範囲から選択される温度で行う。
【0022】
次いで、このようにして得られた反応混合物に、塩酸を添加して、反応混合物のpHを例えば2〜4、好ましくは2.8〜3.5に調整する。これにより、反応混合物中のフェキソフェナジンは一塩酸塩に変換される。塩酸の添加は、滴下により行うことが好ましい。
塩酸の添加は、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは20℃〜40℃の範囲から選択される温度で行う。
【0023】
その後、上記混合物からフェキソフェナジン一塩酸塩を晶析させた後、固液分離することで、結晶を取得する。
晶析は、上記混合物に貧溶媒としての水を添加(好ましくは滴下)及び/又は、フェキソフェナジン一塩酸塩の種結晶の添加により行われる。好ましくは、以下の方法により行われる。
【0024】
晶析は、まず、上記混合物に貧溶媒としての水を添加して、フェキソフェナジン一塩酸塩の溶解度を下げて飽和状態に近づける。
水の添加量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば0.1〜2g、好ましくは0.2〜1.0gである。
水の添加は、例えば20℃〜60℃の範囲、好ましくは25℃〜35℃の範囲から選択される温度で行う。
水の添加後に、フェキソフェナジン一塩酸塩の晶析を促進させるために、必要により、フェキソフェナジン一塩酸塩の種結晶を添加してもよい。種結晶の添加は、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは25℃〜35℃の範囲から選択される温度で行う。
混合物からのフェキソフェナジン一塩酸塩の晶析の開始を確認した後、フェキソフェナジン一塩酸塩の晶析開始後の混合物に、水を滴下する。
水の滴下量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば0.5〜3g、好ましくは1.0〜2.0gである。
水の滴下は、例えば0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間かけて滴下することが好ましい。
水の滴下は、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは25℃〜35℃の範囲から選択される温度で行う。
前記晶析開始後の混合物に水を滴下して得られた混合物を、例えば0℃〜10℃の範囲、好ましくは0℃〜5℃の範囲から選択される温度に調整し、例えば5分〜24時間、好ましくは1〜10時間保持して、フェキソフェナジン一塩酸塩を晶析させる。
【0025】
晶析したフェキソフェナジン一塩酸塩を、固液分離することにより取得する。
具体的には、ろ過、デカンテーションなどの固液分離操作が挙げられる。必要により、溶媒による洗浄、再結晶を行ってもよい。
【0026】
かくして取得されるフェキソフェナジン一塩酸塩は、例えば、形態II又は形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩である。
この形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩を空気存在下で保存すると、フェキソフェナジン一塩酸塩の不純物として、式(2)
【0027】
【化2】

で示される2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸(以下、「ケト不純物」と言うことがある。)が増加する。このため、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩は、空気存在下で保存することなく、フェキソフェナジン遊離塩基に変換することが好ましい。
【0028】
取得したフェキソフェナジン一塩酸塩とアルカリとを混合する。混合は、水の存在下に行なうことが好ましい。水の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば1〜20gであり、好ましくは3〜10gである。
アルカリとしては、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム);アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウム);アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウム);アルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム)等が使用でき、アルカリ金属水酸化物(特に、水酸化ナトリウム)が好適に使用できる。アルカリは水溶液として使用されることが好ましく、その濃度は、例えば1〜10%、好ましくは2〜5%である。
アルカリの使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1モルに対して、例えば2〜3モル、好ましくは2.0〜2.5モルである。
混合は、操作性の観点から、アルカリを水に溶解した溶液に結晶を添加することにより行うことが好ましい。
上記混合は、例えば0℃〜50℃の範囲、好ましくは35℃〜45℃の範囲から選択される温度で行う。
【0029】
次いで、フェキソフェナジン一塩酸塩とアルカリとを混合して得られた混合物を、水に非混和性の有機溶媒と混合する。
水に非混和性の有機溶媒としては、脂肪族炭化水素溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、イソノナン、デカン、イソデカン、ウンデカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン及び石油エーテル);芳香族溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、キシレン、メシチレン、モノクロロベンゼン、モノフルオロベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン及び1,2,4−トリクロロベンゼン);エーテル溶媒(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール及びジフェニルエーテル);エステル溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸アミル及び酢酸イソアミル);塩素化脂肪族炭化水素溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム及び1,2−ジクロロエタン)等が使用でき、エーテル溶媒(特に、tert−ブチルメチルエーテル)が好適に使用できる。
水に非混和性の有機溶媒の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば0.1〜4g、好ましくは0.4〜1.4gである。
上記混合は、例えば20℃〜60℃の範囲、好ましくは30℃〜50℃の範囲から選択される温度で行う。
【0030】
次いで、得られた混合物を分液して、水層を取得する。取得した水層は、上述した水に非混和性の有機溶媒でさらに洗浄してもよい。
【0031】
次いで、取得した水層と、メタノール等のアルコール溶媒とを混合する。
アルコール溶媒の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば0.1〜10g、好ましくは2g〜6gである。
上記混合は、例えば0℃〜60℃の範囲、好ましくは10℃〜50℃の範囲から選択される温度で行なう。
【0032】
空気存在下で保存した形態II又は形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩を用いる場合、上述の水層とアルコール溶媒との混合物を、例えば、上述の還元剤と混合する。この混合により、空気存在下での保存により増加したケト不純物は、フェキソフェナジンに変換される。
還元剤の使用量は、増加したケト不純物の量により適宜選択することができる。還元剤との混合温度は、例えば10℃〜60℃の範囲から選択される。還元剤との混合時間は、溶媒、還元剤の種類及び混合温度にもよるが、例えば5分〜10時間である。薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により、ケト不純物の消失を確認することができる。
還元剤との混合後、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒を添加することにより、残存する還元剤を分解する。
【0033】
次いで、取得した水層とアルコール溶媒との混合物を、還元剤と混合せずに、又は、還元剤と混合した後、pH7〜8に調整する。pH調整には、好ましくは、塩酸を用いる。
pH調整の温度は、例えば10℃〜50℃の範囲、好ましくは30℃〜45℃の範囲から選択される。
【0034】
pHを調整した後、必要に応じて水を滴下し、得られる混合物を固液分離処理に付すことにより、フェキソフェナジン遊離塩基を取得する。水を滴下する場合、水の使用量は、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸エステル1gに対して、例えば0.1〜10gであり、好ましくは0.5〜5gである。水を滴下する温度は、例えば20℃〜60℃の範囲、好ましくは25〜50℃の範囲から選択される。
固液分離処理としては、例えば、ろ過、デカンテーション等が挙げられる。分離した固体を必要により、溶媒で洗浄してもよいし、再結晶等の精製処理に付してもよい。
【0035】
かくして得られるフェキソフェナジン遊離塩基は、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩と比較して、保存安定性に優れるため、フェキソフェナジン遊離塩基を空気存在下で保存しても、ケト不純物はほとんど生成することはない。
【0036】
<工程A>
フェキソフェナジン遊離塩基、塩酸及びアルコール溶媒を混合する。フェキソフェナジン遊離塩基、塩酸及びアルコール溶媒を混合することにより、溶液が得られる。得られる溶液は、pH2〜5の範囲内となるように調製することが好ましく、pH3.5〜4.6の範囲内となるように調製することがより好ましい。
塩酸の濃度は特に制限されず、例えば1〜36重量%であり、好ましくは10〜36重量%である。塩酸の濃度及び使用量を調節することにより、上記pH範囲内となるように溶液を調製することができる。
アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールが挙げられ、好ましくはエタノール又は2−プロパノールであり、より好ましくは2−プロパノールである。アルコール溶媒の使用量は、フェキソフェナジン遊離塩基1gに対して、好ましくは2〜20gであり、より好ましくは4〜10gである。
混合温度は、好ましくは55℃〜65℃の範囲から選択される。
溶液は、高品質の医薬品有効成分を得る点で、上記混合後、さらにろ過処理に付すことが好ましい。
【0037】
<工程B>
工程Aで得られた溶液を濃縮する。工程Aで得られた溶液を濃縮することにより、濃縮溶液が得られる。得られる濃縮溶液の量は、フェキソフェナジン遊離塩基1gに対して、例えば2〜10gであり、好ましくは2〜5gである。
濃縮は、常圧下及び減圧下のいずれの条件下でも行うことができ、好ましくは減圧下で行なわれる。
濃縮は、好ましくは40℃〜100℃の範囲、より好ましくは55〜65℃の範囲から選択される温度で行なわれる。
濃縮溶液は、水を含んでいてもよいが、濃縮溶液に含まれる水は、フェキソフェナジン遊離塩基1モルに対して、好ましくは2モル未満である。濃縮溶液に含まれる水がフェキソフェナジン遊離塩基1モルに対して2モル以上である場合、該濃縮溶液をさらにアルコール溶媒と混合し、得られた溶液を濃縮することにより、濃縮溶液に含まれる水を減少させればよい。
<工程C>
工程Bで得られた濃縮溶液から形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を析出させる。形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を析出させることにより、固液混合物が得られる。
濃縮溶液は、例えば酢酸エチル等のエステル溶媒と混合してもよい。エステル溶媒と混合する場合、その使用量は、フェキソフェナジン遊離塩基1gに対して、例えば0.1〜10gであり、好ましくは2〜6gである。エステル溶媒と混合する場合、その混合温度は、例えば50〜85℃の範囲、好ましくは55〜65℃の範囲から選択される。
形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩の析出は、好ましくは濃縮溶液に種晶を添加することにより行なわれる。種晶としては、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を用いる。種晶の使用量は、フェキソフェナジン遊離塩基1gに対して、好ましくは0.0001〜0.2gであり、より好ましくは0.001〜0.05gである。種晶の添加温度は、好ましくは55〜80℃の範囲、より好ましくは55〜65℃の範囲から選択される。
形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を析出させた後、得られる固液混合物を、例えば0℃〜40℃の範囲、好ましくは20℃〜30℃の範囲から選択される温度に冷却する。冷却前及び/又は冷却後、例えば5分〜24時間、好ましくは1〜10時間保持してもよい。
【0038】
<工程D>
工程Cで得られた固液混合物を固液分離する。工程Cで得られた固液混合物を固液分離することにより、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を取得する。固液分離としては、例えば、ろ過、デカンテーション等が挙げられる。必要により、溶媒による洗浄、再結晶を行ってもよい。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0040】
<製造例1> フェキソフェナジン遊離塩基の製造
窒素雰囲気下、6℃以下でメタノール(2.0重量部)中に、2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン-1-イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸メチル(1.0重量部)を添加した。そこへ、20%水酸化ナトリウム水溶液(2−4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸メチル1モルに対して1.5モル)を加え、得られた混合物を68℃〜71℃で約5時間保温した後、水(0.25重量部)を加えた。25℃〜35℃で、水素化ホウ素ナトリウム(2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸メチル1モルに対して0.4モル)を添加して約4時間保温した。25℃〜35℃でアセトン(2−(4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸メチル1モルに対して1.0モル)を滴下し、約1時間保温した後、同温度で水(0.25重量部)を加え、同温度で濃塩酸を滴下し、pH3.0〜3.5とした。同温度で水(0.6重量部)を加え、同温度で少量の種晶を加えた。さらに、同温度で水(1.4重量部)を約1時間かけて滴下し、約1時間保温した後、0℃〜5℃へ冷却し、約3時間保温した後、得られた混合物をろ過した。取得した結晶を20%メタノール水(4重量部)で洗浄した後、80℃以下で減圧乾燥した。窒素雰囲気下、乾燥した結晶と3.8%水酸化ナトリウム水溶液(2−4−{4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]−1−オキソブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸メチル1モルに対して2.1モル)とを混合し、そこへt−ブチルメチルエーテル(1.0重量部)を加え、40〜45℃で約10分攪拌した。静置後分液し、有機層を除去して得られた水層に、t−ブチルメチルエーテル(1.0重量部)を加え、40〜45℃で約10分攪拌した。静置後分液し、有機層を除去して得られた水層に、メタノール(4.0重量部)を加え、35〜45℃で濃塩酸を滴下することにより、pH7〜8に調整した。そこへ、30〜45℃で水(2.0重量部)を30分以上かけて滴下し、約1時間以上保温した後、得られた固液混合物を0〜5℃へ冷却し、約3時間保温した。混合物をろ過し、取得した結晶を20重量%メタノール水(4.0重量部)で洗浄した。結晶を80℃以下で減圧乾燥し、フェキソフェナジン遊離塩基を得た。収率は94%であった。
【0041】
<試験例1> 保存安定性試験
製造例1で得られたフェキソフェナジン遊離塩基と、特許文献1記載の方法に準じて製造した形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩とを用いて、空気下での保存安定性試験を行なった。4週間保存した後に観測されたケト不純物(LC面積百分率)を下表に示す。
下表に示す通り、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩を空気存在下で保存すると、ケト不純物が増加した。一方、フェキソフェナジン遊離塩基を空気存在下で保存しても、ケト不純物は増加しなかった。いずれの試験においても、他の不純物の増加は認められなかった。
この試験の結果、フェキソフェナジン遊離塩基は、形態II及び形態IVのフェキソフェナジン一塩酸塩と比較して、安定性に優れることが確認された。
【0042】
【表1】

【0043】
<実施例1> 形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩の製造
窒素雰囲気下、製造例1で得たフェキソフェナジン遊離塩基(1.0重量部)と2−プロパノール(5.6重量部)とを混合した。得られた混合物を65℃に温調し、そこへ、濃塩酸(フェキソフェナジン遊離塩基1モルに対して0.98モル)を滴下した後、1.0%塩酸をさらに滴下することにより、混合物をpH3.5〜4.6に調整した。得られた混合物中の不溶物を濾別し、2−プロパノール(1.1重量部)で洗浄した。得られた濾洗液を合一した後、水浴65℃で減圧濃縮し、濃縮溶液を得た。該濃縮溶液に含まれる水は、フェキソフェナジン遊離塩基1モルに対して2モル未満であった。そこへ、55〜65℃で酢酸エチル(1.1量部)を加えた後、混合溶液中の2−プロパノールが2.7重量部となるように、濃縮溶液にさらに2−プロパノールを添加した。次いで、得られた溶液に、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩(0.003重量部)を添加して、55〜65℃で保温することにより、該溶液から形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩を析出させた。得られた固液混合物に、55〜65℃で酢酸エチル(2.5重量部)を約1.5時間かけて滴下し、さらに形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩(0.003重量部)を添加し、得られた固液混合物を、55〜65℃で約5時間保温した。その後、得られた固液混合物を20〜30℃へ冷却し、約3時間保温した後、ろ過した。ろ過により取得した結晶を酢酸エチル(2.6重量部)で洗浄した。結晶を100℃以下で減圧乾燥し、フェキソフェナジン一塩酸塩を得た。得られたフェキソフェナジン一塩酸塩を粉末X線回折測定し、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩が得られていることを確認した。収率は約92%であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
フェキソフェナジン一塩酸塩は、アレルギー性疾患治療薬の有効成分として知られている。本発明は、形態Iのフェキソフェナジン一塩酸塩の製造方法として産業上利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折測定において、D−面間隔が11.8オングストローム、7.3オングストローム、6.3オングストローム、5.9オングストローム、5.0オングストローム、4.8オングストローム、4.4オングストローム、3.9オングストローム、3.8オングストローム及び3.7オングストロームに回折ピークを有する2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸一塩酸塩の結晶の製造方法であり、
工程A)2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸、塩酸及びアルコール溶媒を混合する工程;
工程B)工程Aで得られた溶液を濃縮する工程;
工程C)工程Bで得られた濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程;
及び
工程D)工程Cで得られた固液混合物を固液分離する工程
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
工程Aにおけるアルコール溶媒が2−プロパノールである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程Cが、工程Bで得られた濃縮溶液に種晶を添加して前記濃縮溶液から前記結晶を析出させる工程である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
種晶の添加温度が、55℃〜80℃の範囲から選択される請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
工程Bで得られた濃縮溶液に含まれる水が、2−(4−{(1RS)−1−ヒドロキシ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)ピペリジン−1−イル]ブチル}フェニル)−2−メチルプロパン酸1モルに対して2モル未満である請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−87100(P2012−87100A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236290(P2010−236290)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】