説明

微小開口カンチレバーおよびそれを用いた近接場分光装置

【課題】微小開口カンチレバーが励起光と、励起光の照射によって発生した検出光の両方を伝播できるようにすると共に、近接場分光装置のスペクトル情報が効率的に得られるようにする。
【解決手段】照射モードと集光モードを同一のプローブで実現した微小開口カンチレバーの探針先端部付近と開口穴部に金属膜または誘電体膜を設けることで、金属の作用による増強効果でカンチレバー探針先端部の金属または誘電体の作用により散乱光が増強されるのでS/N比が向上して検出効率が向上し、かつ、近接場スペクトルよりバックグラウンドを効率的に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光学顕微鏡などにおいて使用されている光の回折限界を超える高分解能で試料の特性を測定するための微小開口カンチレバー及びそれを使用した分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近接場分光装置は、光の回折限界を超える高分解能を有する近接場光学顕微鏡に分光分析器等を接続することにより試料測定面の形状把握と共に、局所的なスペクトル情報取得をおこなうものである。
その方式として、外部光学系で光を照射し、試料からの散乱光をプローブで受光するコレクションモード、プローブで光を照射し、外部集光系で試料からの散乱光を受光するイルミネーションモード、更には、プローブで光を照射して同一のプローブによって受光もおこなうイルミネーション・コレクションモードがある。
【0003】
特許文献1(特開2003−106977号公報)には、光ファイバー型の光プローブを用いてイルミネーションモードとコレクションモードを同時に実現する方法が記載されている。この方法によれば、光プローブ先端よりしみ出した近接場光を試料測定部位で散乱ないし反射させ、その散乱光ないし反射光を同じプローブで採取しているため、迷光を低減させることが可能である。
【0004】
特許文献2(特開2004−37158号公報)には、イルミネーションモードで検出をおこなう方法として、外部集光系を利用することが記載されている。
特許文献3(特開2004−101425号公報)には、試料表面に発生するエバネッセント光を金属または誘電体からなる探針構造を有するカンチレバーで散乱させて、散乱光を検出する方法が記載されている。光学レンズで直接試料に照射ないし全反射プリズムを通じてエバネッセント光を発生させている。カンチレバー探針先端の金属や誘電体の作用により散乱光は増強され、検出効率を向上することが可能である。
【0005】
非特許文献1(分光研究53(2004))には、微小開口カンチレバーをプローブとして用いてイルミネーションモードとコレクションモードを同時に実現する法が記載されている。光プローブ先端よりしみ出した近接場光を試料測定部位で散乱ないし反射させ、その散乱光ないし反射光を同じプローブで採取するようにしたもので、迷光を低減させることが可能である。光ファイバーを用いた方法では、光ファイバー自身の散乱光がバックグラウンド成分に重畳することが避けられないが、この方法では光の通過経路が中空部分であるため、バックグラウンド成分を低減することが可能である。
【特許文献1】特開2003−106977号公報(図8)
【特許文献2】特開2004−37158号公報(図5)
【特許文献3】特開2004−101425号公報(図9)
【非特許文献1】佐々木直人、二宮隆徳、酒井彰、「微小開口カンチレバープローブを用いた走査型近接場ラマン分光装置の開発−ナノ領域におけるスペクトル観察−」分光研究53(2004)P87−92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の従来技術では、イルミネーションモードのみを用いているため、試料測定部位以外からの光の混入を生じ、迷光が低減されずに、S/N比が低下するという問題があった。
特許文献1では、イルミネーションモードとコレクションモードを同時に実現しているため、試料測定部位以外からの光の混入を防ぐことは可能であるが、近接場光の発生と散乱光取得に光プローブとして光ファイバーを使用しているため、照射光と散乱光が光ファイバー中を透過し、その結果として散乱光に光ファイバー自身の散乱光成分がバックグラウンドとして重畳してしまう問題がある。
更に、光プローブとして光ファイバーが用いられているが、このような形状のプローブは、コストが高くなり、装置への取り付けなどの取り扱いが面倒である。
【0007】
特許文献3では、試料表面にエバネッセント光を発生させるため、全反射光学系を用いており、極薄試料を全反射プリズム上に密着させる必要がある。したがって、光波長よりも大きな厚さの試料の測定が困難である。更に、全反射以外の方法である透過光学系ないし反射光学系では、エバネッセント光以外の伝播光による散乱光が発生し、これらを分離することは困難である。
非特許文献1のものは、以上の従来技術の抱える問題点を克服しているが、散乱光強度に比較してバックグラウンド成分が大きくS/N比が悪いという問題がある。
【0008】
本発明は、このような状況を踏まえ、バックグランド成分を極力小さくし、大きなS/N比が得られるようにした微小開口カンチレバーおよび近接場分光装置を提供するものであり、分光スペクトルを感度良く測定できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微小開口カンチレバーは、探針先端部付近及び/または開口穴内面に金属膜または誘電体膜を設けたもので、金属、または、誘電体の作用により散乱光は増強され、検出効率が向上するものである。
また、イルミネーションモードとコレクションモードを同一光プローブで同時に実現しているために、試料の検出位置に対して局所的に励起光が照射され、また試料が発生する散乱光を高い分解能で検出することができる。
試料表面の近接場光照射位置からの散乱光が光学レンズにより結像される位置に絞りを配置して、絞りにより迷光を低減しながら、光学レンズの結像位置を通過する散乱光のみを分光器に導く。
金属の作用による散乱光の増強効果による検出効率の向上と光学レンズと絞りによる迷光低減により、バックグラウンドが低減されS/N比が向上し、分光スペクトルが感度よく測定される。
【0010】
金属は、銀、金、白金、タングステン、アルミニウムなどの金属のほか、誘電体なども目的に応じて使用できる。
誘電体としては、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)酸化シリコン(SiO2)などである。
これらの金属や誘電体は、散乱光の増強効果を有するものが望ましい。先端に設けられる散乱体の増強率を大きくすることにより、検出効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施例に基づいて、更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に示すように、微小開口カンチレバー1は、シリコン製であって、先端が逆ピラミッド10に形成されており、先端の逆ピラミッドの頂点に150nmの開口11が形成してある。先端の逆ピラミッド10の頂点の開口の外周に銀の金属膜12を厚さ50nmに形成した。
開口11は、照明光と散乱光を通すための光波長以下の微小開口としてある。
照明光と散乱光は、いずれの実施例においても、開口11の中空部分を通過するものなので、光ファイバーを光プローブとして用いた場合のような、光ファイバー母材からの散乱光は生ぜず、バックグラウンドが低減し、S/N比が向上する。
【実施例2】
【0013】
図2に示すように、カンチレバー1の逆ピラミッドの外周に加え、照明光と散乱光を通すための開口11の内面にも散乱光増強用の金属膜または誘電体膜を形成し、照明光と散乱光がカンチレバーの母材であるシリコンと接しないようにした。カンチレバー1の母材からの散乱光も金属膜または誘電体膜によって遮蔽できるため、更にバックグラウンドを低減することができる。
【実施例3】
【0014】
図3は、本発明の金属膜を形成した微小開口カンチレバー1を用いた近接場分光に適用した例を示すものである。
レーザー光源から射出した光2は、集光レンズによりカンチレバー1の上部開口穴に集光され、カンチレバー1の探針先端開口11で近接場光を発生させ試料に照射される。
【0015】
カンチレバー探針先端部に設けられた金属膜12により増強された散乱光は、同じカンチレバー探針先端開口11で採取され、カンチレバー上部開口を通り、集光レンズで集められる。
散乱光は、結像レンズで集光され、実像を結像する位置に絞り3を配置する。絞り3の直径は、絞りの位置でカンチレバー上部表面の結像を観測した場合、カンチレバー幅よりも小さくする。また、絞り3の位置は、絞りの位置でカンチレバー上部表面の結像を観測した場合、カンチレバー上部開口穴が絞りの内側に来るように位置調整する。
【0016】
このように集光レンズ、結像レンズ、絞りを設置することにより、カンチレバー探針先端開口部からの散乱光のみが絞りを通過することができるので、乱反射等による迷光を大幅に低減することができる。
絞り3を通過した光をレンズで分光器に導き、光検出器で検出する。前述のように、光ファイバーを光プローブとして用いた場合のような、光ファイバー母材からの散乱光は生ぜず、バックグラウンドが低減し、S/N比が向上するので、分光スペクトルを感度良く測定できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0017】
以上説明したように、本発明の微小開口カンチレバーおよびそれを用いた近接場分光装置によれば、カンチレバー探針先端部の金属または誘電体の作用により散乱光が増強されるのでS/N比が向上して検出効率が向上し、かつ、近接場スペクトルよりバックグラウンドを効率的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例の正面図。
【図2】本発明の他の実施例の正面図。
【図3】本発明カンチレバーを近接場分光に応用した例の説明図。
【符号の説明】
【0019】
1 カンチレバー
10 逆ピラミッド
11 開口
12 金属膜(誘電体膜)
2 レーザー光
3 絞り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に照明光と散乱光を通すための光波長以下の微小開口を設けたカンチレバーにおいて、その探針先端部付近表面に金属膜または誘電体膜のいずかを形成した微小開口カンチレバー。
【請求項2】
請求項1において、更に開口穴部に金属膜または誘電体膜のいずれかを形成した微小開口カンチレバー。
【請求項3】
集光レンズ、結像レンズ、絞りを順に配置した分光装置において、試料表面の近接場光照射及び受光を請求項1または2のいずれかの微小開口カンチレバーでおこなうものであり、更に、散乱光が結像レンズにより結像される位置に絞りが設置してある近接場分光装置。
【請求項4】
請求項3において、絞りが移動可能である分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−329699(P2006−329699A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150803(P2005−150803)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)