説明

心臓刺激装置システム

【課題】心臓に穿刺せずに、電極を確実に心臓の表面に留置することができる心臓刺激装置システムを提供する。
【解決手段】心嚢膜Pc上に留置される電極10を備える心臓刺激装置システム1は、心臓Htと心嚢膜Pcとの間に介装される先端部21を有する土台用処置具2と、先端に電極が着脱可能に取り付けられる電極操作処置具3と、心嚢膜に穿刺され、電極を心嚢膜に係止する係止部材と、係止部材を心嚢膜に穿刺するための空間を先端部21の心嚢膜側に生じさせる突起24とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓刺激装置システム、より詳しくは、心嚢膜上に電極を留置して使用される心臓刺激装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
胸腔内からのアプローチにより低侵襲な手技を用いて、電極を心臓の外部表面に留置して使用する心臓刺激装置が開発されている。このような心臓刺激装置は、留置された電極が心臓の拍動に伴って位置ずれを生じると好ましくないため、心筋へ固定部材を穿刺することにより電極を固定する方法がしばしば用いられる。
【0003】
特許文献1には、固定部材を用いて電極を固定する心臓電極固定システムが記載されている。この固定システムでは、心筋内にアンカーが係止され、アンカーに取り付けられた張力要素または糸により電極が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−532144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、アンカー等の部材を心筋に穿刺することは、心臓にとって大きな負荷であり、心臓の拍動にも影響が少なくない。また、心筋の表面には心筋に酸素や栄養を供給するための血管である冠動脈および冠静脈が走行しており、部材がこれらの血管に穿刺された場合、出血し心タンポナーデ等の重篤な合併症を引き起こす可能性があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、心臓に穿刺せずに、電極を確実に心臓の表面に留置することができる心臓刺激装置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、心嚢膜上に留置される電極を備える心臓刺激装置システムであって、心臓と心嚢膜との間に介装される先端部を有する土台用処置具と、先端部に前記電極が着脱可能に取り付けられる電極操作処置具と、前記心嚢膜に穿刺され、前記電極を前記心嚢膜に係止する係止部材と、前記係止部材を前記心嚢膜に穿刺するための空間を前記先端部の心嚢膜側に生じさせる空間形成部とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記空間形成部は、前記心嚢膜の一部を変位させる心嚢膜変位機構であってもよい。
ここで、前記心嚢膜変位機構は、前記土台用処置具および前記電極の少なくとも一方に形成された突起であってもよい。
また、前記先端部は、流体の供給により膨張するバルーンで形成され、前記心嚢膜変位機構は、前記バルーンの一部であって膨張時に突出する突起部であってもよい。
さらに、前記心嚢膜変位機構は、前記電極操作処置具に設けられた吸引管路と、前記吸引管路に接続された吸引機構とを有する吸引手段であってもよい。
【0009】
前記先端部および前記電極操作処置具には、磁石が設けられ、前記電極が取り付けられた前記電極操作処置具を前記先端部に近づけると、前記先端部の磁石と前記電極操作処置具の磁石とが引き合って、前記先端部と前記電極との間に前記心嚢膜が挟持されてもよい。
【0010】
前記係止部材は、鋭利な先端を有して螺旋状に形成されてもよい。
また、前記係止部材は、鋭利な先端部と、前記先端部に設けられた返しとを有してもよい。
さらに、前記係止部材は、一対の腕を有し、一方の腕に針を、他方の腕に針受けをそれぞれ有し、自然状態において前記一対の腕が閉じ、前記針と前記針受けとが接触するように形成されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の心臓刺激装置システムによれば、心臓に穿刺せずに、電極を確実に心臓の表面に留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態の心臓刺激装置システムにおける電極の留置態様の一例を示す図である。
【図2】同心臓刺激装置システムの全体構成を示す図である。
【図3】同心臓刺激装置システムの土台用処置具を示す斜視図である。
【図4】同土台用処置具の先端部を示す拡大斜視図である。
【図5】(a)および(b)は、同心臓刺激装置システムの電極を示す底面図である。
【図6】同心臓刺激装置システムの電極操作処置具を示す斜視図である。
【図7】同電極操作処置具における挿入部の先端領域を示す拡大斜視図である。
【図8】同電極の留置時における同先端領域の断面図である。
【図9】本発明の第二実施形態の心臓刺激装置システムにおける電極を示す底面図である。
【図10】同心臓刺激装置システムの同電極操作処置具における挿入部の先端領域を示す拡大斜視図である。
【図11】同電極の留置操作時における同先端領域の断面図である。
【図12】本発明の第三実施形態の心臓刺激装置システムにおける電極を示す底面図である。
【図13】同心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す断面図である。
【図14】(a)は、本発明の第四実施形態の心臓刺激装置システムの、土台用処置具の先端部を示す拡大斜視図、(b)は、同心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す断面図である。
【図15】(a)は、本発明の第五実施形態の心臓刺激装置システムにおける土台用処置具の先端部を示す拡大斜視図、(b)は、同心臓刺激装置システムにおける電極操作処置具における挿入部の先端領域を示す拡大斜視図である。
【図16】同心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す断面図である。
【図17】本発明の変形例の心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す図である。
【図18】本発明の変形例の心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す図である。
【図19】本発明の変形例の心臓刺激装置システムにおける電極留置時の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一実施形態について、図1から図8を参照して説明する。本発明の心臓刺激装置システムは、心嚢膜上に取り付けられて心臓の表面に留置される一つ以上の電極と、当該電極に接続された刺激発生装置とを有する心臓刺激装置と、電極を心臓表面に留置するための複数の処置具とを備えている。
図1は、本実施形態における電極10の留置態様の一例を示す図である。電極10は、心臓Htを覆う心嚢膜Pc上に取り付けられて心臓Htの表面に留置される。各電極10は、図示しない刺激発生装置とリード11で接続されており、刺激発生装置で発生された刺激信号が電極10に印加されることにより心臓が刺激され、除細動やペーシング等の各種治療が行われる。
図1では3つの電極10が、右心房、右心室、および左心室に留置されている例を示しているが、電極の個数や留置位置は、対象疾患等に応じて適宜設定される。
【0014】
図2は、本実施形態の心臓刺激装置システム1の全体構成を示す図である。心臓刺激装置システム1は、電極10、リード11、および刺激発生装置を含む心臓刺激装置と、電極10の留置時に心臓Htと心嚢膜との間に介装される土台用処置具2と、電極10が着脱可能に取り付けられる電極操作処置具3とを備えている。
【0015】
図3は、土台用処置具2を示す斜視図である。土台用処置具2は、心嚢膜Pcを支持して電極10の留置時に心臓Htを保護する先端部(土台部)21と、先端部21に接続された柔軟部22と、柔軟部22に設けられたグリップ23とを備えている。
【0016】
図4に先端部21を拡大して示す。先端部21は、金属や生体適合性材料等により、所定の厚みを有するシート状または板状に形成されており、後述する留置操作において心嚢膜Pcを貫通する係止部材が心臓Htを傷つけないように保護する。先端部21のうち、介装時に心嚢膜に対向する面(以下、先端部の「上面」と称する。)には、心嚢膜を支持する突起(空間形成部、心嚢膜変位機構)24が設けられている。また、突起24を挟むように、一対の磁石25が配置されている。
【0017】
柔軟部22は、心臓Htの表面形状に好適に追従することができる程度の柔軟性を有して線状、棒状、あるいは管状に形成される。本実施形態では、柔軟部23は金属素線の密巻きコイルを用いて、管状に形成されている。
【0018】
グリップ23は、柔軟部22のうち、先端部21が取り付けられたのと反対の端部に取り付けられている。グリップ23は、術者が土台用処置具2を操作しやすくするためのものであり、その材質や形状は、操作しやすさを鑑みて適宜設定されてよい。グリップ23の基端には、穴23Aが開いており、管状の柔軟部22の内腔に連通している。これにより、グリップ23の基端から柔軟部22にスタイレット(芯金)を挿入することができる。
【0019】
図5は、電極10を示す底面図である。電極10は、略円盤状の支持体12と、支持体12に形成された電極面13と、電極10を心嚢膜Pcに係止するためのクリップ(係止部材)14とを備えている。
【0020】
支持体12は、例えばシリコーン等の生体適合性の高い絶縁体で形成されており、中央部に平面視略矩形の第一貫通穴12Aを有している。第一貫通穴12Aは平面視略半円状のガイド部12Bを有しており、ガイド部12Bには、電極操作処置具3の柱状部(後述)が挿通される。支持体12のうち、第一貫通穴12Aと離れた位置には、平面視円形の第二貫通穴12Cが設けられている。第二貫通穴12Cにも柱状部が挿通される。
【0021】
電極面13は、導体からなる陽極面13Aおよび陰極面13Bの組で構成され、陽極面13Aと陰極面13Bとが第一貫通穴12Aを挟んで対向するように、支持体12の底面上に設けられている。陽極面13Aおよび陰極面13Bは、リード11により刺激発生装置と接続されている。
【0022】
クリップ14は、図5(a)および図5(b)に示すように、一対の腕を有し、一方の腕14Aには針15が、もう一方の腕14Bには針受け16が設けられている。クリップ14は、外力の作用しない自然状態において、図5(a)に示すように、針15と針受け16とが接触する程度に閉付勢されている。クリップは、腕14Aと腕14Bとの接続部が支持体12内に埋没されることにより、支持体12に取り付けられている。
【0023】
図6は、電極操作処置具3を示す斜視図である。電極操作処置具3は、長尺の挿入部31と、挿入部31の基端部に取り付けられた操作部32とを備えている。挿入部31は、管状に形成されており、先端側に湾曲部33を有している。操作部32は、挿入部31における、湾曲部33よりも先端側の領域(以下、挿入部の「先端領域」と称する。)を軸線回りに回転させるための第一ダイヤル34と、湾曲部33を湾曲させるための第二ダイヤル35と、電極10の留置時に操作するトリガー36とを有する。
【0024】
電極操作処置具3は、第一ダイヤル34を回転させることで、先端領域を初期状態から時計回りおよび反時計回りに約90度回転させることができる。第二ダイヤル35には、湾曲部33に接続されたワイヤー等の操作部材(不図示)が接続されており、第二ダイヤル35を回転させることにより、湾曲部33を円盤状の第二ダイヤル35の面方向と平行な平面内で両方向に約90度湾曲させることができる。先端領域の回転範囲や、湾曲部33の湾曲範囲は、適宜設定されてよい。
【0025】
図7は、挿入部31の先端領域を示す斜視図であり、図8は、電極の留置操作時における先端領域の断面図である。挿入部31の先端領域には、土台用処置具2との間に心嚢膜Pcを挟持する挟持部材37と、クリップ14の一対の腕を開閉させるための開閉部材38とが取り付けられている。
【0026】
挟持部材37は、略ドーナツ状の基部37Aと、基部37Aから突出する円柱状の柱状部37Bとを有する。柱状部37Bは、基部37Aの先端側の面から二本突出している。各柱状部37Bには、磁石39が取り付けられており、各柱状部37Bの先端面に磁石39の一部が露出されている。
【0027】
開閉部材38は、略円盤状のベース38Aと、ベース38Aから突出する一対のクリップ保持突起38Bとを有する。ベース38Aには、棒状の操作部材42が接続されている。操作部材42は、挿入部31内を延びて操作部32のトリガー36に接続されており、トリガー36を引くことにより、開閉部材38を挿入部31に対して後退させることができる。クリップ保持突起38Bは、クリップ14の一対の腕内に進入するように配置され、図5(b)に示すように、針15と針受け16とが離間した状態を保持する。
【0028】
図8に示すように、挟持部材37の基端側において、挿入部31の内腔に略ドーナツ状の支持壁面31Aが突出しており、基部37Aと支持壁面31Aとの間に第一コイルバネ40が配置されている。また、開閉部材38のベース38Aの直径は、基部37Aに形成された貫通穴の直径よりも大きく、基部37Aとベース38Aとの間に第二コイルバネ41が配置されている。
第一コイルバネ40および第二コイルバネ41により、挟持部材37および開閉部材38は電極操作処置具3の先端側に付勢されており、かつ挟持部材37が挿入部31から脱落しないように保持されている。また、第一コイルバネ40のバネ定数は第二コイルバネ41のバネ定数よりも大きく設定されており、トリガー36を引くと、まず第二コイルバネ41が圧縮され、遅れて第一コイルバネ40が圧縮されるようになっている。
【0029】
上記のように構成された心臓刺激装置システム1の使用時の動作について説明する。
まず術者は、患者の胸壁に穴をあけ、トロッカー等を設置して胸腔内へのアクセス経路を確立する。次に、電極10を電極操作処置具3の先端部に取り付ける。電極10を取り付ける際は、挟持部材37の柱状部37Bの一方を電極10の第二貫通穴12Cに通し、他方をガイド部12Bに沿わせて第一貫通穴12Aに通す。さらに、開閉部材38のクリップ保持突起38Bをクリップ14の一対の腕14A、14Bの間に進入させ、針15と針受け16とを離間させた状態で保持する。電極10を電極操作処置具3に取り付けたら、電極操作処置具3と土台用処置具2とを胸腔内に挿入する。
【0030】
図2に示す例では、電極操作処置具3のアクセス経路を電極10の留置部位に比較的近い場所に設け、土台用処置具2のアクセス経路を剣状突起に近い部位に設けている。このようにすると、土台用処置具2の先端部を、心臓Htの表面を這わせて比較的容易に留置部位まで導入することができる。
【0031】
続いて術者は、図示しない胸腔鏡等の観察手段で留置位置を確認し、まず土台用処置具2の先端部21を留置位置に導入する。術者は、図示しない切開処置具等を用いて心尖部付近の心嚢膜Pcを切開し、形成された穴に先端部21を挿入して、先端部21を留置部位まで進める。心尖部付近では、心臓Htと心嚢膜Pcとが比較的はなれているため、切開時に心臓を損傷するリスクを抑えることができる。柔軟部22は非常に柔軟であるため、心臓Htの表面形状に良好に追従し、導入時に心臓に過度な負荷を与えない。先端部21の導入のために、柔軟部22に一時的に剛性を付与したい場合は、グリップ23の基端からスタイレットを挿入して、柔軟部22の剛性を調節してもよい。
【0032】
先端部21が留置部位に到達したら、術者は、電極10を取り付けた電極操作処置具3の先端を先端部21に接近させる。接近させるにあたっては、必要に応じて適宜第二ダイヤル35を操作して、湾曲部33を湾曲させてもよい。電極操作処置具3の先端と先端部21との距離が所定値以下になると、柱状部37Bの磁石39と先端部21の磁石25とが引き合って、図8に示すように先端部21と電極操作処置具3の先端領域との間に心嚢膜Pcが挟持される。それと同時に、一対のクリップ保持突起38Bが、平面視において先端部21の突起24をはさみ、かつクリップ14の針15が、先端部21の一対の突起24の間に向くように電極10と先端部21とが位置決めされる。
このとき、心嚢膜Pcの一部は、先端部21の突起24により電極操作処置具3に向かって変位し、変位した部位の周囲の部位は挟持された状態で保持されるため、突起24により変位された部分だけが、テント状またはドーム状に盛り上がって第一貫通穴12A内に進入し、先端部21の心嚢膜側に、クリップ14の針15を穿刺するための空間が形成される。
【0033】
この状態で術者が電極操作処置具3のトリガー36を引くと、第二コイルバネ41が圧縮されて開閉部材38が挿入部31に対して後退し、図8における上側に移動する。すると、クリップ保持突起38Bがクリップ14の一対の腕から離れ、一対の腕が閉じるように動く。これにより、針15は第一貫通穴12A内に進入した心嚢膜Pcを貫通して針受け16に受止められ、電極10が心嚢膜Pcに係止される。
【0034】
術者がさらにトリガー36を引くと、つづいて第一コイルバネ40が圧縮され、挟持部材37が挿入部31に対して後退し、最終的には柱状部37Bが挿入部31の先端から突出しない程度まで後退する。これにより、心嚢膜Pcの挟持が解除されるとともに、電極操作処置具3と電極10との係合が解除される。
その後、電極操作処置具3および土台用処置具2を体外に抜去し、先端部21の導入のために心嚢膜に形成した穴を縫合等により塞ぐと、1つの電極10の留置が完了する。電極を複数留置する場合は、同様の作業を繰り返す。このとき、アクセス経路や心嚢膜に切開した穴等は、1つ目の電極留置で用いたものをそのまま用いてもよい。
すべての電極を留置したら、アクセス経路を閉じる。リード11端部のコネクタ17(図2参照)を刺激発生装置と接続して固定し、刺激発生装置を皮下等の所定の場所に設置すると一連の手技が終了する。
【0035】
以上説明したように、本発明の心臓刺激装置システム1によれば、土台用処置具2の先端部21を心臓Htと心嚢膜Pcとの間に介装した状態で、電極10を心嚢膜Pcに係止するため、クリップ14を心臓Htに穿刺せずに電極10を確実に心臓表面に留置することができる。
【0036】
また、電極10が取り付けられる電極操作処置具3と、土台用処置具2とに磁石が配置され、当該磁石が引き合うことで心嚢膜Pcが電極10と先端部21との間に挟持されるため、電極操作処置具3や土台用処置具2を心臓Htに押し付けなくても心嚢膜Pcを好適に挟持することができる。
したがって、留置手技中に心臓を圧迫する操作が必要なく、留置中の心臓への負荷も好適に抑えることができる。その上、留置手技中も磁石が引き合っているため、心嚢膜を挟持する土台用処置具と電極とが手技中に位置ずれを起こすことも好適に抑制される。
【0037】
さらに、電極10の支持体12に第二貫通穴12Cが設けられ、電極操作処置具3の先端領域に設けられた柱状部37Bが第二貫通穴12Cに挿通されるため、電極操作処置具3に対して電極10を確実に位置決めして取り付けることができる。
【0038】
また、土台用処置具2の先端部21に突起24が設けられているため、心嚢膜の一部が挟持された位置よりも押し上げられるように変位する。したがって、心嚢膜が変位して空間が形成された部位に対してクリップ14の針15を穿刺することで、係止部材が意図せずに心臓に刺さる等の事態を好適に防止して、安全に電極を留置することができる。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について、図9から図11を参照して説明する。本実施形態の心臓刺激装置システムと上述の心臓刺激装置システム1との異なるところは、電極および電極操作処置具の先端領域の態様である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
図9は、本実施形態の心臓刺激装置システムにおける電極50を示す底面図である。電極10を心嚢膜Pcに係止する係止部材51は、鋭利な先端を有して螺旋状に形成されている。係止部材51は、留置前の状態において、リード11と電極50との接続部位に配置された管状部材52内に収容されている。係止部材51の基端側には、図11に示すように、係止部材51を螺旋の中心軸線回りに回転操作するための係合部材53が接続されている。係合部材53の基端側には、後述する電極用スタイレット57が挿入される係合溝53Aが形成されている。係合溝53Aは、基端側から見た形状が例えば長方形に形成されている。
【0041】
柱状部37Bが挿通されるガイド部54は、平面視略正方形の第一貫通穴12Aの対角線状に2つ配置されている。これは、第一実施形態でガイド部12Bが設けられた部位に係止部材51が収容されているためである。なお、ガイド部54は第一貫通穴12Aに連通させなくてもよく、例えば、第一実施形態の第二貫通穴12Cのように、第一貫通穴12Aに対して独立した貫通穴としてもよい。
【0042】
本実施形態における土台用処置具の先端部は図示を省略しているが、磁石および突起を備える点は第一実施形態と同様である。ただし、電極において、上述の配置変化があるため、一対の磁石は、柱状部が挿通されるガイド部54に対応するように配置されている。また、突起24Aは、磁石が引き合って先端部と電極50との間に心嚢膜が挟持された状態において、図9に破線で示した場所に位置するように形成されている。
【0043】
図10には、本実施形態における電極操作処置具55の先端側を示している。先端領域には、挟持部材56のみ配置されており、開閉部材を備えない構成となっている。これに伴い、図11に示すように、挟持部材56と操作部材42とが接続されており、第二コイルバネは配置されていない。
【0044】
本実施形態の心臓刺激システムの使用時の動作について、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
土台用処置具の先端部21と柱状部37Bおよび電極50との間に心嚢膜Pcを挟持したら、術者は、リード11に形成された図示しない穴から、係止部材51を操作するための電極用スタイレット57をリード11内に挿入する。図11に示すように、電極用スタイレット57は、先端が平たく加工されている。術者は、電極用スタイレット57の先端を係合部材53の係合溝53Aに進入させて、電極用スタイレット57と係合部材53とを係合させる。
【0045】
この状態で、術者が電極用スタイレット57を軸線回りに回転操作すると、係合部材53および係止部材51が軸線回りに回転し、係止部材51が管状部材52から第一貫通穴12A内に繰り出される。術者がさらに電極用スタイレット57を回転させると、係止部材51は、突起24により変位された心嚢膜Pcを貫通し、その後支持体12に突き刺さる。このようにして、電極50が心嚢膜Pcに係止される。電極50が心嚢膜Pcに係止されたら、電極用スタイレット57をリード11から抜去する。
その後、電極操作用処置具55のトリガー36を引くと、挟持部材56が後退して、心嚢膜Pcの挟持状態が解除される。
【0046】
本実施形態の心臓刺激装置システムによっても、第一実施形態同様、心臓に穿刺せずに、心臓表面に確実に電極を留置することができる。
また、先端領域に開閉部材を備えないため、電極操作処置具の構成が簡素になるとともに、電極操作処置具への電極の取り付けも容易となる。
【0047】
本実施形態では、心嚢膜が挟持された後に電極用スタイレットがリード内に挿入される例を説明したが、挿入のタイミングに特に制限はなく、例えば予め電極用スタイレットをリード内に挿入してから胸腔内に導入してもよい。
【0048】
本発明の第三実施形態について、図12および図13を参照して説明する。本実施形態の心臓刺激システムと上述の各実施形態の心臓刺激システムとの異なるところは、係止部材の態様である。
【0049】
図12は、本実施形態における電極60の底面図である。第一貫通穴12Aやガイド部54等の態様は、第二実施形態の電極50と同様である。係止部材61は、予め管状部材52に収容される点は電極50の係止部材51と同様であるが、直線状の部材の先端部が鋭利に加工され、かつ返し61Aを有する略銛状に形成されている点で係止部材51と異なっている。
【0050】
図13に示すように、係止部材61の基端には、電極用スタイレット62で押し込みやすくするために略円盤状の当接部材63が接続されている。電極60の留置時は、前述の電極用スタイレット57のように先端が加工されておらず、当接面を有する電極用スタイレット62を挿入し、当接面で当接部材63を押すことにより係止部材61を前進させて心嚢膜Pcを貫通させ、さらに支持体12に返し61Aを刺入する。返し61Aにより、係止部材61が支持体12から外れることが好適に防止される。その他の留置時の動作は、第二実施形態と概ね同様である。
【0051】
本実施形態の心臓刺激装置システムによっても、既に説明した各実施形態同様、心臓に穿刺せずに、心臓表面に確実に電極を留置することができる。
また、電極用スタイレットを回転させる必要がないため、留置のための操作がより簡便となる。
【0052】
本発明の第四実施形態について、図14を参照して説明する。本実施形態の心臓刺激装置システムと上述の各実施形態の心臓刺激装置システムとの異なるところは、土台用処置具の態様である。
【0053】
図14(a)は本実施形態の心臓刺激装置システムにおける土台用処置具70の先端部71を示す拡大斜視図である。先端部71は、気体、液体等の流体を供給することにより膨張するバルーンで形成されている。図14(a)では先端部71が完全に膨張した状態を示しており、この状態において、中央部がその周囲よりも高く突出した突起部(空間形成部、心嚢膜変位機構)71Aとなるようにバルーンの成形が行われている。
【0054】
図14(b)には、本実施形態における電極留置操作の一例を示している。心嚢膜Pcと心臓Htとの間に介装された先端部71が膨張されると、図14(b)に示すように、突起部71Aにより心嚢膜Pcの一部が押し上げられるように変位して空間が形成される。変位された心嚢膜に係止部材が係止されて電極が留置される。
【0055】
図14(b)には、一例として第二実施形態の電極50が示されているが、他の実施形態の電極も適用可能である。電極操作処置具は、選択した電極に対応したものを適宜使用することができる。ここで、先端部は磁石を有していないため、電極操作処置具も磁石を備えなくてよいが、磁力による位置決めは働かないので、電極を先端部に向かって軽く押し当てるように電極操作処置具を操作して留置動作を行うことが好ましい。先端部71はバルーンで形成されているため、電極を軽く押し当てても、先端部71がクッションとなって心臓が過度に押圧されることが防止される。
また、先端部71に磁石を配置して、前述の実施形態同様、磁石が引き合うように構成してもよい。
【0056】
本実施形態の心臓刺激装置システムによっても、既に説明した各実施形態同様、心臓に穿刺せずに、心臓表面に確実に電極を留置することができる。
【0057】
本発明の第五実施形態について、図15を参照して説明する。本実施形態の心臓刺激装置システムと上述の各実施形態の心臓刺激装置システムとの異なるところは、土台用処置具の態様である。
【0058】
図15(a)は、本実施形態の心臓刺激装置システムにおける土台用処置具75の先端部76を示す斜視図である。先端部76には、心嚢膜を変位させる突起24が形成されていないが、それ以外は第一実施形態の先端部と同様である。
【0059】
図15(b)は、本実施形態における電極操作処置具77の先端領域を示す拡大斜視図である。挿入部78の先端には吸引管路79が開口しており、湾曲部33および挿入部78内を延びて操作部32まで延びている。吸引管路79の基端は、図示しないポンプ等の吸引機構と接続されており、吸引管路79と吸引機構とで、心嚢膜の一部を押し上げるように変位させる吸引手段が構成されている。電極操作処置具77では、操作部32のトリガー36は、吸引機構のオンオフ操作に使用される。さらに、挿入部先端の端面には、吸引管路79を挟んで対向するように、2つの柱状部37Bが配置されている。柱状部の構成は、第一実施形態等と同様であり、先端面に磁石39が配置されている。
【0060】
本実施形態における電極留置時の動作について説明する。他の実施形態と同様に、電極操作処置具77の先端に電極を取り付けた状態で、心嚢膜Pcを挟持する。次に術者は、吸引機構を動作させ、吸引管路79から心嚢膜Pcの一部を吸引する。すると、図16に示すように、心嚢膜Pcの一部が吸引されて立ち上がるように変位し、電極(図16には一例として電極60を示す。)の第一貫通穴12A内に移動する。その後、係止部材61を操作して第一貫通穴12A内の心嚢膜Pcに貫通させ、電極60を心嚢膜Pcに係止する。係止後、吸引機構をオフにして、電極操作処置具77および土台用処置具75を抜去する。
本実施形態の心臓刺激装置システムによっても、既に説明した各実施形態同様、心臓に穿刺せずに、心臓表面に確実に電極を留置することができる。
【0061】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0062】
例えば、本発明において、心嚢膜に係止部材を穿刺するための空間を形成する空間形成部は、上述の各例以外の構成をとってもよい。以下に、幾つかの変形例を示す。
【0063】
図17に示す変形例では、電極80の支持体81に突起82が設けられ、この突起82が心嚢膜変位機構すなわち空間形成部として機能する。土台用処置具83の先端部84には、心嚢膜Pcに対向する面に凹部84Aが設けられており、支持体81の突起82が心嚢膜Pcを凹部84Aの底面に向かって変位させ、空間を生じさせる。係止部材85は、土台用処置具83の柔軟部86に収容されており、柔軟部86に挿入されたスタイレット(不図示)により押し出されて、心嚢膜Pcおよび突起82を貫通する。これにより、電極80が心嚢膜Pcに係止される。係止後、土台用処置具83は抜去されるが、係止部材85は残留する。
【0064】
図18に示す変形例は、土台用処置具90の先端部91に形成された凹部91Aの周囲の心嚢膜が挟持されることにより、凹部91Aが心嚢膜Pcを変位させない空間形成部となる例である。係止部材としては、曲針92が用いられており、曲針92を心嚢膜Pcに穿刺し、凹部91Aを経て再度心嚢膜Pcを突き通してから電極93の支持体94に刺入することにより、電極93が心嚢膜Pcに係止される。曲針92を操作するための回転体は、電極操作処置具の操作部とワイヤー等で接続されており、操作部で回転操作される。
図19に示す変形例では、係止部材95がステイプル状の針であり、土台用処置具96の先端部97がポケット97Aを有し、係止部材95を屈曲させる受け台として機能する。すなわち、この変形例では、ポケット97Aの周囲の心嚢膜Pcが挟持されることにより、ポケット97Aが、心嚢膜Pcを変位させない空間形成部となっている。電極操作処置具の操作部を操作して、係止部材95を先端部97に向かって押圧すると、図19に示すように係止部材95が屈曲して、電極98が心嚢膜Pcに係止される。
【0065】
また、上述の実施形態では、電極と電極操作処置具とが同一のアクセス経路から胸腔内に導入される例を説明したが、これらは別々のアクセス経路から導入されてもよい。この場合は、別途挿入した把持鉗子等を用いて、胸腔内で電極を電極操作処置具に取り付ければよい。
【0066】
また、上述の実施形態では、土台用処置具を心嚢膜Pc内に挿入する際、切開処置具等を用いて心尖部付近の心嚢膜Pcを切開し、形成された穴に土台用処置具の先端部を挿入していたが、切開でなく、針状の処置具によって心嚢膜を穿刺して穴を形成し、その穴を処置具により広げることで、挿入のための穴を形成してもよい。
【0067】
また、土台用処置具と電極操作処置具間で、磁石を用いて心嚢膜Pcを挟持する際、上述の実施形態では土台用処置具の先端部が留置部位に到達した時点で電極操作処置具の先端を接近させて、挟持を行っていた。しかしながら、土台用処置具を心嚢膜内に挿入した時点で、磁石により土台用処置具と電極操作処置具を結合させ、結合した状態で留置部位に移動させてもよい。この場合、結合した状態で、電極操作処置具を操作して留置部位に移動させる(心嚢膜を挟んだまま処置具をスライドさせる)。このようにすることで、操作が容易な電極操作処置具の操作をするだけで、他方の土台用処置具を誘導することができるため、より容易に処置具を留置部位へ移動させることができる。
【0068】
なお、本発明は、以下の技術思想を含む。
(付記項)
電極を心嚢膜上に留置する留置方法であって、
心嚢膜と心臓との間に板状またはシート状の部材を介装し、
前記心嚢膜上に前記電極を配置して、前記電極と前記シート状の部材との間に前記心嚢膜を挟持し、
前記シート状の部材の心嚢膜側に、空間を形成し、
前記空間で係止部材を前記心嚢膜に穿刺して、前記電極を前記心嚢膜に係止する。
【符号の説明】
【0069】
1 心臓刺激装置システム
2、70、75、83、90、96 土台用処置具
3、55、77 電極操作処置具
10、50、60、80、93 電極
14 クリップ(係止部材)
14A、14B 腕
15 針
16 針受け
21、71、76、84、91、97 先端部(土台部)
24 突起(空間形成部、心嚢膜変位機構)
25、39 磁石
51、61、85、95 係止部材
61A 返し
71A 突起部(空間形成部、心嚢膜変位機構)
79 吸引管路
82 突起(空間形成部、心嚢膜変位機構)
84A、91A 凹部(空間形成部)
92 曲針(係止部材)
97A ポケット(空間形成部)
Ht 心臓
Pc 心嚢膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心嚢膜上に留置される電極を備える心臓刺激装置システムであって、
心臓と心嚢膜との間に介装される土台部を有する土台用処置具と、
先端部に前記電極が着脱可能に取り付けられる電極操作処置具と、
前記心嚢膜に穿刺され、前記電極を前記心嚢膜に係止する係止部材と、
前記係止部材を前記心嚢膜に穿刺するための空間を前記先端部の心嚢膜側に生じさせる空間形成部と、
を備えることを特徴とする心臓刺激装置システム。
【請求項2】
前記空間形成部は、前記心嚢膜の一部を変位させる心嚢膜変位機構であることを特徴とする請求項1に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項3】
前記心嚢膜変位機構は、前記土台用処置具および前記電極の少なくとも一方に形成された突起であることを特徴とする請求項2に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項4】
前記先端部は、流体の供給により膨張するバルーンで形成され、前記心嚢膜変位機構は、前記バルーンの一部であって膨張時に突出する突起部であることを特徴とする請求項2に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項5】
前記心嚢膜変位機構は、前記電極操作処置具に設けられた吸引管路と、前記吸引管路に接続された吸引機構とを有する吸引手段であることを特徴とする請求項2に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項6】
前記先端部および前記電極操作処置具には、磁石が設けられ、前記電極が取り付けられた前記電極操作処置具を前記先端部に近づけると、前記先端部の磁石と前記電極操作処置具の磁石とが引き合って、前記先端部と前記電極との間に前記心嚢膜が挟持されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項7】
前記係止部材は、鋭利な先端を有して螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項8】
前記係止部材は、鋭利な先端部と、前記先端部に設けられた返しとを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の心臓刺激装置システム。
【請求項9】
前記係止部材は、一対の腕を有し、一方の腕に針を、他方の腕に針受けをそれぞれ有し、自然状態において前記一対の腕が閉じ、前記針と前記針受けとが接触するように形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の心臓刺激装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−42920(P2013−42920A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182561(P2011−182561)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】