説明

彫刻針

【課題】 彫刻針と被彫刻板の相対運動によって走査式に紙やプラスチック製の薄板に彫刻を行う画像彫刻装置に用いる彫刻針において、正確な深さで被彫刻板を破ることなく表面を削り取ることが出来なかった点である。
【解決手段】 本発明の彫刻針は、彫刻針の先端の切り刃の開き角度を120度以上の鈍角とし、すくい角を5度以下の鋭角とし、前逃角度を20度から45度の範囲とし、又先端の切り刃の左右の開き角度に1度以内の差を設けることにより課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
彫刻針と被彫刻板の相対運動によって、走査式に彫刻を行う彫刻装置に用いられる彫刻針に関し、被彫刻板への彫刻を行う際に深さ方向及び幅方向に正確な彫刻を可能とする彫刻針に関するものである。
【背景技術】
【0002】
彫刻針と被彫刻板の相対運動によって、走査式に紙やプラスチック製の薄板に彫刻を行う画像彫刻装置がある(特許文献1参照)。この画像彫刻装置では、基台上に取り付けられた被彫刻板が水平方向に往復運動を行い、垂直方向から降ろされた前記彫刻針が紙やプラスチックからなる材質の前記被彫刻板を表面から削り取ることにより透かし彫りを行う。このようにして透かし彫りがなされた前記被彫刻板は、個人認証カードや重要書類用のセキュリティシートとして用いられる(特許文献2、3参照)。
【0003】
従来、印刷に用いられるグラビアシリンダの彫刻に用いられるダイアモンドスタイラスがあった(特許文献4参照)。これは、グラビア印刷を行うためのシリンダ上にインクをためるための窪みを作るための彫刻針であり、これらを用いて前記彫刻針と被彫刻板の相対運動によって走査式に紙やプラスチック製の薄板に彫刻を行う画像彫刻装置に用いても、被彫刻板に窪みができるだけで、正確な深さで表面を削り取ることは出来なかった。
【0004】
【特許文献1】特開平05−024394号公報
【特許文献2】特開2007−118395号公報
【特許文献3】特開2007−130855号公報
【特許文献4】特開平11−291437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、彫刻針と被彫刻板の相対運動によって走査式に紙やプラスチック製の薄板に彫刻を行う画像彫刻装置において、正確な深さ及び幅で表面を削り取ることが出来なかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の彫刻針は、切削方向に対して概略垂直に起立した前面が平坦で、先端部に一対の切り刃を有し、後ろ側に所定の逃げ角の逃げ面を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の彫刻針は、切削方向に対して概略垂直に起立した前面が平坦で、先端部に一対の切り刃を有し、後ろ側に所定の逃げ角の逃げ面を有することを最も主要な特徴とするため、正確な深さ及び幅で表面を削り取ることが可能になった。また、その際には被彫刻板が紙やプラスチック製の薄板であっても、それらを破ることなく彫刻が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
彫刻針と被彫刻板の相対運動によって走査式に彫刻を行う彫刻装置に使われる彫刻針において、正確な深さ及び幅で彫刻が出来ないという問題点や、被彫刻板が紙やプラスチック製の薄板を破ることなく彫刻が出来ないという問題点を、彫刻針の先端の切り刃の開き角度を120度以上の鈍角とし、前傾角が5度以下の鋭角とし、前逃角度が20度から45度の範囲とすることにより解決した。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明実施例の彫刻針10(チップ部31と支持棒部11の両方を含む)の三面図である。
【0010】
図1(A)は、彫刻の走査方向の進行方向側から見た彫刻針の正面図である。
【0011】
図1(B)は、被彫刻板側から見た彫刻針の下面図である。
【0012】
図1(C)は、走査方向の側面側からみた彫刻針の側面図である。
【0013】
また、図2は、その先端部に取り付けられたダイアモンドチップ31(彫刻針)部分の構造がよくわかるようにした拡大図である。
【0014】
図2(A)に側面拡大図、図2(B)に後面の拡大図を示す。
【0015】
彫刻針10(チップ部31と支持棒部11の両方を含む)は、金属製の支持棒11及びその先端に装着されたダイアモンドチップ31(彫刻針)からなる。彫刻針の材料としてはダイアモンド製が一番硬度が硬く性能が良い。又、ダイアモンド以外の材料として超硬鋼製などを用いることも可である。
【0016】
金属製の支持棒11は円筒形の片側側面を平面にした回り止め部13を有する。支持棒11の先端部には凹部15を有し、円柱の軸方向に沿って平面に加工された面18に断面が平板上に形成されたダイアモンドチップ31が突き当て支持されている。支持方法としては、実施例では、接着剤を用いて固着する方法を取ったが、その他に形状的加工と合わせて行う方法や、止め具を用いる方法であってもよい。
【0017】
支持棒11の凹部15の裏面は、ダイアモンドチップ31の逃げ面37L、37Rに連続する逃げ面17が加工されており、切りくずが切り刃35L、35R裏側に停滞しないような構造を取っている。
【0018】
支持棒11及びダイアモンドチップ31の大きさの一例として、図1及び図2に各部の寸法を記載した。支持棒11は直径2mmで、ダイアモンドチップ31が支持された状態で全長が10mmである。ダイアモンドチップ31は、幅1mm、高さ1.95mm、厚さ0.6mmである。支持棒11及びダイアモンドチップ31の両方とも、ここにあげた実施例の寸法に限らず、これより大きいサイズであっても、また小さいサイズであっても良い。
【0019】
図2に、ダイアモンドチップ31が、被彫刻板51に接している状態の拡大図を示す。図2(A)で示す矢印方向に切削は進行する。切削には、彫刻針10を動かす方法であってもよいし、被彫刻板51を動かす方法であってもよい。
【0020】
ダイアモンドチップ31は、その前面33(図2(A))が被彫刻板に対して、概略垂直に起立しており、そのすくい角α(図1(C))が5度以下の場合に、切削が正確に行われる。典型的なすくい角としては3度50分が良い。
【0021】
彫刻針の先端部は、図1(A)に示すように左側切り刃35Lと右側切り刃35Rの開き角度、すなわちδRとδLの合計が120度以上の鈍角であり、典型的な例として、δRが65度、δLが64度40分と開き角度に一度以内の差がある角度の場合に最も正確に切削が行える。
【0022】
左右が非対称の場合により正確な切削が行えるのは、以下の理由によると考えられる。ダイアモンドチップ31は、垂直方向上部から降下してきて被彫刻板51に接触し、被彫刻板51に対して図2(A)矢印で示す方向に彫刻針10が進行することにより、被彫刻板51の削り取りが開始するが、その際に上記の垂直方向からの左右の開き角度の差があるために、左右の切り刃35L、35Rの被彫刻板51へのあたりに差がある。もしこの差が無く左右の開き角度が全く同じ場合には、先端部接触後に左右両方の刃からの同時に強い力がかかり、刃が被彫刻面にひっかかって紙やプラスチック製の薄板を破いてしまうが、実施例のように左右の開き角度に差を設けることで問題は解消した。
【0023】
また、逃げ角β(図1(C))に関しては、先端部の強度を保つために図1(C)に示すような20度以上45度以下の場合、典型的には25度の場合に先端部に切りくずが留まることなく切削が可能である。また、前記3度50分のすくい角と前記25度の逃げ角から61度10分の充分な刃先角が得られダイアモンドチップ31先端部の長寿命化が実現した。
【0024】
本実施例では、ダイアモンドチップ31の先端部の形状は、図2(B)に示すように逃げ角βよりやや大きい角度により加工された元加工面39L、39Rと、切り刃35L、35Rを鋭利にするために前記元加工面の切り刃側を研磨して作成された研磨面37L、37Rとからなる。同方法によらず、元加工面39L、39Rを残さずに、すべて研磨面とする方法であってもよい。いずれの場合でも前記研磨面37L、37Rがダイアモンドチップ31の逃げ面として働く。
【0025】
[実施例の効果]
本発明実施例の彫刻針により、以下のことが可能となった。
【0026】
彫刻針と被彫刻板の相対運動によって走査式に彫刻を行う彫刻装置に使われる彫刻針において、正確な深さ及び幅での被彫刻板、特に紙やプラスチックの薄板における切削が可能となった。
【0027】
[その他]
彫刻針という言葉は、実施例の先端のダイアモンドチップ31部のみを示す場合とダイアモンドチップ31及び支持棒11の両方を含めた全体としての彫刻針10との両方の意味で用いた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明実施例の彫刻針の三面図である(実施例1)。
【図2】本発明実施例の彫刻針の先端部の拡大図である(実施例1)。
【符号の説明】
【0029】
10 彫刻針(チップ部31と支持棒11の両方)
11 支持棒
15 凹部
17 支持棒の逃げ面
31 ダイアモンドチップ(彫刻針)
33 前面
35L、35R 切り刃
37L、37R 研磨面(逃げ面)
39L、39R 元加工面
α すくい角
β 逃げ角
δL 切り刃の左開き角度
δR 切り刃の右開き角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削方向に対して概略垂直に起立した前面が平坦で、先端部に一対の切り刃を有し、後ろ側に所定の逃げ角の逃げ面を有する
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項2】
請求項1の彫刻針であって、
前記彫刻針は、切削方向に対して概略垂直に起立した支持棒の先端部に支持された
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項3】
請求項1または2の彫刻針であって、
前記支持棒は先端部に凹部を有し、該凹部に前記彫刻針を支持した
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの彫刻針であって、
前記支持棒は、円柱の軸方向に沿って一部を平面にした回り止め部を有する
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの彫刻針であって、
前記支持棒は、前記彫刻針の逃げ面に連続する逃げ面を有する
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの彫刻針であって、
前記彫刻針の切り刃の開き角度が120度以上の鈍角である
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの彫刻針であって、
前記彫刻針のすくい角が5度以下の鋭角である
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの彫刻針であって、
前記彫刻針の逃げ角が20度から45度の範囲である
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかの彫刻針であって、
前記彫刻針の切り刃の開き角度が左右非対称である
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項10】
請求項9の彫刻針であって、
前記彫刻針の左右の開き角度の差が1度以内である
ことを特徴とする彫刻針。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの彫刻針であって、
前記彫刻針はダイアモンド製または超硬鋼製である
ことを特徴とする彫刻針。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−78486(P2009−78486A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250744(P2007−250744)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(507322573)セムコ株式会社 (9)