説明

従業状態管理システム

【課題】雇用者に個々の従業者を雇用していることの意義を実感させる一方、個々の従業者の労働意欲の維持または向上を図ることができるシステムを提供する。
【解決手段】本発明の従業状態管理システムによれば、たとえば、従業者の身体状態と、業務遂行履歴(OJT(On the Job Training)の履歴など)および研修履歴のうち一方または両方と、異なる時点における遂行可能な業務範囲の変遷を雇用者に認識させることができる(図2および図3参照)。また、異なる時点における従業者が遂行可能な業務範囲の変遷を当該従業者本人に認識させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従業者の従業状態を管理するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
障害者などの従業者の研修履歴、従業履歴および保有資格などの属性データを記憶するデータベースを利用して、雇用または従業を支援するための技術的手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−123507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、雇用者および従業者の双方が、雇用または従業の成果が実感できなければ良好な就労関係が損なわれる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、雇用者に個々の従業者を雇用していることの意義を実感させる一方、個々の従業者の労働意欲の維持または向上を図ることができるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の従業状態管理システムは、従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方と、当該従業者が遂行可能な業務範囲とのそれぞれに関する情報を保存するように構成されているデータベースと、前記データベースにより保存されている前記情報のうち、少なくとも異なる時点のそれぞれにおける遂行可能な業務範囲を出力装置に出力させるように構成されている演算処理装置とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の従業状態管理システムによれば、たとえば、従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方と、異なる時点における遂行可能な業務範囲の変遷を雇用者に認識させることができる。また、異なる時点における従業者が遂行可能な業務範囲の変遷を当該従業者本人に認識させることができる。
【0008】
これにより、雇用者は、従業者が遂行可能な業務範囲に鑑みて、当初よりも高いスキルが必要とされる業務を割り当てる等、当該従業者を雇用していることの利益を実感することができる。また、従業者は、自己研鑽または経験の積み重ねが業務範囲の拡張につながっていることを知り、その業務遂行意欲の維持または向上を図ることができる。
【0009】
前記演算処理要素が、入力装置を通じて入力された従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方とを認識した上で、当該従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方とに基づき、当該従業者が遂行可能な業務範囲を決定するように構成されていてもよい。
【0010】
前記データベースは、前記従業者の前記身体状態に応じた標準的な従業環境仕様に関する情報をさらに保存するように構成されていてもよい。
【0011】
当該構成の従業状態管理システムによれば、出力装置を通じて出力される、従業者の業務遂行のための身体状態に応じた従業環境仕様に関する情報を参考にして、雇用者は各従業者にとって適当な形で従業環境仕様を整備する指針を決定することができる。また、当該情報を通じて、実際の従業環境が、当該従業環境仕様に適合していることを従業者に伝えることにより、従業者に雇用者の誠意を感じさせ、その結果として労働意欲の維持等が図られる。
【0012】
前記演算処理装置は、従業者のさまざまな身体状態のうち、生産ラインにおいて従業が許容される身体状態の幅を認識した上で、当該許容される身体状態の幅の広狭に応じて当該生産ラインについて従業環境指数を評価するように構成され、前記データベースは、前記生産ラインと、当該生産ラインについて前記演算処理装置により評価された前記従業環境指数とを前記出力装置により出力されうる形態で保存するように構成されていてもよい。
【0013】
前記演算処理装置は、身体状態の相違に応じて、前記従業環境指数に対する寄与度が異なるという条件にしたがって、前記従業環境指数を評価するように構成されていてもよい。
【0014】
当該構成の従業状態管理システムによれば、生産ラインの従業環境が、従業者のさまざまな身体状態のうちどの程度多くの身体状態に適応しているかが、出力装置に出力される従業環境指数の高低を通じて雇用者および従業者に認識させることができる。
【0015】
雇用者は、当該指数を参考にして、各従業者にとって適当な形で生産ラインの従業環境を整備する指針を決定することができる。また、当該生産ラインの従業環境の整備について雇用者の誠意を従業者に感じさせ、その結果として当該従業者の労働意欲の維持等が図られる。
【0016】
前記データベースが、生産ラインにおいて実行される複数の工程のそれぞれについて、身体状態の別に応じた従業可否をさらに保存するように構成され、前記演算処理装置が、前記複数の工程のそれぞれにおける従業遅延の有無を検知し、従業遅延が検知された工程について、前記データベースに保存されている身体状態の別に応じた従業可否と、同じく前記データベースに保存されている各従業者の身体状態とに基づき、交代用の従業者を決定した上で、前記出力装置に出力させるように構成されていてもよい。
【0017】
当該構成の従業状態管理システムによれば、生産ラインの複数の工程のうち、従業遅延が発生した工程について、身体状態に鑑みて従業可能な従業者を交代用の従業者として現在従業者に代えて当該工程に従事させることができる。この結果、当該従業遅延の影響が軽減または解消されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の従業状態管理システムの構成説明図。
【図2】時系列的な業務範囲の変遷に関する説明図。
【図3】時系列的な研修履歴に関する説明図。
【図4】本発明の第1変形実施形態の従業状態管理システムの管理対象となる生産ラインの一例に関する説明図。
【図5】ある工程における従業者の様子に関する説明図。
【図6】本発明の第2変形実施形態の従業状態管理システムの構成説明図。
【図7】本発明の第2変形実施形態の従業状態管理システムの機能説明図(その1)。
【図8】本発明の第2変形実施形態の従業状態管理システムの構成説明図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(従業状態管理システムの構成について)
本発明の一実施形態としての従業状態管理システムは、複数のクライアント2のそれぞれとネットワーク経由で通信可能なサーバコンピュータ1により構成されている。従業状態管理システムは、データベース10と、演算処理装置14とを備えている。
【0020】
クライアント2はパーソナルコンピュータ等の情報演算処理機器により構成されている。クライアント2は、キーボード、タッチパネル式スイッチ、マウスポインティング装置等の入力装置21と、ディスプレイ装置、スピーカ等の出力装置22とを備えている。
【0021】
データベース10は、サーバの記憶装置またはメモリにより構成されている。データベース10は、入力装置21を通じて入力された上でクライアント2からサーバ1に送信された、従業者の身体状態と、業務遂行履歴と、研修履歴と、当該従業者が遂行可能な業務範囲とのそれぞれに関する情報を保存する。また、データベース10は、従業者の身体状態に応じた標準的な従業環境仕様に関する情報を保存する。
【0022】
各従業者の身体状態は、従業者を識別するための従業者識別コードと、身体状態を識別するための身体状態識別コードとのマトリクスとしてデータベース10に保存されている。身体状態には、右足を捻挫しているなどの「怪我の状態(一時的な障害内容)」、血糖値が高い、高血圧であるなどの「病状」、下肢が不自由である、聴覚に障害があるなどの「障害内容」が含まれている。
【0023】
業務遂行履歴は、従業者識別コードと、当該従業者が担当した従業工程を識別するための従業工程識別コードとのマトリクスとしてデータベース10に保存されている。
【0024】
研修履歴は、従業者識別コードと、当該従業者が受けた研修の内容を識別するための研修内容識別コードとのマトリクスとしてデータベース10に保存されている。
【0025】
各従業者が遂行可能な業務範囲は、従業者識別コードと、複数の従業工程のそれぞれを識別するための従業工程識別コードとのマトリクスとしてデータベース10に保存されている。なお、データベース10に保存される各従業者の遂行可能な業務範囲は、当該各従業者の身体状態と、研修履歴および業務遂行履歴のうち少なくとも一方とに基づき、メモリに格納されているアルゴリズムまたはテーブルにしたがって、演算処理装置14により決定されてもよい。
【0026】
身体状態に応じた標準的な従業環境仕様は、身体状態識別コードと、従業環境仕様を識別するための一または複数の仕様識別コードとのマトリクスとしてデータベース10に保存されている。従業環境仕様としては、従業者がある業務または従業工程を遂行する際、この従業者の身体状態の相違に応じて使用すべき工具、器具、装置の使用のほか、通路の傾斜角度、通路の幅、階段の段差、手すりの有無などにより定義される。標準的な従業環境仕様は、その国または自治体により制定された法律または規則にしたがって定められ、法律または規則の改正により変動する。
【0027】
演算処理装置14は、当該サーバ1のメモリからソフトウェアを読み取り、読み取ったソフトウェアのプログラムにしたがって演算処理を実行するサーバ1のCPUにより構成されている。演算処理装置14は、クライアント2の入力装置21を通じて指定された従業者を、当該クライアント2とサーバ1とのネットワーク通信の結果により認識する。その上で、演算処理装置14は、データベース10により保存されている情報のうち、少なくとも異なる時点のそれぞれにおいて当該指定従業者が遂行可能な業務範囲を検索する。
【0028】
そして、演算処理装置14は、当該検索情報をネットワーク通信によってクライアント2に認識させ、このクライアント2の出力装置22に出力させる。サーバ1の入力装置を通じて従業者が指定され、サーバ1の出力装置を通じてデータベース10から検索された情報が出力されてもよい。
【0029】
(従業状態管理システムの機能について)
前記構成の従業状態管理システムの機能について説明する。
【0030】
まず、雇用者またはシステム管理者が、クライアント2においてアプリケーションを起動させた上で、入力装置21を操作することにより従業者を指定する。これに応じて、当該指定従業者を識別するための従業者識別コードが、クライアント2からサーバ1にネットワーク経由で送信される。
【0031】
続いて、演算処理装置14がこのコードにより識別される指定従業者のそれぞれについて、異なる時点のそれぞれにおける業務遂行履歴および研修履歴と、業務範囲とをデータベース10から検索する。必要に応じて、身体状態に応じて定まる従業環境仕様もデータベース10から検索される。そして、演算処理装置14が当該検索情報をサーバ1からクライアント2に送信させ、これに応じて当該クライアント2の出力装置22に当該検索情報が出力表示される。
【0032】
これにより、図2に示されているように、異なる時点における、各従業者の遂行可能な業務範囲が出力装置22に表示される。また、図3に示されているように、異なる時点における、各従業者の研修履歴が出力装置22に表示される。
【0033】
図2上段には、2009年6月1日において、従業者識別コードA0012111を有する従業者が遂行可能な業務範囲が、従業工程識別コードB001により識別される従業工程を包含することが示されている。これは、図3上段に示されている、2009年6月1日までの当該従業者の研修履歴のほか、身体状態および業務遂行履歴に応じて定められている。
【0034】
その一方、図2下段には、2009年6月1日から1年が経過した2010年6月1日において、従業者識別コードA0012111を有する従業者が遂行可能な業務範囲が、従業工程識別コードB001のほか、B002、B024およびB026のそれぞれにより識別される従業工程を包含するように拡張されていることが示されている(斜線付丸印参照)。これは、図3下段に示されている、2009年6月1日以降における当該従業者の研修履歴をも含む全研修履歴のほか、身体状態および業務遂行履歴に応じて定められている。
【0035】
また、図2から、従業者識別コードA0012113を有する従業者が遂行可能な業務範囲が、従業工程識別コードB003により識別される従業工程を包含する範囲から、当該コードB003のほか、B002およびB024のそれぞれにより識別される従業工程を包含するように拡張されていることがわかる。同様に、図2から、従業者識別コードA1001451を有する従業者が遂行可能な業務範囲が、従業工程識別コードB001およびB003のそれぞれにより識別される従業工程を包含する範囲から、当該コードB001およびB003のほか、B024により識別される従業工程を包含するように拡張されていることがわかる。
【0036】
なお、3つ以上の異なる時点のそれぞれにおける、各従業者にとって遂行可能であると定められた業務範囲が出力装置22に出力表示されてもよい。3つ以上の異なる時点のそれぞれにおける、各従業者の業務遂行履歴および研修履歴のうち少なくとも一方が出力装置22に出力表示されてもよい。
【0037】
(従業状態管理システムの作用効果について)
本発明の従業状態管理システムによれば、たとえば、従業者の身体状態と、業務遂行履歴(OJT(On the Job Training)の履歴など)および研修履歴のうち一方または両方と、異なる時点における遂行可能な業務範囲の変遷を雇用者に認識させることができる(図2および図3参照)。また、異なる時点における従業者が遂行可能な業務範囲の変遷を当該従業者本人に認識させることができる(図2参照)。
【0038】
これにより、雇用者は、従業者が遂行可能な業務範囲に鑑みて、当初よりも高いスキルが必要とされる業務を割り当てる等、当該従業者を雇用していることの利益を実感することができる。また、従業者は、自己研鑽または経験の積み重ねが業務範囲の拡張につながっていることを知り、その業務遂行意欲の維持または向上を図ることができる。
【0039】
また、出力装置22を通じて出力される、従業者の業務遂行のための身体状態に応じた従業環境仕様に関する情報を参考にして、雇用者は各従業者にとって適当な形で従業環境仕様を整備する指針を決定することができる。また、当該情報を通じて、実際の従業環境が、当該従業環境仕様に適合していることを従業者に伝えることにより、従業者に雇用者の誠意を感じさせ、その結果として労働意欲の維持等が図られる。
【0040】
(本発明の第1変形実施形態)
従業状態管理システムは、前記機能に加えてまたは代えて次に説明するように生産ラインの従業環境を管理する機能を発揮するように構成されていてもよい。図4には、管理対象となる生産ラインの一例が示されている。この生産ラインでは、a工程〜d工程の4つの工程が実施される。
【0041】
「a工程」では、従業者Aの手作業により、車両の電装部品(スイッチなど)等の部品312が、部品パレット311から移動され、コンベア313に載置される。
【0042】
「b工程」では、立ち姿勢の従業者Bにより、左右それぞれの手によるハンドツール314および315のそれぞれの操作を通じて、部品312に対して研磨等の加工が施されれる。
【0043】
「c工程」では、従業者Cの両手作業により、部品312に対してプレス加工等のさらなる加工が施される。
【0044】
「d工程」では、従業者Dの目視により、加工済みの部品312が検査される。うh良品が発見された場合、従業者Dによりスイッチ316が押されると、当該部品はプッシュピン317によりコンベア313からはじき出され、不良品バケット318に落下する。その一方、良品はコンベア313により次の工程へと運搬される。
【0045】
図5には、工程cに従事している従業者Cの様子が示されている。コンベア313に沿って従業机320が配置され、この従業机320の上にプレス装置321および始動スイッチ322,323(スイッチ323はスイッチ322の奥にある。)が配置されている。従業机320の脚324には、ネジ式の高さ調節機構325が設けられている。部品312をプレス装置321にセットする作業は、両手でなくては困難である。また、2個の始動スイッチ322,323は両手で同時に押される必要がある。
【0046】
高さ調節機構325により、従業机320の高さが調節可能であるので、車椅子326に座っている従業者Cでも、工程cに従事することができる。
【0047】
表1には、データベース14を構成する工程従業データベースの一例が示されている。
【0048】
工程作業データベース:
【表1】

身体状態(障害)の種類は多岐にわたるが、たとえば、視力または聴力が健全であれば、従業者は生産ラインでの作業に従事することができる。そこで、身体状態の種類として、作業に際して車椅子を必要とする状態、片手の機能が低下している状態、ならびに、手または指の機能が低下している状態の3つの身体状態が採用されている。以下、各状態にある従業者を適宜「車椅子従業者」「片手従業者」および「弱手従業者」という。
【0049】
工程aにおける部品の移載作業は、弱手従業者にとっては遂行困難である一方、指等の機能が通常である従業者にとっては、車椅子を必要とする状態または片手の機能が低下している状態であっても遂行容易または可能な作業である。
【0050】
工程bにおける加工作業は、立ち姿勢での両手作業であるため、車椅子従業者、片手従業者および弱手従業者のすべてにとって遂行困難な作業である。
【0051】
工程cにおける加工作業は、両手作業であるため、片手または指等の機能が低下している従業者にとっては遂行困難である一方、片手および指等の機能が通常な従業者にとっては、車椅子を必要とする状態であっても遂行容易な作業である。
【0052】
工程dにおける検査作業は、車椅子従業者、片手従業者および弱手従業者のすべてにとって遂行容易な作業である。
【0053】
表2には、従業環境指数を評価するための基礎となるポイントと、身体状態との関係が示されている。
【0054】
【表2】

車椅子従業者は、両手および指の機能は健常者とほぼ同様である。片手従業者は、両手を必要とする作業遂行は困難であるものの、その他の作業遂行に関しては健常者とほぼ同じである。弱手従業者は遂行可能な作業が比較的大きく制限される。これらの観点に基づき、遂行可能な作業の選択肢の幅が狭くなるような身体状態にある従業者でも従事できるような作業に対しては、比較的高いポイントが付与されるように設定されている。
【0055】
演算処理装置10は、これらの情報に基づき、生産ラインの従業環境指数を評価するように構成されている。表3には、演算処理装置10によって評価または決定される、各工程のポイントおよび全工程の合計ポイント(従業環境指数)の値が示されている。
【0056】
【表3】

【0057】
前記のように車椅子従業者、片手従業者および弱手従業者のいずれにとっても遂行困難な作業を伴う工程bの合計ポイントは「0」となる。
【0058】
工程cは車椅子従業者が従事可能であることに由来するポイント「0.3」が与えられることにより、その合計ポイントは「0.3」となる。
【0059】
前記のように車椅子従業者、片手従業者および弱手従業者のいずれにとっても遂行容易な作業を伴う工程dは、各従業者が従事可能であることに由来するポイントが与えられることにより、その合計ポイントは「1.0」となる。
【0060】
そして、生産ラインの合計ポイント(4点満点)は「1.9」となる。また、生産ラインの従業環境指数は「0.475=(1.9/4)」と評価される。この評価結果は、演算処理装置10により、出力装置22を通じて出力表示されうる。
【0061】
当該構成の従業状態管理システムによれば、生産ラインの従業環境が、従業者のさまざまな身体状態のうちどの程度多くの身体状態に適応しているかが、出力装置に出力される従業環境指数の高低を通じて雇用者および従業者に認識させることができる。
【0062】
雇用者は、当該指数を参考にして、各従業者にとって適当な形で生産ラインの従業環境を整備する指針を決定することができる。また、当該生産ラインの従業環境の整備について雇用者の誠意を従業者に感じさせ、その結果として当該従業者の労働意欲の維持等が図られる。
【0063】
(本発明の第2変形実施形態)
従業状態管理システムは、前記機能に加えてまたは代えて次に説明するように生産ラインにおいて遅延が発生した場合にその影響の軽減を図りながら従業環境を管理する機能を発揮するように構成されていてもよい。
【0064】
図6に示されているように、演算処理装置10は、作業遅れ判定部132と、交代従業者決定部135とを備えている。
【0065】
作業遅れ判定部132は、各工程に対して配置されているタクトセンサ131a〜131dのそれぞれから単位時間当たりの作業済部品の個数などの作業進捗情報を取得し、当該個数と目標値とを対比することにより各工程における作業の遅延の有無または程度を検知するように構成されている。
【0066】
交代従業者決定部135は、作業に遅延が発生していることが検知された工程について、データベース14を構成する工程作業データベース141(表1参照)および作業者データベース142から情報を取得し、当該情報に基づいて交代用の従業者を決定するように構成されている。交代従業者決定部135は、決定事項の人為的または自動的な修正に際して、入力部136から指示を受け付ける。交代従業者決定部135は、交代用の従業者に関する決定事項または決定経過などを表示部37に表示させるとともに、交代用の作業者が決定されたことをブザーまたはパトライトなどにより構成されている報知手段138を通じて報知する。
【0067】
表4には、作業者データベースの一例が示されている。
【0068】
従業者データベース(一部):
【表4】

作業者の氏名、就業状態(Yesは就業中を意味し、Noは待機中を意味する。)、最大就業時間(8時間)から勤務済の時間を差し引いた結果としての余力時間、スキルの高低がこのデータベースにより対応付けられて保存されている。このデータは、作業者Kは従業中であり、すでに2時間勤務済みなので余力時間が6時間であり、スキルは1級であり、かつ、車椅子従業者に該当すること等を意味する。
【0069】
前記構成の従業状態管理システムにおいて、まず、工程作業データベース(表1参照)が構築または更新される(図7/STEP01)。また、作業者データベース(図4参照)が構築または更新される(図7/STEP02)。続いて、各工程における作業遅延の有無が判定される(図7/STEP03)。作業遅延が発生していないと判定された場合(図7/STEP03‥NO)、必要に応じて工程作業データベースおよび作業者データベースのそれぞれが更新される(図7/STEP01,02)。
【0070】
作業遅延が発生していると判定された場合(図7/STEP03‥NO)、当該遅延が生じた工程が特定される(図7/STEP04)。特定された工程について工程作業データベースの情報が取得され(図7/STEP05)、かつ、作業データベースの情報が取得され(図7/STEP06)。そして、当該情報に基づき、交代可能者リストが作成される(図7/STEP07)。その上で、交代従業者が決定され(図7/STEP08)、交代従業者が決定された旨等が音または光などによって報知され、従業者の交代が促される(図7/STEP09)。
【0071】
ここで、交代可能者リストについて説明する。たとえば、図4に示されている生産ラインの工程cにおいて遅延が発生した場合について考える。前記のように工程cに対して片手従業者および弱手従業者が割り当てられるのは不適当であるため、作業者データベース(表4参照)から、片手従業者および弱手従業者が除外される。また、就業中の従業者も除外される。これにより、表5に示されているような交代可能者リストが得られる。
【0072】
交代可能者リスト:
【表5】

すなわち、この場合、待機中であって、片手従業者および弱手従業者のいずれにも該当しない従業者M,O,Pの三者がリストアップされる。
【0073】
続いて、交代従業者を決定する方法(図7/STEP08参照)について説明する。ここで、前記のように工程cにおいて遅延が検知され、交代可能者リストに従業者M,O,Pがリストアップされた場合について考える。
【0074】
まず、交代可能者リストが取得される(図8/STEP11)。その上で、交代従業者の決定方法が選択される(図8/STEP12)。
【0075】
交代従業者の決定方法として「余力(余裕時間)」が選択された場合(図8/STEP12‥X1)、余力の多少に応じてリストにおける交代可能者の並べ替え(ソート)が実行される(図8/STEP13)。この結果、表6に示されているようなリストが得られる。
【0076】
余力でソートした後の交代可能者リスト:
【表6】

交代可能者P,O,Mのうち、最も余力がある従業者Pが第1の候補となっていることが表6からわかる。第1の候補者が複数いる場合、リストの上位者が優先的に候補となる。
【0077】
さらに、この候補者Pが交代従業者として適当であるか否かが判定される(図8/STEP14)。ここで、交代従業者としての適否が、生産ラインの責任者等により人為的に判定されてもよいが、データベース14に保存されている当該候補者の属性と、所定の判定ルールとに基づき、演算処理装置10によって判定されてもよい。
【0078】
当該判定結果が否定的であった場合(図8/STEP14‥NO)、その次に高位の候補者が選択され(図8/STEP15)、その上で当該判定が再び実行される(図8/STEP14)。当該判定結果が肯定的であった場合(図8/STEP14‥YES)、その候補者が交代従業者として決定される(図8/STEP19)。
【0079】
一方、「スキル」が選択された場合(図8/STEP12‥X2)、スキルの高低に応じてリストにおける交代可能者のソートが実行される(図8/STEP16)。この結果、表7に示されているようなリストが得られる。
【0080】
スキルでソートした後の交代可能者リスト:
【表7】

交代可能者P,O,Mのうち、最もスキルが高い従業者Mが第1の候補となっていることが表7からわかる。第1の候補者が複数いる場合、リストの上位者が優先的に候補となる。
【0081】
さらに、この候補者Mが交代従業者として適当であるか否かが判定される(図8/STEP17)。ここで、交代従業者としての適否は人為的に判定されるほか、データベース14に保存されている当該候補者の属性と、所定の判定ルールとに基づき、演算処理装置10によって判定されてもよい。
【0082】
当該判定結果が否定的であった場合(図8/STEP17‥NO)、その次に高位の候補者が選択され(図8/STEP18)、その上で当該判定が再び実行される(図8/STEP17)。当該判定結果が肯定的であった場合(図8/STEP17‥YES)、その候補者が交代従業者として決定される(図8/STEP19)。
【0083】
当該構成の従業状態管理システムによれば、生産ラインの複数の工程のうち、従業遅延が発生した工程について、身体状態に鑑みて従業可能な従業者を交代用の従業者として現在従業者に代えて当該工程に従事させることができる。この結果、当該従業遅延の影響が軽減または解消されうる。
【符号の説明】
【0084】
1‥サーバ(従業状態管理システム)、2‥クライアント、10‥データベース、14‥演算処理装置、21‥入力装置、22‥出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方と、当該従業者が遂行可能な業務範囲とのそれぞれに関する情報を保存するように構成されているデータベースと、
前記データベースにより保存されている前記情報のうち、少なくとも異なる時点のそれぞれにおける遂行可能な業務範囲を出力装置に出力させるように構成されている演算処理装置とを備えていることを特徴とする従業状態管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の従業状態管理システムにおいて、
前記演算処理装置が、入力装置を通じて入力された従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方とを認識した上で、当該従業者の身体状態と、業務遂行履歴および研修履歴のうち一方または両方とに基づき、当該従業者が遂行可能な業務範囲を決定するように構成されていることを特徴とする従業状態管理システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の従業状態管理システムにおいて、
前記データベースは、前記従業者の身体状態に応じた標準的な従業環境仕様に関する情報をさらに保存するように構成されていることを特徴とする従業状態管理システム。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の従業状態管理システムにおいて、
前記演算処理装置は、従業者のさまざまな身体状態のうち、生産ラインにおいて従業が許容される身体状態の幅を認識した上で、当該許容される身体状態の幅の広狭に応じて当該生産ラインについて従業環境指数を評価するように構成され、
前記データベースは、前記生産ラインと、当該生産ラインについて前記演算処理装置により評価された前記従業環境指数とを前記出力装置により出力されうる形態で保存するように構成されていることを特徴とする従業状態管理システム。
【請求項5】
請求項4記載の従業状態管理システムにおいて、
前記演算処理装置は、身体状態の相違に応じて、前記従業環境指数に対する寄与度が異なるという条件にしたがって、前記従業環境指数を評価するように構成されていることを特徴とする従業状態管理システム。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の従業状態管理システムにおいて、
前記データベースが、生産ラインにおいて実行される複数の工程のそれぞれについて、身体状態の別に応じた従業可否をさらに保存するように構成され、
前記演算処理装置が、前記複数の工程のそれぞれにおける従業遅延の有無を検知し、従業遅延が検知された工程について、前記データベースに保存されている身体状態の別に応じた従業可否と、同じく前記データベースに保存されている各従業者の身体状態とに基づき、交代用の従業者を決定した上で、前記出力装置に出力させるように構成されていることを特徴とする従業状態管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−123517(P2012−123517A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272410(P2010−272410)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パトライト
【出願人】(507369936)ホンダ太陽株式会社 (17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)