説明

徐放性製剤の製造法

【課題】マイクロカプセル等の徐放性製剤の回収率・無菌性維持の向上。
【解決手段】内面の一部または全部が氷層または撥水性基材で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤の懸濁液を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マイクロスフェアなどの徐放性製剤を長時間環境に暴露することなく、簡単に回収することを可能にする固形徐放性製剤の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】マイクイロカプセル(マイクロスフェア)末(以下、MC末と略記する場合がある)は、水中乾燥法などによりマイクイロカプセル(マイクロスフェア)(以下、MCと略記する場合がある)を製造した後、MCを分離・濃縮・回収後、後述の溶媒とともに懸濁液として得られるMC懸濁液を凍結乾燥法により脱水乾燥して製造する。この時、マンニトールなどを上記の懸濁液に添加・溶解してもよい。また、通常、トレーにMC懸濁液を分注した後、MC懸濁液を凍結させ、凍結乾燥を行う。しかし、従来は、凍結乾燥終了後、MC末を人手により無菌的にスクレーパーを使用してトレーからはく離・回収する必要があるため、次のような欠点があった。
(1)MC末がトレーに付着して、回収時にスクレーパーを使用して掻き取る必要がある。
(2)掻き取りは人手で行われるため、また、回収に比較的時間が必要であるため、環境に暴露させる時間が長くなり無菌保証の観点から常に微生物などの混入の危険性がある。また、MCは水分コントロールが必要な製剤であるため、環境暴露時間が長いことは、理化学的な安定性の観点からも危険性がある。
(3)掻き取り操作において、スクレーパーの使用が必須となるため、トレーとスクレーパーの擦れに起因する異物発生・混入の危険性がある。
(4)MC末とトレーの付着があるため、スクレーパーによる回収後もトレーにMC末が残り、回収しきれないMC末が存在する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、凍結乾燥後の固形徐放性製剤を簡便に、かつ高収率で回収することができ、さらに、環境暴露時間が短く、異物発生・混入の危険性が軽減された固形徐放性製剤の製造法の開発が望まれていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、トレーに予め氷層を形成させるか、あるいはトレーの内面を撥水性基材でコートすることによって、予想外にも短時間で、かつ簡便に、凍結乾燥後のMC末を回収することができることを見いだした。さらに、減圧下、凍結乾燥用容器の温度が0℃以下で凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることにより、凍結乾燥ケーキの崩れ、飛散を防止し、より高収量で一定の品質のMC末を回収することができることをも見出した。そして、本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1)内面の一部または全部が氷層または撥水性基材で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法、(2)撥水性基材で内面の一部または全部が被覆され、かつその内面の一部または全部が氷層で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法、(3)内面が底面のみである第(1)項または第(2)項記載の製造法、(4)凍結乾燥用容器がトレーである第(1)項または第(2)項記載の製造法、(5)氷層の厚さが約0.01mm〜30mmである第(1)項または第(2)項記載の製造法、(6)撥水性基材が四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、、二フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、六フッ化プロピレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂、変性フッ素樹脂、四フッ化エチレンとパーフロロアルコキシエチレンの共重合体樹脂、または四フッ化エチレンとエチレンの共重合体樹脂である第(1)項または第(2)項記載の製造法、(7)徐放性製剤がマイクロスフェアである第(1)項〜第(6)項のいずれかに記載の製造法、および(8)減圧下、凍結乾燥用容器の温度が0℃以下で凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることを特徴とする第(1)または第(2)項の製造法などを提供する。
【0005】さらに、本発明は、(9)氷層の厚さが容器の深さの約1/1000〜約4/5である第(1)項または第(2)項記載の製造法、(10)徐放性製剤の懸濁液の凍結層の厚さが容器の深さの1/1000〜約4/5である第(1)項または第(2)項記載の製造法、(11)容器の大きさが横約5mm〜約7,000mm、縦約5mm〜約7,000mm、深さ約1mm〜100mmであり、氷層が約0.01mm〜約30mmである第(1)項または第(2)項記載の製造法、(12)徐放性製剤が生理活性ペプチドを含有する徐放性製剤である第(1)項〜第(11)項のいずれかに記載の製造法、(13)徐放性製剤が生理活性ペプチドおよび生体内分解性ポリマーを含有する徐放性製剤である第(1)項〜第(11)項のいずれかに記載の製造法、(14)生理活性ぺプチドがLH−RHアゴニストまたはLH−RHアンタゴニストである第(12)項または第(13)項記載の製造法、(15)生理活性ぺプチドが5-oxo-Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH-C2H5(リュープロレリン)またはその塩である第(12)項または第(13)項記載の製造法、(16)生理活性ぺプチドが5-oxo-Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH-C2H5(リュープロレリン)の酢酸塩である第(12)項または第(13)項記載の製造法、(17)生体内分解性ポリマーがα−ヒドロキシカルボン酸重合体である第(13)項記載の製造法、(18)α−ヒドロキシカルボン酸重合体が乳酸−グリコール酸重合体である第(17)項記載の製造法、(19)乳酸とグリコール酸との組成比が約100/0〜約40/60(モル%)である第(18)項記載の製造法、(20)重合体の重量平均分子量が約3,000〜約100,000である第(18)項記載の製造法、(21)生体内分解性ポリマーがポリ乳酸である第(13)項記載の製造法、および(22)ポリ乳酸の重量平均分子量が約10,000〜約60,000である第(21)項記載の製造法を提供する。
【0006】本発明の製造法に用いられる徐放性製剤としては、例えば、マイクロスフェアなどが挙げられる。本発明でいうマイクロスフェアには、マイクロカプセル、マイクロパーティクルなども含まれる。具体的には、特開昭60−100516号公報、特開昭62−201816号公報、特開平02−124814号公報、特開平04−321622号公報、特開平05−112468号公報、特開平05−194200号公報、特開平06−293636号公報、特開平06−145046号公報、特開平06−192068号公報、特開平08−169818号公報、特開平09−132524号公報、特開平09−221417号公報、特開平09−221418号公報などに記載されているマイクロスフェアまたはマイクロカプセルなどが用いられる。
【0007】上記の徐放性製剤に含まれる薬物としては、生理活性ペプチドが好ましく、例えば、分子量が約300〜約40,000、好ましくは分子量約400〜約30,000、さらに好ましくは分子量が約500〜約20,000の生理活性ペプチドなどが用いられる。このような生理活性ペプチドとしては、例えば、pKa4.0以上の弱酸(例、炭酸、重炭酸、ホウ酸、炭素数が1〜3の低級アルカンモノカルボン酸等)と塩を形成しうる塩基性基を有していることが好ましい。また、塩基性基以外に遊離の、あるいは塩を形成した酸性基を有するものであってよい。該生理活性ペプチドの活性として代表的なものとしては、ホルモン作用が挙げられる。また、該生理活性ペプチドは天然物、合成物、半合成物、遺伝子工学の産物のいずれでもよいし、さらにこれらの類縁体及び/又は誘導体でもよい。これらの生理活性ペプチドの作用機作は、作動性あるいは拮抗性のいずれでもよい。該生理活性ペプチドとしては、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RHまたはゴナドトロピン放出ホルモン、Gn−RHと称されることもある。)、インスリン、ソマトスタチン、ソマトスタチン誘導体(例、サンドスタチン;USP4,087,390, 4,093,574, 4,100,117および4,253,998)、成長ホルモン(GH)、成長ホルモン放出ホルモン(GH−RH)、プロラクチン、エリスロポイエチン(EPO)、副腎皮質ホルモン(ACTH)、ACTH誘導体(例、エビラチド)、メラノサイト刺激ホルモン(MSH)、甲状腺ホルモン放出ホルモン((pyr)Glu-His-ProNH2;TRH),その塩および誘導体(特開昭50−121273号公報、特開昭52−116465号公報)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、バソプレシン、バソプレシン誘導体(例、デスモプレシン)、オキシトシン、カルシトニン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、エンケファリン、エンケファリン誘導体(例、USP4,277,394、EP-31567)、エンドルフィン、キョウトルフィン、インターフェロン(例、インターフェロン−α,β,γ)、インターロイキン(例、インターロイキン1〜12各種)、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモチムリン、胸腺液性因子(THF)、血中胸腺因子(FTS)およびその誘導体(USP4,229,438)、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー誘導因子(例、CSF,GCSF,GMCSF,MCSF)、モチリン、デイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラジキニン、心房性ナトリウム排泄増加因子、神経成長因子(NGF)、細胞増殖因子(例、EGF,TGF−β,PDGF,酸性FGF,塩基性FGF)、神経栄養因子(例、NT−3,NT−4,CNTF,GDNF,BDNF)、エンドセリン拮抗作用を有するペプチド類およびその類縁体(誘導体)(EP-436189,EP-457195,EP-496452,特開平3−94692号公報,特開平3−130299号公報)、インスリンンレセプター,インスリン様成長因子(IGF)−1レセプター,IGF−2レセプター,トランスフェリンレセプター,エピダーマル成長因子,ローデンンシティリポプロテイン(LDL)レセプター,マクロファージスカベンジャーレセプター,GLUT−4トランスポーター,成長ホルモンレセプター,レプチンレセプターの内在化を阻害する活性を有するMHC−I(major histocompatibility class I antigen complex)のα1ドメイン由来のペプチド(プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスズ・オブ・ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United State of America)、第91巻、9086-9090頁(1994年);同第94巻、11692-11697頁(1997年))およびその類縁体(誘導体)、さらにはこれらのフラグメントまたはフラグメントの誘導体などが挙げられる。
【0008】生理活性ペプチドが塩である場合、薬理学的に享受しうる塩などが挙げられる。例えば、該生理活性ペプチドが分子内にアミノ基等の塩基性基を有する場合、該塩基性基と無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)等との塩などが挙げられる。また、生理活性ペプチドが分子内にカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)等との塩など挙げられる。また、生理活性ペプチドは金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。本発明に用いられる生理活性ペプチドの好ましい具体例としては、例えば、前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、乳癌等のLH−RHあるいはこれにより誘導されるホルモンに依存性の疾患および避妊に対して有効なLH−RH類縁体およびその塩、成長ホルモンおよびこれにより誘導されるホルモン依存性の疾患や消化性潰瘍等の消化器系の疾患等に対して有効なソマトスタチン誘導体およびその塩などが挙げられる。前記LH−RH類縁体またはその塩の具体例は、例えば、トリートメント ウイズ GnRH アナログス:コントラバーシス アンド パースペクティブ(Treatment with GnRH analogs: Controversies and perspectives)[パルテノンパブリッシング グループ(株)(The Parthenon Publishing Group Ltd.) 発行 1996年]、特表平3−503165号公報、特開平3−101695号、同7−97334号及び同8−259460号公報などに記載されているペプチド類が挙げられる。
【0009】LH−RH拮抗作用を有する生理活性ペプチド(LH−RHアンタゴニスト)の具体例としては、例えば、一般式〔Ia〕
X−D2Nal−D4ClPhe−D3Pal−Ser−A−B−Leu−C−Pro−DAlaNH2〔式中、XはN(4H2−furoyl)GlyまたはNAc を、AはNMeTyr、Tyr、Aph(Atz)、NMeAph(Atz)から選ばれる残基を、BはDLys(Nic)、DCit、DLys(AzaglyNic)、DLys(AzaglyFur)、DhArg(Et2)、DAph(Atz)、DhCi から選ばれる残基を、CはLys(Nisp)、Arg、hArg(Et2)をそれぞれ示す〕で表される生理活性ペプチドまたはその塩が挙げられる。これらのペプチドは、前記文献あるいは公報記載の方法あるいはこれに準じる方法で製造することができる。LH−RH作動作用を有する生理活性ペプチド(LH−RHアゴニスト)の具体例としては、例えば、一般式〔Ib〕
5-oxo-Pro−His−Trp−Ser−Tyr−Y−Leu−Arg−Pro−Z〔式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2Nal、DHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH-C25またはGly-NH2をそれぞれ示す〕で表される生理活性ペプチドまたはその塩が挙げられる。なかでも、YがDLeuで、ZがNH-C25であるペプチドまたはその塩が好適である。これらのペプチドは、前記文献あるいは公報記載の方法あるいはこれに準じる方法で製造することができる。
【0010】また、ソマトスタチン誘導体またはその塩の具体例としては、例えば、プロシーディングス オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス(Proc. Natl. Acad. Sci.)USA, 93巻, 12513-12518 頁(1996年)あるいは該文献中に引用された文献中などに記載されている。
【化1】


また、サンドスタチン(USP4087390, 4093574, 4100117, 4253998)なども好適である。上記の生理活性ペプチドの中でも、5-oxo-Pro−His−Trp−Ser−Tyr−DLeu−Leu−Arg−Pro−NH-C2H5(リュープレリン)またはその塩(特に、酢酸塩)が好適である。
【0011】本明細書中で使用される略号としては、 略号 名称N(4H2−furoyl)Gly :N−テトラヒドロフロイルグリシン残基NAc :N−アセチル基D2Nal :D−3−(2−ナフチル)アラニン残基D4ClPhe :D−3−(4−クロロフェニル)アラニン残基D3Pal :D−3−(3−ピリジル)アラニン残基NMeTyr :N−メチルチロシン残基Aph(Atz) :N−〔5'−(3'−アミノ−1'H−1',2',4 '−トリアゾリル)〕フェニルアラニン残基NMeAph(Atz) :N−メチル−〔5'−(3'−アミノ−1'H−1' ,2',4'−トリアゾリル)〕フェニルアラニン 残基DLys(Nic) :D−(ε−N−ニコチノイル)リシン残基DCit :D−シトルリン残基DLys(AzaglyNic) :D−(アザグリシルニコチノイル)リシン残基DLys(AzaglyFur) :D−(アザグリシルフラニル)リシン残基DhArg(Et2) :D−(N,N'−ジエチル)ホモアルギニン残基DAph(Atz) :D−N−〔5'−(3'−アミノ−1'H−1',2' ,4'−トリアゾリル)〕フェニルアラニン残基DhCi :D−ホモシトルリン残基Lys(Nisp) :(ε−N−イソプロピル)リシン残基hArg(Et2) :(N,N'−ジエチル)ホモアルギニン残基DSer(tBu) :D−(O-t-ブチル)セリン残基DHis(ImBzl) :D−(π−ベンジル)ヒスチジン残基その他アミノ酸に関し、略号で表示する場合、IUPAC−IUBコミッション・オブ・バイオケミカル・ノーメンクレーチュアー(Commission on Biochemical Nomenclature)(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)第138巻、9〜37頁(1984年))による略号あるいは該当分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に関して光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0012】上記の徐放性製剤に用いられる徐放性基剤としては、生体内分解性ポリマーなどが好ましく、その具体例としては、例えば、α−ヒドロキシカルボン酸類(例、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例、リンゴ酸)、ヒドロキシトリカルボン酸(例、クエン酸)等の1種以上から合成され、遊離のカルボキシル基を有する重合体、共重合体、あるいはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸等)、無水マレイン酸系共重合体(例、スチレン−マレイン酸共重合体等)等が挙げられる。ポリマーにおける重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよい。また、上記α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体およびDL−体のいずれも用いることができる。これらの中でも乳酸−グリコール酸重合体、ポリ−α−シアノアクリル酸エステルが好ましい。さらに好ましくは、乳酸−グリコール酸重合体である。
【0013】生体内分解性ポリマーは、好ましくは(A)グリコール酸と一般式
【化2】


(式中、Rは炭素数2から8のアルキル基を表す)で示されるヒドロキシカルボン酸との共重合体および(B)ポリ乳酸を混合した生体内分解性ポリマーまたは乳酸とグリコール酸との共重合体である。
【0014】一般式〔II〕中、Rで示される炭素数2から8の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、例えば、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチルなどが挙げられる。好ましくは、炭素数2から5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基が用いられる。具体例としては、例えば、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルなどが挙げられる。特に好ましくは、Rはエチルである。一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシカプリン酸などが挙げられる。このうち特に、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸が好ましい。一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸は、特に好ましくは2-ヒドロキシ酪酸である。これらのヒドロキシカルボン酸はD−体、L−体およびD,L−体の何れでもよいが、D−体/L−体(モル%)が約75/25〜約25/75の範囲のものが好ましい。さらに好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約60/40〜約40/60の範囲のヒドロキシカルボン酸である。特に好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約55/45〜約45/55の範囲のヒドロキシカルボン酸である。
【0015】グリコール酸と一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸との共重合体(以下、グリコール酸共重合体と略称する)において、共重合の形式は、ランダム,ブロック,グラフトの何れでもよい。好ましくは、ランダム共重合体である一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸は、1種または2種以上適宜の割合で用いてもよい。上記(A)のグリコール酸共重合体におけるグリコール酸と一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸との組成比は、グリコール酸が約10〜約75モル%、残りがヒドロキシカルボン酸である場合が好ましい。さらに好ましくは、グリコール酸が約20〜約75モル%、残りがヒドロキシカルボン酸である場合である。特に好ましくは、グリコール酸が約40〜約70モル%、残りがヒドロキシカルボン酸である場合である。これらグリコール酸共重合体は、重量平均分子量が約2,000から約100,000のものが用いられる。好ましくは、重量平均分子量が約3,000から約80,000の共重合体である。さらに好ましくは、重量平均分子量が約5,000から約50,000の共重合体である。また、これらのグリコール酸共重合体の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は約1.2から約4.0が好ましい。特に好ましくは、分散度が約1.5から約3.5の共重合体である。上記(A)のグリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば、特開昭61−28521号公報に記載の方法に従って合成できる。
【0016】ポリ乳酸としては、L−体、D−体およびこれらの混合物の何れでもよいが、D−体/L−体(モル%)が約75/25〜約20/80の範囲のものが好ましい。さらに好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約60/40〜約25/75の範囲のポリ乳酸である。特に好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約55/45〜約25/75の範囲のポリ乳酸である。該ポリ乳酸は、重量平均分子量が約1,500から約100,000の範囲のものが好ましい。さらに好ましくは、重量平均分子量が約2,000から約80,000の範囲のポリ乳酸である。特に好ましくは、重量平均分子量が約3,000から約50,000の範囲あるいは約10,000〜60,000(さらに好ましくは、約15,000〜約50,000)の範囲のポリ乳酸である。また、ポリ乳酸の分散度は約1.2から約4.0が好ましい。特に好ましくは、分散度が約1.5から約3.5の場合である。ポリ乳酸の合成法については、乳酸の二量体であるラクタイドを開環重合する方法と乳酸を脱水重縮合する方法が知られている。
【0017】本発明の製剤基剤におけるグリコール酸共重合体(A)とポリ乳酸(B)は、例えば(A)/(B)で表わされる混合比(重量%)が約10/90〜約90/10の範囲で使用される。好ましくは、混合比(重量%)が約20/80〜約80/20の範囲である。さらに好ましくは、約30/70〜約70/30の範囲である。(A),(B)のうち何れかの成分が多すぎると、(A)もしくは(B)成分を単独で使用した場合とほとんど同じ薬物放出パターンを有する製剤しか得られず、混合基剤による放出後期の直線的な放出パターンが期待できない。グリコール酸共重合体およびポリ乳酸の分解・消失速度は分子量あるいは組成によって大きく変化するが、一般的にはグリコール酸共重合体の分解・消失速度の方が速いため、混合するポリ乳酸の分子量を大きくする、あるいは(A)/(B)で表わされる混合比を小さくすることによって放出期間を長くすることができる。逆に、混合するポリ乳酸の分子量を小さくする、あるいは(A)/(B)で表わされる混合比を大きくすることによって放出期間を短くすることもできる。さらに、一般式〔II〕で示されるヒドロキシカルボン酸の種類や割合を変化させることにより、放出期間を調節することもできる。
【0018】生体内分解性ポリマーとしてポリ乳酸または乳酸−グリコール酸共重合体(以下、単に乳酸−グリコール酸重合体と称す。)を用いる場合、その乳酸/グリコール酸組成比(モル%)は100/0〜40/60が好ましく、100/0〜45/55がさらに好ましく、とりわけ100/0〜50/50が好ましい。上記の乳酸−グリコール酸重合体の重量平均分子量は3,000〜100,000が好ましく、さらに5,000〜80,000が特に好ましい。また、乳酸−グリコール酸重合体の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は約1.2〜約4.0が好ましく、さらに約1.5〜約3.5が特に好ましい。乳酸−グリコール酸重合体の分解・消失速度は組成あるいは分子量によって大きく変化するが、一般的にはグリコール酸分率が低いほど分解・消失が遅いため、グリコール酸分率を低くするかあるいは分子量を大きくすることによって放出期間を長くすることができる。逆に、グリコール酸分率を高くするかあるいは分子量を小さくすることによって放出期間を短くすることもできる。長期間(例えば、1〜6カ月、好ましくは1〜4カ月)型徐放性製剤(固形)とするには、上記の組成比および重量平均分子量の範囲の乳酸−グリコール酸重合体が好ましい。上記の組成比および重量平均分子量の範囲の乳酸−グリコール酸重合体よりも分解が早い乳酸−グリコール酸重合体を選択すると初期バーストの抑制が困難であり、逆に上記の組成比および重量平均分子量の範囲の乳酸−グリコール酸重合体よりも分解が遅い乳酸−グリコール酸重合体を選択すると有効量の薬物が放出されない期間を生じやすい。
【0019】本明細書における重量平均分子量、数平均分子量および分散度とは、重量平均分子量が120,000、52,000、22,000、9,200、5,050、2,950、1,050、580、162の9種類のポリスチレンを基準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の分子量および算出した分散度をいう。測定は、GPCカラムKF804L×2(昭和電工製)、RIモニターL−3300(日立製作所製)を使用、移動相としてクロロホルムを用いる。また、生体内分解性ポリマーをアセトン−メタノール混合溶媒に溶解し、フェノールフタレインを指示薬としてこの溶液をアルコール性水酸化カリウム溶液でカルボキシル基を滴定して末端基定量による数平均分子量を算出する。以下これを末端基定量による数平均分子量と表記する。末端基定量による数平均分子量が絶対値であるのに対してGPC測定による数平均分子量は分析あるいは解析条件(例えば、移動相の種類、カラムの種類、基準物質、スライス幅の選択、ベースラインの選択等)によって変動する相対値であるため、一義的な数値化は困難であるが、例えば乳酸とグリコール酸から無触媒脱水重縮合法で合成され、末端に遊離のカルボキシル基を有する重合体では、GPC測定による数平均分子量と末端基定量による数平均分子量とがほぼ一致する。この乳酸−グリコール酸重合体の場合にほぼ一致するとは、末端基定量による数平均分子量がGPC測定による数平均分子量の約0.5〜約2倍の範囲内であることをいい、好ましくは約0.7〜約1.5倍の範囲内であることをいう。
【0020】乳酸−グリコール酸重合体は、乳酸とグリコール酸からの無触媒脱水重縮合(特開昭61−28521号)あるいはラクタイドとグリコライド等の環状体からの触媒を用いた開環重合(Encyclopedic Handbook of Biomaterials and Bioengineering PartA:Materials, Volume 2, Marcel Dekker, Inc. 1995年)で製造できる。開環重合で合成される重合体はカルボキシル基を有しない重合体であるが、該重合体を化学的に処理して末端を遊離のカルボキシル基にした重合体(ジャーナル オブ コントロールド リリーズ(J. Controlled Release),41巻、249−257頁、1996年)を用いることもできる。上記の末端に遊離のカルボキシル基を有する乳酸−グリコール酸重合体は公知の製造法(例えば無触媒脱水重縮合法、特開昭61−28521号公報参照)で問題なく製造でき、さらには末端に特定されない遊離のカルボキシル基を有する重合体は公知の製造法(例えば、WO94/15587号公報参照)で製造できる。また、開環重合後の化学的処理によって末端を遊離のカルボキシル基にした乳酸−グリコール酸重合体は、例えばベーリンガー エンゲルハイム(BoehringerIngelheim KG)から市販されているものを用いてもよい。
【0021】本発明の製造法に用いられる徐放性製剤の懸濁液としては、上記した徐放性製剤を下記の懸濁液に用いられる溶媒に添加して調製する。徐放性製剤の懸濁液は、通常、MCの場合、MCとして、約1mg〜約3000mg/ml、好ましくは約5mg〜約1000mg/mlに調製する。該懸濁液としては更に凝集防止剤、例えば、水溶性糖類〔例、マンニトール,ラクトース,ブドウ糖,デンプン類(例、コーンスターチ等)〕、アミノ糖(例、グリシン,アラニン等)、タンパク質(例、ゼラチン,フィブリン,コラーゲン等)、無機塩(例、塩化ナトリウム,臭化ナトリウム,炭酸カリウム等)などを添加したものであっていてもよい。凝集防止剤としては、特に、D−マンニトールなどのマンニトールが好適である。懸濁液に用いられる溶媒としては、例えば、注射用水(例、蒸留法や超濾過法などにより製造される水など)、UF水、RO水、イオン交換水、揮発性溶媒(例、エタノール、アセトンなど)、ポリエチレンングリコール、植物油、鉱物油、またはそれらの混合溶媒などが挙げられ、特に、注射用水などが好適である。また、懸濁安定化剤として、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤などを添加することができる。界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート類(例、ポリソルベート80,ポリソルベート20,ポリソルベート20等)、プルロニック類(例、プルロニックF68(一般名ポリオキシエチレンン〔160〕ポリオキシプロピレン〔30〕グリコール)等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(例、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等)などが用いられる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース類、(例、CMC−K,CMC−Na等)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが用いられる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸、乳酸、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが用いられる。
【0022】本発明の製造法に用いられる凍結乾燥用容器は、通常、MC等の徐放性製剤の凍結乾燥に用いられる容器であれば何れのものであってもよく、例えば、凍結乾燥用トレーなどが用いられる。また、該容器としては、金属(好ましくは、ステンンレス(SUS316,304等))製、ガラス製、陶器製のものが用いられる。更に本発明の製造法に用いられる凍結乾燥用容器としては、平板状のものも包含される。該凍結乾燥容器の大きさは、凍結乾燥の規模に応じて、適宜選択することができる。具体的には、例えば、■横が約5mm〜約10,000mm、縦が約5mm〜約10,000mm、深さが約0.1mm〜約500mmのもの、好ましくは、■横が約5mm〜約7,000mm、縦が約5mm〜約7,000mm、深さが約1mm〜約100mmのもの、より好ましくは、■横が約5mm〜約500mm、縦が約5mm〜約300mm、深さが約5mm〜約100mmのものが用いられる。横、縦および深さの比率は特に限定されないが、通常、深さ1に対して横約1〜約20、縦約1〜約10、好ましくは、深さ1に対して横約1〜約10、縦約1〜約6である。容器の容量は、例えば、約10ml〜約100,000ml、好ましくは、約100ml〜約5,000ml、特に好ましくは約3,000mlである。該凍結乾燥用容器は、凍結乾燥時の吸引のために、容器の一部に空洞が施されているが、通常は天板を有しない凍結乾燥用容器が用いられる。該凍結乾燥用容器の被覆に用いられる撥水性基材としては、例えば、フッ化エチレン樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、二フッ化エチレン樹脂)、フッ化ビニリデン樹脂、六フッ化プロピレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂、変性フッ素樹脂、四フッ化エチレンとパーフロロアルコキシエチレンの共重合体樹脂、四フッ化エチレンとエチレンの共重合体樹脂などが挙げられ、なかでも、フッ化エチレン樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、二フッ化エチレン樹脂)が好ましく、テフロン(商品名)が好適である。凍結乾燥用容器を撥水性基材で被覆(コート)する方法としては、自体公知あるいはそれに準じる方法が用いられるが、具体的には、メッキ法、蒸着法などが用いられる。本発明の製造法で得られる固形徐放性製剤としては、本発明で用いられる徐放性製剤を本発明の製造法(凍結乾燥法)に付して得られる徐放性製剤であればいかなるものであっていてもよく、粉末状の徐放性製剤(例えば、MC末など)の他、自体公知の方法に準じて種々の形状に成型された(例えば、ペレット状、ニードル状など)徐放性製剤をも含有する。
【0023】以下に、本発明の製造法を具体的に詳細を説明する。
(1)内面の一部または全部が氷層で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法について氷層を作製するための水としては、例えば、注射用水(例、蒸留水など)、イオン交換水などが用いられる。氷層で被覆する部分は凍結乾燥用容器の内面の一部または全部であるが、例えば、容器の内面のうち底面のみ、底面および側面の全部、底面の一部のみ、または底面および側面の一部のみであってもよい。また、容器の外面に氷層が形成されていてもよい。凍結乾燥用容器中における氷層の厚さは、使用する容器の大きさ、徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の容量、凍結乾燥温度などに応じて、適宜選択することができるが、例えば、通常、容器の深さの約1/1000〜約4/5、好ましくは約1/500〜約1/5、より好ましくは約1/100〜約1/10、特に好ましくは約1/10であって、約0.01mm以上が好適である。より具体的には、約0.01mm〜約400mm、好ましくは約0.01mm〜約200mm、より好ましくは約0.01mm〜約30mm、さらに好ましくは約0.1mm〜約30mm、特に好ましくは約0.1mm〜約10mm、最も好ましくは約1mmである。氷層はトレーに水を注ぎ、通常約−80℃〜約0℃、好ましくは約−50℃〜約0℃で作製する。
【0024】凍結乾燥用容器中に氷層を形成させた後、徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を容器中に分注させ、凍結させることにより徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層を形成させる。徐放性製剤の懸濁液は、通常、MCの場合、MCとして、約1mg〜約3000mg/ml、好ましくは約5mg〜約1000mg/mlに調製する。徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の容量は、使用する容器の大きさ、凍結乾燥温度などに応じて、適宜選択することができるが、通常、徐放性製剤の懸濁液の凍結層の厚さが、容器の深さの約1/1000〜約4/5、好ましくは約1/500〜約1/5、より好ましくは約1/100〜約1/10、特に好ましくは約1/10である。また、容器100mlに対して、徐放性製剤の懸濁液の容量を約0.1ml〜約99.9ml、好ましくは約1ml〜約90ml、さらに好ましくは約1ml〜約40mlとすることもできる。さらに、氷層が容器の底から約1mmの場合、徐放性製剤の懸濁液の凍結層を約1〜10倍、好ましくは約1〜5倍とすることもできる。例えば、容器として、横が約5mm〜約7,000mm、縦が約5mm〜約7,000mm、深さが約1mm〜100mmのものを用いる場合、氷層の厚さは通常約0.01mm〜約30mm、好ましくは約0.1mm〜約30mm、より好ましくは約0.1mm〜10mm、特に好ましくは約1mmの厚さとする。一方、徐放性製剤の懸濁液の凍結層は、例えば、底面の氷層から約1mm〜約20mm、好ましくは約2mm〜約10mm、好ましくは約4mmとする。徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層は、予め約−10℃〜約20℃、好ましくは約0℃〜5℃に冷却しておいた徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を氷層の上に分注した後、通常約−80℃〜約0℃、好ましくは約−50℃〜約0℃で作製する。このようにして、凍結乾燥容器中に氷層と徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層の2層を作製する。凍結乾燥は自体公知の方法を用いて行うことができ、例えば、前記のMCまたはマイクロスフィアを開示した公開公報などに従って行うことができる。好ましい凍結乾燥の方法としては、例えば、減圧下、凍結乾燥用容器の温度(棚温)が0℃以下(好ましくは、−40℃〜0℃、より好ましくは、−20℃〜0℃、さらに好ましくは、−10℃〜0℃)で凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることを特徴とする方法など、具体的には、減圧下、棚温を0℃以下(好ましくは、−40℃〜0℃、より好ましくは、−20℃〜0℃、さらに好ましくは、−10℃〜0℃)で保ち、凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることを特徴とする方法などがあげられる。ここで、凍結乾燥用容器の温度(棚温)とは被凍結乾燥物を保持する容器またはその容器が接触している棚の温度のことを意味する。また、氷結水分とは氷結した自由水のことを意味する。棚温を0℃以下(好ましくは、−40℃〜0℃、より好ましくは、−20℃〜0℃、さらに好ましくは、−10℃〜0℃)で保つ場合には、約0.1時間以上、好ましくは約1時間〜500時間、さらに好ましくは約5時間〜100時間棚温を0℃以下に保ち、凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させる。上記の方法により凍結乾燥を行うことにより、氷結水分の昇華が0℃以下、即ち氷の融解しない低温(共晶点、融点以下の温度)で行われる結果、氷の融解および昇華速度が抑制されるために■凍結乾燥ケーキの崩れが防止され、■MC末の凍結乾燥容器外への飛散などが防止され、■さらにMC末の高収量が確保され、■一定の品質のMC末が製造できる。
【0025】(2)内面の一部または全部が撥水性基材で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法について撥水性基材で被覆する部分は凍結乾燥用容器の内面の一部または全部であるが、例えば、容器の内面のうち底面のみ、底面および側面の全部、底面の一部のみ、または底面および側面の一部のみであってもよい。また、容器の外面も撥水性基材で被覆されていてもよい。徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を容器中に分注させ、凍結させることにより徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層を形成させる。徐放性製剤の懸濁液は、通常、MCの場合、MCとして、約1mg〜約3000mg/ml、好ましくは約1mg〜約300mg/mlに調製する。凍結乾燥用容器中における徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の容量、使用する容器の大きさ、凍結乾燥温度などに応じて、適宜選択することができるが、例えば、通常、徐放性製剤の懸濁液の凍結層の厚さが、容器の深さの約1/1000〜約4/5、好ましくは約1/500〜約1/5、より好ましくは約1/100〜約1/10、特に好ましくは約1/10である。また、容器100mlに対して、徐放性製剤の懸濁液の容量を約0.1ml〜約99.9ml、好ましくは約1ml〜約90ml、さらに好ましくは約1ml〜約40mlとすることもできる。さらに、氷層が容器の底から約1mmの場合、徐放性製剤の懸濁液の凍結層を約1〜10倍、好ましくは約1〜5倍とすることもできる。例えば、容器として、横が約5mm〜約7,000mm、縦が約5mm〜約7,000mm、深さが約1mm〜100mmのものを用いる場合、氷層の厚さは通常約0.01mm〜約30mm、好ましくは約0.1mm〜約30mm、より好ましくは約0.1mm〜10mm、特に好ましくは約1mmの厚さとする。一方、徐放性製剤の懸濁液の凍結層は、例えば、底面の氷層から約1mm〜約20mm、好ましくは約2mm〜約10mm、好ましくは約4mmとする。徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層は、予め約−10℃〜約20℃、好ましくは約0℃〜5℃に冷却しておいた徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を氷層の上に分注した後、通常約−80℃〜約0℃、好ましくは約−50℃〜約0℃で作製する。このようにして、凍結乾燥容器中に徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)の凍結層を作製する。凍結乾燥は上記の製造法(1)と同様にして行うことができる。
【0026】(3)撥水性基材で内面が被覆され、かつその内面の一部または全部が氷層で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法について本法は、上記の製造法(1)における凍結乾燥用容器の代わりに、撥水性基材で内面が被覆された凍結乾燥用容器を用いる以外は、製造法(1)と同様にして実施することができる。本法の場合、凍結乾燥用容器の内面のうち、少なくとも徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)が接する部分全てが撥水性基材で被覆されていることが望ましい。
【0027】本発明の製造法は、次のような利点を有している。
(1)MC末がトレーに付着しないので、回収時にスクレーパーを使用して掻き取る必要がない。
(2)スクレーパーを使用して掻き取りを行う必要がないため、回収時に環境に暴露させる時間が短くなり、微生物などの混入の危険性がない。また、MCは水分コントロールが必要な製剤であるため、環境暴露時間が短いことにより、理化学的な安定性の観点からも危険性が少ない。
(3)スクレーパーを使用した掻き取り操作が不要なため、トレーとスクレーパーの擦れに起因する異物発生・混入の危険性がない。
(4)MC末とトレーとの付着が少ないため、MC末の回収率が高い。
(5)さらに、上記のより好ましい凍結乾燥方法を適用することにより、より高収量で一定の品質のMC末を回収することができることができる。
【0028】本発明の製造法を用いて、徐放性製剤(徐放性製剤の懸濁液)を凍結乾燥した後、必要であれば、減圧下、徐放性製剤同士が融着しない条件内で加温して徐放性製剤中の水分および有機溶媒の除去を行ってもよい。この場合、好ましくは毎分約10〜約20℃の昇温速度の条件下で示差走査熱量計で求めた生体内分解性ポリマーの中間点ガラス転移温度よりも若干高い温度で加温する。より好ましくは生体内分解性ポリマーの中間点ガラス転移温度からこれより約30℃高い温度範囲内で加温する。とりわけ、生体内分解性ポリマーとして乳酸−グリコール酸重合体を用いる場合には、その中間点ガラス転移温度以上中間点ガラス転移温度より20℃高い温度範囲、好ましくは、中間点ガラス転移温度以上中間点ガラス転移温度より10℃高い温度範囲で加温する。加温時間は徐放性製剤の量などによって異なるものの、一般的には徐放性製剤自体が所定の温度に達した後、約12時間〜約168時間が好ましく、さらに約48時間〜約120時間が好ましい。特に、約48時間〜約96時間が好ましい。加温方法は、徐放性製剤の集合が均一に加温できる方法であれば特に限定されない。該加温乾燥方法の好ましい具体例として、例えば、恒温槽、流動槽、移動槽あるいはキルン中で加温乾燥する方法、マイクロ波で加温乾燥する方法などが用いられる。このなかで恒温槽中で加温乾燥する方法が好ましい。
【0029】上記のようにして得られる徐放性製剤の凍結乾燥品(固形)は、そのままあるいはこれを原料物質として種々の剤形に製剤化し、経口又は非経口で投与することができる。具体的には筋肉内、皮下、臓器などへの注射剤または埋め込み剤、鼻腔、直腸、子宮などへの経粘膜剤、経口剤〔例、カプセル剤(例、硬カプセル剤、軟カプセル剤等)、顆粒剤、散剤等の固形製剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の液剤等〕などとして投与することができる。例えば、徐放性製剤(固形)を注射剤とするには、これらを分散剤(例、ツイーン(Tween)80、HCO−60等の界面活性剤、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の多糖類など)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベンなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、ブドウ糖、プロリンなど)等と共に水性懸濁剤とするか、ゴマ油、コーン油などの植物油と共に分散して油性懸濁剤として実際に使用できる徐放性注射剤とする。徐放性製剤(固形)の粒子径は、懸濁注射剤として使用する場合にはその分散度、通針性を満足する範囲であればよく、例えば、平均粒子径として約0.1〜300μmの範囲が挙げられる。好ましくは、約1〜150μm の範囲の平均粒子径である。さらに好ましくは、約2〜100μm の範囲の平均粒子径である。徐放性製剤(固形)を無菌製剤にするには、製造全工程を無菌にする方法、ガンマ線で滅菌する方法、防腐剤を添加する方法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0030】上記徐放性製剤(固形)は、低毒性であるので、ヒトまたは哺乳動物(例、サル、牛、豚、犬、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等)に対して安全に用いることができる。徐放性製剤(固形)の活性成分としての投与量は、主薬である生理活性ペプチドの種類と含量、剤形、生理活性ペプチド放出の持続時間、対象疾病、対象動物、投与方法などによって種々異なるが、生理活性ペプチドの有効量であればよい。主薬である生理活性ペプチドの1回当たりの投与量としては、例えば、徐放性製剤(固形)が1カ月製剤である場合、好ましくは、成人1人(体重50Kgとして)当たり約0.001mg〜100mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。さらに好ましくは約0.005mg〜50mg/kg体重の範囲から、特に好ましくは約0.01mg〜10mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。より具体的には、前述の一般式〔Ia〕で表わされるLH−RHアンタゴニストまたは一般式〔Ib〕で表わされるLH−RHアゴニストを生理活性ペプチドとして用いる場合、例えば、前立腺癌,前立腺肥大症,子宮内膜症,子宮筋腫,子宮線維腫,思春期早発症,乳癌,膀胱癌,子宮頸部癌,慢性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病,大腸癌,胃炎,ホジキン病,悪性黒色腫,移転,多発性骨髄腫,非ホジキン性リンパ腫,非小細胞肺癌,卵巣癌,消化性潰瘍,全身性真菌感染症,小細胞肺癌,心弁膜症,乳腺症,多嚢胞性卵巣,不妊,慢性無排卵症,婦人における適性排卵誘発,ざそう(アクネ),無月経(例、続発性無月経),卵巣および乳房の嚢胞性疾患(多嚢胞性卵巣を含む),婦人科系の癌、卵巣性高アンドロゲン血症および多毛症,胸腺幼若化を介したT細胞産生によるAIDS,男性性犯罪者の治療のための男性避妊等のホルモン依存性疾患の治療・予防剤、避妊,月経前症候群(PMS)の症状軽減のための薬剤、体外受精(IVF)用剤などとして、特に、前立腺癌,前立腺肥大症,子宮内膜症,子宮筋腫,子宮線維腫,思春期早発症などの治療・予防剤や避妊薬として使用することができる。該生理活性ペプチドの投与量は、その剤形、所望の薬物放出持続時間、対象疾病、対象動物などによって種々異なるが、薬物の有効量であればよい。薬物の1回当たりの投与量としては、例えば徐放性製剤(固形)が1カ月製剤である場合、好ましくは、成人1人当たり約0.001mg〜約10mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。さらに好ましくは、約0.005mg〜約5mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。1回当たりの徐放性製剤(固形)の投与量は成人1人当たり好ましくは、約0.005mg〜50mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。さらに好ましくは約0.01mg〜30mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。投与回数は、数週間に1回、1か月に1回、あるいは数か月に1回等、主薬である生理活性ペプチドの種類と含量、剤形、生理活性ペプチド放出の持続時間、対象疾病、対象動物などによって適宜選ぶことができる。
【0031】
【発明の実施の形態】以下に、実施例および参考例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0032】
【実施例】参考例1 徐放性MC(1カ月製剤)懸濁液の調製ゼラチン2.4g、酢酸リュープロレリン15.2gを蒸留水15.0gに加温しながら溶解した。この溶液に、別で調製した乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAと略記)〔乳酸/グリコール酸=75/25(モル%)、重量平均分子量:10500〕のジクロロメタン溶液321g(内、PLGA 121g)を添加し、ミニミキサーで2分間撹拌乳化(回転数:10000rpm)した。これを、予め溶解しておいた0.1%ポリビニールアルコール(PVA)水溶液25L に加えて再び乳化した。このW/O/Wエマルションを軽く撹拌しながら約3時間ほど脱溶媒した。得られたMCを75μm の篩を通して荒い粒子を除去した後、遠心分離によって分離した。これを蒸留水で洗浄し、遊離の薬物、PVAを除去した後、少量の蒸留水とともに250μm および90μmの篩で湿式篩過した。これに、18.4gのD−マンニトールを加え溶解し、MCの懸濁液とした。スケールに応じて、各原料の使用量を増減できる。
【0033】参考例2 徐放性MC(3カ月製剤)懸濁液の調製酢酸リュープロレリン10.8gを蒸留水12.5gに加温しながら溶解した。この溶液に、別で調製した乳酸重合体(以下、PLAと略記)〔重量平均分子量:16000〕のジクロロメタン溶液256g(内、PLA 96g)を添加し、ミニミキサーで2分間撹拌乳化(回転数:10000rpm)した。これを、あらかじめ溶解しておいた0.1%ポリビニールアルコール(PVA)水溶液25Lに加えて再び乳化した。このW/O/Wエマルションを軽く撹拌しながら約3時間ほど脱溶媒した。得られたMCを75μm の篩を通して荒い粒子を除去した後、遠心分離によって分離した。これを蒸留水で洗浄し、遊離の薬物、PVAを除去した後、少量の蒸留水とともに250μm および90μmの篩で湿式篩過した。これに、16.3gのD−マンニトールを加え溶解し、MCの懸濁液とした。スケールに応じて、各原料の使用量を増減できる。
【0034】実施例1凍結乾燥用トレー(横200mm、縦100mm、深さ20mm)に、注射用水を用いて予め約1mmの厚さの氷層をー30℃で形成させた。このときトレーの内側壁にも氷層を形成させた(アイスライニング)。予め約5℃に冷却しておいた上記参考例1で得たMC懸濁液80mlを、氷層を形成してなる凍結乾燥用トレー上に添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。一方、これとは別に、氷層を形成させない凍結乾燥用トレー上に該MC懸濁液80mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。凍結乾燥後、それぞれのトレーを逆さにして、トレーからの凍結乾燥品のはく離・回収状況を観察した。氷層を形成してなる凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥品をトレーから容易に回収することができ、トレーの表面にはMC末の付着を認めなかった。一方、氷層を形成させない凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥品はトレーからはく離しなかった。また、MC末をスクレーパーで回収した後も、トレーにMC末の付着を認めた。
【0035】実施例2表面に撥水性の高分子であるテフロン(商品名)をコートした凍結乾燥用トレー(横200mm、縦100mm、深さ20mm)に、予め約5℃に冷却しておいた上記参考例1で得たMC懸濁液80mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。一方、これとは別に、表面に撥水性処理を施していない凍結乾燥用トレー上に該MC懸濁液80mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。凍結乾燥後、それぞれのトレーを逆さにして、トレーからの凍結乾燥品のはく離・回収状況を観察した。表面に撥水性処理を施した凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥品をトレーから容易に回収することができ、トレーの表面にはMC末の付着を認めなかった。一方、表面に撥水性処理を施していない凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥標品はトレーからはく離しなかった。また、MC末をスクレーパーで回収した後も、トレーにMC末の付着を認めた。
【0036】実施例3実施例2と同様のテフロンをコートした凍結乾燥用トレー(横200mm、縦100mm、深さ20mm)に、注射用水を用いて予め約1mmの厚さの氷層をー30℃で形成させた。このときトレーの内側壁にも氷層を形成させた(アイスライニング)。予め約5℃に冷却しておいた上記参考例1で得たMC懸濁液80mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。一方、これとは別に、氷層を形成させておらず、かつ表面に撥水性処理を施していない凍結乾燥用トレー上に該MC懸濁液80mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法に従って凍結乾燥を行った。凍結乾燥後、それぞれのトレーを逆さにして、トレーからの凍結乾燥品のはく離・回収状況を観察した。表面に撥水性処理を施し、かつ氷層を形成させた凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥品をトレーから容易に回収することができ、トレーの表面にはMC末の付着を認めなかった。一方、氷層を形成させておらず、かつ表面に撥水性処理を施していない凍結乾燥用トレーを用いた場合、凍結乾燥品はトレーからはく離しなかった。また、MC末をスクレーパーで回収した後も、トレーにMC末の付着を認めた。
【0037】実施例4〔表1〕に示す凍結乾燥用トレーの大きさと氷層の厚さとを組み合わせても、実施例1〜3と同様の結果が得られる。
【表1】


【0038】実施例5酢酸リュープロレリン15.1gを蒸留水15.0gに加温しながら(70℃〜80℃)溶解した。この溶液に、別で調製した乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)[乳酸/グリコール酸=75/25(モル%)、重量平均分子量:10500]のジクロロメタン溶液323.6g(内、PLGA123.9g)(25〜35℃にコントロールした)を添加し、混合物温度を40℃以下にコントロールして、ミニミキサーで2分間攪拌乳化(回転数:10000rpm)した。これを18〜19℃に冷却し、予め溶解しておいた0.1%ポリビニルアルコール(PVA)(18〜19℃)水溶液25Lに加え再び乳化した。このW/O/Wエマルションを軽く攪拌しながら約3時間ほど脱溶媒した。得られたMCを75μmの篩を通して粗い粒子を除去した後、少量の蒸留水とともに90μmの篩で湿式篩過した。これに、18.4gのD−マンニトールを加え溶解し、MCの懸濁液とした。予め凍結乾燥用トレー(横170mm、縦260mm、深さ40mm)に、注射用蒸留水で約2mmの厚さの氷層を−30℃で形成させたトレーに、上記MC懸濁液約400mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法または後述の実施例7に従って凍結乾燥を行う。本方法により製造された凍結乾燥品は、それぞれのトレーからの凍結乾燥品のはく離・回収が容易であり、また、トレー表面にMC末の付着は認められない。
【0039】実施例6酢酸リュープロレリン15.1gを蒸留水13.0gに加温しながら(70℃〜80℃)溶解した。この溶液に、別で調製した乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)[乳酸/グリコール酸=75/25(モル%)、重量平均分子量:10500]のジクロロメタン溶液323.6g(内、PLGA123.6g)(25〜35℃にコントロールした)を添加し、混合物温度を40℃以下にコントロールして、ミニミキサーで2分間攪拌乳化(回転数:10000rpm)した。これを18〜19℃に冷却し、予め溶解しておいた0.1%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(18〜19℃)25Lに加え再び乳化した。このW/O/Wエマルションを軽く攪拌しながら約3時間ほど脱溶媒した。得られたMCを75μmの篩を通して粗い粒子を除去した後、少量の蒸留水とともに90μmの篩で湿式篩過した。これに、18.4gのD−マンニトールを加え溶解し、MCの懸濁液とした。予め凍結乾燥用トレー(横170mm、縦260mm、深さ40mm)に、注射用蒸留水で約2mmの厚さの氷層を−30℃で形成させたトレーに、上記MC懸濁液約400mlを添加し、約−30℃で十分凍結させた後、常法または後述の実施例7に従って凍結乾燥を行う。本方法により製造された凍結乾燥品は、それぞれのトレーからの凍結乾燥品のはく離・回収が容易であり、また、トレー表面にMC末の付着は認められない。
【0040】実施例7 徐放性MC(1ヶ月製剤)懸濁液への適用凍結乾燥用トレー(横170mm、縦260mm、深さ40mm)に注射用水を用いて予め約2mmの厚さの氷層を−30℃で形成させた。このときトレーの内側壁にも氷層を形成させた(アイスライニング)。予め約5℃に冷却しておいた上記参考例1で得たMC懸濁液200mLを、氷層を形成している凍結乾燥用トレー上に添加し、約−30℃で十分凍結させた後、以下に示す方法で凍結乾燥を行った。懸濁液を約−30℃で凍結後、20℃/hrで棚温度を−5℃まで上昇させ、約20時間温度を保持した。その後、更に棚温度を20℃/hrで51℃まで上昇させ、約48時間保持した。凍結乾燥後、凍結乾燥品の状態、およびトレーからのはく離・回収状況を観察した。凍結乾燥品には崩れ・飛散を認めなかった。また凍結乾燥品をトレーから容易に回収することができ、トレー表面にはMC末の付着を認めなかった。
【0041】実施例8 徐放性MC(3ヶ月製剤)懸濁液への適用凍結乾燥用トレー(横170mm、縦260mm、深さ40mm)に注射用水を用いて予め約2mmの厚さの氷層を−30℃で形成させる。このときトレーの内側壁にも氷層を形成させる(アイスライニング)。予め約5℃に冷却しておいた上記参考例2で得たMC懸濁液200mLを、氷層を形成している凍結乾燥用トレー上に添加し、約−30℃で十分凍結させた後、以下に示す方法で凍結乾燥を行う。懸濁液を約−30℃で凍結後、20℃/hrで棚温度を−5℃まで上昇させ、約20時間温度を保持する。その後、更に棚温度を20℃/hrで50℃まで上昇させ、約48時間保持する。凍結乾燥品には崩れ・飛散を認めず、凍結乾燥品をトレーから容易に回収することができ、トレー表面にはMC末の付着を認めない凍結乾燥方法ができる。
【0042】
【発明の効果】本発明の製造法によれば、凍結乾燥用容器と固形徐放性製剤との付着がなくなり、掻き取り操作をすることなく、固形徐放性製剤を回収することができるので、固形徐放性製剤の回収率が著しく向上する。また、固形徐放性製剤の環境暴露時間が短くなるため、無菌性維持も向上する。さらに、減圧下、凍結乾燥用容器の温度が0℃以下で凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることを特徴とする凍結乾燥方法を適用することにより、凍結乾燥ケーキの崩れ、飛散を防止し、より高収量で一定の品質のMC末を回収することができることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】内面の一部または全部が氷層または撥水性基材で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法。
【請求項2】撥水性基材で内面の一部または全部が被覆され、かつその内面の一部または全部が氷層で被覆された凍結乾燥用容器中で徐放性製剤を凍結乾燥することを特徴とする固形徐放性製剤の製造法。
【請求項3】内面が底面のみである請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】凍結乾燥用容器がトレーである請求項1または2記載の製造法。
【請求項5】氷層の厚さが約0.01mm〜約30mmである請求項1または2記載の製造法。
【請求項6】撥水性基材が四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、二フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、六フッ化プロピレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂、変性フッ素樹脂、四フッ化エチレンとパーフロロアルコキシエチレンの共重合体樹脂、または四フッ化エチレンとエチレンの共重合体樹脂である請求項1または2記載の製造法。
【請求項7】徐放性製剤がマイクロスフェアである請求項1〜6のいずれかに記載の製造法。
【請求項8】減圧下、凍結乾燥用容器の温度が0℃以下で凍結乾燥容器内の氷結水分の昇華を完了させることを特徴とする請求項1または2記載の製造法。