微量毒物汚染監視方法及び装置
【課題】 微量毒物による被検水の汚染を容易且つ迅速に判定できるようにする。
【解決手段】 被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、この水棲生物の活動電位の変化に基づいて被検水の毒物による汚染の有無を監視するに際し、所定のサンプリング間隔で水棲生物の活動電位を所定時間サンプリングし、その所定時間における活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、このパワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求めた後、その両電力の総和比を求め、この総和比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定する。
【解決手段】 被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、この水棲生物の活動電位の変化に基づいて被検水の毒物による汚染の有無を監視するに際し、所定のサンプリング間隔で水棲生物の活動電位を所定時間サンプリングし、その所定時間における活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、このパワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求めた後、その両電力の総和比を求め、この総和比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の水棲生物の活動電位を計測して水の微量毒物汚染を監視する微量毒物汚染監視方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川、ダム、地下水、事業廃水、工場廃水などの毒物汚染を監視する毒物汚染監視技術として、河川、ダムなどの被検水を導入し排水する水槽の監視部にメダカなどの水棲生物を飼育しておき、その監視部に装備された一対の電極によって水棲生物の活動電位を計測し、その活動電位の変化に基づいて毒物汚染の有無を監視する方法がある(特許文献1)。この毒物汚染監視方法は、水槽内の水棲生物の活動による筋電位の変化を一対の電極により計測し、その筋電位の絶対値を単位時間で積算して活動量とし、この活動量と直前の一定回数の計測時の活動量との移動平均値を求め、その移動平均値が管理限界値を超えたときに水質異常と判定する方法を採っている。
【特許文献1】特開平11−125628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この毒物汚染監視方法は、所定時間にわたって水棲生物の筋電位を計測し、その筋電位を増幅器で増幅した後、水棲生物の筋肉活動に起因する0.2〜2Hzの周波数成分をフィルターにより選別し、A/D変換器でA/D変換したものを活動電位とし、この活動電位の絶対値を積算して活動量を求め、その移動平均値が管理限界値を超えるか否かにより、毒物汚染の有無を判定している。
【0004】
しかし、従来の監視方法は、基本的には水棲生物の活動電位の波高値の振幅計測による判定法であるため、毒物汚染の有無の判定が非常に難しく、微量毒物による汚染に対しては誤判定を招き易いという欠点がある。また筋電位の時間軸データはその波形が非常に複雑であるため、その電圧値をA/D変換をして使用するものの、その後の情報処理が煩雑であり、この点でも誤判定を招き易いという欠点がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、微量毒物による被検水の汚染を容易且つ迅速に判定できる微量毒物汚染監視方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求め、前記両電力の総和に基づいて汚染の有無を判定するものである。その際に、前記両電力の総和の比を求め、該総和の比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定してもよい。
【0007】
本発明の第2の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルのピーク値を求め、該ピーク値が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定するものである。
【0008】
本発明の第3の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を求め、該ピーク周波数が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定するものである。
【0009】
本発明の第4の方法は、第1の方法の前記総和の比、第2の方法の前記ピーク値及び第3の方法の前記ピーク周波数に基づいて汚染の可能性を複数段階の危険レベルとして判定するものである。
【0010】
本発明の装置は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視装置において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングするサンプリング手段と、前記所定時間の前記活動電位を高速フーリエ変換してパワースペクトルに変換する変換手段と、前記パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段と、前記パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段と、前記パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段と、前記総和の比、前記ピーク値、前記ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微量毒物による被検水の汚染を容易且つ迅速に判定でき、従来のような誤判定を未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図面は本発明の一実施例を例示する。微量毒物汚染監視用の水槽1は、図3、図4に示すように矩形状の内部が流入部2、整流部3、給餌部4、分配部5、第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8、排水部9に区画され、流入部2から排水部9へと水槽1内を被検水が矢印方向に通水するようになっている。
【0013】
流入部2、整流部3、給餌部4は水槽1の上流側に横方向に配置され、その流入部2に、水槽1内へと被検水が流入する流入管10が設けられ、この流入管10から流入した被検水は、流入部2から整流部3を経て給餌部4へと流れる。給餌部4には給餌器11が設けられている。
【0014】
分配部5は上流側に、排水部9は下流側に夫々横方向に配置され、その分配部5と排水部9との間に、水棲生物、例えばメダカを飼育する第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8が横方向に配置されている。そして、給餌部4からの被検水は、分配部5で第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8に夫々分配され、その監視部6,7、予備飼育部8を通過した後、排水部9の排水管11aを経て外部に排出されるようになっている。排水管11aは監視部6,7、予備飼育部8に夫々対応して設けられている。
【0015】
監視部6,7、予備飼育部8は、隔壁12により互いに区画されると共に、餌等が通過しメダカが通過しない程度の編み目、孔等を有する仕切り板13,14により分配部5、排水部9と区画されている。監視部6,7には、例えば13匹、25匹程度の多数(複数)のメダカが飼育されている。予備飼育部8には予備用のメダカが飼育されている。
【0016】
監視部6,7には、被検水の流れ方向の両端部、即ち上流側(流入口側)と下流側(流出口側)との端部に一対の電極13a,14aが相対向して平行に配置されている。各電極13a,14aにはメダカの活動電位の観測に適した材料、例えば白金酸化物をコーティングした金属板が使用されており、仕切り板13,14を兼用するようになっている。電極13a,14aは仕切り板13,14と別に設けてもよい。また一対の電極13a,14aは平行に配置することが望ましい。更に電極13a,14aは白金酸化物製でもよい。
【0017】
監視部6,7には、メダカが下流側で被検水の流れに逆らう方向に遊泳するように、一対の電極13a,14a間に複数のポール等の突起15が設けられている。これは、メダカの身体の方向が一対の電極13a,14a間の方向と同じになった場合に、その筋電位の計測効率が最もよくなるためである。
【0018】
なお、監視部6,7には、被検水の流れ方向と略直交する方向の両側に別の一対の電極を設ける等、一対の電極間を結ぶ方向が異なるように、複数組の電極を異なる方向に配置してもよい。また水槽1は、静電気の影響を防ぐために金属製接地板16の上に配置されている。監視部6,7の一方は省略してもよい。
【0019】
微量毒物汚染監視装置は、図1に示すように水槽1の他に、各監視部6,7で飼育される所定数のメダカの活動電位を所定のサンプリング間隔で一定時間サンプリングするサンプリング手段17と、所定時間の活動電位を高速フーリエ変換等により周波数に対する電力密度分布であるパワースペクトル(図2参照)に変換する変換手段18と、パワースペクトルの山の両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)を設定する周波数設定手段19と、周波数設定手段19で設定されたパワースペクトルの山の両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)のうち、その低い周波数f1(Hz)までの周波数帯域における各周波数毎の電力の総和と低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数帯域における各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段20と、パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段21と、パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段22と、活動電位の振幅の最大値が基準値A0を超えたとき、総和の比、ピーク値、ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段23と、判定手段23の判定結果を出力し報知する報知手段24とを備え、メダカの活動電位の変化に基づいて被検水の微量毒物による汚染の有無を監視するようになっている。
【0020】
なお、微量毒物汚染監視装置の水槽1等を除く主要部分は、CPU、ROM、RAM等により構成されるか、又はパーソナルコンピュータ等により構成されている。
【0021】
サンプリング手段17は監視部6,7の一対の電極13a,14aに接続され、所定の監視時刻毎に、所定のサンプリング間隔Δtで一定時間Tにわたって電極13a,14a間のメダカの活動電位をサンプリングして記録するようになっている。なお、サンプリング手段17は、サンプリングした活動電位の電圧信号を増幅する機能を備えている。
【0022】
変換手段18は高速フーリエ変換部25とパワースペクトル変換部26とを備え、高速フーリエ変換部25で所定時間Tにおける活動電位を高速フーリエ変換アルゴリズムにより周波数スペクトルに変換し、次いでパワースペクトル変換部26でその周波数スペクトル値を2乗し1/2を掛けて、周波数スペクトルを図2に示すパワースペクトルに変換するようになっている。
【0023】
周波数設定手段19は、平常時のパワースペクトルの山の両側の谷に対応して所定の周波数f1(Hz),f2(Hz)を任意に設定可能である。平常時のパワースペクトルをみた場合、メダカの呼吸運動及び胸鰭などによる姿勢制御のための筋肉活動に由来するピークがある。従って、ピークの両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)のうち、低い方の周波数をf1(Hz)、高い方の周波数をf2(Hz)として、周波数設定手段19により設定する。
【0024】
なお、平常時のメダカの活動電位を長時間観測した場合、パワースペクトルのピークは日周変化するため、パワースペクトルを求める都度、新たに周波数f1(Hz),f2(Hz)を設定し直す必要があるが、平常時の実測結果から、その周波数に大きな変化がない場合にはそれらの平均値に固定してもよい。
【0025】
電力比演算手段20は総和電力演算部27と電力比演算部28とを備えている。総和電力演算部27は周波数設定手段19で設定された両周波数f1,f2のうち、0(Hz)から低い周波数f1(Hz)までの周波数範囲における各周波数毎の電力を総和した総和電力P1と、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数帯域における各周波数の電力を総和した総和電力P2とを夫々演算するようになっている。電力比演算部28は、総和電力演算部27で演算された両総和電力P1,P2の比である電力比(P2/P1)を演算するようになっている。
【0026】
ピーク値演算手段21は周波数設定手段19で設定された0(Hz)から低い周波数f1(Hz)まで、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの各周波数範囲において、パワースペクトルのピーク値D1,D2を演算するようになっている。なお、ピーク値D2のみでもよい。ピーク周波数演算手段22は周波数設定手段19で設定された0(Hz)から低い周波数f1(Hz)まで、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの各周波数帯域においてパワースペクトルがピークになる周波数(ピーク値D1,D2を示すピーク周波数)F1,F2を演算するようになっている。なお、ピーク周波数F2のみでもよい。
【0027】
判定手段23は振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32、総合判定部33を備えている。振幅判定部29は、サンプリング手段17でサンプリングされた活動電位の振幅の最大値を基準値A0と比較して、振幅の最大値が基準値A0を超えたときに毒物汚染の可能性ありと判定し、また最大値が基準値A0に対して急激に大きくなったときに「毒物混入等の異常事態」と判定するようになっている。なお、メダカの活動電位の平均振幅は日周変動するため、所定時間毎(例えば1 時間)に活動電位の最大値を記録し、その最大値を基準値A0として設定することが望ましい。
【0028】
ピーク値判定部31はピーク値演算手段21で演算されたピーク値がそれ以前の平常値よりも増大したときに「毒物汚染の可能性あり」と判定するようになっている。ピーク周波数判定部32はピーク周波数演算部で演算されたピーク周波数がそれ以前のピーク周波数(平常値)よりも増大したときに「毒物汚染の可能性あり」と判定するようになっている。総合判定部33は振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32の判定結果を総合的に判断して、毒物汚染の可能性を数段階の危険レベルとして判定するようになっている。
【0029】
報知手段24はモニタ等から成り、判定手段23の振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32、総合判定部33の各判定結果を画像等により表示するようになっている。例えば報知手段24は、活動電位の振幅の基準値A0及びその判定結果(異常時の電圧振幅の倍率)、電力比P2/P1の平常値及びその判定結果(異常時の電力比P2/P1の値の倍率)、パワースペクトルのピーク値の平常値及びその判定結果(異常時のピーク値の倍率)、パワースペクトルのピーク周波数の平常値及びその判定結果(異常時のピーク周波数の値の倍率)、更にはそれらを総合的に判断した段階的な総合判定結果等をモニタに表示するようになっている。なお、報知手段24には、判定結果を視覚的に報知するモニタ等の視覚的報知手段の他、聴覚的に報知する聴覚的報知手段を採用してもよい。
【0030】
次に図5のフローチャートを参照しながら、被検水の監視方法を説明する。監視中は、サンプリング手段17により所定の監視時刻毎に所定のサンプリング間隔Δtで所定時間Tにわたって電極13a,14a間のメダカの活動電位をサンプリングする(ステップS1)。サンプリングは、例えば一定時間Tにサンプリング間隔0.01秒で8192点(T=81.92秒間)行う。
【0031】
そして、サンプリング手段17がメダカの活動電位をサンプリングすると、判定手段23の振幅判定部29が活動電位の振幅の大小により毒物汚染の有無を判定する。メダカの活動電位は、後述のように毒物汚染の有無によって振幅が変化する。そこで、判定手段23の振幅判定部29により、サンプリングされたメダカの活動電位の振幅の最大値Aを求めて基準値A0と比較し(ステップS2)、最大値Aが基準値A0を超えれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS3)、報知手段24によりそれを報知する。
【0032】
一方、これに並行して変換手段18の高速フーリエ変換部25、パワースペクトル変換部26を経て、サンプリングされたメダカの活動電位をパワースペクトルに変換する(ステップS4)。先ず高速フーリエ変換部25にて一定時間におけるメダカの活動電位を高速フーリエ変換アルゴリズムにより変換して周波数スペクトルに変換し、次いでその周波数スペクトルをパワースペクトル変換部26にてパワースペクトルに変換する(周波数スペクトル値を2乗して1/2を掛ける)。
【0033】
続いて電力比演算手段20の総和電力演算部27、電力比演算部28を経て、総和電力P1,P2及びその電力比(P2/P1)を演算する(ステップS5,S6)。即ち、総和電力演算部27により、0(Hz)から低い周波数f1(Hz)までの周波数範囲の総和電力P1と、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数範囲の総和電力P2とを演算し、電力比演算部28によりその両総和電力P1,P2の電力比P2/P1を演算する。
【0034】
そして、電力比P2/P1が求まると、判定手段23の電力比判定部30により、その電力比P2/P1の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS7)。即ち、毒物汚染があれば、後述のように電力比P2/P1が増大するため、判定手段23の電力比判定部30により、現在の電力比P2/P1をそれ以前のものと比較して、現在の電力比P2/P1が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS8)、報知手段24によりそれを報知する。
【0035】
またピーク値演算手段21により0(Hz)から周波数f1(Hz)まで、周波数f1(Hz)から周波数f2(Hz)までの各周波数範囲におけるパワースペクトルのピーク値D1,D2を演算する(ステップS9)。そして、ピーク値D1,D2が求まると、判定手段23のピーク値判定部31によりそのピーク値D2の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS10)。毒物汚染があれば、後述のようにピーク値D2が増大するため、判定手段23のピーク値判定部31により、現在のピーク値D2をそれ以前のものと比較し、現在のピーク値D2が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS11)、報知手段24によりそれを報知する。
【0036】
更にピーク周波数演算手段22により0(Hz)から周波数f1(Hz)まで、周波数f1(Hz)から周波数f2(Hz)までの各周波数範囲においてパワースペクトルがピークになるピーク周波数F1,F2を演算する(ステップS12)。そして、ピーク周波数F2が求まると、判定手段23のピーク周波数判定部32がそのピーク周波数F2の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS13)。毒物汚染があれば、後述のようにピーク周波数F2が増大するため、判定手段23のピーク周波数判定部32により、現在のピーク周波数F2をそれ以前のものと比較し、現在のピーク周波数F2が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS14)、報知手段24によりそれを報知する。
【0037】
判定手段23は、その振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32で個々の判定を行うと共に、最大振幅値、電力比、ピーク値、ピーク周波数を総合的に判断して、「毒物汚染の可能性」を数段階の危険レベルとして判定する。そして、その総合的判定の判定結果を報知手段24により報知する。
【0038】
なお、活動電位の振幅の最大値A、電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2は、順次記憶手段により記憶して、データベースを作成する。そして、判定手段23の各判定部で現在値と比較する際に、それ以前の比較基準値等として活用する。
【0039】
このように本発明は、水槽1内で飼育される所定数のメダカ(例えば20匹から30匹程度)から発生する活動電位の電圧振幅だけではなく、その活動電位のパワースペクトルを計測することにより、毒物汚染に対するメダカの生理反応と活動電位及びパワースペクトルの関連性から毒物汚染を検出するものである。
【0040】
水槽1内でメダカを飼育する場合、メダカからその筋肉活動に由来する活動電位が発生する。即ち、メダカの遊泳運動、摂食や呼吸に伴う顎や鰓蓋の開閉などはすべて筋肉の働きによるものであり、その筋肉には骨や鰭を動かす骨格筋、内臓諸器官の構成要素となっている内蔵筋、及び心臓の壁を構成する心筋に大別される。そして、活動電位は、その骨格筋の活動によって発生する電位である。
【0041】
筋肉を随意筋と不随意筋に分類すると、骨格筋は随意筋、内臓筋は不随意筋である。心筋は形態的には骨格筋であるが、機能的には自立神経系の支配を受ける不随意筋であるとされる。この分類に従うと、顎や鰓蓋の筋肉は随意筋であるが、これらは常時呼吸に伴う不随意的な運動をしている。また常時姿勢を保つために胸鰭を動かしていることから、この運動も不随意的な運動と考えられる。
【0042】
毒物汚染に対するメダカの生理反応と活動電位及びパワースペクトルの関連性には、次のようなものがある。
【0043】
関連性I:毒物濃度が十分高い場合は、メダカの活動電位は異常に大きくなる。
【0044】
関連性II:毒物濃度がそれほど高くない場合は、メダカの活動電位はあまり大きく変 化しないが、呼吸に伴う口及び鰓蓋の開閉運動が速くなり、その開閉運動に対応 するパワースペクトルのピーク周波数は高くなる。
【0045】
関連性III :毒物汚染により随意的な運動(遊泳運動)は不活発になり、不随意的な 運動(呼吸に伴う口や鰓蓋の運動、胸鰭による姿勢制御)が主になる。
<関連性Iについて>
関連性Iはメダカの狂奔行動によるものである。毒物の濃度が高いとメダカは狂奔行動を取るが、濃度が比較的低い場合は狂奔行動は見られない。例えば、毒物がKCN(シアン化カリウム)の場合のメダカの活動電位を図6に示す。図6の(a)〜(e)は、KCN濃度が1ppm、0.5ppm、0.1ppm、0.05ppm、2.0ppmの場合であり、水流のある水槽1内にt=0.5minでKCNを投入している。(a)〜(e)の何れにおいても、活動電位の最大値に大きな変化はない。なお、(d)のt=0.5min付近で電圧振幅が±1.5 Vまで振れているが、これは外部からのノイズである。KCN濃度が2ppmの(e)では、t=4min付近で電圧振幅が±5 Vまで振れている。これは大きなメダカの狂奔行動によるものである。
【0046】
従って、毒物濃度が高い場合(例えば2ppm以上などの場合)には、このような狂奔行動による電圧振幅の増大が頻繁に発生するため、その電圧振幅の最大値により「毒物汚染の可能性あり」、「毒物混入等の異常事態」と判定することができる。しかし、活動電位は、平常時でも電極13a,14a付近にメダカが集まったり、急に泳ぎだしたりした場合などに大きくなることがある。また低濃度の毒物汚染では狂奔行動が見られず、活動電位の振幅自体はほとんど変化しないこともある。
<関連性II及びIII について>
水流のない水槽1、水流のある水槽1、KCN濃度1ppmが投入された水流のある水槽1内で夫々メダカが遊泳する場合の各活動電位を比較すると、次のようになる。
【0047】
図7は水流のない水槽1内で遊泳するメダカ(13匹)から発生する電圧信号(約5万倍に増幅)を示し、図8はそのパワースペクトルを示す。図7では約3.2Hzの周期的な波形が見られるが、これは呼吸に伴う顎や鰓蓋の運動及び姿勢を保つ胸鰭の運動(不随意的運動)による活動電位である。図8のパワースペクトルから基本周波数である3.2Hzと高調波成分である6.4Hzに電力が集中していることが判る。
【0048】
水流がなく静かな水中では、メダカの運動は極めて緩慢であるが、口と鰓蓋は呼吸のために規則的に運動し、また胸鰭も姿勢制御のために規則的に運動している。このため水槽1内には13匹のメダカがいるが、その活動電位は1匹の場合とよく似た波形となっている。パワースペクトルのピーク値は約3Hzの周波数に見られるが、これは1秒間に約3回の繰返し速度で口と鰓蓋及び胸鰭が動いているためである。
【0049】
図9は水流のある水槽1内で遊泳するメダカ(25匹) から発生する電圧信号を示し、図10はそのパワースペクトル(黒太線は周波数幅0.1Hz毎に平均したパワースペクトル)を示す。この図9、図10では、メダカの呼吸や姿勢制御(不随意的運動)による活動電位は約4Hzの周波数成分が主であり、そのほかに遊泳運動(随意的運動)による不規則な活動電位が重畳されている。
【0050】
水流が激しい場合は、メダカは水流に流されずに泳ぐために、その運動は激しくなる。このとき25匹のメダカはばらばらに水流に逆らって泳いでいるため、その活動電位の波形の周期性はかなり乱れており、またパワースペクトルも0Hzから10Hzに分散している。しかし、平均を取ると、4Hz付近にピーク値が見られる。これは激しい運動に伴い、呼吸や胸鰭の動きが速くなったからと考えられる。
【0051】
図11はメダカ(25匹) が遊泳する水流のある水槽1にKCN(濃度1ppm)を加えた場合の電圧信号を示し、図12はそのパワースペクトルを示す。水槽1の流水にKCNを加えると、図11、図12に示すようにメダカの活動電位が規則的になる。そして、呼吸や姿勢制御による活動電位の周波数は約5.8Hzに上昇しており、電力密度もKCNを加える前よりも増大している。
【0052】
水流が激しい水槽1内にKCNを投入すると、メダカの活動電位の波形とパワースペクトルの分布が図5と図6に示すように変化し、水流が激しいにも拘わらず、活動電位は再び周期的になり、パワースペクトルも5.6Hz付近に電力が集中する。パワースペクトルの形状は、水流がない場合の形状によく似ており、この現象はKCN濃度が1ppm以下であっても同様である。
【0053】
本発明は、このように毒物汚染があった場合に電力が集中する現象を利用して、毒物汚染の有無を判定するものである。即ち、毒物投入前の平常時には、図10に示すように、4Hzにパワースペクトルのピークがあり、そのピークの両側では2.5Hz付近及び7.5Hz付近に谷がある。一方、毒物が投入された場合は、図12に示すように、パワースペクトルのピークは6Hz付近に移動する。しかし、2.5Hz付近と7.5Hz付近に毒物投入前と同様に谷がある。そして、2.5Hz以下の総和電力と2.5Hzから7.5Hzまでの総和電力とを比較すると、毒物投入前と投入後では総和電力の割合が急変する。従って、この電力比の変化から毒物汚染を判定することができる。
【0054】
関連性II及びIII は、この測定結果からも判る。即ち、図9と図11との活動電位の電圧幅を比較すると、図9の電圧幅は3V、図11の電圧幅は3.5Vであり、KCN濃度が1ppm以下での電圧振幅には毒物汚染による影響は見られない。しかし、図10と図12とのパワースペクトルを比較すると、鰓蓋の開閉運動に対応する周波数は図10では約4Hz、図12では約5.8Hzであり、ピーク周波数に変化が見られる。
【0055】
毒物の影響が、活動電位のパワースペクトルに現れる様子を濃度の異なるKCN水溶液で調べると、次のとおりである。KCN濃度は2ppm、1ppm、0.5ppm、0.1ppm、0.05ppmの5 種類であり、水温は27°C、水流は少し強めであるが、メダカが流されない程度の強さである。各濃度でメダカの数は25匹であり、その大きさは大小さまざまである。水槽1の大きさは幅100mm、長さ245mm、水深123mm、水量3000ml(井戸水)、水流1.5l/minである。
【0056】
メダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数を次のように定める。まず、活動電位をサンプリング間隔0.01秒で8192点(81.92秒間)サンプリングする。サンプリングで得られた時間信号から高速フーリエ変換アルゴリズムで周波数スペクトルを得た後、その周波数スペクトルをパワースペクトルに変換する。そして、パワースペクトルの0.0Hzから2.5Hzまで、2.5Hzから7.5Hzまでの各周波数帯域別の総和電力P1,P2を求め、それらの電力比P2/P1を演算する。また0.0Hzから2.5Hzまで、2.5Hzから7.5Hzまでの各周波数帯域別のパワースペクトルのピーク周波数F1,F2を求める。
【0057】
周波数帯域別の総和電力P1,P2、電力比P2/P1、ピーク周波数F1,F2の時間変化とKCN濃度の関係を図13、図14に示す。図14はKCN水溶液中のメダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数を示し、図13はKCN水溶液中のメダカの活動電位の周波数帯域別の電力の電力比を示す。なお、図13、図14において、KCNの投入時刻は0分であり、約82秒ごとに求めた値がプロットされている(フーリエ変換は観測時間81.92秒毎に行うため)。
【0058】
KCNが加えられると、図13及び図14に示すように、周波数帯域別の電力比P2/P1が上昇することが判る。特にKCN濃度が0.5ppm以上の場合は電力比P2/P1の上昇が顕著に見られる。ただし、2ppmの場合は濃度が濃すぎて、メダカの活動がすぐに低下するようである。0.5ppm以下の濃度では、時間の経過に伴い電力比P2/P1の上昇が認められるが、それは緩やかである。活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数F2も、KCNが加えられると、直ちに上昇することが判る。
【0059】
活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数とパワースペクトルのピーク値は、次のようになる。即ち、前述のように活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数F2は、KCNが加えられたときに上昇するが、図15ないし図19から判るように最大電力周波数F2におけるパワースペクトル値そのものもKCNが加えられると上昇する。
【0060】
図15の(a1)〜(a4)は濃度1ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(a1)はKCN投入前(即ち、平常状態)の11分間のメダカのパワースペクトルであるが、11分間を8区間(1区間の長さは81.92秒)に分割して、夫々の区間でパワースペクトルを求め、それを重ねて表示している。(a2)はKCN投入後11分間、(a3)はKCN投入後11〜22分間、(a4)はKCN投入後22〜33分間のパワースペクトルを同様に重ねて表示している。
【0061】
KCN投入前の11分間の時点では、水槽1内の水は水流ポンプで撹拌され、その水流に逆らって大小25匹のメダカが泳ぎまわっている。従って、パワースペクトルは略一定の周波数にピークを持っており、ピーク値もわずかに変動する程度である。これは、81.92秒間というかなり長い時間の電圧データをフーリエ変換しているため、電圧信号の周波数成分が平均化されているからである。
【0062】
毒が投入される(KCN濃度=1ppm)と、4Hz付近にあったパワースペクトルのピーク値は5.8Hz付近に移動している。これは、図15の(a1)と(a2)との比較、又は図14(b)のKCN濃度=1ppmでt=0の前後でピーク値(破線)が4Hzから5.8Hzに急変していることから判る。
【0063】
またパワースペクトルのピーク値は0.025から0.075へと3倍の値に増大している。このときのピーク周波数F2は呼吸に伴う口及び鰓蓋の開閉運動が発生する筋電位の周波数と考えられる。t=0以前では11分間も安定していたこの周波数F2が、t=0(毒物投入)以後、急変することは毒物投入などという異常事態が引き起こしたと判断して妥当だといえる。
【0064】
図16の(b1)〜(b5)は濃度0.5ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(b1)は平常時の11分間、(b2)はKCN投入の直後から約11分間、(b3)はKCN投入後から約11〜22分間、(b4)はKCN投入後から約22〜33分間、(b5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0065】
(b1)では4.8Hzにピークがあるが、このピークは(b2)では5.2Hzに移動している。パワースペクトルのピーク値は0.014から0.019に(平均的に)増大している。更に(b3)ではピークの周波数は5.2Hzのままであるが、ピーク値は0.02に増大し、(b4)ではピーク周波数が5.8Hz、ピーク値は0.23へ、(b5)ではピーク周波数は5.0Hz、ピーク値は0.024へと変化している。図14(c)からは低周波側(F1付近)のピーク値周辺の総和電力P1と周波数F2にあるピーク値周辺の総和電力P2との電力比P2/P1(太い破線)がt=0以後時間の経過とともに増大していることが判る。このように電力比P2/P1が時間に比例して変化するということは、毒物の影響によってメダカの口や鰓蓋の動きが徐々に速く激しくなっていったことを示している。
【0066】
図17の(c1)〜(c5)は濃度0.1ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(c1)は平常時の11分間、(c2)はKCN投入の直後から約11分間、(c3)はKCN投入後から約11〜22分間、(c4)はKCN投入後から約22〜33分間、(c5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0067】
KCNの投入前と投入後で5Hz付近に見えるパワースペクトルのピークは、周波数はあまり変わらないが、ピーク値が0.016から0.017、0.022、0.21、0.019と変化している。KCNの投入前には(c1)から判るように5Hzにおけるピーク値は11分間観測してもせいぜい0.016程度だったものが、KCNの投入後は約30分間にわたり約0.02(平常時のピーク値の約1.2倍)に増大している。
【0068】
図18の(d1)〜(d5)は濃度0.05ppm(今回の観測で最小濃度)のKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(d1)は平常時の11分間、(d2)はKCN投入の直後から約11分間、(d3)はKCN投入後から約11〜22分間、(d4)はKCN投入後から約22〜33分間、(d5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0069】
KCNの投入前後でパワースペクトルに変化は認められない。図13に示す電力比P2/P1は、t=0以降わずかに上昇しているようにも見えるが、明確な上昇とはいえない。従って、今回の実験からは、KCN濃度が0.1ppm以上であればパワースペクトルのピーク値の周波数F2の変化、ピーク値D2の変化、更に電力比P2/P1の変化からKCNの混入を判定できるといえる。
【0070】
図14の(e1)〜(e5)は濃度2ppm(今回の観測で最高濃度)のKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(e1)は平常時の11分間、(e2)はKCN投入の直後から約11分間、(e3)はKCN投入後から約11〜22分間、(e4)はKCN投入後から約22〜33分間、(e5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0071】
パワースペクトルのピーク値の周波数F2はKCNの投入前後で4.6Hz付近を上下しているが、ピーク値は毒物の投入前は0.013、投入直後の11分間は0.022(平常時の1.7倍)、投入後11分から22分の間は0.018(1.38倍)、投入後22分から33分の間は0.022(1.7倍)と変化している。この場合にはKCN濃度が高濃度すぎて、メダカがKCNの投入後すぐに狂奔行動を起こし弱ってしまった。(E2)は毒物投入直後の11分間のパワースペクトルであるが、図15から図18と違って、パワースペクトルの周波数分布が11分間で複雑に変化したため、きれいに重なったパワースペクトルの山が見られない。これは、極めて不自然な狂奔行動により周波数成分も乱れたためである。
【0072】
図20はKCN濃度毎におけるKCNの投入前後の各時間のパワースペクトルのピーク値とその周波数を示す。図15〜図19及び図20から、KCNを加えると、2.5Hzから7.5Hzの周波数帯域のパワースペクトルのピーク値が上昇し、そのピーク値を与える周波数も一般に上昇することが判る。なお、パワースペクトルのピーク値の上昇は、KCNの投入直後直ちに現れ、0.1ppmという低濃度の場合でさえ、投入後11分から22分の間に1.4倍に増大している。
【0073】
このようにしてメダカの活動電位の時間データをサンプリングした後、先ず活動電位の振幅を基準値A0と比較して、基準値A0を超えておれば「毒物混入の惧れあり」と判定する。なお、メダカが毒物以外のものの影響で行動が激しいだけである場合もある。次にパワースペクトルから電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2を以前のもの(平常値)と比較して、電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2が増大しておれば「毒物混入の惧れあり」と判定する。
【0074】
報知手段24のモニタには、活動電位の基準値A0及び異常時の電圧振幅の倍率、電力比P2/P1の平常値及び異常時の値の倍率、ピーク値の平常値及び異常時の値の倍率、ピーク周波数の平常値及び異常時の周波数の変化幅を夫々表示する。これらの判定用変数の値がどの程度であれば「毒物混入」と判定するかは、平常時のデータに基づき、判定用変数の統計データを参考にして決めればよい。例えば倍率をカラー表示して、倍率が低いときは青色だが、倍率が高いと赤色で危険とする。警報を鳴らすレベルは、対象とする被検水の用途その他の条件に応じて適宜設定すればよい。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、水棲生物としてメダカを例示しているが、その生理反応により活動電位を発生するものであれば、メダカ以外の魚類、貝類、蟹類、けら類その他を利用してもよい。またパワースペクトルの周波数帯域別の総電力P1,P2を求めた後、その電力比P2/P1の変化から毒物混入の有無を判定するのが望ましいが、両総電力P1,P2を加算して、その変化から毒物混入の有無を判定してもよい。
【0076】
両総電力P1,P2を加算してその加算電力値を平常時の電力値と比較し、加算電力値が平常時の電力値と略同程度か否かにより、加算電力値が平常時よりも低いときに、「メダカの活動が静かすぎるので、異常かも知れない」とし、加算電力値が平常時よりも高いときに、「メダカの活動が活発すぎるので、異常かも知れない」と判断することも可能である。
【0077】
水槽1の飼育部は1個でもよい。水槽1内には被検水の流れ方向に配置される一対の電極13a,14aに加えて、被検水の流れ方向と交差する方向の両側、例えば被検水の流れを挟んでその左右方向に相対向し、又は上下方向に相対向するように配置してもよい。なお、上下両側に電極13a,14aを配置する場合には、上側の電極13a,14aは被検水の水面近傍に水没するように配置することが望ましい。また水槽1の対角線方向の両側に電極13a,14aを配置してもよい。一対の電極13a,14aは略平行に配置することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】微量毒物汚染監視装置ブロック図である。
【図2】活動電位のパワースペクトルの説明図である。
【図3】水槽の平面図である。
【図4】水槽の断面図である。
【図5】微量毒物汚染監視のフローチャートである。
【図6】毒物を投入したときの活動電位の波形図である。
【図7】水流のない水槽でのメダカの活動電位の波形図である。
【図8】水流のない水槽でのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図9】水流のある水槽でのメダカの活動電位の波形図である。
【図10】水流のある水槽でのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図11】水流のある水槽にKCNを投入したときのメダカの活動電位の波形図である。
【図12】水流のある水槽にKCNを投入したときのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図13】KCNを投入したときのメダカの活動電位の周波数帯域別の電力の電力比を示す図である。
【図14】KCNを投入したときのメダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数とを示す図である。
【図15】KCN1ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図16】KCN0.5ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図17】KCN0.1ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図18】KCN0.05ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図19】KCN2ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図20】KCN投入前後のパワースペクトルのピーク値とピーク周波数との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 水槽
6 第1監視部
7 第2監視部
13a,14a 電極
17 サンプリング手段
18 変換手段
19 周波数設定手段
20 電力比演算手段
21 ピーク値演算手段
22 ピーク周波数演算手段
23 判定手段
24 報知手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の水棲生物の活動電位を計測して水の微量毒物汚染を監視する微量毒物汚染監視方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川、ダム、地下水、事業廃水、工場廃水などの毒物汚染を監視する毒物汚染監視技術として、河川、ダムなどの被検水を導入し排水する水槽の監視部にメダカなどの水棲生物を飼育しておき、その監視部に装備された一対の電極によって水棲生物の活動電位を計測し、その活動電位の変化に基づいて毒物汚染の有無を監視する方法がある(特許文献1)。この毒物汚染監視方法は、水槽内の水棲生物の活動による筋電位の変化を一対の電極により計測し、その筋電位の絶対値を単位時間で積算して活動量とし、この活動量と直前の一定回数の計測時の活動量との移動平均値を求め、その移動平均値が管理限界値を超えたときに水質異常と判定する方法を採っている。
【特許文献1】特開平11−125628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この毒物汚染監視方法は、所定時間にわたって水棲生物の筋電位を計測し、その筋電位を増幅器で増幅した後、水棲生物の筋肉活動に起因する0.2〜2Hzの周波数成分をフィルターにより選別し、A/D変換器でA/D変換したものを活動電位とし、この活動電位の絶対値を積算して活動量を求め、その移動平均値が管理限界値を超えるか否かにより、毒物汚染の有無を判定している。
【0004】
しかし、従来の監視方法は、基本的には水棲生物の活動電位の波高値の振幅計測による判定法であるため、毒物汚染の有無の判定が非常に難しく、微量毒物による汚染に対しては誤判定を招き易いという欠点がある。また筋電位の時間軸データはその波形が非常に複雑であるため、その電圧値をA/D変換をして使用するものの、その後の情報処理が煩雑であり、この点でも誤判定を招き易いという欠点がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、微量毒物による被検水の汚染を容易且つ迅速に判定できる微量毒物汚染監視方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求め、前記両電力の総和に基づいて汚染の有無を判定するものである。その際に、前記両電力の総和の比を求め、該総和の比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定してもよい。
【0007】
本発明の第2の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルのピーク値を求め、該ピーク値が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定するものである。
【0008】
本発明の第3の方法は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を求め、該ピーク周波数が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定するものである。
【0009】
本発明の第4の方法は、第1の方法の前記総和の比、第2の方法の前記ピーク値及び第3の方法の前記ピーク周波数に基づいて汚染の可能性を複数段階の危険レベルとして判定するものである。
【0010】
本発明の装置は、被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視装置において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングするサンプリング手段と、前記所定時間の前記活動電位を高速フーリエ変換してパワースペクトルに変換する変換手段と、前記パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段と、前記パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段と、前記パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段と、前記総和の比、前記ピーク値、前記ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微量毒物による被検水の汚染を容易且つ迅速に判定でき、従来のような誤判定を未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図面は本発明の一実施例を例示する。微量毒物汚染監視用の水槽1は、図3、図4に示すように矩形状の内部が流入部2、整流部3、給餌部4、分配部5、第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8、排水部9に区画され、流入部2から排水部9へと水槽1内を被検水が矢印方向に通水するようになっている。
【0013】
流入部2、整流部3、給餌部4は水槽1の上流側に横方向に配置され、その流入部2に、水槽1内へと被検水が流入する流入管10が設けられ、この流入管10から流入した被検水は、流入部2から整流部3を経て給餌部4へと流れる。給餌部4には給餌器11が設けられている。
【0014】
分配部5は上流側に、排水部9は下流側に夫々横方向に配置され、その分配部5と排水部9との間に、水棲生物、例えばメダカを飼育する第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8が横方向に配置されている。そして、給餌部4からの被検水は、分配部5で第1監視部6、第2監視部7、予備飼育部8に夫々分配され、その監視部6,7、予備飼育部8を通過した後、排水部9の排水管11aを経て外部に排出されるようになっている。排水管11aは監視部6,7、予備飼育部8に夫々対応して設けられている。
【0015】
監視部6,7、予備飼育部8は、隔壁12により互いに区画されると共に、餌等が通過しメダカが通過しない程度の編み目、孔等を有する仕切り板13,14により分配部5、排水部9と区画されている。監視部6,7には、例えば13匹、25匹程度の多数(複数)のメダカが飼育されている。予備飼育部8には予備用のメダカが飼育されている。
【0016】
監視部6,7には、被検水の流れ方向の両端部、即ち上流側(流入口側)と下流側(流出口側)との端部に一対の電極13a,14aが相対向して平行に配置されている。各電極13a,14aにはメダカの活動電位の観測に適した材料、例えば白金酸化物をコーティングした金属板が使用されており、仕切り板13,14を兼用するようになっている。電極13a,14aは仕切り板13,14と別に設けてもよい。また一対の電極13a,14aは平行に配置することが望ましい。更に電極13a,14aは白金酸化物製でもよい。
【0017】
監視部6,7には、メダカが下流側で被検水の流れに逆らう方向に遊泳するように、一対の電極13a,14a間に複数のポール等の突起15が設けられている。これは、メダカの身体の方向が一対の電極13a,14a間の方向と同じになった場合に、その筋電位の計測効率が最もよくなるためである。
【0018】
なお、監視部6,7には、被検水の流れ方向と略直交する方向の両側に別の一対の電極を設ける等、一対の電極間を結ぶ方向が異なるように、複数組の電極を異なる方向に配置してもよい。また水槽1は、静電気の影響を防ぐために金属製接地板16の上に配置されている。監視部6,7の一方は省略してもよい。
【0019】
微量毒物汚染監視装置は、図1に示すように水槽1の他に、各監視部6,7で飼育される所定数のメダカの活動電位を所定のサンプリング間隔で一定時間サンプリングするサンプリング手段17と、所定時間の活動電位を高速フーリエ変換等により周波数に対する電力密度分布であるパワースペクトル(図2参照)に変換する変換手段18と、パワースペクトルの山の両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)を設定する周波数設定手段19と、周波数設定手段19で設定されたパワースペクトルの山の両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)のうち、その低い周波数f1(Hz)までの周波数帯域における各周波数毎の電力の総和と低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数帯域における各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段20と、パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段21と、パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段22と、活動電位の振幅の最大値が基準値A0を超えたとき、総和の比、ピーク値、ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段23と、判定手段23の判定結果を出力し報知する報知手段24とを備え、メダカの活動電位の変化に基づいて被検水の微量毒物による汚染の有無を監視するようになっている。
【0020】
なお、微量毒物汚染監視装置の水槽1等を除く主要部分は、CPU、ROM、RAM等により構成されるか、又はパーソナルコンピュータ等により構成されている。
【0021】
サンプリング手段17は監視部6,7の一対の電極13a,14aに接続され、所定の監視時刻毎に、所定のサンプリング間隔Δtで一定時間Tにわたって電極13a,14a間のメダカの活動電位をサンプリングして記録するようになっている。なお、サンプリング手段17は、サンプリングした活動電位の電圧信号を増幅する機能を備えている。
【0022】
変換手段18は高速フーリエ変換部25とパワースペクトル変換部26とを備え、高速フーリエ変換部25で所定時間Tにおける活動電位を高速フーリエ変換アルゴリズムにより周波数スペクトルに変換し、次いでパワースペクトル変換部26でその周波数スペクトル値を2乗し1/2を掛けて、周波数スペクトルを図2に示すパワースペクトルに変換するようになっている。
【0023】
周波数設定手段19は、平常時のパワースペクトルの山の両側の谷に対応して所定の周波数f1(Hz),f2(Hz)を任意に設定可能である。平常時のパワースペクトルをみた場合、メダカの呼吸運動及び胸鰭などによる姿勢制御のための筋肉活動に由来するピークがある。従って、ピークの両側の谷の周波数f1(Hz),f2(Hz)のうち、低い方の周波数をf1(Hz)、高い方の周波数をf2(Hz)として、周波数設定手段19により設定する。
【0024】
なお、平常時のメダカの活動電位を長時間観測した場合、パワースペクトルのピークは日周変化するため、パワースペクトルを求める都度、新たに周波数f1(Hz),f2(Hz)を設定し直す必要があるが、平常時の実測結果から、その周波数に大きな変化がない場合にはそれらの平均値に固定してもよい。
【0025】
電力比演算手段20は総和電力演算部27と電力比演算部28とを備えている。総和電力演算部27は周波数設定手段19で設定された両周波数f1,f2のうち、0(Hz)から低い周波数f1(Hz)までの周波数範囲における各周波数毎の電力を総和した総和電力P1と、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数帯域における各周波数の電力を総和した総和電力P2とを夫々演算するようになっている。電力比演算部28は、総和電力演算部27で演算された両総和電力P1,P2の比である電力比(P2/P1)を演算するようになっている。
【0026】
ピーク値演算手段21は周波数設定手段19で設定された0(Hz)から低い周波数f1(Hz)まで、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの各周波数範囲において、パワースペクトルのピーク値D1,D2を演算するようになっている。なお、ピーク値D2のみでもよい。ピーク周波数演算手段22は周波数設定手段19で設定された0(Hz)から低い周波数f1(Hz)まで、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの各周波数帯域においてパワースペクトルがピークになる周波数(ピーク値D1,D2を示すピーク周波数)F1,F2を演算するようになっている。なお、ピーク周波数F2のみでもよい。
【0027】
判定手段23は振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32、総合判定部33を備えている。振幅判定部29は、サンプリング手段17でサンプリングされた活動電位の振幅の最大値を基準値A0と比較して、振幅の最大値が基準値A0を超えたときに毒物汚染の可能性ありと判定し、また最大値が基準値A0に対して急激に大きくなったときに「毒物混入等の異常事態」と判定するようになっている。なお、メダカの活動電位の平均振幅は日周変動するため、所定時間毎(例えば1 時間)に活動電位の最大値を記録し、その最大値を基準値A0として設定することが望ましい。
【0028】
ピーク値判定部31はピーク値演算手段21で演算されたピーク値がそれ以前の平常値よりも増大したときに「毒物汚染の可能性あり」と判定するようになっている。ピーク周波数判定部32はピーク周波数演算部で演算されたピーク周波数がそれ以前のピーク周波数(平常値)よりも増大したときに「毒物汚染の可能性あり」と判定するようになっている。総合判定部33は振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32の判定結果を総合的に判断して、毒物汚染の可能性を数段階の危険レベルとして判定するようになっている。
【0029】
報知手段24はモニタ等から成り、判定手段23の振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32、総合判定部33の各判定結果を画像等により表示するようになっている。例えば報知手段24は、活動電位の振幅の基準値A0及びその判定結果(異常時の電圧振幅の倍率)、電力比P2/P1の平常値及びその判定結果(異常時の電力比P2/P1の値の倍率)、パワースペクトルのピーク値の平常値及びその判定結果(異常時のピーク値の倍率)、パワースペクトルのピーク周波数の平常値及びその判定結果(異常時のピーク周波数の値の倍率)、更にはそれらを総合的に判断した段階的な総合判定結果等をモニタに表示するようになっている。なお、報知手段24には、判定結果を視覚的に報知するモニタ等の視覚的報知手段の他、聴覚的に報知する聴覚的報知手段を採用してもよい。
【0030】
次に図5のフローチャートを参照しながら、被検水の監視方法を説明する。監視中は、サンプリング手段17により所定の監視時刻毎に所定のサンプリング間隔Δtで所定時間Tにわたって電極13a,14a間のメダカの活動電位をサンプリングする(ステップS1)。サンプリングは、例えば一定時間Tにサンプリング間隔0.01秒で8192点(T=81.92秒間)行う。
【0031】
そして、サンプリング手段17がメダカの活動電位をサンプリングすると、判定手段23の振幅判定部29が活動電位の振幅の大小により毒物汚染の有無を判定する。メダカの活動電位は、後述のように毒物汚染の有無によって振幅が変化する。そこで、判定手段23の振幅判定部29により、サンプリングされたメダカの活動電位の振幅の最大値Aを求めて基準値A0と比較し(ステップS2)、最大値Aが基準値A0を超えれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS3)、報知手段24によりそれを報知する。
【0032】
一方、これに並行して変換手段18の高速フーリエ変換部25、パワースペクトル変換部26を経て、サンプリングされたメダカの活動電位をパワースペクトルに変換する(ステップS4)。先ず高速フーリエ変換部25にて一定時間におけるメダカの活動電位を高速フーリエ変換アルゴリズムにより変換して周波数スペクトルに変換し、次いでその周波数スペクトルをパワースペクトル変換部26にてパワースペクトルに変換する(周波数スペクトル値を2乗して1/2を掛ける)。
【0033】
続いて電力比演算手段20の総和電力演算部27、電力比演算部28を経て、総和電力P1,P2及びその電力比(P2/P1)を演算する(ステップS5,S6)。即ち、総和電力演算部27により、0(Hz)から低い周波数f1(Hz)までの周波数範囲の総和電力P1と、低い周波数f1(Hz)から高い周波数f2(Hz)までの周波数範囲の総和電力P2とを演算し、電力比演算部28によりその両総和電力P1,P2の電力比P2/P1を演算する。
【0034】
そして、電力比P2/P1が求まると、判定手段23の電力比判定部30により、その電力比P2/P1の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS7)。即ち、毒物汚染があれば、後述のように電力比P2/P1が増大するため、判定手段23の電力比判定部30により、現在の電力比P2/P1をそれ以前のものと比較して、現在の電力比P2/P1が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS8)、報知手段24によりそれを報知する。
【0035】
またピーク値演算手段21により0(Hz)から周波数f1(Hz)まで、周波数f1(Hz)から周波数f2(Hz)までの各周波数範囲におけるパワースペクトルのピーク値D1,D2を演算する(ステップS9)。そして、ピーク値D1,D2が求まると、判定手段23のピーク値判定部31によりそのピーク値D2の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS10)。毒物汚染があれば、後述のようにピーク値D2が増大するため、判定手段23のピーク値判定部31により、現在のピーク値D2をそれ以前のものと比較し、現在のピーク値D2が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS11)、報知手段24によりそれを報知する。
【0036】
更にピーク周波数演算手段22により0(Hz)から周波数f1(Hz)まで、周波数f1(Hz)から周波数f2(Hz)までの各周波数範囲においてパワースペクトルがピークになるピーク周波数F1,F2を演算する(ステップS12)。そして、ピーク周波数F2が求まると、判定手段23のピーク周波数判定部32がそのピーク周波数F2の変化により毒物汚染の有無を判定する(ステップS13)。毒物汚染があれば、後述のようにピーク周波数F2が増大するため、判定手段23のピーク周波数判定部32により、現在のピーク周波数F2をそれ以前のものと比較し、現在のピーク周波数F2が以前よりも増大しておれば「毒物汚染の可能性あり」と判定して(ステップS14)、報知手段24によりそれを報知する。
【0037】
判定手段23は、その振幅判定部29、電力比判定部30、ピーク値判定部31、ピーク周波数判定部32で個々の判定を行うと共に、最大振幅値、電力比、ピーク値、ピーク周波数を総合的に判断して、「毒物汚染の可能性」を数段階の危険レベルとして判定する。そして、その総合的判定の判定結果を報知手段24により報知する。
【0038】
なお、活動電位の振幅の最大値A、電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2は、順次記憶手段により記憶して、データベースを作成する。そして、判定手段23の各判定部で現在値と比較する際に、それ以前の比較基準値等として活用する。
【0039】
このように本発明は、水槽1内で飼育される所定数のメダカ(例えば20匹から30匹程度)から発生する活動電位の電圧振幅だけではなく、その活動電位のパワースペクトルを計測することにより、毒物汚染に対するメダカの生理反応と活動電位及びパワースペクトルの関連性から毒物汚染を検出するものである。
【0040】
水槽1内でメダカを飼育する場合、メダカからその筋肉活動に由来する活動電位が発生する。即ち、メダカの遊泳運動、摂食や呼吸に伴う顎や鰓蓋の開閉などはすべて筋肉の働きによるものであり、その筋肉には骨や鰭を動かす骨格筋、内臓諸器官の構成要素となっている内蔵筋、及び心臓の壁を構成する心筋に大別される。そして、活動電位は、その骨格筋の活動によって発生する電位である。
【0041】
筋肉を随意筋と不随意筋に分類すると、骨格筋は随意筋、内臓筋は不随意筋である。心筋は形態的には骨格筋であるが、機能的には自立神経系の支配を受ける不随意筋であるとされる。この分類に従うと、顎や鰓蓋の筋肉は随意筋であるが、これらは常時呼吸に伴う不随意的な運動をしている。また常時姿勢を保つために胸鰭を動かしていることから、この運動も不随意的な運動と考えられる。
【0042】
毒物汚染に対するメダカの生理反応と活動電位及びパワースペクトルの関連性には、次のようなものがある。
【0043】
関連性I:毒物濃度が十分高い場合は、メダカの活動電位は異常に大きくなる。
【0044】
関連性II:毒物濃度がそれほど高くない場合は、メダカの活動電位はあまり大きく変 化しないが、呼吸に伴う口及び鰓蓋の開閉運動が速くなり、その開閉運動に対応 するパワースペクトルのピーク周波数は高くなる。
【0045】
関連性III :毒物汚染により随意的な運動(遊泳運動)は不活発になり、不随意的な 運動(呼吸に伴う口や鰓蓋の運動、胸鰭による姿勢制御)が主になる。
<関連性Iについて>
関連性Iはメダカの狂奔行動によるものである。毒物の濃度が高いとメダカは狂奔行動を取るが、濃度が比較的低い場合は狂奔行動は見られない。例えば、毒物がKCN(シアン化カリウム)の場合のメダカの活動電位を図6に示す。図6の(a)〜(e)は、KCN濃度が1ppm、0.5ppm、0.1ppm、0.05ppm、2.0ppmの場合であり、水流のある水槽1内にt=0.5minでKCNを投入している。(a)〜(e)の何れにおいても、活動電位の最大値に大きな変化はない。なお、(d)のt=0.5min付近で電圧振幅が±1.5 Vまで振れているが、これは外部からのノイズである。KCN濃度が2ppmの(e)では、t=4min付近で電圧振幅が±5 Vまで振れている。これは大きなメダカの狂奔行動によるものである。
【0046】
従って、毒物濃度が高い場合(例えば2ppm以上などの場合)には、このような狂奔行動による電圧振幅の増大が頻繁に発生するため、その電圧振幅の最大値により「毒物汚染の可能性あり」、「毒物混入等の異常事態」と判定することができる。しかし、活動電位は、平常時でも電極13a,14a付近にメダカが集まったり、急に泳ぎだしたりした場合などに大きくなることがある。また低濃度の毒物汚染では狂奔行動が見られず、活動電位の振幅自体はほとんど変化しないこともある。
<関連性II及びIII について>
水流のない水槽1、水流のある水槽1、KCN濃度1ppmが投入された水流のある水槽1内で夫々メダカが遊泳する場合の各活動電位を比較すると、次のようになる。
【0047】
図7は水流のない水槽1内で遊泳するメダカ(13匹)から発生する電圧信号(約5万倍に増幅)を示し、図8はそのパワースペクトルを示す。図7では約3.2Hzの周期的な波形が見られるが、これは呼吸に伴う顎や鰓蓋の運動及び姿勢を保つ胸鰭の運動(不随意的運動)による活動電位である。図8のパワースペクトルから基本周波数である3.2Hzと高調波成分である6.4Hzに電力が集中していることが判る。
【0048】
水流がなく静かな水中では、メダカの運動は極めて緩慢であるが、口と鰓蓋は呼吸のために規則的に運動し、また胸鰭も姿勢制御のために規則的に運動している。このため水槽1内には13匹のメダカがいるが、その活動電位は1匹の場合とよく似た波形となっている。パワースペクトルのピーク値は約3Hzの周波数に見られるが、これは1秒間に約3回の繰返し速度で口と鰓蓋及び胸鰭が動いているためである。
【0049】
図9は水流のある水槽1内で遊泳するメダカ(25匹) から発生する電圧信号を示し、図10はそのパワースペクトル(黒太線は周波数幅0.1Hz毎に平均したパワースペクトル)を示す。この図9、図10では、メダカの呼吸や姿勢制御(不随意的運動)による活動電位は約4Hzの周波数成分が主であり、そのほかに遊泳運動(随意的運動)による不規則な活動電位が重畳されている。
【0050】
水流が激しい場合は、メダカは水流に流されずに泳ぐために、その運動は激しくなる。このとき25匹のメダカはばらばらに水流に逆らって泳いでいるため、その活動電位の波形の周期性はかなり乱れており、またパワースペクトルも0Hzから10Hzに分散している。しかし、平均を取ると、4Hz付近にピーク値が見られる。これは激しい運動に伴い、呼吸や胸鰭の動きが速くなったからと考えられる。
【0051】
図11はメダカ(25匹) が遊泳する水流のある水槽1にKCN(濃度1ppm)を加えた場合の電圧信号を示し、図12はそのパワースペクトルを示す。水槽1の流水にKCNを加えると、図11、図12に示すようにメダカの活動電位が規則的になる。そして、呼吸や姿勢制御による活動電位の周波数は約5.8Hzに上昇しており、電力密度もKCNを加える前よりも増大している。
【0052】
水流が激しい水槽1内にKCNを投入すると、メダカの活動電位の波形とパワースペクトルの分布が図5と図6に示すように変化し、水流が激しいにも拘わらず、活動電位は再び周期的になり、パワースペクトルも5.6Hz付近に電力が集中する。パワースペクトルの形状は、水流がない場合の形状によく似ており、この現象はKCN濃度が1ppm以下であっても同様である。
【0053】
本発明は、このように毒物汚染があった場合に電力が集中する現象を利用して、毒物汚染の有無を判定するものである。即ち、毒物投入前の平常時には、図10に示すように、4Hzにパワースペクトルのピークがあり、そのピークの両側では2.5Hz付近及び7.5Hz付近に谷がある。一方、毒物が投入された場合は、図12に示すように、パワースペクトルのピークは6Hz付近に移動する。しかし、2.5Hz付近と7.5Hz付近に毒物投入前と同様に谷がある。そして、2.5Hz以下の総和電力と2.5Hzから7.5Hzまでの総和電力とを比較すると、毒物投入前と投入後では総和電力の割合が急変する。従って、この電力比の変化から毒物汚染を判定することができる。
【0054】
関連性II及びIII は、この測定結果からも判る。即ち、図9と図11との活動電位の電圧幅を比較すると、図9の電圧幅は3V、図11の電圧幅は3.5Vであり、KCN濃度が1ppm以下での電圧振幅には毒物汚染による影響は見られない。しかし、図10と図12とのパワースペクトルを比較すると、鰓蓋の開閉運動に対応する周波数は図10では約4Hz、図12では約5.8Hzであり、ピーク周波数に変化が見られる。
【0055】
毒物の影響が、活動電位のパワースペクトルに現れる様子を濃度の異なるKCN水溶液で調べると、次のとおりである。KCN濃度は2ppm、1ppm、0.5ppm、0.1ppm、0.05ppmの5 種類であり、水温は27°C、水流は少し強めであるが、メダカが流されない程度の強さである。各濃度でメダカの数は25匹であり、その大きさは大小さまざまである。水槽1の大きさは幅100mm、長さ245mm、水深123mm、水量3000ml(井戸水)、水流1.5l/minである。
【0056】
メダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数を次のように定める。まず、活動電位をサンプリング間隔0.01秒で8192点(81.92秒間)サンプリングする。サンプリングで得られた時間信号から高速フーリエ変換アルゴリズムで周波数スペクトルを得た後、その周波数スペクトルをパワースペクトルに変換する。そして、パワースペクトルの0.0Hzから2.5Hzまで、2.5Hzから7.5Hzまでの各周波数帯域別の総和電力P1,P2を求め、それらの電力比P2/P1を演算する。また0.0Hzから2.5Hzまで、2.5Hzから7.5Hzまでの各周波数帯域別のパワースペクトルのピーク周波数F1,F2を求める。
【0057】
周波数帯域別の総和電力P1,P2、電力比P2/P1、ピーク周波数F1,F2の時間変化とKCN濃度の関係を図13、図14に示す。図14はKCN水溶液中のメダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数を示し、図13はKCN水溶液中のメダカの活動電位の周波数帯域別の電力の電力比を示す。なお、図13、図14において、KCNの投入時刻は0分であり、約82秒ごとに求めた値がプロットされている(フーリエ変換は観測時間81.92秒毎に行うため)。
【0058】
KCNが加えられると、図13及び図14に示すように、周波数帯域別の電力比P2/P1が上昇することが判る。特にKCN濃度が0.5ppm以上の場合は電力比P2/P1の上昇が顕著に見られる。ただし、2ppmの場合は濃度が濃すぎて、メダカの活動がすぐに低下するようである。0.5ppm以下の濃度では、時間の経過に伴い電力比P2/P1の上昇が認められるが、それは緩やかである。活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数F2も、KCNが加えられると、直ちに上昇することが判る。
【0059】
活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数とパワースペクトルのピーク値は、次のようになる。即ち、前述のように活動電位の周波数帯域別の最大電力周波数F2は、KCNが加えられたときに上昇するが、図15ないし図19から判るように最大電力周波数F2におけるパワースペクトル値そのものもKCNが加えられると上昇する。
【0060】
図15の(a1)〜(a4)は濃度1ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(a1)はKCN投入前(即ち、平常状態)の11分間のメダカのパワースペクトルであるが、11分間を8区間(1区間の長さは81.92秒)に分割して、夫々の区間でパワースペクトルを求め、それを重ねて表示している。(a2)はKCN投入後11分間、(a3)はKCN投入後11〜22分間、(a4)はKCN投入後22〜33分間のパワースペクトルを同様に重ねて表示している。
【0061】
KCN投入前の11分間の時点では、水槽1内の水は水流ポンプで撹拌され、その水流に逆らって大小25匹のメダカが泳ぎまわっている。従って、パワースペクトルは略一定の周波数にピークを持っており、ピーク値もわずかに変動する程度である。これは、81.92秒間というかなり長い時間の電圧データをフーリエ変換しているため、電圧信号の周波数成分が平均化されているからである。
【0062】
毒が投入される(KCN濃度=1ppm)と、4Hz付近にあったパワースペクトルのピーク値は5.8Hz付近に移動している。これは、図15の(a1)と(a2)との比較、又は図14(b)のKCN濃度=1ppmでt=0の前後でピーク値(破線)が4Hzから5.8Hzに急変していることから判る。
【0063】
またパワースペクトルのピーク値は0.025から0.075へと3倍の値に増大している。このときのピーク周波数F2は呼吸に伴う口及び鰓蓋の開閉運動が発生する筋電位の周波数と考えられる。t=0以前では11分間も安定していたこの周波数F2が、t=0(毒物投入)以後、急変することは毒物投入などという異常事態が引き起こしたと判断して妥当だといえる。
【0064】
図16の(b1)〜(b5)は濃度0.5ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(b1)は平常時の11分間、(b2)はKCN投入の直後から約11分間、(b3)はKCN投入後から約11〜22分間、(b4)はKCN投入後から約22〜33分間、(b5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0065】
(b1)では4.8Hzにピークがあるが、このピークは(b2)では5.2Hzに移動している。パワースペクトルのピーク値は0.014から0.019に(平均的に)増大している。更に(b3)ではピークの周波数は5.2Hzのままであるが、ピーク値は0.02に増大し、(b4)ではピーク周波数が5.8Hz、ピーク値は0.23へ、(b5)ではピーク周波数は5.0Hz、ピーク値は0.024へと変化している。図14(c)からは低周波側(F1付近)のピーク値周辺の総和電力P1と周波数F2にあるピーク値周辺の総和電力P2との電力比P2/P1(太い破線)がt=0以後時間の経過とともに増大していることが判る。このように電力比P2/P1が時間に比例して変化するということは、毒物の影響によってメダカの口や鰓蓋の動きが徐々に速く激しくなっていったことを示している。
【0066】
図17の(c1)〜(c5)は濃度0.1ppmのKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(c1)は平常時の11分間、(c2)はKCN投入の直後から約11分間、(c3)はKCN投入後から約11〜22分間、(c4)はKCN投入後から約22〜33分間、(c5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0067】
KCNの投入前と投入後で5Hz付近に見えるパワースペクトルのピークは、周波数はあまり変わらないが、ピーク値が0.016から0.017、0.022、0.21、0.019と変化している。KCNの投入前には(c1)から判るように5Hzにおけるピーク値は11分間観測してもせいぜい0.016程度だったものが、KCNの投入後は約30分間にわたり約0.02(平常時のピーク値の約1.2倍)に増大している。
【0068】
図18の(d1)〜(d5)は濃度0.05ppm(今回の観測で最小濃度)のKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(d1)は平常時の11分間、(d2)はKCN投入の直後から約11分間、(d3)はKCN投入後から約11〜22分間、(d4)はKCN投入後から約22〜33分間、(d5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0069】
KCNの投入前後でパワースペクトルに変化は認められない。図13に示す電力比P2/P1は、t=0以降わずかに上昇しているようにも見えるが、明確な上昇とはいえない。従って、今回の実験からは、KCN濃度が0.1ppm以上であればパワースペクトルのピーク値の周波数F2の変化、ピーク値D2の変化、更に電力比P2/P1の変化からKCNの混入を判定できるといえる。
【0070】
図14の(e1)〜(e5)は濃度2ppm(今回の観測で最高濃度)のKCNを投入する前後のパワースペクトルを示す。(e1)は平常時の11分間、(e2)はKCN投入の直後から約11分間、(e3)はKCN投入後から約11〜22分間、(e4)はKCN投入後から約22〜33分間、(e5)はKCN投入後から約33〜44分間分のパワースペクトルであり、同様に重ね書きしている。
【0071】
パワースペクトルのピーク値の周波数F2はKCNの投入前後で4.6Hz付近を上下しているが、ピーク値は毒物の投入前は0.013、投入直後の11分間は0.022(平常時の1.7倍)、投入後11分から22分の間は0.018(1.38倍)、投入後22分から33分の間は0.022(1.7倍)と変化している。この場合にはKCN濃度が高濃度すぎて、メダカがKCNの投入後すぐに狂奔行動を起こし弱ってしまった。(E2)は毒物投入直後の11分間のパワースペクトルであるが、図15から図18と違って、パワースペクトルの周波数分布が11分間で複雑に変化したため、きれいに重なったパワースペクトルの山が見られない。これは、極めて不自然な狂奔行動により周波数成分も乱れたためである。
【0072】
図20はKCN濃度毎におけるKCNの投入前後の各時間のパワースペクトルのピーク値とその周波数を示す。図15〜図19及び図20から、KCNを加えると、2.5Hzから7.5Hzの周波数帯域のパワースペクトルのピーク値が上昇し、そのピーク値を与える周波数も一般に上昇することが判る。なお、パワースペクトルのピーク値の上昇は、KCNの投入直後直ちに現れ、0.1ppmという低濃度の場合でさえ、投入後11分から22分の間に1.4倍に増大している。
【0073】
このようにしてメダカの活動電位の時間データをサンプリングした後、先ず活動電位の振幅を基準値A0と比較して、基準値A0を超えておれば「毒物混入の惧れあり」と判定する。なお、メダカが毒物以外のものの影響で行動が激しいだけである場合もある。次にパワースペクトルから電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2を以前のもの(平常値)と比較して、電力比P2/P1、ピーク値D2、ピーク周波数F2が増大しておれば「毒物混入の惧れあり」と判定する。
【0074】
報知手段24のモニタには、活動電位の基準値A0及び異常時の電圧振幅の倍率、電力比P2/P1の平常値及び異常時の値の倍率、ピーク値の平常値及び異常時の値の倍率、ピーク周波数の平常値及び異常時の周波数の変化幅を夫々表示する。これらの判定用変数の値がどの程度であれば「毒物混入」と判定するかは、平常時のデータに基づき、判定用変数の統計データを参考にして決めればよい。例えば倍率をカラー表示して、倍率が低いときは青色だが、倍率が高いと赤色で危険とする。警報を鳴らすレベルは、対象とする被検水の用途その他の条件に応じて適宜設定すればよい。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、水棲生物としてメダカを例示しているが、その生理反応により活動電位を発生するものであれば、メダカ以外の魚類、貝類、蟹類、けら類その他を利用してもよい。またパワースペクトルの周波数帯域別の総電力P1,P2を求めた後、その電力比P2/P1の変化から毒物混入の有無を判定するのが望ましいが、両総電力P1,P2を加算して、その変化から毒物混入の有無を判定してもよい。
【0076】
両総電力P1,P2を加算してその加算電力値を平常時の電力値と比較し、加算電力値が平常時の電力値と略同程度か否かにより、加算電力値が平常時よりも低いときに、「メダカの活動が静かすぎるので、異常かも知れない」とし、加算電力値が平常時よりも高いときに、「メダカの活動が活発すぎるので、異常かも知れない」と判断することも可能である。
【0077】
水槽1の飼育部は1個でもよい。水槽1内には被検水の流れ方向に配置される一対の電極13a,14aに加えて、被検水の流れ方向と交差する方向の両側、例えば被検水の流れを挟んでその左右方向に相対向し、又は上下方向に相対向するように配置してもよい。なお、上下両側に電極13a,14aを配置する場合には、上側の電極13a,14aは被検水の水面近傍に水没するように配置することが望ましい。また水槽1の対角線方向の両側に電極13a,14aを配置してもよい。一対の電極13a,14aは略平行に配置することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】微量毒物汚染監視装置ブロック図である。
【図2】活動電位のパワースペクトルの説明図である。
【図3】水槽の平面図である。
【図4】水槽の断面図である。
【図5】微量毒物汚染監視のフローチャートである。
【図6】毒物を投入したときの活動電位の波形図である。
【図7】水流のない水槽でのメダカの活動電位の波形図である。
【図8】水流のない水槽でのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図9】水流のある水槽でのメダカの活動電位の波形図である。
【図10】水流のある水槽でのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図11】水流のある水槽にKCNを投入したときのメダカの活動電位の波形図である。
【図12】水流のある水槽にKCNを投入したときのメダカの活動電位のパワースペクトル図である。
【図13】KCNを投入したときのメダカの活動電位の周波数帯域別の電力の電力比を示す図である。
【図14】KCNを投入したときのメダカの活動電位の周波数帯域別の電力と最大電力周波数とを示す図である。
【図15】KCN1ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図16】KCN0.5ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図17】KCN0.1ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図18】KCN0.05ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図19】KCN2ppmの場合のパワースペクトル図である。
【図20】KCN投入前後のパワースペクトルのピーク値とピーク周波数との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 水槽
6 第1監視部
7 第2監視部
13a,14a 電極
17 サンプリング手段
18 変換手段
19 周波数設定手段
20 電力比演算手段
21 ピーク値演算手段
22 ピーク周波数演算手段
23 判定手段
24 報知手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求め、前記両電力の総和に基づいて汚染の有無を判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項2】
前記両電力の総和の比を求め、該総和の比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする請求項1に記載の微量毒物汚染監視方法。
【請求項3】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルのピーク値を求め、該ピーク値が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項4】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を求め、該ピーク周波数が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項5】
請求項1に記載の前記総和の比、請求項2に記載の前記ピーク値及び請求項4に記載の前記ピーク周波数に基づいて汚染の可能性を複数段階の危険レベルとして判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項6】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視装置において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングするサンプリング手段と、前記所定時間の前記活動電位を高速フーリエ変換してパワースペクトルに変換する変換手段と、前記パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段と、前記パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段と、前記パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段と、前記総和の比、前記ピーク値、前記ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段とを備えたことを特徴とする微量毒物汚染監視装置。
【請求項1】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と、低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和とを求め、前記両電力の総和に基づいて汚染の有無を判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項2】
前記両電力の総和の比を求め、該総和の比が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする請求項1に記載の微量毒物汚染監視方法。
【請求項3】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルのピーク値を求め、該ピーク値が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項4】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視方法において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングし、該所定時間における前記活動電位を高速フーリエ変換してからパワースペクトルに変換し、該パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を求め、該ピーク周波数が以前よりも増大したときに汚染の可能性ありと判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項5】
請求項1に記載の前記総和の比、請求項2に記載の前記ピーク値及び請求項4に記載の前記ピーク周波数に基づいて汚染の可能性を複数段階の危険レベルとして判定することを特徴とする微量毒物汚染監視方法。
【請求項6】
被検水が通過する水槽内で水棲生物を飼育しておき、該水棲生物の活動電位の変化に基づいて前記被検水の毒物による汚染の有無を監視する毒物監視装置において、所定のサンプリング間隔で前記水棲生物の前記活動電位を所定時間サンプリングするサンプリング手段と、前記所定時間の前記活動電位を高速フーリエ変換してパワースペクトルに変換する変換手段と、前記パワースペクトルの山の両側の谷の周波数のうち、その低い周波数までの各周波数毎の電力の総和と低い周波数から高い周波数までの各周波数の電力の総和との比を演算する電力比演算手段と、前記パワースペクトルのピーク値を演算するピーク値演算手段と、前記パワースペクトルがピーク値となるピーク周波数を演算するピーク周波数演算手段と、前記総和の比、前記ピーク値、前記ピーク周波数が増大したときに汚染の可能性ありと判定する判定手段とを備えたことを特徴とする微量毒物汚染監視装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−163162(P2007−163162A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356364(P2005−356364)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(592126681)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(592126681)
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