説明

微細気泡含有液体の製造方法

【課題】微細気泡を極めて高濃度に含有する液体を製造することができるようにする。
【解決手段】微細気泡含有液体製造装置100は、多孔質膜111と、その一方側に設けられた気体収容部116と、その他方側に設けられた液体流路117と、を備える。微細気泡含有液体の製造方法は、この微細気泡含有液体製造装置100を用い、気体収容部116に加圧気体を配すると共に、液体流路117に多孔質膜111に沿って界面活性剤を含有する液体を流動させることにより、その流動する液体に多孔質膜111を介して気体を圧入する。液体流路117に、その流路断面を縮小する流路断面縮小部材115を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡含有液体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体に含有させる気泡を微細化する技術については様々な研究がなされており、例えば、水に60μmから10μmの気泡を含有させる技術が養殖等の水産分野で、また、超音波造影剤等に10μmから3μmの気泡を含有させる技術が医学分野でそれぞれ実用化されている。また、液体に含有させる気泡がさらに微細化すると、単位体積あたりの気/液表面積が増大する、気泡の液相での滞留時間が増大して十分に拡散する、気泡内のガスの加圧効果が得られる、高いガス溶解力を有する、と考えられることから、これらの性質を利用して、水の浄化や微生物培養、気体と液体との化学反応等への応用が期待されている。
【0003】
そして、そのような液体に含有させる気泡をさらに微細化する技術としては、多孔質体を介して気体をドデシル硫酸ナトリウム添加水中に発生させる方法が挙げられる(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記の単位体積あたりの気/液表面積の増大や微細気泡の長寿命化による十分な拡散によって期待される効果は、微細気泡を高濃度に含有する液体において実現されるものであるものの、平均気泡径5μm以下の微細気泡を1体積%以上含有する液体を製造する方法はこれまでに見出されていない。
【特許文献1】特開2005−169359号公報
【非特許文献1】久木崎雅人、中島忠夫、宋軍、小濱泰昭、化学工学論文集 第30巻第5号 pp654−660(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微細気泡を極めて高濃度に含有する液体を製造することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多孔質膜と、該多孔質膜の一方側に設けられた気体収容部と、該多孔質膜の他方側に設けられた液体流路と、を備えた微細気泡含有液体製造装置を用い、該気体収容部に加圧気体を配すると共に、該液体流路に該多孔質膜に沿って界面活性剤を含有する液体を流動させることにより、その流動する液体に該多孔質膜を介して気体を圧入する微細気泡含有液体の製造方法であって、
上記液体流路に、その流路断面を縮小する流路断面縮小部材を設けるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微細気泡含有液体製造装置の液体流路に流路断面縮小部材を設けることにより、微細気泡を極めて高濃度に含有する液体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施形態を詳細に説明する。
【0009】
(微細気泡含有液体製造装置)
本実施形態に係る微細気泡含有液体製造装置は、多孔質膜と気体収容部と液体流路とを備えている。この微細気泡含有液体製造装置は、気体収容部に加圧気体を配すると共に液体流路に多孔質膜に沿って界面活性剤を含有する液体を流動させることにより、その流動する液体に多孔質膜を介して気体を圧入して微細気泡含有液体を製造するものである。
【0010】
多孔質膜は、例えば、ガラス製、セラミックス製、シリコン製、高分子製等のものが挙げられる。これらのうちガラス製多孔質膜がより好ましい。ガラス製多孔質膜は、例えば、特許第1504002号公報や特許第1518989号公報に開示されているようにガラスのミクロ相分離を利用して製造することができる。市販されているガラス製多孔質膜としては、例えば、SPGテクノ社製のSPG膜が挙げられる。
【0011】
多孔質膜は、膜厚が例えば0.4〜1.0mmである。
【0012】
多孔質膜の細孔は、気泡径の均一な微細気泡を形成する観点から、細孔径が均一であることが好ましく、また、より微細な気泡を形成する観点から、細孔径が小さいことが好ましい。具体的には、多孔質膜の細孔は、平均細孔径が0.01〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.2μmであることがより好ましく、0.05〜0.1μmであることがさらに好ましい。なお、多孔質膜の平均細孔径は水銀ポロシメーターを用いて測定することができる。
【0013】
多孔質膜は、多孔質膜が単に平膜を構成するものであっても、或いは、多孔質膜により管構造を形成するものであってもよく、その形態は特に限定されない。
【0014】
気体収容部は、多孔質膜の一方側に設けられ、液体流路は、多孔質膜の他方側に設けられている。多孔質膜により管構造が形成された構成においては、多孔質膜による管構造の外側が気体収容部に構成される方が好ましく、多孔質膜による管構造の内側が流体流路に構成される方が好ましい。
【0015】
液体流路には、その流路断面を縮小する流路断面縮小部材が設けられている。流路断面縮小部材が設けられた液体流路において、多孔質膜と流路断面縮小部材との間の流体流路の隙間は例えば0.5〜1.5mmであることが好ましく、0.5〜1.0mmであることがより好ましい。
【0016】
流路断面縮小部材は、材質、形態等は特に限定されるものではない。
【0017】
多孔質膜により管構造が形成された構成においては、流路断面縮小部材は、液体流路に沿って延びるように形成された細長部材で構成されていることが好ましい。この場合、細長部材の流路断面縮小部材は、中実ロッド状に形成されたものであっても、また、中空ロッド状に形成されたものであっても、さらに、多孔質膜により管構造が形成され、その外側が液体流路に、また、その内側が気体収容部にそれぞれ構成され、液体流路の隙間の両側から気体を圧入するものであってもよい。
【0018】
多孔質膜により管構造が形成された構成において、液体流路の流路断面は特に限定されるものではないが、特にそれが円形に形成されている場合には、気泡径の均一な微細気泡を形成する観点から、細長部材の流路断面縮小部材を液体流路の軸線位置に設けて流体流路の隙間を均一にすることが好ましい
図1は、微細気泡含有液体製造装置100の一例を示す。なお、微細気泡含有液体製造装置100がこの構成に限定されることはない。
【0019】
この微細気泡含有液体製造装置100は、装置本体を構成する多孔質膜用モジュール110を備えている。
【0020】
図2及び3は、その多孔質膜用モジュール110を示す。
【0021】
多孔質膜用モジュール110は、管構造の多孔質膜111とジャケット112と一対の両側保持部材113とを備えている。
【0022】
管構造の多孔質膜111は、例えば、外径が5〜10mm、内径が4〜9mm、及び長さが20〜500mmの円筒状に形成されている。細孔の細孔径の構成は上記の通りである。
【0023】
ジャケット112は、多孔質膜111を覆うように設けられている。ジャケット112の中央には、圧力ボンベ121から延びる気体供給用配管122が接続されている。また、ジャケット112の中央からはリーク用配管123が延びて図示しないリーク用バルブに接続されている。
【0024】
一対の両側保持部材113は、多孔質膜111及びジャケット112を同軸に保持すると共に、多孔質膜111及びジャケット112との間で密閉空間を構成するように、それらの両側に設けられている。一対の両側保持部材113のそれぞれには多孔質膜111の管孔に連続する貫通孔が設けられている。また、一対の両側保持部材113のそれぞれの外側端には、貫通孔内側に向かって突出した部材固定具114が貫通孔断面周方向に等間隔に複数設けられており(図2では3個)、これらの両部材固定具114により、中実円柱ロッド部材115が管構造の多孔質膜の軸線位置に設けられているように保持されている。中実円柱ロッド部材115は、例えば、外径が1〜3mm、及び長さは使用する多孔質膜111に合わせて20〜500mmに形成されている。
【0025】
一対の両側保持部材113の一方には、供給用液タンク131から延びる液供給用配管132が貫通孔に繋がるように接続されている。液供給用配管132にはポンプ133が介設されている。一対の両側保持部材113の他方からは貫通孔に繋がった循環用配管141が延びて供給用液タンク131に接続されている。循環用配管141からは採取用配管142が分岐して回収用液タンク143に接続されている。
【0026】
この微細気泡含有液体製造装置100では、圧力ボンベ121から気体供給用配管122を介して多孔質膜111、ジャケット112、及び一対の両側保持部材113の間で構成された密閉空間に加圧気体を供給する。従って、この密閉空間が管構造の多孔質膜111の外側の気体収容部116を構成している。
【0027】
また、供給用液タンク131からポンプ133により液供給用配管132及び一方の両側保持部材113を介して管構造の多孔質膜111の内側に連続して液体を供給して流動させる。従って、管構造の多孔質膜111の内側が液体流路117を構成している。
【0028】
そして、液体に多孔質膜111を介して気体が圧入されて微細気泡含有液体が生成し、それが他方の両側保持部材113を介して排出され、一部が循環用配管141を介して供給用液タンク131に戻され、残りが採取用配管142を介して回収用液タンク143に回収される。
【0029】
また、管構造の多孔質膜の内側の液体流路117は、中実円柱ロッド部材115により縮小されており、この中実円柱ロッド部材115が流路断面縮小部材を構成している。
【0030】
(微細気泡含有液体の製造方法)
次に、本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法について説明する。
【0031】
本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法では、上記微細気泡含有液体製造装置の気体収容部に加圧気体を配すると共に、液体流路に多孔質膜に沿って界面活性剤を含有する液体を流動させ、そして、それにより、その流動する液体に多孔質膜を介して気体を圧入するものである。
【0032】
<気体>
気体収容部に配する気体としては、例えば、空気、窒素ガス、酸素ガス、オゾンガス、メタンガス、水素ガス、炭酸ガス、フロンガス等が挙げられる。これらのうち気泡の微細化、高濃度化、及び長寿命化を図る観点から、空気、窒素ガス、酸素ガス、オゾンガス、メタン、水素ガス、フロンガスを用いることが好ましい。この気体収容部に配する気体については、単一種で構成しても、また、複数種を混合したもので構成してもいずれでもよい。
【0033】
気体の加圧方法としては、例えば、気体収容部に気体を強制的に充填する方法、気体収容部に気体を充填した後にピストン等により気体を圧縮する方法が挙げられる。
【0034】
加圧気体の圧力については、例えば、1〜10MPaとすることが好ましく、2〜5MPaとすることがより好ましい。
【0035】
<液体>
液体流路に流動させる液体の主成分としては、例えば、水、油脂、有機溶媒等が挙げられる。これらのうち気泡の微細化及び長寿命化を図る観点から、水を用いることが好ましい。この液体流路に流動させる液体の主成分については、単一種で構成しても、また、複数種を混合したもので構成してもいずれでもよい。
【0036】
液体には界面活性剤を含有させる。界面活性剤としては、アニオン性のもの、カチオン性のもの、両性のもの、ノニオン性のものが挙げられる。また、その他リン脂質のもの、糖脂質のもの、タンパク質のもの、サポニン等天然に存在する界面活性を有する物質も挙げることができる。液体には単一種の界面活性剤を含有させても、また、複数種の界面活性剤を含有させてもいずれでもよい。
【0037】
液体中の界面活性剤として、気泡の安定化を図る観点から、クラフト点が40〜90℃である(A)成分と臨界ミセル濃度が5〜200mmol/Lである(B)成分とを含有させることが好ましい。
【0038】
(A)成分は、クラフト点が高く、また、熱力学的には気泡界面で濃縮されるため室温付近で剛性膜(例えば、「コロイド科学II−会合コロイドと薄膜−」、日本化学会、1995年発行、9章、p295に記載されている。)を形成し、そのため微細気泡の合一を抑制すると考えられ、また同時に、剛性膜が気体透過性を抑制することにより気泡内部から液体への気体の溶解をも抑制し、そのため微細気泡を長寿命化させると考えられる。しかし、(A)成分は、液への溶解度が低く、また、気泡界面への吸着速度が遅いため、(A)成分が剛性膜化するまでの間に合一や収縮が起こることが考えられる。そこで、(B)成分をも含ませることにより、それが早期に吸着して微細気泡の合一や収縮を抑制し、(A)成分が剛性膜化するまでの間、微細気泡として存在させ得るものと考えられる。
【0039】
−(A)成分−
(A)成分は、クラフト点が40〜90℃である界面活性剤である。クラフト点が40〜90℃である界面活性剤であれば、気泡の膜として十分な機能が働くものと考えられ、気泡の長寿命性に寄与するものと考えられる。(A)成分は、剛性膜を効率良く形成する観点から、クラフト点が45〜85℃であるものが好ましく、50〜80℃であるものがより好ましい。
【0040】
ここで、クラフト点とは、1995年1月30日、大日本図書(株)発行の「界面活性の化学と応用 第3章」に記載されている通り、界面活性剤の水への溶解度を、温度を変えて測定するときにおける、ある温度から急激に溶解度が大きくなるそのときの温度のことである。クラフト点は、Kaoru Tujii, Naoyuki Sato, and Takashi Takeuchi, Journal of Physical Chemistry, 84,2287(1980)記載の方法に従って測定することができる。 具体的には、界面活性剤1gを蒸留水100mlに添加し、その混合物を氷浴中で冷却して曇るようにさせた後、1℃/分の速度でゆっくりと加熱し、透明になる温度を測定することができる。
【0041】
(A)成分は、気泡安定性の観点から、アルキル基を有することが好ましい。具体的には、(A)成分は、炭素数16〜24のアルキル基を有することが好ましく、炭素数17〜18のアルキル基を有することがより好ましい。また、そのアルキル基は直鎖であることが好ましく、そして、直鎖アルキル基単独が疎水基を構成していることが好ましい。なお、アルキル基は、水素の一部又は全部がフッ素によって置換されていてもよい。
【0042】
同様に、(A)成分は、ポリアルキレンオキサイド基を有しないことが好ましい。
【0043】
具体的には、(A)成分となるアニオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数16〜24のアルキル基を有する直鎖飽和脂肪酸塩、炭素数18〜24のアルキル基を有する分岐脂肪酸塩、炭素数20〜24のアルケニル基を有する不飽和脂肪酸塩、炭素数16〜24の直鎖又は分岐アルキル硫酸エステル塩、炭素数16〜24の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数16〜24の分岐アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数16〜24の直鎖又は分岐のアルキルスルホン酸塩、炭素数18〜24のアルケニルスルホン酸塩、炭素数16〜24のモノアルキルリン酸塩等が挙げられる。
【0044】
(A)成分となるカチオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数18〜24のアルキルアミン塩、炭素数18〜24のアルキルエチレンジアミン塩、炭素数20〜24のアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0045】
(A)成分となる両性界面活性剤としては、例えば、炭素数18〜24のアルキルカルボキシベタイン、炭素数18〜24のアルキルスルホベタイン等が挙げられる。
【0046】
(A)成分となるノニオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数16〜24の脂肪酸グリセリンエステル、炭素数18〜24の脂肪酸ポリグリセリンエステル、ソルビタンアルキレンオキサイド付加物の炭素数18〜24のモノ脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0047】
これらの中では、アニオン性界面活性剤が好ましく、具体的には、ステアリン酸ナトリウム、ベヘニン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ベヘニン酸カリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、モノステアリルリン酸モノカリウム、ジステアリルリン酸モノカリウム、パーフルオロウンデシルカルボン酸アンモニウム、ステアリルアミン酢酸塩がより好ましく、ステアリン酸酸カリウム、オクタデシル硫酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0048】
なお、(A)成分は、用途に合わせて、単一種を用いても、また、複数種を混合して用いてもいずれでもよい。
【0049】
−(B)成分−
(B)成分は、臨界ミセル濃度(以下、「cmc」ともいう。)が5〜200mmol/Lである界面活性剤である。臨界ミセル濃度が5〜200mmol/Lである界面活性剤であれば、瞬時に気泡へ吸着するものと考えられ、暫定的な合一抑制等に寄与するものと考えられる。(B)成分は、暫定的な合一抑制等の観点から、臨界ミセル濃度が5〜150mmol/Lであるものが好ましく、5〜120mmol/Lであるものがより好ましく、5〜100mmol/Lであるものがさらに好ましい。
【0050】
ここで、臨界ミセル濃度とは、界面活性剤がミセルを形成する最低濃度のことである。臨界ミセル濃度は、蒸留水に界面活性剤の濃度を変化させた溶液を用意し、25℃、1気圧の条件で表面張力法において求めることができる。
【0051】
(B)成分は、高cmcを有し、暫定的な合一抑制等を行う観点から、炭素数6〜15のアルキル基又はアルケニル基を有することが好ましい。
【0052】
具体的には、(B)成分となるアニオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数6〜14のアルキル基を有する直鎖又は分岐の飽和脂肪酸塩、炭素数6〜14のアルケニル基を有する不飽和脂肪酸塩、炭素数6〜12の直鎖又は分岐アルキル硫酸エステル塩、炭素数6〜8の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数6〜10の分岐アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数6〜12の直鎖又は分岐のアルキルスルホン酸塩、炭素数6〜12のアルケニルスルホン酸塩、炭素数6〜12のモノアルキルリン酸塩、炭素数6〜12のモノアルケニルリン酸塩、炭素数6〜8のパーフルオロアルキルカルボン酸塩、炭素数6〜12のアルキルメチルタウリン酸塩、及びこれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0053】
(B)成分となるカチオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数6〜12の直鎖又は分岐のアルキルアミン塩、炭素数6〜12のアルキルエチレンジアミン塩、炭素数6〜12のアルキルトリメチルアンモニウム塩、炭素数6〜10のジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0054】
(B)成分となる両性界面活性剤としては、例えば、炭素数6〜10のアルキルカルボキシベタイン、炭素数6〜10のアルキルスルホベタイン、炭素数6〜10のアルキルアミドアミノ酸塩等が挙げられる。
【0055】
(B)成分となるノニオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数6〜8の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物、ソルビタンアルキレンオキサイド付加物の炭素数6〜10の脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0056】
これらの中では、高い臨界ミセル濃度を有し、暫定的な合一抑制等を行う観点から、アニオン性界面活性剤が好ましく、具体的には、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、モノラウリルリン酸モノカリウム、パーフルオロオクチルカルボン酸アンモニウム、ラウリルアミン酢酸塩がより好ましく、カプリン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0057】
なお、(B)成分は、用途に合わせて、単一種を用いても、また、複数種を混合して用いてもいずれでもよい。
【0058】
界面活性剤として(A)成分と(B)成分とを含有させる場合、(A)成分と(B)成分との質量比については、(A)/(B)=20/10〜1/10とすることが好ましく、気泡を高濃度化する観点から、(A)/(B)=15/10〜5/10とすることがより好ましい。
【0059】
また、液体中における(A)成分の量については、気泡を微細化及び高濃度化する観点から、0.001〜1質量%とすることが好ましく、0.01〜0.5質量%とすることがより好ましく、0.1〜0.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0060】
さらに、(A)成分及び(B)成分の種類は任意に組み合わせることが可能であるが、同種のイオン性界面活性剤を組み合わせる、或いは、イオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを組み合わせることが好ましい。
【0061】
液体には、界面活性剤の他、微細気泡を高濃度化するという効果を阻害しない範囲でアルコールやグリセリンなどの水溶性溶剤、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどの水溶性高分子等を含有させてもよい。
【0062】
液体の流量については、1〜10L/minとすることが好ましく、3〜8L/minとすることがより好ましい。
【0063】
液体の温度については、気泡を微細化する観点から、室温程度に設定することが好ましく、具体的には、5〜35℃に設定することが好ましく、10〜30℃に設定することがより好ましい。
【0064】
<液体への加圧気体の圧入>
液体への気体の圧入するに際し、多孔質膜に超音波振動を付与することが好ましい。このようにすれば、多孔質膜から気泡を早期に脱離させることができ、気泡のさらなる微細化を図ることができると推察される。その振動周波数について20〜200kHzとすることが好ましく、出力について20〜400Wとすることが好ましい。
【0065】
<微細気泡>
本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法によれば、微細気泡含有液体製造装置の液体流路に流路断面縮小部材を設けることにより、微細気泡を極めて高濃度に含有する液体を製造することができる。
【0066】
非特許文献1には、液体の流量を多くして流速を上げても微細気泡をさらに微細化することが期待できないことが開示されている。これは、液体の流速を上げると液体に加わる剪断力が高められると考えられるが、これが微細気泡のさらなる微細化に有効でないということを示すものである。しかしながら、本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法では、微細気泡含有液体製造装置の液体流路に流路断面縮小部材を設けることにより、多孔質膜と流路断面縮小部材との間の流体流路の狭い隙間を液体が流動することから、液体に加わる剪断力が高められると考えられるものの、微細気泡のさらなる微細化を図ることができる。また、液体の流量を多くする必要がないので、液体に微細気泡を高濃度に含有させることができる。
【0067】
具体的には、本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法によれば、5μm以下の平均気泡径を実現することができる。この平均気泡径は、液体成分及び液体への加圧気体の圧入手段等を適宜選択することによって制御可能であり、5μm未満であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。また、平均気泡径は、下限が特に限定されるものではないが、取り扱いの容易さの観点から、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。なお、平均気泡径は、個数基準におけるものであり、後述の実施例に記載された測定法により測定することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法によれば、1体積%以上の気泡濃度を実現することができる。この気泡濃度は加圧気体の圧力によって制御可能である。気泡濃度は、上限が特に限定されるものではないが、より微細な気泡を採取する観点から、20体積%以下であることが好ましい。
【0069】
さらに、本実施形態に係る微細気泡含有液体の製造方法によれば、1分以上の気泡寿命を実現することができる。この気泡寿命は、液体成分及び液体への加圧気体の圧入手段等を適宜選択することによって制御可能であり、1分以上であることが好ましく、3分以上であることがより好ましく、4分以上であることがさらに好ましい。なお、気泡寿命は、気泡由来の白濁が自然消失するに要する時間である。
【0070】
本実施形態に係る製造方法によって製造された微細気泡含有液体は、微細気泡を安定的に、しかも、極めて高濃度に含有するものであり、化粧品、農学、食品等の各種の用途に適用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例について説明する。
【0072】
(試験評価方法)
気泡径及び気泡濃度の評価を以下のようにして行った。
【0073】
<気泡径の評価>
製造した気泡含有液体を直接1L(リットル)ビーカーに採取し、以下の場合に分けて気泡径を評価した。
(1) 気泡含有液体の製造後、直ちに気泡が浮上(8cm/5秒)し、液相が透明になり気泡による白濁状態の得られないもの。
(2) 気泡含有液体の製造後、一旦は分散気泡による白濁液が得られるが、即座に白濁部分が浮上(8cm/3分以上)し、最終的に液相が透明になるもの。
(3) 気泡含有液体の製造後、分散気泡による白濁液が得られ、白濁部分の浮上が非常に遅い(8cm/3分以下)、或いは、浮上しないが気泡の顕微鏡観察が可能なもの。
【0074】
(1)の場合は浮上速度が非常に速いため、下記のストークスの式から100μm以上であることが明らかである。よって、(1)の場合の結果における気泡径は100μm以上と評価した。
ストークスの式(数1):
【0075】
【数1】

【0076】
〔式中、rは気泡半径[m]、Δρは空気と水の密度差(実質的に水の密度)[kg/m]、gは重力加速度[m/s]、ηは水の粘度[P・s]、vは気泡の浮上速度[m/s]である。〕
(2)の場合は8cm/3分の浮上速度をストークスの式から気泡径に換算した結果、25μm以上であることが分かる。よって、(2)の場合の結果における気泡径は25μm以上と評価した。
【0077】
(3)の場合は浮上が非常に遅いためにストークスの式を使用することが困難であったので、次の方法で気泡径を評価した。
【0078】
採取した気泡含有液体を2枚のスライドグラスで挟み込んで表面の泡沫を拭った後、このスライドグラスに挟まれた気泡含有液体の気泡を顕微鏡(キーエンス社製デジタルマイクロスコープ VHX−100)で撮影した。
【0079】
そして、顕微鏡付属のソフトウェアを用いて、撮影した観察視野(677μm×508μm)内の気泡の端から300個について各々の直径を測定し、それぞれ得られた値を平均して平均気泡径を算出した。なお、気泡含有液体の採取から気泡撮影までに要した時間は3分であった。
【0080】
<気泡濃度の評価>
液体密度を用いて気泡濃度を測定した。具体的には、1Lビーカー中に予め質量(蓋込み)を測定した空の9mLスクリュー管を3本入れておき、そこに気泡含有液体を採取した。次いで、各スクリュー管について、気泡含有組成物中で開口部を上向きにし、空気を抜いて気泡含有液体で満たし、気泡含有液体中で蓋で密封して引き出した。そして、スクリュー管表面をイオン交換水で洗浄し、表面の水を拭き取り、2時間放置して乾燥した後、各スクリュー管の質量を測定し、下記の式を使って体積%で表した気泡濃度とした。
【0081】
【数2】

【0082】
〔式中、Cは体積%で表した気泡濃度、wは測定した微細気法含有液体組成物の入ったスクリュー管の重量、wは空のスクリュー管の重量(蓋込み)、wは微細気泡を発生する前の液体で満たされたスクリュー管の重量である。〕
なお、上記<気泡径の評価>における(1)及び(2)の場合には、気泡濃度の評価中に気泡が浮上するため、(3)の場合のみについて、気泡濃度の評価を行った。
【0083】
(試験評価)
以下の実施例1〜3及び比較例1〜3の試験評価を行った。
【0084】
<実施例1>
図1〜3に示す微細気泡含有液体製造装置を用いた。多孔質膜として、ガラス製多孔質膜(SPGテクノ社製SPG膜:外径φ5mm、内径φ4mm、及び長さ125mm:平均細孔径0.08μm)を用い、流路断面縮小部材である中実円柱ロッド部材として、鉄芯(φ2mm)を用いた。従って、多孔質膜と流路断面縮小部材との間の流体流路の隙間は1mmであった。
【0085】
多孔質膜の外側の気体収容部に、ガス圧力2.74MPaのテトラフルオロメタンガスを供給した。一方、多孔質膜の内側の液体流路に、界面活性剤としてステアリン酸カリウム(クラフト点:55℃,cmc:測定不可)0.25質量%及びラウリン酸カリウム(クラフト点:0℃以下,cmc:26mmol/L)0.25質量%をそれぞれ含有する25℃のイオン交換水水溶液を3.4L/minの流量で流動させた。レギュレータを絞り2.74MPaで吐出した液体を1Lビーカーに採取したところ、気泡の浮上速度の遅い(8cm/3分以下)白濁した微細気泡含有液体が得られた。
【0086】
この微細気泡含有液体について、気泡径及び気泡濃度をそれぞれ評価したところ、平均気泡径が4.5μm及び気泡濃度が4.9体積%であった。
【0087】
なお、ステアリン酸カリウムについては、花王社製の商品名ルナックS−98と和光純薬社製の48mol/L水酸化カリウム溶液とを等モル中和したものを用いた。ステアリン酸カリウムのクラフト点は55℃、cmcは25℃でミセルを形成しなかったため測定できなかった。また、ラウリン酸カリウムについては、花王社製の商品名ルナックL−98と和光純薬社製48mol/L水酸化カリウムとを等モル中和したものを用いた。ラウリン酸カリウムのクラフト点は0℃以下、cmcは26mmol/Lであった。
【0088】
<実施例2>
ガス圧力を2.90MPaとしたことを除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、実施例1の場合と同様に気泡の浮上速度の遅い白濁した微細気泡含有液体が得られた。
【0089】
この微細気泡含有液体について、気泡径及び気泡濃度をそれぞれ評価したところ、平均気泡径が4.4μm及び気泡濃度が10.9体積%であった。
【0090】
実施例2では、実施例1と比較して、ガス圧力を上げることで、気体の圧入量が増加したため、その結果、気泡濃度がさらに高くなったものと考えられる。
【0091】
<実施例3>
ガス圧力を2.69MPaとし、水溶液の流量を7.1L/minとしたことを除いて実施例1と同様の操作を行ったところ、実施例1の場合と同様に気泡の浮上速度の遅い白濁した微細気泡含有液体が得られた。
【0092】
この微細気泡含有液体について、気泡径及び気泡濃度をそれぞれ評価したところ、平均気泡径が3.8μm及び気泡濃度が1.9体積%であった。
【0093】
実施例3では、実施例1及び2と比較して、ガス圧力を下げると共に流量を上げることで、液体に圧入される気泡量を少なくしたため、それによってさらに気泡成長や合一の抑制効果が得られ、その結果、実施例1及び2に比べて平均気泡径が小さくなったものと考えられる。
【0094】
<比較例1>
液体流路に界面活性剤を含有しないイオン交換水を流動させたことを除いて実施例3と同様の操作を行ったところ、採取直後に気泡が浮上する液体が得られた。従って、平均気泡径を100μm以上と評価した。
【0095】
<比較例2>
流体流路に流路断面縮小部材である中実円柱ロッド部材としての鉄芯を設けなかったことを除いて実施例3と同様の操作を行ったところ(なお、ガス圧力は2.78MPa、水溶液の流量は7.0L/min。)、気泡の浮上速度の遅い白濁した気泡含有液体が得られた。
【0096】
この気泡含有液体について、気泡径及び気泡濃度をそれぞれ評価したところ、平均気泡径が11.2μm及び気泡濃度が8.3体積%であった。
【0097】
比較例2では、流体流路に鉄芯を挿入していなかったため、実施例1〜3と比較して、多孔質膜から気泡を剥がすための剪断力が十分でなく、気泡が剥がれるまでに時間を要するために多孔質膜上で気泡が成長したものと考えられる。
【0098】
<比較例3>
水溶液の流量を11.0L/minとしたことを除いて比較例2と同様の操作を行ったところ(なお、ガス圧力は2.75MPa。)、気泡の浮上速度の遅い白濁した気泡含有液体が得られた。
【0099】
この気泡含有液体について、気泡径及び気泡濃度をそれぞれ評価したところ、平均気泡径が7.1μm及び気泡濃度が3.4体積%であった。
【0100】
比較例3では、比較例2と比較して、流量を上げることによって液体に作用する剪断力を高めているものの、それが十分ではなく、気泡が剥がれるまでに時間を要するために多孔質膜上で気泡が成長したものと考えられる。
【0101】
(試験評価結果について)
表1は、試験評価の結果を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
以上の結果から、実施例1〜3のように流体流路に鉄心を設けることにより、微細気泡を極めて高濃度に含有する液体を製造することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、微細気泡含有液体の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施形態に係る微細気泡含有液体製造装置を示す。
【図2】多孔質膜用モジュールの側面図である。
【図3】図2におけるIII-III断面図である。
【符号の説明】
【0106】
100 微細気泡含有液体製造装置
111 多孔質膜
115 中実円柱ロッド部材(流路断面縮小部材)
116 気体収容部
117 液体流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜と、該多孔質膜の一方側に設けられた気体収容部と、該多孔質膜の他方側に設けられた液体流路と、を備えた微細気泡含有液体製造装置を用い、該気体収容部に加圧気体を配すると共に、該液体流路に該多孔質膜に沿って界面活性剤を含有する液体を流動させることにより、その流動する液体に該多孔質膜を介して気体を圧入する微細気泡含有液体の製造方法であって、
上記液体流路に、その流路断面を縮小する流路断面縮小部材を設ける微細気泡含有液体の製造方法。
【請求項2】
上記微細気泡含有液体製造装置は、上記多孔質膜により管構造が形成されていると共に、該多孔質膜による管構造の外側が、上記気体収容部に、また、該多孔質膜による管構造の内側が、上記流路断面縮小部材が設けられた上記液体流路にそれぞれ構成されている請求項1に記載された微細気泡含有液体の製造方法。
【請求項3】
上記微細気泡含有液体製造装置は、上記流路断面縮小部材が上記液体流路に沿って延びるように形成された細長部材で構成されている請求項2に記載された微細気泡含有液体の製造方法。
【請求項4】
上記微細気泡含有液体製造装置は、上記液体流路の流路断面が円形に形成されており、上記細長部材の流路断面縮小部材が該液体流路の軸線位置に設けられている請求項3に記載された微細気泡含有液体の製造方法。
【請求項5】
上記液体中の界面活性剤として、クラフト点が40〜90℃である(A)成分と臨界ミセル濃度が5〜200mmol/Lである(B)成分とを含有させる請求項1乃至4のいずれかに記載された微細気泡含有液体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−56392(P2009−56392A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225903(P2007−225903)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】