説明

微小無機物含有樹脂組成物

【課題】熱伝導性微粒子をポリマー中で位置制御しながら特定の箇所にのみ分散させることにより、少量の無機微粒子を添加するだけで高い熱伝導性を得ることのできる樹脂組成物を得る。
【解決手段】分子中に極性基あるいは配位性官能基を有するポリマー鎖と、上記ポリマー鎖とは異なるポリマー鎖1種以上とよりなるブロックコポリマー中に、ナノ粒子をはじめとする金属酸化物及び又は金属窒化物からなる無機微粒子を位置制御しながら分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中に極性基あるいは配位性官能基を有するポリマー鎖と、上記ポリマー鎖とは異なるポリマー鎖とよりなるブロックコポリマー中に、ナノ粒子をはじめとする無機微粒子を位置制御しながら分散させることで、性能を飛躍的に高めた樹脂組成物に関する。さらには熱伝導性微粒子をポリマー中で位置制御しながら特定の箇所にのみ分散させることにより、少量の無機微粒子を添加するだけで高い熱伝導性を得ることのできる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂中に金属粒子や導電性繊維などの導電性材料を高濃度に分散するよう大量に添加することで、導電性を高めた樹脂組成物を得ようとする試みは古くから行われている。これは樹脂組成物中に導電性材料を大量に配合することで、樹脂中に電気を流す導通パスが作成されることによる。これと同様に、樹脂中に高熱伝導性の無機物を大量に添加することで樹脂組成物中に伝熱パスを形成すると、樹脂組成物の熱伝導性が向上することが知られている。
【0003】
従来の熱伝導材料及び電気伝導性材料製造法にて高い電気伝導性や高い熱伝導性を得るには、電気伝導性無機物や熱伝導性無機物を高濃度で樹脂中に配合する必要がある。ところが無機物を樹脂中にあまりに大量に添加してしまうと、組成物の溶融粘度及び硬度が上昇し樹脂組成物の成形加工が極めて困難となったり、樹脂組成物が非常に脆く実用に耐えない材料となったりすることが多い。また、一般的に導電性材料や熱伝導性無機物は樹脂と比べて高価、高比重、高硬度であるため、これらを多量に使用する樹脂組成物は、高価、高比重、高硬度の材料となってしまい、コストダウン、軽量化、金型磨耗性改善、などが求められている。
【0004】
このような課題を解決するため、樹脂中に効率よく無機物を分散させるための技術が種々検討されている。例えば特許文献1や非特許文献1では、ブロックコポリマーの一方の相内にのみ金属ナノ粒子を分散させることができたとしている。また特許文献2では、剛直相と柔軟相とを有するブロックコポリマー中に導電性材料や熱伝導性材料を分散することで、組成物の導電性や熱伝導性が向上することが示されている。
【特許文献1】特開平10−330492
【特許文献2】特開2004−71385
【非特許文献1】S. Horiuchi, M. I. Sarwar, Y. Nakao, Adv. Mater. 12,(20) p1507-1511 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1や非特許文献1には金属ナノ粒子を選択的に分散させる方法は示されているが、非金属微粒子で同様の分散性を実現させる方法は知られていない。金属ナノ粒子を樹脂中で位置選択させると、得られる材料は導電性を示すが、一般的に高熱伝導性材料をエレクトロニクス分野で使用する際には電気絶縁性を要求されることが多いため、金属ナノ粒子を用いたのでは絶縁性かつ高熱伝導性の材料を得ることはできない。
また特許文献2では、ブロックコポリマーの一方の相内にのみ無機微粒子を分散させるための方法が示されておらず、実際には分散の選択性が非常に低いためどちらの相内にも粒子が分散した組成物が得られてしまう。よってこのような組成物では熱伝導性微粒子の使用量を低減することは困難であり、通常の組成物との違いが少ない組成物となってしまう。
【0006】
これらの問題点に鑑み本発明の目的は、金属酸化物や金属窒化物などの無機物を樹脂中の特定の領域に非常に効率よく選択的に位置制御分散させることにより、少ない混合量で良好な熱伝導性が得られ、かつ成形加工性など樹脂が本来持つ特性を維持した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術の問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のブロックコポリマーと特定の微小無機物とを、特定の比率で組み合わせ、かつ無機物の樹脂中での分散状態を最適に制御することにより、上記の課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)1種以上と、上記ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)1種以上とが結合してなるブロックコポリマー中に、
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)を含有する樹脂組成物において、
1):(A)/(B)の体積比が85/15〜25/75の割合であり、
2):(C)/{(A)+(B)}の体積比が1/99〜75/25であり、
3):(C)が、鎖(B)の相中に存在している比率が、(B)の体積分率×0.4以下であり、
4):少なくとも分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)が連続相構造を形成していることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
【0009】
(C)が、電気絶縁性を示し、かつ単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上の高熱伝導体であることを特徴とする、請求項1記載の微小無機物含有樹脂組成物(請求項2)。
【0010】
(C)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、結晶性酸化ケイ素、及びこれらの複合した化合物の少なくとも1種よりなる熱伝導性微粒子であることを特徴とする、請求項1〜2記載の微小無機物含有樹脂組成物(請求項3)。
【0011】
(A)中の極性基あるいは金属に配位可能な官能基が、酸素含有基、リン含有基、窒素含有基、イオウ含有基、及びシクロペンタジエン基から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜3記載の微小無機物含有樹脂組成物(請求項4)。
【0012】
(C)の重量平均一次粒子径が1.0nm〜1000nmであることを特徴とする、請求項1〜4記載の微小無機物含有樹脂組成物(請求項5)。である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法を用いることにより、従来では大量の熱伝導性無機物が必要であった高熱伝導樹脂組成物分野で、無機物の使用量を大幅に低減できるため、良成形性でかつ樹脂が本来持つ特性をほとんど損なうことなく、優れた絶縁高熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
このようにして得られた複合材料は、樹脂フィルム、樹脂成形品、樹脂シート、塗料、コーティング剤、接着剤、シーリング剤、などさまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高分子材料は、現在広く用いられている射出成形機や押出成形機等の一般的なプラスチック用成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその実施の形態とともに説明する。
分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)1種以上と、上記ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)1種以上とが結合してなるブロックコポリマーである。これらブロックコポリマーは、リビングアニオン重合をはじめとする制御重合法や、末端に官能基を有する。マクロモノマー同士の化学反応法などにより、製造することができるが、製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0016】
分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖としては、具体的には、2−ビニルピリジン、アミノスチレンなどの窒素原子を持つモノマーユニットから構成されるもの、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸などの酸素原子を持つモノマーユニットから構成されるもの、ポリプロピレンスルフィドフェニレンサルファイドなどの硫黄を含むモノマーユニットから構成されるもの、フェニレンエーテル等エーテル結合を有するモノマーユニットから構成されるも、塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニルモノマーから構成されるものなどがあるが、基本的に金属または金属イオンとの親和性があれば何でもよく、これらの金属配位子ポリマーの末端から、他のモノマーをリビング重合等により成長させたポリマーであればよい。また、極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するモノマーユニットあるいはこれらモノマーユニットとの共重合体とこれら官能基を有しないモノマーユニットとがランダムに共重合されていても良い。
【0017】
ブロックコポリマーのもう一方のポリマー鎖(B)は、上記分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖であれば特に制限は無い。もう一方のポリマー鎖(B)としては、ポリマー鎖(A)とは異なるに対して均一に混合されることの無いポリマー鎖であることが好ましい。さらには分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有さないポリマー鎖であることが好ましい。
【0018】
これらのポリマー鎖(B)はポリマー鎖(A)成分の選択により違ってくるが、例えば、スチレン等の芳香族ビニルモノマーを重合してなるポリマー鎖、エチレン、プロピレン、等のオレフィンモノマーを重合してなるポリマー鎖、シクロペンタンなどの環状オレフィンモノマーを重合した後残存する不飽和結合を水素添加するなどの方法により飽和結合に変換してなるポリマー鎖、等が例示できる。
【0019】
ポリマー鎖(A)とポリマー鎖(B)は異なるものであるが、その結果ミクロ相分離構造を形成する組み合わせであることが好ましい。
ブロックコポリマーのブロックの数は、特に制限されないが、ミクロ相分離構造として共連続構造をとりやすいA−B型ジブロックコポリマーまたはA−B−A型トリブロックコポリマーが好ましい。
【0020】
両ポリマー鎖それぞれ単独での数平均分子量(Mn)は、ポリマーの合成のし易さ、得られる樹脂組成物の特性、ブロックコポリマーの相分離しやすさ、などの観点から、1000〜1000万のものが適しているが、モノマーユニットの分子量などに影響されるため、この範囲に限定されるものではない。好ましくは5000〜500万であり、より好ましくは1万〜100万であり、さらに好ましくは2万〜50万であり、最も好ましくは5万〜20万である。
【0021】
上記2種のポリマー鎖の分子量比率は好ましくは形成したいミクロ相分離構造に応じて決定されるが、高い熱伝導性が必要とされる場合には、分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)が樹脂中で連続構造を取るような比率とすることが好ましい。なおミクロ相分離構造をコントロールするため、ブロックコポリマーを構成している各ポリマーと同種のホモポリマーを別途追加導入しても良い。
【0022】
本発明のブロックコポリマーにおける、分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)と、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)との体積比は、(A)/(B)の体積比が85/15〜25/75の割合となる必要がある。体積比が85/15より多くても、25/75より小さくても、本発明の特徴である樹脂中での無機粒子の分散性制御が困難となってしまうため、本発明の特徴が失われてしまう。体積比の上限は好ましくは80/20以下、より好ましくは75/25以下、さらに好ましくは70/30以下、である。また体積比の下限は好ましくは30/70であり、さらに好ましくは35/65であり、最も好ましくは40/60である。
【0023】
ミクロ相分離構造を有するとは、ポリマーを超薄切片に切削後、必要に応じ切片に染色等を実施してから、断面を透過型電子顕微鏡で観察した際、ポリマー鎖の境界の有無により確認することができる。
【0024】
本発明で用いられる金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、酸化鉄、等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、等の金属窒化物、及びこれらの複合した化合物の少なくとも1種よりなる微粒子等を例示することができる。
【0025】
高熱伝導性を得たい場合には、これらの中でも単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上のものが好ましい。1.5W/m・K未満では、組成物の熱伝導率を向上させる効果に劣ることがある。単体での熱伝導率は、好ましくは4W/m・K以上、さらに好ましくは9W/m・K以上、最も好ましくは15W/m・K以上、特に好ましくは25W/m・K以上のものが用いられる。金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には2000W/m・K以下、あるいは1500W/m・K以下のものが用いられる。
【0026】
一方、これら高熱伝導性樹脂組成物を電子デバイス用途に使用する際には、電気絶縁性を要求されることが多い。このような用途に本発明の樹脂組成物を用いるためには、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)としては電気絶縁性を示す化合物を用いることが好ましい。好ましい電気絶縁性とは具体的には、電気抵抗率1Ω・cm以上のものを示すこととするが、好ましくは10Ω・cm以上、より好ましくは105Ω・cm以上、さらに好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上のものを用いるのが好ましい。電気抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。
【0027】
これら金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の中でも、熱伝導性及び電気絶縁性に優れることから、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、結晶性酸化ケイ素、及びこれらの複合した化合物の少なくとも1種よりなる熱伝導性微粒子を、より好ましく用いることができる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができるし、これら化合物の共晶化合物を用いることもできる。なおこれら金属酸化物や金属窒化物の中でも金属の種類によっては半導体としての特性を示す場合があるが、その場合でもできるだけ電気伝導度の低いものを選択するのが好ましい。
【0028】
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子の形状については、種々の形状のものを用いることができる。例えば粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体、など種々の形状を例示することができる。
【0029】
しかしながら、これら金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子を効率よく樹脂と混合するためには、球状に近い形状を有する微粒子を用いるのが好ましい。中でも重量平均一次粒子径が1nm以上1000nm以下の金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子を用いたときに、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子をブロックコポリマーの一方の相内に優先的に存在させることができ好ましい。またこのようなサイズとすることで樹脂組成物と高熱伝導性無機化合物と混合が容易となる。
【0030】
重量平均一次粒子径が1000nmを超えると、得られる成形品の外観が損なわれたり、樹脂組成物の衝撃強度が低下したりする傾向が見られるほか、粒子サイズがブロックコポリマーの相分離における各相のサイズと比べて大きくなるため、粒子をブロックコポリマーの一方の相内に選択的に存在させることが困難となる傾向がある。また重量平均一次粒子径が1nm未満では、無機化合物の表面積が莫大となるため、無機化合物とポリマーとの界面が弱くなる結果、得られる樹脂組成物の機械的特性が低下したり、熱伝導性が低下したりする傾向が見られる。
【0031】
重量平均一次粒子径は好ましくは3nm〜800nmであり、より好ましくは5nm〜500nmである。なお、本発明における重量平均一次粒子径とは、粉体の外観を電子顕微鏡や光学顕微鏡などで観察し、観察される外観が円形で無い場合には同面積の円形に換算した後、円の直径を計測し体積平均を算出する方法により計測した値で定義されるものである。
【0032】
これら金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子を添加する際には、樹脂と無機化合物との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、等従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機化合物の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0033】
これら金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子は、1種類のみを単独で用いてもよいし、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の添加量は、分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)とポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)との合計に対して、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)を、(C)/{(A)+(B)}の体積比が1/99〜75/25となるよう含有することが必要である。
【0034】
(C)/{(A)+(B)}の体積比の下限値が1/99より小さいと、熱伝導性などの特性を付与するのが困難となる。(C)/{(A)+(B)}の体積比の下限値は好ましくは3/97であり、より好ましくは5/95である。また(C)/{(A)+(B)}の体積比の上限値が75/25より大きいと、樹脂としての成形加工性が大幅に低下する。(C)/{(A)+(B)}の体積比の上限値は好ましくは70/30であり、より好ましくは65/35であり、最も好ましくは60/40である。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)が、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相中に存在している比率が、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の体積分率×0.4以下であることが必要である。このことにより、得られた熱可塑性樹脂組成物の熱伝導性が効率よく高められる結果、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)を添加するだけで組成物全体の熱伝導率などの特性が効率よく改善され、かつ機械的特性や成形加工性などの諸特性をほとんど低下させずに維持することができる。
【0036】
なかでも、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の全体積のうち、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相中に存在している比率が、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の体積分率×0.3以下であることが好ましい。より好ましくは金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の全体積のうち、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相中に存在している比率が、上記ポリマー鎖とは異なるポリマー鎖(B)の体積分率×0.25以下である。
【0037】
最も好ましくは、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の全体積のうち、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相中に存在している比率が、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の体積分率×0.2以下である。金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)が、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相中に存在している比率が小さいほど、高熱伝導性などの特性を効率よく改善させることができる。
【0038】
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)存在比率の測定は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を切削した切削物を透過型電子顕微鏡により観察し、その視野内に見られる金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の総体積、及びポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相内に存在する金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)の体積、をそれぞれ計測することによって測定可能である(ここで、上記ポリマー鎖とは異なるポリマー鎖(B)の相と、これ以外の相とは、電子顕微鏡で識別が可能である)。
【0039】
このときポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相とその他の樹脂との界面付近で、両者にまたがって金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)が存在しているものがある場合には、ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)の相とその他の樹脂との界面を、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)が存在する箇所までなめらかに延長することで、見かけ上の両者の界面を設定することにより、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)が存在する比率を算出するものとする。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、樹脂組成物の耐熱性や機械的強度をより高めるため、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)以外の無機化合物を更に添加することができる。このような強化充填剤としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の繊維状強化剤;珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、珪藻土、スメクタイト等のケイ酸塩含有化合物;酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物;炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラス粉末、セラミック粉末、金属粉末、カーボンブラック等が挙げられる。
【0041】
これら強化充填剤は単独で用いてもよいが、種類、粒子径や長さ、表面処理等が異なる2種以上を併用してもよい。これら無機化合物も表面処理がなされていてもよい。
【0042】
これら強化充填剤を使用する場合、その添加量は、ブロックコポリマーの合計100重量部に対して、100重量以下である。添加量が100重量部を超えると、耐衝撃性が低下するうえ、成形加工性や難燃性が低下する場合もある。好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。また、これら強化充填剤の添加量が増加するとともに、成形品の表面性や寸法安定性が悪化する傾向が見られるため、これらの特性が重視される場合には、強化充填剤の添加量をできるだけ少なくすることが好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ブロックコポリマー成分以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を更に添加してもよい。このような任意成分の樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
これら任意成分の樹脂を添加した場合には、上記無機化合物(C)は本発明の熱可塑性樹脂組成物において、これら任意成分の樹脂中に存在していてもよい。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤;リン系安定剤等の熱安定剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。更に必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が利用できる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
樹脂として、以下のものを用いた。
【0048】
樹脂1(分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖1種以上と、上記ポリマー鎖と均一に混合されることが無いポリマー鎖1種以上とが結合してなるブロックコポリマー):ポリスチレン(PSt)とポリ(2−ビニルピリジン)(P2VP)とのジブロックコポリマー(ポリマーソース製、スチレン:2−ビニルピリジン比率=61:39(体積比)、ポリスチレンブロックの数平均分子量110000、ポリ(2−ビニルピリジン)ブロックの数平均分子量70500、ブロックコポリマー全体の分子量分布Mw/Mn=1.09)。
【0049】
樹脂2(ランダムコポリマー):スチレンと2−ビニルピリジンとのランダム共重合体(アルドリッチ製試薬、スチレン:2−ビニルピリジン比率=30:70、数平均分子量130000、分子量分布Mw/Mn=1.69)。
【0050】
樹脂3(ホモポリマー):ポリスチレン樹脂(ピーエスジャパン株式会社製汎用ポリスチレン、数平均分子量110000、分子量分布Mw/Mn=1.64)
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子として、以下のものを用いた。
微粒子1:AEROXIDE AluC805(デグサ製酸化アルミニウムナノ粒子、平均一次粒子径13nm、単体での熱伝導率30W/mK、体積固有抵抗1016Ωcm)。
【0051】
実施例1:
樹脂1を93体積%、微粒子1を7体積%、となるよう樹脂及び微粒子をクロロホルムに溶解させた後、一定量を蒸発皿に滴下し、溶媒を揮発させることにより酸化アルミニウムナノ粒子含有樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムは透明性を維持しており、かつ均一な外観を呈していた。
【0052】
得られた複合材料フィルムを凍結させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)を用いてTEM観察用超薄切片を作成し、RuO4にて染色したのち、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM−1200EX)を用いて、倍率1万倍〜40万倍程度で超微粒子の分散状態を複数箇所で写真撮影した。同様の写真を複数枚撮影し、これを元に微粒子1の全体積のうち、ポリマー鎖(B)の相中に存在している比率を算出したところ、微粒子1はポリマー鎖(B)の体積分率×0.08となっていた。
【0053】
実施例2:
樹脂1を85体積%、微粒子1を15体積%、となるよう比率を変更した以外は実施例1と同様にして、ナノ粒子含有樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムは透明性を維持しており、かつ均一な外観を呈していた。TEM写真より微粒子1の全体積のうち、ポリマー鎖(B)の相中に存在している比率を算出したところ、微粒子1はポリマー鎖(B)の体積分率×0.15となっていた。
【0054】
比較例1:
樹脂1を樹脂2に変更した以外は実施例1と同様にして、酸化アルミニウムナノ粒子含有樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムはほぼ透明な外観を有しているものの、目視でも観察可能な数百μm程度の凝集粒子塊が多数分散した不均質なフィルムとなっており、粒子の凝集のためTEM撮影用超薄切片の作成は困難であった。
【0055】
比較例2:
樹脂1を樹脂3に変更した以外は実施例1と同様にして、酸化アルミニウムナノ粒子含有樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムは不透明で、無機粒子の凝集により非常にもろいフィルムとなっており、ピンセットで挟むだけでぼろぼろに崩れてしまい取り扱い不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、特定の相構造を有するブロックコポリマーの一方の相内にのみ優先的に金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子を配置することにより、金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子の添加量が少量であっても組成物全体で熱伝導率等の諸特性を効率よく向上させることができるものである。本技術により、これまで成形加工性や耐衝撃性に劣りかつ高価であるため利用分野が限られていた高熱伝導性樹脂組成物が、これまでの常識を覆しさまざまな分野に応用できるものとなる。
【0057】
また本発明で得られる樹脂組成物は、高熱伝導性を有する絶縁性材料となっている。これまでの高熱伝導性材料の多くは導電性を有しており電子材料用途では使用範囲が限定されていたが、このような課題をも同時に解決することに成功した。
このような高熱伝導性樹脂組成物は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器においても外装材料としても適用可能であり、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1にて得られた樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)1種以上と、上記ポリマー鎖(A)とは異なるポリマー鎖(B)1種以上とが結合してなるブロックコポリマー中に、
金属酸化物微粒子及び/又は金属窒化物微粒子(C)を含有する樹脂組成物において、
1):(A)/(B)の体積比が85/15〜25/75の割合であり、
2):(C)/{(A)+(B)}の体積比が1/99〜75/25であり、
3):(C)が、鎖(B)の相中に存在している比率が、(B)の体積分率×0.4以下であり、
4):少なくとも分子中に極性基あるいは金属に配位可能な官能基を有するポリマー鎖(A)が連続相構造を形成していることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)が、電気絶縁性を示し、かつ単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上の高熱伝導体であることを特徴とする、請求項1記載の微小無機物含有樹脂組成物。
【請求項3】
(C)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、結晶性酸化ケイ素、及びこれらの複合した化合物の少なくとも1種よりなる熱伝導性微粒子であることを特徴とする、請求項1〜2記載の微小無機物含有樹脂組成物。
【請求項4】
(A)中の極性基あるいは金属に配位可能な官能基が、酸素含有基、リン含有基、窒素含有基、イオウ含有基、及びシクロペンタジエン基から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜3記載の微小無機物含有樹脂組成物。
【請求項5】
(C)の重量平均一次粒子径が1.0nm〜1000nmであることを特徴とする、請求項1〜4記載の微小無機物含有樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314667(P2007−314667A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145959(P2006−145959)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度新エネルギー・産業技術総合開  発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノ粒子の  合成と機能化技術プロジェクト」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適  用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】