説明

急性冠症候群を有する患者での既存の心筋機能不全の評価のためのナトリウム利尿ペプチド/トロポニン比

本発明は、臨床診断のための方法およびデバイスに関する。具体的には、本発明は、急性心筋梗塞に罹患した被験体が既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断する方法に関し、該方法は、(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップ;(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;(c)比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するステップ;(d)ステップ(c)で算出した比に基づいて、上昇したナトリウム利尿ペプチドレベルが既存の心筋機能不全に関連するか、または上昇したレベルが急性心筋梗塞により引き起こされているかを診断するステップを含む。該方法は、個体が、心筋梗塞が生じる前に心筋機能不全、特に心不全に罹患していたかどうかを決定することを可能にする。さらに、本発明は、上述の方法を実施するための診断用デバイスおよびキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床診断のための方法およびデバイスに関する。具体的には、本発明は、急性心筋梗塞に罹患した被験体のサンプル中の上昇した量のナトリウム利尿ペプチドが心筋梗塞の急性イベントによって引き起こされたかどうか、または上昇した量が、心筋梗塞が発生する前に存在した心筋機能不全に関連するかどうか、または両者の組み合わせに関連するかどうかを識別する方法に関する。該方法は、該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドおよび心筋トロポニンの量を測定するステップおよび、ナトリウム利尿ペプチドと心筋トロポニンの比から、患者が心血管障害に罹患しているかどうかを診断するステップを含む。さらに、本発明は、上述の方法を実施するための診断用デバイスおよびキットに関する。
【0002】
現代医学の目的は個人的または個別の(personalized or individualized)治療方式を提供することである。それは患者の個別のニーズまたはリスクを考慮に入れた治療方式である。個人的または個別の治療方式は、短期間のうちに治療方式の候補に関して決定を下すことが必要とされる緊急措置に関してさえ考慮に入れられるものとする。心疾患は西半球における罹患および死亡の主要原因である。該疾患は長期間無症候性のままでありうる。しかし、循環器病の原因である急性心血管系イベント、例えば心筋梗塞が生じると、それらは重篤な結果を招くことがある。
【0003】
心不全は、十分な量の血液で充満し、それを身体中にポンプする心臓の能力を低下させる任意の構造上または機能上の心臓の障害に起因しうる症状である。最良の治療をもってしても、心不全は約10%の年間死亡率に結びつく。心不全は慢性疾患であり;それは、とりわけ、急性心血管系イベント(心筋梗塞等)後に生じるか、または例えば心筋組織の炎症性または退行性変化の結果として生じうる。心不全患者はNYHA系にしたがってクラスI、II、IIIおよびIVに分類される。心不全を有する患者は、治療処置を受けることなくしてその健康を完全に回復することはできない。
【0004】
心筋機能不全は一般用語であり、心筋(myocard)のいくつかの病理学的状態を説明する。心筋機能不全は、心不全とは対照的に、一時的病理学的状態(例えば虚血、毒性物質、アルコール、...に起因する)であってよい。心筋機能不全は、根底にある原因を取り除いた後に消滅する。しかし、無症候性の心筋機能不全は心不全に発達することもある(それは治療において処置される必要がある)。しかし、心筋機能不全は心不全、慢性心不全、さらには重症慢性心不全であることもある。
【0005】
心筋機能不全および心不全は、特に症状が「軽度」であるとみなされる場合に、診断未確定のままであることがよくある。心不全の慣用の診断技術は周知の血管量(vascular volume)ストレスマーカーであるNT−proBNP、ナトリウム利尿ペプチドに基づく。しかし、NT−proBNPに基づくいくつかの医療状況下での心不全の診断は、すべてではないがかなりの数の患者に関して不正確であるようである(例えば、Beck 2004, Canadian Journal of Cardiology 20: 1245-1248; Tsuchida 2004, Journal of Cardiology, 44:1-11)。しかし、特に心不全に罹患している患者は心不全の支持療法を緊急に必要とする。他方、心不全の不正確な診断の結果として、多数の患者が、不十分であるかまたは有害な副作用さえ有する治療方式を受ける。
【0006】
心不全を有する患者は、急性心疾患、概して急性冠症候群を発症することもある。ACSは、不安定狭心症UAPおよび急性心筋梗塞MIの状態を含む。
【0007】
MIは冠性心疾患CHDに属すると分類され、同様にCHDに属すると分類される他のイベント、例えば不安定狭心症UAPが先に起きる。UAPの症状は胸痛であり、それはニトログリセリンの舌下投与によって緩和される。UAPは冠血管の部分的閉塞に起因し、それは低酸素血症および心筋虚血を生じさせる。閉塞が非常に重症であるかまたは全体的である場合、心筋壊死(心筋梗塞の根底にある病理学的状態)が生じる。MIは明らかな徴候を伴わずに生じることがあり、すなわち、被験体は全く不快感を示さず、MIは安定または不安定狭心症によって先行されない。
【0008】
しかし、UAPはMIに先行する症候性イベントである。被験体のCHDは無症候性で生じることもあり、すなわち被験体は不快を感じず、かつCHDの徴候、例えば息切れ、胸痛または当業者に公知の他の徴候を全く示さない。しかし、被験体は病気であり、冠血管の機能不全を罹患していて、その結果、MIおよび/またはうっ血性心不全CHFが生じるかもしれない。これは、心臓が、被験体の身体への必要な血液供給を確保するために必要とされるよう機能する能力を有さないことを意味する。これは重篤な合併症を生じさせることがあり、その一例は心臓死である。
【0009】
急性心血管系イベント(例えば心筋梗塞)の徴候、例えば胸痛に罹患している患者は、現在、心筋トロポニンに基づく診断、一般にトロポニンTまたはトロポニンIに供される。この目的のために、患者のトロポニンT/Iレベルが測定される。血液中のトロポニンTの量が上昇し、すなわち0.1ng/mLを超えれば、急性心血管系イベントが推定され、患者はそれにしたがって治療される。
【0010】
しかし、ナトリウム利尿ペプチドを排他的に測定することによって得られた情報は、心筋機能不全が急性心筋梗塞前にすでに存在したかどうかを評価することを可能にしない。
【0011】
急性心筋梗塞は心臓の冠血管の閉塞に起因し、心筋組織の種々のサイズの領域の死を生じさせる。心筋の死はトロポニンT(心臓特異的分子)またはトロポニンIの上昇を引き起こし、それを血清/血漿中で検出することができる。さらに、心筋の死は心臓のポンプ機能の損失と結びつき、上昇レベルのナトリウム利尿ペプチドを生じさせる。
【0012】
トロポニンTおよび同様にトロポニンIおよびナトリウム利尿ペプチド、特にNT−proBNPのレベルは心筋梗塞の約4〜6時間後に上がり始める。その後医師に診てもらう患者は上昇レベルの該ペプチドを有する。
【0013】
ナトリウム利尿ペプチド、特にNT−proBNPの値に関して、
(a)上昇したレベルの該ペプチドが急性MIの結果であるかどうか、または
(b)上昇したNT−proBNP値がMI前にすでに存在したかどうか、または
(c)MIによる心臓の機能の変性および既存の心筋機能不全の両者に該値が起因するかどうか
を評価することはできない。前記議題の間の識別を可能にする手段および方法を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Beck 2004, Canadian Journal of Cardiology 20: 1245-1248
【非特許文献2】Tsuchida 2004, Journal of Cardiology, 44:1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の根底にある技術的な課題は、上記必要性に適合する手段および方法の提供であると理解することができる。この技術的な問題は、特許請求の範囲および下記明細書中で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、急性心筋梗塞に罹患した被験体が、既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断する方法であって、以下のステップ:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップ;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;
(c)比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するステップ;
(d)ステップ(c)で算出した比に基づいて、上昇したナトリウム利尿ペプチドレベルが既存の心筋機能不全に関連するか、または上昇したレベルが急性心筋梗塞により引き起こされているかを診断するステップ
を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、好ましくは、in vitro法である。さらに、本発明の方法は、上で明示されたステップに加えてステップを含んでよい。例えば、追加のステップはサンプルの前処理または該方法によって得られた結果の評価に関する。本発明の方法は、被験体のモニタリング、確認、および細分類のために使用してもよい。該方法は手動で実施するか、または自動化によって支援してよい。好ましくは、ステップ(a)および/または(b)および/または(c)および/または(d)を、例えば、ステップ(a)および/または(b)での測定に好適なロボットおよびセンサー装置によって、またはステップ(c)でのコンピュータ実装比較によって、全体的または部分的に自動化によって支援してよい。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、急性イベントが生じた1〜3日後(24〜72時間)、好ましくは36〜60時間に入る時点、最も好ましくは約48時間後の時点でナトリウム利尿ペプチドのレベルを測定する。
【0019】
本明細書中で使用される用語「診断」とは、上昇したレベルのナトリウム利尿ペプチドおよび/または心筋トロポニンを有する被験体が既存の(すなわちACSの発生前に)心筋機能不全、特に心不全に罹患しているか否かに関する評価を意味する。当業者に理解されるように、そのような評価は、通常、特定される対象の被験体のすべて(すなわち100%)に関して正しいことを意図されない。しかし、該用語は、被験体の統計学的に有意な割合(portion)が特定できることを必要とする(例えばコホート研究でのコホート)。割合が統計学的に有意であるかどうかは、種々の周知の統計学的評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マン・ホイットニー検定等を使用して、当業者が追加の面倒なく決定することができる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出せる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。より好ましくは、集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%を本発明の方法によって適正に特定することができる。
【0020】
本発明での診断には、関連疾患、その徴候またはリスクのモニタリング、確認、細分類および予測が含まれる。モニタリングとは、すでに診断された疾患の経過を追うことに関する。確認とは、すでに実施された診断を、他の指標またはマーカーを使用して強化または実証することに関する。細分類とは、診断された疾患の異なるサブクラスにしたがって診断をさらに限定すること、例えば軽度および重度の疾患形式にしたがう限定に関する。
【0021】
本明細書中で使用される用語「被験体」とは、動物、好ましくは哺乳動物に関し、より好ましくはヒトに関する。好ましくは、上述の方法で言及される被験体は、心筋機能不全、特に心不全、および/または心筋梗塞に罹患しているか、またはそれに付随する徴候または臨床パラメータ、例えば増加したNT−proBNPレベルまたは増加したトロポニンTレベルを示し、すなわち、心筋機能不全、特に心不全、および/または心筋梗塞に罹患していると少なくとも疑われる。
【0022】
したがって、心筋トロポニンレベルのみから、上昇したトロポニンレベルを有する被験体が心筋機能不全、特に心不全にも罹患しているかどうかを診断することは可能ではない。同様に、ナトリウム利尿ペプチドレベルのみから、上昇したナトリウム利尿ペプチドレベルを有する被験体が、おそらく心筋機能不全、特に心不全と併せて、心筋梗塞にも罹患しているかどうかを診断することは可能ではない。
【0023】
前記の診断を確立するために、本発明は、心筋トロポニンに加えて、ナトリウム利尿ペプチドのレベルを測定するよう教示する。得られた値から算出されるナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニンの比から、被験体が急性心筋梗塞にのみ罹患しているか、または被験体が心筋機能不全(壁応力を生じさせ、その結果、ナトリウム利尿ペプチドのレベルを上昇させる)にも罹患していて、それが心筋梗塞を引き起こしたかどうかは明らかである。本発明の教示にしたがって得られる診断によって、心筋梗塞後の治療を高い精度で標的化しかつ管理することが可能になる。
【0024】
本発明では、低い比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)は、MIが発生する前に心筋機能不全が存在しなかったか、またはわずかな程度にしか存在しなかったことを示す。高い比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)は、既存(すなわちMI前)の心筋機能不全を示す。当業者は、そのレベルが測定されるナトリウム利尿ペプチドによっては、心筋機能不全を示すか示さない値が変動することを承知している。
【0025】
MI前にわずかな心筋機能不全しか有さないか、または心筋機能不全を全く有さない個体は、数週または数ヵ月、例えば3ヵ月後に、少なくとも高い程度に、心筋の機能性を再生する。対照的に、(MI前に)既存のかなりの心筋機能不全のみを有する個体は、数週または数ヵ月後に心筋の機能性をほとんど再生しない。その場合、MIが発生し、かつ比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)が既存の心筋機能不全を示した直後に治療を開始することができる。
【0026】
以下の値はNT−proBNPに関して確立されている値である。ここで、好ましくは、10以上の(10より高いか10に等しい)比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)は心筋機能不全を示す。5以上の(5より高いか5に等しい)比は心筋機能不全の発生の高い確率を示す。3以上の(3より高いか3に等しい)比は心筋機能不全の発生の非常に高い確率を示す。1以上の(1より高いか1に等しい)比は心筋機能不全の発生のさらに高い確率を示す。1未満の比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)は、心筋トロポニン値が心筋機能不全と関連していないか、またはおそらく関連していないことを示す。これらの値は、他のナトリウム利尿ペプチドにも同様に適用される。それは異なってもよい。しかし、本発明の知識では、先行技術で公開されている値を適用することによって、または所定の測定において、別のナトリウム利尿ペプチドとNT−proBNPを取り替えることによって上記値を他のナトリウム利尿ペプチドに適合させることを当業者は承知している。
【0027】
以下の値は、トロポニンTと無関係にNT−proBNPに関して確立されている値である。
【0028】
ここで、好ましくは、3000pg/mL以上のトロポニンTレベルは強いMIを示す。1000〜3000pg/mLの値は中程度のMIを示す。100〜1000pg/mLの値はわずかなMIを示す。100未満の値はMIが発生していないことを示す。
【0029】
以下の値は、NT−proBNPと無関係にトロポニンTに関して確立されている値である。
【0030】
ここで、好ましくは、2000pg/mL以上のNT−proBNPレベルは強い心筋機能不全を示す。800〜2000pg/mLの値は中程度の心筋機能不全を示す。300〜800pg/mLの値はわずかな心筋機能不全を示す。125未満の値は正常範囲であり、心筋機能不全を示さない。これらのデータは年齢および/または腎機能不全に応じて変動する。
【0031】
本発明の方法は、該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ、および被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップを含む。これらのステップは同時に実施するか、または事前もしくは事後に実施してよい。
【0032】
用語「心筋トロポニン」とは、心臓の細胞および、好ましくは、心内膜下細胞で発現されるすべてのトロポニンアイソフォームを表す。これらのアイソフォームは、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4: 681-686およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に記載されるように、当技術分野において十分に特徴付けられている。
【0033】
好ましくは、心筋トロポニンはトロポニンTおよび/またはトロポニンIを表す。
【0034】
したがって、両方のトロポニンを本発明の方法において、一緒に、すなわち同時にもしくは連続して、または個別に、すなわち他のアイソフォームをまったく測定することなく測定してよい。
【0035】
ヒトトロポニンTおよびヒトトロポニンIのアミノ酸配列はAnderson, 上掲およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に開示されている。用語「心筋トロポニン」はまた、上記の具体的トロポニン、すなわち好ましくはトロポニンTまたはトロポニンIの変異体を包含する。そのような変異体は、具体的心筋トロポニンと少なくとも同一の必須の生物学的および免疫学的特性を有する。特に、それらが、本明細書中で言及される同一の特異的アッセイ、例えば該心筋トロポニンを特異的に認識するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を使用するELISAアッセイによって検出可能であるならば、それらは同一の必須の生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本発明において言及される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失および/または付加に起因して異なるアミノ酸配列を有するものとし、該変異体のアミノ酸配列は、依然として、好ましくは、具体的トロポニンのアミノ配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であることが理解される。変異体は対立遺伝子変異体または任意の他の生物種特異的ホモログ、パラログ、またはオルソログであってよい。さらに、本明細書中で言及される変異体には、具体的心筋トロポニンまたは上記タイプの変異体の断片が、該断片が上記で言及される必須の免疫学的および生物学的特性を有する限り、含まれる。そのような断片は、例えば、トロポニンの分解産物である。さらに、翻訳後修飾、例えばリン酸化またはミリスチル化に起因して異なる変異体が含まれる。
【0036】
用語「ナトリウム利尿ペプチド」は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型および脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型ペプチドおよび同一の予測上の潜在能力を有するその変異体を含む。本発明によるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型ペプチドおよびBNP型ペプチドならびにそれらの変異体を含む(例えばBonow, 1996, Circulation 93: 1946-1950を参照のこと)。ANP型ペプチドは、pre−proANP、proANP、NT−proANP、およびANPを含む。BNP型ペプチドは、pre−proBNP、proBNP、NT−proBNP、およびBNPを含む。pre−proペプチド(pre−proBNPの場合は134アミノ酸)は短いシグナルペプチドを含み、それが酵素によって切断除去されてproペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)が放出される。proペプチドはさらに切断されてN末端proペプチド(NT−proペプチド、NT−proBNPの場合は76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)になる。本発明の好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT−proANP、ANP、NT−proBNP、BNP、およびその変異体である。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、そのそれぞれの不活性対応物、NT−proANPおよびNT−proBNPより短い半減期を有する。BNPは血液中で代謝され、一方、NT−proBNPはインタクトの分子として血液中を循環し、そして腎臓で排除される。NTproBNPのin vivo半減期は、20分であるBNPのin vivo半減期より120分長い(Smith 2000, J Endocrinol. 167: 239-46.)。事前分析論(Preanalytics)はNT−proBNPの場合がより頑強であり、サンプルを中央検査室に容易に輸送することが可能になる(Mueller 2004, Clin Chem Lab Med 42: 942-4.)。血液サンプルを室温で数日間保存することができ、または回収の損失なく郵送もしくは輸送することができる。対照的に、BNPを室温または4℃で48時間保存すると、少なくとも20%の濃度の損失が生じる(Mueller、上掲; Wu 2004, Clin Chem 50: 867-73.)。したがって、時間経過または目的の特性に応じて、活性または不活性型のナトリウム利尿ペプチドの測定が有益でありうる。本発明による、より好ましいナトリウム利尿ペプチドは、BNPおよびNT−proBNPまたはそれらの変異体である。本発明の最も好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT−proBNPまたはその変異体である。簡潔に上記で考察されるように、本発明において言及されるヒトNT−proBNPは、ヒトNT−proBNP分子のN末端部分に対応する76アミノ酸長を好ましくは含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT−proBNPの構造は先行技術、例えばWO02/089657、WO02/083913またはBonow(上掲)においてすでに詳細に報告されている。好ましくは、本明細書中で使用されるヒトNT−proBNPはEP0648228 B1に開示されているヒトNT−proBNPである。これらの先行技術文献は、該文献中に開示されているNT−proBNPおよびその変異体の具体的配列に関して、参照によりここに組み入れられる。本発明において言及されるNT−proBNPは、上記で考察されるヒトNT−proBNPの該具体的配列の対立遺伝子変異体および他の変異体をさらに包含する。特に、ヒトNT−proBNPに対してアミノ酸レベルで少なくとも60%同一、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一の変異体ポリペプチドが想定される。それぞれの全長ペプチドに対する診断手段またはリガンドによって依然として認識されるタンパク質分解による分解産物は、実質的に類似でありかつ想定される。また、ヒトNT−proBNPのアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換、および/または付加を有する変異体ポリペプチドが、該ポリペプチドがNT−proBNP特性を有する限り、包含される。本明細書中で言及されるNT−proBNP特性は免疫学的および/または生物学的特性である。好ましくは、NT−proBNP変異体は、NT−proBNPと同等の免疫学的特性(すなわちエピトープ構成)を有する。ゆえに、該変異体は、ナトリウム利尿ペプチドの量の測定に使用される上記手段またはリガンドによって認識されるものとする。生物学的および/または免疫学的NT−proBNP特性は、Karl et al.(Karl 1999, Scand J Clin Invest 230:177-181)、Yeo et al.(Yeo 2003, Clinica Chimica Acta 338:107-115)に記載のアッセイによって検出することができる。また、変異体には、翻訳後修飾ペプチド、例えばグリコシル化ペプチドが含まれる。さらにまた、本発明の変異体は、サンプルの回収後に、例えばペプチドへの標識、特に放射性または蛍光標識の、共有結合または非共有結合による付加によって改変されたペプチドまたはポリペプチドである。
【0037】
すでに上記で考察されるように、閾値として働く好ましい参照量をULNから得ることができる。所定の被験体集団に関するULNは、本明細書中の他の箇所で指定されるように決定することができる。ナトリウム利尿ペプチドおよび、特にNT−proBNPに関する好ましい閾値(すなわち参照量)は、ULNの少なくとも1倍、より好ましくは2〜4倍である。好ましくは、この関連で言及されるNT−proBNPのULNは125pg/mLである。他のナトリウム利尿ペプチドのULNは当技術分野において公知であり、好ましくは、ANPでは40pg/mL、BNPでは50pg/mL、NT−proANPでは800pg/mLである。参照量より多いナトリウム利尿ペプチドの量は、より好ましくは、心不全に罹患している被験体をさらに示す。
【0038】
本発明は、好ましくは心筋機能不全および心不全の群から選択される、心臓の障害に関する。
【0039】
本明細書中で使用される用語「心筋機能不全」は一般的用語であり、心筋のいくつかの病理学的状態に関する。心筋機能不全は、一時的病理学的状態(例えば虚血、毒性物質、アルコール、...に起因する)であってよい。心筋機能不全は、根底にある原因を取り除いた後に消滅する。本発明の関連では、心筋機能不全は無症候性の心筋機能不全でありうる。心筋機能不全、特に無症候性の心筋機能不全は心不全に発達することもある。心筋機能不全は重症慢性心不全であってもよい。一般に、心筋機能不全は心臓の収縮および/または拡張機能の障害であり、心筋機能不全は心不全を伴うか伴わないで発生してよい。前記の任意の心不全は無症候性であってよい。
【0040】
本明細書中で使用される用語「心不全」は、心臓の収縮および/または拡張機能の障害に関する。好ましくは、本明細書中で言及される心不全はまた、慢性心不全である。心不全は、New York Heart Association(NYHA)にしたがって機能的分類系に分類することができる。NYHAクラスIの患者は循環器病の明らかな徴候を有さないが、機能障害の客観的証拠をすでに有する。身体活動は制限されず、通常の身体活動によって過度の疲労、動悸、または呼吸困難(息切れ)は生じない。NYHAクラスIIの患者は身体活動のわずかな制限を有する。彼らは安息時には快適であるが、通常の身体活動によって疲労、動悸、または呼吸困難が生じる。NYHAクラスIIIの患者は身体活動の顕著な制限を示す。彼らは安息時には快適であるが、通常に満たない活動によって疲労、動悸、または呼吸困難が生じる。NYHAクラスIVの患者は不快感を伴わずにはいかなる身体活動も行うことができない。彼らは安息時に心不全の徴候を示す。心不全、すなわち心臓の収縮および/または拡張機能の障害は、例えば心エコー図検査法、血管造影法、シンチグラフィー(szintigraphy)、または磁気共鳴映像法によっても測定することができる。この機能障害は、顕著な徴候を示さない患者(NYHA I)もいるが、上記で概説される心不全の徴候(NYHAクラスII−IV)を伴う。さらに、心不全はまた、左心室駆出分画率(LVEF)の低下によって明らかである。さらに好ましくは、本明細書中で使用される心不全は、60%未満、40%〜60%または40%未満の左心室駆出分画率(LVEF)を伴う。
【0041】
用語「急性心血管系イベント」とは、突然、すなわち以前の臨床徴候または症状を伴わずに出現し、かつ拡張期または収縮期の血流量に深刻に影響するすべてのイベントを表す。組織病理学的に、本明細書中で言及される急性心血管系イベントは、心筋細胞の突然の虚血を伴うものとし、それは該細胞の深刻な壊死を伴う。好ましくは、急性心血管系イベントに罹患している被験体は典型的徴候、例えば胸部、心窩部、腕、手関節または下顎の不快感または疼痛にも罹患し、それにより、特に、胸痛は腕、背部または肩部に放散することがある。急性心血管系イベントの追加の徴候は、未解明の吐き気または嘔吐、持続性の息切れ、虚弱、めまい、立ちくらみ(lightheadedness)または失神ならびに任意のその組み合わせであってよい。好ましくは、本明細書中で言及される急性心血管系イベントは急性冠症候群(ACS)、すなわち不安定狭心症(UAP)または心筋梗塞(MI)である。最も好ましくは、急性心血管系イベントはMIであり、それにはST上昇MIおよび非ST上昇MIが含まれる。さらに、心血管系イベントは卒中も包含する。MIの発生後、左心室機能不全(LVD)が生じうる。最終的に、LVD患者は、かなりの死亡率を有するうっ血性心不全(CHF)に罹患する。定義、症状および臨床徴候、例えば心電図の徴候に関するさらなる詳細は、Joint European Society of Cardiology / American Society of Cardiology, 2000, J American College of Cardiology, Vol.36, No.3: 959-969に見出せる。
【0042】
用語「サンプル」とは、体液のサンプル、分離された細胞のサンプルまたは組織もしくは器官由来のサンプルを表す。体液のサンプルは周知の技術によって取得することができ、それには、好ましくは、血液、血漿、血清、または尿のサンプル、より好ましくは、血液、血漿または血清のサンプルが含まれる。組織または器官サンプルは、任意の組織または器官から例えば生検によって取得することができる。分離された細胞は体液または組織もしくは器官から分離技術、例えば遠心分離または細胞選別によって取得することができる。好ましくは、細胞サンプル、組織サンプルまたは器官サンプルは、本明細書中に記載のペプチドを発現もしくは産生する細胞、組織または器官から取得される。
【0043】
本明細書中で言及されるペプチドまたはポリペプチドの量の測定とは、好ましくは半定量的または定量的に、量または濃度を測定することに関する。測定は直接または間接的に行うことができる。直接測定とは、ペプチドまたはポリペプチドそのものから取得されかつその強度がサンプル中に存在するペプチドの分子の数と直接相関するシグナルに基づくペプチドまたはポリペプチドの量または濃度の測定に関する。そのようなシグナル(本明細書中で強度シグナルと称されることもある)は、例えばペプチドまたはポリペプチドの特定の物理的または化学的性質の強度値を測定することによって取得してよい。間接測定には、二次成分(すなわちペプチドまたはポリペプチドそのものではない成分)または生物学的読み取り系、例えば測定可能な細胞応答、リガンド、標識、または酵素反応産物から取得されるシグナルの測定が含まれる。
【0044】
本発明では、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するためのすべての公知の手段によって達成することができる。該手段は、種々のサンドイッチアッセイ、競合アッセイ、または他のアッセイ形式で、標識された分子を利用するイムノアッセイデバイスおよび方法を含む。該アッセイはペプチドまたはポリペプチドの存在または不存在を示すシグナルを発生する。さらに、シグナル強度を、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量に直接または間接的に相関(例えば反比例)させることができる。追加の好適な方法は、該ペプチドまたはポリペプチドに特有の物理的または化学的性質、例えばその正確な分子量またはNMRスペクトルの測定を含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイに連結された光学デバイス、バイオチップ、分析用デバイス、例えば質量分光計、NMR分析計、またはクロマトグラフィーデバイスを含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、全自動化またはロボットイムノアッセイ(例えばElecsysTM分析計で利用可能)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ(enzymatic Cobalt Binding Assay)(例えばRoche-HitachiTM分析計で利用可能))、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析計で利用可能)が含まれる。
【0045】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、(a)その強度がペプチドまたはポリペプチドの量を示す細胞応答を誘発可能な細胞を、該ペプチドまたはポリペプチドと適切な時間接触させるステップ、(b)細胞応答を測定するステップを含む。細胞応答の測定では、好ましくは、サンプルまたは処理されたサンプルを細胞培養物に加え、内部または外部の細胞応答を測定する。細胞応答には、レポーター遺伝子の測定可能な発現または物質、例えばペプチド、ポリペプチド、または小分子の分泌が含まれる。該発現または物質は、該ペプチドまたはポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生成するものとする。
【0046】
また、好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドまたはポリペプチドから取得可能な特定の強度シグナルを測定するステップを含む。上記のように、そのようなシグナルは、質量スペクトル中で観察される該ペプチドもしくはポリペプチドに特異的なm/z変数または該ペプチドもしくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルで取得されるシグナル強度であってよい。
【0047】
ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、好ましくは、(a)ペプチドを特定のリガンドと接触させるステップ、(b)(任意により)未結合リガンドを除去するステップ、(c)結合したリガンドの量を測定するステップを含むことができる。結合したリガンドは強度シグナルを生成する。本発明での結合には、共有結合および非共有結合の両者が含まれる。本発明でのリガンドは、本明細書中に記載のペプチドまたはポリペプチドに結合する任意の化合物、例えばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子であってよい。好ましいリガンドには、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、例えば該ペプチドもしくはポリペプチドの受容体または結合パートナーおよび該ペプチドに関する結合ドメインを含むその断片、およびアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドの製造方法は当技術分野において周知である。例えば、好適な抗体またはアプタマーの特定および生産は商業上の供給元によっても提供される。当業者は、より高い親和性または特異性を有する、そのようなリガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム突然変異を導入することができる。そして、当技術分野において公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイにしたがって、これらの誘導体の結合を検査することができる。本明細書中で言及される抗体には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の両者、ならびに抗原またはハプテンに結合可能なその断片、例えばFv、FabおよびF(ab)断片が含まれる。また、本発明は、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と組み合わされている単鎖抗体またはヒト化ハイブリッド抗体を含む。該ドナー配列は、通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含むが、ドナー抗体の他の構造および/または機能的に重要なアミノ酸残基を同様に含んでよい。そのようなハイブリッドは当技術分野において周知のいくつかの方法によって製造することができる。好ましくは、該リガンドまたは物質は該ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本発明での特異的結合とは、リガンドまたは物質が、分析対象のサンプル中に存在する別のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(「交差反応」)しないべきであることを意味する。好ましくは、特異的に結合しているペプチドまたはポリペプチドは、任意の他の関連ペプチドまたはポリペプチドより、少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高いおよびさらにより好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合すべきであろう。非特異的結合は、依然として識別可能でありかつ、例えばウエスタンブロットでそのサイズにしたがってまたはサンプル中のその相対的に高い存在量によって明らかに測定できれば、容認できる。リガンドの結合は当技術分野において公知の任意の方法によって測定することができる。好ましくは、該方法は半定量的または定量的である。好適な方法を以下に記載する。
【0048】
第1に、例えばNMR、質量分析または表面プラズモン共鳴によってリガンドの結合を直接測定することができる。
【0049】
第2に、リガンドが目的のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても働くならば、酵素反応生成物を測定することができる(例えば切断された基質の量を例えばウエスタンブロットで測定することによってプロテアーゼの量を測定することができる)。あるいは、リガンドが酵素特性そのものを示し、「リガンド/ペプチドまたはポリペプチド」複合体またはペプチドもしくはポリペプチドが結合したリガンドを、それぞれ、強度シグナルの生成による検出を可能にする好適な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定では、好ましくは、基質の量は飽和している。反応前に、検出可能な標識で基質を標識してもよい。好ましくは、サンプルを基質と適切な時間接触させる。適切な時間とは、検出可能な、好ましくは測定可能な量の生成物の生産に必要な時間を表す。生成物の量を測定するかわりに、所定の(例えば検出可能な)量の生成物の出現に必要な時間を測定することができる。
【0050】
第3に、リガンドの検出および測定を可能にする標識に共有結合または非共有結合によってリガンドをカップリングさせることができる。標識化は直接または間接的方法によって行うことができる。直接標識化には、リガンドに対する直接の(共有結合または非共有結合による)標識のカップリングが含まれる。間接標識化には、一次リガンドに対する二次リガンドの(共有結合または非共有結合による)結合が含まれる。二次リガンドは一次リガンドに特異的に結合すべきである。該二次リガンドを好適な標識とカップリングさせることができ、かつ/またはそれは二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(受容体)であってよい。二次、三次またはさらに高次のリガンドを使用してシグナルを増加させることがよくある。好適な二次および高次リガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれる。リガンドまたは基質に当技術分野において公知の1種以上のタグで「タグ付け」してもよい。そのようなタグは高次リガンドの標的であってよい。好適なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、A型インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質、等が含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端に位置する。好適な標識は適切な検出方法によって検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダン(acridan)エステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識が含まれる)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に好適な基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(Roche Diagnosticsから即時使用原液として入手可能))、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)が含まれる。好適な酵素と基質の組み合わせは着色反応生成物、蛍光または化学発光を生じさせ、当技術分野において公知の方法にしたがって(例えば感光フィルムまたは好適なカメラシステムを使用して)それを測定することができる。酵素反応の測定に関して、上記基準を同様に適用する。典型的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(例えばGFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびアレクサ色素(例えばAlexa 568)が含まれる。追加の蛍光標識は例えばMolecular Probes(Oregon)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が想定される。典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33P等が含まれる。放射性標識は公知かつ適切な任意の方法、例えば感光フィルムまたはホスホルイメージャによって検出することができる。また、本発明の好適な測定方法には、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気によって生成される(electro-generated)化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着検定)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニドフルオロイムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、比ろう法、ラテックス増強比濁法もしくは比ろう法、または固相免疫試験が含まれる。当技術分野において公知の追加の方法(例えばゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウエスタンブロット法、および質量分析)を、単独で、または上記の標識化または他の検出方法と組み合わせて使用することができる。
【0051】
また好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、以下のように測定される:(a)上記で指定されたペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体をペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させるステップ、および(b)支持体に結合しているペプチドまたはポリペプチドの量を測定するステップ。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群から選択されるリガンドは、好ましくは、固体支持体上に固定化された形式で存在する。固体支持体を製造するための材料は当技術分野において周知であり、それには、とりわけ、市販カラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよびサーフィス、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracytes)、反応トレーのウェルおよび壁、プラスチックチューブ等が含まれる。該リガンドまたは物質を多数の異なる担体に結合させてよい。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボナート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および改変セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。担体の性質は本発明の目的のために可溶性または不溶性であってよい。該リガンドの固定化(fixing/immobilizing)に好適な方法は周知であり、それには、非限定的に、イオン性、疎水性、共有結合性相互作用等が含まれる。また、本発明のアレイとして「サスペンションアレイ」を使用することが想定される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのようなサスペンションアレイでは、担体、例えばマイクロビーズまたはミクロスフェアを懸濁状態で存在させる。該アレイは、異なるリガンドを保持する異なるマイクロビーズまたはミクロスフェア(標識されていることが多い)からなる。例えば固相化学および感光性の保護基に基づくそのようなアレイの製造方法は一般に公知である(US5,744,305)。
【0052】
本明細書中で使用される用語「量」は、本明細書中で言及されるポリペプチドまたはペプチドの絶対量、本明細書中で言及されるポリペプチドまたはペプチドの相対量または濃度ならびにそれに相関する任意の値またはパラメータを包含するか、あるいはそれから誘導することができる。そのような値またはパラメータは、前記ペプチドから直接測定によって取得されるすべての特定の物理的または化学的性質由来の強度シグナル値を含み、例えば質量スペクトルまたはNMRスペクトルの強度値である。さらに、この説明の他の箇所で指定される間接測定によって取得されるすべての値またはパラメータが包含される。例えば、前記ペプチドに応答して生物学的読み取り系から測定される応答レベルまたは特異的に結合したリガンドから取得される強度シグナルである。また、すべての標準数学的操作によって上記の量またはパラメータに相関する値を取得できることが理解される。
【0053】
本発明の方法に基づいて、ACS、特にMI前に存在(し、かつ急性イベント後に依然として存在)する心筋機能不全、特に心不全を診断し、より効率的に治療することができる。本発明の方法は、好都合に、確実で、高速でかつ低コストの診断を可能にし、かつポータブルアッセイ、例えばテストストリップ(stripes)にさえ実装することができる。したがって、該方法は救急患者の診断に特に良く適している。本発明の知見のおかげで、被験体に好適な治療、例えば心不全の治療を適時かつ確実に選択することができる。患者の、遅れた治療および/または誤った治療に起因する重篤な副作用を回避することができる。
【0054】
さらに、本発明は、急性心筋梗塞に罹患した被験体が、既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断するデバイスであって、以下の手段:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
(c)任意により、比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するための手段;
(d)任意により、ステップ(c)で算出した比に基づいて、被験体が心筋機能不全、好ましくは心不全に罹患しているかどうかを診断するための手段
を含むデバイスに関する。
【0055】
本明細書中で使用される用語「デバイス」とは、診断を可能にするように互いに作動可能に連結されている少なくとも上記手段を含む手段の系に関する。心筋トロポニンの量を測定するための好ましい手段およびナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段、ならびに計算手段および被験体が心血管疾患に罹患しているかを診断するための手段は、本発明の方法と合わせて上記で考察されている。作動様式での手段の連結方法は、デバイスに含まれる手段のタイプに依存する。例えば、ペプチドの量を自動的に測定する手段が適用される場合、該自動的に作動する手段によって取得されたデータを例えばコンピュータプログラムによって処理して、所望の結果を取得することができる。好ましくは、そのような場合、該手段は単一デバイスに含まれる。したがって、該デバイスは、添加されたサンプル中のペプチドまたはポリペプチドの量を測定するための分析ユニットおよび得られたデータを評価用に処理するためのコンピュータユニットを含んでよい。あるいは、手段、例えばテストストライプがペプチドまたはポリペプチドの量を測定するために使用される場合、比較手段は、測定された量を参照量に割り当てるための対照ストライプまたは表を含んでよい。好ましくは、本明細書中に記載されるペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドにテストストライプをカップリングする。ストリップまたはデバイスは、好ましくは、該リガンドに対する該ペプチドまたはポリペプチドの結合を検出するための手段を含む。好ましい検出手段は上記本発明の方法に関する実施形態とともに開示される。そのような場合、マニュアルに記載の指示および解釈によって系のユーザーが量の測定結果とその診断値または予後診断値を引き合わせる点において、該手段は作動可能に連結されている。該手段は、そのような実施形態において別個のデバイスとして存在してよく、好ましくは、キットとして一緒にパッケージされる。当業者は追加の面倒なく手段の連結方法を認識する。好ましいデバイスは、専門臨床家の特定の知識なしで適用できるデバイスであり、例えば、単にサンプルのロードを必要とするだけのテストストライプまたは電子デバイスである。結果は、臨床家による解釈を必要とする生データの出力として提供することができる。しかしながら、好ましくは、デバイスの出力は、その解釈が専門臨床家を必要としない処理された、すなわち評価された生データをである。追加の好ましいデバイスは、分析ユニット/デバイス(例えば、ナトリウム利尿ペプチドを特異的に認識するリガンドにカップリングされたバイオセンサー、アレイ、固体支持体、プラズモン表面共鳴デバイス、NMR分光計、質量分光計等)または本発明の方法にしたがって上記で言及された評価ユニット/デバイスを含む。
【0056】
最後に、本発明は、急性心筋梗塞に罹患した被験体が、既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断するキットであって、該方法を実施するための使用説明書および以下の手段:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
(c)任意により、比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するための手段;
(d)任意により、ステップ(c)で算出した比に基づいて、被験体が心筋機能不全、好ましくは心不全に罹患しているかどうかを診断するための手段
を含むキットに関する。
【0057】
本明細書中で使用される用語「キット」とは、好ましくは別個にまたは単一容器内で提供される上記手段のコレクションを表す。また、該容器は、好ましくは、本発明の方法を実施するための使用説明書を含む。したがって、本発明の方法の実施に採用されるキットは、調製済みの様式での、例えば調節された濃度の、測定および/または比較に使用される成分を有するあらかじめ混合された形式での、該方法の実施に必要とされるすべての成分を含む。
【0058】
本明細書中で引用されるすべての参考文献は、その開示内容全体および本明細書中で具体的に記載される開示内容に関して、参照によりここに組み入れられる。
【0059】
以下の実施例は単に本発明を説明するにすぎないものとする。実施例は、一切、本発明の範囲を限定するとは解釈されないものとする。
【実施例】
【0060】
実施例1:
急性MIを示す166名の患者のコホートにおいて、NT−proBNP、トロポニンT、CRP、GDF15およびオステオポンチンのレベルを測定した。3ヵ月後、同ペプチドのレベルを再測定した。低いNT−proBNP/トロポニンT比を有する患者は、弱い既存の心筋機能不全しか有さないかまたは既存の心筋機能不全を有さず、かつ3ヵ月後に心筋機能の良好な回復を示した。これと対照的に、高いNT−proBNP/トロポニンT比を有する患者は、3ヵ月後に心筋機能の不十分な回復しか示さず、かつ既存の心筋機能不全を示した。
【0061】
NT−proBNPレベルは、20pg/mLの検出限界を有するElecsys 2010でのイムノアッセイで測定した。
【0062】
本研究の結果を以下の表および図1に示す:
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性心筋梗塞に罹患した被験体が、既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断する方法であって、以下のステップ:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップ;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するステップ;
(c)比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するステップ;
(d)ステップ(c)で算出した比に基づいて、上昇したナトリウム利尿ペプチドレベルが既存の心筋機能不全に関連するか、または上昇したレベルが急性心筋梗塞により引き起こされているかを診断するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
10以上の比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)が既存の心筋機能不全を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
5以上の比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)が既存の心筋機能不全を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ナトリウム利尿ペプチドのレベルを、急性イベントが生じた1〜3日後、好ましくは36〜60時間後に入る時点で測定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
心筋機能不全が、心不全を伴うか伴わないで起こる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
心筋機能不全が心不全である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
心不全が無症候性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ナトリウム利尿ペプチドが、BNP、NT−proBNP、ANPまたはNT−proANPである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ナトリウム利尿ペプチドが、BNPまたはNT−proBNP、好ましくはNT−proBNPである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1未満の比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)が既存の心筋機能不全でないことを示す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記被験体がヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
急性心筋梗塞に罹患した被験体が既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断するデバイスであって、以下の手段:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
(c)任意により、比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するための手段;
(d)任意により、ステップ(c)で算出した比に基づいて、該被験体が心筋機能不全、好ましくは心不全に罹患しているかどうかを診断するための手段
を含む、上記デバイス。
【請求項13】
急性心筋梗塞に罹患した被験体が既存の心筋機能不全にも罹患しているかどうかを診断するキットであって、該方法を実施するための使用説明書および以下の手段:
(a)該被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段;
(b)該被験体のサンプル中の心筋トロポニンの量を測定するための手段;
(c)任意により、比(ナトリウム利尿ペプチド/心筋トロポニン)を算出するための手段;
(d)任意により、ステップ(c)で算出した比に基づいて、該被験体が心筋機能不全、好ましくは心不全に罹患しているかどうかを診断するための手段
を含む、上記キット。

【公表番号】特表2011−501113(P2011−501113A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528393(P2010−528393)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063518
【国際公開番号】WO2009/047285
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】