説明

応力腐食割れ検知用試験片及び応力腐食割れ検出装置

【課題】応力腐食割れを検出及び監視でき、監視対象物と同等の応力値を容易に設定できる応力腐食割れ検知用試験片を提供する。
【解決手段】腐食媒体に接触して腐食する被検体の応力腐食割れ状態を検出する応力腐食割れ検知用試験片50であって、被検体と同一の金属材料からなる試験片本体51と、試験片本体51に内蔵されて腐食媒体に接することなく試験片本体51に応力を付与する応力付与機構69と、を備える。その応力腐食割れ検知用試験片50は、被検体と同一の金属材料からなり先端が閉じた筒51と、筒51の内に挿入可能な押し込み棒52と、を備え、筒51の奥の壁57を押し込み棒52の先端58が押圧する押圧力に基づいて規定される応力を筒51の両端部が引き離される方向に発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応力腐食割れ検知用試験片及び応力腐食割れ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼溶接配管など、内部流体W側からの応力腐食割れ(SCC)を起こす危惧があるプラントに組み込み、SCCの生起(発生)を監視する目的で、応力腐食割れをモニタリングできる応力腐食割れ検知用センサとモニター装置が知られている(特許文献1)。具体的には、膜状の金属に内圧をかけることにより応力を付与するセンサを形成するものである。
【0003】
詳しくは、先端部が半球形の円筒体であり、内部に圧力媒体が充填された作用電極と、照合電極を保持すると共に、モニタリング対象物に取付けるためのホルダーと、作用電極内の圧力媒体に任意の圧力を付加する加圧ネジと、作用電極内の圧力媒体の圧力を検知するための検知ポートを有する。この応力腐食割れ検知センサにおける検知ポートに圧力センサを接続し、作用電極と照合電極に腐食電位測定装置を接続して、応力腐食割れに特有の電位振動を観測するようにしたものである。
【0004】
また、ここでいう応力腐食割れ(SCC)とは、特定の腐食環境中におかれた金属材料が、持続的な引張応力のもとで時間依存型の脆性的割れを起こす現象をいう。すなわち、材料組織、腐食環境、応力の三者がある条件を満足したときのみ割れを生ずる代表的な環境脆化である。また、応力と腐食作用が相乗して対象物にダメージを与えることがSCC発生の必要条件で、応力のみで破壊する場合に比較して、降伏応力以下のはるかに低い応力や弱い腐食環境中でも割れが発生する。そして、割れを生じる材料/環境の特定の組み合わせとして、オーステナイトステンレス鋼−塩化物水溶液、炭素鋼−苛性アルカリ水溶液、黄銅−アンモニア水溶液が知られている。
【0005】
応力腐食割れは、応力のみで破壊する場合に比して非常に低い応力でも発生するので、安全上確実に検知することが望まれる。しかるに、これまで応力腐食割れをモニタリングする装置は少なかった。なお、全面腐食モニタリングセンサであれば、従来から各種方式のものとして、電気抵抗法、分極抵抗法、又は交流インピーダンス法などの類例はあるが、これらはあくまで全面腐食モニタリングセンサであって、応力腐食割れをモニタリングすることはできなかった。
【0006】
SCCが生起する条件は、材料、環境、応力の組み合わせが所定の条件として揃ったときである。例えば、ステンレス鋼が、特に溶接入熱を受けることで鋭敏化した場合、塩化物環境下で、溶接残留応力などの応力が作用する条件が加わることによってSCCが発生するということが解明されている。
【0007】
しかしながら、化学プラントのプロセス流体など、必ずしもSCCを起こすか否かのデータベースが揃っていないため、プロセス変更に伴う材料のSCC感受性の評価、もしくは、プラント構成機器への新材料の適用など、材料、環境、応力を変更する際には、SCC感受性試験を行う必要があった。
【0008】
また、所与の材料(合金種を選び、溶接、熱処理などを施す)からU字曲げ試験片(JIS G0576沸騰塩マグ試験に規定)を採取し、プラントの配管、貯槽などに一定期間の浸漬をすることによってSCC感受性を判定している。
また、応力依存性を明確にする必要に応じて、系から分岐させた実験ループを設けるか、もしくは、実験室試験装置を設け、定荷重試験を実施し、SCC発生時間(定荷重試験片の破断時間をもって、SCC発生時間を代表させる)の応力依存性、SCC生起下限界応力などを求めている。もしくは、4点曲げ試験などの定ひずみ曲げ試験を行なって評価している。
【0009】
また、試験片に加え、照合電極及びエレクトロメータ(電位差計)、もしくは対極及び無抵抗電流計を用いて、試験片の電位、もしくは対極との短絡電流を連続的に記録し、時系列データを解析することによって、SCCの生起を監視する方法(電気化学ノイズ解析、ENA:Electrochemical Noise Analysis)も試みられている。
【特許文献1】特開2000−266662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている荷重付与機構を接液させずに膜状の金属(金属箔)に内圧をかけることで応力を付与するセンサでは、模擬実験としての検証性が不確かであるという欠点があった。すなわち、一般的なプラント構成機器材料は厚肉部材であるにも拘わらず、その金属箔を用いたセンサの場合、金属箔であるため材料特性が違うので、SCC感受性は別物と考える必要があるという課題があった。また、厚肉部材から、大面積の金属箔を採取するような特殊な機械加工は困難であるという課題もあった。
【0011】
また、定荷重試験の実施は、荷重付与機構、試験片を囲む腐食セルの設定とプロセス流体の供給などが必要であるため、試験装置が大掛かりになるので、曲げ冶具ごとプロセス流体環境に晒すような実装試験は、実現困難である(治具全体の寸法、流体の妨げ、治具の腐食など)という課題があった。
【0012】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、応力腐食割れを検出及び監視することが可能であり、監視対象物である被検体と同等の応力値を容易に設定できる応力腐食割れ検知用試験片及び応力腐食割れ検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片及び応力腐食割れ検出装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係る応力腐食割れ検知用試験片は、腐食媒体に接触して腐食する被検体の応力腐食割れ状態を検出する応力腐食割れ検知用試験片であって、前記被検体と同一の金属材料からなる試験片本体と、前記試験片本体に内蔵されて前記腐食媒体に接することなく前記試験片本体に応力を付与する応力付与機構と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明の応力腐食割れ検知用試験片における応力付与機構によれば、試験片本体に内蔵されて腐食媒体に接することなく試験片本体に応力を付与することが可能である。このような応力付与機構を内在する応力腐食割れ検知用試験片は、被検体と同一の金属材料からなる応力腐食割れ検知用試験片自体で引っ張り応力を設定することが可能であり、この設定応力を付与した状態を維持して腐食媒体に接触させることによって、腐食する被検体の応力腐食割れ状態を検出することが可能である。
したがって、応力腐食割れ検知用試験において、従来は必要であった大掛かりな応力発生装置、すなわち試験片を囲む荷重付与機構や曲げ冶具、プロセス流体の供給等が不要となる。
【0015】
また、第2の発明において、前記応力付与機構は、先端が閉じた筒状の前記試験片本体に対して内挿可能な押し込み棒を備え、前記筒の奥の壁を前記押し込み棒の先端が押圧する押圧力に基づいて規定される応力を前記筒の両端部が引き離される方向に発生することを特徴とする。
【0016】
この発明の応力腐食割れ検知用試験片における応力付与機構によれば、筒の開口端から嵌入した押し込み棒の先端が、筒の奥の壁に突き当たって押圧することにより、その奥の壁と、開口端とを遠ざける方向に応力を発生するので、押し込み棒の押圧力に応じた設定応力により、筒の両端部を引き離す方向に応力を付与することが可能である。
【0017】
また、第3の発明に係る応力腐食割れ検知用試験片において、前記応力付与機構は、前記筒の開口端近傍の内周に刻設されたメネジと、前記押し込み棒の基端部の外周に刻設されたオネジを螺合し、前記螺合したネジの締め具合により前記応力を規定することを特徴とする。
この発明に係る応力腐食割れ検知用試験片を構成する筒の内部には、その開口端近傍の内周にメネジが刻設されている以外、開口端から最奥端の突き当たりまで、ほぼ均一な円筒形の軸穴が設けられている。一方、押し込み棒も、その基端部にオネジが刻設されている以外は、その先端にいたるまで前記オネジの谷径より細く切削された凹凸のない円筒棒である。
【0018】
前記筒の開口端から嵌入した押し込み棒のネジ締めトルク及び/又はネジ締め角度に応じて、前記メネジと前記オネジの螺合部分から押し込み棒の先端までの挿入深さを加減することになる。そして、押し込み棒の先端が深く挿入される程に、開口端から最奥端の壁までを引き離す方向の設定応力が強く発生する。この作用により、応力腐食割れ検知用試験片自体で任意に引っ張り応力を設定することが可能である。
したがって、押し込み棒のネジ締めトルク及び/又はネジ締め角度に応じた設定応力を、応力腐食割れ検知用試験片自体で設定することが可能である。
【0019】
また、第4の発明に係る応力腐食割れ検知用試験片は、前記筒の長手方向に対する中央部の外径を、前記筒の両端部の外径よりも細くした中央くびれ部を形成した。
この発明によれば、最も細くくびれた中央くびれ部の周壁は薄いので、腐食媒体に接触したことによる腐食の影響に加えて、引張力による応力付与の影響を顕著に受けやすく、比較的短い時間で明確に破断するので試験片に好適である。
【0020】
また、第5の発明に係る応力腐食割れ検知用試験片は、前記腐食媒体を接触して流通させる装置における配管又は容器を構成する金属材料が前記被検体であって、前記配管又は容器に穿設された取付け穴に密嵌固定して用いることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、応力腐食割れ検知用試験片を、稼動設備の一部に実装して、設備の劣化程度を把握することが可能である。すなわち、試験片を囲む荷重付与機構や曲げ冶具を用いることなしに、応力腐食割れ検知用試験片自体で規定の引っ張り応力を発生して維持できるので、小さく簡易簡素な応力腐食割れ検知用試験片だけをプロセス流体環境に晒せば足りる。したがって、応力腐食割れ検知用試験に対する実装試験を簡素かつ容易に実現することが可能になる。そして、前記稼動設備の一部に実装した応力腐食割れ検知用試験片を定期的に取り外して確認することによって、設備の劣化程度を把握することが可能である。
【0022】
また、第6の発明に係る応力腐食割れ検出装置は、前記被検体の応力腐食割れ状態を電気化学的に検出可能に配線接続された複数の測定電極と、前記測定電極間の電流及び/又は電位差を測定する測定器と、を備えた応力腐食割れ検出装置において、前記測定電極のうち少なくとも1つには前記応力腐食割れ検知用試験片を用いたことを特徴とする。
この発明によれば、電気化学的な応力腐食割れ検出装置において、他の設備を用いることなく、応力腐食割れ検知用試験片自体で引っ張り応力を発生させて維持できるので、簡素かつ安価に応力腐食割れを検出することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
まず、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片によれば、応力腐食割れ検知用試験において、従来は必要であった大掛かりな応力発生装置、すなわち試験片を囲む荷重付与機構や曲げ冶具、及びそれらに対するプロセス流体の供給等が不要となり、応力腐食割れ検知用試験片自身で応力発生した状態を維持して腐食媒体に接触させることによって、腐食する被検体の応力腐食割れ状態を検出することが可能である。
【0024】
また、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片によれば、被検体と同一の金属材料からなり先端が閉じた筒の内に挿入可能な押し込み棒の先端で、筒の奥の壁を押圧するという、極めて簡素かつ取り扱い容易な応力腐食割れ検知用試験片を提供することができる。
また、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片によれば、押し込み棒のネジ締めトルク及び/又はネジ締め角度に応じた設定応力を、応力腐食割れ検知用試験片自体で設定することが可能であり、極めて簡素かつ取り扱い容易な応力腐食割れ検知用試験片を提供することができる。
【0025】
また、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片によれば、最も細くくびれた中央くびれ部の周壁は薄いので、腐食媒体に接触したことによる腐食の影響に加えて、引張力による応力付与の影響も顕著に受けやすく、比較的短い時間で明確に破断するので試験片に好適である。
【0026】
また、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片によれば、応力腐食割れ検知用試験に対する実装試験を簡易、簡素かつ容易に実現することが可能になる。そして、稼動設備の一部に実装された応力腐食割れ検知用試験片を、定期的に取り外して確認することによって、設備の劣化程度を把握することが可能である。
【0027】
また、本発明に係る応力腐食割れ検出装置及び/又は応力腐食割れ監視方法によれば、電気化学的な応力腐食割れ検出装置において、他の設備を用いることなく、応力腐食割れ検知用試験片自体で引っ張り応力を発生させて維持できるので、簡素かつ安価な装置で容易に応力腐食割れを検出し監視することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る、応力腐食割れ(SSC)試験片、応力腐食割れ(SSC)検出装置及び応力腐食割れ(SSC)監視方法について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る応力付与機構69を内在したSCC(応力腐食割れ)試験片50の説明図であり、(a)斜視図、(b)一部断面略図である。
【0029】
図2は図1に示したSCC試験片50の詳細図であり、(a)丸棒試験片(試験片本体,筒)51の側面図、(b)丸棒試験片51の正面図、(c)ボルト(応力付与機構,押し込み棒)52の正面図、(d)ボルト52の側面図である。なお、図2において、説明を容易にするために具体的な数値を例示しているが、必ずしもこの寸法に限定されるものではない。
【0030】
図1,図2に示すように、SCC試験片50は、丸棒試験片51の開口端60から、軸穴59にボルト52をネジ込む構成である。丸棒試験片51は、金属棒の長手方向のほぼ中央付近に中央くびれ部55を有する試験片の軸中心部に円筒形の軸穴59を穿設したものである。
この丸棒試験片51の内部には、その開口端60近傍の内周にメネジQ(応力付与機構)が刻設されている以外、開口端60から最奥端、すなわち突き当たりの壁57にいたるまで、ほぼ均一な円筒形の軸穴59が穿設されている。一方、ボルト52も、その基端部56にオネジR(応力付与機構)が刻設されている以外は、その先端58にいたるまでオネジRの谷径より細く切削された凹凸のない円筒棒である。
【0031】
したがって、押し込み棒52のネジ締めトルク及び/又はネジ締め角度に応じて、前記メネジQと前記オネジRの螺合部分から押し込み棒52の先端58までの挿入深さを加減することになる。そして、押し込み棒52の先端58が深く挿入される程に、開口端60から最奥端の壁57までを引き離す方向の設定応力が強く発生する。この作用により、SSC試験片50自体で引っ張り応力を任意に設定することが可能である。
すなわち、ボルト52を、丸棒試験片51の開口端60から、軸穴59の突き当たりまで強く締め込むことにより、丸棒試験片51を引き伸ばす方向(図1(b)矢印X)に引っ張り応力Xを付与して維持できるように構成されている。
【0032】
この構成による応力付与機構69を内在したSCC試験片50を用いれば、大掛かりな荷重付与機構(不図示)を接液させることなく、自身で発生した任意の応力を維持したSCC試験片50によるSCC試験が実施できる。
【0033】
図2に示すように、丸棒試験片51における中央くびれ部55の外径のφ5(mm)に対して、その中心に内径φ4.5+α(mm)の軸穴59が穿設されている。この径の差分による管厚の断面積が約3.7mmであり、その断面積によって引っ張り荷重を受け持つことになる。ここに、プロセス流体Wの液圧P(図6参照)に相当する応力を、SCC試験片50に対する前記引っ張り荷重として付与すれば適切な試験の設定が可能である。ちなみに、前記断面積は下式に基づく。
前記断面積=π(φ5/2) −π(φ4.5/2) =約3.7mm
また、開口端60側の基端部(太径部)54の内周にM5のタップを立ててメネジQが刻設されており、ボルト52の基端部56の外周に刻設されたオネジRと螺合可能に構成されている。
【0034】
一方、図2(c)(d)に示すように、ボルト52は、M5の高力ボルトの先端58から16mmだけ基端部56に向けてφ4.5−α(mm)に形成され、丸棒試験片51の軸穴59に挿入できるように形成されている。
なお、試験に先立って、丸棒試験片51の中央くびれ部55にひずみゲージを張り、ボルト52をネジ込みながら、ボルト52の回転角度とひずみとの関係を求めて換算テーブル等(又はグラフ)を作成しておくことが望ましい。
【0035】
そして、以降の試験において、丸棒試験片51の奥の壁57を、ボルト52の先端58が当接して押圧する押圧力を、ネジQ,Rの締め角度等に基づいて規定可能な構成によって、SSC試験片50に付与されたひずみが推定できる。さらに、材料への応力とひずみの関係から、負荷応力も推定できるので前記換算テーブルを「ネジQ,Rの締め角度に基づいて付与する応力」として完成させておけばなお好ましい(図示せず)。
【0036】
なお、SSC試験片50がSCCを起こした場合、ネジQ,R部分がバウンダリー(止水境界)となるので、この部分での止水性に配慮したシール構造の設計を行う。また、SSC試験片50が完全に破断した場合は、丸棒試験片51の先端部53の小片がプロセス流体Wと共に流出するので、流出先にザルのようなスクリーン34(図6参照)を設ける等の対策が必要である。
【0037】
次に、SCC試験片50を用いたSSC検出装置1、及びその経時変化を監視するSSC監視方法について、図3〜図6を用いて、より具体的かつ詳細に説明する。
図3は本発明の実施形態に係るSCC検出装置1の一部断面を示した概略説明図であり、(a)二極式、(b)三極式である。なお、この試験は、SCCの生起を外部から目視確認するため、透明なガラス製のセル30,31に満たされた腐食媒体3にSCC試験片50を浸漬して実施している。
【0038】
SCC検出装置1、2は腐食媒体3に浸漬(接触)される測定プローブ24,25と、測定プローブ24,25に接続される電位差計/電流計を含む測定器20と、この測定器20の検出出力を取得して、任意の時間毎にこの検出データを記録(蓄積)し、更に外部に出力可能なデータロガー22と、そのデータロガー22から出力された各種データを処理して表示、記録等を行うパソコン23等から構成される。
【0039】
図3(a)に示す二極式のSCC検出装置1は、二極式測定プローブ24を備え、この二極式測定プローブ24に、SSC試験片50及びそれに対する対極8の二極で構成される測定電極を、適切な位置関係を保持するように絶縁部32で固定する。
図3(b)に示す三極式のSCC検出装置2は、三極式測定プローブ25を備え、この三極式測定プローブ25に、SSC試験片50、対極8及び参照電極10の三極で構成される測定電極を、適切な位置関係を保持するように絶縁部33で固定する。
なお、二極式のSCC検出装置1と、三極式のSCC検出装置2のいずれであっても、被検体と同一の金属であるSCC試験片50によりSSCの状態を電気化学的に検出することが可能である。
【0040】
より詳しくは、セル30,31の腐食媒体3中には、SSC試験片50のほか、対極8も浸漬され、これらSSC試験片50と対極8との電位差及び/又は電流を計測する電位差計/電流計20に配線接続されている。また、セル31の腐食媒体3中には、前記SSC試験片50と対極8に加えて、照合電極10も浸漬され、SSC試験片と対極8との電位差を計測するための基準電位を提供している。これらSCC検出装置1,2の構成によって、SCCの生起を監視する方法(電気化学ノイズ解析、ENA)、すなわち、SSC試験片の電位、もしくは、対極8との短絡電流を連続的に記録し、時系列データを解析することができるように構成されている。
【0041】
すなわち、SCC試験片50と、照合電極10又との間に生ずる電位、すなわち電気化学ノイズを連続計測し、電位の変動として示される信号を解析することによって、試験片にSCCが生起する状態を監視(モニタリング)することができる。
なお、前記照合電極10とは、Ag/AgClを飽和KClなど一定の環境に置くことによって常に一定の電位を与える基準電極であり、実際の暴露系を構成するセル31に対してガラス管(図示せず)などで液絡を確保している。
【0042】
また、その系で腐食しない安定な金属、例えば、チタンなどを基準電極として照合電極10に代用することもできる。そして、基準電極である照合電極10とは異なる材料のSSC試験片50を電極として系に挿入して電位を計測する。計測された電位は、SCCを起こしていない時に高い電位を示し、SCCが生起することによって電位が低下し、SCCの進展中は低い電位を保ち、SCCが停止すれば電位が上昇することが確認できる。
【0043】
また、対極8との間の短絡電流を解析することによっても、SCCの生起が監視できる。対極8は、基本的にSSC試験片50と同一材料を用いるか、又はPtなどの安定した金属を用いる。ステンレス鋼製の円筒などをSCC試験片50と絶縁する形でその周りに設けても良いし、配管自体を対極8とすることもできる。SCC試験片50と対極8が同じ状態であれば、基本的に短絡電流は流れない(平衡状態)が、SCC試験片50にSCCが発生すると割れによる金属の溶解、すなわち下記電気化学反応式に相当する電流が流れることによってSCCの生起が検出できる。
Fe→Fe2+ + 2e
【0044】
また、本発明に係るSCC検出装置1,2によれば、電位、もしくは短絡電流の時系列データをデータロガー22及びパソコン23(図3参照)などに取り込み、電位/電流の変化を検出することによって、SCCのオンラインモニタリングができる。さらに、本発明によれば、配管など、溶接部も含めて、実機構造物構成材料から、SCC試験片50を採取して実装試験することが可能であり、任意の応力を付与することで、評価したい条件でのSCC感受性が評価できる。また、このSCC検出装置1、2によれば、大掛かりなバネ式荷重付与機構その他を用いることなく、SCC試験片50自体で引っ張り応力を発生させて維持できるので、簡素かつ安価にSCCを検出することが可能である。
【0045】
図4は本発明の実施形態に係るSCC検出装置1において試験中の短絡電流62I,64I/電位差61E,63Eの経時変化を示すグラフであり、(a)15時間計測データ、(b)2時間計測データである。図4に示すように、試験中の短絡電流、電位差の経時変化、電位差61E,63E、および短絡電流62I,64Iの絶対値が比較的大きく動いてグラフからはみ出すので、その変化分のみを抽出することで、SCCをより検出しやすく微分表示(図5参照)することが好ましい。
【0046】
図5は本発明の実施形態に係るSCC検出装置1において試験中の短絡電流62I,64I/電位差61E,63Eの微分値の経時変化を計測した2時間計測データである。図5に示すように、試験開始0.7h頃に、電位65E、短絡電流66Iともに顕著なスパイク(電気化学ノイズ)が認められ、この時点でSCCが生起したことを検出できる。このような応力腐食割れ監視方法によれば、感度の高い試験結果を得ることが可能である。
【0047】
図6は本発明の実施形態に係るSCC監視方法の説明図であり、(a)既存の配管100に直接SCC試験片50を取付けた状態の断面図、(b)既存の配管200から分流して設けたバイパス管(以下、「配管」という)201にSCC試験片50を取付けた状態の断面図である。
図6に示すように、SCC感受性を評価すべき被検体は、プロセス流体Wが液圧Pを維持して流れる配管100,200である。この配管100,200における試験片取付け穴101には、絶縁シール21を介在させたSCC試験片50が、その基端部54(図2参照)で支持されながら、配管100,201内に向けて植設されている。また、図6(b)に示すように、スクリーン34を配設することにより、SCC発生による破断片を配管系に流出させることなく回収することができる。
【0048】
このように、プロセス流体Wが流れる配管100,200の試験片取付け穴101から配管100,200内に向けて、SCC試験片50が植設され、腐食媒体3に接触させられることによって実装試験が開始できる。詳しくは、丸棒試験片51の基端部54の一部と、試験片取付け穴101の内周にネジを刻設して両者を螺着すると、金属どうしが直接接触するので電気的導通状態が維持される。ただし、試験の目的によって配管100とSCC試験片50の間を電気的に絶縁するか、あるいは導通状態を維持するかを区別する必要がある。なお、図6では絶縁シール21を介在させて絶縁している。
【0049】
次に、ENAについて、補足説明する。
前述したように、SSCの生起は、特定の腐食環境中におかれた金属材料が、持続的な引張応力のもとで時間依存型の脆性的割れを起こす環境脆化現象である。そのSSC生起の条件は、材料組織、腐食環境、応力の三者が相当程度に満足されることである。
【0050】
本発明のSSC試験片50、SSC検出装置1,2及びSSC監視方法において、SSC試験片50に対する応力と腐食作用を同時に付与させるという必要条件を満足させるので、応力のみで破壊する場合に比較して、降伏応力以下のはるかに低い応力や弱い腐食環境中でも割れが発生する。したがって、本発明に係る応力腐食割れ検知用試験片及び応力腐食割れ検出装置によれば、感度の高い試験結果を得ることが可能である。
【0051】
なお、図示せぬ従来のバネ式荷重付与機構したSCC検出装置において、棒状のSSC試験片に対して500Kgf程度の荷重を付与することによって、実装試験に変えた模擬実験を行っていたが、SCC検出装置1,2は、従来の大掛かりなバネ式荷重付与機構等を用いることなく、所望の引っ張り応力X(図1参照)をSSC試験片50自身で発生させて維持するので、プラント配管等において、簡素・安価で容易に実装試験を行なうことができる。なお、実験室等における模擬実験にも、SSC試験片50用いて効果的であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る応力付与機構を内在したSCC(応力腐食割れ)試験片の説明図であり、(a)斜視図、(b)一部断面略図である。
【図2】図1に示したSCC試験片の詳細図であり、(a)丸棒試験片の側面図、(b)丸棒試験片の正面図、(c)ボルトの正面図、(d)ボルトの側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るSCC検出装置の一部断面を示した概略説明図であり、(a)二極式、(b)三極式である。
【図4】本発明の実施形態に係るSCC検出装置において試験中の短絡電流/電位差の経時変化を示すグラフであり、(a)15時間計測データ、(b)2時間計測データである。
【図5】本発明の実施形態に係るSCC検出装置において試験中の短絡電流/電位差の微分値経時変化を示すグラフであり、(a)15時間計測データ、(b)2時間計測データである。
【図6】本実施形態に係るSCC監視方法の説明図であり、(a)既存の配管に直接SCC試験片を取付けた状態の断面図、(b)既存の配管から分流して設けたバイパス管にSCC試験片を取付けた状態の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1,2…SCC検出装置、 3…腐食媒体、 8…対極(測定電極)、 10…照合電極(測定電極)、 20…測定器、 50…SCC(腐食割れ)試験片、51…丸棒試験片(試験片本体,筒)、 52…ボルト(応力付与機構,押し込み棒)、 53…先端部(両端部)、 54…基端部(両端部)、 55…中央くびれ部、 56…基端部、 57…奥の壁、 58…先端、 60…開口端、 61E,63E,65E…電位(電位差)、62I,64I,66I…短絡電流、 69…応力付与機構、 Q…メネジ(応力付与機構)、 R…オネジ(応力付与機構)、W…プロセス流体(腐食媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食媒体に接触して腐食する被検体の応力腐食割れ状態を検出する応力腐食割れ検知用試験片であって、
前記被検体と同一の金属材料からなる試験片本体と、
前記試験片本体に内蔵されて前記腐食媒体に接することなく前記試験片本体に応力を付与する応力付与機構と、
を備えることを特徴とする応力腐食割れ検知用試験片。
【請求項2】
前記応力付与機構は、
先端が閉じた筒状の前記試験片本体に対して内挿可能な押し込み棒を備え、
前記筒の奥の壁を前記押し込み棒の先端が押圧する押圧力に基づいて規定される応力を前記筒の両端部が引き離される方向に発生することを特徴とする請求項1に記載の応力腐食割れ検知用試験片。
【請求項3】
前記応力付与機構は、
前記筒の開口端近傍の内周に刻設されたメネジと、前記押し込み棒の基端部の外周に刻設されたオネジを螺合し、
前記螺合したネジの締め具合により前記応力を規定することを特徴とする請求項2に記載の応力腐食割れ検知用試験片。
【請求項4】
前記筒の長手方向に対する中央部の外径を、前記筒の両端部の外径よりも細くした中央くびれ部を形成したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の応力腐食割れ検知用試験片。
【請求項5】
前記被検体である配管又は容器に穿設された取付け穴に密嵌固定して用いることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の応力腐食割れ検知用試験片。
【請求項6】
被検体の応力腐食割れ状態を電気化学的に検出可能に配線接続された複数の測定電極と、
前記測定電極間の電流及び/又は電位差を測定する測定器と、
を備えた応力腐食割れ検出装置において、
前記測定電極のうち少なくとも1つに、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の応力腐食割れ検知用試験片を用いたことを特徴とする応力腐食割れ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−85811(P2009−85811A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257231(P2007−257231)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】