説明

応急用スイッチアジャスタ

【課題】暫定的復旧のために一時的に分岐器に組み込み、転換などの作業を実施できる応急用スイッチアジャスタを提供する。
【解決手段】応急用スイッチアジャスタは第1ロット1と、この第1ロッド1との間に偏心距離をおいて配置される第2ロッド2とを有する。また、第1ロッド1の調整用ねじ5に移動可能に設けられる、2本のロッドの偏心距離とロッド長さとを調整するロッド調整機構6を備える。多様な分岐器に適合するようにロッド調整機構6を用いて予めスイッチアジャスタ所要寸法Lと第1ロッド1と第2ロッド2との偏心距離Sを調整しておくことで、直ちに分岐器に組み込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分岐器に付設した機器の故障に臨んで暫定的復旧を目的に分岐器に組み込み、ポイント転換などの作業を実施する応急用スイッチアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道輸送は今日ますます重要性を増している。この理由は他の追従を許さない大量輸送が可能で、極めて効率的に物資および人を目的の場所へ輸送できること、高速ないし超高速運転が可能で、時代の要請によくマッチしていること、給電方式による電気運転が可能で、排ガスなどの有害物質を環境に排出しないこと、他の輸送手段と比べて格段に安全性が高いことなどによるものである。
【0003】
ところで、鉄道輸送には法律で規定された一定の基準を満たす施設が不可欠であり、施設供用中、鉄道事業者は安全な輸送のためにその施設の保守に万全を期すことを求められる。よく知られるように、鉄道施設の中核をなす軌道には本線から分れる幾つかの分岐線を含み、この分岐線の本線との交差部には、いわゆる分岐器が設けられる。
【0004】
一般に、分岐器には転換を円滑に行うスイッチアジャスタが付設される。スイッチアジャスタとは転轍機の動程をトングレールの行程に合わせ、かつ、トングレールを一定の圧力で押し付ける(密着と称する)役割を担う装置について称する。スイッチアジャスタは、典型的には、図5に示すように、図示しない転轍機の動力装置と連結されたロッド51を備える。このロッド51は2本のトングレール(図示せず)をつなぐタイバー52と腕金具53を介して連結しており、動力装置の作動によってロッド51が水平に動き、ロッド51の動作に従うタイバー52の運動で2本のトングレールを基本レールと接触させることができる。
【0005】
ロッド51の先端には調整用ねじ54が刻まれ、そこに筒ナット55とナット56とが螺合している。筒ナット55のスリーブ57に回転可能に係合させた腕金具53の位置を変化させることによってトングレール行程を変えることが可能で、トングレールが基本レールと接触したときの密着程度を調整することができる。なお、図において符号58は締付けナットを示している。
【0006】
一般に、スイッチアジャスタの汎用性は低く、規格品としてのスイッチアジャスタがある特定の分岐器には適合するとしても、それ以外の分岐器には合わない場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
故障やトラブルからの復旧等に際して、分岐器の転換でスイッチアジャスタを作動させて基本レールにトングレールを接触させようとしても、スイッチアジャスタ動作の不調によってトングレールを押し付けることができず、トングレールの密着程度が適正な値から外れてしまうことから、スイッチアジャスタの使用を中止せざるを得なくなることがある。仮にその場で代替手段によって急場をしのごうとしても、スイッチアジャスタ全体の交換による復旧は新しいスイッチアジャスタを入手できるまでに長い時間を費やし、速やかな対応が取れない可能性がある。
【0008】
通常、規格品として作られるスイッチアジャスタは取付け対象が規格から外れている場合には当然使用できない。たとえば、予備品等にも分岐器にマッチするスイッチアジャスタがない場合には、復旧時間が著しく延びてしまうことから、同様な機能を有する手段に一時的に頼らなければならない。しかしながら、一時的とはいえ、スイッチアジャスタに代わって転換を的確に行う手段はなく、暫定的復旧を意図して直ちに使用できる手段が求められている。
【0009】
そこで、本発明の目的は暫定的復旧のために一時的に分岐器に組み込み、転換などの作業を実施できるようにした応急用スイッチアジャスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る応急用スイッチアジャスタは調整ねじを有する第1ロッドと、第1ロッドとの間に偏心距離をおいて設けられ、調整用ねじを有する第2ロッドと、第1ロッドの調整用ねじに移動可能に設けられ、偏心距離を調整すると共に、ロッド長さを調整するロッド調整機構と、第2ロッドの調整用ねじに移動可能に設けられ、トングレール行程を調整する調整装置とを備えるものである。
【0011】
本発明においてはロッド調整機構を用いて予め決められたスイッチアジャスタ所要寸法に合わせてロッド長さを調整する。分岐器構造によって幾分かのロッド長さの調整が必要となった場合にも、ロッド調整機構の連結部材を移動してその位置で固定するだけでその場で直ちに分岐器に合わせることができる。また、ロッド調整機構を用いて予め第1ロッドと第2ロッドとの偏心距離(オフセット)を調整する。このオフセット調整は前もって2つの標準的値のどちらかに合わせるだけでその場で調整しないで、直ちに分岐器に取付けることができる。
【0012】
かくして、供用中の分岐器からスイッチアジャスタを取り外した後、直ちに応急用スイッチアジャスタを分岐器に組み込むことが可能で、緊急に行わなければならない転換などの作業を実施することができる。これにより、スイッチアジャスタ交換を迫られる分岐器故障に直面しても、応急用スイッチアジャスタを分岐器に組み込むことで、短時間のうちに暫定的復旧を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による応急用スイッチアジャスタの一実施の形態について図面を参照して説明する。図1において、本実施の形態のスイッチアジャスタは偏心させて配置される2本のロッド、すなわち、第1ロッド1と第2ロッド2とを有する。この第1ロッド1は一端に回転自在なピン結合部を形成する、二股状のジョー3を備える。このジョー3には継手平面部と交差する方向にジョーピン4が設けられ、ジョーピン4を中心として第1ロッド1が回転できるようになっている。第1ロッド1は回転自在なピン結合部と反対側に連結部5を備えており、この連結部5には第1ロッド1と第2ロッド2とを連結した状態でロッド長さを調整するロッド調整機構6が設けられる。
【0014】
また、第2ロッド2はその一端に後に詳述される連結部材のねじ孔と螺合するねじ7を有する。レールRの下側に所定の長さを保って延在する、第2ロッド2は他端に調整用ねじ8を有する。この第2ロッド2の調整用ねじ8は2本のトングレール(図示せず)のほぼ中間に位置し、調整用ねじ8に合わせて第2ロッド2とトングレール間を結ぶタイバー9とを連結し、かつ、トングレール行程を調整する調整装置10が設けられる。
【0015】
ロッド調整機構6は、図2(a)に示すように、第1ロッド1の連結部5に配置される連結部材11を有する。この連結部材11は所定の間隔を保って穿たれたB字形透孔12とねじ孔13とを備え、第1ロッド1がB字形透孔12に挿通され、第2ロッド2のねじ7がねじ孔13と螺合される。第1ロッド1の連結部5には調整用ねじ14が刻設されており、連結部材11はこのねじ14と螺合する一対のナット15a、15bによって固定される。
【0016】
一対のナット15a、15bが共に弛められたとき、連結部材11はロッド軸方向に移動することが可能で、この動作に従う第2ロッド2の同一方向への変位によってロッド長さを調整することができる。ナット15a、15bが弛むのを止めるために連結部5にはロックナット16a、16bが設けられる。第2ロッド5が弛むのを止めるためにねじ7と螺合するナット17が設けられる。
【0017】
B字形透孔12は、図2(b)に示すように、第1ロッド1の位置を定める2つの中心c1、c2を有する。本実施の形態では、たとえば、第2ロッド2との間で分岐器構造に合わせて90mmと105mmとに変えることができるように、偏心距離S(図1参照)を決定している。このため、B字形透孔12の2つの中心c1、c2は互いの間に15mmの差があり、これにより、第2ロッド2を90mmと105mmとに偏心させて取付けることが可能である。このB字形透孔12は第1ロッド1の回転を止めるための平面部18を有する。
【0018】
一方、調整装置10は、図3に示すように、第2ロッド2の調整用ねじ8と螺合する筒ナット19を有する。この筒ナット19は一端に延びるスリーブ20を備え、このスリーブ20に回転自在に腕金具21が装着されている。この腕金具21は連結部21aを有し、腕金具21がこの連結部21aによってトングレール間を結ぶタイバー9と結ばれるようになっている。筒ナット19のスリーブ20と腕金具21と対峙してねじ8と螺合するナット22が設けられる。
【0019】
筒ナット19またはナット22が弛められたとき、スリーブ20に挿通された腕金具21はロッド軸方向に移動することが可能で、予め決められたトングレール行程を調整することができる。第2ロッド2には筒ナット19およびナット22が弛むのを止めるために締付けナット23a、23bがそれぞれ設けられる。腕金具21の上面に一方は筒ナット19にわたり、他方がナット22にわたるように回り止め24が装着される。
【0020】
この回り止め24は、図4に示すように、第2ロッド2のねじ8上で同じ向きに揃えられた筒ナット19とナット22とに掛かるように係合させ、振動などによって引き起こされる各ナットの回転を止める。この回り止め24は腕金具21に割ピンを通すピン25によって固定される。
【0021】
また、腕金具21と組み合う接続板26が設けられる。腕金具21と接続板26とはそれぞれに穿たれる4個のボルト孔に挿通するボルト27とそれに螺合するナット28とによって締付けられる。なお、図において、符号29はトングレールに流れる軌道回路電流が相手レールに流れるのを防ぐ軌間絶縁を示している。
【0022】
分岐器への応急用スイッチアジャスタの装着手順を説明する。分岐器から使用中止となったスイッチアジャスタを取り外す。レールRの下側を通して第2ロッド2を2本のトングレールの間にかけて挿入し、腕金具21の中心がトングレールの間のほぼ中心にくるように位置を定める。このとき、第2ロッド2のねじ8上の筒ナット19とナット22とは緩めておく。図示しない転轍機の駆動部動作かんの中心にジョー3の中心を合わせ、ジョーピン4を通して仮組みする。腕金具21を動かしてボルト孔の中心をタイバー9のボルト孔の中心にそれぞれ心出しながら、ボルト27を挿入して固定する。
【0023】
この後、筒ナット19を腕金具21に当接するまで締め、ナット22を腕金具21との間に幾分かの隙間があるように締め、さらに締付けナット23a、23bを締め上げて筒ナット19とナット22とをその位置に固定する。トングレールの密着度測定で望ましい値が得られない場合、締付けナット23a、23bを緩めて筒ナット19とナット22との間の腕金具21の位置を変えて望ましい密着度が得られるまで調整する。
【0024】
分岐器構造で決まるスイッチアジャスタ所要距離L(図1参照)の標準的値は1,350mmである。この値を目安として予めロッド調整機構6を用いてロッド長さを調整しておくことで、分岐器への取付けではトングレールとの間で極端な寸法の相違は発生しないで、速やかにスイッチアジャスタの取付けを完了することができる。
【0025】
また、分岐器構造で決まる偏心距離S(図1参照)の標準的値は90mmである。予めB字形透孔12の90mm用中心c1に合わせて第2ロッド2を取付けておくことで、分岐器への取付けでは極端な寸法の相違は発生しないで、速やかにスイッチアジャスタの取付けを完了することができる。
【0026】
スイッチアジャスタ所要距離Lが1,350mmと相違してロッド長さに寸法のくい違いがある場合、ロッド調整機構6の連結部材11をねじ5に沿って動かしてロッド長さを伸長し、もしくは縮小し、その場で分岐器に適合するスイッチアジャスタとする。また、偏心距離Sが90mmと相違して偏心距離に寸法のくい違いがある場合、第2ロッド2をB字形透孔12のもう1つの中心c2に合わせて取付け、その場で分岐器に適合するスイッチアジャスタとする。
【0027】
かくして、供用中の分岐器からスイッチアジャスタを取り外した後、直ちに応急用スイッチアジャスタを分岐器に組み込むことが可能になり、緊急に行わなければならない転換などの作業を実施することができる。これにより、スイッチアジャスタ交換を迫られる故障に直面しても、応急用スイッチアジャスタを分岐器に組み込んで短時間のうちに暫定的復旧を果たすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の応急用スイッチアジャスタは鉄道用分岐器に一時的に組み込み、転換などの作業を実施するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による応急用スイッチアジャスタの一実施の形態を示す構成図である。
【図2】図1に示されるロッド調整機構の詳細を示すもので、(a)はロッド調整機構の正面図、(b)は連結部材の正面図である。
【図3】図1に示される調整装置の平面図である。
【図4】図3のX−X線に沿う断面図である。
【図5】従来のスイッチアジャスタの一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1… 第1ロッド
2… 第2ロッド
5、8… 調整用ねじ
6… ロッド調整機構
9… タイバー
10… 調整装置
11… 連結部材
12… B字形透孔
19… 筒ナット
21… 腕金具
22… ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調整ねじを有する第1ロッドと、前記第1ロッドとの間に偏心距離をおいて設けられ、調整用ねじを有する第2ロッドと、前記第1ロッドの調整用ねじに移動可能に設けられ、前記偏心距離を調整すると共に、ロッド長さを調整するロッド調整機構と、前記第2ロッドの調整用ねじに移動可能に設けられ、トングレール行程を調整する調整装置とを備える応急用スイッチアジャスタ。
【請求項2】
前記ロッド調整機構が前記第1ロッドの調整用ねじが挿通される透孔および前記第2ロッドのねじが螺合するねじ孔を備える連結部材と、前記連結部材を前記第1ロッドに固着する一対のナットと、前記第2ロッドを前記連結部材に固着する締付けナットとを具備する請求項1記載の応急用スイッチアジャスタ。
【請求項3】
前記連結部材の透孔が前記第1ロッドの位置を定める2つの中心を有するB字形透孔として形成されるようにした請求項2記載の応急用スイッチアジャスタ。
【請求項4】
前記連結部材のB字形透孔が前記第1ロッドの回転を止める平面部を有する請求項3記載の応急用スイッチアジャスタ。
【請求項5】
前記調整装置が互いに対向して前記第2ロッドの調整用ねじと螺合する筒ナットおよびナットと、前記筒ナットのスリーブに回転自在に設けられ、タイバーと連結する連結部を有する腕金具と、前記腕金具の連結部を前記タイバーに固着する複数の締結部材と、前記筒ナットおよびナットの弛みを抑える締付けナットとを備える請求項1記載の応急用スイッチアジャスタ。
【請求項6】
前記調整装置が前記筒ナット、ナットおよび締付けナットの弛みを止める回り止めを備える請求項5記載の応急用スイッチアジャスタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−82624(P2006−82624A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267733(P2004−267733)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000159423)吉原鉄道工業株式会社 (36)
【Fターム(参考)】