説明

心臓血管機能をエミュレートする動的ベイジアン・ネットワーク

動的ベイジアン・ネットワークが心臓血管系のモデルを提供し、患者データのエミュレーションを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は同時に出願される「決定論的モデルから確率論的モデルを導出する方法および装置(Method and Apparatus for Deriving Probabilistic Models from Deterministic Ones)」という名称の米国特許出願(代理人整理番号US006845)に関係している。該出願の開示は明記によりここに参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
医療技術は、より精確でより速い診断をケア提供者に与え、可能な最良の医学的処置を患者に与えようとする努力のうちに改良を続けている。知られているように、心臓病は人々の生命および安寧を奪い続けている。しばしば、患者の必要性を判断するため、侵襲的な試験が必要とされる。試験は実施が難しく、時間がかかり、患者にとって危険なことさえある。
【0003】
患者の診断試験を改善する努力において、生理学的な系のモデル化が研究されている。これらのモデルは心臓血管系(CV: cardiovascular system)のいくつかの表現につながった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J・ハルスト(Hulst)、「動的ベイジアン・ネットワークを使った生理学的プロセスのモデル化(Modeling Physiological Processes using Dynamic Bayesian Networks)」、米国ピッツバーグ大学の理学修士号請求論文、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、必要とされているのは、少なくとも上記の欠点を克服するCV系をモデル化する方法および装置である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある代表的な実施形態では、患者の生命機能データ(vital patient data)をエミュレートする方法が:現在測定されている患者データを含む入力を動的ベイジアン・ネットワーク(DBN: Dynamic Bayesian Network)に提供し、現在測定されている患者データではない別の入力を前記DBNに提供し、前記DBNからエミュレートされた生命維持患者出力を獲得することを含む。
【0007】
別の代表的な実施形態では、患者の生命機能データをエミュレートするシステムが:動的ベイジアン・ネットワーク(DBN)を有し、前記ネットワークは複数のを有する。DBNはさらに:入力ノードのための観測として与えられる現在測定されている患者データと;出力変数の推定される確率とを有する。前記確率は適切な仕方でユーザーに呈示され、あるいは判断支援システムによって他の仕方で使用される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ある代表的な実施形態に基づく、人間の心臓血管系(CV)の動的ベイジアン・ネットワーク(DBN)のグラフィックな表現を示す図である。
【図2】ある代表的な実施形態に基づく、データ・テーブルおよびその相互関係の概念図である。
【図3】ある代表的な実施形態に基づく、DBN CV系の出力パラメータの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明では、限定ではなく説明のために、本願の教示の十全な理解を提供するために個別的な詳細を開示する例示的な実施形態が記載される。さらに、よく知られた装置、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、方法およびシステムの説明は、例示的な実施形態の記述を埋没させるのを防ぐよう、省略されることがある。それでも、当業者の認識範囲内にあるそのようなハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、装置、方法およびシステムが例示的な実施形態に基づいて使用されうる。最後に、現実的なところではどこでも、同様の参照符号は同様の特徴を指す。
【0010】
以下の詳細な説明は、コンピュータ可読媒体内のデータ・ビットの操作のルーチンおよび記号的表現、データ取得カードを備えた関連するプロセッサ、マイクロプロセッサ、デジタル蓄積オシロスコープ(digital storage oscilloscope)、汎用パーソナル・コンピュータ、製造設備などによって具現されうる。一般に、本願の方法は、所望の結果に導くステップまたは動作のシーケンスであると考えられるものであり、よって「ルーチン」「プログラム」「オブジェクト」「関数」「サブルーチン」および「プロシージャ」といった当技術分野の用語を包含するものである。
【0011】
例示的実施形態の装置および方法は、人間の心臓血管系の試験の実装において記載される。これは単に例示的なものであることを強調しておく。また、本願の装置および方法は他の試験環境で実装されてもよいことを強調しておく。たとえば、当業者は、本願の教示を見たあとでは、本願の教示を他の生理的な系の試験に適応させうる。さらに、本願の装置および方法は、動物を治療するために獣医学的な試験において実装されてもよい。
【0012】
図1は、ある代表的な実施形態に基づく、人間の心臓血管系(CV)の動的ベイジアン・ネットワーク(DBN)のグラフィックな表現である。このネットワークは、出力ノード101、102を含み、これらは例示的に、それぞれ心臓の駆出率(EF)および心臓血管出力量(cardiovascular output)(CardioOutput)である。これらのノードは、代表的な諸実施形態との関連で記載されるDBNネットワークによって決定されるデータを表す。本実施形態では、EFおよびCardioOutputは測定されたデータおよび確率論的にモデル化されたデータから決定される。そうでなければ、これらの重要なデータは侵襲的な試験を通じて得られるところである。よって、うまいことに、ケア提供者は、侵襲的な試験なしでこれらのデータを獲得することができる。
【0013】
心拍数(HR: heart rate)ノード103および体動脈圧(Psa: systemic arterial pressure)ノード104がネットワーク100に含まれる。これらのノードは、本願の代表的諸実施形態のDBNの、ただ二つの直接測定されるデータを表している。理解されるであろうように、これらは低侵襲であり、医療診断および治療において実にどこにでもあるものである。本記載が続くにつれ理解されるであろうように、これらのデータ入力を提供することにより、EF101およびCardioOutput102が確率論的推定を介して容易に決定されうる。
【0014】
本代表的な実施形態では、相互に関係した心臓血管系のモデルがノード、弧〔アーク〕およびCPTを用いてモデル化される。一つの型のノードは補助ノードである。補助ノード105〜109は、左心室圧(PLV: left ventricular pressure)、左心室体積(Llv: left ventricular volume)、左心室収縮能(Lvc: left ventricular contractility)、体循環末梢内臓外部抵抗(Rrp: resistance of the peripheral extrasplanchnic section of the systemic circulation)、体循環末梢内臓内部抵抗(Rsp: resistance of the peripheral splanchnic section of the systemic circulation)である。
【0015】
ノード105〜109は、人のCV系のモデル化において有用であるが、患者からすぐ得られるものではない。しかしながら、これらのノードは、系を表す数学的モデルの一部である。この目的のため、CVを数学的にモデル化するために、たとえば連立常微分方程式を使ってもよい。その際、これらの方程式は、DBN100を決定するためにリレーショナルな仕方で与えられる。するとDBN100は所望の出力を与える。今の例では、所望の出力はEFおよびCardioOutputである。
【0016】
DBN100のリレーショナルな側面は遅延を含む。この目的のため、ある体イベント(systemic event)と別の体イベントとの間に遅延がある。たとえば、測定された体動脈圧104と心拍数103との間に遅延がある。この遅延は、図1では「1」として表されており、リアルタイムのデータ・パラメータに基づいてシステム設計者によって選択された単位をもつ。たとえば、1心拍分の遅延、あるいは秒単位で測定される遅延があって、DBN100において提供されてもよい。
【0017】
DBNのノード間の矢印は遅延の方向をも示している。さらに、ある種の生理学的現象は、遅延された仕方で自らに直接影響する。たとえば、Llv108およびPlv109は遅延された仕方で影響され、このことは同じノードに始まって終わる矢印として示されている。
【0018】
DBN概念に従って、事前(prior)または条件付き確率の表(conditional probability table)が各ノードに関連付けられる。各表は、対応するノードが特定の状態にある確率を決定する事前または条件付き確率の組を含んでいる。ノードに親がない場合、これらの確率は無条件である(事前)。ノードが親をもつ場合、これらの確率は各親の状態に基づいて条件付けられる(条件付き)。これらの確率は、分野の文献から、分野の専門家から、あるいは関連する患者データから決定されることができる。この最後のものは、もしなければ、たとえば[他の開示を参照]において記載されているように決定論的モデルから得られてもよい。
【0019】
心臓血管DBNが使用されているとき、入力ノード103、104は特定の患者について観察された値を与えられうる。それに際して、DBNに付随する推論エンジンがノード101、102の各出力状態についての確率を、好ましい数の時間単位にわたって、計算する。これらの確率は、新しい観察が入力されるたびに更新される。DBNについての推論エンジンはよく知られており、当分野においてすぐ手にはいるものであることを注意しておく。DBNのさらなる詳細は、たとえばハルストによる非特許文献1に見出されうる。この文献の開示はここに明示的に参照によって組み込まれる。さらに、モデルの常微分方程式(ODE: ordinary differential equation)はMatLabまたは他の市販のソフトウェアにおいて表現されていてもよい。
【0020】
ある代表的な実施形態に基づくこのプロセスを例解するため、図2はインスリン投与量に基づくグルコース推定のための簡単なDBNの、10の時間単位を示している。インスリン投与量は最初の2つの時間単位について与えられる。その後は、推論エンジンが、次の8つの時間単位について、血中グルコース・レベルおよびインスリン・レベルの確率を計算する。
【0021】
図3は、ある代表的な実施形態に基づくDBN CV系の出力パラメータの概念的な表現である。特に、動作では、入力データ(たとえばHRおよびPsa)が与えられる。DBN100による逐次反復ののち、所望のパラメータが決定され、それに対する出力として与えられる。(図3について敷衍。)
DBN100のある種の恩恵および利点が実現される。特に、DBN100はヘルスケア提供者(HCP: health care provider)が、種々の療法に対する患者の反応を理解するために、諸シナリオを走らせることを許容し、普通ならコスト高であるか測定が不可能でさえある生理学的変数についての値を呈示する。DBNはうまいことに、心臓血管系をエミュレートする。ただし、他の系がエミュレートされてもよい。うまいことに、CVのモデルは決定論的であり、確率論的なリレーショナルな表現が与えられる。これは、種々のCV変数の結合〔カップリング〕および因果的な効果を明確にし、臨床的に直接使われることができる。別の利点は、リアルタイムに使われ、測定値が要求されるとき、CV DBNは、測定その他に起因する誤差および不確実性の面で、本来的な堅牢性を有するということである。
【0022】
本稿では代表的な実施形態が開示されているが、本発明の概念および範囲にはいる多くの変形が可能である。そのような変形は、本明細書、図面および請求項を吟味した後では、当業者には明白となるであろう。したがって、本発明は、付属の請求項の精神および範囲内というほかは制約されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生命機能データをエミュレートする方法であって:
現在測定されている患者データを含む入力を動的ベイジアン・ネットワーク(DBN)に提供する段階と;
現在測定されている患者データではない別の入力を前記DBNに提供する段階と;
前記DBNからエミュレートされた生命維持患者出力を得る段階とを有する、
方法。
【請求項2】
前記患者の生命機能データが心臓血管に関するデータである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記別のデータがリレーショナルなデータである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記測定されている患者データおよび前記別のデータが当該方法において重み付けされる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者の生命機能データをエミュレートするシステムであって:
複数のノードを含む動的ベイジアン・ネットワーク(DBN)を有し、前記DBNはさらに:
入力ノードについての観測として与えられる現在測定されている患者データと;
適切な仕方でユーザーに呈示されるか他の仕方で判断支援システムによって使用される、出力変数の推定される確率とを含む、
システム。
【請求項6】
前記DBNは:左心室圧(PLV)ノード、左心室体積(Llv)ノード、左心室収縮能(Lvc)ノード、体循環末梢内臓外部抵抗(Rrp)ノード、体循環末梢内臓内部抵抗(Rsp)のうちの一つまたは複数のノードを含む、請求項5記載のシステム。
【請求項7】
前記ノードが補助ノードである、請求項6記載のシステム。
【請求項8】
前記ノードが測定された患者データのノードを含む、請求項5記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−503057(P2010−503057A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526244(P2009−526244)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【国際出願番号】PCT/IB2007/053459
【国際公開番号】WO2008/026166
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】