説明

微細孔形成装置及び微細孔形成方法

【課題】被験者の皮膚に形成される微細孔から抽出される組織液の量を増加させることができる微細孔形成装置を提供する。
【解決手段】微細針202aを被験者の皮膚に衝突させて、皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置。微細孔形成装置は、被験者の皮膚を穿刺する複数の微細針を有する皮膚当接部と、この皮膚当接部を被験者の皮膚に向けて付勢する付勢手段205とを備えている。付勢手段は、皮膚当接部の微細針が被験者の皮膚に衝突する位置において前記微細針を皮膚に向けて付勢するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被験者の皮膚に微細針を衝突させて当該皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置及び微細孔形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の組織液中のグルコースなどの所定成分を測定するために、多数の微細針を有する微細針チップで被験者の皮膚を穿刺して当該皮膚に微細孔を形成する技術が知られている(例えば、本出願人による特許文献1参照)。この特許文献1記載の微細孔形成用の穿刺装置では、穿刺動作を行った後、穿刺部位に測定器を装着して皮膚からの組織液を抽出してグルコースを測定する。
【0003】
特許文献1に記載されている穿刺装置では、多数の穿刺用微細針を備えた微細針チップが先端に配設されたピストン(アレイチャック)を駆動バネにより駆動させて、微細針チップを被験者の皮膚に衝突させ、当該皮膚に微細孔を形成している。
【0004】
本出願人は、組織液に含まれているナトリウムイオンの量を利用して被験者の血糖―時間曲線下面積を算出(推定)する方法を提案している(特許文献2参照)。この方法においても、被験者の皮膚に穿刺装置を用いて微細孔を形成し、微細孔が形成された皮膚にゲルからなる収集体を有する組織液収集シートを所定時間(例えば、60分以上の時間)貼り付けることにより、当該皮膚から滲み出る組織液を収集する。ついで、収集体に収集された組織液に含まれるグルコース量及びナトリウムイオン量を測定し、得られるグルコース量及びナトリウムイオン量に基づいて、被験者の血糖―時間曲線下面積を推定する。この場合、前記収集体には微細孔から抽出される組織液以外に少量ではあるが被験者の皮膚からの汗も収集される。この汗にもナトリウムイオンが含まれているので、汗による影響を低減するためには微細孔から抽出される組織液の量が多いほうが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−236844号公報
【特許文献2】国際公開第2010/013808号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、微細孔から抽出される組織液の量を増加させることについて記載されていない。
【0007】
本発明者らは、穿刺装置により形成される微細孔から抽出される組織液の量を増加させるべく鋭意研究を重ねた結果、従来のように微細針を被験者の皮膚に衝突させた後すぐに当該微細針を装置内に後退させるのではなく、皮膚に微細針を衝突させた後所定の時間当該微細針を皮膚に押し付けることで、形成された微細孔から抽出される組織液の量が増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の微細孔形成装置は、微細針を被験者の皮膚に衝突させて前記皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置であって、
被験者の皮膚を穿刺する複数の微細針を有する皮膚当接部と、
この皮膚当接部を被験者の皮膚に向けて付勢する付勢手段と
を備えており、
前記付勢手段は、皮膚当接部の微細針が被験者の皮膚に衝突する位置において前記微細針を前記皮膚に向けて付勢するように構成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の微細孔形成装置では、被験者の皮膚に衝突した微細針は付勢手段によって当該皮膚に向けて押圧されるように構成されている。すなわち、被験者の皮膚に微細針を衝突させた後すぐに当該微細針を穿刺装置内に退避させていた従来技術と異なり、本発明では、穿刺後所定の時間微細針を被験者の皮膚に向けて押し付けるようにしている。これにより、すべての微細針によって皮膚に微細孔を形成することができるので、従来と比較して組織液の量を増加させることができ、抽出した組織液を用いた測定の精度を向上させることができる。
【0010】
(2)前記(1)の微細孔形成装置において、前記微細針が皮膚に衝突する際の速度をS(m/s)としたとき、4.8≦Sとすることができる。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)の微細孔形成装置において、前記微細針が皮膚に衝突する際の速度をS(m/s)としたとき、S≦6.1とすることができる。
【0012】
(4)前記(1)〜(3)の微細孔形成装置において、前記微細針が皮膚に衝突した後、前記付勢手段が微細針を介して皮膚に与える単位面積あたりの力をP(Pa)としたとき、2.56×10≦Pとすることができる。
【0013】
(5)本発明の微細孔形成方法は、前記(1)の微細針形成装置を用いて被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成方法であって、微細針を被験者の皮膚に衝突させた後所定の時間、前記微細針を皮膚に押し付けた状態を保つことを特徴としている。
【0014】
(6)前記(5)の微細孔形成方法において、前記所定の時間を0.15秒以上とすることができる。
【0015】
(7)前記(6)の微細孔形成方法において、前記所定の時間を60秒以下とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微細孔形成装置及び微細孔形成方法によれば、被験者の皮膚に形成される微細孔から抽出される組織液の量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の微細孔形成装置の一実施の形態の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される微細孔形成装置の内部構造を示す斜視図である。
【図3】図1に示される微細孔形成装置の分解斜視図である。
【図4】図1に示される微細孔形成装置のリアカバーの内部構造を示す正面図である。
【図5】図1に示される微細孔形成装置のフロントカバーの内部構造を示す斜視図である。
【図6】図1に示される微細孔形成装置のチップ収容具挿入部材の底面図である。
【図7】図1に示される微細孔形成装置のアレイチャックの正面図である。
【図8】図1に示される微細孔形成装置のリリースボタンの斜視図である。
【図9】図1に示される微細孔形成装置に装着される微細針チップを備えたチップ収容キットの全体構成を示す斜視図である。
【図10】図9に示されるチップ収容キットの分解斜視図である。
【図11】図9に示されるチップ収容キットの微細針チップの斜視図である。
【図12】図10のI−I線断面図である。
【図13】図9に示されるチップ収容キットのチップ収容具の上面図である。
【図14】図9に示されるチップ収容キットのチップ収容具の斜視図である。
【図15】図9に示されるチップ収容キットのチップ収容具の底面図である。
【図16】図13のII−II線断面図である。
【図17】従来の微細針形成装置の発射原理を説明する図である。
【図18】本発明の微細針形成装置の発射原理を説明する図である。
【図19】グルコース透過率の押し付け時間依存性を示す図である。
【図20】穿刺後の経過時間とグルコース透過率の関係を示す図である。
【図21】グルコース透過率と痛みの関係を示す図である。
【図22】グルコース透過率と出血の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の微細孔形成装置及び微細孔形成方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
〔微細孔形成装置の全体構成〕
図1は本発明の一実施の形態に係る微細孔形成装置1の全体構成を示す斜視図である。図2〜8は、図1に示される微細孔形成装置1の各部材の詳細な構造を説明するための図である。図9は、図1に示される微細孔形成装置に装着される微細針チップを備えたチップ収容キットの全体構成を示す斜視図である。図10〜16は、図9に示されるチップ収容キットの各部材の詳細な構造を説明するための図である。
【0020】
本発明の一実施の形態に係る微細孔形成装置1(図1参照)は、滅菌処理された微細針チップ110(図11参照)を装着して、当該微細針チップ110の微細針113aを被験者の皮膚に当接(衝突)させることによって、被験者の皮膚に体液の抽出孔(微細孔)を形成する装置である。そして、微細孔形成装置1及び微細針チップ110により形成された被験者の皮膚の抽出孔から滲出した体液(組織液)を抽出媒体に収集して、この抽出媒体をグルコース濃度分析装置(図示せず)で測定することにより、組織液中のグルコース濃度を算出してこの値を元にAUCを推定する。まず、図1〜12を参照しつつ、本発明の一実施の形態に係る微細孔形成装置1の構造について詳細に説明する。
【0021】
微細孔形成装置1は、皮膚の表皮の角質層を貫通し、真皮中の血管叢までは到達しない複数の微細な抽出孔を形成して、その抽出孔から組織液を滲出させる装置である。この微細孔形成装置1は、被験者の皮膚を穿刺する穿刺機構を有する本体部1aを備えている。微細孔形成装置1の本体部1aは、図1〜3に示されるように、リアカバー10と、フロントカバー20と、チップ収容具挿入部材30と、皮膚当接部であるアレイチャック40と、スプリングストッパ50と、リリースボタン60と、イジェクタ70と、付勢手段であるメインスプリング80(図3参照)と、複数のスプリング90a、90b(図3参照)とを備えている。なお、スプリング(メインスプリング80及び複数のスプリング90a、90b)を除いた7つの部材(リアカバー10、フロントカバー20、チップ収容具挿入部材30、アレイチャック40、スプリングストッパ50、リリースボタン60及びイジェクタ70)は、それぞれ、合成樹脂により作製されている。微細孔形成装置1の本体部1aの穿刺機構は、前記アレイチャック40、スプリングストッパ50、リリースボタン60及びメインスプリング80により主に構成されている。
【0022】
[本体部の各要素の構成]
リアカバー10及びフロントカバー20からなる筐体は、図2及び図3に示されるように、その内部に前述したアレイチャック40、スプリングストッパ50、リリースボタン60、イジェクタ70、メインスプリング80及び複数のスプリング90a、90bを収容可能に構成されている。そして、図3及び図4に示されるように、リアカバー10の下部には、チップ収容具挿入部材30を取り付けるための取付部11が形成されている。また、リアカバー10の上部には、イジェクタ70のボタン部72を露出させて使用者が押圧可能な状態にするための開口部12が形成されている。また、リアカバー10の側面には、リリースボタン60のボタン部64を露出させるための開口部13が形成されている。また、リアカバー10の内部には、スプリングストッパ50のスプリング受部52の一方の端部52aが嵌め込まれる凹部14と、リリースボタン60の支持軸63が係合する凹部15と、筐体の内部をY方向(図1〜5において上下方向)に移動するアレイチャック40のガイド部43をガイドするガイド溝16と、スプリング90a及び90bをそれぞれ設置するためのスプリング設置部17及び18と、フロントカバー20の4つのボス部27(図5参照)が挿入される4つのボス挿入孔19とが設けられている。なお、この実施の形態では、スプリングストッパ50のスプリング受部52により、メインスプリング80の一端がハウジング内に配置保持されている。
【0023】
フロントカバー20は、図3及び図5に示されるように、リアカバー10と同様に、チップ収容具挿入部材30を取り付けるための取付部21と、イジェクタ70のボタン部72を露出させて使用者が押圧可能な状態にするための開口部22と、リリースボタン60のボタン部64を露出させるための開口部23と、スプリングストッパ50のスプリング受部52の他方の端部52bが嵌め込まれる凹部24と、リリースボタン60の支持軸63が係合する凹部25と、筐体の内部をY方向に移動するアレイチャック40のガイド部43をガイドするガイド溝26とが設けられている。また、フロントカバー20には、リアカバー10の4つのボス挿入孔19(図3参照)に対向する位置に4つのボス部27が形成されている。これにより、フロントカバー20の4つのボス部27をリアカバー10の4つのボス挿入孔19に挿入することによって、リアカバー10に対してフロントカバー20が位置決めされた状態で取り付けられる。
【0024】
チップ収容具挿入部材30は、微細針チップ110(図11参照)の装着時に微細針チップ110が収容されたチップ収容具120を挿入するとともに、使用済みの微細針チップ110の廃棄時に空のチップ収容具120を挿入するために設けられている。このチップ収容具挿入部材30は、図3及び図6に示されるように、リアカバー10の取付部11及びフロントカバー20の取付部21に取り付けられる取付部31と、被験者の腕の皮膚に当接する当接面32と、この当接面32に形成される開口部33a(図6参照)及びその反対側に設けられる開口部33b(図3参照)を有する貫通孔33と、短手方向の外側面から外側に向かって張り出すように形成される2つの鍔部34とを含んでいる。
【0025】
また、本実施の形態では、当接面32側に形成される開口部33aは、微細針チップ110が着脱自在に収容されるチップ収容具120(図10参照)が挿入可能に構成されている。そして、開口部33aを通過したチップ収容具120は、貫通孔33をY方向に移動することが可能となる。
【0026】
微細針チップ110を被験者の皮膚に衝突ないしは当接させるピストンとして機能するアレイチャック40は、リアカバー10のガイド溝16及びフロントカバー20のガイド溝26に沿ってY方向に移動可能に構成されている。アレイチャック40に保持される微細針チップ110(図11参照)は、チップ収容具挿入部材30の貫通孔33をY方向に移動することが可能である。このアレイチャック40は、図3及び図7に示されるように、軽量化のために複数の孔部41aが設けられた本体41と、微細針チップ110の鍔部112(図12参照)と係合して当該微細針チップ110を保持する弾性変形可能な一対のチャック部42と、リアカバー10のガイド溝16に挿入されるガイド部43a、及びフロントカバー20のガイド溝26に挿入されるガイド部43bと、後述するリリースボタン60の2つの固定部62と係合する2つの係合部44と、後述するスプリングストッパ50の軸部51が挿入可能な挿入孔45a(図3参照)を有する凸部45と、本体41の下側(矢印Y1方向側)に形成されるブッシュ部46とを含んでいる。また、微細針チップ110の鍔部112に当接するチャック部42の先端部42aは、テーパー形状に形成されているとともに、鍔部112に係合可能なフック形状に形成されている。
【0027】
ここで、本実施の形態では、アレイチャック40は、2つの係合部44と後述するリリースボタン60の2つの固定部62とが係合していない場合に、チップ収容具120(図10参照)が前記チップ収容具挿入部材30の開口部33aに挿入されることにより、チップ収容具120内に収容される微細針チップ110を自動的に保持するように構成されている。そして、Y方向に移動可能なアレイチャック40は、微細針チップ110を保持した後、係合部44が固定部62に固定するまで矢印Y2方向まで移動される。
【0028】
また、本実施の形態では、アレイチャック40に保持される微細針チップ110は、2つの係合部44と後述するリリースボタン60の2つの固定部62とが係合していない場合に、チップ収容具120が前記チップ収容具挿入部材30の開口部33aに挿入されることにより、アレイチャック40のチャック部42から自動的に取り外されるように構成されている。
【0029】
また、本実施の形態では、チャック部42は、他の部分(本体41、ガイド部43a、43b、係合部44、凸部45及びブッシュ部46)とともに合成樹脂により一体的に形成されている。
【0030】
スプリングストッパ50は、アレイチャック40を矢印Y1方向に付勢するメインスプリング80を支持するために設けられている。このスプリングストッパ50は、図3に示されるように、メインスプリング80の内部に挿入される軸部51と、この軸部51に挿入されるメインスプリング80が上方(矢印Y2方向)に抜けるのを防止するためのスプリング受部52とを含んでいる。そして、スプリング受部52の一方の端部52a及び他方の端部52bは、それぞれ、リアカバー10の凹部14及びフロントカバー20の凹部24(図5参照)に嵌め込まれるように形成されている。また、本実施の形態では、軸部51の根元にメインスプリング80の圧縮距離を調整するための短円筒体形状のスペーサー55が設けられている。後述するメインスプリング80の一端80aは前記スペーサー55の下面に当接する。スペーサー55の軸方向の長さは、メインスプリング80の所望の圧縮距離に応じて適宜変更可能である。また、このスペーサー55は、メインスプリング80のバネ定数や長さを調整することで省略することができる。
【0031】
リリースボタン60には、図3及び図8に示されるように、本体61と、アレイチャック40の2つの係合部44と係合する2つの固定部62と、リアカバー10の凹部15及びフロントカバー20の凹部25(図5参照)と係合する2つの支持軸63と、リアカバー10の側面に設けられる開口部13及びフロントカバー20の側面に設けられ開口部23(図5参照)から露出されるボタン部64とが設けられている。また、本体61のボタン部64が設けられる側面には、図8に示されるように、リアカバー10のスプリング設置部18(図3及び図4参照)に設置されるスプリング90b(図3参照)の一方の端部が当接する凹部61aが形成されている。また、本実施の形態では、2つの固定部62は、後述するメインスプリング80の矢印Y1方向への付勢力に抗して矢印Y2方向に移動されるアレイチャック40を固定して当該アレイチャック40を発射待機位置に維持するストッパとしての機能を有している。
【0032】
また、本実施の形態では、イジェクタ70は、微細針チップ110が収容されるチップ収容具120をチップ収容具挿入部材30の貫通孔33(図3参照)から排出する機能を有している。このイジェクタ70は、図3に示されるように、後述するチップ収容具120の縁部121b(図10参照)及び縁部122d(図14参照)を押圧する押圧部71と、リアカバー10の開口部12及びフロントカバー20の開口部22から露出して被験者が押圧可能な状態となるボタン部72と、リアカバー10のスプリング設置部17に設置されるスプリング90aの一方の端部が当接する当接部73とを備えている。そして、当接部73には、スプリング90aの内部に挿入されるボス部73aが形成されており、リアカバー10のスプリング設置部17からスプリング90aが外れるのを抑制することが可能となる。
【0033】
メインスプリング80は、アレイチャック40を矢印Y1方向に付勢するために設けられている。このメインスプリング80の内部には、図3に示されるように、スプリングストッパ50の軸部51が挿入されている。この際、メインスプリング80の一方の端部80aは、前記スペーサー55に当接し、このスペーサー55はスプリングストッパ50のスプリング受部52に当接する。また、メインスプリング80の他方の端部80bは、アレイチャック40の係合部44の上面に当接している。すなわち、本実施の形態における付勢手段であるメインスプリング80は、いずれの端部も他の部材に固定されておらずフリーな状態にされている。
【0034】
リアカバー10のスプリング設置部17に設置されるとともにイジェクタ70の当接部73のボス部73aに挿入されるスプリング90aは、図3に示されるように、矢印Y2方向に押し上げられたイジェクタ70を矢印Y1方向に付勢する機能を有している。また、リアカバー10のスプリング設置部18及びリリースボタン60の凹部61a(図8参照)に設けられるスプリング90bは、支持軸63を支点として矢印G2方向に回動されたリリースボタン60を矢印G1方向に回動させるために設けられている。
【0035】
[チップ収容キット]
次に、図1、図3、図7及び図9〜16を参照しつつ、本実施の形態に係る微細孔形成装置1のアレイチャック40に装着される微細針チップ110、微細針チップ110を収容するチップ収容具120及び滅菌維持シール130から構成されるチップ収容キット100について詳細に説明する。
【0036】
微細針チップ110は、前述した微細孔形成装置1(図1参照)のアレイチャック40(図7参照)に装着されて用いられ、被験者の皮膚から組織液(体液)を滲出させための複数の微細な抽出孔を形成する複数の微細針113aを有する。この微細針チップ110は、図10〜12に示されるように、平面的に見て略長方形状に形成されており、短手方向の外側面から外側に突出するように配置される一対の突起部111と、長手方向の外側面から外側に突出するように配置される一対の鍔部112と、305本の微細針113aを有する微細針アレイ部113と、前述した微細孔形成装置1のアレイチャック40のブッシュ部46(図7参照)が挿入される凹部114とを含んでいる。また、一対の突起部111は、後述するチップ収容具120の係止孔122bに係止されるように形成されるとともに、一対の鍔部112は、アレイチャック40のチャック部42(図7参照)の先端部42aと係合するように形成されている。なお、微細針チップ110は、305本の微細針113aも含めて合成樹脂から形成されている。また、本実施の形態における微細針113aは、図12に示されるように、円錐形状を呈しており、その頂角は約30°にされている。なお、前述した305本の微細針113aを有する微細針アレイ部113を含む微細針チップ110以外に、189本の微細針を有する微細針アレイ部を含む微細針チップなど他のものを用いてもよい。
【0037】
ここで、本実施の形態では、合成樹脂からなるチップ収容具120は、図10及び図13〜16に示されるように、滅菌処理された使用前の微細針チップ110(図10参照)を収容する開口部121と、被験者の皮膚に穿刺された使用後の微細針チップ110を収容する開口部122とを含んでいる。そして、この開口部121及び開口部122は、互いに反対側に設けられており、未使用の微細針チップ110が収容される開口部121には、後述する滅菌維持シール130が当該開口部121を密封するように貼り付けられる。また、開口部121は、図10及び図13に示されるように、滅菌処理された使用前の微細針チップ110の側面を支持する4つの支持部121aと、イジェクタ70の押圧部71(図3参照)に当接する縁部121bと、支持部121aに保持された微細針チップ110の突起部111(図10及び図11参照)が縁部121bに接触しないように形成された逃がし部121cとを有している。
【0038】
また、本実施の形態では、開口部122は、図14及び図15に示されるように、被験者の皮膚に穿刺された使用後の微細針チップ110の突起部111(図10及び図11参照)が挿入される係止孔122bを有する保持部122aを含んでいる。また、開口部122には、微細孔形成装置1のアレイチャック40のチャック部42(図7参照)と微細針チップ110の鍔部112との係合を解除する解除片122cと、イジェクタ70の押圧部71(図3参照)に当接する縁部122dとが設けられている。この解除片122cの先端部分122eは、図16に示されるように、テーパー形状に形成されている。また、チップ収容具120の側面122fには、図14に示されるように、開口部122を上側に配置した場合に確認可能な「2」が印刻されている。
【0039】
滅菌維持シール130は、アルミフィルムからなり、γ線などを照射することにより滅菌処理された微細針チップ110にウイルスや菌などが付着するのを抑制する機能を有している。この滅菌維持シール130は、図9及び図10に示されるように、使用前の微細針チップ110が収容される開口部121を覆うように貼り付けられている。また、この滅菌維持シール130は、前述したチップ収容具120の側面122fに印刻される「2」を覆い隠すように貼り付けられている。そして、チップ収容具120の側面122fに貼り付けられる部分には、図9に示されるように、開口部121を上側に配置した場合に確認可能な「1」が印字されている。
【0040】
本実施の形態では、アレイチャック40の係合部44とリリースボタン60の固定部62との係合が解除されている場合に、チップ収容具120がチップ収容具挿入部材30の開口部33aに挿入されることにより、微細針チップ110を保持するアレイチャック40を設けることによって、被験者は、チップ収容具挿入部材30の開口部33aにチップ収容具120が挿入されるように微細孔形成装置1を移動させるだけで、アレイチャック40のチャック部42に微細針チップ110の鍔部112を保持させることができる。この際、アレイチャック40の係合部44と係合してアレイチャック40を固定する固定部62(リリースボタン60)を設けるとともに、アレイチャック40をY方向に移動可能に構成することによって、アレイチャック40に微細針チップ110が保持されるのと同時に、アレイチャック40をメインスプリング80による付勢力に抗して矢印Y2方向に移動させた状態で、固定部62により固定することができる。これにより、被験者は、微細針チップ110を保持したアレイチャック40が当接被験者の皮膚に向かう方向(矢印Y2方向)に付勢された状態で固定された状態に微細孔形成装置1をセットすることができる。このように、被験者は、微細孔形成装置1を移動させるだけで、煩雑な作業を要せずに、当該微細孔形成装置1を被験者の皮膚に微細孔を形成することが可能な状態にセットすることができる。そして、この状態から、リリースボタン60のボタン部64を押圧することにより、アレイチャック40の係合部44と固定部62との係合が解除されるので、微細針チップ110がチップ収容具挿入部材30の開口部33aを通って、矢印Y1方向に向かって移動して、被験者の皮膚の穿刺箇所に微細孔を形成することができる。
【0041】
また、本実施の形態では、微細針チップ110がアレイチャック40に保持されるとともに、アレイチャック40の係合部44と固定部62との係合が解除されている場合に、微細針チップ110が収容されていない空のチップ収容具120をチップ収容具挿入部材30の開口部33aに挿入することによって、被験者は、チップ収容具挿入部材30の開口部33aにチップ収容具120が挿入されるように微細孔形成装置1を移動するだけで、固定部62との係合が解除されているアレイチャック40に保持される使用済みの微細針チップ110を容易に取り外すことができる。その結果、被験者は、使用済みの微細針チップ110に触れることなく、当該使用済み微細針チップ110を安全に廃棄することができる。
【0042】
〔穿刺後微細針の皮膚への押圧〕
本実施の形態では、メインスプリング80の付勢力によって被験者の皮膚に衝突させられた微細針チップ110の微細針113aは、穿刺した状態のまま、同じくメインスプリング80の付勢力によって被験者の皮膚に押圧される。これにより、微細孔から抽出される組織液の量を増加させることができ、抽出した組織液を用いた測定の精度を向上させることができる。以下、本発明の特徴である穿刺した状態での押圧について説明する。
【0043】
図17は、従来の穿刺原理を説明する図で、穿刺直後に微細針を被験者の皮膚から引き抜く従来の穿刺原理を説明する図である。また、図18は、本発明の穿刺原理の説明図であり、被験者の皮膚に衝突した微細針をその状態のままで当該被験者の皮膚に所定時間押圧する説明図である。なお、分かりやすくするために、説明に必要な要素ないし部材だけを図示している。
【0044】
図17の(a)は、従来の微細孔形成装置の通常の状態を示しており、ピストン200は微細針引き抜き用スプリング201に支えられており、当該ピストン200の先端に装着された微細針チップ202の微細針202aの先端がハウジング203の開口部204から若干外方に飛び出している。また、微細針発射用スプリング205は圧縮されていない自然長の状態にあり、この微細針発射用スプリング205から微細針202aに対して皮膚方向の付勢力は作用していない。
【0045】
図17の(b)は、図17の(a)に示される状態からピストン200を非穿刺方向(穿刺方向と反対の方向であり、図では上向きの方向)に移動させて微細針発射用スプリング205を圧縮し、ストッパ206でその状態を維持したロード状態を示している。ピストン200は微細針引き抜き用スプリング201から離反し、微細針202aは完全にハウジング203内に収まっている。この状態で、ハウジング203の開口部204を被験者の皮膚Hに当接させることでピストン200の発射準備が完了する。
【0046】
図17の(c)は、図17の(b)に示される状態においてストッパ206を解除して、微細針発射用スプリング205の付勢力で皮膚方向に微細針202aを発射した状態を示している。微細針202aが被験者の皮膚Hに衝突した後、皮膚Hからの反力と、皮膚方向に移動したピストン200により圧縮された微細針引き抜き用スプリング201の反発力とにより、微細針202aは瞬間的に皮膚Hから引き抜かれる。
【0047】
図18の(a)は、本発明の微細孔形成装置の通常の状態を示しており、微細針202aの先端がハウジング203の開口部204から大きく外方に飛び出しているが、微細針発射用スプリング205は圧縮されていない自然長の状態にあり、この微細針発射用スプリング205から微細針202aに対して皮膚方向の付勢力は作用していない。なお、図18において、207は、微細針発射用スプリング205の圧縮距離を調整するための短円柱状のスペーサー(図3の55に対応している)であり、ハウジング203の内面に設けられている。
【0048】
図18の(b)は、図18の(a)に示される状態からピストン200を非穿刺方向に移動させて微細針発射用スプリング205を圧縮し、ストッパ206でその状態を維持したロード状態を示している。その際、微細針202aは完全にハウジング203内に収まっている。この状態で、ハウジング203の開口部204を被験者の皮膚Hに当接させることでピストン200の発射準備が完了する。
【0049】
図18の(c)は、図18の(b)に示される状態においてストッパ206を解除して、微細針発射用スプリング205の付勢力で皮膚方向に微細針202aを発射した状態を示している。微細針発射用スプリング205は、微細針202aが被験者の皮膚Hに衝突した状態において、当該微細針202aを皮膚側に押し付ける付勢力を有している。換言すれば、このような付勢力を有するように微細針発射用スプリング205の長さ、バネ定数、圧縮距離が選定され、所望により前述したようなスペーサー207が使用される。微細針202aは、被験者の皮膚Hに衝突した後、皮膚Hからの反力以上の微細針発射用スプリング205からの付勢力により皮膚Hに押し付けられる。
【0050】
〔穿刺後押圧の効果〕
穿刺後に微細針を皮膚に押し付けることによる抽出組織液増量の効果を実験により検証した。被験者の皮膚に穿刺後の微細針を5秒間、10秒間、60秒間押し付けたときのグルコース(Glc)透過率を測定した。
グルコース透過率とは抽出溶媒に抽出されるグルコースの単位時間あたりの量(グルコース抽出速度:ng/min)を血糖値:mg/dLで規格化した指標である。
グルコース透過率の測定方法としては、微細孔形成装置により前腕部表層に組織液の通る微細孔を形成した部位に容量 90μLの樹脂製のチャンバを設置し、その中に抽出溶媒としてRO水(脱イオン水)を満たし、組織液を浸出させる。ついで、10 分間隔で30分間に渡りサンプリングを行う。サンプリングした抽出溶媒90μLにRO水(脱イオン水)120μLを添加した試料中に含まれるグルコース濃度を酵素を用いた蛍光法で分析する。反応試薬としてはグルコースオキシダーゼ(オリエンタル酵母社製)、アスコルビン酸オキシダーゼ(和光純薬工業社製)、アンプレックスレッド(Molecular Probes社製)、ムタロターゼ(オリエンタル酵母社製)及びペルオキシダーゼ(和光純薬工業社製)を用い、マイクロプレートリーダー(MTP−800AFC、コロナ電気社製)で蛍光測定を行う。また血糖値は前腕から採血して血糖自己測定機(SMBG)を用いて測定した。
【0051】
また、比較のために従来方法(穿刺後すぐに微細針を皮膚から引き抜く)でのグルコース透過率も測定した。結果を図19に示す。図19において、□は穿刺後に押し付けた場合(本発明の方法)を示し、▲は従来方法(通常穿刺)を示す。なお、押し付け時間がほぼゼロの位置に本発明の方法による□がプロットされているが、この位置は、体感の押し付け時間が0秒である場合(穿刺操作開始後に被験者が微細針による皮膚への穿刺を感じて、すぐに微細針形成装置を皮膚から離した場合。被験者が穿刺を感じてから微細針形成装置を皮膚から引き離すという動作に至るまで、通常、0.15秒は要するとされているが、被験者の体感上の押し付け時間は0秒である。)を示している。
【0052】
図19より、穿刺後に微細針を皮膚に押し付けることにより、明らかにグルコースの透過率が大きくなっていることが分かる。押し付け時間が体感上0秒でも従来方法の2倍程度の透過率が得られ、さらに押し付け時間を延長させるに従い透過率も増大することが分かる。なお、穿刺後に微細針を皮膚に押し付ける時間について、測定時間の短縮及び被験者の負担を考慮すると、穿刺後に微細針を皮膚に押し付ける時間は、60秒以下であることが望ましい。一方、体感0秒(実際には0.15秒程度は押し付けられている)でも透過率が大幅に増加することを考慮すると、穿刺後に微細針を皮膚に押し付ける所定の時間は、0.15秒以上であることが望ましい。
【0053】
図20は、穿刺後の時間経過に伴うグルコース透過率の変移を本発明の方法(押し付け穿刺)と従来方法(通常穿刺)について検証した結果を示す。
押し付け穿刺における皮膚面衝突時の微細針の速度は5(m/s)であり、穿刺後の押し付け時間は1分間であった。また、通常穿刺における皮膚面衝突時の微細針の速度は6(m/s)であった。抽出面積は5×10mmであり、抽出溶媒として液量90ulのRO水を用いた。
図20より、穿刺後に微細針を皮膚に押し付ける本発明の方法によれば、従来の穿刺装置を用いて微細孔を形成する場合に比べて、長時間に亘り約5倍の透過率が得られることが分かる。
【0054】
〔透過率とダメージについて〕
測定精度の向上という観点からは、できるだけ多くの微細孔を被験者の皮膚にしっかりと形成することが望ましいが、一方において、被験者の負担を考慮すると、穿刺に伴う痛みや出血などのダメージは極力少なくすることが望ましい。
【0055】
2人の被験者A、Bについて、以下の条件に従い穿刺実験を行い、グルコース透過率と被験者が受けるダメージとの関係について検証した。結果を図21及び図22に示す。
実験条件
・穿刺:本発明による押し付け穿刺と通常穿刺(比較例)
押し付け穿刺における皮膚面衝突時の微細針の速度は5(m/s)であり、押 し付け時間は体感0秒であった。通常穿刺における皮膚面衝突時の微細針の速 度は8.5(m/s)であった。
・ 部位数:押し付け穿刺は2部位、通常穿刺は3部位。
・ 抽出条件:
抽出面積:5×10mm
抽出時間:10分×3回=計30分
抽出溶媒/液量:RO水/90ul
・ 評価項目:
透過率:グルコース(Glc)透過率を測定
ダメージ:痛み、出血
【0056】
図21はグルコース透過率と痛みとの関係を示す図である。痛みは被験者の相対的且つ主観的な評価を10段階で行った。図21より、押し付け穿刺は通常穿刺(従来方法)に比べて痛みは同等以下であり、グルコース透過率は高いことが分かる。
図22はグルコース透過率と出血との関係を示す図である。穿刺により形成される微細孔から出血する場合があるが、微細針アレイの針の部分に対応して見られるごく小さな出血状の赤い点状に見える箇所の数を目視にてカウントした。図22より、押し付け穿刺では出血が視認できないが、グルコース透過率は通常穿刺よりも高いことが分かる。
【0057】
〔押し付け力とダメージについて〕
本発明の特徴は、穿刺後に微細針を皮膚に向けて押圧することであるが、この皮膚への押し付け力が痛みや出血に寄与するかどうかについて検証した。微細針を皮膚側に付勢する発射用スプリングの圧縮距離(mm)を変えることで、微細針の皮膚への押し付け力(Pa)を変化させた。発射用スプリングの圧縮距離が大きくなるほど皮膚への押し付け力は大きくなる。結果を表1及び表2に示す。表1は痛みと押し付け力の関係を示しており、表2は出血と押し付け力との関係を示している。
【0058】
表1において、「押し付けのみ」は、発射用スプリングにより付勢された状態の微細針チップを手で押さえ、当該微細針チップの微細針を低速(0.6m/s)で検体の皮膚に当接させ、ついで発射用スプリングの付勢力によって皮膚を押し付けることを意味している。また、「発射と押し付け」は、図18の(b)に示されるロード状態においてストッパを解除することでピストンを皮膚側に移動させて微細針を皮膚に衝突させ、衝突後に発射用スプリングの付勢力により微細針を皮膚に押し付けることを意味する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1より、発射用スプリングの圧縮距離を8mm、10mm、11mmと長くして押し付け力を大きくしていっても、「押し付けのみ」の場合は「痛くない」という評価に変化がないこと、及び、発射用スプリングの圧縮距離が11mmの場合、押し付け力が同じであるにもかかわらず「発射と押し付け」のケースだけが「痛い」と評価していることからして、被験者が感じる痛みは微細針の皮膚への衝突速度(穿刺速度)に影響され、微細針を穿刺後に皮膚に押し付けることが痛みには寄与しないものと考えられる。
【0062】
表2より、発射用スプリングの圧縮距離を8mm、10mm、11mmと長くして押し付け力を大きくしていっても、「押し付けのみ」及び「発射と押し付け」のいずれの場合でも「出血なし」であったことから、押し付け力は出血には寄与しないものと考えられる。
【0063】
本発明の微細孔形成方法は、微細針により皮膚を穿刺した後に当該微細針を所定時間皮膚に押し付けるものであるので、穿刺後に微細針が皮膚から抜けないような付勢力を発射用スプリングに与えておく必要がある。また、あまりに付勢力を大きくして皮膚面への衝突速度を大きくしすぎると、被験者に痛みを与えることになる。したがって、微細針が皮膚面に衝突するときの速度や微細針が皮膚を押し付ける力には、望ましい範囲がある。この範囲は、微細針の仕様(形状、数、材質など)により異なるが、その一例について表3に基づいて説明する。
【0064】
【表3】

【0065】
表3の微細針は、図11〜12に示されるように矩形の領域(5×10mm)に305本の合成樹脂製の微細針が設けられたものである。微細針は円錐形状であり、その頂角は30°である。発射用スプリングの圧縮距離は、当該発射用スプリングの一端(被験者の皮膚側の端部と反対側の端部)に当接するスペーサー(図18参照)のサイズを変えることで変化させた。微細針の挙動(皮膚への衝突後に抜けるか否か)、並びに痛み及び出血の有無について評価した。
【0066】
表3に示される例の場合、穿刺速度4.7m/sでは皮膚との衝突後に微細針が当該皮膚から抜け、穿刺速度4.8m/sでは皮膚との衝突後に微細針が当該皮膚から抜けないことから、微細針が皮膚に衝突する際の速度は4.8m/s以上であることが望ましい。一方、穿刺速度が6.7m/sでは被験者が痛みを感じ、6.1m/sでは被験者が痛みを感じないことから、微細針が皮膚に衝突する際の速度は6.1m/s以下であることが望ましい。
【0067】
また、押し付け力について、2.12×10(Pa)では膚との衝突後に微細針が当該皮膚から抜け、2.56×10(Pa)では皮膚との衝突後に微細針が当該皮膚から抜けないことから、微細針の押し付け力は2.56×10(Pa)以上であることが望ましい。
【0068】
〔その他の変形例〕
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、皮膚当接部であるアレイチャックを構成する部材の形状や、付勢手段であるメインスプリングの設置方法などは適宜変更可能である。
【0069】
また、前述した実施の形態では、微細針チップとして305本の円錐形状の微細針が矩形状の領域に配置されたものを用いているが、微細針の数、形状及び材質、さらには微細針を備えた微細針チップの形状も適宜変形可能である。
【0070】
また、前述した実施の形態では、アレイチャックを付勢する手段として、当該アレイチャックを穿刺方向に付勢するメインスプリングだけが採用されているが、穿刺及び押圧操作の終了後に微細孔形成装置を被験者の皮膚から離したときに、微細針の先端がチップ収容具挿入部材の開口部から外部に突出するのを防ぐために、バネ定数の小さい押し上げ用スプリングをリアカバーのガイド溝及びフロントカバーのガイド溝内にそれぞれ配設することもできる。この場合、メインスプリングのバネ定数や長さなどの仕様は、ガイド部が押し上げ用スプリングを圧縮して微細針が皮膚に衝突したときに、当該微細針を皮膚に押し付ける付勢力を有するように選定する必要がある。
【0071】
また、微細孔形成装置は、微細針を皮膚に押し付ける時間を被験者に知らせるためのタイマー部を備えていてもよい。この場合、微細針チップをアレイチャックに装着して当該アレイチャックを発射待機位置に移動させる動作に連動してタイマー部の電源をオンにし、アレイチャックの発射によりタイマーが起動するように構成することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 微細孔形成装置
10 リアカバー
20 フロントカバー
30 チップ収容具挿入部材
40 アレイチャック(皮膚当接部)
43b ガイド部
43d 先端部
50 スプリングストッパ
60 リリースボタン
70 イジェクタ
80 メインスプリング(付勢手段)
100 チップ収容キット
110 微細針チップ
120 チップ収容具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細針を被験者の皮膚に衝突させて前記皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置であって、
被験者の皮膚を穿刺する複数の微細針を有する皮膚当接部と、
この皮膚当接部を被験者の皮膚に向けて付勢する付勢手段と
を備えており、
前記付勢手段は、皮膚当接部の微細針が被験者の皮膚に衝突する位置において前記微細針を前記皮膚に向けて付勢するように構成されていることを特徴とする、微細孔形成装置。
【請求項2】
前記微細針が皮膚に衝突する際の速度をS(m/s)としたとき、4.8≦Sである、請求項1に記載の微細孔形成装置。
【請求項3】
前記微細針が皮膚に衝突する際の速度をS(m/s)としたとき、S≦6.1である、請求項1又は2に記載の微細孔形成装置。
【請求項4】
前記微細針が皮膚に衝突した後、前記付勢手段が微細針を介して皮膚に与える単位面積あたりの力をP(Pa)としたとき、2.56×10≦Pである、請求項1〜3のいずれかに記載の微細孔形成装置。
【請求項5】
請求項1に記載の微細針形成装置を用いて被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成方法であって、微細針を被験者の皮膚に衝突させた後所定の時間、前記微細針を皮膚に押し付けた状態を保つことを特徴とする、微細孔形成方法。
【請求項6】
前記所定の時間が0.15秒以上である、請求項5に記載の微細孔形成方法。
【請求項7】
前記所定の時間が60秒以下である、請求項6に記載の微細孔形成方法。

【図7】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−5650(P2012−5650A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144089(P2010−144089)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】