説明

微動機構

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ナノメートルのオーダーの微小な変位を発生させる微動機構に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、超LSIの製造工程に使用されるマスクアライナ、トンネル顕微鏡、電子顕微鏡等の試料ステージの変位調節をナノメートル(1/109 メートル)単位で行うことができる微動機構が要求されている。このような微動機構のアクチュエータには、ナノメートル、サブナノメートルの分解能を有する圧電素子が用いられる。
【0003】ところで、圧電素子は、良く知られているように、印加電圧と発生変位との間に約10%のヒステリシスを有し、このため、圧電素子を用いた微動機構による高精度の位置決めは困難である。さらに、圧電素子には分極に伴うドリフトが発生するので、微動機構を一定位置で静止させることも困難である。しかしながら、高精度の位置決めが必要な分野では、絶対的な位置決め精度が要求されると同時に、安定した位置保持が要求される。
【0004】このような要求を満足させるため、従来、圧電素子を用いた微動機構においては、圧電素子の変位を正確に検出し、この検出信号を用いて正確かつ安定した位置決めを行う手段が採用されていた。圧電素子の変位を正確に検出する手段としては、レーザ変位計、静電容量型変位計、ひずみゲージ等が用いられるが、構成が小型、簡素で、かつ、安価なひずみゲージを用いることが好ましい。このようなひずみゲージを用いた微動機構を図5により説明する。
【0005】図5は従来の微動機構の側面図である。図で、1aは固定側剛体、1bは移動側剛体、2は両剛体1a、1b間に装架された圧電素子である。S1 〜S4 は圧電素子2に装着されたひずみゲージであり、ひずみゲージS1 、S3 は圧電素子2の伸長方向(長手方向)のひずみを検出し、ひずみゲージS2 、S4 は圧電素子2の伸長方向と直交する方向(横方向)のひずみを検出する。
【0006】圧電素子2に任意の電圧が印加されると、これに応じて圧電素子2が伸長し、移動側剛体1bが点線で示すように変位する。図ではこの変位を極端に誇張して描いてある。図中、δは変位量、即ち圧電素子の伸び量を示す。伸び量δは各ひずみゲージS1 〜S4 を構成要素とする検出回路により検出される。
【0007】図6は当該検出回路の回路図である。図で、r1 、r2 、r3 、r4 はそれぞれひずみゲージS1 、S2 、S3 、S4 の抵抗値を示す。Eは直流電源、4は増幅器である。圧電素子2に電圧が印加されると、圧電素子2は伸びてひずみを生じ、このひずみは各ひずみゲージS1 〜S4 により検出され、この結果、図6に示す回路により圧電素子2の伸び量δに比例した信号Vを得ることができる。この信号Vを用いて正確な位置決めを行い、微動機構を当該位置に静止させる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ひずみゲージによる変位検出の分解能は、単位変位量当りのひずみ量が大きいほど向上する。しかし、上記ひずみゲージS1 〜S4 による伸び量δの検出は、圧電素子2の伸びに伴うひずみの計測であるため単位変位量当りのひずみ量が小さく、満足する分解能を得ることはできない。
【0009】例えば、圧電素子2の長さを5mmとすると、この圧電素子2の最大発生変位量は、5/103 (5μm)となり、そのときのひずみ量は、1/103 である。今、1ナノメートルの変位を検出する必要が生じた場合、計測すべきひずみは、(1/103 )×(1/5×103 )=2/107 のレベルとなり、上記従来の微動機構では、検出するのは困難である。
【0010】本発明の目的は、上記従来技術における課題を解決し、高い変位検出精度を得ることができ、ひいては、ナノメートル、サブナノメートルの位置決めを正確、かつ、安定して行うことができる微動機構を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は、圧電素子と、この圧電素子の一端に固定された第1の剛体と、前記圧電素子の他端に固定された第2の剛体とで構成された微動機構において、前記第1の剛体と前記第2の剛体との間に配置され、前記圧電素子の伸長方向に平行で、かつ、当該圧電素子の長さより短い弾性部材と、この弾性部材に生じるひずみを検出する検出手段とを設けたことを特徴とする。
【0012】
【作用】圧電素子に電圧が印加されると圧電素子が伸び、これとともに弾性部材も伸びる。このとき、弾性部材には圧電素子に生じるひずみより大きなひずみが生じ、検出手段から出力される検出信号も大きくなる。この結果、変位検出の分解能は向上し、高い変位検出精度を得ることができる。
【0013】
【実施例】以下、本発明を図示の実施例に基づいて説明する。図1は本発明の実施例に係る微動機構の側面図である。図で、図5に示す部分と同一又は等価な部分には同一符号が付してある。5aは凹字形状の固定側剛体、5bは凹字形状の移動側剛体であり、両者の凹部間に圧電素子2が装架される。6は固定側剛体5aにおける凹字形状の端部および移動側剛体5bにおける凹字形状の2つの端部相互間に連結された平板状の弾性部材である。ひずみゲージS1 〜S4 がそれぞれ弾性部材6の表面の所定個所に設けられる。圧電素子2、固定側剛体5a、移動側剛体5b、弾性部材6、およびひずみゲージS1 〜S4により微動機構Aが構成される。なお、固定側剛体5a、移動側剛体5bおよび弾性部材6は1つの剛体部材から成形加工により一体に形成される。又、ひずみゲージS1 〜S4 には金属ゲージ、半導体ゲージ等が用いられる。
【0014】圧電素子2に電圧が印加されると、圧電素子2が伸びて移動側剛体5bに変位δを生じる。同時に両弾性部材6にはひずみが発生する。ここで、L:圧電素子2の長さLk :弾性部材6の長さεp :圧電素子2に生じるひずみεk :弾性部材6に生じるひずみとすると、εp はεp =δ/L …‥…‥…‥…‥(1)
で表され、εk はεk =δ/Lk …‥…‥…‥…‥(2)
で表される。
【0015】ところで、圧電素子2のひずみεp は、約 1/103 であり、これ以上のひずみを得ることは困難である。これに対して、(2)式から明らかなように、弾性部材6のひずみεk は、長さLk を短くすればそれに反比例して大きくなる。即ち、本実施例のように弾性部材6を設けることにより、単位変位量当りのひずみを増大させることができる。例えば、弾性部材6の長さを圧電素子2の長さの1/3(Lk =L/3)とすれば、ひずみゲージS1 〜S4 を圧電素子2に設けた場合に比較して3倍のひずみを得ることができる。なお、弾性部材6に発生するひずみは、後述するように弾性部材6に使用する材料の強度以下に抑えることが必要となるが、これを考慮しても、圧電素子2自身のひずみに比較して2〜5倍のひずみ量を確保するように弾性部材6を設計することは容易である。
【0016】次に、本実施例の微動機構の一具体例を述べる。今、各数値を次のように定める。
k :弾性部材6の長さ(2.5mm)
k :弾性部材6の板厚(0.3mm)
k :弾性部材6の幅(3.0mm)
E:弾性部材6のヤング率(21000kg/mm2
p :圧電素子2の長手方向剛性(20000kg/mm)
ここで、δp :圧電素子2の無負荷時の変位Kk :弾性部材6の長手方向剛性とすると、移動側剛体5bの変位量δは、δ=Kp ・δp /(Kp +Kk )…‥…‥…‥…‥(3)
となる。一方、弾性部材6の長手方向剛性Kk は、Kk =E・Bk ・Tk /Lk …‥…‥…‥…‥(4)
であるから、上記数値例を用いると、移動側剛体5bの変位量δは、δ=0.7δpとなる。そこで、例えば、無負荷時の変位量δp が約7μmの圧電素子2を使用すると、移動側剛体5bの変位量δは5μmとなり、このとき弾性部材6に前述のように大きなひずみが発生し、これがひずみゲージS1 〜S4 で検出されることになる。
【0017】次に、弾性部材6に使用する材料について考える。弾性部材6に生じる応力σは、σ=E・δ/Lk …‥…‥…‥…‥(5)
で表されるので、変位量δが5μmの場合の応力σは42kg/mm2 となり、この値は弾性部材6の材料を選定する場合、実用的な値である。したがって、本実施例の弾性部材6は、例えば、微動機構が変位量5μmの機構に対して何等の支障なく使用できることとなる。
【0018】次に、本実施例の計測可能な変位についてみると、使用するひずみゲージが金属ゲージである場合、0.4/106 程度のひずみは容易に検出することができる。そこで、上記の変位量5μmの機構に金属ゲージを使用した場合、上記(2)式から得られるフルストローク時のひずみは(5/2.5×103 )であるので、 5×(0.4×1/106 )/(5/2.5×103 )=0.001μm =1nmの変位計測が可能となる。又、近年、半導体ゲージが薄膜プロセスにより容易に形成することができるようになり、かつ、この半導体ゲージは従来の金属ゲージに比較して10〜50倍の感度を有する。したがって、このような半導体ゲージを使用すれば、少なくとも0.1nmレベルの変位計測も可能となる。
【0019】このように、本実施例では、圧電素子2の固定側剛体5aおよび移動側剛体5bの間に、圧電素子2の長さより短い長さの弾性部材6を設け、この弾性部材6に生じるひずみを検出するようにしたので、高い変位検出精度を得ることができ、ひいては、ナノメートル、サブナノメートルの位置決めを正確、かつ、安定して行うことができる。
【0020】図2は図1に示す微動機構を用いた2軸微動機構の側面図である。図で、X、Yは座標軸を示す。Ax はX軸方向の変位を発生する第1の微動機構、AY はY軸方向の変位を発生させる第2の微動機構であり、これら微動機構の構成は、図1に示す微動機構Aと同一である。11は移動部、12は各軸方向に3つずつ平行に配置された弾性平板である。この2軸微動機構は、圧電素子およびひずみゲージを除き1つの剛体部材10から成形加工により一体に形成される。この場合、各弾性平板12は各貫通孔Hにより形成される。
【0021】第1の微動機構AX の圧電素子に電圧が印加されると、Y軸方向に伸びる各弾性平板12にたわみ変形(曲げ変形)が生じ、これにより、移動部11がX軸方向に変位する。同様に、第2の微動機構AY の圧電素子に電圧が印加されると、X軸方向に伸びる各弾性平板12に曲げ変形が生じ、移動部11がY軸方向に変位する。この2軸微動機構は、図1に示す微動機構と同一の効果を有するとともに、簡素な構成でX軸およびY軸の位置決めを行うことができる。
【0022】図3は本発明の他の実施例に係る微動機構の側面図である。図で、図1に示す部分と同一又は等価な部分には同一符号を付して説明を省略する。15a1 、15a2 は剛体部、16aは各剛体部15a1 、15a2 の間に形成された弾性ヒンジである。剛体部15a1 は固定側剛体5aに連結している。15b1 、15b2 は剛体部、16bは各剛体部15b1 、15b2 の間に形成された弾性ヒンジである。剛体部15b1 は移動側剛体5bに連結している。圧電素子2およびひずみゲージS1 〜S4 を除き、他の部分は1つの剛体部材から成形加工により一体に形成される。Bはこのような微動機構を示す。微動機構Bは、図1に示す微動機構Aと同一の効果を有するとともに、圧電素子2の長手方向以外の方向には自由に変形できる機能を備えている。
【0023】図4は図3に示す微動機構を用いた6軸微動機構の側面図である。図で、X、Y、Zは座標軸を示す。BX は図示位置にX軸方向の変位を発生する方向に設けられた微動機構、BY1、BY2は図示位置にY軸方向の変位を発生する方向に設けられた微動機構、BZ1、BZ2、BZ3は図示位置にZ軸方向の変位を発生する方向に設けられた微動機構であり、いずれも図3に示す微動機構Bと同一構造の微動機構である。20はベース、21はテーブルであり、このテーブル21はベース20上に微動機構BZ1、BZ2、BZ3により支持される。テーブル21上には位置決め対象物が載置される。
【0024】次に、この6軸微動機構によりテーブル21を変位させるための動作を各軸毎に説明する。
X軸方向の並進変位:微動機構BX を並進変位量に応じて駆動する。
Y軸方向の並進変位:微動機構BY1、BY2を並進変位量に応じて同時に同量駆動する。
Z軸方向の並進変位:微動機構BZ1、BZ2、BZ3を並進変位量に応じて同時に同量駆動する。
X軸まわりの回転変位:微動機構BZ1、BZ2、BZ3を回転変位量に応じてそれぞれ適切な量だけ駆動する。
Y軸まわりの回転変位:微動機構BZ1、BZ2、BZ3を回転変位量に応じてそれぞれ適切な量だけ駆動する。
Z軸まわりの回転変位:微動機構BY1、BY2を回転変位量に応じて逆方向に適切な量だけ駆動する。
この6軸微動機構は図3に示す微動機構Bと同じ効果を有するとともに、簡素な構成で6軸の変位を発生させることができる。
【0025】
【発明の効果】以上述べたように、本発明では、第1の剛体と第2の剛体との間に、圧電素子の伸長方向に平行で、かつ、当該圧電素子の長さより短い弾性部材を設け、この弾性部材に生じるひずみを検出するようにしたので、高い変位検出精度を得ることができ、ひいては、ナノメートル、サブナノメートルの位置決めを正確、かつ、安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る微動機構の側面図である。
【図2】図1に示す微動機構を用いた2軸微動機構の側面図である。
【図3】本発明の他の実施例に係る微動機構の側面図である。
【図4】図3に示す微動機構を用いた6軸微動機構の側面図である。
【図5】従来の微動機構の側面図である。
【図6】ひずみ検出回路の回路図である。
【符号の説明】
2 圧電素子
5a 固定側剛体
5b 移動側剛体
6 弾性部材
A 微動機構
1 〜S4 ひずみゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電素子と、この圧電素子の一端に固定された第1の剛体と、前記圧電素子の他端に固定された第2の剛体とで構成された微動機構において、前記第1の剛体と前記第2の剛体との間に配置され、前記圧電素子の伸長方向に平行で、かつ、当該圧電素子の長さより短い弾性部材と、この弾性部材に生じるひずみを検出する検出手段とを設けたことを特徴とする微動機構。
【請求項2】 請求項1において、前記弾性部材は、複数配置されていることを特徴とする微動機構。
【請求項3】 請求項1において、前記検出手段は、ひずみゲージであることを特徴とする微動機構。
【請求項4】 請求項1において、前記第1の剛体および前記第2の剛体は、それぞれ弾性ヒンジを備えていることを特徴とする微動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3130647号(P3130647)
【登録日】平成12年11月17日(2000.11.17)
【発行日】平成13年1月31日(2001.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−144477
【出願日】平成4年6月4日(1992.6.4)
【公開番号】特開平5−333930
【公開日】平成5年12月17日(1993.12.17)
【審査請求日】平成10年10月9日(1998.10.9)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【参考文献】
【文献】特開 平4−238505(JP,A)
【文献】特開 昭62−63317(JP,A)
【文献】特開 昭61−159349(JP,A)