説明

性決定および性決定特定に関する方法

本発明は、概して、動物の性決定の領域に関する。提供された性決定を操作する方法および作用因子は、特に、ニワトリのような鳥動物において、オス染色体連鎖精巣(性)制御遺伝子を介する。DMRT1遺伝子またはタンパク質の発現または活性を、それらの遺伝子型と異なる表現型の性を表す動物を作製するために、調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年2月8日に出願された、「性を特定した鳥類および性を特定した鳥類を作製する方法」とタイトルをつけた、オーストラリアの仮特許出願No.2009900452に関連し、および前記仮出願から優先権を主張し、その全体の内容を、参照によって本願明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、概して性決定の分野に関する。さらに特に、本発明は、オス染色体に連鎖した性制御遺伝子を持つ、種の性決定を操作する方法および作用因子を提供する。
【背景技術】
【0003】
本願明細書で著者によって参照された公表文献の図書目録の詳細を明細書の最後にアルファベット順に集める。
【0004】
本願明細書における任意の従来技術への言及は、この従来技術が任意の国における共通の一般的知識の一部を形成することを同意、または任意の形態で示唆するわけなく、かつ、この従来技術が任意の国における共通の一般的知識の一部を形成するということを同意、または任意の形態で示唆するとして解釈されるべきではない。
【0005】
性は、大部分の動物種において、概して、染色体により決定される(Ellegren, Trends Ecol Evol 15:188-192, 2000、Mizuno et al, Cytogenet Genome Res 99: 236-244, 2002)。家禽類および他の鳥種において、同型配偶子性の性はオス(ZZ)であり、異型配偶子性の性はメス(ZW)である。鳥胚における性決定のメカニズムは、W(メス)染色体が優性活性の卵巣決定要因を持つという仮説とともに、不明なままである(Arit et al, Proc. Biol. Sci. 271 Suppl. 4: S249-251, 2004、Nakagawa, Trends Genet 20: 479-480, 2004)。別の仮説は、Z(オス)―連鎖遺伝子の量であり、二倍量(ZZ)がオスの特質を決定するというものである(Smith and Sinclair, BioEssays 26: 120-132, 2004)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ellegren, Trends Ecol Evol 15:188-192, 2000
【非特許文献2】Mizuno et al, Cytogenet Genome Res 99: 236-244, 2002
【非特許文献3】Arit et al, Proc. Biol. Sci. 271 Suppl. 4: S249-251, 2004
【非特許文献4】Nakagawa, Trends Genet 20: 479-480, 2004
【非特許文献5】Smith and Sinclair, BioEssays 26: 120-132, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
種の範囲内で、性決定を決定することができる、および、操作することができる能力は、農産業において特に重要である。選択的にメスのニワトリを生産することは、例えば、卵のさらなる経済的生産を促進し、不必要なオスの鳥の飼育を最小化する。反対に、オスの鳥は肉の生産に関して好まれる。ニワトリの単一の性系列を生産することによって、幼体ごとに個々に性決定する必要性が除去される。それはまた、要求された性別でないために、幼体の50%を間引く必要がないことを意味する。ニワトリにおいて、性は通常、手作業で見た目の視診によって決定されるが、これは時間がかかり、退屈で、かつ、不正確でありうる。
【0008】
また、性は、ある遺伝子またはタンパク質マーカーに関する検査により決定される。性決定に関するこのような方法は、概して、あるレベルの技術的専門知識および設備を必要とし、これは、製造現場においてすぐに入手できない。さらに、このような方法は、特に農業環境における、それら自身の自動化に役立たない。
【0009】
特定した性の非ヒト種を提供することを可能にする必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願明細書中、文脈が他に要求しない限り、単語「含む(comprise)」または、「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」のような変形したものを、規定された要素もしくは整数、または、要素もしくは整数のグループを含有するが、任意の他の要素もしくは整数、または、要素もしくは整数のグループを除外しないことを示唆すると理解する。
【0011】
本発明に従って、Z-連鎖遺伝子、DMRT1がそのホモ接合性の形態において、鳥類の精巣の発達に寄与することを決定する。DMRT1の下方制御は鳥の胚において卵巣の発達を導く。DMRT1の発現が減少する場合、影響を及ぼされたオスの胚は、メス化された左の生殖腺および右の精巣を特徴とする、性の逆転を示す。メス化された生殖腺は、減少したDMRT1の発現、組織の乱れた精巣索、および、精巣に関するバイオマーカーの減少を示す(例えば、SOX9)。従って、DMRT1はZ染色体に連鎖した精巣(オス)制御遺伝子であるとみられ、かつ、鳥のオス性決定に中心的に関与する。DMRT1遺伝子は、魚、爬虫類、および両生類を含む多くの種において、相同性がある。鳥類におけるメス化を誘導する能力は、例えば農産業における使用のために、要求に応じ性を特定した動物の効率的な生産を可能にする。
【0012】
従って、本発明の一つの態様は、性を特定した動物であり、(i)DMRT1もしくは、オス染色体に連鎖したそのホモログ(homolog)の発現を阻害する、または、DMRT1タンパク質―活性を減少させるか、あるいは、(ii)DMRT1もしくはそのホモログの発現の増加させる、または、DMRT1タンパク質の活性の増加させるために、遺伝的に改変された、動物またはその親(減少したDMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性がメスの特徴を伴う動物を導き、および、増加したDMRT1の発現またはDMRT1タンパク質―活性がオスの特徴を伴う動物を導く)を提供する。
【0013】
DMRT1の「増加した発現(elevated expression)」は、産生したDMRT1タンパク質のレベルが、少なくとも、DMRT1の二つの対立遺伝子、すなわち、正常なZZオスにおける、発現と等しいことを意味する。同様に、DMRT1の「減少した発現(reduced expression)」は、正常なZZオスのレベルからの減少を意味する。特定の実施態様において、動物は鳥動物である。
【0014】
従って、本発明のもう一つの態様は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベルを変えるために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを変えるために、遺伝的に改変された鳥動物またはその親(DMRT1発現またはDMRT1タンパク質の活性のレベルが鳥動物の性を決定する)を提供する。
【0015】
さらに特に、本発明は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの改変された発現のレベルを最小化するために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを最小化するために、遺伝的に改変された鳥動物またはその親(減少したDMRTの1発現もしくはDMRT1タンパク質の活性のレベルが、メスの特徴を伴う鳥動物を導く)を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベルを増加させるために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを増加させるように、遺伝的に改変された鳥動物もしくはその親(増加した、DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性が、オスの特徴を伴う鳥動物を導く)を提供する。
【0017】
前記のように、ニワトリのような鳥種に関して、増加したDMRT1のレベルは、正常な(ZZ)オスと同様のレベルを意味する。減少したレベルは、正常な(ZW)メスと同様であることを意味する。
【0018】
本発明のもう一つの態様は、性を特定した動物を作製する方法であり、動物の胚盤葉または発生中の胚の中に、DMRT1もしくはオス染色体に連鎖したそのホモログの発現レベルを調節する、または、DMRT1タンパク質の活性を調節する作用因子を導入すること、ならびに、胚が出生後の動物へ発達することを可能にすることを含む方法(DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性を減少させる作用因子がメスの特徴を伴う動物をもたらして、および、DMRT1の発現もしくはDMRT1タンパク質の活性を増加させる作用因子がオスの特徴を伴う動物をもたらす)を対象にする。
【0019】
特定の実施態様において、動物は鳥動物である。
【0020】
従って、本発明のもう一つの態様は、性を特定した鳥動物を作製する方法であり、鳥動物の胚盤葉または発生中の胚の中に、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベル、または、DMRT1タンパク質の活性のレベルを調節する作用因子を導入すること、胚が幼体へ発達すること可能にすること、を含む方法(メスの特徴を持つ幼体が、減少したDMRT1の発現または減少したDMRT1タンパク質活性を含んでいる、および、オスの特徴を持つ幼体が、増加したDMRT1の発現または増加したDMRT1タンパク質―活性を含んでいる)を提供する。
【0021】
さらに、本発明のもう一つの態様は、性を特定した鳥動物を作製するための方法であり、鳥動物において、ある期間、メスの鳥動物を作製するためにDMRT1の発現を減少させるのに十分な条件下、または、オスの鳥動物を作製するためにDMRT1の発現を誘導するのに十分な条件下、DMRT1もしくはそのホモログの発現、または、DMRT1タンパク質の活性のレベルを調節することを含む方法を対象にする。
【0022】
その上、本発明のもう一つの態様は、鳥胚のメス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がメスの特徴を発達するのに十分な条件下、DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性の機能的レベルを減少させる作用因子の、胚への導入を含む方法を検討する。
【0023】
さらに、本発明のもう一つの態様は、鳥胚のオス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がオスの特徴を発達するのに十分な条件下、DMRT1タンパク質もしくはその機能的ホモログもしくはアナログ(analog)を含む、または、DMRT1もしくはその機能的ホモログの発現を促進する作用因子の胚への導入を含む方法を検討する。
【0024】
実施態様において、本発明の作用因子は、内因性のDMRT1遺伝子の発現を下方制御するか、それともDMRT1の発現を増加させる、遺伝的コンストラクトまたは化合物である。例は、ウイルスベクター、microRNA(miRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは化合物、RNAi分子、siRNA分子、センスオリゴヌクレオチド、リボザイム、dsRNA分子およびヘアピンループを含むオリゴヌクレオチドを含む。このような分子は、DMRT1の発現を標的とすること、および、DMRT1のタンパク質のレベルを減少させることを企図するものである。もう一つの実施態様において、作用因子は、発現させた場合または鳥染色体に導入した場合、DMRT1タンパク質を産生する、遺伝的コンストラクトである。さらに、もう一つの実施態様において、作用因子は、DMRT1タンパク質の機能を阻害する、または、DMRT1遺伝子の発現を阻害する、化学分子である。さらに、もう一つの実施態様において、DMRT1タンパク質またはDNAまたはRNAを、鳥胚のオス化を誘導するために、胚へインジェクションする。
【0025】
さらに、本発明は、遺伝的に改変されたメス化された鳥卵であり、DMRT1ホモ接合性のオスよりも少ないレベルまでDMRT1の発現を減少させるか、それとも、DMRT1ホモ接合性のオスのレベルまでDMRT1の発現を増加させるために、遺伝的に改変された胚盤葉または発生中の胚を含む鳥卵を検討する。この後、このような卵を、それらが実質的に全てメス、または全てオスの幼体を生じさせることに基づいて、消費者に提供する。
【0026】
本願明細書における鳥種または動物への言及は、とりわけ、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、チャボ、キジ、および、ウズラを含む。しかし、本発明は、ペンギン、飼い鳥、狩猟鳥、害鳥、およびそれに類するものを含む、任意の鳥種に拡大適応する。さらに、本発明は、魚、爬虫類、および両生類のような、鳥種以外の非ヒト動物へ拡大適応する。
【0027】
「性(sex)」への言及は性(gender)を含む。
【0028】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、配列識別番号(配列番号)によって参照される。配列番号は、数値的に、配列識別番号<400>1(配列番号1)、<400>2(配列番号2)等に対応する。配列識別番号の概要を表1に示す。配列表を請求項の後に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(図面の詳細な説明)
いくつかの図は色彩表現または基本要素を含む。カラー写真は必要に応じて特許権所有者から、または適切な特許庁から入手可能である。特許庁から得た場合は手数料が課される場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、DMRT1に対するmiRNAをデリバリーするRCASBPウイルスを用いた、in vitroにおけるDMRT1タンパク質のノックダウンの写真および図の提示である。DMRT1タンパク質の免疫蛍光の検出およびGFPの蛍光。(a)RCASBP.A.DMRT1のみを感染させたニワトリ線維芽細胞DF1はGFPの発現を示さないが、細胞の核(赤)において、DMRT1タンパク質の強い過剰発現を示す。(b)GFPレポーターとともに、ノンサイレンシング(non-silencing)コントロールスクランブル配列を持つウイルス(スクランブルコントロール)を感染後に、RCASBP.A.DMRT1に感染させた細胞は、広がったGFPおよびDMRT1タンパク質の発現を示す(すなわち、ノックダウンされていない(no knockdown))。GFPが細胞質および核の両方に局在しているために、統合させた画像(merged image)において、いくつかの細胞は、黄色またはオレンジ色である。(c)DMRT1 miRNAを持つウイルスに感染させた後にRCASBP.A.DMRT1に感染させた細胞は、GFP(緑)の広がった発現およびDMRT1タンパク質(赤)のノックダウンを示す。GFPの発現を欠く少数の細胞は(従って、miRNAが導入されていない)、強いDMRT1の発現(矢印)を示すことに直目すべきである。(d)RCASBP.B.GFP.DMRT1で処理したDF1細胞中のDMRT1 mRNA発現のノックダウンを、RCASBP.B.スクランブルコントロールで処理した細胞と比較した。感染させていないDF1細胞は内因性のDMRT1の発現を示さない。
【図2】図2はDMRT1 miRNAで処理したオス生殖腺における異常な生殖腺の発達の写真の提示である。0日目にスクランブルコントロールまたはDMRT1 miRNAで処理した、10日目のニワトリ胚由来の泌尿生殖器系。生殖腺は明確にするために輪郭が描かれている。(a)コントロールオス(ZZ)は、対称な精巣の、左右対称の発達を示す。(b)コントロールメス(ZW)は、大きな左の卵巣、および、小さな右の生殖腺を特徴とする、典型的な非対称の発達を示す。(c)DMRT1 miRNAを持つウイルスに感染させた、遺伝的オス(ZZ)は、大きな左の、および小さな右の生殖腺を伴い、異常な(メスのような)非対称性を示す。(d)DMRT1 miRNAを持つウイルスに感染させたメス(ZW)は、正常な非対称な発達を示す。Ms―対の腎臓中腎。
【図3】図3は、DMRT1 miRNAで処理した、遺伝的オス(ZZ)ニワトリ胚のメス化の写真の提示である。(a)ノンサイレンシングスクランブルコントロール配列で処理した、遺伝的オス10日齢胚におけるDMRT1タンパク質の正常な発現。DMRT1は、組織化した精巣索(矢印)のセルトリ細胞および生殖細胞において強く発現する。(b)ニワトリVasaホモログ(Chick Vasa Homologue)(CVH)の染色によって評価された場合のコントロールオスの精巣索内の生殖細胞の内部分布。(その上さらに、本発明のもう一つの態様は、鳥胚のオス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がオスの特徴を発達するのに十分な条件下での、DMRT1タンパク質、または、その機能的ホモログもしくはアナログを含む、または、DMRT1タンパク質もしくはその機能的ホモログの発現を促進する作用因子の、胚への導入を含む方法を検討する。)(c)コントロールオス生殖腺における広がったGFPの発現。(d)DMRT1 miRNAで処理した、左のオス(ZZ)生殖腺における、減少したDMRT1タンパク質および組織の乱れた索。上記(a)と比較せよ。いくつかの領域は、正常なDMRT1の発現を示す(例えば、矢印)、しかし、他の領域において発現は弱く、索形成は失われる。(e)DMRT1 mRNAで処理したオス生殖腺における、皮質に偏った(メスのような)生殖細胞の分布(例えば、矢印)。(f)小さな右の精巣における正常なDMRT1の発現、および、左の卵巣における非常に減少したDMRT1の発現を特徴とする、DMRT1 miRNAで処理した生殖腺における、広がったGFPの発現。(h)(g)において示された左の卵巣における、メスのような生殖細胞の分布。(i)(h)において示した左の卵巣におけるGFPの発現。(j)コントロールメス(ZW)の左の卵巣は、皮質の生殖細胞の高いレベルの発現を除き、生殖腺全体において、低いDMRT1の発現を示す。(k)CVHによって評価された場合の、コントロールメスの左の卵巣における、典型的な皮質の生殖細胞の分布。(i)コントロールメス生殖腺における、広がったGFP発現。
【図4】図4は、DMRT1 miRNAで処理したオス生殖腺における、オスのマーカーの下方制御およびメスのマーカーの活性化の、写真の提示。(a)ZWコントロールメスにおけるSOX9発現の欠失。(b)スクランブルコントロールmiRNA配列で処理されたコントロールオス(ZZ)の組織化された精巣索における正常なSOX9の発現。(c)DMRT1 miRNAで処理したZZオスにおける、減少したSOX9の発現および組織の乱れた精巣索。(d)スクランブルmiRNAで処理したコントロールメス(ZW)の対の生殖腺における、正常なアロマターゼ酵素の発現。(e)スクランブルmiRNA配列で処理したコントロールオス(ZZ)の(左の)生殖腺におけるアロマターゼ発現の欠失。(f)DMRT1 miRNAで処理したZZオスの左の生殖腺における、アロマターゼの異所性の活性化。(g)コントロールメス(ZW)の左の生殖腺における、アロマターゼ発現の高倍率視野は、特徴的な髄質の小腔(空洞)の周囲の細胞での発現を示す(矢印)。(h)DMRT1 miRNAで処理された、ZZオスにおける部分的なDMRT1発現。DMRT1の発現は減少し、精巣索は角かっこで囲んだ領域において混乱しており、この領域はここで、異所的にアロマターゼを発現する((i)に示した)。アロマターゼ発現領域は、メスのような小腔を示す(例えば、矢印)。
【図5】図5は、cGFP.shRNAのRCASBP.Bウイルスベクター(プラスミドpRmiR(RCAS miRNA)はpcDNA6.2-GW/EmGFP-miR(Invitrogen)から得られた)へのクローニングのためのシャトルプラスミドのデザインの図の掲示である。三つの二重鎖オリゴを、siRNA 二重鎖オリゴのmiRNAカセットへ(連続したBsa Iサイトを介する)のクローニング、ならびに、RCASへのクローニングを可能にするeGFP/miRカセットの上流および下流の二つのCla Iサイトの提供を可能にする、親ベクターにクローニングした。一度RCASにクローニングされると、一つのポリアデニル化されたcGFP/miRNA転写産物が、ウイルスのLTRから作製され、同一の細胞内でeGFPタンパク質および成熟したsiRNAを生じる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に従って、鳥種における性決定は、DMRT1タンパク質を産生する、Z―連鎖遺伝子、DMRT1の発現によって特定される。DMRT1遺伝子は、Shan et al, Cytogenetics Cell Genetics 89: 252-257, 2000、Smith et al, Nature 402: 601-602, 1999によって記載される。本願明細書において量依存的(すなわち、ホモ接合性[ZZ]オスにおける二つの対立遺伝子)DMRT1の発現が鳥胚においてオス化を導く。同様に、下方制御されたレベルのDMRT1発現またはDMRT1タンパク質が鳥胚のメス化を導く。
【0033】
従って、DMRT1は、オス染色体に連鎖した性制御遺伝子とみなされる。総称の用語で、Mを、オスの配偶子とみなし、Fをメスの配偶子とみなす場合、同形配偶子性の性(MM)はオスであり、異形配偶子性の性(MF)はメスである。M染色体に連鎖したDMRT1のホモログは、同形配偶子性の状態においてオスらしさを与えると考えられる。従って、MMオスによるDMRT1の量は、ここで2×量であると与えられる。
【0034】
メス動物(MF)は1×量を示しうる。従って、本願明細書において、メス化は、2×未満(<2×)の量のDMRT1またはそのM―連鎖ホモログを示すために、MM染色体を操作することによって起こる。「2×未満」または「<2×」は、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4および1.5×または中間の量のような量を含む、0×から1.5×を意味して含む。
【0035】
従って、本発明は、動物の性を操作するため、および、特定するために、DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性、または、オス染色体に連鎖したそのホモログを標的にすることを検討する。正常なオスの二つの対立遺伝子の発現レベルより少ない、DMRT1、または、オス染色体に連鎖したそのホモログの減少した発現が、メス化をもたらす。正常なオスの二つの対立遺伝子の発現のレベルまで増加した、DMRT1、または、オス染色体に連鎖したそのホモログの発現は、オス化をもたらす。
【0036】
従って、本願明細書において、遺伝的、プロテミクス的、および化学的アプローチを、メス動物を作製するために、DMRT1の発現またはDMRT1のタンパク質の活性のレベルを減少させるか、それとも、オス動物の作製に有利に働く、DMRT1の発現、または、DMRT1タンパク質の産生を誘導するかを検討する。
【0037】
従って、本発明の一つの態様は、性の特定された動物であり、(i)DMRT1もしくはオス染色体に連鎖したそのホモログの発現を阻害する、もしくはDMRT1タンパク質―活性を減少させる、または、(ii)外因性のDMRT1もしくはそのホモログの発現を増加させる、もしくはDMRT1タンパク質の活性を増加させるために、遺伝的に改変された動物またはその親(減少したDMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性はメスの特徴を伴う動物を導き、増加したDMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性はオスの特徴を伴う動物を導く)を提供する。
【0038】
DMRT1の「増加した発現(elevated expression)」は、産生したDMRT1タンパク質のレベルが、少なくとも、DMRT1の二つの対立遺伝子、すなわち、正常なオスのDMRT1(すなわち、2z×量)の発現と等しいことを意味する。同様に、DMRT1の「減少した発現(reduced expression)」は、正常なオスのDMRT1の発現よりも少ない(すなわち、<2× 量)ことを意味する。特定の実施態様において、動物は鳥動物である。
【0039】
従って、本発明は、性を特定した非ヒト動物、および、性を特定した非ヒト動物を作製する方法であり、動物の性がオス染色体(M)−連鎖制御遺伝子の量(×)によって決定され、かつ、同形配偶子性の(MM)オスが2×量の制御遺伝子を持ち、異形配偶子性の(MF(Fはメスの配偶子である))メスが1×量の制御遺伝子を持つ方法を提供する(性を特定した動物またはその親は、
(i)M染色体上の性制御遺伝子の一つまたは両方の対立遺伝子の、<2×の量までの下方制御された発現(性はメスである)
(ii)MFメスにおけるM染色体上の性制御遺伝子の、2×以上の量のレベルまでの上方制御された発現(性はオスである)、および、
(iii)外因性の性制御遺伝子の、FまたはM染色体への導入および発現(性はオスとなる)、
から選択される方法によって遺伝的に改変される(性制御遺伝子はDMRT1、または、そのオス染色体連鎖ホモログである)。)
【0040】
本発明のもう一つの態様は、性を特定した動物を作製する方法であり、動物の胚盤葉または発生途中の胚へ、DMRT1もしくはオス染色体に連鎖したそのホモログの発現のレベルを調節する、または、DMRT1タンパク質の活性を調節する作用因子を導入すること、胚が出生後の動物へ発達することを可能にすることを含む方法(DMRT1の発現、または、DMRT1タンパク質の活性を減少させる作用因子はメスの特徴を持つ動物をもたらし、および、DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性を増加させる作用因子はオスの特徴を持つ動物をもたらす)を対象とする。
【0041】
特定の実施態様において、動物は鳥動物である。
【0042】
その結果、本発明のもう一つの実施態様は、性を特定した鳥動物を作製する方法であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベル、または、DMRT1タンパク質の活性のレベルを調節する作用因子の、鳥動物の胚盤葉または発生途中の胚へ導入、胚が、減少したDMRT1の発現または減少したDMRT1タンパク質の活性を含むメスの特徴を持つ幼体、および、増加したDMRT1の発現または増加したDMRT1タンパク質―活性を含むオスの特徴を持つ幼体へ発達することを可能にすることを含む方法を提供する。
【0043】
従って、本発明のもう一つの態様は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベルを変化させるために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを変化させるために、遺伝的に改変された鳥動物またはその親(DMRT1の発現またはタンパク質の活性のレベルは鳥動物の性を決定する)を提供する。
【0044】
一方では、本発明は、魚、爬虫類、および、両生類のようなオス染色体に連鎖したDMRT1ホモログを持つ、任意の非ヒト動物に拡大適応し、特に鳥動物を対象にする。
【0045】
さらに特に、本発明は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの改変された発現のレベルを最小化するために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを最小化するために、遺伝的に改変された鳥動物またはその親(減少したレベルのDMRT1発現またはDMRT1タンパク質の活性はメスの特徴を伴う鳥動物を導く)を提供する。
【0046】
本発明のさらなる態様は、性を特定した鳥動物であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベルを増加させるために、または、DMRT1タンパク質もしくはそのホモログの活性のレベルを増加させるために、遺伝的に改変された鳥動物またはその親(増加したDMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性はオスの特徴を伴う鳥動物を導く)を提供する。この点において、異形配偶子性のメスの内因性のDMRT1を、その発現を2×量、または、コピー数を増加させるために導入した、さらなるもう1コピーまで増加させるために、操作しうる。「導入した(introduced)」DMRT1は「外因性のDMRT1(exogenous DMRT1)」とみなす。
【0047】
さらに、本発明のもう一つの態様は、性を特定した鳥動物を作製する方法であり、鳥動物において、ある期間、DMRT1もしくはそのホモログの発現、または、DMRT1タンパク質の活性のレベルを、メス鳥動物を作製するためにDMRT1の発現を減少させるのに、または、オス鳥動物を作製するためにDMRTの発現を誘導するのに、十分な条件下で、調節することを含む方法を対象とする。
【0048】
その上、本発明のもう一つの態様は、鳥胚のメス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がメスの特徴を発達するのに十分な条件下で、DMRT1発現またはDMRT1タンパク質の機能的レベルを減少させる作用因子を、胚へ導入することを含む方法を検討する。
【0049】
その上、本発明のもう一つの態様は、鳥胚のオス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がオスの特徴を発達するのに十分な条件下での、DMRT1タンパク質、もしくはその機能的ホモログもしくはアナログを含む、または、DMRT1もしくはその機能的ホモログの発現を促進する作用因子の、胚への導入を含む方法を検討する。
【0050】
一つの実施態様において、作用因子は、DMRT1の発現を阻害する、または、終止コドンの導入もしくは挿入によるような、DMRT1の決欠もしくは不活性化の生成を促進する遺伝的分子である。
【0051】
このような分子の例は、micro(mi)RNA、RNAi、siRNA、dsRNA、ヘアピンループを含むオリゴヌクレチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、センスオリゴヌクレオチド、または、アンタゴマーを含むその化学的に改変された形態を含む。特に、DMRT1遺伝子の破壊を、一過的にまたは永久に、しうる。特定の態様において、鳥動物を、DMRT1の発現不能を伴い作製しうる。
【0052】
従って、本発明のもう一つの態様は、遺伝的に改変された鳥動物であり、実質的にDMRT1もしくはその機能的ホモログを発現できない鳥動物、または、その鳥動物の子孫を提供する。
【0053】
このような鳥動物は、メスの特徴を示し、卵を産むことができるであろう。
【0054】
従って、本発明のこの態様は、遺伝的に改変されたメスの卵を生む鳥動物であり、実質的にDMRT1もしくはその機能的ホモログを発現できない鳥動物、または、その鳥動物の子孫を提供する。
【0055】
本発明の実施態様において、鳥動物の内因性のDMRT1遺伝子をコードするDNAを、除去する。鳥におけるDMRT1のような内因性遺伝子の除去に関する方法は、当業者に周知であり、一般的に、遺伝的コンストラクトの多能性細胞への挿入、および、キメラを生じるための、前記細胞の胚への移入を含む。繁殖を通して、前記コンストラクトは、得られる動物の生殖系列へ挿入され、結果的に、内因性のDMRT1の産生の破壊をもたらす。内因性のDMRT1産生の破壊は、特定のDMRT1遺伝子座の標的とした破壊、DMRT1遺伝子座の実質的な欠失、または、細胞分裂の通常のプロセスを通じて、胚性幹細胞中で、または得られる動物中で、インタクトな内因性の遺伝子座と置き換わる、人工的コンストラクト(例えば、終止コドン)の挿入によって生じうる。
【0056】
DMRT1発現のサイレンシングに関する他のメカニズムは、DMRT1遺伝子座の全てまたは一部のメチル化のような、エピジェネティックなプロセスを介した遺伝子サイレンシングを含む。前記のように、遺伝子サイレンシングは、miRNA、RNAi、siRNA、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc-finger nuclease)および、様々なダイサーを含むコンストラクトの使用を含む、いくつもの方法において誘導しうる。従って、本発明は、内因性のDMRT1遺伝子、または、全てもしくは一部のDMRT1遺伝子座の発現を選択的に阻害する、オリゴヌクレオチド化合物を提供する。一般的に、発現の阻害は永久的であり、未来の世代に伝えられる。しかし、本願明細書においては、一過性の阻害もまた検討する。「一過性の(transient)」は、日、週、月、または鳥動物の生涯について、含む。
【0057】
従って、本発明は、動物種におけるDMRT1の機能または効果の調節に関する使用のための、化合物、好ましくは、オリゴヌクレオチドおよび類するものを採用する。これは、DMRT1をコードするDNAまたはRNAを特異的に標的とする、オリゴヌクレオチドの提供によって達成される。本願明細書で使用される、用語「標的核酸(target nucleic acid)」および「DMRT1をコードする核酸分子(nucleic acid molecule encoding DMRT1)」は、DMRT1をコードするDNA、前記DNAから転写されたRNA(pre-mRNAおよび、mRNA、またはその一部を含む)、および、前記RNAから得られたcDNAを含むため、利便性のために、使用される。この態様はDMRT1のアンチセンスおよびセンス抑制を含む。
【0058】
阻害されるDNAの機能は、複製および転写を含みうる。阻害されるRNAの機能は、タンパク質翻訳のサイトへのRNAの移行、RNA合成のサイトから離れている細胞内のサイトへのRNAの移行、RNAからのタンパク質の翻訳、一つまたは複数のRNA種を生じるRNAのスプライシング、および、触媒活性、または、RNAの関与しうる、もしくはRNAによって促進されうる、RNAを含む複合体形成のような機能を含みうる。標的核酸の機能を伴うこのような干渉の一つの特定の結果は、DMRT1の発現の減少である。
【0059】
センスまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド化合物の配列が、阻害の誘導に関して効果的であるために、必ずしも、標的核酸の配列に対して100%相補的でないことが、当該業界において理解される。さらに、オリゴヌクレオチドは、標的核酸内の標的領域に対して少なくとも70%配列相補性でありうり、さらに特に90%配列相補性を含み、なお一層さらに特に、標的にされた、標的核酸配列内の標的領域に対して、95%配列相補性を含む。
【0060】
また、DMRT1レベルは、DMRT1活性またはDMRT1発現に関する阻害剤の導入によって機能的に減少しうる。一般的に、阻害剤は鳥動物へ導入された遺伝的手段によって作製される。
【0061】
従って、本発明のもう一つの態様は、鳥動物を含む、遺伝的に改変された動物であり、DMRT1活性もしくはDMRT1の発現、または、オス染色体に連鎖したそのホモログの活性もしくは発現に関する阻害剤をコードする遺伝的材料を発現させるために、遺伝的に改変された動物を検討する。
【0062】
従って、阻害剤は、DMRT1活性に関するタンパク質阻害剤でありうり、DMRT1の発現を下方制御する、アンチセンスまたはセンスオリゴヌクレオチドでありうる。
【0063】
タンパク質阻害剤の例は、DMRT1に関する、抗体鎖、海産動物由来の単鎖抗体(IgNAR)および、ペプチド阻害剤でありうる。
【0064】
もう一つの実施態様において、DMRT1の活性を、鳥動物を含むオス動物の作製を確かにするために、導入し、または増進する。一般的に、これは、DMRT1タンパク質またはその機能的ホモログをコードする遺伝的材料の導入によって、達成される。一般的に、導入されたDMRT1遺伝子を、「外因性の(exogenous)」DMRT1とみなす。また、これは、さらに次の子孫へ適応する。
【0065】
従って、本発明のもう一つの態様は、鳥動物を含む遺伝的に改変された動物であり、DMRT1タンパク質、または、そのホモログ、または、DMRT1発現に関するエンハンサー、または、オス染色体に連鎖したホモログのエンハンサーを発現させるために、遺伝的に改変された動物を提供する。
【0066】
さらなる実施態様において、鳥動物を含む、遺伝的に改変された動物を、作製する(一般的に胚内で、DMRT1遺伝子、または遺伝子座を選択的に破壊するために、遺伝的に改変する)。例えば、DMRT1遺伝子または遺伝子座を、ある条件下で誘導的に不活性化しうる。従って、メス動物が要求される場合、誘導的な不活性化を、DMRT1発現を阻害するために行う。しかし、オス動物が要求される場合、胚は、DMRT1遺伝子の不活性化をもたらす条件に供されない。
【0067】
遺伝的に胚を操作するために便利なベクターを図5に示す。一度、DMRT1の発現が破壊される、または、誘導されると、発現のレベルを決定することができる。
【0068】
配列同定を介したDMRT1 mRNAの存在の決定を含む、DMRT1の発現を検出するために使用されうる、多くの方法がある。直接的なヌクレオチド配列については、手動配列決定か、それとも自動的蛍光配列決定が特定のmRNA種の存在を検出することができる。
【0069】
核酸種検出に関する技術は、PCR、または他の増幅技術を含む。
【0070】
また、マイクロチップ技術を介した核酸解析は、本発明に適応可能である。この技術において、異なるオリゴヌクレオチドプローブをシリコンチップのアレイ上に設置する。解析されるべき核酸は、蛍光ラベルされ、チップ上のプローブへハイブリダイズされる。また、これらの核酸マイクロチップを用いて、核酸―タンパク質相互作用を解析することが可能である。前記技術を用いて、DMRT1 mRNA種の存在、または、mRNAのレベル、および、DMRT1の発現のレベルを決定することができる。
【0071】
従って、DMRT1遺伝子座由来のmRNA発現の変化を、当該業界に既知の任意の技術によって検出することができる。これらはノーザンブロット解析、PCR増幅、および、RNaseプロテクションを含む。減少したmRNA発現は、影響を受けた遺伝子の変化を示す。また、DMRT1発現の変化を、タンパク質のような発現産物の変化に関するスクリーニングによって、検出することができる。例えば、DMRT1タンパク質に免疫的に活性なモノクローナル抗体を組織のスクリーニングに使用することができる。類似した抗原の欠如または抗原のレベルの減少は、DMRT1、または、オス染色体に連鎖したそのホモログの発現の減少を示す。同様の免疫的アッセイを、当該業界において、任意の便利なフォーマットで行うことができる。これらは、ウェスタンブロット、免疫組織化学的アッセイ、および、ELISAアッセイを含む。変化したタンパク質の検出のための任意の方法を、野生型タンパク質の変化を検出するために、使用することができる。タンパク質結合決定のような機能的解析を用いることができる。
【0072】
従って、本発明はさらに、動物の性の背景にある遺伝的基礎の同定に関する方法であり、動物からの生物的サンプルの入手、DMRT1の発現のレベル(DMRT1の発現およびそのホモログの減少したレベルがメスまたはオス動物それぞれに関して指示的である)の検出を含む方法に拡大適応する。
【0073】
生物的サンプルは、DMRT1が発現する、任意の液体または細胞または組織である。一つの実施態様において、生物的サンプルは、血液、リンパ液、尿、および、唾液、または、これらサンプル由来の細胞を含む。
【0074】
従って、本発明は、DMRT1遺伝子の発現か、それともDMRT1タンパク質の活性を阻害する、または、DMRT1の活性を促進する、遺伝的、化学的、および、タンパク質性の作用因子を提供する。
【0075】
本発明のもう一つの態様は、鳥動物のような、メス化した動物の製造における、DMRT1遺伝子の発現もしくはDMRT1タンパク質の活性、または、オス染色体に連鎖したそのホモログを阻害する、作用因子の使用を対象とする。
【0076】
一つの、このような作用因子は図5のベクターである。
【0077】
さらに、本発明のもう一つの態様は、鳥動物のような、オス化した動物の製造における、DMRT1の発現、または、タンパク質活性、または、オス染色体に連鎖したそのホモログを促進する、作用因子の使用を検討する。
【0078】
「DMRT1」遺伝子への言及は、DMRT1遺伝子座を含み、かつ、さらに、機能的バリアント(例えば、多型バリアント)、および、オス染色体に連鎖したその機能的ホモログを含む。機能的バリアントまたはホモログは、DMRT1をコードするcDNA配列に対して、少なくとも80%同一性を持つ遺伝子を含む。少なくとも80%同一性は、少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%同一性を意味する。同一性を、多くのアルゴリズム的方法によって、便利に決定することができる。同一性の決定は、一般的に最適なアライメントの後である。同様に、DMRT1の機能的バリアントまたはホモログは、高い厳密性条件の媒体下で、DMRT1 DNA鎖とハイブリダイズするDNA鎖を持つ遺伝子を含む。
【0079】
本願明細書におけるハイブリダイゼーションへの言及は、ハイブリダイゼーションのために、少なくとも約0から少なくとも約15%v/vのホルムアミド、および、少なくとも約1 Mから少なくとも約2 Mの塩を、かつ、洗浄条件のために、少なくとも約1 Mから少なくとも約2 Mの塩を、含み、および、包含する。一般的に、低い厳密性は約25-30℃から約42℃においてである。温度を変えうり、かつ、より高い温度をホルムアミドの置換に、および/または、別の厳密性条件を生み出すために用いる。別の厳密性条件を、必要に応じて、ハイブリダイゼーションのために、少なくとも約16% v/vから少なくとも約30% v/vホルムアミド、および、少なくとも約0.5 Mから少なくとも約0.9 Mの塩を、洗浄条件のために、少なくとも約0.5 Mから少なくとも約0.9 Mの塩を、含む、および、含有する媒体の厳密性のように、または、ハイブリダイゼーションのために少なくとも約31% v/vから少なくとも約50% v/v ホルムアミド、および、少なくとも約0.01 Mから少なくとも約0.15 Mの塩、ならびに、洗浄条件のために、少なくとも約0.01 Mから少なくとも約0.15 Mの塩を含む、および、含有する高い厳密性のように、適応しうる。一般的に、洗浄を、Tm=69.3 + 0.41(G + C)%(Marmur and Doty, J. Mol. Biol. 5: 109, 1962)において実行する。しかし、二本鎖DNAのTmは、ミスマッチ塩基対の数が1%増加するごとに、1℃減少する(Bonner and Laskey, Eur. J. Biochem. 46: 83, 1974)。ホルムアミドは前記ハイブリダイゼーション条件において任意である。従って、特定の好ましいレベルの厳密性を、以下のように定義する:低い厳密性は、20℃―42℃において、6×SSCバッファー、0.1% w/v SDS、穏やかな厳密性は、20℃から65℃において、2×SSCバッファー、0.1% w/v SDS、高い厳密性は少なくとも65℃の温度において、0.1×SSCバッファー、0.1 % w/v SDSである。
【0080】
同様に、DMRT1タンパク質への言及は、適切なアライメントの後で、DMRT1に対して少なくとも80%アミノ酸類似性を持つタンパク質のような、全ての機能的バリアントおよびそのホモログを含む。
【0081】
本発明のもう一つの態様は、家禽産業用に関するようなビジネスモデルを検討する。前記ビジネスモデルにおいて、家禽を、DMRT1の発現を不活性化するために遺伝的に改変する。このような家禽によって生産される多くの卵がメスの鳥のみを生じ、従って、オスの鳥を飼育する不必要さによるロスのレベルが実質的に減少する。
【0082】
従って、ビジネスモデルは、増加した経済的な利益を伴うメスの家禽の作製のために提供され、不活性化したDMRT1遺伝子または遺伝子座を伴うメスの家禽の作製、受精した卵を生産するためのこれらの鳥と一羽または複数のオス鳥との交配、卵の孵化を可能にすること(得られた幼体が全てメスであり、メス鳥が飼育され、および既存の家禽において操作を導入される)を含むモデルを提供する。
【0083】
このようなビジネスモデルは、飼育されることを必要とするオス鳥の数の減少、例えば、卵の生産または肉の生産のために使用される鳥の数の増加によって、増加した経済的利益をもたらすことができる。
【0084】
本願明細書における「鳥動物(avian animal)」または「鳥種(avian species)」への言及は、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、チャボ、キジ、および、ウズラのような家禽を含む、鳥綱の任意のメンバーを含む。また、本発明の方法は、狩猟鳥、飼い鳥に適応可能であり、および、害とみなされる鳥種をコントロールする方法として適応可能である。前記のように、本発明を、魚、爬虫類、両生類のような、鳥種以外の非ヒト動物に拡大適応する。
【0085】
さらに、本発明を遺伝的に改変された、受精した鳥卵であり、DMRT1の発現をホモ接合性のオスのDMRT1よりも少ないレベルまで減少させるか、それとも、DMRT1の発現をホモ接合性のオスのDMRT1のレベルまで増加させるために、遺伝的に改変された胚盤葉または発生中の胚を含む卵を、検討する。その後、このような卵を、卵が実質的に全てメス、または全てオスの幼体を生じることを基礎として消費者に提供する。
【0086】
また、本発明は、家禽産業に関して経済的利益を増加させるためのビジネスモデルであり、卵がメスの幼体を生じるか、または、オスの幼体を生じるかの指示を伴い、遺伝的に改変された、受精した卵の供給、遺伝的に改変された胚盤葉または発生中の胚を含む、それぞれの卵(DMRT1の発現が正常なZZオスよりも少ないレベルまで減少するか、それとも、DMRT1の発現が正常なZZオスのレベルまで増加する)を含む、モデルを提供する。
【0087】
前記のように、DMRT1の減少した発現は、胚がメスの特徴を発達するレベルを意味する。DMRT1の発現の増加は、胚がオスの特徴を示すレベルを意味する。
【0088】
さらに、本発明は、DMRT1またはオス染色体に連鎖したそのホモログの発現の減少または増加の誘導に関する使用のための、レトロウイルスベクターのような遺伝的要素を検討する。
【0089】
本発明は、遺伝的に改変された動物の全ての子孫、および、それら由来の幹細胞株に拡大適応する。また、本願明細書において、遺伝的に改変された幼体を検討する。
【0090】
さらに、本発明を、以下の非限定的な実施例により記載する。本発明の態様はSmith et al, Nature Letters 46: 267-271, 2009に公開され、その内容は、参照によって本願明細書に組み入れる。実施例において、以下の、材料および方法を採用した。
【実施例】
【0091】
<材料および方法>
(ウイルスの調製)
RCASBP.Bウイルスを、ニワトリDMRT1の3’UTR内に、ニワトリDMRT1に対するリコンビナントmicroRNAとともにGFPのオープンリーディングフレーム(open reading frame)を持たせるために、改変した。配列を、Invitrogen Block-It(商標)システムを用いてデザインし、ショートヘアピンフォーマットを作製した。配列は、ニワトリDMRT1 mRNAのエクソン3に対しており、かつ、ニワトリゲノム中の他の配列に対して顕著な相同性(16/21塩基以上)は示さない。ヘアピン配列を、GFPを持つ人工のシャトルプラスミド(pRmiR―図5)へクローニングした。GFP-microRNAをRCASBP.B型ウイルスにサブクローニングした。その後、高品質DNAをニワトリDF1細胞へトランスフェクションするために使用した。ウイルスをDF1細胞から回収し、以前に記載されたように精製した(Smith et al, Int. J. Dev. Biol. 53: 59-67, 2009)。約108 infectious units/mLのウイルス力価を得た。コントロールのために、同一の塩基のスクランブル配列を使用し、RCASBP.Bにクローニングし、同様の方法で増殖させた(=RCASBP.B.GFP.スクランブルコントロール)。
【0092】
(in vitroにおけるDMRT1発現のノックダウン)
ノックダウンの効率をテストするために、DF1細胞をRCASBP.B.GFP.DMRT1またはスクランブルコントロールウイルスに感染させ、数日培養し、その後、DMRT1オープンリーディングフレームを持つRCASBP.A.型ウイルスに感染させた。(DF1細胞は内因性のDMRT1を産生しない。細胞は、異なる型であるなら二つのウイルスに感染させることが可能である)。共感染の4日後、細胞はGFPおよびDMRT1タンパク質発現のために処理された。以前に記載したように、DMRT1抗体(組織内)および、Alexfluor二次抗体を用いて、免疫蛍光染色を行った(Smith et al, Biol Reprod 68: 560-567, 2003)。また、ノックダウンを、定量的リアルタイムPCRによって評価した。以前に記載したように、RNAを細胞から抽出し、cDNAを合成した(Smith et al, BMC Dev Biol 8: 72, 2008)。プローブを、UPL Assay Design Centre(http://www.roche-applied-science.com)を用いてデザインし、プローブは次の通りである(DMRT1プローブ #59 for 5’-AGCCTCCCAGCAACATACAT-3’(配列番号1)および、rev 5’-GCGGTTCTCCATCCCTTT-3’(配列番号2)、HPRTプローブ #38 for 5’-CGCCCTCGACTACAATGAATA-3’(配列番号3)、rev 5’-CAACTGTGCTTTCATGCTTTG-3’(配列番号4))。解析をLightCycler 480 instrument and software(Roche)を用いて行った。
【0093】
(胚)
繁殖力のあるニワトリ卵(ガッルス ガッルス ドメスティクス(Gallus gallus domesticus))をSPAFAS(オーストラリア、ビクトリア州、ウッデンド)から得た。400の0日齢胚盤葉にDMRT1ノックダウン、または、スクランブルコントロールウイルスを、細いガラスキャピラリーニードルを用いてインジェクションした。卵を密封し、10日までインキュベートした。10日までの生存率は40%だった。泌尿生殖器系においてGFP蛍光を示した卵(28/160)をさらなる解析のために、選別した。泌尿生殖器系におけるGFPの発現は、強いものから弱いものまで様々であった。胚を、以前に記載されたように、PCRによって、遺伝子型的に性決定した(Smith et al, 2003, supra)。28の胚に関して、生殖腺に強いGFPを示した5つのオスが、異なる程度のDMRT1ノックダウン、および、メス化の兆候を持つことを発見した。いくつかのメスは生殖腺において強いGFPを示したが、正常な卵巣の発達を示した。全ての他の胚(15)は生殖腺における様々なGFP、正常な生殖腺の性決定を、かつ、DMRT1のノックダウンがされていないことを示した。低いレベルのmicroRNAデリバリー(低いGFP発現によって評価した場合)内因性のDMRT1に影響するのに十分でないだろうと仮定される。(GFP発現レベルとDMRT1発現との間には良好な逆相関が存在した。より強いGFPを伴う胚は予測されたようにより強いDMRT1のノックダウンを示した。)メス化を示した、全ての遺伝的オス胚は、泌尿生殖器系から直接的に得られた組織を用いて再度性決定された。全ての場合において、本来割り当てられた遺伝子型的な性を確認した。
【0094】
(免疫蛍光法)
記載されたように、泌尿生殖器系を4% v/vパラホルムアルデヒド/PBSで固定し、30% w/v スクロース/PBSで低温保護し、OCTコンパウンドで包埋し、切片を作製した(Smith et al, 2008, supra)。免疫蛍光法はタンパク質発現を評価するために用いた。ウサギDMRT1、抗アロマターゼ、および、抗SOX9(1:6000)を全て組織内で作製し、(Smith et al, 2003, supra)に記載した。
【0095】
(実施例1)DMRT1の下方制御
DMRT1転写産物に対するリコンビナントmicroRNA(miRNA)を鳥のレトロウイルスベクター、RCASBP.B(Replication Component Avian Sarcoma leukosis virus, high titre Bryan Polymerase, strain B)を介して生きているニワトリ胚にデリバリーした。前記ウイルスは、トランスジーンの3’UTRにDMRT1 miRNAを伴い、ウイルスの広がりをモニターするために、GFPのオープンリーディングフレームを持つべく、操作されている。内部のU6プロモーターよりはむしろ、強力なウイルスLTRプロモーターがmiRNA発現を制御する。このウイルスは、培養したニワトリDF1細胞において、強力なGFP発現および外因性のDMRT1タンパク質のノックダウンをデリバリーした(図1)。DMRT1 cDNAのみを発現するRCASBP.A型ウイルスを感染した細胞は、強力なDMRT1過剰発現を示した(図1a)。DMRT1 cDNAを持つウイルスおよびノンサイレンシングRCASBP.B.GFP.スクランブルmiRNAを発現するウイルスを共感染した細胞は、強力なDMRT1タンパク質の発現を示した(図1b)。対照的に、DMRT1およびDMRT1 miRNA配列を共感染した細胞は、DMRT1タンパク質のノックダウン(図1c)、および、スクランブルコントロールmiRNAで処理した細胞と比べて、DMRT1転写産物の70%減少(図1d)を示した。
【0096】
(実施例2)遺伝的に改変された胚の作製
DMRT1 miRNAとともにGFPレポーターを持つウイルスを、0日齢のニワトリ胚盤葉への感染に使用し、胚発生を10日目まで進行させた。コントロール胚を、GFPおよびスクランブルノンサイレンシングmiRNA配列を持つウイルスに感染させた。全ての胚を、W(メス)―特異的Xho I反復配列のPCR増幅によって、遺伝子型的に性決定した。ニワトリ胚において、生殖腺は、インキュベーションのおよそ3.5日に腎臓中腎において形成する。精巣または卵巣への性決定は6日目に始まり、10日目まで正常に発達する。0日齢でウイルスに感染した胚は、10日目まで、泌尿生殖器系における、および、切片化された25の生殖腺における広がった発現を含む、GFPの強い全体的な発現を示した。胚発生全体は正常であった。コントロールmiRNAで処理した胚の生殖腺の発達は、オスにおける左右対称の精巣、および、メスにおける典型的な非対称の卵巣の発達を伴い、正常であった(図2aおよびb)[n=10]。全てのコントロールのケースで、生殖腺の性は遺伝子型的な性と一致した。しかし、DMRT1 miRNAで処理した胚の中で、強いGFPの発現を示した5つのオスは、また、破壊された精巣の発達を示した。肉眼的に、これらのオスのうち3つは、異常な(メスのような)非対称性(大きな左の、および小さな右の生殖腺)を示した[図2c]。DMRT1 miRNAで処理したメス(ZW)は正常な非対称な卵巣の発達を示した(図2d)[n=5]。高レベルのGFPを伴う(従ってmiRNAをデリバリーしている)胚からの生殖腺を切片化し、DMRT1およびマーカー遺伝子発現に関して評価した。ノンサイレンシングスクランブルmiRNAを持つウイルスを感染したコントロール胚において、DMRT1の発現は影響されず、生殖腺の組織構造は正常であった。コントロールのオスにおいて、DMRT1タンパク質は、精巣索の発達中のセルトリ細胞および生殖細胞において、一様に発現した(図3a)。発現は強く、左右対称(左および右の生殖腺両方において)で、感染させていないオスの胚における染色と区別がつかなかった。ニワトリVasaホモログ(CVH)の染色によって評価したところ、両方の生殖腺の髄質における精巣索内で、生殖細胞は分布した[図3b]。GFP免疫蛍光はコントロールのオスにおいて、スクランブルmiRNA配列の広がった発現を確認した。
【0097】
対照的に、DMRT1 miRNAで処理した5つのオス(ZZ)胚は、左の生殖腺における様々に減少したDMRT1タンパク質の発現、破壊された精巣索の形成、および、異所的なメスの遺伝子発現を示した。DMRT1ノックダウン、および、精巣索破壊の範囲は胚によって異なった。いくかの個体は、組織の乱れた索および皮質(メスのような)パターンの生殖細胞分布を伴い、破壊されたDMRT1の発現を示した(図3dおよびe)。コントロールのオスにおいて、これらの個体は強いGFPの発現を示した(図3f)。他のZZ胚は、右の生殖腺においては正常なDMRT1の発現および索形成、しかし、左の卵巣型の生殖腺においては、減少したDMRT1の発現、索組織化の喪失を特徴とする、より強いメス化を示した(図3g)。また、左のメス化したオス生殖腺の生殖細胞は、メスのような分布を示した(すなわち、精巣索内よりもむしろ生殖腺の外側、皮質に集中した)[図3h]。また、DMRT1 miRNAで処理したZZオス生殖腺のメス型の形態は、フィブロネクチン免疫蛍光によって、明らかにされた(免疫蛍光は、厚い卵巣様の皮質および不十分に形成された索の存在を、詳細に明らかにした)。ZZメス化の最も強力な例は、最も強いGFPの発現(すなわち、30のmiRNAノックダウンのうち、最も大きなデリバリー)を示した、生殖腺において観察された(図3iおよびl)。
【0098】
コントロールのメス(ZW)において、卵巣の発達は正常であった。DMRT1は、皮質の生殖細胞における高い発現を除いて、発達中の(左の)卵巣において、低く発現した(図3j)。CHV染色は、コントロールにおいて、正常な皮質の生殖細胞の分布を明らかにした(図3k)。GFP発現は、コントロールメスにおいて、オスにおいて見られるように広がった(図3l)。DMRT1 microRNAで処理した遺伝的メスにおいて、内因性のDMRT1の発現は少ないが、それでもなお、生殖腺は典型的な非対称性を伴い正常であった。これは、DMRT1がニワトリの卵巣の発達に必須ではないことを示す。
【0099】
(実施例3)胚の特性解析
生殖腺を、オスおよびメスのマーカーの発現に関して、さらに分析した。精巣の分化に関与する鍵遺伝子は、SOX9である。哺乳類において、SOX9はSRYによって活性化され、セルトリ細胞の分化および適切な精巣の発達に要求される。SOX9は、鳥を含む、解析された、全ての脊椎動物において、オスで上方制御され、精巣の発達において保存された役割を示す。10日目に、スクランブルmiRNAに感染したコントロール胚において、SOX9はオス生殖腺で正常に発現した。メスの生殖腺は、予想されたように、SOX9の発現を欠いていた(図4aおよびb)。DMRT1 miRNAで処理された遺伝的オス(ZZ)は、SOX9タンパク質の発現は様々に減少し、破壊された精巣索に反映した(図4c)。従って、DMRT1は、ニワトリ胚において、精巣の決定中のSOX9発現の活性化または維持に関与する(役割は哺乳類においてSRYに取って代わられる)。また、DMRT1 miRNAで処理した遺伝的オスは、強いメスマーカー、アロマターゼの異所的な活性化を示した。アロマターゼ酵素は、ニワトリの卵巣の分化に要求されるエストロゲンを産生する、メスの生殖腺においてのみ正常に発現した。アロマターゼ酵素は、正常なオス胚生殖腺において全く検出されなかった。コントロールおよびノックダウンのメス(ZW)胚において、アロマターゼは、左および右の生殖腺両方の髄質において正常に発現した(図4d)。オスコントロールにおいて発現は見られなかった(図4e)。しかし、DMRT1 miRNAでメス化した、5つの遺伝的オスにおいて、アロマターゼは左の生殖腺において活性化された(しかし、右では活性化されなかった)(図4f)。部分的なノックダウンを伴ういくつかの遺伝的オス(ZZ)において、DMRT1の発現が減少した、または、無い領域は、異所的なアロマターゼの発現、および、メス様の孔と関連した(図4g、h、i)。これらの知見は、オス生殖腺における増加したDMRT1が、通常、アロマターゼを抑制し、従って、メスの発達を抑制することを、示唆する。この効果は、直接的、または、アロマターゼを活性化すると考えられているFOXL2遺伝子の抑制を介して、間接的でありうる。
【0100】
(実施例4)作用のメカニズム
本発明の基礎となる研究の結果は、鳥の性決定に関するZ量仮説を支持する(Nanda et al, Cytogenet Genome Res 122: 150-156, 2008)。DMRT1のより高い量は、オス胚の精巣の分化、SOX9の発現の活性化、および、メス胚の発達に必須の、アロマターゼの抑制を誘導する。DMRT1は鳥の最上の性決定遺伝子に期待される要求を全うする。DMRT1遺伝子は伴性遺伝をし、基本的な走鳥類(ダチョウ、エミュー、など)を含む、解析された全ての鳥のZ性染色体上に保存されている[Sheety et al, cytogenet Genome Res 99: 245-251, 2002]。DMRT1は、ニワトリの胚において生殖腺の性決定に先立って、オスではより高い発現を伴い、泌尿生殖器系において排他的に発現し(Smith et al, 2003, supra)、ノックダウンは生殖腺の性の逆転を導く。他の脊椎動物において、DMRT1は、また、精巣の決定に関係する。温度での性決定を伴う爬虫類において、DMRT1の発現は、性が決定される、温度感受性の期間中、オスのみが産生される温度においてのみ、上方制御される(Shoemarker et al, Dev Dyn 236: 12055-1063, 2007、Kettlewell et al, Genesis 26:174-178, 2000)。メダカ魚、オリジアス ラチペス(Oryzias latipes)において、DMRT1の複製されたコピー、DMYは、最上の性決定因子であり(Matsuda et al, Nature 417:559-563, 2002)、一方で、W-連鎖コピー、DMWは、両生類、アフリカツメガエル(ゼノパス レビス(Xenopus laevis))において卵巣の発達に関与する(Yoshimoto et al, Proc Natl Acad Sci USA 105: 2469-2474, 2008)。本願明細書におけるデータは、DMRT1が鳥において、巧みなオス性決定因子である証拠を提供する。
【0101】
当業者は、本願明細書に記載された発明が、特定的に記載されたもの以外に、変化および改変を受け入れる余地があることを認めるであろう。それは本発明が全てのこのような変化および改変を含むことが理解されることである。また、本発明は、本願明細書で言及された、または、指示された、全ての工程、特徴、組成物、および、化合物を、個々にまたは集合的に、ならびに、任意に、および、任意の二つ以上の前記工程または特徴の任意の組み合わせで含む。
【0102】
[参考文献]
Arit et al, Proc. Biol. Sci. 271 Suppl. 4:S249-251, 2004
Ellegren, Trends Ecol Evol 15:188-192, 2000
Kettlewell et al, Genesis 26:174-178, 2000
Matsuda et al, Nature 417:559-563, 2002
Mizuno et al, Cytogenet Genome Res 99:236-244, 2002
Nakagawa, Trends Genet 20:479-480, 2004
Nanda et al, Cytogenet Genome Res 122:150-156, 2008
Shan et al, Cytogenetics Cell Genetics 89:252-257, 2000
Sheety et al, cytogenet Genome Res 99:245-251, 2002
Shoemarker et al, Dev Dyn 236:12055-1063, 2007
Smith et al, Nature 402:601-602, 1999
Smith et al, Biol Reprod 68:560-567, 2003
Smith et al, BMC Dev Biol 8:72, 2008
Smith et al, Int. J. Dev. Biol. 53:59-67, 2009
Smith et al, Nature Letters 46:267-271, 2009
Smith and Sinclair, Bioassays 26:120-132, 2004
Yoshimoto et al, Proc Natl Acad Sci USA 105:2469-2474, 2008

【特許請求の範囲】
【請求項1】
性を特定した動物であり、前記動物またはその親が、(i)DMRT1、もしくは、オス染色体に連鎖したそのホモログの発現を阻害するために、または、DMRT1タンパク質、もしくは、そのホモログの活性を減少させるために、あるいは、(ii)外因性のDMRT1、もしくは、オス染色体に連鎖したそのホモログの発現、または、DMRT1タンパク質、もしくは、そのホモログの活性を増加させるために、遺伝的に改変された、性を特定した動物であり、減少したDMRT1の発現、もしくは、DMRT1タンパク質の活性、または、そのホモログの発現もしくは活性が、メスの特徴を持つ動物を導き、増加したDMRT1の発現、もしくは、DMRT1タンパク質の活性、またはそのホモログの発現もしくは活性が、オスの特徴を伴う動物を導く、性を特定した動物。
【請求項2】
DMRT1の発現もしくはDMRT1タンパク質の活性、または、そのホモログの発現もしくは活性が減少して、メスの特徴を伴う動物を導く、請求項1に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項3】
DMRT1の発現もしくはDMRT1タンパク質の活性、または、そのホモログの発現もしくは活性が増加して、オスの特徴を伴う鳥動物を導く、請求項1に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項4】
鳥動物、爬虫類、魚、両生類から選択される、請求項1に記載の性を特定した動物。
【請求項5】
鳥動物が、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、チャボ、キジ、および、ウズラから選択される、請求項4に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項6】
鳥動物が、狩猟鳥、飼い鳥、および、野鳥から選択される、請求項4に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項7】
鳥動物がニワトリである、請求項4に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項8】
減少したレベルのDMRT1の発現が、DMRT1またはその遺伝子座を標的とする遺伝的改変に起因する、請求項1に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項9】
遺伝的改変が、DMRT1の欠失または不活性化、および、DMRT1遺伝子の発現を下方制御するRNAの産生から選択される、請求項8に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項10】
鳥動物が外因性のDMRT1遺伝子、または、そのホモログを発現する、請求項3に記載の性を特定した鳥動物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の性を特定した鳥動物の子孫。
【請求項12】
性を特定した動物を作製する方法であり、動物の胚盤葉または発生途中の胚へ、DMRT1もしくはオス染色体に連鎖したそのホモログの発現のレベルを調節する、または、DMRT1タンパク質の活性を調節する作用因子を導入すること、および、胚が出生後の動物へ発達することを可能にすることを含む方法であり、DMRT1の発現、または、DMRT1タンパク質の活性を減少させる作用因子はメスの特徴を持つ動物をもたらし、DMRT1の発現またはDMRT1タンパク質の活性を増加させる作用因子はオスの特徴を持つ動物をもたらす、方法。
【請求項13】
動物が鳥動物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
性を特定した鳥動物を作製する方法であり、DMRT1もしくはそのホモログの発現のレベル、または、DMRT1タンパク質の活性のレベルを調節する作用因子を、鳥動物の胚盤葉または発生途中の胚へ導入することを含む、方法。
【請求項15】
鳥胚のメス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がメスの特徴を発達するのに十分な条件下で、DMRT1発現またはDMRT1タンパク質の機能的レベルを減少させる作用因子を、胚へ導入することを含む方法。
【請求項16】
鳥胚のオス化を誘導する方法であり、ある期間、胚がオスの特徴を発達するのに十分な条件下で、DMRT1タンパク質、もしくはその機能的ホモログもしくはアナログを含む、または、DMRT1タンパク質もしくはその機能的ホモログの発現を促進する作用因子を、胚へ導入することを含む方法。
【請求項17】
鳥動物が、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、チャボ、キジ、および、ウズラから選択される、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
鳥動物が、狩猟鳥、飼い鳥、および野鳥から選択される、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
メスの鳥動物を作製する方法であり、ある期間、胚がメス化するのに十分な条件下で、DMRT1もしくはそのホモログの発現を不活性化するために、胚内で鳥胚を遺伝的に改変すること、および、メス化した胚が成熟し孵化することを可能にすることを含む、方法。
【請求項20】
動物の性が、オス染色体(M)に連鎖した性制御遺伝子の量(×)によって決定され、かつ、同形配偶子性の(MM)オスが2×量の制御遺伝子性を持ち、異形配偶子性の(MF(Fはメスの配偶子である))メスが1×量の制御遺伝子を持つ、性を特定した非ヒト動物であり、性を特定した動物またはその親が、
(i)M染色体上の性制御遺伝子の一つまたは両方の対立遺伝子の、<2×の量へ下方制御された発現(性はメスである)、
(ii)MFメスにおけるM染色体上の性制御遺伝子の、2×以上の量のレベルに上方制御された発現(性はオスである)、および、
(iii)外因性の性制御遺伝子の、FまたはM染色体への導入および発現(性はオスとなる)、
から選択される方法によって遺伝的に改変され、
性制御遺伝子はDMRT1、または、そのオス染色体連鎖ホモログである、性を特定した非ヒト動物。
【請求項21】
動物が鳥動物である、請求項20に記載の性を特定した非ヒト動物。
【請求項22】
動物がメスである、請求項21に記載の性を特定した非ヒト動物。
【請求項23】
性制御遺伝子の量が実質的にゼロである、請求項22に記載の性を特定した非ヒト動物。
【請求項24】
メス化した鳥動物の作製において、DMRT1遺伝子発現、または、DMRT1タンパク質の活性を阻害する、作用因子。
【請求項25】
オス化した鳥動物の作製において、DMRT1発現またはタンパク質の活性を促進する、作用因子。
【請求項26】
増加した経済的利益を伴うメス家禽の作製のために提供されるビジネスモデルであり、不活性化したDMRT1遺伝子または遺伝子座を伴うメスの家禽を作製すること、受精した卵を作製するために、これらの鳥と一羽または複数のオス鳥とを交配すること、卵の孵化を可能にすることを含み、得られる幼体が全てメスであり、メス鳥が飼育され、既存の家禽事業に導入される、モデル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−516689(P2012−516689A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548507(P2011−548507)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000133
【国際公開番号】WO2010/088742
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(507170262)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (8)
【出願人】(505183417)マードック チルドレンズ リサーチ インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】