説明

患者に固有の結果のシミュレーション

本発明は、治療法に対する個人の反応を予測および監視するためのシステム、方法、および装置を対象とする。本発明は、複数の仮想患者と、被験者を前記仮想患者の1人以上と関連付けることのできる関連サブシステムと、一組の出力を生成するために、前記被験者と一致する1人以上の仮想患者に対して、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジンとを含む。前記一組の出力は、治療効果を示す、治療効果を監視するためのバイオマーカーを特定する、または生体系が特定個人を表す場合は、単にその状態を報告することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(A.関連出願)
本願は、米国仮特許出願第60/509,682号(2003年10月7日出願)の利益を主張し、本明細書では、この仮特許出願を参考として援用する。
【0002】
(B.発明の分野)
本発明は、臨床決断支援システムの分野に関連する。
【背景技術】
【0003】
(C.発明の背景)
医学と情報技術の発展により、患者と医療行為者は、急速に増加する多くのヘルスケアに関連する情報源を入手できるようになっている。毎年、医療診断に関連する新しい証拠が増え続け、研究者によって治療法が生み出されている。さらに、専門家や患者がこの貴重な情報にアクセスすることが次第二容易になっている。その結果、情報量は、個人がこの新しい情報を閲覧、理解、適用する能力を容易に超えるものとなっている。医療行為者が、役立つ有効な情報を探し、またそれらを選択できるように支援する様々な臨床決断支援システム(CDSS)が開発されている。
【0004】
しかし、ほとんどの臨床決断支援システムは、その用途において極めて特殊なタスクに制限される。知識ベースのシステムは、日常的な臨床使用において最も一般的な種類のCDSS技術である。多くの差異はあるが、一般的に、CDSS内の知識は一組の規定という形で表される。一般的なCDSSの用途には、(i)警告および注意喚起(ii)通常は決定木という形式の診断システム(iii)治療を提案しない治療批評(iv)薬剤処方箋の薬物と薬物の相互作用、投与量ミスなどの確認(v)情報収集(vi)イメージの認識と解釈が含まれる。
【0005】
現実と同じように表され互いに影響するすべての人、医師、および機器が含まれた完全なヘルスケア環境のシミュレーションを行うために、アルキメデスと呼ばれるさらに高度な臨床決断支援システムが開発されている。アルキメデスデータベースには、数々の疫学および臨床実験研究から得た膨大な量のデータが含まれる。仮想コミュニティヘルスケアシステムの人口統計データと組み合わされたデータ、および様々な治療法、糖尿病の進行、医療関係者、施設、医療センターの実務業務に関する情報によって、アルキメデスのユーザーは、予防、診断、スクリーニング、治療、サポートケアなどの個人的な診療、および品質向上、ケア管理、業務測定、患者と医師の行動における変化などの組織的な診療を含む複数の診療を評価することができる。非特許文献1および非特許文献2。病気を研究する上でこのようなモデルは非常に貴重である一方、現実の個人に関する診療を評価するためのメカニズムは提供していない。事実上、患者に固有の臨床決断支援システムは存在していない。
【0006】
その結果、患者の診療および/または治療診療において、医師を支援することが可能で、かつ患者固有のデータおよび情報を考慮することのできるシステムを備えることが望ましい。
【非特許文献1】EddyおよびSchlessinger、Diabetes Care、26:3093−3101(2003)
【非特許文献2】EddyおよびSchlessinger、Diabetes Care、26:3102−3110(2003)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(D.発明の概要)
第一の側面では、本発明は、(a)複数の仮想患者と、(b)被験者を前記仮想患者の1人以上と一致させるために、前記被験者に関する入力データをパラメータセットの1つ以上と関連付けることのできる関連サブシステムと、(c)一組の出力を生成するために、前記被験者と一致する1人以上の仮想患者に対して、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジンを備えるシステムであり、前記一組の出力は、モデルによって表される1つ以上の生体系に関連する被験者に対し結果を予想するシステムである。各仮想患者は、(i)1つ以上の生体系のモデルと、(ii)単一個人を表すパラメータセットとを備える。1つの実施例では、複数の仮想患者は、共通のモデルを共有する。好ましくは、関連サブシステムは、入力データと1つ以上のパラメータセットを、前記入力データと前記1つ以上のパラメータセットが完全に一致しない条件において、関連付けることができる。モデルは、生体系のどのモデルにもなることができるが、好ましくは機構モデル、生理学的なモデル、または疾患モデルである。好ましくは生体系のモデルは、心臓血管系、代謝作用、骨格、自己免疫、腫瘍学、呼吸器官、感染症、中枢神経系、皮膚および/または毒物学のモデルである。好ましい実施例では、モデルは1つ以上の生体系に関連する一組の生物学的プロセスを表すコンピュータモデルを備え、各生物学的プロセスは、一組の数学的関係によって表され、各数学的関係は、生体系に適用可能な生物学的特性または刺激を表す1つ以上の変数を備える。被験者に関する入力データは、医療行為者による診察、被験者に関する履歴データ、被験者が現在摂取している薬剤、診断測定、患者の好みおよび/または被験者の身体特性のリアルタイム測定を含む様々な情報を備えることができる。システムの出力は、モデル化された生体系によって表されるため、被験者の状態を予測することに関連するどの出力にもなることができる。好ましい一組の出力は、被験者に対する予後、被験者に対する診断、被験者に対して提案された治療法の治療効果の予測、および/または被験者に対する適切な治療法の提案を含む。治療法は、医療行為者またはシステムによって提案されることができる。実験手順は患者のケアを管理するいかなる方法にもなることができる。例となる実験手順は、被験者向けの代替的かつ潜在的な治療法(すなわち、外科手術、ライフスタイルの変化、または1つ以上の薬物の投与)または単純な時間の経過が含まれる。次にシステムは状況に応じて、被験者が受ける一組の診断テストを推奨することができ、そのテスト結果は、システムによって受け取られ、また1人以上の仮想患者と被験者の関連付けを明確にするために使用されることができる。
【0008】
本発明の1つの実施例では、関連サブシステムは、(i)仮想患者の1つ以上の集団であって、各集団の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から前記集団の前記仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する1つ以上の集団と、(ii)生理学的なパラメータセットの集団によって共有される少なくとも1つの共通特性と入力データが相互に関連する際、被験者を仮想患者の集団と関連付けることのできる相関器とを備える。本発明の代替実施例では、関連サブシステムは、(i)仮想患者の1つ以上の集団であって、各集団の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から前記集団の前記仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する1つ以上の集団と、(ii)比較サブシステムであって、(1)前記1つ以上の共通特性を入力データと比較し(2)被験者を1人以上の仮想患者と一致させるために必要な追加データを特定し、(3)前記追加データをユーザーに報告することのできる比較サブシステムと、(iii)生理学的なパラメータセットの集団によって共有される少なくとも1つの共通特性と入力データが相互に関連する際、被験者を仮想患者の集団と関連付けることのできる相関器を備える。好ましくは、比較サブシステムはさらに、被験者を1人以上の仮想患者と一致させるために必要な追加データに関連する結果を得るために、ユーザーに1つ以上の診断テストを報告することができる。仮想患者の集団は、1人の仮想患者または1人以上の仮想患者で構成されることができる。
【0009】
本発明の別の側面は、生体系のシミュレーションを行うためのコンピュータで実行可能なソフトウエアコードを提供し、前記コードは、(a)複数の仮想患者を定義するためのコードと、(b)被験者を1人以上の関連する仮想患者と一致させるために、前記被験者に関連する入力データを前記1人以上の仮想患者と関連付けることのできる関連システムを定義するためのコードと、(c)一組の出力を生成するために、前記1人以上の関連する仮想患者それぞれに対し、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジンを定義するためのコードとを備え、前記一組の出力は、1つ以上の生体系に関連する被験者に対し結果を予想する。好ましい実施例では、1つ以上の生体系のモデルは、機構モデル、生理学的なモデル、または疾患モデルである。好ましい一組の出力は、被験者に対する予後、被験者に対する診断、被験者に対して提案された治療法の治療効果の予測、および/または被験者に対する適切な治療法の提案を含む。好ましい実施例では、コンピュータで実行可能なソフトウエアコードはさらに、上記で説明した関連サブシステムを定義するためのコードを備える。
【0010】
さらに、本発明の別の側面は、被験者の治療効果を予測する方法を提供し、前記方法は、(a)複数の仮想患者を定義するステップと、(b)被験者に関するユーザー入力データを受け取るステップと、(c)前記被験者を1人以上の関連する仮想患者と一致させるために、前記入力データを前記仮想患者の1人以上と関連付けるステップと、(e)前記被験者に対する潜在的な治療法を示す1つ以上の実験手順を定義するステップと、(f)一組の出力を生成するために、1つ以上の実験手順をそれぞれ、1人以上の関連する仮想患者に適用するステップとを備え、前記一組の出力は、前記被験者に対する治療法の治療効果を予想する。好ましくは、前記治療法は、ライフスタイルの変化、薬物の投与および/または外科手術に対し影響を与えることである。好ましくは、前記モデルは、機構モデル、生理学的なモデル、または疾患モデルである。さらに好ましくは、前記モデルは、1つ以上の生体系に関連する、一組の生物学的プロセスを表すコンピュータモデルを備え、各生物学的プロセスは一組の数学的関係によって表され、各数学的関係は、生体系に適用可能な生物学的特性または刺激を表す1つ以上の変数を備える。好ましい実施例では、入力データを1つ以上のパラメータと関連付ける方法は、(i)仮想患者をグループ化するステップであって、グループの各仮想患者は、他の仮想患者から前記グループの前記仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有するステップと、(ii)入力データを1つ以上の共通特性と比較するステップと、(iii)前記グループのパラメータセットによって共有される前記1つ以上の共通特性と前記入力データが相互に関連する際、被験者を仮想患者のグループと関連付けるステップとを備える。代替実施例では、入力データを1つ以上のパラメータセットと関連付ける方法は、(i)仮想患者をグループ化するステップであって、グループの各仮想患者は、他の仮想患者から前記グループの前記仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有するステップと、(ii)入力データを1つ以上の共通特性と比較するステップと、(iii)被験者を1人以上の仮想患者と一致させるために必要な追加データを特定し、かつ前記追加データを得るために1つ以上のテストを報告するステップと、(iv)前記追加データを得るために、前記1つ以上のテストから結果を受け取るステップと、(iii)前記グループの前記仮想患者によって共有される前記1つ以上の共通特性と入力データおよび追加データが相互に関連する際、前記被験者を仮想患者のグループと関連付けるステップを備える。状況に応じて、ステップ(iii)および(iv)は、1回以上繰り返される。前記仮想患者のグループは、1人の仮想患者または1人以上の仮想患者から構成されることができる。1つの実施例では、前記方法は被験者をより良く表す新しい仮想患者を生成するために、仮想患者を変更するステップをさらに備える。別の実施例では、前記方法はさらに、(g)時間の経過と共に、更新されたユーザー入力を受け取るステップと、(h)1つ以上の更新された関連パラメータセットを特定するために、更新された入力データを1つ以上のパラメータセットと関連付けるステップと、(i)更新された一組の出力を生成するために、1つ以上の更新された関連パラメータセットをそれぞれモデルに適用するステップを備え、前記更新された一組の出力は、被験者に対する治療法の治療効果を予測する。1つの好ましい代替実施例では、前記方法はさらに、(g)同様の結果を生成する仮想患者をグループ化するステップと、(h)他のすべての仮想患者から、グループ化された仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を特定するステップと、(i)前記1つ以上の共通特性の同一性をユーザーに報告するステップとを備える。状況に応じて、前記方法は、前記1つ以上の共通特性に関連する結果を得るために、前記ユーザーに対して1つ以上の診断テストを報告するステップをさらに備える。
【0011】
さらに、本発明の別の側面は、被験者の治療法の効果を監視する方法を提供し、前記方法は、(a)複数の仮想患者を定義するステップと、(b)被験者に関するユーザー入力データを受け取るステップと、(c)前記被験者を1人以上の関連する仮想患者と一致させるために、前記入力データを前記仮想患者の1人以上と関連付けるステップと、(e)前記被験者に対する潜在的な治療法を示す1つ以上の実験手順を定義するステップと、(f)一組の出力を生成するために、前記1つ以上の実験手順をそれぞれ前記1人以上の関連する仮想患者に適用するステップと、(g)治療効果の1つ以上のバイオマーカーを特定するために、前記一組の出力に対して相関分析を行うステップと、(h)前記治療効果の1つ以上のバイオマーカーを監視するステップとを備える。
【0012】
本発明の別の側面は、システムによって制御される装置と機器を提供し、前記システムは、(a)複数の仮想患者と、(b)被験者を前記仮想患者の1人以上と一致させるために、前記被験者に関する入力データをパラメータセットの1つ以上と関連付けることのできる関連サブシステムと、(c)一組の出力を生成するために、前記被験者と一致する1人以上の仮想患者に対して、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジンとを備え、前記一組の出力は、モデルによって表される1つ以上の生体系に関連する前記被験者に対し結果を予想するシステムである。各仮想患者は、(i)1つ以上の生体系のモデルと、(ii)単一個人を表すパラメータセットを備える。好ましくは、装置または機器は閉ループ制御システムである。
【0013】
上記で要約された実施例を適切に組み合わせて使用し、上記で明確には引用されていない追加実施例を作り出すことができ、またそのような実施例は本発明の一部とみなされることが、当業者により理解されよう。
【0014】
本発明のいくつかの実施例の本質および目的をより良く理解するために、付随する図面と併せて以下の詳細な説明を参照されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(A.概要)
本発明は、治療法に対する個人の反応を予測および監視するためのシステム、方法、および装置を対象とする。本発明は、複数の仮想患者と、被験者を前記仮想患者の1人以上と関連付けることのできる関連サブシステムと、一組の出力を生成するために、前記被験者と一致する1人以上の仮想患者に対して、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジンとを含む。前記一組の出力は、治療効果を表示する、治療効果を監視するためのバイオマーカーを特定する、または生体系が特定個人を表す場合は、単にその状態を報告することができる。
【0016】
(B.定義)
ここで使用される「機構モデル」という用語は、プロセスの動的な動作およびその特性を記述するために使用される微分方程式を含むモデルを指す。機構モデルは因果モデルを含み、2つ以上の因果的に関連付けられた変数を数学的関係で結び付けるが、これらの変数に関連する少なくとも1つの内在する生物学的メカニズムを含める必要がある。
【0017】
ここで使用される「生物学的なモデル」という用語は、臨床的に診察可能なプロセスを引き起こす内在するメカニズムを指す。生物学的なモデルは、例えば、受容体に対する薬物の結合(例えば、結合定数を含む)、例えば酵素反応(例えば、このような反応の速度を含む)など特定の化学反応の触媒作用、分子または分子錯体などの細胞構成物質の合成または劣化(例えば、このような合成または劣化の速度を含む)、たんぱく質のリン酸化反応またはグリコシル化などの細胞構成物質の変更(例えば、このようなリン酸化反応またはグリコシル化の速度を含む)、およびこれらと同類のものを含む、またはこれらのプロセスに基づくことができる。
【0018】
ここで使用される「生理学的なモデル」という用語は、健全な恒常性と恒常性からの逸脱のダイナミクス、すなわち、病気を表す1つ以上の亜臨床的なプロセスを含む機構モデルを指す。
【0019】
ここで使用される「亜臨床的なプロセス」という用語は、臨床環境では容易に測定することができないが、通常、臨床環境において測定することのできる事後の影響または結果を含むプロセスを指す。亜臨床的なプロセスの限定されない例には、受容体に対する薬物の結合(例えば、結合定数を含む)、例えば酵素反応(例えば、このような反応の速度を含む)など特定の化学反応の触媒作用、分子または分子錯体などの細胞構成物質の合成または劣化(例えば、このような合成または劣化の速度を含む)、たんぱく質のリン酸化反応またはグリコシル化などの細胞構成物質の変更(例えば、このようなリン酸化反応またはグリコシル化の速度を含む)、およびこれらと同類のものが含まれる。
【0020】
ここで使用される「疾患モデル」という用語は、疾患状態の動的な性質を説明するために使用される、一組の微分方程式を含むモデルを指す。
【0021】
ここで使用される「ライフスタイルの変化」という用語は、被験者の食生活、活動レベル、運動計画、睡眠パターン、ストレスレベル、またはこれらと同類のものの変化を指す。
【0022】
ここで使用される「実験手順」という用語は、被験者の環境および/または治療における実際の実生活の変化を表すために、1つ以上の生物学的なシステムのモデルに適用される変更を指す。例となる実験手順には、既存または仮定された治療媒介物および治療法、単なる時間の経過、環境有害物質への汚染、運動の増加ならびにこれらと同類のものを含む。
【0023】
ここで使用される「被験者」という用語は、現実の個体を指し、好ましくは人間である。一方、「仮想患者」という用語は、本発明のシステム、装置および方法における被験者の表現を指す。
【0024】
「予想する」という動詞は、結果を予測する行為を指す。本事例では、被験者の結果は、1人以上の関連する仮想患者に対して実験手順のシミュレーション結果から推測される。
【0025】
「被験者の好み」という用語は、特定の治療法の結果に肯定的にまたは逆に影響する、被験者によって行うことのできる選択を指す。例えば、被験者の好みには、被験者が食生活を変える、手術を受ける、運動を行うおよび/または推奨された治療法に従う意欲または能力が含まれる。
【0026】
「細胞構成物質」という用語は、生物学の細胞またはその一部を指す。細胞構成物質の限定されない例には、DNA、RNA、たんぱく質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖分、脂肪酸、酵素などの分子、ホルモン、および化学的に反応する分子(例えば、H、超酸化物、ATP、およびクエン酸)、高分子および分子錯体、細胞内小器官などの細胞および細胞の一部(例えば、ミトコンドリア、細胞核、ゴルジ複合体、リソソーム、小胞体およびリボソーム)およびこれらの組み合わせを含む。
【0027】
「生物学的構成物質」という用語は、生体系の一部を指す。生体系は、例えば、個々の細胞、細胞培養などのセルの一群、器官、細胞組織、個々の人間患者などの多細胞生物、多細胞生物の細胞の部分集合、または人間患者のグループもしくは一般的な人間の集団全体など、多細胞生物の集団を含むことができる。また生体系は、例えば、神経系、免疫系、または心臓血管系などの多細胞組織系を含むことができる。生体系の一部である生物学的構成物質は、例えば、細胞外構成物質、細胞構成物質、細胞内構成物質、またはこれらの組み合わせを含むことができる。生物学的構成物質の例には、DNA、RNA、タンパク質、酵素、ホルモン、細胞、器官、細胞組織、細胞、細胞組織、または器官の一部、ミトコンドリア、細胞核、ゴルジ複合体、リソソーム、小胞体およびリボソームなどの細胞内小器官、Hなどの化学的に反応する分子、超酸化物、ATP、クエン酸、たんぱく質アルブミン、ならびにこれらの組み合わせを含むことができる。
【0028】
生物学的構成物質に関する「作用」という用語は、生物学的構成物質と1つ以上の追加生物学的構成物質の相互作用を指す。生体系の生物学的構成物質はそれぞれ、ある生物学的メカニズムに従い、生体系の1つ以上の追加生物学的構成物質と相互に作用することができる。生物学的構成物質が相互に作用することのできる生物学的メカニズムは、既知であることもあれば不明であることもある。生物学的メカニズムは、例えば、生体系の合成、規制、恒常性または制御ネットワークを含むことができる。例えば、ある生物学的構成物質と他の生物学的構成物質の相互作用には、例えば、ある生物学的構成物質が別の生物学的構成物質に合成的に変形すること、生物学的構成物質の直接的かつ物理的相互作用、中間の生物学的事象によって媒介された生物学的構成物質の間接的相互作用、またはその他のメカニズムを含むことができる。いくつかの事例では、ある生物学的構成物質と別の生物学的構成物質の相互作用には、例えば、別の生物学的構成物質による生物学的構成物質の生成速度、レベル、または活性の抑制または刺激など、別の生物学的構成物質による生物学的構成物質の規制調節を含むことができる。
【0029】
「生物学的状態」という用語は、生体系に関連する状態を示す。いくつかの事例では、生物学的状態は、生体系の一組の生物学的プロセスの発生に関連する状態を指す。生体系の生物学的プロセスはそれぞれある生物学的メカニズムに従い、生体系の1つ以上の追加生物学的プロセスと相互に作用することができる。生物学的プロセスが互いに関連して変化するにつれ、通常、生物学的状態も変化する。通常、生物学的状態は、生物学的プロセスが互いに作用する様々な生物学的メカニズムに依存する。生物学的状態は、例えば、血漿、間質液、細胞内、または脳脊髄液の栄養またはホルモンの濃度状態を含むことができる。例えば、低血糖症および低インスリン血症に関連付けられる生物学的状態は、それぞれ、低血糖値および低インスリン値の状態によって特徴付けられる。これらの状態は、実験的に与えることや特定の生体系に本質的に存在することができる。他の例としては、神経細胞の生物学的状態は、例えば、神経細胞が静止している状態、神経細胞が活動電位を発生している状態、神経細胞が神経伝達物質を放出している状態、またはこれらの組み合わせを含むことができる。また他の例としては、一群の血漿栄養素の生物学的状態は、一晩絶食後に、ある個人が目覚めた状態、食事直後の状態、および食間の状態を含むことができる。他の例としては、リウマチ関節症の生物学的状態は、軟骨の深刻な劣化および炎症細胞の過形成を含むことができる。
【0030】
生物学的状態は、「疾患状態」を含むことができ、これは生体系に関連する異常または有害な状態を指す。疾患状態は通常、生体系の疾患の異常または有害な影響と関連付けられる。いくつかの事例では、疾患状態は、生体系の一組の生物学的プロセスの発生に関連する状態を指し、一組の生物学的プロセスは生体系の疾患の異常または有害な影響に関与する。疾患状態は、例えば、細胞、器官、細胞組織、多細胞生物、または多細胞生物の集団で観察することができる。疾患状態の例は、せんぞく、糖尿病、肥満、およびリウマチ関節症に関連する状態を含む。
【0031】
「生物学的プロセス」は、生体系の生物学的構成物質の1つの相互作用、または一組の相互作用を指す。いくつかの事例では、生物学的構成物質の相互作用のネットワークと併せて、生体系のある側面から引き出された一組の生物学的構成物質を指す。生物学的プロセスは、例えば、生化学的経路または分子経路を含むことができる。また生物学的プロセスは、細胞、器官、細胞組織、または多細胞生物の環境内で発生、またはその環境と接触して発生する経路を含むことができる。生物学的プロセスの例には、細胞エネルギーをもたらすために分子が分解する生化学的経路、細胞構造またはエネルギー貯蔵をもたらすために分子が蓄積される生化学的経路、たんぱく質または核酸が合成または活性化される生化学的経路、およびたんぱく質または核酸前駆体が合成される生化学的経路が含まれる。このような生化学的経路の生物学的構成物質には、例えば、酵素、合成中間体、基質前駆体および中間種が含まれる。
【0032】
また生物学的プロセスには、例えば、信号伝達経路および制御経路を含むことができる。このような経路の生物学的構成物質には、例えば、通常これらの経路を特徴付ける信号伝達カスケードまたは制御カスケードに関与するたんぱく質だけでなく、第一または中間信号伝達分子が含まれる。信号伝達経路の場合、受容体に対する信号伝達分子の結合は、中間信号伝達分子の量に直接的に影響を与えることができ、また経路たんぱく質のリン酸化反応(または他の変更)の度合いに間接的に影響を与えることができる。信号伝達分子の結合は、例えば、細胞の転写性質に影響を及ぼすことで、細胞たんぱく質の活性に影響を与えることができる。これらの細胞たんぱく質は多くの場合、信号によって引き起こされる細胞事象の重要なエフェクターとなる。細胞サイクルのタイミングおよび発生を制御する制御回路などの経路は、信号伝達経路といくつかの類似点を共有する。ここでは頻繁に起こる複数の細胞事象は、例えば、染色体分離による細胞分割などの結果を得るために、しばしばフィードバック制御によって一時的に調整される。この一時的な調整は、制御経路の機能の結果であり、この制御経路は、各たんぱく質の変更または活性の度合いに対する相互影響によって媒介される場合が多い(例、リン酸化反応)。他の制御経路は、環境の変化に直面した際、細胞の代謝作用の最適レベルを維持しようとする経路を含むことができる。
【0033】
生物学的プロセスは、階層的プロセス、非階層的プロセス、または階層的プロセスと非階層的なプロセスの組み合わせとなることができる。階層的なプロセスは、特定のレベルに属する生物学的構成物質が、他のレベルに属する生物学的構成物質と相互に作用ができるように、生物学的構成物質が階層レベルに配列されたものである。一般に、階層的プロセスは、最下位のレベルに属する生物学的構成物質に由来する。非階層的プロセスは、プロセスに存在する生物学的構成物質が、上流または下流の別の生物学的構成物質と相互に作用ができるものである。非階層的プロセスは、多くの場合、1つ以上のフィードバックループを備えている。生物学的プロセスのフィードバックループは、生物学的プロセスの生物学的構成物質の部分集合を指し、フィードバックループの生物学的構成物質はそれぞれ、フィードバックループの他の生物学的構成物質と相互に作用することができる。
【0034】
「薬物」という用語は、既存または不明な生物学的メカニズムに関わらず、また治療的に使用されたかどうかに関わらず、生物学的状態に影響を与えることのできるあらゆる複雑な度合いの化合物を指す。いくつかの事例では、薬物の治療対象として呼ぶことのできる生物学的構成物質と相互に作用することで、薬物はその影響を発揮する。治療対象の機能を刺激する薬物は、「活性薬物」または「作用薬」と呼ぶことができ、一方、治療対象の機能を抑制する薬物は、「抑制薬物」または「拮抗薬」と呼ぶことができる。薬物の影響は、例えば、1種以上のRNAの転写もしくは劣化の割合で起こる薬物媒介の変化、1つ以上のポリペプチドの翻訳または翻訳後処理の割合または範囲で起こる薬物媒介の変化、1つ以上のたんぱく質の劣化の割合または範囲で起こる薬物媒介の変化、1つ以上のたんぱく質の作用または活性の薬物媒介の抑制または刺激などの結果となることができる。薬物の例には、研究または治療対象の一般的な小型分子、エンドクリンなどの自然発生因子、パラクリン、もしくはオートクリン因子またはあらゆる種類の細胞受容体と相互作用する因子、細胞内信号伝達通路の要素などの細胞内因子、他の自然源から単離した因子、農薬、除草剤、および殺虫剤が含まれる。また薬物は、例えば、DNAやRNAなどの遺伝子治療で使用される媒介物を含むことができる。また、バクテリアやウイルス(例、毒素)によって生成される抗体、ウイルス、バクテリア、および生物活性媒介物も薬物としてみなすことができる。特定の用途では、薬物は、一組の薬物を含む組成物または一組の薬物および一組の賦形剤を含む組成物を含むことができる。
【0035】
(C.臨床決断支援システム)
本発明の一側面は、世界中の研究者および臨床医が人間の健康を改善できるよう支援する、モデルベースのリソースを備える。本発明の用途は、人間の生理機能および病態生理をより良く理解できるように、教育、研究、患者ケアグループに対し、知識ベースとしての機能を果たすことで、人間の健康を改善することができる。システムは、個々の患者の様々な病気を無効化および治療することを目的とした包括的治療という形で、薬物効果、栄養補給食品、診断、医療機器、および上述の組み合わせを評価するために使用することができる。さらに、本発明は、例えば、農薬、汚染、および化学的または生物学的武器を含む環境条件に対する個々の患者の反応を理解する目的で、防御物の開発に使用することができる。
【0036】
図1は、本発明の1つの側面である、(a)複数の仮想患者110と、(b)被験者を1人以上の仮想患者と一致させるために、被験者に関する入力データを1つ以上のパラメータセットと関連付けることのできる関連サブシステム120と、(c)一組の出力を生成するために、被験者と一致する1人以上の仮想患者に対し、1つ以上の実験手順を適用することのできるシミュレーションエンジン130を備え、前記一組の出力は、モデルによって表される1つ以上の生体系に関連する被験者に対して結果を予想するシステム100を示す。各仮想患者は、(i)1つ以上の生物学的モデルと、(ii)単一個人を表すパラメータセットを備える。
【0037】
本発明のシステムは、ある集団において予想される相違を示す複数の仮想患者を予め取り込むことができる。本発明の目的は、治療の提案を個別化することであるため、ある集団における相違は、このような相違が治療に対する様々な反応を引き起こす場合、通常重要なものとなる。本発明の実施例は、被験者に対する1人以上の仮想患者を選択することができ、また、被験者の特質に基づいてこれらの仮想患者を微調整することができる。例えば、90kgと100kgの仮想患者が存在する場合、より正確な結果を得るために、95kgの被験者に関連する仮想患者を素早く作成することができる。新しく作成された仮想患者は、システムを使用し自動的に有効にすることができる。
【0038】
1つの実施例では、システムは、現実の個人、すなわち被験者と仮想患者を関連付け、その後、これらの仮想患者に対してシミュレーションを行い、どの治療が最適かを報告することで操作することができる。システムは、ある個人に対して何の病気が関連しているかをまず評価するために、医師や看護婦など、医療行為者からの入力を取り込むことができる。いくつかの例では、ユーザーの入力は、被験者を適切に表す1人以上の仮想患者を特定する目的で、仮想患者プールの複雑性を解消するのに十分である。そうでない場合、適切な仮想患者の特性を最初に絞り込むために、医師の入力を使用することができる。例えば、肥満や糖尿病では、体重が重要な入力となることができる。これらの入力に基づいて、被験者をさらに分類するために何のテストが必要かを決定することができる。これらのテストには、例えば、糖尿病被験者用のヘモグロビンA1c(「HbA1c」)測定および耐糖能テスト、またはぜんそく被験者用の1秒間努力呼気容量(「FEV1」)を含むことができる。実施するテストは、予め作成した決定木を使用、または仮想患者のプール全体の部分集合を使いシミュレーションエンジンを実行することで特定することができる。
【0039】
すでに存在する仮想患者が使用された場合、推奨する治療は予めコンピュータで求められているため、実際に結果の表を参照することができる。そうでない場合、被験者に推奨する治療を選択するために、個々の治療および治療の組み合わせのシミュレーションを行うことができる。さらに、新規に作成された仮想患者に対して、バイオマーカー分析が自動的に行われ、被験者と仮想患者の関連を確定するため、または推奨した治療が予想通りの効き目があることを確認するために、特定されたバイオマーカーを使用することができる。
【0040】
被験者の病院訪問時に受け取られた情報(例えば、診察、測定、被験者が取り入れている薬物、被験者の好み、医療行為者の提案する治療など)は、臨床決断支援システムに入力することができる。状況に応じて、システムは、被験者が受ける一組の診断テストを推奨することができる。次に、その一組のテストの結果をシステムに入力することができる。
【0041】
いくつかの事例では、システムは、同一または別の医療行為者から前回のテストまたは診断の結果など、被験者に関する履歴情報も受け取ることができる。この情報は、患者の履歴、電子医療記録からの情報の抽出、またはシステムを前回使用した時の保存情報を手動で登録することで、入力することができる。この履歴情報は、被験者の状態をさらに決定するために使用することができる。履歴情報はさらに、被験者と1人以上の仮想患者の前回の関連を監視または確認するために使用することができる。被験者の好み(例えば、患者は特定の投薬計画に従う意欲があるか、または従うことができるか)は、治療方法を決定しやすくする入力となることができる。
【0042】
一組のテストの結果に基づいて、臨床決断支援システムは、診断、被験者に対する予後、様々な治療法に対する被験者の予想される反応、および状況に応じて、例えば、ライフスタイルの変更の提案ばかりでなく、1つ以上の薬物の投与など、被験者に対する適切な治療方法に関する提案を医師に行うことができる。システムの出力は、好ましくは、治療方法に対する治療効果を報告する。効果と費用の組み合わせに基づいて、費用効果に対応することが可能である。例えば、本発明のシステムは、被験者のヘルスケア提供者に一致する処方を通し、効果と費用を予測するために使用することができる。
【0043】
本発明の臨床決断支援システムによって、ユーザーは、コンピュータモデルの病気を使用し、調査および実験することが可能である。ユーザーは、コンピュータモデルに何の生理機能が含まれ、どの患者の種類が表され、また何の治療をシミュレーションすることができるか理解することができる。ユーザーは、様々な被験者がどのように反応するかを理解するために、様々な被験者に対して、多様な治療およびライフスタイルの変更を別々または組み合わせて試すことができる。
【0044】
ユーザーに報告される詳細レベルは、対象ユーザーの教養レベルによって異なり得る。ヘルスケア環境の場合、特に、一般の人々によって使用される場合、コンピュータモデルに加えて、高レベルの抽象概念を含むことが望ましい。高レベルの抽象概念は、例えば、主要な生理学的サブシステムとその相互連結を示すことができるが、ユーザーが、詳細な要素を参照することを確定していない限り、コンピュータモデルの特定の詳細要素を報告する必要はない。仮想患者を使用して被験者を表す際、この高レベルの抽象概念は、仮想患者の表現型および内在する生理学的特性の説明をすることができるが、コンピュータモデルにその仮想患者を作成するために使用される、特定のパラメータ設定を含む必要はない。治療を表す場合、この高レベルの抽象概念は、治療が何を行うかを説明することができるが、コンピュータモデルでその治療をシミュレーションするために使用される、特定のパラメータ設定を含む必要はない。被験者と医師に特別に関連するコンピュータモデルの出力の部分集合は、容易にアクセスすることができる。
【0045】
高レベルの抽象概念は、独立型システム、またはPhysioLab(登録商標)システムなど、生体系の詳細モデルに加えレイヤーとして導入することができる。この高レベルの抽象概念によって、ユーザーは、生理機能またはパラメータ詳細に関する詳細な分析を必要に応じて行うことが可能である。例えば、研究臨床医は、コンピュータモデルの詳細な要素を調査する機能を理解ことができる。予め設定された仮想患者とシミュレーション治療の様々な組み合わせに対するシミュレーション出力は、予めコンピュータで計算することができ、またユーザーに容易に示すことができる。他の組み合わせは必要に応じてコンピュータで計算でき、将来の参考として保存することができる。
【0046】
本発明のシステムは、内科患者の管理および内科患者に対し、何の治療が適切かを決定するために、医師によって使用されることができる。病気の理解が進み、治療が専門化するにつれ、被験者の内在する生理機能をより良く理解する必要性が出てくる。また、その被験者をより良く理解することで、利用可能な薬物を具体的に適用する必要性がある。例えば、治療に対する被験者の好み(被験者が食生活を変える、手術を受ける、運動を行うおよび/または推奨された治療法に従う意欲または能力)は、医師が治療を推奨するかどうかに影響を及ぼすことが可能である。
【0047】
本発明は、時間の経過に合わせて、被験者を上手く管理するために使用することができる。患者の医療記録は、時間の経過に合わせて被験者を管理できるように、関連する仮想患者によって改善することができる。例えば、被験者が医師を訪ねた場合、診断を得るために、仮想患者を使用し分析を行うことができる。この分析から得た結果は、被験者が医師を再び訪ねる度に時間の経過に合わせて保存し再計算することができる。結果は、シミュレーション予測を確認および改善するために使用することができる。相違が見つかった場合、被験者の状態に合併症があるかを決定するため、または被験者を別の仮想患者もしくは別の集団の被験者に関連付けるべきかを決定する目的で、被験者をさらに研究するために結果を使用することができる。被験者の状態が時間の経過と共に改善または悪化するにつれ、被験者は、別の仮想患者と関連付けることができる。この時間の経過に合わせた関連付けは、被験者の医療記録の一部となることができ、被験者の病気の進行をより良く理解することが可能となる。さらに、この時間の経過に合わせた関連付けは、被験者の状態が改善または悪化するにつれ、治療の提案を調整することを可能とする。
【0048】
本発明はまた、例えば、重症管理室などの状態の変化を予期する目的で、被験者を監視するために使用することができる。また、この用途は、病院や診療室の外で被験者を監視することができる機器やセンサーと一緒に使用することができる。これらの機器やセンサーは、分析のためにデータを記録する、閉ループ制御システム(例えば、インスリンポンプ)に入力を行う、または有害事象の発生を監視するために使用することができる。これらの機器やセンサーは、自動的に情報を集める、またはある手順に従って入力された情報に基づいて操作することができる。
【0049】
システムは、被験者の監視に関連して、追加機能を可能とする。例えば、有害事象を監視している際、システムは、有害事象、およびこれらの有害事象の初期の現れであるバイオマーカーの特定に関する情報を提供することができる。幅広い状態をシミュレーションする能力、および内在する生理機能を研究する能力によって、バイオマーカーは、有害事象に対しさらに具体的になることができる。また、有害事象の監視は、被験者に関連する仮想患者または仮想患者の集団を特定することで、特定の被験者に対してカスタマイズすることができる。その仮想患者または仮想患者の集団に適した、特定の監視パラメータは、被験者を監視するために使用することができる。
【0050】
また機器およびセンサーは、特定の被験者と関連する仮想患者を特定する役割を果たすことができる。例えば、監視機器は、上記で説明したシステムによって推奨される一組のテストの一部として使用することができる。また、機器およびセンサーは、仮想患者の関連性と提案する治療を確認するために使用することができる。
【0051】
さらに、本発明は、被験者の内在する生理機能に基づいて、閉ループ制御システムを最適に設計することができる。制御パラメータと監視パラメータは、特定の被験者に関連する仮想患者に基づいて、特定の被験者に対してカスタマイズすることができる。
【0052】
さらに、システムは担当医と専門医とのコミュニケーションを促進するために使用することができる。特に、この用途によって、担当医は、本発明のシステムを介して、専門医や経験のある医師とコミュニケーションを取ることが可能となる。医師と専門医のコミュニケーションは、臨床環境または遠隔治療環境で行うことができる。例えば、医師と専門医は、被験者の最適な治療方法を決定するために、本発明のシステムを共同で使用することができる。この共同作業は、両者がシステムを一緒にアクセスしている会議室で行うことができる。また、この共同作業は、システムまたは他の電子通信(例えば、電子メールによって送信されるリンク)を利用し、情報を交互に共有することで行うことができる。専門医は、手動のやり取り、またはシステムが自動的に関連付けを行うことができるデータをさらに入力することで、仮想患者の関連付けを微調整することができる。これらどちらの場合も、システムに被験者の表現を備えること、およびヘルスケアの専門家によってシステムがアクセス可能であることによって、被験者は、継続的に個別治療を受けることが可能になる。
【0053】
臨床環境および病院環境で使用することに加え、本発明は、研究開発、臨床データ管理、臨床試験設計および管理、対象、診断、および複合分析、バイオアッセイ設計、ADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)分析、ならびにバイオマーカー特定における用途を備える。
【0054】
例えば、本発明は、仮想患者および様々な治療に対するシミュレーション反応のデータベースを提供することができる。このデータベースによって、研究者は、特定の現実患者が特定の治療に対してどのように反応するかを理解するために、詳細な分析を行うことができる。例えば、このデータベースから、研究者は、治療が行われた2時間後に、肝臓の特定の経路に何が起こるかを理解することができる。仮想患者は、特定の病気の表現型を完全に複写することのできない、科学的グループによって主張された仮説を主張することができる。システムによって、研究者は、(詳細なパラメータ設定を調査する必要なしに)これらの仮説に内在する生理学的現れを調査することができ、またシミュレーションが行われた表現型と臨床的に観察された違い(存在する場合)を強調することができる。
【0055】
ヘルスケア機関は、大量の臨床データを利用可能にすることができるが、この臨床データから重要な情報を取り出すことができない。本発明のコンピュータモデルのような、内在する生理機能を臨床結果と結び付けるコンピュータモデルは、この臨床データの理解を深め使用を改善することができる。臨床データは、バッチ処理を使用し、仮想患者と被験者を関連付けるために処理することが可能である。被験者と仮想患者の関連は、異なる仮想患者の患者数に関するデータを提供することができる。この情報は、仮想患者に対してシミュレーションを行うことのできる治療の市場の潜在能力を評価するために、薬学研究開発によって使用することができる。
【0056】
他の例としては、臨床データは、被験者と仮想患者を関連付けるために処理することができ、仮想患者に対するシミュレーション結果は、被験者に対する実際または臨床結果と取り混ぜることができる。例えば、被験者がある診断テストを受けたが、テスト結果は制限された情報を提供したとする。本発明を使用し、関連する仮想患者に対し、同様のテストのシミュレーションを行うことができ、また詳細な分析を行うために、詳細なシミュレーション結果(例えば秒毎)を提供することができる。シミュレーション結果は、例えば、バイオマーカーを探し出すためのより高度な分析を可能とする、実際のデータとシミュレーションデータの混合データベースを提供するために保管することができる。
【0057】
本発明の様々な側面は自動化することができる。代案としてまたは組み合わせて、指導を受けたユーザーは、システムへのアクセスを容易にすることができる。医療行為者は、被験者と仮想患者を関連付けるために、または被験者と仮想患者の自動的な関連付けの結果を確定するために、手動で処理オプションを入力できることが考えられる。同様に、指導を受けたユーザーは、医師や被験者に提出される前に、結果が適切に有効にされたことを確認するために、システムの結果を見直すことができる。
【0058】
(D.仮想患者)
本発明は、被験者と関連付けることのできる複数の仮想患者を提供する。ここで使用される仮想患者は、1つ以上の生体系のモデルと、単一個人を表すパラメータセットを備える。完全なシステムの状況において、複数の仮想患者は、共通モデルを共有することができる。生体系は本質的に非常に複雑なため、通常、モデルはコンピュータモデルであるが、本発明は、生体系の非コンピュータモデルを含む。モデルに含まれる好ましい生体系は、これらに制限されないが、心臓血管系、代謝作用、骨格、自己免疫、腫瘍学、呼吸器官、感染症、中枢神経系、皮膚および毒物学が含まれる。
【0059】
(1.生体系のモデル化)
1つの実施例では、シミュレーションモデル化ソフトウエアは、例えば、米国特許番号5,657,255 1997年8月12日刊行 名称「Hierarchical Biological Modeling System and Method」、5,808,918 1998年9月15日刊行 名称「Hierarchical Biological Modeling System and Method」、6,051,029 2000年4月18日刊行 名称「Method of Generating a Display for a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」、6,539,347 2003年3月25日刊行 名称「Method of Generating a Display for a Dynamic Simulation Model Utilizing Node and Link Representations」、6,078,739 2000年1月25日刊行 名称「A Method of Managing Objects and Parameter Values Associated With the Objects Within a Simulation Model」、および6,069,629 2000年5月30日刊行 名称「Method of Providing Acccess to Object Paramters Within a Simulation Model」で説明されるコンピュータモデルを提供するために使用される。図2を参照すると、本発明に役立つシミュレーションモデル化ソフトウエア200の例となる実施例のブロック図が提供されている。シミュレーションモデル化ソフトウエアの例は、米国特許6,078,739に記載されている。具体的に、モデル化ソフトウエア200は、C++やJava(登録商標)プログラミング言語などのオブジェクト指向の言語を使用し、コード化することのできるコア202を備える。従って、コア202は、オブジェクトクラス、すなわち、ダイアグラムオブジェクト204、アクセスパネルオブジェクト206、レイヤーパネルオブジェクト208、監視パネルオブジェクト210、チャートオブジェクト212、構成オブジェクト214、実験手順オブジェクト216、および測定オブジェクト218を備えることが示される。この技術では良く知られているように、コア202の各オブジェクトは、一群のパラメータ(また一般的に、インスタンス、変数またはフィールドとして呼ばれる)と、関連オブジェクトのパラメータを利用する一群の方法を備えることができる。
【0060】
例となるダイアグラムオブジェクト220の内容の展開図が示されているが、そこから、ダイアグラムオブジェクト220には、ダイアグラムオブジェクトの説明を行う文書222、一群のパラメータ224、および1つの等式、クラス、または複数の等式を定義することのできる方法226が含まれていることが分かる。ダイアグラムオブジェクト204はそれぞれ、コア202と相互に作用するグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)によって表される、ダイアグラムウインドウ内に表示されるモデル化されたシステムの特性またはオブジェクトを定義する。
【0061】
1つの実施例によると、ダイアグラムオブジェクト204は、ダイアグラムウインドウ内の状態ノード、機能ノード、修飾因子アイコン、およびリンクアイコンによってそれぞれ表される、状態、機能、修飾因子、およびリンクオブジェクトを含むことができる。ソフトウエアコア202内に定義された各オブジェクトは、オブジェクトのある特性を定量化し、またモデル化されたシステムのシミュレーションを行う時に使用される、各オブジェクトに関連付けられた少なくとも1つのパラメータを持つことができる。また、すべてのオブジェクトがパラメータを含む必要がないことも理解される。1つの実施例では、いくつかの種類のパラメータが定義されている。最初に、システムパラメータを各被験者の種類に対して定義することができる。例えば、システムパラメータには、状態オブジェクトの初期値、またはリンクオブジェクトの係数値を割り当てることができる。パラメータの他の種類には、シミュレーション操作における値の簡単な操作を容易にする、オブジェクトパラメータとダイアグラムパラメータが含まれる。
【0062】
上記で説明されたシミュレーションモデル化ソフトウエアは、1つ以上の生体系など、複雑なシステム向けのモデルを生成するために使用することができる。このような場合、シミュレーションモデルは、何百、さらには何千ものオブジェクトを含むことができ、これらのオブジェクトはそれぞれ複数のパラメータを含むことができる。シミュレーションモデルを使用し、効果的な「what−if」分析を行うためには、シミュレーション操作を実行する前に、ある重要なパラメータの入力値にアクセスしそれらの値を監視し、場合によっては、その操作を終了する時に、それらの重要なパラメータの出力値を監視することが有効である。多くのパラメータが2つのオブジェクトから成る関係の式に含まれ、またその関係に影響を受けるため、モデル作成者はまた、このような関係にあるオブジェクトのそれぞれに対し、特定のパラメータを調査する必要がある。例えば、モデル作成者は、その他複数のオブジェクトに対して特定のオブジェクトが与える影響を指定するパラメータと、また特定のオブジェクトに対して、これらその他のオブジェクトが与える影響を指定するパラメータを調査したいと希望することができる。複雑なモデルはまた、ソフトウエアの機能を使用し、または単にモデル作成者の操作によって、サブモデルのシステムに分解される場合が多い。従って、モデル作成者にとって、特定のサブモデル内に含まれる選択されたパラメータを同時に参照することは、役に立つことが多い。この必要性に対応することは、サブモデルの境界が、パラメータに関して互いに排他的になることができないという事実、すなわち、1つのパラメータは多くのサブモデルに現れることができるという事実によって複雑化される。さらに、サブモデルの境界は、モデルが進化するにつれ変更される場合が多い。
【0063】
コンピュータモデルは、1つ以上の生物学的プロセスまたは機能をモデル化するように作ることができる。コンピュータモデルは、生物学的状態、例えば、病気を示す一般的な一組の性質を定義することで開始する「トップダウン」方式を使用し作成することができる。その後、性質はシステムの制約として使用され、また一組のネスト化したサブシステムは内在する詳細の次のレベルを定義するために作成される。例えば、ある性質をリウマチ関節症の軟骨劣化と考えた場合、その性質を誘発する特定のメカニズムは交互にそれぞれモデル化され、一組のサブシステムを作り出し、それらのサブシステムは分解され、細部に渡ってモデル化されることが可能である。そのため、これらのサブシステムの制御と状況は、概して、システムのダイナミクスを特徴付ける性質よってすでに定義されている。分解プロセスは、ある生物学的性質を複製するのに十分な細部が揃うまで、上から下に生物学的要素をモデル化し続ける。具体的に、モデルは、薬物または他の治療媒介物によって操ることのできる生物学的プロセスをモデル化することができる。
【0064】
いくつかの事例では、コンピュータモデルは、一組の数学的関係を使用し、生理系の一組の生物学的プロセスを表す数学的モデルを定義することができる。例えば、コンピュータモデルは、第一の数学的関係を使用して第一の生物学的プロセスを表し、また第二の数学的関係を使用して第二の生物学的プロセスを表すことができる。通常、数学的関係は1つ以上の変数を含み、その動作(例、時間発展)は、コンピュータモデルによってシミュレーションを行うことができる。特に、コンピュータモデルの数学的関係は、変数の相関関係を定義することができ、変数は、様々な生物学的構成物質の組み合わせや集合表現のレベルまたは活動だけでなく、生体系の様々な生物学的構成物質のレベルまたは活動を表すことができる。生体系を構成する生物学的構成物質は、例えば、細胞外構成物質、細胞構成物質、細胞内構成物質、またはこれらの組み合わせを含むことができる。生物学的構成物質の例には、核酸(例えば、DNA、RNA)、タンパク質、酵素、ホルモン、細胞、器官、細胞組織、細胞、細胞組織、または器官の一部、ミトコンドリア、細胞核、ゴルジ複合体、リソソーム、小胞体およびリボソームなどの細胞内小器官、H超酸化物などの化学的に反応する分子、ATP、クエン酸、ならびにこれらの組み合わせを含むことができる。さらに、変数は、生理系に適用できる様々な刺激を表すことができる。
【0065】
通常、コンピュータモデルは、コンピュータモデルに含まれる変数の動作に影響する一組のパラメータを含む。例えば、パラメータは、変数の初期値、変数の半減期、速度定数、転換率、および指数を表す。これらの変数は、通常、実験的なシステムの変動のために、ある範囲の値に収まる。既存の抑制に一致する構成物質とシステム動作を提供するために、特定の値が選択される。そのため、コンピュータモデルの変数の動作は、時間と共に変化する。コンピュータモデルには、数学的関係の一組のパラメータが含まれる。1つの実施例では、パラメータは、生体系に関する外的特性(例、環境因子)だけでなく、本質的な特性(例、遺伝子因子)を表すために使用される。
【0066】
コンピュータモデルに使用される数学的関係には、例えば、一般の微分方程式、偏微分方程式、確率微分方程式、微分代数方程式、差分方程式、セルオートマトン、結合マップ、ブールのネットワークの等式、ファジイ論理ネットワークまたはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0067】
コンピュータモデルの作動は、コンピュータモデルによって表される生体系に対する一組の出力を生成する。一組の出力は、生体系、すなわちシミュレーション被験者の1つ以上の生物学的状態を表し、また特定の時間における特定の実行シナリオに対する、変数とパラメータに関連する値またはその他の兆候を含む。例えば、生物学的状態は、特定の時間における値によって表される。変数の動作は、例えば、様々な時間における変数に対応する、1つ以上の数学的関係生成値の数的または分析的統合によってシミュレーションが行われるため、生物学的状態は時間と共に進化する。
【0068】
1つの実施例では、コンピュータモデルは、生体系の疾患状態だけでなく、正常状態も表すことができる。例えば、コンピュータモデルには、疾患状態または疾患状態への進行のシミュレーションを行うために変更されたパラメータが含まれる。通常、疾患を表すために行われるパラメータの変更は、例えば、内在する生理機能に対する疾患の遺伝子的または環境的影響を表すために行われる、疾患状態に関連する内在生物学的プロセスの変更である。1つ以上のパラメータを選択および変更することで、ユーザーは、正常状態を変更し、かつ対象の疾患状態を引き起こす。1つの実施例では、1つ以上のパラメータの選択または変更は、自動的に行われる。
【0069】
作成されたコンピュータモデルは、複数レベルに生物学的プロセスを表し、その後、すべてのレベルの生物学的プロセスに対する生物学的プロセスの影響を評価する。そのため、作成されたコンピュータモデルは、生体系の多変数表示を行う。また作成されたコンピュータモデルは、2つ以上の専門分野からの情報を1つのコンピュータモデルに合成、または別々の専門分野を表す2つのコンピュータモデルを連結することで、学際的な診断を提供する。
【0070】
例となるコンピュータモデルは、コンピュータモデルによって調査される問題と関連する、特定の生体系および解剖学的因子を反映する。モデル二組み込まれる詳細レベルは、コンピュータモデルの特定の使用目的によって決定される場合が多い。例えば、しばしば評価される生物学的構成物質は、細胞以下のレベルで作用する。そのため、細胞以下のレベルは、モデルで表される詳細の最下位レベルとなることができる。細胞以下のレベルには、例えば、DNAなどの生物学的構成物質、mRNA、たんぱく質、化学的に反応する分子および細胞内小器官が含まれる。同様に、モデルは、多細胞レベルまたは有機体全体のレベルで評価することができる。個々の生体系、すなわち1人の人間は、生物学的構成物質の最終的な影響に関して対象の共通エンティティであるため、個々の生体系(例えば、臨床結果という形で表される)は、システムで表される最高位のレベルである。臨床結果の変数を直接変更することで疾患の影響を表す代わりに、最下位レベルの変更結果として変更される臨床結果と併せて、これらの最下位レベルのパラメータを変更することで、疾患プロセスと治療介入がモデルに追加される。
【0071】
1つの実施例では、コンピュータモデルは、変数、パラメータおよび生物学的プロセスの相関関係だけでなく、数学的関係を視覚的に表現できるように構成される。この視覚的表現には、複数のモジュールと機能領域が含まれ、一緒にグループ化された場合、生体系の巨大な複雑モデルを表す。
【0072】
図3は、生体系を表すために作られたコンピュータモデルの一部分を説明する。具体的には、図3はコンピュータモデル300の一部分305を示す。一部分305は、関節の生物学的プロセスの一部を表す。特に、図3は関節の軟骨マトリクス代謝を示す。軟骨マトリクス代謝は、リウマチ関節症を含む様々な関節疾患の状態に影響を及ぼす。一部分305には、リウマチ関節症の臨床結果である、軟骨劣化率と関連する生物学的プロセスが含まれる。
【0073】
一部分305は、複数の異なるノードを含む、コンピュータモデルの構造的表現を示す。ノードは、コンピュータモデル300に含まれる変数を表す。例えば、ノードは、コンピュータモデル300に含まれるパラメータと数学的関係を表す。ノードの種類の例は下記に説明する。
【0074】
状態ノード(例、状態ノード310)は、一重線の楕円として、コンピュータモデル300に表される。状態ノードは、時間の経過と共に蓄積される入力の影響によって決定することのできる値を持つ変数を表す。1つの実施例では、状態ノードの値は、微分方程式を使用して決定される。各状態ノードに関連するパラメータには、初期状態(S0)とステータス(例えば、状態ノードの値は計算、一定に保持、または特定の基準に従って変更可能)が含まれる。状態ノードは、半減期と関連付けることができ、また半減期「H」の記号を付けることができる。状態ノードの例は、プロコラーゲンを表すノード310である。
【0075】
機能ノード(例、機能ノード320)は、二重線の楕円として、コンピュータモデル300に表される。機能ノードは、ある時間内の特定の時点において、時間内の同じ時点の入力によって決定される値を持つ変数を表す。機能ノードの値は、入力の数学的機能を使用し決定される。機能ノードに関連するパラメータには、機能を評価するために必要な他のパラメータだけでなく、初期状態とステータス(例えば、機能ノードの値は計算、一定に保持、または、ある入力に対応する指定された出力値に従って変更可能)が含まれる。機能ノードの例は、軟骨劣化率を表すノード320である。
【0076】
ノードは、図3で線図と矢印によって表されるリンクによって、コンピュータモデル300内で連結される。リンクは、様々なノードの関係を表す。変換リンク(例、矢印325)は、コンピュータモデル300において太い矢印で表される。変換リンクは、接続されたノードで表される1つ以上の変数の変換を表す。各変換リンクは、1つ以上の変数の変換種類を表すラベルを含む。例えば、変換矢印に付いたラベル「M」は移動を示し、ラベル「S」は1つ以上の変数の状態変化を示す。また、コンピュータモデル300は引数リンク340を含む。引数リンクは、どのノードが機能ノード(例、機能ノード320)の入力かを指定する。
【0077】
モデル作成者は、コンピュータモデル内の2つのノードに存在する関係条件を表す、一組のリンク表現から選択することができる。各リンク表現は、異なる関係条件と関連し、かつそれを表している。「一定の影響」リンク表現は、第一オブジェクトと第二オブジェクトの関係条件、例えば、第一オブジェクトは第二オブジェクトに対する影響があり、この影響は、第一ノードまたは第二ノードと関連するパラメータのすべての値から独立している、第一状態ノードと第二状態ノード間の関係条件を示す。1つの実施例では、リンク表現は、シミュレーション操作の期間中一定である影響を表す。「比例影響」リンク表現は、第一オブジェクトと第二オブジェクトの関係条件を表し、第一オブジェクトは第二オブジェクトに対する影響があり、この影響の大きさは、状態ノードによって表される第一オブジェクトのパラメータ値に依存する「比例影響」リンク表現である。
【0078】
「相互作用影響」リンク表現は、第一状態ノードによって表される第一オブジェクトは、第二状態ノードによって表される第二オブジェクトに対する影響があり、この影響は、第一オブジェクトと第二オブジェクト両方のパラメータ値に依存することを表す。
【0079】
「一定変換」リンク表現は、状態ノードによって表される第一オブジェクトのインスタンスは、第二状態ノードによって表される第二オブジェクトのインスタンスに変換されることを表す。「一定変換」リンク表現はさらに、変換されたインスタンス数は、第一オブジェクトまたは第二オブジェクトに関連するパラメータのすべての値から独立していることを表す。1つの実施例では、リンク表現は、この変換は一定であり、外部パラメータによって影響されないことを表す。
【0080】
「比例変換」リンク表現は、第一状態ノードによって表される第一オブジェクトのいくつかのインスタンスは、第二状態ノードによって表される第二オブジェクトのインスタンスに変換されることを表す。さらに、リンク表現は、変換されたインスタンスの数は、第一オブジェクトのインスタンスの数に依存することを示す。
【0081】
「相互作用変換」リンク表現は、第一状態ノードによって表される第一オブジェクトのいくつかのインスタンスは、第二状態ノードによって表される第二オブジェクトのインスタンスに変換されることを表す。さらに、「相互作用変換」リンク表現は、第二オブジェクトのインスタンスに変換された第一オブジェクトのインスタンスの数は、第一オブジェクトと第二オブジェクト両方のインスタンス数それぞれに依存することを表す。
【0082】
リンク表現の上記の説明から、各リンク表現は、第一オブジェクトと第二オブジェクト間の関係条件を、「影響」関係または「変換」関係として表す。さらに、各リンク表現は、関係条件を一定、比例、または相互作用的に表す。リンク表現とすべての適切なリンク表現は、上記で説明した様々な関係条件を表すために使用することができる。
【0083】
図3を再度参照し、コンピュータモデル300はまた修飾因子(例、修飾因子350)を含む。修飾因子は、修飾因子に接続された矢印に対する特定のノードの影響を示す。この影響は、時間と共に変化する生物学的状態が、状態ノードの変化率に影響できるようにすることである。影響の種類は、図3の四角に囲まれた記号によって質的に示される。例えば、ノードは、リンクによって表される関係を許可「A」、阻止「B」、制限「=」、抑制「−」、または刺激「+」することができる。
【0084】
そのためコンピュータモデル300の一部分305は、軟骨マトリクス代謝に関連する生物学的構成物質の相互作用を説明する。例えば、ノード310はプロコラーゲンを表す。変換矢印325は、ノード310と遊離コラーゲンを表すノード330を接続する。変換矢印350は、軟骨マトリクス代謝プロセスの一部として、プロコラーゲンから遊離コラーゲンへの変換を表す。
【0085】
1つの実施例では、コンピュータモデル300は1人以上の仮想患者を含む。コンピュータモデル300の様々な仮想患者は、生体系の様々な表現と関連付けられる。特に、コンピュータモデル300の様々な仮想患者は、例えば、様々な本質的な特性、様々な外的特性、またはその両方を持つ生体系の様々な差異を表す。生体系の観察可能な状態(例、表面的兆候)は表現型として呼ばれるが、一方、表現型を引き起こす生体系の内在する状態は、遺伝子因子、環境因子、またはその両方に基づくことができる。生体系の表現型は、変化する特異度により定義される。いくつかの事例では、表現型は、疾患状態に関連する表面的兆候を含む。通常、特定の表現型は、様々な内在する状態(例、遺伝子因子と環境因子の様々な組み合わせ)によって複製される。例えば、2人の人間患者が同じように関節炎を患っているように見えるが、1人は遺伝子的感受性によって関節炎を患っており、一方もう1人は食生活とライフスタイルの選択によって関節炎を患っているとする。生体系の例となるモデルには、市販のコンピュータモデル、Entelos(登録商標) Asthma PhysioLab(登録商標)システム、Entelos(登録商標) Metabolism PhysioLab(登録商標)システム、およびEntelos(登録商標) Rheumatoid Arthritis PhysioLab(登録商標)システムが含まれる。
【0086】
(2.仮想患者の生成)
図4は、バイオマーカーを特定するために、仮想患者の作成と仮想患者を分析するためのプロセスの例を示す。仮想患者の生成または操作を説明した刊行物の例には、米国特許番号6,078,739「Method and Apparatus for Conducting Linked Simulation Operations Utilizing A Computer Based System Model」、(米国公報番号20010032068、2001年10月18日刊行)および「Apparatus and Method for Validating a Computer Model」(米国公報番号20020193979、2002年12月19日刊行)が含まれる。いったん様々な仮想患者が作成されると、コンピュータモデルの実行から様々な出力を生成することができ、また、バイオマーカーを特定するために一組の出力に対して相関分析を行うことができる。例えば、ある時間内の後の時点における治療法の影響を予測または推測するのに役立つことのできる、ある時間内の前の時点に存在する一組の出力を特定するために、一組の出力に対して相関分析を行うことができる。
【0087】
特定の用途では、コンピュータモデル300の様々な構成は、仮想患者として呼ぶことができる。仮想患者は、内在する状態の特定の組み合わせに基づき、表現型を持つ人間被験者を表すために定義することができる。様々な仮想患者は、同じ表現型を持つが、異なる内在条件に基づいた人間被験者を表すために定義することができる。代案としてまたは組み合わせて、様々な仮想患者は、異なる表現型を持つ人間被験者を表すために定義することができる。
【0088】
いくつかの事例では、コンピュータモデルは、矛盾するデータと代替仮説の重要な統合的評価を可能とする。コンピュータモデルは、低いレベルの生物学的プロセスを表し、またこれらの生物学的プロセスが、高いレベルの生物学的プロセスに与える影響を評価することができる。そのため、コンピュータモデルは、生理系の多変数表示を行う。またコンピュータモデルは、2つ以上の専門分野からの情報を1つのコンピュータモデルに合成、または別々の専門分野を表す2つのコンピュータモデルを連結することで、学際的な診断を提供することができる。
【0089】
コンピュータモデル300の仮想患者は、コンピュータモデル300のパラメータに対する特定の値の組み合わせと関連付けることができる。そのため、仮想患者Aは、パラメータ値の一組目を含み、仮想患者Bは、パラメータ値の第一グループと何らかの方法で異なるパラメータ値の二組目を含むことができる。例えば、パラメータ値の第二グループは、パラメータ値の第一グループに含まれる対応するパラメータ値と異なる、少なくとも1つのパラメータ値を含むことができる。同様に、仮想患者Cは、パラメータ値の第一グループと第二グループと何らかの方法で異なるパラメータ値の三組目を含むことができる。
【0090】
コンピュータモデル300と連動する1人以上の仮想患者は、パラメータ初期値と関連付けられた初期仮想患者に基づいて作成することができる。異なる仮想患者は、初期仮想患者に変更を加えることで、初期仮想患者に基づいて作成することができる。このような変更には、例えば、パラメータの変更(例、1つ以上のパラメータ初期値を変更もしくは指定)、1つ以上の変数の動作を変更もしくは指定、変数の相関関係を表す1つ以上の機能の変更もしくは指定、またはこれらの組み合わせが含まれる。例えば、いったん初期仮想患者が定義されると、パラメータ初期値を使って開始し、また1つ以上のパラメータの初期値を変更することで、初期仮想患者に基づいて他の仮想患者を作成することができる。代替パラメータ値は、例えば、米国特許番号6,078,739で公開されるように定義することができる。これらの代替パラメータ値は、コンピュータモデル300の様々な仮想患者を定義するために使用することのできる、パラメータ値の様々な組み合わせに分けることができる。特定の用途では、初期仮想患者自身は、上記で説明したように、他の仮想患者(例、別の初期仮想患者)に基づき作成することができる。
【0091】
代案としてまたは組み合わせて、例えば、「Method and Apparatus for Conducting Linked Simulation Operations Utilizing A Computer−Based System Model」、(米国公報番号20010032068、2001年10月18日刊行)の刊行物で公開されるように、リンクされたシミュレーション動作を使用し、初期仮想患者に基づいてコンピュータモデル300の1人以上の仮想患者を作成することができる。この刊行物は、例えば、1回以上の初期のシミュレーション動作に対する変更が追加される、初期のシミュレーション動作に基づいて、追加シミュレーション動作を行うための方法を公開している。本発明の本実施例では、このような追加シミュレーション動作は、初期のシミュレーション動作を使用し作成された初期仮想患者に基づいて、コンピュータモデル300に追加仮想患者を作成するために使用することができる。特に、仮想患者は、特定の被験者を表すためにカスタマイズすることができる。希望する場合、コンピュータモデル300の1人以上の「安定した」仮想患者を作成するのに十分な時間だけ、1つ以上のシミュレーション動作を行うことができる。通常、「安定した」仮想患者は、平衡もしくは定常状態条件において、または平衡もしくは定常状態条件に十分近い状態で、1つ以上の変数によって特徴付けられる。
【0092】
コンピュータモデル300の様々な仮想患者は、ある治療に対する生体系の反応に及ぼす生体系の差異の影響を評価するのに十分異なる、差異を表すことができる。特に、コンピュータモデル300によって表される1つ以上の生物学的プロセスは、治療に対する生物学的反応を調整する役割を果たすものとして特定することができ、また、様々な仮想患者は、1つ以上の生物学的プロセスの様々な変更を表すために定義することができる。1つ以上の生物学的プロセスの特定は、例えば、実験データもしくは臨床データ、科学的文献、コンピュータモデルの結果、またはこれらの組み合わせによって基づくことができる。いったん問題の1つ以上の生物学的プロセスが特定されると、コンピュータモデル300に含まれる1つ以上の数学的関係に対する様々な変更を定義することで、様々な仮想患者を作成することができ、コンピュータモデル300では、1つ以上の数学的関係は、1つ以上の生物学的プロセスを表す。数学的関係に対する変更には、例えば、パラメータの変更(例、数学的関係に関連する1つ以上のパラメータ値を変更もしくは指定)、数学的関係に関連する1つ以上の変数の動作を変更もしくは指定、数学的関係に関連する1つ以上の機能の変更もしくは指定、またはこれらの組み合わせが含まれる。コンピュータモデル300の「安定した」構成を作成するのに十分な時間だけ、特定の変更に基づいてコンピュータモデル300を実行することができる。
【0093】
治療に対する生物学的反応を調整する生物学的プロセスは、知識の差や不確実性に関連付けることができ、また、コンピュータモデル300の様々な仮想患者は、説得力のある様々な仮説または知識の差の解決法を表すために定義することができる。例えば、気道平滑筋(ASM)収縮と関連付けられた生物学的プロセスは、ぜんそく治療に対する生物学的反応を調整する役割を果たすものとして、特定することができる。炎症性メディエータは、ASM収縮に影響を及ぼすことは理解できるが、様々な種類の炎症性メディエータの基本濃度はもちろん、様々な種類の炎症性メディエータがASM収縮に与える相対的影響は十分理解できない。このようなシナリオの場合、炎症性メディエータの様々な基本濃度を持つ人間被験者を表すために、様々な仮想患者を定義することができる。
【0094】
(3.仮想患者の承認)
コンピュータモデル300によって表される生体系に対して、コンピュータモデル300の1人以上の仮想患者を承認することができる。通常、承認とは、生体系に関する実データ、予測データ、または希望データと比較した時、コンピュータモデル300が予想通りに動作するという、ある確証レベルを確率するプロセスを指す。特定の用途では、生体系の1つ以上の表現型に対して、コンピュータモデル300の様々な仮想患者を承認することができる。例えば、仮想患者Aは、生体系の第一表現型に対して承認することができ、仮想患者Bは、第一表現型と何らかの方法で異なる、生体系の第二表現型に対して承認することができる。
【0095】
コンピュータモデル300の1つ以上の仮想患者は、例えば、「Apparatus and Method for Validating a Computer Model」、米国公報番号2002/0193979、2002年12月19日刊行で公開される一組の仮想刺激を使用し、承認することができる。仮想刺激は、生体系に与えることのできる刺激または障害と関連付けることができる。様々な仮想刺激は、何らかの方法で互いに異なる刺激と関連付けることができる。生体系に与えることのできる刺激には、例えば、既存または仮定の治療媒介物、治療法、および医療テストを含むことができる。刺激の他の例には、既存または仮定の疾患前駆体への照射が含まれる。刺激の別の例には、環境媒介物(例、抗原)に対する照射レベルの変化、摂食行動の変化、および身体活動や運動の変化に関連する、環境変化が含まれる。
【0096】
特定の用途では、仮想刺激は、刺激反応テストとして呼ぶことができる。コンピュータモデル300の仮想患者に対し、一組の刺激反応テストを適用することで、一組の刺激反応テストの結果を作り出すことができる。一組の刺激反応テストの結果が、一組の刺激反応テストの予想結果と十分一致する場合、仮想患者を承認することができる。刺激反応テストの予想結果は、刺激反応テストに関連する刺激を受けた時の生体系の実動作、予想動作、または希望動作に基づくことができる。生体系の表現型に対して、コンピュータモデル300の1人以上の仮想患者を承認する時、刺激反応テストの予想結果は、通常、生体系の表現型の実動作、予想動作、または希望動作に基づく。生体系の動作は、例えば、特定の刺激を受けた時の生体系の集合動作、または生態系の一部の動作となること可能である。例えば、刺激反応テストの予想結果は、刺激反応テストに関連する刺激を受けた時の生態系の実験動作または臨床動作に基づくことができる。特定の用途では、刺激反応テストの予想結果には、特定の刺激を受けた時の生態系に関連する動作の予想範囲を含むことができる。このような動作範囲は、例えば、様々な本質的特性、様々な外的影響、またはこの両方を持つ生態系の差異の結果として生じることができる。
【0097】
刺激反応テストは、コンピュータモデル300に含まれる1つ以上の数学的関係に対する様々な変更を定義することで作成することができ、コンピュータモデル300では、1つ以上の数学的関係は、刺激反応テストに関連する刺激によって影響を受ける1つ以上の生物学的プロセスを表す。刺激反応テストは、刺激反応テストに関連する刺激の種類によって、静的に、動的に、または両方の組み合わせで追加される変更を定義することができる。例えば、1つ以上のパラメータ値を、刺激と関連する変更されたパラメータ値で置き換えることで、変更を静的に加えることができる。代案としてまたは組み合わせて、時間と共に変化する方法(段階的方法、周期的方法、または毒素)で与えられた刺激のシミュレーションを行うために、動的に変更を加えることができる。例えば、特定の時点または特定の期間のパラメータ値を変更または指定することで、変更を動的に加えることができる。
【0098】
特定の用途では、上記で説明したように、リンクされたシミュレーション動作を使用し、コンピュータモデル300の1つ以上の構成に対して、刺激反応テストを適用することができる。例えば、初期のシミュレーション動作を仮想患者に対して行うことができ、また刺激反応テストによって定義された変更を加えた後、仮想患者に対して、初期のシミュレーション動作にリンクされた1つ以上の追加シミュレーション動作を行うことができる。
【0099】
(E.現実の患者の仮想患者への関連付け)
被験者を1人以上の仮想患者と関連付けるためには、少なくとも1人の参照仮想患者を作成する。その表現型の内在する生理機能に「自由度」を表すために、その参照仮想患者から、仮想患者の1つ以上の集団を作成することができる。「自由度」は、表現型に存在する可能性のある内在する生理機能の既存、または仮定の差異を表すことができる。条件を絞り込むことで、これらの仮説の差異を少なくし、その結果生じる仮想患者は現実の患者を現実的に表していることを確認することができる(例、生理学的/臨床的条件を満たす)。いくつかの例では、各仮想患者は、関連患者数を持つ(例、仮想患者によって表される現実患者の人数または割合を示すもの)。また、システムに用意される同様の特性を持つ仮想患者の人数を調整することで、仮想患者の患者数を管理することができる。いくつかの例では、被験者を表すために、カスタマイズされた仮想患者を作成することができる。
【0100】
システムは、元の実験手順または同様の実験手順のシミュレーションを行う時に、同様の結果を生成する仮想患者をグループ化または集団化することのできる相関器を備えることができる。相関器はまた、他のすべての仮想患者からグループ化された仮想患者を区別することのできる、1つ以上の共通特性を特定することができる。さらに、相関器またはシステムは、ユーザーに対し、共通特性の特定を報告することができる。共通特性を報告することは、特定の表現型を特定すること、またはテスト結果が共通特性に関係する診断テストを特定することを含むことができる。
【0101】
仮想患者のプールは、一連の内在状態ばかりでなく基本的な臨床症状を含め、出現する可能性のある予想被験者の範囲を網羅する必要があり、内在状態の多くは、同様の臨床症状をもたらすが、治療法に対し異なる反応をもたらす。例えば、糖尿病および/または肥満のモデルを含む仮想患者の集団は、正常な被験者から、肥満被験者、インスリン無感被験者、軽度から深刻な糖尿病被験者の範囲に及ぶ仮想患者を含む。被験者は、例えば、遺伝子的傾向(例、ピマ族インディアン)またはライフスタイルの選択(例、高脂肪の食習慣で運動を行わない)が原因で肥満となることが可能である。従って、仮想患者の集団は、肥満に対する傾向を持つ被験者を表す仮想患者と、ライフスタイルの選択によって肥満である被験者を表す仮想患者を含む必要がある。
【0102】
次に、この仮想患者の集団は、仮想患者それぞれを区別するバイオマーカーを特定するために分析される。分析には、仮想患者に対して行う、一連の対象疾患の既存または仮定の治療のシミュレーションを含むことができる。反応と無反応の特定のパターンが観察された場合(例、一部の仮想患者にはある治療が良く効いたが、他の仮想患者には効かない)、反応を示した被験者と反応を示さない被験者を区別するために使用できるバイオマーカーを特定するために、仮想患者を互いにさらに分析することができる。さらに、表現型に属する被験者を特定するために、他のバイオマーカーを使用することができる。治療に対する反応が同じと予測されたとしても、被験者と個々の仮想患者をより良く関連付ける目的で、様々な仮想患者を区別するためにバイオマーカーを特定することができる。様々な仮想患者を区別するためのバイオマーカーには、共通の臨床測定を含むことができるが、例えば遺伝子テストまたは他の詳細なテストを含め、臨床的に同類の被験者を区別するために非標準の測定も含むこともできる。一部の被験者が過去の理由(例、食習慣)から特別な状態にある場合、これもまた、識別因子として含むことができる。通常、識別バイオマーカーを特定するための仮想患者集団の分析は、複数のユーザーにシステムを配布する前に一度行う。
【0103】
次に、被験者は、1人以上の仮想患者と関連付けられる。被験者に関する入力データが、1つ以上の共通特性と相互に関連がある際、相関器は、1つ以上の共通特性を共有する仮想患者の集団と被験者を関連付けることができる。例えば、各被験者の入力データは、この個人を表す測定のベクトルを生成する。次に、1つ以上の最良の一致を見つけるために、仮想患者の測定ベクトルとこのベクトルを比較することができる。例となる方法では、可能性をベクトルに割り当てることができる。一致を見つけるために一部の測定がより重要な場合、各測定は別々に加重される。被験者を表す仮想患者の可能性は、仮想測定ベクトルと実際の測定ベクトルの加重最小二乗法の合計に基づく。
【0104】
被験者の評価とは別に、状況に応じてシステムは、可能性割当プロセスをさらに支援するために、仮想患者集団の各仮想患者の患者数を定める。例えば、対象の疾患分野の臨床試験から取り出された臨床集団データの評価に基づき、各仮想患者の相対患者数を定めることができる。これは、被験者を仮想患者に一致させる同様の方法をいくつか使用し行われるが、臨床試験で収集された詳細データを使用し、臨床試験からの被験者の全集団によって行われる。
【0105】
他の実施例では、システムは、計算に時間の追加次元を含むことができる。つまり、一点測定だけで被験者と仮想患者を一致させるのではなく、時間と共にこれらの測定に起こる変化に基づき一致させる。この経時変化は、通常、治療の初期の経過、または疾患が監視されているが初期段階では治療されていない場合、疾患の自然進行に基づく。例えば、当脳病被験者は、通常、インスリンに対する無感覚の観点では次第二悪化する。被験者の仮想患者集団に対する関連付けを更新することは、疾患進行のこれらの措置を考慮に入れることができる。これは、一部の被験者が他の被験者より速く進行し、また別のさらに積極的な治療法を必要とする疾患の場合に重要である。時間の次元は、いくつかの方法で取り入れることができる。第一に、迅速な計算を行うために、被験者の履歴または過去の被験者の測定をシステムに対する最初の症状に使用することができる。第二に、疾患の進行率をテストするため、すなわち、一月にさらに測定を取り入れるために追加の被験者測定を計画することができる。第三に、将来の病院訪問から他のデータがさらに利用可能となるため、行われた一致に対する更新と併せて、被験者の仮想患者に対する最初の予測一致を行うことができる。
【0106】
推奨治療の結果が仮想患者集団に対して実質的に同じ場合、個々の仮想患者に対する特定の割り当てを必要としない場合がある。または、本発明のシステムは、状況に応じて、様々な仮想患者に対する被験者の一致を区別するために必要な特定のテストを推奨することができる。テストは、被験者に対して適用することができ、いったんテストの結果が返されると、システムは、ある程度の確証を持って被験者と仮想患者の関連付けを報告することができる。
【0107】
本発明の他の実施例では、被験者と相関する可能性のあるすべての仮想患者を完全に区別しない一組のテストを提案する。いくつかの事例では、1人以上の適切な仮想患者に対する被験者の関連付けは、多段階のステップで行われる。第一に、被験者に関して集められた基本的な患者情報に基づいて、システムは、仮想患者の一般的な集団から、適切な仮想患者を部分的に区別する一組目のテストを特定する。その一組目のテストの結果に基づいて、特定の被験者に対してのみ適用される二組目の(または追加)テストによりさらに絞込みが行われる。この多段階のプロセスは、特に、後者のテストは高額、侵襲的、時間がかかる、またそうでない場合、患者や医療行為者によって希望されない場合、適切となることができる。このような多段階のプロセスは、被験者を適切に割り当てるために絶対的に必要な場合にだけ、これらのテストが行われたことを確定することができる。
【0108】
いくつかの事例では、被験者を仮想患者に関連付けることは、100%確実なプロセスになることができない。仮想患者は、特定の被験者と関連付けられているある程度の可能性を持つことができる。この可能性は、特定の疾患に関する「知識の差」と関連付けることができる。システムの出力は、状況に応じて、知識の差の存在および/または度合いを報告することができる。疾患の理解が深まるにつれ、個々の仮想患者に対する特定の割り当てを容易にすることができる。いくつかの事例では、被験者は、仮想患者の集団と関連付けることができる。
【0109】
(F.本発明によるバイオマーカーの利用)
上記で説明したように、被験者の仮想患者または仮想患者の集団の関連付けは、バイオマーカーの特定によって容易にすることができる。例えば、被験者を区別するために使用できるテストを選択または作成するために、バイオマーカーを特定することができる。また、特定の治療に対する予測された反応または無反応という点から見ると、仮想患者の集団を定義し区別するために使用することができる。具体的な目的が被験者に対する推奨治療を特定することである場合、反応を示した被験者と反応を示さない被験者を区別するバイオマーカーで十分となり得る。他の事例では、被験者を個々の仮想患者に関連付けることが目的の場合、仮想患者集団の様々な仮想患者をさらに定義し区別するために、バイオマーカーを特定することができる。さらに、被験者とカスタマイズされた仮想患者の関連付けを確認するために、カスタマイズされたバイオマーカーを特定することができる。さらに、被験者の治療に対する実際の反応を監視するために、バイオマーカーを特定することができる。
【0110】
さらに具体的には、バイオマーカーは、個々の項目を推測または予測するために評価することのできる、生物学的属性を参照することができる。バイオマーカーは、様々な影響を予測することができる。例えば、バイオマーカーは、治療の効果、生物学的活性、安全性、または副作用を予測することができる。1つの実施例によると、特定の治療の1つ以上のバイオマーカーは、コンピュータモデルを使用し特定することができる。コンピュータモデルは、治療を行うことのできる生体系を表すことができる。第一ステップは、治療に関連付けられた実験手順を定義することである。1つの実施例では、実験手順は、治療のシミュレーションを行うために定義することができる。特定の用途では、実験手順は、治療のシミュレーションを行うために、コンピュータモデルに対する変更を定義することができる。
【0111】
第二ステップは、1つ以上のバイオマーカーを特定するために、実験手順を使用することである。1つの実施例では、一組の(すなわち、1つ以上の)仮想測定を定義することができる。一組の仮想測定の各仮想測定は、生体系に対して別の測定と関連付けることができる。一組の仮想測定には、実験手順に基づいたコンピュータモデルの動作だけでなく、実験手順を使用しないコンピュータモデルの動作を評価するために構成された仮想測定を含むことができる。本発明の本実施例では、一組の仮想測定の結果を生成するために、コンピュータモデルを実行することができる。いったん生成されると、治療の1つ以上のバイオマーカーを特定するために、それらの結果を分析することができる。
【0112】
特定の用途では、コンピュータモデル300の様々な構成の様々な仮想患者は、生態系の障害に対する反応に及ぼす差異の影響を評価するのに十分異なる、生体系の差異を表すことができる。特に、コンピュータモデル300によって表される1つ以上の生物学的プロセスは、治療に対する生物学的反応を調整する役割を果たすものとして特定することができ、また、様々な構成は、1つ以上の生物学的プロセスの様々な変更を表すために定義することができる。
【0113】
仮想患者のプールに実験手順を適用することで、バイオマーカーを特定することができる。いったん実験手順が治療に対して定義されると、モデルを使用し、治療の1つ以上のバイオマーカーを定義するために、実験手順を使用することができる。実験手順を使用し、1つ以上のバイオマーカーを特定するフローチャートを図5に説明する。
【0114】
図5に説明される第一ステップは、一組目の結果を生成するために、実験手順を使用しないコンピュータモデルを実行することである(ステップ500)。実験手順を使用しないコンピュータモデルに存在する、1人以上の仮想患者の動作を評価するために、一組目の仮想測定を定義することができる。従って、第一ステップ(ステップ500)には、一組目の結果を生成するために、1人以上の仮想患者に一組目の仮想測定を適用するステップを含むことができる。一組目の仮想測定の各仮想測定は、治療、すなわち実験手順を使用しない生体系に対する別の測定と関連付けることができる。
【0115】
1つの実施例では、一組目の結果が複数の仮想患者の各仮想患者に対して一組目の仮想測定の結果を含むことができるように、コンピュータモデルの複数の仮想患者に一組目の仮想測定を適用する。一組目の仮想測定は、複数の仮想患者に、同時に、順次に、またはこれらを組み合わせて適用することができる。例えば、第一仮想患者に対する一組目の仮想測定の結果を生成するために、一組目の仮想測定を第一仮想患者に最初に適用することができる。その後、第二仮想患者に対する一組目の仮想測定の結果を生成するために、一組目の仮想測定を第二仮想患者に適用することができる。デフォルトで設定することのできる順番に従って、複数の仮想患者に実験手順を順次に適用する、またはユーザーが指定した選択に従って実験手順を選択することができる。
【0116】
特定の用途では、実験手順に備わる1つ以上の仮想刺激に基づいて、一組目の結果の1つ以上の結果を生成することができる。例えば、一組目の結果を生成するために、第一ステップ(ステップ500)は、コンピュータモデルの一人以上の仮想患者に仮想刺激を与えるステップを含むことができる。仮想刺激は、実際にシミュレーションが行われている治療と何らかの方法で異なる刺激と関連付けることができる。本発明の本実施例では、変更に基づいて1回以上変数の値を生成するために、コンピュータモデルの様々な数学的関係は、仮想刺激によって定義された変更と併せて、標準アルゴリズムを使用しコンピュータによって数的に解くことができる。変数のこのような値は、一組目の仮想測定の一組目の結果を生成するために順に使用することができる。
【0117】
図5を参照し、説明される第二ステップは、二組目の結果を生成するために、実験手順に基づいてコンピュータモデルを実行することである(ステップ502)。二組目の仮想測定は、実験手順に基づいてコンピュータモデルの1人以上の仮想患者の動作を評価するために定義することができる。従って、第二ステップ(ステップ502)は、二組目の結果を生成するために、一人以上の仮想患者に二組目の仮想測定を適用するステップを含むことができる。二組目の仮想測定の各仮想測定は、治療に基づき、生体系に対して異なる測定と関連付けることができる。一組目と二組目の仮想測定は、生体系の異なる生物学的属性を評価するために用意された測定に関連付けることができる。代案としてまたは組み合わせて、一組目と二組目の仮想測定は、異なる条件で生体系の同じ生物学的属性を評価するために用意された測定に関連付けることができる。
【0118】
特定の用途では、二組目の結果が複数の仮想患者の各仮想患者に対して二組目の仮想測定の結果を含むことができるように、コンピュータモデルの複数の仮想患者に実験手順を適用することができる。実験手順は、複数の仮想患者に、同時に、順次に、またはこれらを組み合わせて適用することができる。例えば、デフォルトで設定することのできる順番に従って、複数の仮想患者に実験手順を順次に適用する、またはユーザーが指定した選択に従って実験手順を選択することができる。
【0119】
実験手順によって定義された変更と併せて、コンピュータモデルの様々な数学的関係は、変更に基づいて1回以上変数の値を得るために、標準アルゴリズムを使用してコンピュータによって数的に解くことができる。変数のこのような値は、二組目の仮想測定の二組目の結果を生成するために順に使用することができる。
【0120】
図5を参照し、説明される第三ステップは、一組目の結果と二組目の結果の一方または両方を表示することである(ステップ504)。仮想測定の一組目および二組目の各仮想測定に対して、結果を表示することができる。1人以上の仮想患者の結果を表示することで、1人以上の仮想患者の動作は、1つ以上のバイオマーカーを特定するために評価することができる。特定の用途では、ユーザーの理解を助けるために、レポート、表、またはグラフを用意することができる。
【0121】
図5を再度参照し、説明される第四ステップは、1つ以上のバイオマーカーを特定するために、一組目の結果と二組目の結果の一方または両方を分析することである(ステップ506)。特定の用途では、様々な結果を評価するユーザーによって、バイオマーカーの特定を行うことができる。代案としてまたは組み合わせて、バイオマーカーの特定は自動的に行うことができ、またバイオマーカーが特定されたかを示すために表示を行うことができる。
【0122】
第四ステップ(ステップ506)で行われる分析は、特定される特別のバイオマーカーに依存することができる。特定のバイオマーカーに対し、第四ステップ(ステップ506)は、一組目の結果と二組目の結果を比較するステップを含むことができる。具体的には、1人以上の仮想患者に対する一組目の仮想測定の結果と、1人以上の仮想患者に対する二組目の仮想測定の結果を比較するステップを、第四ステップ(ステップ506)に含むことができる。例えば、一組目の仮想測定は第一仮想測定を含むことができ、二組目の仮想測定は第二仮想測定を含むことができる。治療を含まない生体系の第一生物学的属性を評価するために用意された第一測定に、第一仮想測定を関連付けることができ、また治療に基づく生体系の第二生物学的属性を評価するために用意された第二測定に、第二仮想測定を関連付けることができる。例えば、第二生物学的属性は、治療の特定の効果を示すことができる(例、治療の効果、生物学的活性、安全性、または副作用)。複数の仮想患者に対する第一仮想測定の結果は、複数の仮想患者に対する第二仮想測定の結果と比較することができる。具体的には、複数の仮想患者に対する第一仮想測定の結果と複数の仮想患者に対する第二仮想測定の結果を比較するステップは、第一仮想測定の結果が第二仮想測定の結果と相関しているかを決定するステップを含むことができる。第一仮想測定の結果が第二仮想測定の結果と実質的に相関しているかを決定するステップに基づいて、治療の特定の効果を予測するバイオマーカーとして、第一生物学的属性を特定することができる。
【0123】
2つの仮想測定(例、第一および第二仮想測定)の結果を分析する具体例を上記で説明したが、一般的に、2つ以上の仮想測定の結果は、バイオマーカーを特定するために分析できることを認識しておく必要がある。例えば、一組目の仮想測定はまた、生体系の第三測定と関連する第三仮想測定を含むことができ、第三測定は、治療を含まない生体系の第三生物学的属性を評価するために用意することができる。本例では、複数の仮想患者に対する第一および第三仮想測定の結果は、複数の仮想患者に対する第二仮想測定の結果と比較することができる。第一および第三仮想測定の結果の組み合わせは、第二仮想測定の結果と実質的に相関することを決定することができ、第一および第三生物学的属性の組み合わせは、治療の特定の効果を予想する「多機能」バイオマーカーとして特定することができる。
【0124】
2つ以上の仮想測定の結果は、1つ以上の標準統計テストに基づいて、実質的に相関することを決定することができる。相関関係を特定するために使用することのできる統計テストには、例えば、線形回帰分析、非線形回帰分析、および順位相関テストを含むことができる。特定の統計テストに従って、相関係数を決定することができ、また係数は、相関係数が特定の範囲に収まることを決定するステップに基づいて特定することができる。相関係数の例には、線形回帰分析に関連する適合度統計量、rおよび順位相関テストに関連するスピアマン順位相関係数、rsを含む。
【0125】
特定されたバイオマーカーは、様々な方法で確認することができる。特定の用途では、バイオマーカーの特定は、例えば、実験データもしくは臨床データ、科学的文献、コンピュータモデルの結果、またはこれらの組み合わせに基づいて確認することができる。例えば、治療の様々な差異のシミュレーションを行うために、1つ以上の追加仮想治療を定義することができ(例、異なる投与量、治療間隔、または治療回数)、また1つ以上の追加仮想治療に対してバイオマーカーの特定を確認するために、例えば、図5で示すように1つ以上の追加仮想治療を処理することができる。代案としてまたは組み合わせて、1つ以上の追加構成を定義することができ、また上記で説明した方法で1つ以上の追加構成の動作を評価することで、バイオマーカーの特定を確認することができる。
【0126】
(G.シミュレーションエンジン)
一度コンピュータモデルの様々な仮想患者が定義されると、様々な仮想患者の動作は、予測分析のために使用することができる。特に、様々な刺激を受けた時の生体系の動作を予測するために、1人以上の仮想患者を使用することができる。
【0127】
現実世界で仮想患者に相当する者が治療にどのように反応するかを予測するために、実際の治療を表す実験手順、例えば仮想治療を仮想患者に行うことができる。生体系に適用することのできる実験手順は、例えば、既存または仮定の治療媒介物および治療法、単なる時間の経過、環境有害物質への曝露、運動の増加ならびに同様のものを含むことができる。仮想患者に実験手順を適用することで、実験手順の一組の結果を生成することができ、これは、治療の様々な効果を予測することができる。
【0128】
特定の用途では、上記で説明した刺激反応テストを作成するために使用される方法と同様の方法で、実験手順を作成することができる。そのため、例えば、モデルに含まれる1つ以上の数学的関係に対する変更を定義することで、実験手順を作成することができ、このモデルでは、1つ以上の数学的関係は、実験手順に関連する条件または効果によって影響を受ける1つ以上の生物学的プロセスを表すことができる。実験手順は、実験手順に関連する特定の条件および/または効果によって、静的に、動的に、または両方の組み合わせで追加される変更を定義することができる。
【0129】
本発明の本実施例では、特定の仮想患者に対して実験手順の一組の結果を生成できるように、一組の仮想測定を定義することができる。複数の仮想測定を定義することができ、またそれぞれの仮想測定に対して結果を生成することができる。仮想測定は、生体系の測定と関連付けることができ、また異なる仮想測定は、何らかの方法で互いに異なる測定と関連付けることができる。
【0130】
特定の用途では、一組の仮想測定は、一組目と二組目の仮想測定を含むことができる。実験手順を含まない一人以上の仮想患者の動作を評価するために、一組目の仮想測定を定義することができ、一方、実験手順に基づいた一人以上の仮想患者の動作を評価するために、二組目の仮想測定を定義することができる。一組目と二組目の仮想測定は、生体系の異なる生物学的属性を評価するために用意された測定に関連付けることができる。代案としてまたは組み合わせて、一組目と二組目の仮想測定は、異なる条件で生体系の同じ生物学的属性を評価するために用意された測定に関連付けることができる。例えば、一組目の仮想測定は、第一測定に関連付けられた第一仮想測定を含むことができ、二組目の仮想測定は、第二測定に関連付けられた第二仮想測定を含むことができる。本例では、治療を含まない生体系の第一生物学的属性を評価するために、第一測定を用意することができ、また治療に基づいた第一生物学的属性または第二生物学的属性を評価するために、第二測定を用意することができる。
【0131】
本発明は、複数の目的を果たす1つのコンピュータモデルを含むことができる。または、本レイヤーは、様々な生体系を対象とする大型コンピュータモデルを一式含むことができる。下記に大型コンピュータモデルの例を説明する。さらに、システムは、例えば、疫学的コンピュータモデルや病原体コンピュータモデルなどの補完的コンピュータモデルを含むことができる。ヘルスケアで使用する場合、多数の被験者と治療を分析するために、コンピュータモデルを設計することができる。いくつかの事例では、多数の確認済みの仮想患者を作成し、かつ多数の治療に対する反応のシミュレーションを行うために、コンピュータモデルを使用することができる。
【0132】
大型コンピュータモデルで共有することのできる重要な生体系の大型コンピュータモデルは、大型コンピュータモデルの土台となることができる。このような生体系の例には、例えば、米国2003/0058245 A1、2003年3月27日刊行、名称「Method and Apparatus for Computer Modeling Diabetes」、米国2003/0078759、2003年4月24日刊行、名称「Method and Apparatus for Computer Modeling a Joint」、および米国2003/0104475、2003年6月5日刊行、名称「Method and Apparatus for Computer Modeling of an Adaptive Immune Response」の公表米国特許出願で説明される免疫系と炎症系が含まれる。これらの土台となるコンピュータモデルはまた、様々な疾患の研究のために直接アクセスすることができる。
【0133】
コンピュータモデルによって表される生体系に対する一組の出力または結果を生成するために、コンピュータモデルを実行することができる。一組の出力は、生体系の生物学的状態を表すことができ、また特定の時間における特定の実行シナリオに対して、変数とパラメータに関連する値またはその他の兆候を含むことができる。例えば、生物学的状態は、特定の時間における値によって数学的に表すことができる。変数の動作は、例えば、1つ以上の数学的関係の数的または分析的統合によってシミュレーションを行うことができる。例えば、上記で定義された一般的な微分方程式の数的統合は、様々な時間の変数に対する値を得るために行うことができるため、生物学的状態は時間と共に進化する。
【0134】
コンピュータモデルは、生体系の異常状態(例、疾患または中毒状態)だけでなく正常状態を表すことができる。例えば、コンピュータモデルは、異常状態または異常状態への進行のシミュレーションを行うために変更することのできるパラメータを含むことができる。1つ以上のパラメータを選択かつ変更することで、ユーザーは、正常状態を変更し、また対象の異常状態を引き起こすことができる。1つ以上のパラメータを選択かつ変更することで、ユーザーはまた、様々な仮想患者を作成することに関連して、生体系の差異を表すことができる。本発明のいくつかの実施例では、1つ以上のパラメータの選択または変更は、自動的に行うことができる。
【0135】
本明細書で説明される本発明およびすべての機能動作は、本明細書およびその構造的同等物、または両方の組み合わせで開示される構造的手段を含む、デジタル電子回路またはコンピュータソフトウエア、ファームウエアもしくはハードウエアに実装することができる。本発明は、1つ以上のコンピュータプログラム製品、すなわち、例えば、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、または複数のコンピュータなどのデータ処理装置による実行に適する、またはこのようなデータ処理装置の動作を制御するための、コンピュータが解読できる記憶機器または伝播信号など、情報媒体で明白に具現される1つ以上のコンピュータプログラムとして実装することができる。コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウエア、ソフトウエアアプリケーション、またはコードとしても知られる)は、コンパイラ型言語またはインタープリタ型言語を含む、プログラミング言語のすべての形式で記述することができ、また独立型プログラム、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくはコンピュータ環境の使用に適した他のユニットを含め、あらゆる形式で実装することができる。コンピュータプログラムは、必ずしもファイルと対応しない。プログラムは、他のプログラムまたはデータを保持するファイルの一部分、本プログラム専用の1つのファイル、または複数の統合ファイル(例、1つ以上のモジュール、サブプログラム、またはコードの一部分を保存するファイル)に保存することができる。コンピュータプログラムは、1つの場所にある1つのコンピュータまたは複数のコンピュータ上で実行するために実装する、または複数の場所に配布し通信ネットワークによって相互接続することができる。
【0136】
入力データを操作し出力を生成することにより本発明の機能を実行するために、1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラマブルプロセッサによって、本発明の方法ステップを含む本明細書で記述されるプロセスおよび論理の流れを実行することができる。またプロセスおよび論理の流れは、特殊用途論理回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)によって実行することができ、また本発明の装置は、FPGAまたはASICとして実装することができる。
【0137】
コンピュータプログラムを実行するのに適したプロセッサには、例えば、一般的なマイクロプロセッサと特定用途向けプロセッサの両方、およびデジタルコンピュータのすべての種類の1つ以上のプロセッサが含まれる。一般的に、プロセッサは、読み取り専用メモリもしくはランダムアクセスメモリ、またはその両方から命令とデータを受信する。コンピュータの重要な要素は、命令を実行するプロセッサおよび命令とデータを保存する1つ以上のメモリ機器である。一般的に、コンピュータはまた、例えば、磁気ディスク、磁気光学ディスク、または光学ディスクなど、1つ以上のデータを保存する大容量記憶機器を含む、またはこれらの機器からデータを受信、もしくはこれらの機器にデータを送信、またはこれらの機器とデータを送受信できるように連結される。コンピュータプログラムの命令とデータを具現することに適した情報媒体は、例えば、EPROM、EEPROMおよびフラッシュメモリ機器などの半導体メモリ機器、例えば内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスクなどの磁気ディスク、磁気光学ディスク、ならびにCD−ROMおよびDVD−ROMディスクなどを含む、不揮発性メモリのすべての形を含む。プロセッサとメモリは、特定用途向け集積回路によって補完される、または特定用途向け集積回路に組み込むことができる。
【0138】
ユーザーとの相互関係を提供するために、本発明は、例えばCRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)など、ユーザーに情報を表示するためのディスプレイ機器、ならびにユーザーがコンピュータに入力を行うことのできるキーボード、および例えばマウスやトラックボールなどのポインティング機器を備えたコンピュータに実装することができる。同様に、ユーザーとの相互関係を提供するために、他の種類の機器も使用することができる。例えば、ユーザーに対するフィードバックは、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバックなどあらゆる形の感覚フィードバックが可能であり、ユーザーからの入力は、聴覚、音声、または触覚入力を含むあらゆる形で受け取ることができる。
【0139】
例えば、データサーバーとしてバックエンドコンポーネントを含むコンピュータシステム、または、例えばアプリケーションサーバーなどミドルウエアコンポーネントを含むコンピュータシステム、または、例えばユーザーが本発明の実装とやり取りすることのできるグラフィカルユーザーインターフェースもしくはウェブブラウザを備えた、クライアントコンピュータなどのフロントエンドコンポーネントを含むコンピュータシステム、またはこのようなバックエンド、ミドルウエア、もしくはフロントエンドコンポーネントの組み合わせを含むコンピュータシステムに、本発明を実装することができる。システムのコンポーネントは、例えば、通信ネットワークなど、デジタルデータ通信のあらゆる形または媒体によって相互接続することができる。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)および、例えばインターネットなどのワイドエリアネットワーク(「WAN」)が含まれる。
【0140】
コンピュータシステムは、クライアントとサーバーを含むことができる。クライアントとサーバーは、通常互いに離れており、一般的に通信ネットワークを介して相互に作用する。それぞれのコンピュータで実行され、また互いにクライアント/サーバー関係を持つコンピュータプログラムに基づいて、クライアントとサーバーの関係は生まれる。
【0141】
本発明の装置または方法を実装または実行するために適したプログラマブル処理システム(システム)610のブロック図を表した図6に、このような種類のコンピュータの例を示す。システム610には、プロセッサ620、ランダムアクセスメモリ(RAM)621、プログラムメモリ622(例えば、フラッシュROMなどの書込み可能な読み取り専用メモリ(ROM)、ハードドライブコントローラ623、ビデオコントローラ631、およびプロセッサ(CPU)バス625によって連結された入力/出力(I/O)コントローラ624が含まれる。システム610は、例えばROMにプログラムを書き込むことができる、または他の情報源(例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、または他のコンピュータ)からプログラムを読み込むことでプログラムを書き込む(およびプログラムを作り直す)ことができる。
【0142】
ハードドライブコントローラ623は、本発明を具現するプログラムとデータを含む、実行可能なコンピュータプログラムを保存するために適したハードディスク630に連結される。
【0143】
I/Oコントローラ624は、I/Oバス626を用いて、I/Oインターフェース627に連結される。I/Oインターフェース627は、シリアルリンク、ローカルエリアネットワーク、ワイヤレスリンク、およびパラレルリンクなどの通信リンクによって、アナログまたはデジタル形式で、データ(例、静止画、画像、動画、構図にインポートするためのアニメーション)を送受信する。
【0144】
また、I/Oバス626に連結されるのは、ディスプレイ628とキーボード629である。または、I/Oインターフェース627、ディスプレイ628とキーボード629に対して別々の接続(別々のバス)を利用することができる。
【0145】
本発明は、特定の実施例の観点から説明されている。他の実施例は、以下の請求の範囲に含まれる。例えば、本発明のステップは、異なる順番で行うことができ、かつ希望の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、本発明に従った臨床決断支援システムの例となる実施例のブロック図である。
【図2】図2は、シミュレーションモデル化ソフトウエアの一例を示したブロック図である。
【図3】図3は、生体系を表すために作られたモデルの一部である。
【図4】図4は、仮想患者を作成し、バイオマーカーを特定するために仮想患者を分析するプロセスの一例である。
【図5】図5は、実験手順を使用し、1つ以上のバイオマーカーを特定するためのフローチャートを示す。
【図6】図6は、本発明の装置または方法を、実装または実行するのに適したプログラマブル処理システムのブロック図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数の仮想患者であって、該複数の仮想患者の各々は、
(i)1つ以上の生体系のモデルと、
(ii)単一個体を表すパラメータセットと、
を備える、仮想患者と、
(b)被験者を該仮想患者の1人以上と結びつけるために、該被験者に関する入力データを該パラメータセットの1つ以上と関連付けるように動作可能な関連サブシステムと、
(c)一組の出力を生成するために、該被験者と結びつけられた1人以上の仮想患者に対して、実験手順を適用するように動作可能なシミュレーションエンジンであって、該一組の出力は、該モデルによって表される該1つ以上の生体系に関連して該被験者に対し結果を予想する、シミュレーションエンジンと
を備える、システム。
【請求項2】
前記複数の仮想患者の各々が共通モデルを共有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記関連サブシステムは、前記入力データと前記1つ以上のパラメータセットが完全に一致しない条件において、該入力データを該1つ以上のパラメータセットと関連付けるように動作可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記モデルが機構モデルである、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記一組の出力が前記被験者に対する予後を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記一組の出力が前記被験者に対する診断を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記実験手順が時間の経過を表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記実験手順が治療法を表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記治療法が、外科手術と、ライフスタイルの変化と、1つ以上の薬物の投与とからなる群から選択される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記一組の出力が、前記被験者の各治療法に対する治療効果の予測を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記入力データが医療行為者による診察を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記入力データが前記被験者に関する履歴データを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記入力データが、前記被験者が現在摂取している薬剤を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記入力データが診断測定を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記入力データが少なくとも1つの被験者の好みを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記関連システムが、
(i)仮想患者の1つ以上の集団であって、該集団の各々の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該集団の該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する、1つ以上の集団と、
(ii)生理学的なパラメータセットの集団によって共有される該少なくとも1つの共通特性と前記入力データが相関する場合、被験者を仮想患者の集団と関連付けるように動作可能な相関器と
を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記仮想患者の集団が1人以上の仮想患者からなる、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記関連システムが、
(i)仮想患者の1つ以上の集団であって、該集団の各々の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該集団の該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する、1つ以上の集団と、
(ii)比較サブシステムであって、
(1)該1つ以上の共通特性を前記入力データと比較し、
(2)該被験者を1人以上の仮想患者と結びつけるのに必要な追加データを特定し、
(3)該追加データをユーザーに報告する
ように動作可能な比較サブシステムと、
(iii)生理学的なパラメータセットの集団によって共有される該少なくとも1つの共通特性と該入力データが相関する場合、被験者を仮想患者の集団と関連付けるように動作可能な相関器と
を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記比較サブシステムが、前記被験者を1人以上の仮想患者と結びつけるのに必要な追加データに関連する結果を得るために、前記ユーザーに1つ以上の診断テストを報告するようにさらに動作可能である、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記仮想患者の集団が1人以上の仮想患者からなる、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記関連サブシステムが1つ以上のテストを推奨するように動作可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記関連サブシステムが、前記1つ以上の推奨されたテストから結果を受け取るように動作可能であり、かつ、前記被験者を前記仮想患者の1人以上と結びつけるために、該結果と前記入力データとを前記パラメータセットの1つ以上と関連付けるように動作可能である、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記モデルが、前記1つ以上の生体系と関連付けられた一組の生物学的プロセスを表すコンピュータモデルを含み、該生物学的プロセスの各々は一組の数学的関係によって表され、該数学的関係の各々は、該生体系に適用することのできる生物学的属性または刺激を表す1つ以上の変数を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記生体系が、心臓血管系と、代謝と、骨格と、自己免疫と、腫瘍学と、呼吸器官と、感染症と、中枢神経系と、皮膚と、毒物学とからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項25】
生体系をシミュレーションするためのコンピュータで実行可能なソフトウエアコードであって、
(a)複数の仮想患者を定義するためのコードであって、該仮想患者の各々は、
(i)1つ以上の生体系のモデルと、
(ii)単一個体を表すパラメータセットと、
を備える、コードと、
(b)被験者を1人以上の関連する仮想患者と結びつけるために、該被験者に関連する入力データを該仮想患者の1人以上と関連付けるように動作可能な関連システムを定義するためのコードと、
(d)一組の出力を生成するために、該1人以上の関連する仮想患者各々に対し、1つ以上の実験手順を適用するように動作可能なシミュレーションエンジンを定義するためのコードであって、該一組の出力は、該1つ以上の生体系に関連する該被験者に対し結果を予想する、コードと
を備える、コンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項26】
前記複数の仮想患者の各々が共通モデルを共有する、請求項25に記載のコンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項27】
前記モデルが機構モデルである、請求項25に記載のコンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項28】
前記一組の出力が、前記被験者に対する予後と、該被験者に対する診断と、該被験者に対して提案された治療法の治療効果の予測とからなる群から選択される、請求項25に記載のコンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項29】
前記関連システムを定義するための前記コードが、
(i)仮想患者の1つ以上の集団を定義するためのコードであって、該集団の各々の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該集団の該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する、コードと、
(ii)一組の生理学的なパラメータの集団によって共有される該少なくとも1つの共通特性と前記入力データが相関する場合、被験者を仮想患者の集団と関連付けるように動作可能な相関器を定義するためのコードと
を備える、請求項25に記載のコンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項30】
前記関連システムを定義するための前記コードが、
(i)仮想患者の1つ以上の集団を定義するためのコードであって、該集団の各々の各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該集団の該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有するコードと、
(ii)比較サブシステムを定義するためのコードであって、該比較サブシステムは、
(1)該1つ以上の共通特性を該入力データと比較し、
(2)前記被験者を1人以上の該仮想患者と結びつけるのに必要な追加データを特定し、
(3)該追加データをユーザーに報告する
ように動作可能である、コードと、
(iii)一組の生理学的なパラメータの集団によって共有される該少なくとも1つの共通特性と該入力データが相連する場合、該被験者を該仮想患者の集団と関連付けるように動作可能な相関器を定義するためのコードと
を備える、請求項25に記載のコンピュータで実行可能なソフトウエアコード。
【請求項31】
被験者に対する治療効果を予測する方法であって、
(a)複数の仮想患者を定義することであって、該仮想患者の各々は、
(i)1つ以上の生体系のモデルと、
(ii)単一個体を表すパラメータセットと
を備える、ことと、
(b)被験者に関するユーザー入力データを受け取ることと、
(c)該被験者を1人以上の関連する仮想患者と結びつけるために、該入力データを該仮想患者の1人以上と関連付けることと、
(e)該被験者に対する潜在的な治療法を示す1つ以上の実験手順を定義することと、
(f)一組の出力を生成するために、該1つ以上の実験手順の各々を、該1人以上の関連する仮想患者に適用することであって、該一組の出力は、該被験者に対する該治療法の治療効果を予想する、ことと
を包含する、方法。
【請求項32】
前記治療法は、ライフスタイルの変化、薬物の投与または外科手術をもたらすことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記モデルが機構モデルである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記入力データを1つ以上のパラメータセットと関連付けることが、
(i)前記仮想患者をグループ化することであって、一グループの各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該グループの該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する、ことと、
(ii)該入力データを該1つ以上の共通特性と比較することと、
(iii)該グループの該パラメータセットによって共有される該1つ以上の共通特性と該入力データが相関する場合、該被験者を該仮想患者のグループと関連付けることと、
を包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記入力データを1つ以上のパラメータセットと関連付けることが、
(i)前記仮想患者をグループ化することであって、一グループの各仮想患者は、総合的に他の仮想患者から該グループの該仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を共有する、ことと、
(ii)該入力データを該1つ以上の共通特性と比較することと、
(iii)該被験者を1人以上の仮想患者と結びつけるのに必要な追加データを特定し、該追加データを得るために1つ以上のテストを報告することと、
(iv)該追加データを得るために該1つ以上のテストから結果を受け取ることと、
(v)該グループの該仮想患者によって共有される該1つ以上の共通特性と該入力データが相関する場合、該被験者を該仮想患者のグループと関連付けることと、
を包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記ステップ(iii)および(iv)が繰り返される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記仮想患者のグループが、総合的に他のすべての仮想患者から1人の仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を有する該1人の仮想患者からなる、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記被験者を1人以上の仮想患者と結びつけるのに必要な追加データを特定することと、該追加データを得るために1つ以上のテストを報告することと、該被験者を1人以上の関連する仮想患者と結びつける目的で、該追加データを含め、前記入力データを1人以上の該仮想患者と関連付ける前に、該追加データを得るために該1つ以上のテストから結果を受け取ることとをさらに包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記被験者をより良く表す新しい仮想患者を生成するように、仮想患者を変更することをさらに包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記モデルが、前記1つ以上の生体系と関連付けられた一組の生物学的プロセスを表すコンピュータモデルを含み、各生物学的プロセスは一組の数学的関係によって表され、各数学的関係は、該生体系に適用することのできる生物学的属性または刺激を表す1つ以上の変数を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記ユーザー入力が被験者の好みを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記被験者の好みは、食生活を変えること、手術を受けること、運動を行うこと、および/または推奨された治療法に従うことに対する該被験者の意志である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ユーザー入力データが、前記被験者の身体特性のリアルタイム測定を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項44】
(g)時間の経過と共に、更新されたユーザー入力を受け取ることと、
(h)1つ以上の更新された関連パラメータセットを特定するために、該更新された入力データを該パラメータセットの1つ以上と関連付けることと、
(i)更新された一組の出力を生成するために、該1つ以上の更新された関連パラメータセットの各々を前記モデルに適用することであって、該更新された一組の出力は、前記被験者に対する前記治療法の治療効果を予測する、ことと
をさらに包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項45】
(g)同様の結果を生成する仮想患者をグループ化することと、
(h)総合的に、他のすべての仮想患者から、該グループ化された仮想患者を区別する1つ以上の共通特性を特定することと、
(i)該1つ以上の共通特性の該特定を前記ユーザーに報告することと
をさらに包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項46】
前記1つ以上の共通特性と関連する結果を得るために、前記ユーザーに対して1つ以上の診断テストを報告することをさらに包含する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
被験者の治療法の効果を監視するための方法であって、
(a)複数の仮想患者を定義することであって、該複数の仮想患者の各々は、
(i)1つ以上の生体系のモデルと、
(ii)単一個体を表すパラメータセットと
を備える、ことと、
(b)被験者に関するユーザー入力データを受け取ることと、
(c)該被験者を1人以上の関連する仮想患者と結びつけるために、該入力データを該仮想患者の1人以上と関連付けることと、
(e)該被験者に対する潜在的な治療法を示す1つ以上の実験手順を定義することと、
(f)一組の出力を生成するために、該1つ以上の実験手順の各々を該1人以上の関連する仮想患者に適用することと、
(g)治療効果の1つ以上のバイオマーカーを特定するために、該一組の出力に対して相関分析を行うことと、
(h)該治療効果の1つ以上のバイオマーカーを監視することと
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−507814(P2007−507814A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534346(P2006−534346)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/033130
【国際公開番号】WO2005/036446
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(500200535)エンテロス・インコーポレーテッド (18)
【Fターム(参考)】