説明

微生物燃料電池

【課題】第1および第2チャンバを画定する電池ハウジングを備える微生物燃料電池を提供することである。
【解決手段】本発明に係る微生物燃料電池10は、バイオマスを含む流体を収容するように構成された第1チャンバ14および酸素処理した流体を収容するように構成された第2チャンバ16を画定する電池ハウジング12と、第2チャンバ16に挿入された陰極22と、第1端部から第2端部に延在し外表面を有する整列した複数のファイバ45を有する電極アセンブリ20を備え、電極アセンブリ20は、ファイバ45の第1端部からファイバ45の第1および第2端部の中間位置に延在する陽極セグメント18を備え、陽極セグメント18は、第1チャンバ14に挿入され、陽極セグメント18のファイバ45の外表面にバイオフィルム58が取り付けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に係り、特に、生物系における化合物の電気分解により動作可能な燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自然環境下で自由に入手可能な生体物質を利用した動力源による電力供給を目的とした技術に関心が寄せられてきた。そのような技術の1つとして、微生物燃料電池(MFC)があり、これは有機性廃棄物を分解し、その化学結合エネルギを電気と水素に変換することにより排水をより効率的に処理する手段として開発されてきた。Environmental Science & Technologyの2004年5月号によれば、アメリカでは46兆リットルの家庭用排水を処理するのに年間250億ドルを費やしている。しかも、主として曝気に必要な電力がアメリカ国内で使用される電力の1.5%を占めている。他国でも同様の統計が見られる。
【0003】
近年、排水の主成分である有機化合物の化学結合に含まれる化学エネルギを電力源とする微生物燃料電池を使用した電力生成について研究者たちが実現の可能性を示している。特殊陽極、簡素陰極および適切なプロトン交換膜(PEM)を備えた実験室規模の微生物燃料電池リアクタを使用して微生物燃料電池の陽極および陰極の濡れ部分を分離し、30ワット/立方メートルのエネルギ密度を生成した。
【0004】
この方法では、特殊陽極上のバイオフィルムに生存するバクテリアを使用して有機物を分解し、電子とプロトンに分離する。分離された電子とプロトンは、前者は外部ワイヤにより、後者は一般に電気を通さない物質である電解質による拡散により、陰極とへ移動する。電力生成を行う微生物燃料電池では、プロトンと電子は陰極で酸素と結合して水を生成する。このようにして電子を消費することにより、反応を引き起こす化学結合源(つまり有機性廃棄物)が存在する限り、より多くの電子を陽極から陰極へと移動し続けることができる。
【0005】
最初の微生物燃料電池では、陽極電極表面積1平方メートル当たり1〜40ミリワット(mW/m2)の電力が生成された。近年、研究者たちはこの値を10倍以上に増加させることに成功し、生活排水の使用では500mW/m2まで、グルコースと空気で成る代用排水の使用では1,500mW/m2までの範囲で電力生成が可能であることを実証した。この後者の出力密度が実証されたことにより、収益率の高い商用電力生成を可能にする上での技術的要求事項に関して多くの議論が持ち上がった。つまり、この技術を商用規模で魅力あるものとするためには、この出力電力密度を少なくともあと10倍に高める必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日、微生物燃料電池の商用転換にはいくつかの課題が存在する。例えば、現在の実験室規模のプロトタイプで使用する材料は、商用システムでの使用に耐えるほど頑丈、強靭ではない。さらに、実験用の微生物燃料電池は今のところサイズも小さく、低出力密度を補うためには、かなりの大型化が必要であるが、そのためには陽極−陰極間の距離を大幅に広げざるを得ず、それにより陽極から陰極への水素の伝播速度が遅くなり、さらなる効率の低下を招くことになる。商用ベースに乗せるには、出力密度をこれまでの最大達成値8,500mW/m2の2倍以上に伸ばす必要がある。
【0007】
本発明の目的は、第1および第2チャンバを画定する電池ハウジングを備える微生物燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1チャンバは、バイオマスを含む流体を収容するよう構成している。第2チャンバは、酸素処理された流体を収容するよう構成している。陰極は、電池ハウジング第2チャンバへ延在し、電極アセンブリの陽極セグメントは、電池ハウジング第1チャンバへ延在する。電極アセンブリは、実質的に整列した複数のファイバを有する。陽極セグメントは、ファイバの第1端部からファイバの第1および第2端部の中間位置へと延在する。陽極セグメントのファイバの外表面には、バイオフィルムを取り付けるよう構成している。
【0009】
また、電極アセンブリは、ファイバの第2端部から中間位置へと延在する結合セグメントを含む。結合セグメントのファイバの外表面には、バインダを含浸又は被覆する。
【0010】
微生物燃料電池は、結合セグメントと電池ハウジングの間に配置したシール装置をさらに備える。結合セグメント、シール装置および電池ハウジングにより、液密境界が画定される。
【0011】
電池ハウジング内に配置したプロトン交換膜により、内部を第1および第2チャンバに分割する。
【0012】
微生物燃料電池は、さらに、バイオマスを含有する第1流体流が流入するよう構成した第1チャンバ入口と、前記第1流体流が流出するよう構成した第1チャンバ出口を備える。また、少なくとも1つの第2チャンバ入口に酸素を含有する第2流体流が流入し、少なくとも1つの第2チャンバ出口から前記第2流体流が流出するよう構成している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施形態における微生物燃料電池の概略図である。
【図2】図1に示す微生物燃料電池の電極アセンブリの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を用いて、本発明に係る実施形態における微生物燃料電池10について以下詳細に説明する。ここで、ファイバとは、所定の導電率を有する非金属ファイバを意味する。また、バインダ、バインダ樹脂又は樹脂とは、ファイバを固定し、1つ以上の機械的又は構造的特徴を提供可能なマトリクス材を意味する。また、バイオマスとは、液体内で懸濁又は溶解したときに電子とプロトンに分離可能な有機物であれば特に限定されない。また、バイオフィルムとは、バイオマスからプロトンと電子を分離可能である媒体又は触媒であれば特に限定されない。
【0015】
図1は、微生物燃料電池10の概略図である。電池ハウジング12は、プロトン交換膜17により、第1、第2チャンバ14、16に分割されている。電極アセンブリ20の陽極セグメント18は、第1チャンバ14の内部に向かって下方へ延在し、陰極22は、第2チャンバ16の内部に向かって下方へ延在している。第1チャンバ入口24は、排水源(図示せず)に接続されており、バイオマス28を含有する排水流26が流入する。第1チャンバ出口30からは、第1チャンバ14の処理水32が流出する。第2チャンバ入口34は、新水源に接続され、酸素処理された新水流36が流入する。第2チャンバ出口38からは、第2チャンバ16から低酸素新水40が流出する。流出した低酸素新水40を酸素処理し、第2チャンバ入口34に再循環してもよい。第1、第2チャンバ14、16を分離するプロトン交換膜17は、第2チャンバ16内の酸素分子が第1チャンバ14へ拡散するのを防ぐと共に、プロトンおよび水素分子の通過を可能にする。また、プロトン交換膜17は、電池10の第1チャンバ14内の排水流26に固形物が存在する場合には、その流出を防ぐ。電極アセンブリ20および陰極22から伸びる導電体42、42´は、負荷44に接続され、後述する電気回路を形成する。微生物燃料電池により動力供給される負荷44は、例えば、排水流および新水流を提供するポンプを含んでもよい。
【0016】
図2に示すように、ロッド状の電極アセンブリ20は、第1端部46から第2端部48へと伸びる整列した複数のファイバ45を備える。陽極セグメント18は、第1端部46から第1および第2端部46、48間に配置した中間位置52へ延在し、結合セグメント54は、中間位置52から第2端部48へ延在する。結合セグメント54において、ファイバ45は、適切なバインダ樹脂56で浸潤又は被覆されている。陽極セグメント18において、ファイバ45は、実質的に非結合の状態にあり、結合セグメント54から自由に伸びている。ここで、非結合ファイバとは、バインダにより浸潤又は被覆されていない状態のファイバを意味し、各非結合ファイバの外側表面は、非結合ファイバの長さ方向に沿ってバイオフィルムで覆ってもよい。陽極セグメント18における自由な非結合ファイバ45の大表面領域は、微生物燃料電池10の動作中にバイオフィルム58で被覆される。バイオフィルム58内のバクテリアと排水流26内のバイオマス28との化学反応によりバイオマス28は分解され、それにより電力が生成される。
【0017】
例えば、ファイバ45の本数は、約2〜約10000本、約100〜約6000本、又は約500本〜約3000本である。各ファイバ45は、通常、約1〜10ミクロンの範囲の直径を有する。陽極セグメント18における自由な状態のファイバ45の長さは約1cm〜100m以上である。
【0018】
ファイバ45としては、一例をあげると、充填剤入り又は無しの紡織繊維、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、第4アンモニウム化合物、窒化ホウ素、イオン性塩および導電性繊維の小片等の適切な導電性フィラーを含有するポリエステル、レーヨン、ポリプロピレンおよびナイロン等の合成繊維などを用いることができる。多くの場合、ファイバには、高伸張性や曲げ強度が要求される。好適なファイバの一例としては、ポリマーマトリクス内に複数の炭素繊維を備えたCarbonConX(ゼロックス)がある。この炭素繊維は、単一又は多重壁のカーボンナノチューブ(CNT)ストランドからなるカーボンナノフィラメントである。
【0019】
複数のセグメントを有する電極アセンブリ20は、炭素繊維45の連続したストランドをバインダ樹脂56と結合して繊維分の豊富な合成物60を形成する任意の適切な商用プルトルージョンプロセスを応用することにより形成することができる。一般的に、樹脂注入を行う箇所にプルトルージョン工具を挿入して、ファイバ塊への樹脂の流れを規則的に中断又は中止すると、ファイバ45は樹脂56と結合せず、乾燥したファイバ部分が前記工程を通して断続的に発生する。このように、連続したファイバ45の長さに沿って、乾燥ファイバセグメントにより分離された樹脂浸潤セグメントが規則的に間隔あけて存在し、この乾燥ファイバセグメント部分を切断することにより、図2に示す電極構造を形成することができる。
【0020】
バインダ56としては、ポリマー、セラミック、ガラス又はその他適切な非金属を使用可能である。バインダ56は、通常、ファイバを結合して必要な機械強度を与える熱可塑性又は熱硬化性のポリマーである。バインダ56としては、一般的に、ファイバ45の抵抗特性に影響を与えないものを選択する。適切なポリマーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルフォンおよびエポキシなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
電極アセンブリ20の結合セグメント54は、固体であるため、結合セグメントと電池10の壁面間にシール装置57を配置することにより、このシール装置57と一体に液体又は流体シールとして機能する。結合セグメント54の一部は、任意の適切なコーティング手段によって、金、銅、ニッケル、錫、錫/鉛などの適切な金属で被覆してもよい。コーティング手段としては、電気分解メッキ、電解メッキ、真空蒸着、ガス蒸着又はその他蒸着などが挙げられる。また、結合セグメント54の一部に、柱形状、ピン形状、鋤形状、穴形状など機械的な特徴を持たせることにより、従来の配線42又は電源回路で一般的に使用される他の回路部材との接続部として使用することができる。
【0022】
上述のように、電極アセンブリ20の陽極セグメント18は、作動時にバイオフィルム58で被覆される大表面積の繊維状面を備える。バイオフィルム58は、他のタンパク質に電子を伝達することで知られる特殊な酵素であるシトクロムと呼ばれる鉄還元バクテリアを含んでもよい。しかしながら、一般的には、排水流からのバクテリアは、陽極セグメントに堆積し、導電特性を有するバイオフィルム58を形成する。バイオマス28、バイオフィルム58のバクテリア、および陽極セグメント18の相互作用によって、電力源が形成される。電気を生み出す微生物燃料電池10において、電解質膜17を通るプロトン62、および外部回路42、44、42´を通る電子64は、陰極22にて酸素水流36により運ばれた酸素と結合して、より多くの水分子を生成する。したがって、既存の電子64が消費され、より多くの電子64を回路42、44、42´を通して陽極セグメント18から陰極22へと移動し続けることができる。
【0023】
従来の微生物燃料電池は、出力密度が低く、バイオフィルムから陽極への電子伝達が非常に遅いという問題があることが研究により分かっていた。この低出力密度により微生物燃料電池が生成可能な電力量が制限されていた。単に微生物燃料電池を大型化するだけでは、電力生成を十分に増加することができなかった。出力密度は、主としてバイオフィルムの微生物と陽極面間のインターフェースに左右されるため、バイオフィルムの特性を改善しなければ、この問題を解決することは難しいと考えられてきた。しかしながら、陽極セグメント18における自由な非結合ファイバ45により、従来の微生物燃料電池の陽極と比較して、微生物燃料電池10の大型化を伴わずに利用可能な表面積の著しい拡大が実現する。
【符号の説明】
【0024】
10 微生物燃料電池、12 電池ハウジング、14 第1チャンバ、16 第2チャンバ、18 陽極セグメント、20 電極アセンブリ、22 陰極、45 ファイバ、46 第1端部、48 第2端部、52 中間位置、58 バイオフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを含む流体を収容するように構成された第1チャンバおよび酸素処理した流体を収容するように構成された第2チャンバを画定する電池ハウジングと、
前記電池ハウジング第2チャンバに挿入された陰極と、
第1端部から第2端部に延在し外表面を有する整列した複数のファイバを有する電極アセンブリを備える微生物燃料電池であって、
前記電極アセンブリは、前記ファイバの第1端部から前記ファイバの第1および第2端部の中間位置に延在する陽極セグメントを備え、
前記陽極セグメントは、前記電池ハウジング第1チャンバに挿入され、前記陽極セグメントの前記ファイバの前記外表面にバイオフィルムが取り付けられたことを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物燃料電池において、
前記電極アセンブリは、さらに、前記ファイバの前記第2端部から前記中間位置に延在する結合セグメントを備え、
前記結合セグメントの前記ファイバの前記外表面には、バインダが含浸又は被覆されることを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の微生物燃料電池において、
前記結合セグメントと前記電池ハウジングの間に配置されたシール装置をさらに備え、
前記結合セグメント、シール装置および電池ハウジングが液密境界を画定することを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項4】
請求項2に記載の微生物燃料電池において、
前記電池ハウジング内に配置したプロトン交換膜をさらに備え、
前記プロトン交換膜は、内部を前記第1および第2チャンバに分割することを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の微生物燃料電池において、
バイオマスを含有する第1流体流が流入するように構成された第1チャンバ入口と前記第1流体流が流出するように構成された第1チャンバ出口と、
酸素を含有する第2流体流が流入するように構成された第2チャンバ入口と前記第2流体流が流出するように構成された第2チャンバ出口と、
をさらに備えることを特徴とする微生物燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate